ふたば系ゆっくりいじめ 670 ゆっくり命令していってね!(後)_02

町のゴミ捨て場に、物陰からにじり寄る五つの影があった。
まりさとありす。それに赤ありすが二匹と赤まりさが一匹だ。
最近飼い主から捨てられたまりさたちは、都会のルールをまだ知らない。

「ゆっへっへ、あんなにたくさんのごちそうがそのままになっているなんてもったいないのぜ」
「まちのいなかものにたべられるまえに、ありすたちがさっさとたべてしまったほうがずっととかいはよ」
「ありしゅおにゃかしゅいちゃ!もうがまんできにゃい!」
「ありしゅ、ぱしゅたしゃんみちゃいなときゃいはにゃごちしょうたべちゃい!」
「まりしゃもにがいにがいくさしゃんにゃんかたべちゃくないのじぇ!」

家族はそれまで、空き地の雑草や昆虫を食べて食いつないできたが、野生ではないゆっくりの舌にはどちらもまずいものだった。
飼われていた時の、人間が食べていたものと同じものが食べたい。
菓子パンやオムライス、チョコレートやアイスクリームがまた食べてみたい。

結果、まりさたちは人間が出すゴミを漁ろうとしていた。
ゴミ漁りはプライドが傷つくが、それでも人間の食べ残しが入っている。
腐ってたり、辛くなければどんなものでもいい。苦くてまずい雑草に比べれば、どんなものでもしあわせーに食べられるはずだ。

人間が周囲にいないことを確認してから、まりさたちは勢いよく跳ねてゴミ捨て場に直行した。
電信柱の脇に置かれたゴミ袋には、カラスや野良猫対策のネットがかぶせられているだけだ。
これくらい、ゆっくりならば口で引っ張って隙間をくぐり抜けられる。
そうしたら、ゴミ袋を食い破って中身を道路にぶちまければいい。溢れ出したゴミの中からおいしいものだけを見つけ出そう。

「ありす、このあみをおくちでもってるんだぜ。まりさがふくろをあけるのぜ」
「わかったわ。おねがいね、まりさ」
「ぴゃぴゃ!ありしゅのためにがんばっちぇにぇ」

ありすが、ネットを口で引っ張ったその時だった。

「ゆっ!どすだよ!ゆっくりは聞いてね!ゴミ捨て場からすぐに遠く離れて、絶対に戻ってこないでね!どすの命令だよ!」

突然、ネットの根本付近にくっついていたスピーカーから、そんな声が聞こえたのだ。

ありすは、口からぽとりとネットを離した。
まりさは、ゴミ袋に噛み付こうとした口を閉じて、後ろに下がった。
赤ゆっくりたちは、そろってくるりと向こうを向く。

「あれ?あれれ?まりさ、なんでむこうにいくのぜ?まだごちそうさんさがしてないのぜ?なんでだぜ?」
「ありすのあんよがおかしいわ?なんで?なんでそっちにいけないの?」
「みゃみゃあああ!ありしゅのあんよ、かっちぇにうごくにょおおお!?」
「なじぇなんだじぇ!?ぱしゅたは?おにぎりしゃんは?どうしちぇぇぇぇ!?」

我が身に起こった急激な変化に、まりさたちは目を白黒させながらゴミ捨て場から遠ざかっていく。

「まりさのおしょくじがああああああ!!あんよさんとまるんだぜえええええええ!!!」

どんなに叫んでも足は止まらない。
ゴミの中からごちそうを探し出せるはずだったのに。家族みんなでおいしく食べられたはずなのに。
なのになぜか、自分たちの体は勝手にゴミ捨て場から離れようとしている。
わけが分からぬまま、まりさは失われたごちそうをずっと目で見送っていた。


 * * *


「むーしゃむーしゃ、うげぇ、まじゅいよお………」
「にぎゃい………おいちくにゃい………」
「まりしゃ、あみゃあみゃしゃんがたべたいのじぇ…………」
「おちびちゃん、そんなこといわないでたべるのよ。たべないとゆっくりできないわよ」
「そうだぜ。おちびちゃん、いっぱいたべておおきくなるんだぜ」

数日後。
誰もいない空き地で、死んだ目をして雑草を食べているまりさ一家があった。
一匹残らず、口に入れた雑草の苦さに顔をくしゃくしゃに歪めている。
地面に点々と散らばる緑色のゲロは、飲み込んだもののあまりのまずさに吐いてしまった雑草だ。

「いやじゃあ!こんなにがいくさしゃんばっかちたべちゃくにゃい!」

ついに、一匹の赤ありすが我慢の限界を迎えたらしい。
あれ以来、家族はあちこちのゴミ捨て場を訪れては、同様の挑戦を繰り返した。
結果は、常に「どすの命令だよ!」という謎の声によって撃退された。
あの声を聞いてしまうと、どんなに抵抗しても体が勝手にゴミ捨て場から遠ざかってしまうのだ。
家族のストレスは溜まる一方であり、特に小さな赤ゆっくりたちのストレスはひどいものだった。

「おいちいもにょたべちゃい!おにいしゃんといっしょにたべちゃものたべちゃい!あみゃあみゃしゃんいっぱいたべちゃい!」

涙を振りまきながら、赤ありすは泣きわめく。

「おだまりなさい!それしかありすたちはたべられないんだからしょうがないでしょ!」
「ゆびぃっ!でみょ……でみょおおおおお!!」
「なんどいったらわかるの!ままのいうことがきけないありすはとかいはじゃないわ!」
「ゆびええええええん!!ゆえええええん!おいちいもにょたべちゃいいいいいい!」

どんなに辛さを訴えても、赤ありすの思いは親に届くことはない。
辛いのは分かる。自分たちだって辛いのだ。
だが、ほかに食べるものはなく、えり好みをしていたら死んでしまう。
ありすは心を鬼にして、赤ありすをしかりつける。

「ゆぅ………。ありす、おちびちゃんがしんぱいなのはわかるけど、もうちょっとやさしくいってあげるんだぜ…………」
「まりさ…。でも…………」
「そうしないと、おちびちゃんはゆっくりできなくてかなしむんだぜ。だいじょうぶだぜ。きっと、みんなゆっくりしたいいゆっくりにそだつのぜ」

ありすにすりすりしながら、まりさは番を慰める。
赤ありすは泣いても無駄だと分かったらしく、再び非常にまずい雑草を抜いて食べ始めた。

「ゆげぇ…………きもちわりゅい…………」

隣で赤まりさが、飲み込んだ雑草を吐いた。
まりさは嘆く。どうして自分たちは人間さんの捨てた食べ残しが食べられないのだろう。

(にんげんさんがいらなくなったものでしょ?だったらなんでまりさたちにくれないのぜ?)

まりさは知らなかった。
ゴミを道路に撒き散らして漁ることで、自分たちが人間たちから憎まれていたことを。
今は雑草しか食べていないことで、かろうじて人間の駆除の手から逃れていることを。
駆除されずに生きていられる幸福を知ることなく、まりさのゆん生は苦い雑草で埋め尽くされていく。
また、赤ありすが飲み込んだ雑草を吐いた。
雑草には、カスタードの黄色が混じっていた。
赤ありすの体は、ますます衰弱していく。


 * * *


あれから、A主任はメガホンに改良を加えた。
揺らぎの大きい「命令」を目的のものに絞り、有効期間を引き伸ばすよう様々な実験と研究を重ねた。
それが、ゴミ捨て場や個人の家屋、庭園などに設置されている特製のスピーカーである。

今出回っているスピーカーは、かつてのような「死ね」と言えばゆっくりが死ぬほど強力な強制力はない。
生死に関わる命令は、中枢餡に強い影響を与えるが、その分無関係なゆっくりにまで影響を及ぼしてしまう可能性がある。
「ゆっくりは死んでね」と命令して、周囲の飼いゆっくりまで死んでしまったら話にならない。
命令の効果は、ゆっくりが普通にできる行動の分野に留まる。
その代わり今のスピーカーは「どすの命令だよ!」と言うことによって、弱い強制力を補完している。
有効期間は、何と一ヶ月にも及ぶのだ。

こうして、ゆっくりによる家屋の侵入や庭園の破壊、ゴミ漁りにレイパーによる被害などは激減した。

「どすの命令だよ!人間さんのお家に入ろうとした野良は、ゆっくり出て行って二度と近づかないでね」
「ゆああああああ!れいむのゆっくりぷれいすにするつもりだったのにいいいい!」

家に入ろうと窓ガラスに体当たりした野良れいむは、未練を残しつつ退散した。

「どすの命令だよ!お庭の花さんを食べようとしたゆっくりは、今すぐ出てってね!ここには二度と近寄らないように!」
「なんでええええええ!おはなさんおいしいよ!まりさはおいしいごはんがたべたいだけなんだよおおおおお!?」

花壇を荒そうとしていた野良まりさは、一本の花も食べることなく自主的にそこから出て行った。

「どすの命令だよ!このゴミはどすのものだからね!ゆっくりは近寄ったら許さないよ!」
「わがらないよおおおおおお!!ちぇんはごはんをだべにぎだだけなんだよおおおおお!!」

ゴミを漁りに来たちぇんは、わけが分からないままそこから遠ざかるしかなかった。

「どすの命令だよ!このお家ですっきりするのは禁止なんだよ!絶対にすっきりしないでね!」
「どうじでええ!ごんなにがわいいれいむがいるのにずっぎりできないいいい!」

家にうまく侵入したありすも、飼いゆっくりの押した非常ベルから聞こえた声に従わざるを得なかった。

人々はA主任を賞賛した。
「駆除しても構わない野良ゆっくりを、駆除せずに追い払うようにするなんて、何て人道的な人なんだろう」と彼を誉めた。
一般人には、彼がゆっくりのことを思いやって、このような発明品を作り出したように見えているらしい。
実際、これによって駆除されるゆっくりの数は減っている。
人間に害を与えなければ、とりあえず目こぼしはされるのだ。
野良ゆっくりたちは人間の家から離れて暮らし、雑草や道ばたのゴミを食べ、飼いゆっくりに関わらずひっそりと生きている。
そうしている限り、人間も積極的にゆっくりを撲滅させる必要もないのだ。

近く、ゆっくりんピースはA主任を表彰する予定だそうだ。
人間本意の自分勝手な駆除からゆっくりたちを守り、野生を取り戻す手助けをしたという理由かららしい。
果たして、Aは一般人やゆっくりんピースが思うように、ゆっくりに優しい研究者なのだろうか。


 * * *


A主任は、そのれいむがいる部屋に入った。
八畳ほどの白一色の部屋には、れいむが一匹しかいない。
だが床にいくつもの小さなリボンや帽子が落ちていることからして、子ゆっくりがいたらしい。
それまでじっと、感情のない目でリボンと帽子を見ていたれいむが、Aが部屋に入ったことで彼の方を見る。
非常にきれいなれいむだ。お肌はもちもち、髪の毛はつやつや、リボンの形も整っている。加えて、実に理知的な表情だ。
間違いなく、このれいむは飼いゆっくりになれる。バッジ取得の試験に挑戦すれば、難易度の高い金バッジも夢ではないだろう。
ペットショップで引く手あまたになるに違いないれいむが、なぜか一匹だけでここにいる。

「どうかな、れいむ。今の気分は」
「…わからないよ」
「本当かな。れいむ、自分の気持ちに正直に答えなさい。今の気分はどうかな。君がしたことを言ってあげようか」
「……やめてね。おじさん、いわないでね」
「さあ、答えなさい。飢えて、痛めつけられ、お前たちは親に捨てられたのだと教えられた、待望の愛しい子どもたちに再会した気分はどうかな。
いっせいに「ゆっくちさしぇないおやはちね!」と言われた気分はどうかな。つたない動きで憎しみを込めて体当たりされた気分はどうかな。
噛み付かれた気分は、唾を浴びせられた気分は、罵られた気分はどうかな」
「やめて。やめてやめてやめて!おじさんれいむにひどいこといわないで!」
「全部事実だよ、れいむ。事実を直視するんだ」

がたがたと震えるれいむの頭を、Aは愛しそうに手で撫でる。
本当に、Aの手の動きはれいむを慈しんでいるのがよく分かる。
なにしろ、このれいむはAの作った製品なのだから。

「君が、一匹残らず自分の子どもを殺した気分はどうかな?」
「ああああああああああ!ききたくない!ききたくない!おじさんもうやめて!」
「答えるまでおじさんはやめないよ。さあ、感想を聞かせてもらおう。君を恨んでいたとはいえ、かわいい我が子を自分の手で殺し、死体を食べた気分はどうかな」
「あ゙っ…あ゙っ……ゆ゙っ…ゆ゙っ!」
「答えなさい。今の自分の気持ちを、正直におじさんに教えなさい」

れいむは、答えないように努力しているようだった。
答えてしまえば、正直に自分の感想を言ってしまえば、すべてが終わってしまうと分かっていたらしい。
しかし、Aは容赦せず、ねちっこくれいむに答えるよう促す。
ゆっくりが、人間の誘導に逆らえるはずがなかった。
ついに、れいむは折れた。

「…………うれしかったよ」
「ほう」
「うるさくて、かわいくない、ゆっくりしてないおちびちゃんがつぶせて、ほんとうにほっとしたよ。れいむはうれしかったんだ」
「本当だね」
「ほんとうだよ。れいむは、あんなおちびちゃんなんかいらないよ。あんなの、れいむのおちびちゃんなんかじゃないよ」
「いい答えだ。れいむはいい子だよ。おじさんは正直なれいむが大好きだよ」

Aの手が、れいむのリボンを撫でる。
れいむは認めてしまった。
子殺しが嬉しかったと、自分の口から言ってしまった。
とりかえしのつかない一歩を、Aによって踏み出してしまったのだ。

今、Aは絶対にゲス化しないゆっくりを誕生させようとしている。
どのような環境に置かれても、どれだけ強制しても、どれほど虐待しても、常にゆっくりし、善良なままでいるゆっくりを作ろうとしているのだ。
人間にとって都合がいいだけのゆっくりだが、そんなことはAにとってどうでもいい。
品種改良、薬物、洗脳、様々な手段でAは試作となるゆっくりを作ってきた。
その中の一体が、このれいむだ。

見てみたいのだ。いくらゲスになる環境に置かれても、天使のように明るく振る舞う優しいゆっくりを。
見てみたいのだ。いくら命令されても、決して子どもを殺さず守り続ける母性の強いゆっくりを。
見てみたいのだ。両目を抉られ、まむまむもぺにぺにも潰され、足を焼かれ髪を抜かれ全身を切り刻まれてなお、人間を愛するゆっくりを。

好奇心が、Aを駆り立てる。
このれいむは誘惑に屈した。子どもたちに罵倒され体当たりされ噛み付かれ、ついに母であることを放棄した。
あまつさえ、Aの誘導に乗り、子殺しを「嬉しい」とまで言ったのだ。
まだ足りない。
これではまだ、Aの理想とするゲス化しないゆっくりには程遠い。
これは失敗作だ。
あとはもうしばらく同様の実験を繰り返し、どこで本格的にゲスになるのかを見極めなくては。

Aはゆっくりを思いやってなどいない。
たまたま、彼の作った製品がゆっくりを過剰な駆除から守ったに過ぎなかったのだ。
Aは自分の研究のためならば、何百匹のゆっくりが虐待されようとも良心は痛まない。
人々は、彼を完全に誤解していた。

「おじさん。れいむ、へんなの。ほんとうはいけないことだってわかってるのに、おじさんにほめられると、そんなことどうでもよくなっちゃうの」
「そうかい。それは大変だね」
「おじさん……わるいれいむのこと、きらいになった?もうれいむなんかいらない?」
「まさか。れいむはおじさんの大事なれいむだよ。嫌いになんかならないよ。だからね、れいむ……」

すがるような目付きでAを見るれいむに、彼は囁く。
れいむの心を毒のように汚染する、悪魔の誘惑を。
メガホンのように体だけを操るのではなく、れいむの魂までも堕落させる甘言を。

「もっと、ゲスになっていいんだよ。もっと、悪くなっていいんだからね」

れいむの目に、許容されたことによって形となりつつあるゲスの兆候を見て取り、Aは次にれいむに行う実験の内容を考えていた。









(終)


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感想

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  • もう少し研究すれば、人間には聴こえない波長で出来そうww
    喋る言葉は合成音声システム(所謂ボカロ)で自由に設定できるし。
    最ッ高ゥ!!! -- 2018-02-09 14:14:17
  • 最高 -- 2016-01-09 20:03:39
  • 完成度の高い作品だスな
    ただ、02はいぢめ要素が少なかったので残念だっただス -- 2011-11-15 17:53:30
  • 02は虐待らしい虐待が無くてそれなりー、でも面白かったよ
    01はエグいねーとてもヒャッハーできた。02ではありすの後日談とか期待してた
    関係ないけど冒頭でれいむが歌ってたのが(多分)ナウシカでわろた -- 2011-08-25 15:36:06
  • 良い作品だ。01の鬼気迫る虐待に惚れ惚れするぜ! -- 2010-10-24 16:59:38
  • ほんとゆっくりんピースって自分たちのお花畑の価値観で生きてるんだな
    -- 2010-08-13 19:32:04
  • 続いてた!!本当にいい作品だぜ!! -- 2010-08-11 00:34:53
最終更新:2010年01月08日 18:20
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