最後に聞く言葉 17KB
虐待-凄惨 悲劇 飼いゆ 現代 虐待人間 愛護人間 二作目です。相変わらずやり過ぎています。
子れいむは自分の不幸さを呪っていた。暖かい寝床に美味しい食事、楽しい遊具と、そして優しいお兄さん。
飼いゆっくりである子れいむはそのすべてを享受していた。けれど子れいむは今現在の境遇を恨んでいた。
眼の前に立つ一人の人間。三日おきにやって来る、何故か玄関の鍵を持っていて、毎回同種のお面を被り、お兄さんがいない時だけ現れる忌むべき男。
声と身体つき、思い出したくないが男性器を見せられたことから子れいむは男であると判断していた。
ゆっくりまりさのお面を被った男は背負っていたバッグから束になった銀色の細長い棒とL状の物体を取り出し、その物体の握っている部分の下から生えているプラグをコンセントに繋いだ。
L状の物体を子れいむは見たことがなかった。だからそう呼ぶしかない。男が握っている部分は青い塗装で固められており、その先から九十度折れ曲がって、先端が尖った銀色の太い棒が取り付けられていた。
「じゃあ、始めようか」
子れいむは震える。いつもこうだった。何をするかも告げず、訳のわからない道具を持ち出して、「じゃあ、始めようか」とだけ言う。こちらの気持ちなどお構いなしに。
男はケージの隅で怯えている子れいむを握りしめ、机の上に押さえつける。子れいむは必死で身体を動かし脱出を図ろうとするが、男の力の前では逃げ出すことは不可能だった。
「暴れるなっていつも言ってのに…また固定しなくちゃならないね…」
L状の物体を一旦机に置き、男はポケットから釘と鉄鋼を持ち出して、釘を子れいむの末端に強く刺した後、釘の頭を鉄鋼で何回も叩いた。
その度、子れいむは痛みで何度も上下運動を繰り返すが、男はお面の向こうで笑みを浮かべたまま、釘を打ち続けた。
「いちゃい…いちゃいよ…」
「暴れるなって言葉もう忘れたのか。飼いゆっくりなんだろ? リボンについた金バッチは飾りか?」
「か、かざりじゃないよ! れいむがいっしょうけんめいべんきょうしてとったきんばっちさんなんだよ! ばかにしないでね!」
「ああそう。まぁそんなことはどうでもいいんだけどね」
男はL状の物体を握りなおし、カチリとスイッチを入れた。数秒後、銀色の棒から煙が上がるのを子れいむは確認した。子れいむはあれが湯気であること、そして湯気が発生する原因は温度差にあることを経験上知っていた。
「ほう、これが途轍もなく熱いってことが理解出来ているようだね。さすが金バッチといったところか。なら、これが何か。何に使うかわかるかな?」
子れいむがガタガタと震えながら、小さく顔を左右に振る姿を見て、より一層笑みを深めた。
「これはハンダゴテというものだ。用途はそのままだけどハンダ付けをするときに使う。溶接って判るかな。まぁとにかく何かと何かを繋げるときに使うものだよ」
そのようなものを何故自分に使うのか。子れいむは判らなかった。そもそも何故自分はこのような目に遭わなければならないのか。この男は何故自分に暴力を振るうのだろうか。何故、何故……。
「しかし、これ単体ではハンダ付けは出来ないんだ。この束になっている細長い棒があるだろ? これはハンダといってね。こう…使うんだ」
ジュッ
「ンギッ!!!」
額に襲った形容し難い熱さとその後からくる激痛に、子れいむはまともに声を出すことすら叶わなかった。男がハンダゴテとハンダを子れいむの額に当てたのだった。
「判ったかな。接合する部分にハンダを近づけて、ハンダゴテでそれを溶かし、ハンダを液状にするんだ。ハンダゴテを離すと、液状になったハンダの温度は低下していき、再び固体になる。そうこんなふうに」
子れいむは男の話など聞ける状態ではなかった。額からくる激痛と、全身に悪寒が走り続ける異物感。瞳を強く閉じ、歯を噛み締めながら、その二つを耐えていた。
やがて痛みは和らいでいき、なんとか瞳を開けられる程度になった子れいむの目を向けた先には鏡が置かれていた。
「ようやく目を開けたね。自分の顔をよく見るといい」
言われなくても子れいむの視界にはしっかりと入ってきていた。元は平らだったはずの額にある銀色の固まり。異物感の正体はこいつで間違いなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ! とって! とってえええええええええええええええ!!」
子れいむの叫びに男は口を開けて笑いだした。
「ハハハハハハハ! 嫌に決まってるだろ馬鹿饅頭が! お前はこれから全身ハンダまみれになるんだよ! そうだ! お前が鏡を見続けながらハンダ付け出来るようにしてやる!」
男は器用に両方の目元の上下左右をハンダで固定した。一気に八か所もハンダ付けされた痛みと異物を身体に取り付けられていく視覚的恐怖に子れいむは大声で泣き叫んだ。
「いだいいだいいだいいだいぃぃぃ! ごわいよみだぐないよぉぉぉぉ!!」
虐待は一時間続いた。目と口の周り以外すべてハンダ付けされた子れいむは生きているのが不思議に感じていた。むしろ生きていることより発狂しない自分に驚いていた。
子れいむはこの痛みから逃れられるなら狂ってしまいたかった。しかし意識は正常のままだった。再び何故という疑問符が上る。
「何故死なないか。意識があるか疑問に思ってそうだな」
男はハンダゴテのスイッチを落とし、額の汗を拭った。いかにも一仕事終えた人間のように見え子れいむは痛みの中で小さく怒りを灯した。
「最初の虐待を覚えているか。そう鞭打ちだ。今のと比べてどうだ? それほど痛くなかったように感じられないか? 少なくとも俺はそうしたつもりだ。
次は針刺しだったな。鞭打ちより痛かったけど、今のと比べると楽じゃなかったか?」
男の言葉は正しかった。子れいむが受けた虐待の中で今日のが一番辛かった。
「初めにハンダ付けをやったら、おそらく十発目くらいで発狂するよ。だから俺は徐々に痛みのレベルを上げていったんだ。痛みに抵抗をつけさせるようにな。さて、この言葉の真意に金バッチは気づけるかな」
判らない。考えたくもない。子れいむはハンダまみれの中そう思った。
「考えろよ。ほら、痛みのレベルを上げていったんだ。慣れさせるためにだ。大ヒントだぞ」
嫌だ。考えたくない。嫌だ嫌だ嫌だ。
「時間切れ。答えは“次はより一層苦痛を与えられる”でした。正解したらもう虐待はなかったのに」
男にはもちろんそのような気はない。答えなかったから言っただけだ。しかし、子れいむはそうは思っていなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁやだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおにいざんだずげでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
子れいむの心地よい絶望の声を耳にしながら男は部屋を出た。鍵が閉められる音を子れいむは確かに聞いていた。
子れいむが目を覚ますと、身体の痛みや異物感が薄れていることに気付いた。身体に眼を走らせるがハンダはどこにもない。子れいむは視線を上に向ける。その先には飼い主であるお兄さんの姿があった。
「れいむ、ようやく目を覚ましたんだね!」
お兄さんの温かい声に子れいむは涙を止めることが出来なかった。お兄さんがケージの扉を開けてくれたので、我慢できずに飛びつく。
「こわかった、こわかったよぉぉぉぉ!」
お兄さんは胸の中で子れいむを赤子のように優しく抱きしめた。
「よしよし。落ち着いたら話してほしいんだ。一体何があったのか?」
お兄さんの言葉に子れいむは泣きながら事のあらましを説明した。
「まりさのかめんをかぶったおとこのひとがれいむをまたぎゃくたいしていったの!」
「またか…なんで金も物も盗らずにれいむだけ虐待していくんだ。ハンダ付けまみれなんて治す身にもなってほしいよ」
虐待を受けてボロボロになった身体をお兄さんがいつも治していた。ゆっくりの治療について学んでいると以前お兄さんが話していたことを思い出していた。
「あのね! またかぎをつかっていえのなかにはいってきたの!」
「やっぱりか…交換したばかりなのにどうして合鍵なんて作れるんだ…」
お兄さんが玄関のドアノブで作業している光景を子れいむは何度も見ていた。だから子れいむも疑問に感じていた。
「おにいさん、ひっこしのじゅんびすすんでる?」
子れいむの言葉にお兄さんは頷く。
「ああ、着々とね。もう少しで手続きが終わるから、新居へ引越したら変態虐待鬼威山にざまあみろしてやろうね」
「うん!!」
その後、子れいむはお兄さんと雑談をした。雑談の内容は、教授が熱中し過ぎて壁にチョークで記し始めたことや、子れいむが喜びそうなお菓子がもうすぐ発売されること、
家によく来る友人が急に腕相撲をしようと言い出して腕を痛めたこと、上の階に住む片思いの相手がゆっくりを飼い始めたことなど他愛もない話だったが、子れいむは至福の喜びを感じていた。
子れいむのお腹がグゥと鳴り出したところで雑談は終わり、隠し物ごっこをして遊んだ。お兄さんがある物を隠し、それを子れいむが見つけるといったものだった。
お兄さんは隠し物が下手だった。子れいむはいつもものの三分で見つけてしまった。しかしそれではお兄さんが可哀想なので時間をおいて見つけてあげた。それでも子れいむはお兄さんと触れ合えるこの遊びが好きだった。
隠し物ごっこの後、お兄さんがショートケーキを出してくれた。ショートケーキは子れいむの大好物だった。虐待を受けた日の後はいつもショートケーキを出してくれた。
「むーしゃ、むーしゃ、ごっくん。ちあわせー♪」
本来は金バッチとしては許されない行為もお兄さんは受容してくれていた。何も我慢することはないと。そう言ってくれた。せめてもののマナーとして食べ物を散らばせないように子れいむは注意した。
食事を終えた子れいむはだんだん眠くなってきていた。ケージ外で眠ってしまわないよう急いでケージに戻り、
「おにいさん、れいむはやいけどねむるよ。ごめんなさい」
と報告する。お兄さんは怒ることもせず、「そう、おやすみ」と優しく笑みを浮かべて、ケージに近づき子れいむを優しく撫でた。子れいむにとって一番の至福の時だった。
あれ?
子れいむに違和感が走った。何かがおかしい。子れいむは視線を上へあげる。頭を撫でているのは確かにお兄さんだ。でもこの匂いは…。
「じゃあ、おやすみれいむ」
お兄さんがケージを閉じる。内側から開かないようロックをかけられる。
「さて、僕もそろそろ眠ろうかな」
そう言ってお兄さんは台所へ向かう。
「そういえば、今日帰ってから手を洗ってなかったな…」
お兄さんの独り言を聞きながら子れいむは瞳を閉じ静かに考える。思考の木は見る見るうちに成長していき、いくつも枝をつけ、やがて子れいむの頭にお兄さんの殺害計画を生み出させた。
子れいむがお兄さんを殺害しようとするに至る経緯はこうだった。
昨日の寝る前、お兄さんに頭を撫でられたとき、あいつの匂いがした。あいつとは当然あの虐待する男のことだ。
お兄さんが虐待する男なのだとしたら、すべて辻褄が合う気がした。
お兄さんがいないときに男がやってくるのはそれがお兄さんだからだ。
男が鍵を取り替えても入ってくるのは、鍵を取り替えた張本人のお兄さんだからだ。
仮面を被って入ってくるのはお兄さんと気付かせないためだ。人間が声音も変えられることぐらい子れいむも知っている。
怪我を治すのは次なる虐待をお兄さん自身が行いたいからだ。
引越し作業が遅々としているのは、環境の変化によって周囲にばれるのを防ぐためだ。
虐待受けた日にショートケーキを買ってきてくれるが、何故虐待されたことを知っているのか。それは虐待した張本人だからだ。
これだけ条件が揃えば、お兄さんがあの虐待男であることは子れいむでも察しがついた。
殺してやる。
朝、子れいむは目覚め、自分が練った計画が実行できるチャンスを窺った。今から二日後までにお兄さんを仕留める。どうせいずれにせよ自分は死ぬだろう。その前にあのお兄さんだけは…。
表面上は普段と変わらない表情や行動を振舞いながら、子れいむは機を待った。お兄さんは自分の変化に気付いているだろうか。どうか虐待男に変貌するまで気付かないでほしい。
一日目はダメだった。自分が行おうとしている殺害方法を満たす条件が生まれなかった。ケージの扉は閉められ、ロックをかけられる。今日はもう駄目だと、子れいむは瞳を閉じて、一日目を終わらせた。
二日目、チャンスは来た。今日は土曜日で、お兄さんはバイトも休みであり、家でごろごろしていた。昼食を二人で食べ終えた後、お兄さんは言い出した。
「また眠くなってきちゃった。れいむはずっとケージの中じゃ退屈だろうから。ケージの外に出してあげるよ。汚さない程度に遊んでいいからね」
子れいむは歓喜した。同時に恐怖した。ついに機が来てしまった。そのことが子れいむに二つの感情を与えた。
「ゆっくりりかいしたよ。おやすみなさいおにいさん」
子れいむはお兄さんが寝息をたてるまで適当に辺りをうろついていた。まだか、まだか、と何度もお兄さんの方を振り向いた。
三十分経っただろうか。お兄さんの寝息を確認し、子れいむは段差や椅子を利用し、器用に机の上へ昇った。
目的は筆記用具入れにあった。そこから子れいむはカッターナイフを取り出そうとした。カッターの刃の出し方はお兄さんを観察していたから知っている。
歯を器用に使い、刃を固定した後、カッターの中心を強く咥える。絶対離してはならない。口が千切れてしまっても絶対に。
お兄さんはベッドで眠っていた。ベッドの隣にはベッドより1.5倍ほど高い本棚がある。眠る前お兄さんはよくその本棚から本を取り出しては読み耽り、そのまま眠りについていた。
子れいむはカッターを咥えながらその本棚に上り、お兄さんの首元に狙いを定めた。以前お兄さんと見ていた映画のシーンに首から血を噴き出して絶命するシーンがあった。
子れいむが考えていた殺害計画の準備は整っていた。子れいむの計画は単純なものだった。
カッターで首元を切る。
お兄さんを殺せそうな方法はこれ以外思いつかなかった。おそらく成功しない確率の方が高いだろうと子れいむは踏んでいた。それでも、やらないよりはマシだろうと考えていた。
子れいむは静かに飛んだ。刃の部分が下になるように身体が横向き倒しながら。
子れいむは重力に従い落下していく。子れいむは今まで以上に強くカッターを噛み締めた。
ザッ
音は続かない。子れいむの視線の先にはカッターの刃がお兄さんの首の肉に食い込んでいる光景が映っていた。
失敗だった。
お兄さんが動き出す。首元の痛みで目が覚めたのだろう。子れいむは刺さったままのカッターを全身を使って必死に揺らした。
「いっつ…なんなんだよ!」
お兄さんは反射的に首元の子れいむをつかみ、壁に投げつける。投げつけるまで子れいむがカッターを離さなかったせいか、カッターの刃は滑り、やがて折れた。
「痛っ! なんだよこれ…血じゃないか…」
痛みが走る首元に手を当てたお兄さんはカッターの刃が刺さり、血が流れてることを知った。お兄さんは慌ててカッターの刃を抜き取り、救急箱がある方へ向かった。
その光景までで子れいむは意識を失った。
全身に走る今まで味わったことのない痛みで目が覚めた。
「ようやく目が覚めたか。飼いゆっくり」
目の前にはありすの仮面を被った男がいた。首まで隠した服を着ている。虐待男だとすぐに判った。同時にお兄さんであることも。
「駄目じゃないか。飼い主を傷つけちゃ。飼いゆっくり失格だぞ」
顔を近づけて話してくる男に、子れいむは唾を吐き捨てたくなる。しかし出来ない。身体中にベルトが巻かれ、力が入らない。少しだけ声が出せそうだった。
「お、おにいざんのがいゆっぐりなんて…まっぴらだよ……」
子れいむは何が何でも屈しないと心に誓っていた。
「おいおい、今まで育ててもらったのにそれはないだろ?」
「そだててもらった? そだてたのあんたでしょ? ばかなの? しぬの?」
「……やっぱりそうだったか」
何を一人納得したのか、男は頷き始めた。訳が分からない。
「なにひとりでうなずいでるの…」
「飼いゆっくり、これを見ろ」
男は首元を隠していた洋服を捲った。そこには子れいむが傷を負わせた箇所があるはずだった。
「なんで…」
傷はなかった。健康的な肌が露出しているだけだった。
「簡潔に言おうか。君は何を勘違いしたのか、自分の飼い主を俺だと思った。違うか」
子れいむは震えながら小さく頷いた。
「だから殺そうと思った。違うか」
子れいむは屈しそうな心を必死で抑えながら頷いた。
「でもな」
嫌だ…聞きたくない…。
「俺は」
聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない―――
「お前の飼い主じゃない」
そう言って男は仮面を外した。仮面を外した男は見知った男だった。
それは家によく来るお兄さんの友達だった。
「スペアの鍵は偶然見つけたんだよ」
男は話し出す。耳を閉じる術をもたない子れいむはただ聞いていくしかない。
「初めは素直に『こんなところに隠すなよ』って言って返したんだ。でも次に遊びに行ったときもバレバレなところに隠しているからさ。なんというかその時に魔がさしたんだよね」
男は話を続ける。
「鍵のスペアを作って元の場所に戻した。後は侵入してお前を痛みつけたわけだ。俺は虐待が趣味でね。あいつがゆっくりを治す勉強をしているのも幸いだった。とそれはいい。
さて、一回目の虐待を受けて、お前は飼い主に鍵を使っていたことを報告しただろう。しかし、男は恐らく聞き間違いだと思って、鍵を交換しなかった」
「かぎ…こうかんしてたよ…」
「じゃあ、振りだな。お前鍵の交換手順わかるか。一般人でもパソコンとかで調べないと普通は出来ない。お前は飼い主さんが鍵を交換していたと断言できるか?」
判らない。子れいむは鍵の交換手順など知らなかった。
「まぁいい。とにかく鍵を交換しなかったんで、俺は同じ鍵で侵入し、虐待した。二回目の虐待の後、お前はまた鍵を使っていたことを報告しただろう。飼い主さんはさすが訝しんで鍵を交換したわけだ」
「なら、なんで…」
男は笑う。
「簡単なことだよ。飼い主さんの家に遊びに行って、鍵を見つければいい。あいつは隠すのが苦手だからな」
いかに隠し物が苦手か、子れいむは隠し物ごっこで十分理解していた。
「で、三回目の虐待の後、お前再び鍵を使っていたことを報告する。それで終わればいいのに、お前は」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「殺人を企てた」
もう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だ
「飼い主を殺そうとするとか、勘違いとはいえ最低だな。あんなに愛情を注いでいたのに」
やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて
男はニタニタ笑いながら携帯電話を取り出し、会話する。
「もうすぐお前の飼い主がここに来るよ」
え……
「お、おにいさん、きてくれるの…」
携帯電話をポケットにしまいながら、男は満面の笑みで頷く。
「おう、さっき連絡した。すぐに行くってさ」
子れいむは考えた。お兄さんが助けに来てくれる。助けに来てくれる。全部話そう。すべてを。そうすれば信じて―――
ザシュ
子れいむは何が起きたか判らなかった。目の前で自分の身体の一部が飛散していく情景が映っていた。痛い。痛い。痛い!
けれど声がでない。
「話させるわけねえだろうが」
男が持つ鏡には口がない子れいむが映っていた。
お兄さんがやってきたのはそれから五分後のことだった。
「おい、れいむに口がないじゃないか。虐待の天才じゃねえのかよ」
「抑えつけるのに手間取ってな。うっかり。すまんな」
「ちっ、まぁいいや。なかなかもの用意してくれたようだし」
お兄さんは子れいむの方を向く。
「おい、よくも俺のことを殺そうとしてくれたな。お前の為になけなしの金で引越しの準備をしてやったのに。楽じゃねえんだぞ手続きだってな!
お前が怪我したときは治した後、急いで大好きなショートケーキ買ってきてやったのに。あんなに、あんなに一緒に遊んでやったのに……お前は……お前は!」
違う。違うんだよ。お兄さん。全部そいつのせいなんだ。全部。
だからお兄さん殺さないで。助けて。れいむ、お兄さんにだけは殺されたくなかったよ。優しいお兄さんで本当に良かったよ。殺そうとして本当にごめんなさい。
もっと考えればよかったのに。本当に馬鹿だったよ。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。だから御願い。
お兄さんが殺さないで。
「言ったろ。“次はより一層苦痛を与える”ってな」
耳元で男がボソッと囁く。
お兄さんがゆっくりとスイッチを押す。
子れいむは静かに瞼を閉じた。
・あとがき
二作目になります。
一作目の『五体のおうち宣言』でコメントをくれた方々、本当にありがとうございます。
みなさんの指摘通りオーバーな描写が目立ってました。素直に反省しています。
その反省を踏まえて、早速虐待物の二作目書いてみたら、一作目よりオーバーになってました。しかも指摘があった犯罪も含んでいました。たぶん、作者の脳みそは綿菓子で出来ているのでしょう。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- 証拠もなく憶測だけで殺害するとは、本当に金バッジか? -- 2018-01-21 20:00:32
- たまたま本日投下コメントがあったから便乗。前作は少し残酷だったが、不思議とゆっくり出来て、それ故に、今回も期待していただけに残念です。私は胸糞云々を指摘している方と同意見です。是非前作のような不思議とゆっくり出来る良作がまた読みたいです。 -- 2017-10-24 21:00:01
- ゆっくり出来ない。ゲスゆっくりザマァってやれてこそゆ虐SSだと思う。いや、ゲスじゃなくてもいいけどこんなどうしようもない胸糞悪いSSに需要は無い。胸糞注意って書いてあれば何も言わない。ゆ虐SS愛好家にも色々いるので配慮してください。
-- 2017-10-24 20:35:40
- 不法侵入かもしれないが窃盗とかじゃなくてゆっくりを虐待するためだから問題無し -- 2016-10-10 22:17:50
- 犯罪が含むと必ず批判コメが出てくる、ゆ虐反対派から見たらどっちも同じようなものなのに
オチが予想外で面白かった、合鍵はやっぱ外に置いちゃいけないね -- 2013-11-20 18:39:38
- どっちが惡いのか・・・? -- 2012-08-17 17:38:29
- ダーク♂お友達 -- 2011-08-17 20:40:58
- ダークな終わり方が面白かった -- 2011-07-03 09:56:33
- まあ確かに犯罪を含んではいるが餡子脳なお兄さんにはいい薬になったでしょ
これを機に友達の鬼意山を見習って立派な鬼意山になって頂きたいものですw -- 2011-06-29 06:16:41
- そうだったのか!てなったけど……
前みたいな復讐のが良かった -- 2011-05-30 14:26:38
- 面白い!この作者さんにしか出せない味だと思う。 -- 2011-01-06 02:06:50
- 前作は面白かったけど、これは微妙すぎ。 -- 2010-08-03 17:09:58
- れいむが銅バッジでもっとゲスくて、それが動機で侵入・虐待したっていうふうならもっとすっきりできるんだが… -- 2010-07-29 22:04:15
- ちょっと異色の虐待もので面白かったです
それでちょっと推理も出来るのが特に良かった
虐待SSである以上、これを言ったらダメなのでしょうけど、飼い主さんに敢えて言いたい事が・・・
不法侵入されてるんだから、飼いゆ虐待うんぬん以前に通報しようよぉぉぉぉ!!!のんぎずぎるでじょぉぉぉぉ!!
-- 2010-07-26 04:02:23
- ここまで虐待おにいさんがクズだとすがすがしい
すばらしい作品でした。 -- 2010-07-26 02:46:58
- 飼い主が餡子脳だな。そう何度もれいむが虐待されてて手口も同じなんだから、
トラップしかけとくか、れいむの寝床を自分の枕元に移すとか、対策とれよ。カギ変えても無駄だったんでしょうが。 -- 2010-07-11 04:12:41
- 毎回オチに工夫が見られて面白いです。 -- 2010-06-23 21:48:40
- 禿同 -- 2010-04-17 19:11:19
- 犯罪ものはゆっくりできない
せめてこの虐待兄がせいっさいっ加えられるとこまで書かないと単なる犯罪者がかちましたーだろ -- 2010-03-26 01:13:03
最終更新:2010年01月23日 04:00