ふたば系ゆっくりいじめ 693 結界

結界 26KB


虐待-いじめ 駆除 現代 叩き壊したくてやりました

『結界』





『ゆふふふ! なにしてるの? ゆっくりできないにんげんが
 かわいいれいむの けっかいさんを こわせるわけないでしょ?』





一、

 宅配便が届いた。

 一人暮らしをしている男を、実家の両親が気遣ってのことだった。その日に両親から食料などの援助物資が届くことは、
事前のメールでのやり取りで確認していた。男は昼間の間は仕事をしているので、時間帯お届けで午後八時に指定してい
た。

 しかし。いざ、届いた段ボール箱を見るとものすごく大きい。男は、自分の部屋の冷蔵庫にちらっと目を向け、

(こんなに入りきるかな…)

 不安そうな表情を浮かべる。メールには“野菜をたくさん食べなさい”“野菜をたくさん送ります”みたいな内容の文
章が目立っていたので、箱の中身の中心は野菜なのだろうが…。それにしても多すぎる。宅配業者も、この段ボール箱を
持って玄関に現れた時は、うっすら汗をかいていた。

 男が、その段ボール箱を抱え上げる。重い。重すぎる。秋も終わりに近づいているというのに、スイカでも大量に送っ
てきたのかと思わせるほどの重量だ。この中身が本当に野菜中心であれば、その大半は腐らせてしまうことだろう。明日
からは、野菜炒め→カレー→シチューなどとメニューを繰り返すことになりそうだ。

 やっとの思いで、部屋の奥まで段ボール箱を運んだとき、箱にかけていた指が滑ってしまい段ボール箱を落としてしま
った。階下の人間から文句を言われまいかと思って、耳をすませたそのときである。

「ゆぐっ!!!!」
「いちゃいっ!!!」

 段ボール箱の中からゆっくりの声が聞こえてきた。

「ッ?!」

 男は慌てて、カッターを使って段ボール箱の天井部分を切り裂く。

「ゆびぃぃぃっ!!!!」

 同時に、悲鳴が聞こえた。どうも中に入っていたゆっくりのうちの一匹も一緒に切ってしまったらしい。しかし、今は
そんなことどうでもいい。男が段ボール箱を勢いよく開く。中には、四匹のゆっくりが入っていた。バスケットボール程
の大きさの成体ゆっくりである、れいむ種とまりさ種。そして、拳大の大きさにまでは成長している赤ちゃんゆっくり。
まだ、子ゆっくりというには小さすぎるだろう。舌足らずな口調も抜けていない。

 街で腐るほど見かけるスタンダードな構成のゆっくり親子だ。昨今、このコンビのつがいは、下手をすれば街にはれい
む種とまりさ種しかいないのではないかと思わされるぐらい、遭遇率が高い。この二匹の間に生まれているのも、赤れい
むと赤まりさ、という無限ループだ。れいむ種とまりさ種の王国でも作るつもりなのだろうか。

 その汚れた皮からして、間違いなく野良ゆっくりに当たるはずなのだが、どうして両親の送ってきてくれた宅配便の中
に紛れ込んでいるのかが理解できない。まるで、ゆっくり親子の入るスペースも考慮して、選んだような段ボールサイズ
のチョイスも気になるところだ。

 男は、親れいむの傷をぺーろぺーろと舐めている親まりさと、痛がっている親れいむをすーりすーりして慰めようとし
ている二匹の赤ゆを見ながら、母親の携帯電話に連絡をした。ほどなくして、母親が電話に出る。

「あら、としあき。荷物は届いたかしら?」

「届いた。届いたんだけど…母さん、もしかして…一緒にゆっくりとか…入れてないよな…?」

「入れたわよ」

 あっさりと答えが返ってきて、男は少しだけ落胆する。それにしても理由が気になるところだ。

「…なぜ?」

「としあき、いっつもインターネットばかりしてるでしょ?現実にも話相手がいたほうがいいと思って」

 何気にひどいことを言われているような気がするが、それはまあいいとする。両親は、息子に話し相手としてゆっくり
も一緒に送ってきたというのだ。

「もう起きてるかしら?」

「起きてるどころか、母さんたちが送ってきてくれた野菜を結構食べてる」

「嘘っ?送る前にラムネを食べさせてちゃんと眠らせたのに…」

 男の実家は農家を経営していた。野菜は豊富であるから一度にこの量を送ってきたのであろうが…。どうせ話し相手と
して送ってくるなら、雇われのうかりんとかゆうかにゃんとか送ってきてくれればよかったのに。その旨を母親に伝える
と、

「だって…ゆうかにゃんなんか送ったら、あんた“HENTAI”してますます現実見れなくなるような気がして」

「母さん…俺をなんだと思っていやがる…」

 母親にからかわれながら、最終的には、

「まぁ。邪魔だったら捨てなさいな。その子たち、野良ゆっくりだから街でも生きていけるわ」

「母さん…そういう安易な考えが街の景観をだね…」

「大変!ゆうかにゃんがまた他のゆっくりに“れいぽぅ”されてるわっ!!切るわねっ!!!!」

 耳元でけたたましい声を浴びせ、母親は通話を切った。男のもとに残ったのは、静寂と、男を見上げる四匹のゆっくり
のみである。野良ゆにしては大人しい。よく考えてみれば、男の実家は相当な田舎で野生と野良の境界は曖昧だ。まぁ、
実家で母親が捕獲したというなら、人里に下りてきていたわけだから区分としては野良ゆに該当するのだろうが。

 男の視線に耐えかねたのか、ゆっくり親子が少しだけ怯えた表情を見せた。

「ゆ…ゆゆっ!」

 突然、親れいむが口を開いた。お決まりの挨拶でもするのだろうか…と思いながら、箱の中を見ている。親れいむはす
ぐ横にあるキャベツの葉をちぎり始めた。そして、そのキャベツの葉を赤ゆ二匹にかぶせる。親れいむも、親まりさも、
なるだけ身を低くして、まるで毛布でもかぶるようにキャベツの葉を頭の上に乗せた。そして、

「ゆっ!れいむは、けっかいっ!をはったよ!!!これでおちびちゃんにはてだしできないよっ!!!」

(…俺、なんかしたか…?)

「ゆっくち~!おきゃーしゃんのけっきゃい!はしゅごいんだよっ!!」

 赤れいむが歓声を上げる。キャベツの葉っぱで目元を見ることはできないが、親まりさも得意気な様子だ。

(…母さん…あんた、まさか…)

 男が、キャベツの葉っぱを払う。露わになったゆっくりたちは、男を見上げて悲鳴を上げた。

「ゆっぴゃああああああ!!!!!」

「どぼじでげっがいっ!ざんなぐな゛っでる゛の゛ぉぉぉぉぉぉ??!!!」

 男は、親れいむをそっと箱から取り出した。あんよが地につかないことがよほど不安なのか、それとも何かトラウマで
もあるのか、真っ青になっていやいやと顔を横に振っている。

「や…やめてね…っ!ゆっくりおろしてねっ!!」

 親れいむが強大な力を持つと信じて疑わない赤ゆたちが、顔面蒼白で男を見上げている。親まりさもどうしていいかわ
からず、箱の中でおろおろしているだけだ。

「なぁ…お前ら、もしかしてこの箱の中に無理矢理入れられたのか…?」

「ゆっ?そうだよ!!れいむたち、やめてね!っていったのにこのなかにいれられたよっ…!!」

(すんません…うちの親が…本当にすんません…)

 一瞬だけ、申し訳ない気持ちになった後、男はもう一つ質問をした。

「箱の中に入れられる前に、そこらに生えてた野菜を食べたりしたか…?」

「ゆっ!たべたよっ!すっごくおいしかったよっ!!!」

(なんだ、じゃあこの程度の制裁で済んで良かったじゃないか…)

「にんげんさんはばかなのぜ?おやさいさんはかってにはえてくるのぜっ!!」
「そんにゃこちょもしりゃないにょ?ばかにゃの?しぬにょ?」
「おお、あわりぇ、あわりぇ」

 本当にゆっくりたちは、どこで人間を罵倒する言葉を覚えてくるのか一度調べてみたい。男が、自分たちと会話をして
くれることがわかった途端にこの態度だ。このゆっくり親子は、実家の野菜畑を荒らしたのだろう。それを両親に見つか
って、怒られた…と。

 男は、親れいむを段ボール箱に戻し、中に入っていた野菜を全部外に出したあと、軽くなった箱を思いっきり蹴った。

「ゆぐっ!」
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛っ!」

 段ボール箱が壁にぶつかって止まる。箱の中を見ると、親ゆは悶絶しており赤ゆは目を回していた。

 もう一度、実家に電話をして詳しく話を聞くと、お仕置きしようとしていた母親をゆうかにゃんが止めたらしい。“か
わいそうだからやめてあげて”と言われたものの、このまま返したらまた畑を荒らしにやってくる。どうしたものか、と
考えた結果、息子である男に送りつけることにしたのだそうだ。

「母さん…あんた…」

 男は、とりあえず、段ボール箱の蓋を閉めてガムテープで厳重に封をしたのち、玄関に移動させた。段ボール箱の中か
らゆっくりたちの声が聞こえてきたが、ずっと無視していると寝息が聞こえてきた。

「ゆぴー…ゆぴー…」
「しゅーや…しゅーや…」

「はぁ…明日、近くの公園にでも捨てるか…」

 男は一人、そうつぶやくと部屋の電気を消した。





二、

 結論から言うと、公園に捨てるのは無理だった。公園のあちこちに看板が立っており、“ゆっくりの不法投棄禁止”な
どと書かれている。それにも関らず、公園の中を薄汚れたゆっくりがうろついているのは、他の場所から移り住んできた
か繁殖して増えたのか…。こんな看板を立てるくらいなら、一斉駆除でもしたほうがいいのではないかと思わされる。

 男の住むアパートの裏には、木が生い茂っている場所がある。顔を見られている自分に話しかけられるのも迷惑だと思
って、そこに捨てることだけはしないようにしていたが…。男は、段ボール箱を逆さにして、中のゆっくり親子を地面に
落とした。

 ぽてぽてと地面に叩きつけられるゆっくりを見届けたあと、男はその場を去ろうとした。

「ゆ…ゆゆゆゆゆゆ…」
「しゃむいよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「ゆっくちできにゃいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 十二月の中旬だ。寒いのは当たり前だろう。親れいむは、男の前に飛び出すと、

「ゆっ!にんげんさん!まってね!!!」

 震えながら声をかけてきた。男が立ち止まる。親れいむは男が手にしている大きな段ボール箱を見つめていた。

「れいむたちにそれをゆずってほしいよ…!このままじゃさむくてちびちゃんたちがかわいそうだよ!!!」

 正直なことを言えば、このまま親子ともども静かに凍死してもらいたいところなので、渡す理由など何一つなかったの
だが、この親れいむは諦めが悪そうだ。このまま人通りのある場所まで出て行って、ここにゆっくりを捨てたのが男であ
るということがばれてしまうわけにはいかない。男は、無言で段ボール箱を地面に置くとそのままスタスタ歩いて行った。

「にんげんさんっ!!!ゆっくりありがとうっ!!!!」

 後ろで親れいむが声を上げているが、男はそのままアパートの部屋へと戻って行った。階段を上がっていくときに、親
れいむと親まりさが一生懸命段ボール箱を運んでいる姿が目に映る。

(重労働だろうな…口で咥えるしか運ぶ手段ないわけだし…)



 親れいむと親まりさは、生い茂った木々の間に上手くその段ボール箱をはめ込むように置いた。赤れいむと赤まりさが
その中に入る。しかし、開かれた段ボール箱の入り口は大きく冷たい風を遮ることはほとんできない。箱の隅にぴったり
と身を寄せ、二匹の赤ゆはぷるぷる震えていた。

「ゆぅ………」

「れいむ!ちかくからはっぱさんをあつめてくるのぜ!!」

「そうだねっ!!はっぱさんがあればあったかいよっ!!!」

 そう言って、二匹は一枚ずつ葉っぱを咥えては段ボール箱の中に入れて行く。親れいむも親まりさも額に汗をかいてい
た。一時間ほどが経過した後、段ボール箱の中には葉っぱの絨毯が敷かれていた。赤ゆたちが固まっていた場所には、布
団代わりに多く盛られている。赤ゆたちは嬉しそうだった。

「ゆっくりしたおうちができそうだよっ!!」

 親ゆ二匹も互いの顔を見合わせ、微笑んだ。しばらく、箱の中で二匹は頬を寄せ合いゆっくりしていたが、あることに
気付いた。

「ねぇまりさ…?ここはあったかいけど…いりぐちがおおきすぎるよ」

「ゆゆっ!さすがれいむはいいところにきづくのぜ!これじゃおうちがめだちすぎるよっ!!」

 と、言うことで親れいむと親まりさは再び段ボール箱の周囲を飛び跳ね始めた。今度は木の枝を集めている。

「えださんをつかってゆっくりいりぐちをふさぐのぜっ!!!」

 しばらくして、二匹の集めてきた木の枝が段ボール箱の入り口の半分ほどを覆った。それを見て、親れいむが満足そう
に顔を震わせて、

「おうちに、けっかいっ!をはったよっ!!!」

 叫ぶ。これは謎の習性であるが、ゆっくりは基本的に巣穴の入り口を隠す。別にどのゆっくりもが巣穴を作る際に行う
当たり前の行動なのだが、れいむ種だけはこの行為を“けっかいっ!”という言葉で表現する。そして、“けっかいっ!”
が張られることを他のゆっくりは喜ぶのだ。

 れいむ種の特性として、“ものを隠すのが好き”というのが挙げられる。例えば、キャベツの葉っぱで赤ゆを見えない
ようにしたり、巣穴の入り口をカムフラージュしたりと方法は様々であるが、大抵は意味を成さない。意味を成さない、
とは言ってもそれは人間相手の場合であり、ゆっくり同士であればれいむ種の“けっかいっ!”はゆっくり界において、
最高水準のカムフラージュ技法なのである。

 既に、親れいむにも親まりさにも、この不自然なまでの段ボール箱は、完全に自然と一体化しているように映っている。
捕食種でさえ、容易に気づくことはできないだろう。親れいむは自信たっぷりな表情でおうちの中へと戻って行った。

 四匹のゆっくりが頬を寄せ合い、安心しきった表情でお昼寝をしている。

 そこに、用事が出来て部屋から出てきた男が現れた。

(…なんだこれ…巣を作ったつもりか…?)

 男は、段ボール箱の中を覗き込んだ。一家が幸せそうに寝息を立てている。そのとき、男の中に突然嗜虐心が湧いた。

 男は、アリの巣とかを壊すのが子供の頃から好きだった。アリの巣の中に細い木の枝を挿し込み、滅茶苦茶にかき回す。
すると、中からアリがわらわらと出てくる。そんな慌てふためくアリを見ては恍惚とした表情を浮かべた少年時代。スコ
ップなどを使ってアリの巣の周囲の土ごと掘り返すのも楽しい。土の中から大量のアリが這い出してくる。それを見るた
びに、かゆくなるのだが、それでも男はやめなかった。

 気付くと、男は段ボール箱を蹴り飛ばしていた。

「ゆ゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛っ??!!!!」
「なんなのぜぇぇぇぇぇっ??!!!」
「「ぴぎゃあああああ!!!!」」

 一家の悲鳴が聞こえる。上手い具合に木の間に固定していたため、段ボール箱ごと吹き飛ばされることはなかったが、
集めた葉っぱや木の枝が周囲に散らばった。すぐに、親れいむと親まりさが段ボール箱から飛び出してくる。

「どぼじどごんな゛ごどずるの゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!???」
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!れいむのけっかいっ!さんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!」

「あ…その…すまん…つい」

「つい、じゃないでしょぉぉぉぉぉぉ??!!!!」

 男は、口元のニヤニヤが止まらない。飛び出してきた二匹の親ゆが、もうアリにしか見えてないのだ。アリと違ってい
いリアクションを見せてくれるのも正直たまらなかった。

「ゆえええええん…!!!れーみゅたちのおうちぎゃああああ!!!!」
「おきゃーしゃんのけっきゃいしゃんがああああ!!!!」

 二匹の赤ゆも口を大きく開けて、涙を流している。

 男は、ゆっくりを潰す趣味とかは特になかったが、このおうちを壊されて泣き叫ぶゆっくりの顔を見たとき、何かが弾
けた。目覚めてはいけないことに目覚めてしまったような気がする。男は久しぶりにゾクゾクしていた。少年時代の思い
出もフラッシュバックしてくる。

 巣を壊されたアリは、次の日にはまた巣を完成させている。巣の中から、アリが小さな土の塊を顎で挟んで出てくると
ころからして、巣の中に落ちてきた土を掻きだしているのだろう。

 ゆっくりも、それと同じことをするのだろうか?

 男は、それが気になって仕方がなかった。

 親れいむと親まりさは、狩りをして食料も集めなければならないはずだ。ゆっくり親子はなかなか泣き止まなかった。
人間視点で考えれば、突然家が爆破されたようなものだ。呆然とするか、やはりもう泣くしかないという状態だろう。

「ゆああああああん!!!!」
「ひどいのぜぇぇぇぇぇ!!!!」

 男は、素晴らしい暇潰しを見つけたと喜び、用事を済ませに出て行った。

 ゆっくり親子は泣き続けていた。泣いたところで誰も助けになど来てくれないというのに。




三、

 親れいむは、一生懸命葉っぱと木の枝を集めていた。親まりさは狩りに出かけている。突然、おうちを壊されて、そ
の日は一家ともども呆然としていたため、寒くてたまらない夜を過ごした。四匹でがたがた震えながら身を寄せ合い、
まだ残っていた葉っぱを毛布代わりにして寒さを凌いだ。

 それに並行して、空腹が一家を襲い始めた。昨日までは一緒に送られてきた男の実家の野菜をたくさん食べることで
お腹が空くことはなかったのだが、おうち作りという作業。そのおうちを一瞬で壊されたストレスから、肉体的にも精
神的にも疲労がたまり始めていた。

「ゆーしょ…ゆーしょ…」

 親れいむは昨日と同様に額に汗を浮かべながら、木の枝を集めていた。それも、昨日よりもなるだけ多く。親れいむ
と親まりさは、話しあった結果、“結界が突破されたのは木の枝と葉っぱが少なかったからだ”という結論に至った。
それゆえ、昨日よりもたくさん素材を集めることができれば、今度はおうちを壊されることはないだろう…という考え
だ。

「ゆっくちっ!ゆっくちっ!!」

 この日からは、赤れいむと赤まりさも葉っぱ集めを手伝った。空腹でなかなか力が入らないが、おうちの中でゆっく
りするためには仕方がない。

(まりさ…れいむたち…がんばってるよ…っ)

 親まりさがたくさんの食料を持ってきてくれることを願って、残された三匹は必死になっておうちを作っていた。運
んできた葉っぱや木の枝がおうちの前にある程度集まってくる。親れいむと、赤れいむ、赤まりさは、積み上げられた
その様子を見て、嬉しそうな表情を浮かべた。

「ゆっ!あとはおかあさんたちでなんとかするから、ちびちゃんたちはおうちのなかでやすんでてねっ!」

「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!!」
「ゆっくちおやしゅみなしゃいっ!!!」

 元気よく返事をして、段ボール箱の奥に跳ねていったかと思うと、すぐに寝息が聞こえ始めた。よほど疲れていたの
だろう。親れいむの、疲労も相当なもので本当は、親まりさの負担を少しでも減らそうとおうち作りに取り掛かる予定
だったのだが、気づくと柔らかい葉っぱと木の枝のクッションによりかかり、眠ってしまっていた。

 そこに、男が現れた。男は、またゆっくり親子の巣穴を壊す気満々で現れたのだが、巣穴が完成していないことに少
しだけ落胆した。落ち葉を踏みしめ、段ボール箱のところまで来ると、箱の中ですやすや眠っている二匹の赤ゆと、入
口付近で倒れ込むように眠っている親れいむを発見した。

「まりさ……れいむ…がんば……たよ…」

 寝言が聞こえてくる。男は、新しく巣穴を作るために親れいむがこの葉っぱや木の枝を集めてきたのだと理解した。
親れいむが一生懸命これらを運んできたのは、男にもわかった。わかっていたからこそ、つい、やってしまった。男は
竹ぼうきを持ってきて、それらを掃いた。

 無論、親れいむを起こさないように細心の注意を払って。結局、集めた木の枝などは、親れいむがクッション代わり
にしている部分のみとなってしまった。

 男は、アパートの部屋のベランダから、ゆっくり親子の様子を観察することにした。ほどなくして、親まりさが山の
中からぴょんぴょん飛び跳ねて帰ってきた。

(へぇ…役割分担したのか…。家作りと餌集め…。なかなか賢いじゃないか…)

 親まりさは、呆然としていた。咥えていた帽子の中にはたくさんの木の実や草、芋虫や幼虫などが入っていた。親ま
りさは泥だらけだ。お腹を空かせて待っている最愛の親れいむと赤ゆのために、必死に餌を集めてきたのだろう。

 しかし、親まりさの視界に飛び込んできたのは、親れいむがクッションにする程度しか集まっていない葉っぱと、呑
気におうちの中で眠っている二匹の赤ゆである。親まりさはわななきながら、大声を出した。

「れいむっ!!!!!!!」

「ゆっ!!!!」
「「ゆぴゃっ!!!」」

 親れいむと二匹の赤ゆが飛び起きる。親まりさが三匹を睨みつけている。赤れいむと赤まりさは、そろそろとあんよ
を這わせて、親れいむの後ろに隠れた。親れいむは、少し怯えながら、

「ゆ…ゆゆっ?まりさ…?どうしたの…?ゆっくりしてね…?」

「これはいったいどういうことなのぜっ!!???」

 親まりさが叫ぶ。親れいむと、二匹の赤ゆはびくっ、として目を閉じる。親れいむには親まりさがどうしてこんなに
怒っているのかわからない。

「ま…まりさぁ…」

「れいむ。きょうはまりさがかりにいってくるから、ちびちゃんといっしょにおうちをつくるじゅんびをしてるはずじゃ
 なかったのぜ?」

 語気を強めながら、親まりさが親れいむに問いかける。親れいむは、少しだけ悲しい顔をしながら、

「そ…そうだよぅっ!だから、れいむもちびちゃんもいっしょうけんめい…」

「じゃあ、どうしてはっぱさんをあつめてきてないのぜっ?!」

「ゆ、ゆゆぅぅぅぅっ??!!!」

 親れいむと二匹の赤ゆが辺りを見回す。

 ない。

 あれほどたくさん集めてきた葉っぱや木の枝がない。三匹は混乱していた。朝、親まりさと別れてすぐに作業を開始し
た。結局、午前中の間はずっとその作業に追われており、必死になって集めたはずのおうちの材料が…忽然と姿を消して
いたのだ。

「ど…どぼじではっぱざんがない゛の゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ!!???」

 親まりさは、親れいむと赤ゆ二匹を並べて、ガミガミと説教をしていた。一方、状況が理解できず、親まりさに怒られ
ている親れいむは、悲しくて悲しくてぽろぽろと涙をこぼした。それは二匹の赤ゆたちも同じだった。

 男はベランダからその一部始終を見て、笑っていた。



 結局、ゆっくり親子はお昼ご飯を食べ終わった後、親まりさも加わってもう一度おうちの材料を集め始めた。食事を取
ったことで、赤ゆたちも体力が回復したのか一生懸命作業に準じている。親まりさは無言だった。親れいむは何度か親ま
りさに話しかけようとしたが、無視された。親れいむは悲しくなって、目に涙を浮かべながら葉っぱを集めていた。

 おうちが完成したのは夕方になってからだった。葉っぱや木の枝を敷き詰めた後、親れいむがおうちの入り口に木の枝
を張り巡らせ、ちょっとだけ小さな声で、

「ゆっくり…けっかいっ!…をはるよ…!」

 と、言った。二匹の赤ゆは、昨日ほどの歓声は上げなかった。けっかいっ!を張り終わった後も、親れいむは半泣きの
状態で、そこを動かなかった。少しだけ震えている。

「……………」

 親まりさが、三匹の近くに寄ってきて声を上げた。

「ゆっ!!れいむおかあさんがけっかいっ!をはってくれたのぜっ!!!」

「「「…?」」」

 半泣きの親れいむと、不安そうな表情の赤ゆたちが親まりさの方を見る。

「れいむのけっかいっ!があればあんしんなのぜっ!!さっ、れいむもちびちゃんもおうちのなかにはいってごはんさん
 をいっしょにむーしゃむーしゃするのぜっ!!!」

 赤ゆたちが表情を輝かせる。親まりさは、赤ゆと親れいむに微笑みかけた。

「「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!!」」

 親れいむは、無言で親まりさに飛びついた。親まりさは、親れいむの泣き顔を見ないようにして、親れいむの額にちゅ
っちゅした。

「ゆぅ…ん…っ!!!ゆうぅぅぅぅん…っ!!!」

 親れいむは一言も発さず、大好きな親まりさの顔に自分の顔をうずめていた。

 しばらくして、二匹がおうちの中に入ったあと、

「「「「むーしゃ、むーしゃ、しあわせええぇぇぇぇ!!!!」」」」

 という声が聞こえてきた。男は、ちょっと頭を掻きながら、

(あいつらにちょっかい出すのはもうやめるか…)

 そう言って、カーテンを閉めた。




四、

 一週間後の朝。

 ゆっくり親子のおうちの前に数人の人間が集まっていた。アパートの住人たちである。

 親れいむと、親まりさ、そして二匹の赤ゆは、木の枝の隙間から見える人間の足を見て、がたがた震えていた。赤れい
むが恐怖で泣き出しそうになるのを、赤まりさが必死に慰めている。親れいむも、親まりさにぴったりと寄り添い、小刻
みに震えていた。

「ゆっ…だいじょうぶなのぜ…。れいむのけっかいっ!があるからみつからないのぜ…」

 小声で親まりさが囁く。一家は少しだけ落ち着きを取り戻したのか、おうちの外から聞こえてくる人間たちのやり取り
に耳を傾け始めた。

「まったく…朝夕うるさいと思ったらこんなところにゆっくりが住みついていやがったのか…」

「山からこんなに葉っぱや木の枝を持ってきて…散らかし放題じゃないか…」

「こんな段ボールどこから拾ってきたのかしらねぇ…?」

 親まりさたちは理解した。人間たちが、ここにゆっくり親子のおうちがあることを既に気付いているということに。途
端に四匹の顔中に冷や汗が流れ始める。

「どれ…」

 そう言って、中年男性が入り口を塞いでいた木の枝を取りはらい始めた。少しずつ、おうちの中に入ってくる光が大き
くなっていく。親子はがたがた震えていた。

(どおして?どおして?けっかいっ!さん…ちゃんとはったのにぃぃぃぃぃ!!!)

「お、いるぞ」

 入り口に、中年男性の顔が現れる。親まりさと目が合う。ゆっくり親子が後ずさろうとして、段ボール箱の壁にぶつか
る。逃げ場はない。中年男性がおうちの中に手を伸ばしてきた。親れいむと親まりさは必死になって、その手に捕まらな
いように身を捩る。

「ゆっくりと段ボールは分別しないといけないからなぁ…」

「保健所に連れて行かないといけませんものね…」

 やがて、親れいむが中年男性によっておうちの外に引きずり出された。リボンを掴まれているため、どれだけ身をくね
らせても逃れることはできない。

「ゆんやああああああっ!!!!!」

 親れいむが泣きながら叫ぶ。集まっていた人間たちは嫌そうな顔をした。ため息をつきながら、

「野良犬を駆除するよりも、気分が悪いんだよな…ゆっくりを捕まえるのって…」

「やめてねっ!!!はなしてねっ!!!!こわいよぉぉぉぉ!!!まりさああっ!!!まりさああああぁっ!!!」

 滅茶苦茶に暴れながら、滝のように涙を流し顔を真っ赤にした親れいむを見て、一同がバツの悪そうな顔をする。なま
じ、人間と同じ言葉を喋り、生首とはいえ表情は人間のそれと変わらないため、どうしても割り切ることができない。更
に、

「にんげんさんっ!!!れいむをはなしてあげてねっ!!!」

 段ボールの中から、親まりさが飛び出してきた。頬に空気を溜めて、泣きながら威嚇している。このように、ゆっくり
は大体、家族単位で行動しているためこういうシーンが起きやすい。ゆっくりにしてみれば、真っ当な家族愛を見せつけ
られてしまうため、人間側も思い切りよく行動することができないのだ。

「まりさああっ!!!たすけてええええっ!!!れいむたち…なんにもわるいことしてないのにいぃぃぃぃ!!!」

 親れいむの主張で、人間たちの間に更に微妙な空気が流れる。確かに、このゆっくり親子は、ただおうちを作ってご飯
を食べて、眠っていただけだ。隣の家の団欒の声がうるさくて苦情を言うような人間はいない。だからと言って、ずっと
ここに住む着かせるわけにもいかない。今はまだ小さな家族だが、数が増えれば必ず面倒なことになる。

 ただでさえ、ゆっくりによる空き巣被害や、傷害事件が世間のニュースを賑わすようなご時世である。今は、何も悪い
ことをしていないゆっくりたちも、いつかは何か悪いことをするかも知れない。その懸念が先に来るため、アパートの住
民たちは、ゆっくり親子を処分することに決めたのだ。

 いつまでたっても、親れいむを離してくれない中年男性に、親まりさが体当たりをした。それと同時にもう一人の男に
親まりさが捕獲される。二匹は、用意していた大き目のポリ袋の中に投げ入れられた。親れいむと親まりさが袋の中で互
いの頬をすり寄せる。

 その様子を見て、心が痛むものもいたが、これがゆっくりに対する現実なのである。

「この二匹だけか?」

「そいつら以外は見なかったけどな」

 二匹の赤ゆは親れいむによって、葉っぱの絨毯の下に隠されていた。二重の結界だったのである。親れいむと親まりさ
は、泣きながら二匹の赤ゆの無事を祈っていた。

 赤ゆたちは、人間に捕まることはなかった。親れいむと親まりさが安堵の表情を浮かべる。二匹にしてみれば、もう、
自分たちのちびちゃんたちだけも助かってくれればそれでよかったのだ。

 人間たちが、段ボール箱を起こす。大き目の段ボール箱の中に、けっかいっ!に使っていた葉っぱや木の枝が放り込ま
れる。親れいむと親まりさはその様子を不安そうに見つめていた。やがて、主婦がアルミホイルにくるまれた芋を持って
現れた。

 実は、葉っぱや木の枝が集められているのを見て、アパートの住民で焼き芋をしようという案が出ていたのだ。段ボー
ル箱の中に、ゆっくりはもういないと思い込んでいる住民たちは、ブロック塀に囲まれた場所まで段ボール箱を移動させ
て、それに火を放った。

 親れいむと親まりさが絶句する。

 その後、アルミホイルに長めの串を刺して、音を立てて燃え始めた焚火の中に突っ込んだ。

「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!」

 親れいむが絶叫した。しかし、二匹の入った袋は離れたところに置いてあったため、その声が住民たちに届くことはな
い。

「やべでえ゛え゛ぇ゛!!!れいぶだぢのちびちゃんがあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ!!!!!!」

 燃え盛る炎の中では、二匹の赤ゆが身を捩っていた。しかし、満足に動くことはできない。

「たしゅけちぇぇぇぇぇ!!!!」
「あちゅいよぉぉぉぉ!!!!」

 赤れいむと赤まりさの叫び声は、炎の音で掻き消される。二匹の赤ゆは段ボール箱の底にいたため、すぐにその小さな
体が炎に包まれることはなかった。しかし、熱波は容赦なく二匹を襲っている。額からは滝のように汗が流れ、すぐに脱
水症状を起こし始めた。

「おきゃ…しゃ…………」
「くりゅ…ちぃよ……」

 やがて、赤まりさの帽子に火が移った。赤まりさの金髪があっという間に炎に包まれ、灼熱の舌が赤まりさの顔を舐め
回す。

「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!!!」

 目を、口を、あんよを丹念に焼き上げられ、顔が少しずつ炭化していく。同様に赤れいむも火だるまになっており、苦
しみもがいていた。

「あ゛ぢゅい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」

 業火の中。二匹の赤ゆは焼きつくされて絶命した。

 今なお燃え上がる炎のゆらめきをぼんやりと眺めながら、親れいむと親まりさは声も出さずに泣いていた。涙だけが二
匹の頬を伝って行く。言葉を失った二匹は、そのまま街の保健所へと送られた。一週間後には焼却処分されるだろう。



 アパートの裏庭。そこに男が現れた。手にはゆっくりフードと二つの餌皿を持っている。

「たまには美味いもんでも食わせてやるかな」

 男は、独り言を言いながら、段ボール箱の巣穴を訪れたがそこには何もなかった。

「ありゃ…」

 周りを見回すが、昨日までこの付近を跳ねまわっていたゆっくりの姿は見えない。

「どっかに移動したのか…」

 男が、部屋に戻ろうとアパートの階段を登り始めたときだった。お隣の主婦に呼び止められた。

「はい、これ。おすそ分け」

「おお…焼き芋じゃないですかっ。美味しそうですねぇ…俺、実家が農家でよく食べたんですよ」

 手渡された焼き芋をその場で割って、口の中に放り込む。中まで焼けており、ホクホクしている。男は、

「これ、すごく美味しいです」

 そう言って笑った。










おわり








日常起こりうる悲劇をこよなく愛する余白あきでした。



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感想

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  • おもしろかったです!
    お兄さんもアパートの住人も良識ある人達ばかりだし
    ゆっくりも餡子脳だけど善良純朴な家族でしたね
    鬼意山もゲスも無しこんなにおもしろいって凄いですよね
    良識のない私だった親れいむが顔真っ赤にして泣き叫んでる時点でヒャハってますw
    お兄さんにはもう少し家族不和を起こすようなイタズラをしてほしかったですが
    その優しい所がお兄さんの良い所ですから仕方ないですねw
    -- 2011-06-19 13:31:42
  • お母さん餡子脳すぎだろ… -- 2011-03-07 12:34:19
  • なるほど、れいむには特技が無いと思ってたが、”けっかい”が有ったのか。目から鱗だぜ
    お兄さん以外の人達には駆除やらされていい迷惑だったんだろうなー やれやれ -- 2010-10-26 21:19:39
  • 赤ゆが焼かれてる時の親ゆの様子とかもっと見たかったな。ほんといい話だ。 -- 2010-09-01 13:41:54
  • いい話だった。 -- 2010-08-05 00:15:06
  • 最後のとこ読んだら焼き芋食いたくなっちゃったよ。 -- 2010-07-26 13:26:41
  • 外で野良を育てるのは他人に迷惑がかかるからよくないよね -- 2010-06-11 12:30:24
最終更新:2010年01月15日 22:08
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