飼いゆっくりが帰ってきた 20KB
「おに”い”ざぁあ”あ”あ”ん!! あげでぇぇぇええ!!」
叫び声に呼ばれて窓の向こうをみてみればそこには一匹のひどくぼろぼろの薄汚れたれ
いむがいた。
その風体からいって明らかに野良といったところだが、わざわざ人の家の軒先で泣きわ
めくこのゆっくりに俺には一つ心当たりがある。
「お前あのれいむか? 一緒になったまりさはどうしたんだ?」
「……まりさは……まりさは、うわぁぁあああんん!!」
俺は以前一匹の銀バッジ取得のゆっくりれいむを飼っていた。それがこいつだ。だがあ
る日通りすがりの野良まりさに一目惚れをしたこいつは(ワイルドさがどうのとか言って
いた)そのまりさと一緒になりたいと言って来た。
飼いともなればもちろん栄養状態は野良等より遥かに良い。そのため野良から見ればか
なりの美ゆっくりであり相手のまりさも即了承。「れいむは一緒にまりさと暮らすよっ」
と言って家から出ていったのが一週間ほど前の話。
「まあとにかく入れ」
窓を開けてやり、れいむを家の中に入れる。底部が汚れているので適当な雑巾で身体を
拭いてから戸棚にあったゆっくりフードを皿に持って置いてやる。あの頃のふっくらとし
た身体は何処へやら、まともに餌も食べて無かったのか頬が痩けているかのごとく痩せ細っ
ている。
「ゆ! ゆゆゆんっ! しあわせっ! しあわせっだよぉぉぉおお!!」
泣きながら凄い勢いでゆっくりフードを食べていくれいむ。まさに野良もかくやといっ
たスピードで多めに盛ったはずの餌が消えていく。よほど空腹だったのか周りに飛び散っ
た餌すらも綺麗に舐め取る始末だ。
「で、どうしたんだれいむ? 幸せに暮らすんじゃなかったのか?」
ゆっくりの足からすればここから森までかなりの距離がある。完全に箱入りで育てたわ
けではないにしろ大した苦労もしてこなかった元飼いゆっくりがあの場所からここまで来
るのは相当の覚悟と苦労があったはずである。
話を聞いてみるとどうやらこういうことらしい。
惚れたまりさといっしょになったれいむ、美ゆっくりをゲットして御機嫌なまりさ。ま
りさは群れのゆっくりだったらしく、れいむを連れて森にある自分の群れの巣に戻ったら
しい。
二日目までは幸せだった。飼いだけあって身体能力が高く、野生の事でわからないこと
はまりさが教えてくれ二匹で狩りにでれば群れで一番多く獲物を取るくらいの成果がでて
いたらしい。飼いだからこの辺で適応出来ずに破滅するかなと思っていたのだが正直意外
だった。
三日目あたりから雲行きが怪しくなる。ひなたぼっこをしていても狩りをしていてもど
うにも誰かの視線を常に感じることをれいむは無気味に思ったそうだ。つがいのまりさは
気付いてもいないようだったが。
四日目、群れの長であるつがいとは別のまりさがれいむのところにやってきて自分とつ
がいにならないかなどと言い出した。長でそのレベルだと群れごと滅びそうなものな気も
するが、案外野良のゆっくりはどれもそんなものなのだろうか?
当然れいむは断ったらしい。そこにつがいのまりさがやってきて長まりさの方もれいむ
が群れに馴染んでるか確かめに来たんだよなどとすっとぼけて帰っていったそうだ。
「……いや正直驚いたよ。俺はてっきりあっさりとのたれ死ぬものかと」
「ゆゆ……そう言われても仕方ないよ。自然は厳しいから……」
なんか飼ってた時よりも言動が素直になっている気がするがとりあえず先を促す。
五日目、前日になにか危険を感じたのかれいむはまりさとすっきりして植物型妊娠をし
たらしい。さすがに呆れる。危険を感じたら普通は動けなくなるような行為をするべきで
はないだろうに。まあ生存本能を刺激されて子孫を残すという方向にいったのだろうが。
繁殖能力がでたらめなゆっくりらしいというか。
まあ冬には遠く、狩りも上手い二匹だけに食料の心配はないと踏んだまりさはあっさり
と快諾し、蔓が伸び実がなったことを喜んでその日は狩りに出かけていったそうだ。
陽が暮れる頃、つがいのまりさは戻って来た。帽子だけが。
より正確にいうならば帰って来たのはつがいのまりさの帽子を被った別のまりさだった。
普通のゆっくりならば飾りで個体を認識するが大抵の飼いゆっくりは賢く、余程顔かたち
が変わって無い限り飾りがなくてもそのゆっくりを識別することができる。というかその
程度の賢さを発揮しないゆっくりは銀バッジなど取れない。
「ゆっくりかえったんだぜ!!」
「れいむのまりさはだぜなんていわないよっ。まりさはだれなの!? れいむのまりさを
どうしたのっ!?」
「ゆゆっ!? なにいってるんだぜ? まりさはれいむのまりさなんだぜ?」
「うそだよっ!! れいむにはわかるもん!! お帽子がなくたってれいむのまりさのこ
とわかるもんっ!!」
混乱しはじめたまりさに立ち直らせる暇もなく言葉をぶつけ続けるれいむ。自分は動け
ない身重の体なのだからこうやって時間を稼ぐしかなかった。幸いそこは群れの中、騒い
でいれば近所のゆっくりが様子をみにきてくれるだろうし、もしかしたらつがいのまりさ
が戻って来てくれるかもしれない。
「こんなじかんにさわぐなんてとかいはじゃないわよっ」
「むきゅー。れいむどうしたの?」
「もうよるだよー。わからないよー」
ゆっくりの足でそれなりの距離とは言え人間の生活圏に近いこの森にはあまり捕食種が
いない。そのため近所のゆっくりが騒いでいるれいむのところに何事かと様子を見に来た
のだ。
「そのまりさをつかまえてねっ!! ゆっくりききたいことがあるよっ!!」
「「「「「ゆ?」」」」」
れいむの言葉に一斉に疑問の表情を浮かべる周りのゆっくりたち。
「むきゅ? まりさはれいむのつがいのまりさでしょ?」
「ちがうよ!! れいむのまりさの帽子を被った別のゆっくりだよ!!」
そう言っても普通のゆっくりは飾りで個体を認識する。れいむが何度主張したところで
周りは混乱するばかり。
「まりさはまりさじゃなくてでもまりさだけどまりさじゃない?」
「まりさはまりさなのにまりさじゃないんだねー。わからないよー」
「な、なにいってるんだぜ。まりさはまりさなのぜっ」
「ちがうよ!! れいむのまりさはだぜなんていわないよ!!」
あからさまにうろたえはじめるまりさの言葉尻を捕まえてそう主張するれいむ。
元々まりさと付き合いの長かった何匹かのゆっくりがそれを聞いて、
「むきゅ…たしかにきのうまでのまりさとことばづかいがちがうわ…」
「まりさはもっととかいはだったわね…」
正直ここまで聞いて俺はちょっと感心していた。正直なところ銀バッジを取れたのもぎ
りぎりで平均で言うとちょっと残念だったはずのこのれいむがまさかここまで頭が回ると
は。
だがまあなんというか所詮ゆっくりはゆっくりだということらしい。
「ゆっくりしていってね!!」
「「「「「ゆっくりしていってねっ!!」」」」」
騒然とした巣の前に突然響いた挨拶に本能で返すゆっくり達。
「みんな、きにすることはないよ!! これはただのふうふげんかだよ!!」
そう声をあげたのは長まりさ。
「しんこんさんにはよくあることだよっ! わかったらゆっくりすにかえってねっ!!」
いきなりそんなことを言われて慌てるれいむだが、単純な他のゆっくりはその理由にあっ
さりと納得して帰っていったらしい。
「むきゅ、わかいっていいわね」
「ふうふげんかなんていなかもののやることよっ」
「いぬもくわないんだねー。わかるよー」
「ゆ! まって! ちがうよ! そのまりさはまりさじゃないんだよー!!」
後に残るのはつがいのまりさの帽子を被る偽まりさと長まりさ。そして巣の中で身動き
の取れないれいむだけ。騒いでももう来るものもいない。
「まったくいわれたとおりにしたのにばれるなんてはなしがちがうのぜっ!」
いきなりべしっと被った帽子を地面に叩き付ける偽まりさ。
「これだけあたまがいいなんてますますまりさにおにあいなれいむだねっ」
にやにやとした笑みを浮かべながら巣の中に入ってくる長まりさ。
偽まりさの方もどこか近くに隠してあったのだろう、自分の帽子を被ってから巣の中に
入ってくる。
見たことのあるまりさだった。それもそのはず群れの幹部でもあり長の姉妹でもあるま
りさだったからだ。
「ゆ! まりさは? れいむのまりさをどうしたのっ!?」
「ゆっへっへ。くずだけどあじはなかなかだったのぜ」
「ごうじょうなまりさがわるいんだよ。かわいいれいむはおさのまりさのほうがふさわし
いのにさいごまでわたさないってていこうするんだからねっ!!」
言葉も無いれいむだったがすぐに我に帰る。
「どぼじでばりざをだべじゃっだのぉぉぉぉ!!」
悲嘆に暮れるれいむ。長まりさ達は元々つがいのまりさのことを快く思っていなかった、
狩りは上手いし人望だってあるし面倒見もいいから群れの子供にも人気だ。長まりさとし
ては長の座を脅かされるんじゃ無いかと思うし、幹部まりさからみれば嫉妬の対象だ。し
かもそれがとんでもない美れいむをつがいにしたとなればなおさらに。
そしてその日、二匹は狩りで一匹だったところのまりさを襲い、殺したのだ。食べてし
まえば証拠は残らないし、二匹にとっては揉み合いの時につがいまりさの帽子が落ちたこ
とも幸いした。死臭のついていない帽子を身につければ他のゆっくりにばれることはない。
いざとなればそのまま美れいむとすっきりしたっていいんだと考える。あっさり見抜かれ
たわけだが。
「い”や”ぁぁぁああああ!! やべでぇぇぇええええ!!!」
「れいむのまむまむさいこうだよぉぉぉぉ!! すっきりー!!」
「すべすべのおはだもきもちいいんだぜぇぇぇええ!! すっきりー!!」
動けないれいむを好き勝手に蹂躙する二匹のまりさ。れいむもゆっくりの本能には抗え
ずすぐにすっきりーしてしまいあっという間に新しく二本の蔓が伸びてくる。
「まりさのこどもをうめるなんてこうえいにおもうんだぜっ!」
「長はやさしいからおおくうまなくてもいいようにまびいてあげるよっ!!」
そういってれいむの頭に生えた蔓のうち中央の一本を引きちぎる長まりさ。
「ばりざのごどもがぁぁぁああああ!!」
もはや忘れ形見となったつがいのまりさとの子供が一つ「ゆ”っ」と鳴いて動かなくな
るのを見せつけられるれいむ。
「うっめ! これめっさうめっ!!」
「やめでぇぇええ!! まりさとれいむのこどもをたべないでぇぇ!!」
地面に落ちた蔓ごと食べはじめる幹部まりさ。それで栄養を取り終えると、さらにれい
むとすっきりするために動きはじめる。
「まったくむれのばかなゆっくりをかんりするのはつかれるよっ!!」
「あんなむのうなまりさにこのれいむはもったいないんだぜっ!!」
群れのゆっくり達への不満をぶつけながらすっきりしつづけるまりさ達。生えた蔓は最
初の二本を残して全て自分達で食べ、れいむが痩せ細ってくると貯蔵庫にある餌の中で質
が悪いものを引っぱりだして無理矢理口の中に詰め込んでいく。
それが六日目の朝になっても続いた。
陽が昇っても出てくる気配のないつがいを心配してやってきたゆっくりには幹部まりさ
がつがいの帽子を被って「れいむのちょうしがわるいからきょうはいえでゆっくりみてる
よ」と言い、長まりさもそれに付き合うからと口裏を合わせる。中の様子を見ようとする
ゆっくりには適当に理由をつけて追い返す。
森にきてからも充分に餌を取っていたれいむは黒ずんで果てることはなかったものの、
最早外に届くほどの声をあげる体力もなかった。
六日目の夜も前日と同じような状況だった。
すでにすっきりするたびに栄養を吸われたれいむの外見はその辺の野良よりも酷いもの
になっていた。肌はがさがさだし餡子だって足りて無いから皮から弾力性が失われ、髪は
ぼさぼさ、飾りだってすっきりしつづけるまりさたちの粘液でどろどろになって変な形に
なっている。
「そろそろこいつもようずみなんだぜ!」
「まりさのぱちゅりーもするどいからもうすこししたらかんづくかもしれないししおどき
だねっ!!」
欲望のおもむくまま気が済むまですっきりをした二匹は、小腹が空いたとばかりにれい
むが子供を庇って動けないように残しておいた二本の蔓の実ゆっくりを、一匹づつ千切っ
ては食べていく。元々生かしておけば面倒が増えるし、適当にれみりゃに襲われたと言え
ば群れの皆も納得するだろうから最初から殺すつもりだったのだ。
「ゆ……ゆっく…り……じねぇ……」
もはやまともに喋れないほどに疲労したれいむ。
「さてきょうはそろそろかえらないとありすがうるさいのぜ!」
「ぱちゅりーのためにおいしいものをもってかえるよっ!!」
そう言って貯蔵庫の中から美味しそうな物を重点的に選んで帽子の中に詰め込んでいく
まりさ達。
「こいつはどうするんだぜ?」
「もううごけないから放っておいていいよ!! いきてたらあしたもすっきりできるしねっ!!」
実際の所、もはやぼろぼろで醜くなったれいむに触るのも嫌になっただけの話。
「「せいぜいゆっくりしていってねっ!!」」
にやにやと皮肉たっぷりにれいむにそう宣言して二匹は巣穴を後にした。
たしかに通常の野生のゆっくりなら次の日の朝には干涸びていただろう。だが産まれて
からずっと栄養状態の良かったれいむは中の餡子に含まれる栄養自体が野良ゆっくりより
豊富だった。そのためぼろぼろで餡子もすかすかにも関わらず這う程度の事はできた。
だが他のゆっくりを頼ることはできない。その場は助かっても向こうにはつがいの帽子
があるし、長だってついている。信用で言えば新参者のれいむのほうがはるかに下であり
何を言ってもこちらの言うことを信じてくれる可能性はないだろう。あると思いたくても
あの日あっさり言いくるめられた群れのゆっくりを見たのでれいむとしては楽観できるも
のではなかった。
ゆっくりと巣の中を這いずる。目指すのは貯蔵庫。体力を回復させるのにむりやり食べ
させられたり二匹に持っていかれたりはしたがまだそこには数日分の貯えがある。つがい
だったまりさはれいむと一緒になる前からきっちりと餌を貯えていたのだ。なんでも子ゆっ
くりの時の冬ごもりの時に辛い経験があったと言っていたのをれいむは思い出す。
そのまりさは野良としては理想的なパートナーだったし、れいむにしてもそれを見抜い
た目は所詮は運かもしれないとはいえ、結果的に確かなものだったと言わざるを得ない。
群れも外から見る限りはまともな群れだったし、普通のゆっくりならば幸せになっただろ
う。
ひとえにれいむが飼いゆっくりだったからこそともいえる話。
もし長たちが羨む程の美ゆっくりではなかったら。もしれいむが飾りをつけた幹部まり
さの事を見抜けなかったら。もしれいむがもう少しだけ野生に適応できなくて衰弱してい
れば。苦痛とつがいを失った悲しみの中で一匹寂しく冷たい巣の中を這いずることは無かっ
た。
れいむは食べた。とにかく食料を貪った。食べ過ぎて餡子を吐けばそれも食べた。全て
はすこしでも体力を回復するために無理矢理食べた。ゆっくりとは単純な生物だ。食べた
物はすぐさま餡子に変換され、栄養をとればその分中身は増えていく。
七日目になった満月の夜、それが頂点に輝く頃れいむはひっそりと群れを出た。すでに
起きている群れのゆっくりなど誰もいない。
捕食種が少ないとはいえ距離の短い群れの中を移動するだけならともかく長く暗い森の
中を這って移動し続けた。
跳ね回るよりは正しい選択だったと言えるだろう。跳ねるのはそれなりに体力を使うし
ぼろぼろのれいむにとって下手をすれば皮が破ける可能性すらあったし、なによりも跳ね
ると目立つ。それでも夜目の利く捕食種に見つからなかったのはほとんど奇跡とも言える
が。
七日目の朝、れいむは大きな家の前にいた。そこに行こうと思っていたわけでは無い。
が、記憶にあるゆっくりできる場所が本能的にそこに足を向かわせていたのだ。
「……そうか。なかなか大変だったんだな。お前も」
「ゆぅ……出ていく前にお兄さんに約束したことは覚えてるけど、せめてお日様が二回昇
るまではゆっくりさせてほしいよ……」
「ああ、『一度出ていったらもう二度と飼わないからな』か」
「ゆ……」
「まあ俺も鬼じゃ無いから回復するまでここにいてもいい。といいたいところだが」
「ゆ?」
俺は隣の部屋の戸をあける。
「ここはおにーさんとちぇんのゆっくりぷれいすだよっ!!」
そこにいたのはゆっくりちぇん。つい二日前くらいに買って来たやつだ。
「つい寂しくなってこいつ買っちまってなぁ」
「野良はゆっくりできないからでてくんだねー。わかるよー」
しかもあんまり賢くは無い。こいつずっと話聞いてたんだろうに。
「きたないれいむはでていくんだねー。わかれよー」
そういっていきなり体当たりを始めようとするちぇん。やはり安物はダメだと痛感する。
「ゆぅ…仕方ないよ。おにいさん、雨が降ったら永遠にゆっくりしちゃうからせめて明日
まで軒下を貸して欲しいよ……」
「この家はちぇんたちのなんだよー! ゆっくりしないできえてねー。わかるねー?」
れいむの殊勝な物言いに俺はちょっと感動した。くそぅ、野良になるなんていったとき
は所詮無脳なのかなどと思った俺を赦してくれれいむっ!! ってか相対的にものすごく
ちぇんがうざい気がしてきたぞ……。
「俺が決めることだってわかってるよな? ちぇん?」
潰れない程度の力で頭を押さえ付けてやると「わがるよ”ー。だがらやめでねー。わが
ら”な”い”よ”ー!!」などと言って大人しくなったので離してやる。
「まあとりあえず元気になるまでゆっくりしていっていいぞ」
うまくすればこのちぇんを躾ける役に立つかもしれんしな。
「あ”り”がどう”ござい”ま”す”ぅぅぅ!!」
大泣きして喜ぶれいむ。うーむ、出ていった時はどうにでもなれと思ったもんだが。さ
すがに帰ってくるといろいろ思い出してなんか愛着が涌いてくるな。なんて自分勝手なん
だ、俺。
とりあえずその日は思う存分れいむをゆっくりさせてやった。それなりに元気になれば
ちぇんよりも体格がいいからちぇんが変なことをしでかしてもなんとかなるだろう。とい
うか捨てるぞと脅しを掛けたから大丈夫だと思うが。
あくる日、仕事を終えて帰って来た時、俺は愕然とした。
めちゃめちゃに荒らされた室内。泥だらけになった居間にめちゃめちゃに壊されている
ガラス窓。床に置いてあったゆっくりフードの袋は中身がばらまかれ、食い荒らした後が
残り。ありとあらゆる小物はすべて散乱し、物によってはばらばら壊されている。
一瞬泥棒にはいられたともおもったが、さすがの泥棒でもここまでは荒らすまいという
情景。しかもある高さ以上の物はほとんどが無事でガラス窓の近くに大量の石とくればも
はや犯人は決まったような物だ。
俺は慌てて居間の隣の部屋に駆け込む。そこにはれいむとちぇんがいたはずだからだ。
酷い物だった。何が起きたのか、壁と言わず床と言わず部屋のあちこちに飛び散ってい
る大量の餡子。床の上にはそれだけではなく少量のカスタードやホワイトチョコなど明ら
かに飼っているゆっくりとは別のものが見える。
居間など生易しいといえるほどに家具はぼろぼろにされ、本棚の本は届く範囲で全て引
き出されてばらばらに破り捨てられている。家具の傷の付き具合から見ておそらく床に落
ちている果物ナイフを使ったのだろう。たしか台所の引き出しなども全て散乱していたか
らそこからもってきたのだろう。椅子が置いてあったからほかのゆっくりを踏み台にすれ
ば届いたはずだ。
「ゆ…っく…り……」
小さなうめき声が聞こえたので慌てて俺はそれが聞こえて来た紙束の山を崩す。
中から出て来たのは頭に大量の蔓を生やしたちぇんだった。実は全て黒ずみ、事切れる
寸前といった様子だ。
俺は急いでれいむのためにと買って来たあったオレンジジュースをちぇんに与える。
「おい! なにがあった! いや喋るな。今治療するからな!」
「きいて…ほしい…よー」
喋るのを止めようとするが、ちぇんは聞こうとせずゆっくりと話しはじめる。
俺はちぇんの負担にならないようゆっくりと話を聞き出す。
「おにー…さんが…でていった…あと……たくさ…ん…ゆっくりが…きたんだ…よー」
話を要約するとこうだ。
俺が出ていった後、まりさをリーダーとしたゆっくりの群れがいきなりやってきて窓ガ
ラスに大量に投石をして、窓を破り中に侵入して来たらしい。その時のれいむが言うには
所属していた幹部まりさがそのリーダーだったそうだ。
だが他のゆっくりには見覚えが無かったらしい。おそらく近辺の同じような性格のゆっ
くり達に声を掛けたのだろう。人間の所に行って食べ物を手に入れる。しかもその時は人
間はでかけていない等とでも言えばついてくるのはたくさんいる。れいむから話を聞く限
りすくなくとも長まりさあたりならその程度の話術はあるはずだ。
恐らくあの二匹はれいむが逃げたのを見て探したのだろう。健康なゆっくりなら半日程
度の距離だし、昨日れいむが家に辿り着いたのは日が昇ってそれなりの時間が経過してい
た。たぶん日が昇れば活動しはじめるゆっくり達に目撃されていたはずだ。しかも這いずっ
て人里へと向かうれいむの姿は普通とは違い記憶に残りやすかったのだろう。
その日の内にれいむが人間の家に入っていったことを二匹は知っただろう。仮にも人間
の縄張りに近い場所で群れの長をやっているならば人間の恐ろしさも知っている。飼いゆっ
くりだったとしれば人間の報復を恐れるのは当然。
ならば証拠を消せば良い。家を荒らしたとしても群れのゆっくりさえ関わっている証拠
がなければ問題は無いのだと。
れいむはちぇんを守りながら戦ったらしい。そして幹部まりさを挑発しながら今俺が予
想したような事を喋らせたそうだ。だが多勢に無勢、二十匹程度の生体の群れにかなうは
ずも無くれいむは体当たりでぼろぼろにされ、その場の全てのゆっくりにすっきりさせら
れ、最後は飾りを残してすべて食べられたそうだ。ちぇんもすっきりさせられたが、襲っ
て来た中にありす種がいなかったためになんとか今まで生き残っていたそうだ。
「れ…いむ……ひどい…こと…いって…ごめん…よー……」
俺を見ることで安心して逆に気力が尽きてしまったのだろう。全てを話し終えた後、涙
を一筋流して口の中で小さく呟いた謝罪の言葉がちぇんの最期の台詞だった。
それからすぐにれいむの飾りが床に落ちているのを見つけた。ぼろぼろになり、千切れ
かけたりぼん。部屋に残る広範囲の餡子の後はどれだけ攻撃を受け、それでもなお完全に
は回復していないその体で戦ったかを物語っている。
冷たくなったちぇんの亡骸を埋め、ぼろぼろになった部屋を片付けると外はもう暗くなっ
ていた。
昨日まで聞こえて来た声が聞こえない。
れいむが最初にでていった時と同じ空虚感が漂う。それでちぇんを購入したのだ。今思
うとちぇんはちぇんでなかなかの賑やかしだったのだと思う。ちょっと生意気な所さえ今
思うと愛おしく感じる。
昨日は二匹になってますます騒がしかった。だがそれももう聞こえない。
俺はゆっくりに愛着など持っていなかった。そのはずだ。だかられいむが出ていくと言
った時も反対はしなかったしそんなものかと送りだしてやった。帰って来た時に入れてや
ったのも気紛れだ。ほんの少し気分が悪ければ追い出したか叩き潰していてもおかしくは
なかったのだ。賑やかしならちぇんがいるしそれさえも別に何種でもよかった。そのはず
だ。
ちぇんの亡骸はちいさな木箱に入れて庭に葬った。体がすっぽり入ると言って勝手にお
気に入りのゆっくりプレイスにした箱だった。れいむのりぼんも同じ箱に入れてある。
そして俺は出かける準備をした。思い付く限りの道具と巨大な篭。
敵討ちなどではない。俺がやりたいからやるだけだ。人間の所有物に手を出した報いを
受けてもらうだけだ。おそらくやつらはそんなことを理解はしないだろう。何をしたとし
ても、ただ自分は悪いことをしなかったのにどうしてと思うだろう。それでいい。俺の飼
いゆっくりも理不尽な理由で死んでいった。それだけの話だ。
たかがゆっくりのためにと嘲る者もいるだろう。だが人間の感情も理不尽なものだとい
うそれだけの話。
────────────────────────────────────────
男が森に消えていく。
男の庭には簡素な墓がひとつ。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~!!」
通りすがりのゆっくりが一匹、墓に供えられた花を食べていた──
おわり。
挿絵 by嘆きあき
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- ゆゆこ!キミに決めた!プシューン!こ ぼ ね ー!
ゆゆこ!吸い込みよー!(cv吉田小百合) -- 2023-03-11 07:25:08
- 続きは? -- 2019-09-20 15:28:15
- ( ̄^ ̄)ゞ -- 2018-08-18 15:02:54
- せめておにいさんの手でちえんとれいむを仕留めて欲しがったな -- 2018-07-07 18:30:05
- ゲスは全部燃やしてしまいましょう
それも死ぬか死なないかのギリギリを見計らって -- 2018-06-08 07:34:38
- 私は、ちぇんが好きなのにゲスを制裁したいですね! -- 2017-11-25 22:14:03
- マリサは、やはりゲス、やなー
-- 2017-02-26 22:14:26
- ちょっくら、梅澤春人さんの世界の人呼んでくるわ。俺らなんかの、100000000000000000倍は、ヤバい方法で殺してくれるはずさ。(前もって、殺すのは、ゲスだけと言っときます
) -- 2016-12-03 00:15:11
- 最初は飼ってくれていた飼い主を捨てて野良マリさと駆け落ちしたれいむのことをゲスと襲った野良ゆ虐待もだしてゆナノだと考えていて生意気な
なれいむをあんよ焼きするのだと思っていたが、自分のした事の重大さを理解した上で自分の
とことをゲスゆだから
出て行かせようとしたちぇんをまもったれいむに感動しました あ -- 2016-05-08 19:52:20
- まりさは、げすしかいねぇ -- 2015-08-17 15:11:19
- くそまりさは今すぐ消えろ
あ. もう殺されてるかWW
-- 2015-03-30 18:19:12
- ヒャハー虐待だー -- 2015-02-24 16:32:42
- きめぇまる!君に決めた!ぷしゅーん!き、め、え、ま、る!
行けー!きめぇまるシェイク! -- 2015-01-15 10:56:14
- イケー、げすにはせいさいを
-- 2014-11-19 01:43:48
- 続きはよ -- 2014-11-16 19:08:12
- すごく感動しました!(T-T) -- 2014-10-19 22:35:35
- ちょっと世紀末のモヒカン呼んでくる -- 2014-07-30 20:30:57
- この立場に俺いたら森のクズ(野良ゆっくり)を潰しに行って
何匹か家に連れ帰って苦しませるな。帰ってきたれいむがゲス
じゃなかった意外設定に地味に感動 -- 2014-03-06 02:06:43
- れいむ… -- 2013-11-16 20:39:35
- ここまでゆっくりに嫌悪感感じたのは初めて -- 2013-09-20 21:09:38
最終更新:2009年10月18日 14:16