ある日の公園で ~the Marisas and men~ 18KB
虐待-普通 悲劇 理不尽 野良ゆ おなじみの名シチュエーションで
◆◆◆
公園の植え込みの影。
そこから現れた一匹のまりさが、
「おにいざんっ! ゆっぐりおねがいじまずっ! ばりざのおぢびじゃんをがっであげでぐだざいっ!」
そう、俺に向かって言った。
「ばりざはどうなっでもいいでずうううう! だがらおぢびじゃんを! おにいざんのがいゆっぐりにじであげでぐだざいっ! おでがいじばぶっ! おでがいじばぶうううううっ!!」
涙と涎を撒き散らしながら、俺の足元でまりさは懇願する。
一目瞭然。野良にしか見えない。
所々ほつれて薄汚れた帽子や、少し黒ずんだ、元は光っていたのかもしれない金髪を見ろ。
俺にこいつの子どもを飼ってくれって? 何をバカな。
「おにいざああああああんっ! おでがいでずがらおぢびじゃんぼおおおおおおお!」
「まあ、落ち着けよ」
とりあえず、俺はまりさをなだめる。放っておいたら同じことばかり繰り返されるだけだ。
「わ、わがりばじだ。ばりざ、ゆっぐりおぢづきばず……」
「おまえの子どもを飼って欲しいって? なんでおまえが世話しないんだよ。かわいいおちびちゃんなんだろ? 人間なんかに任せていいのか?」
わざわざ野良ゆっくりを飼ってくれるような優しくて物好きな人間も、そりゃいるにはいるだろう。
でもな、今の世の中、怖くてゆっくりできない「虐待お兄さん」なんて珍しくもなんともないんだぜ。
「ゆっぐううう……! まりさはだめなおかあさんなので、せいかつりょくがないんでず! おちびちゃんをゆっくりさせるなんて、とてもできません!」
「生活力なあ……。じゃあなんで、子どもなんか作っちゃうんだよ」
どうせ何も考えずに、欲望に任せて「すっきりー!」なんてやらかしたんだろ? まあよくある話だ。
そう思ったが、どうやら事情が違うらしい。
「ばりざは……ばりざばあああああ! しらないありすにむりやりすっきりー! させられちゃったんでずううううううっ!!」
また涙と涎を撒き散らすまりさ。
汚いったらないな……。無意識に、俺の口の端が動いた。
それにしても、ありす――れいぱーの仕業だったか。まあ、それもよくある話だ。そんなのに出くわしてまだ生きてるだけ、儲けなのかもしれない。野良ゆっくりの世界は本当に厳しい。
「れいぱーの子なんて、とっとと見捨てちまえばいいだろうに」
かわいくねえだろ、そんなの。
俺のその言葉を受け、まりさは力強く言った。
「それでも! おちびちゃんはまりさのだいじなおちびちゃんなんです! ゆっくりそだててあげようとおもいました! でも、もう、もう……ゆんやああああああっ!!」
はっきりと――ゆっくり相手に何を大げさな、とは思うが――「母性」を感じた。
へえ、その日暮しの小汚い野良のくせに、なかなか殊勝なヤツじゃないか。
それなら人間の手を借りず、最後まで面倒をみてやれよ――というのは酷か。それほど追い込まれてしまっているのだろう。
「野良のおまえは知らないかもしれないけどさ」
俺は続ける。
「ゆっくりなんて、その辺で気軽に安く買えるんだぜ。しかもそれなりに躾の行き届いたゆっくりがさ。好き好んで野良ゆっくりを飼おうだなんて思うヤツ、そうそういるとは思えないぞ」
それこそ物好きな人間か、虐待お兄さんくらいのものだ。
するとまりさは、
「だいじょうぶです! おちびちゃんは、まりさがゆっくりしっかりしつけました! どこへやってもはずかしくない、ゆっくりしたいいこです!」
と、心なしか得意気に言った。
「はあ? 野良のおまえが躾けたって、そりゃお話にならないだろうよ」
「おちびちゃんは、にんげんさんのいうことをしっかりききます! いいこなんです!」
「いや、だから……」
「まりさがっ! まりさがおちびちゃんだったとき、ぺっとしょっぷにすんでいたんです! そこでならったことをおちびちゃんにもおしえてあげました!」
「おまえが? え、それじゃ、ひょっとしてペットとして飼われていたとか?」
「はい、そうです! まりさはかいゆっくりでした!」
ああ、どうりで言葉づかいがしっかりしているわけだ。まりさ種特有の「だぜ」言葉じゃないし、敬語も使えている。
それにしても――
「おまえの育ちのいいのはわかったからさ。その敬語はやめてくれ。ゆっくりに敬語を使われるのは……その、嫌いなんだ」
「はい、わかりま……わかったよ、おにいさん!」
よし、理解も早そうで助かる。
気を取り直して俺は続ける。
「飼いゆっくりだったってことはあれか。飼い主に飽きられて捨てられた、ってとこか?」
生半可な気持ちでゆっくりを飼う事は不可能だ。それがわからず、気軽な気持ちで購入して、気軽な気持ちで処分してしまうバカな飼い主の何と多いことか。
そんなバカに出会ってしまったゆっくりの末路なんて決まってる。加工所に回収されるか、運よく――悪くか?――生き延びても、野良に成り下がるだけだ。
ご多分に漏れず、このまりさもそうなのだろうか。
しかしまりさは、
「ちがうよ……」
と震えながら言った。
「まりさはおにいさん――かいぬしさんのおうちからにげてきたんだよ……」
「逃げてきた?」
「かいぬしさんは、ぎゃくたいおにいさんだったんだよ」
◇◇◇
また、体に針が突き刺さるのを感じた。
自分の体に、今、何本の針が突き刺さっているのかはわからない。一本、二本までは数えられたが――とにかくたくさんだ。
まりさにわかることは、それによってとてつもない痛みを感じているということだけだ。
冷たく鋭く、ゆっくりできない針を刺すのは、まりさの目の前にいる男。
嫌な笑みを浮かべて、まりさの目をじっと見ている。
また針を刺された。
まりさの体のたくさんの針が、もっとたくさんになった。
痛いよ! 助けて! 苦しい!
まりさはせめて大きな悲鳴を上げたかった。
「ゆぶうううううううううううう!!」
しかしその口からは、くぐもった呻き声しか出なかった。
◆◆◆
「まず、すてきなおぼうしさんをとるんだよ……。それから、まりさのからだに、たくさんのはりさんをぷーすぷーすってさして……」
帽子を奪うのも、針による虐待も、基本と言えば基本だ。
「まりさが『いたいよ!』『やめてね!』ってこえをだすのがすきだっていっていたよ……」
そこは虐待お兄さんだからな。悲鳴を聞くためにやってるところもあるだろう。
「さけびすぎてのどがつぶれちゃって、まりさ、こえがだせなくなるときもあったよ……」
へえ、ノドが――ノド? おまえ、ノドなんかあるのか?
……まあいい。こいつらの体がでたらめなのは仕方ない。考えるだけ無駄だ。
「それにしてもおまえ、そんなヤツの家からよく逃げ出せたな」
「ゆう……。かいぬしさんは、どこかかられいむをつれてきたよ。そのれいむばかりきにするようになって、まりさはほうっておかれることがおおくなったんだよ」
「で、その隙をついて家を出たのか」
「そのとおりだよ」
大方その飼い主は、まりさに飽きてれいむを買ってきたのだろう。で、こいつのガードをおろそかにしたせいで、逃げられちまったわけだ。
虐待対象に逃げられるなんて、ずいぶんと間抜けなヤツもいたもんだぜ。虐待お兄さんとしては下の下じゃないのか?
まあその点は、まりさの不幸中の幸いだ。
「まりさはれいむもたすけてあげたかったんだけど……でも、でもおっ!」
まりさは震え始めた。れいむを助けられなかったことを悔やんでいるのか?
きつく瞑られた目からは涙が流れ、食いしばった口の端からはよだれがたれている。
「まりさひとりがにげるだけでせいいっぱいだったんだよおおおおお!!」
だろうな。でも、そこまで気を回せるだけでも大したものだよ。おまえは立派だ。
で、その後、がんばって野良をやっていたら、れいぱーに孕まされた。
それでもがんばったけど、結局限界がきちゃったわけだ。
「ところで、まりさ」
俺は話題を変えた。
「おまえのおちびちゃんってのは、いったいどこにいるんだ? その植え込みの中か?」
まりさの身の上に気をとられていまったが、発端はこいつのおちびちゃんだった。それを蔑ろにしてはいけない。
「ゆっ! ちがうよ!」
まりさは器用にお下げを持ち上げて、植え込みを示した。
「おちびちゃんはむこうにいるよ!」
おまえの指してるのは俺の言った植え込みだろうに――あ、植え込みの向こうか? まあ、こいつは植え込みより背が低いから仕方ない。
なら、その向こう……ああ、あそこか?
俺たちの横の植え込みの向こう、芝生の中に、別の植え込みがある。
おちびちゃんの姿はここからは見えないが、きっとあのあたりにいるんだろう。
「しかしおまえ、おちびちゃんを一匹で置き去りにしてきちゃ駄目だろ」
「おちびちゃんはゆっくりしたいいこだよ! いまもひとりですーやすーやしているよ!」
確かに、ぎゃあぎゃあと子ゆっくり特有の甲高い声は、ここまで聞こえてこない。それにしたって、さすがに大人しく寝ているとは思えないのだが。
「とにかく、おまえのおちびちゃんを見せてもらおうかな」
「ほんとうっ!? ありがとうございます! じゃなくて、ゆっくりありがとう! おにいさん、ゆっくりありがとうね!」
まりさはその場でぴょんぴょんと跳ねた。
飼ってもらえることが確定したかのような喜びようだ。俺は見せてくれっていっただけなんだけどね……。
「それにしても、おまえはどうするんだ? 飼って欲しいのはおちびちゃんだけで、おまえは野良を続けるのか?」
まりさは飛び跳ねるのをやめ、真顔になる。
「まりさは……まりさひとりだけならなんとかなるよ。さむくてもがまんするし、おいしくないごはんもがんばってむーしゃむーしゃするよ」
「そうか……」
「……ゆっ! そういえば、おにいさん! おにいさんは、ゆっくりしたにんげんさんだよね?」
まりさは不安げな表情で俺を見つめた。
「ゆっくりできないにんげんさんに、おちびちゃんをまかせられないよ!」
こいつは……。
今になってそういうことを聞くか? 一番大事な、最初に確認するべきことだろうによ。
でも、それだけ必死で、なりふり構っていられなかったんだろうな。
「ああ。俺はおまえらに針をプスプス刺したりなんかしないよ」
まりさを安心させるための軽口。ただそれだけのつもりだったのだが、しかしまりさはビクっと体を震わせた。
「ゆわあああああっ! そういうこというの、じょうだんでもやめてねえええええ! まりさすっごくこわいよおおおおおお!」
突然叫ぶまりさ。
なんだこいつ。過去の経験がトラウマにでもなってるのだろうか。
「まりさ、いまでもゆめにみるよ。まりさのからだにささる、たくさんのはりさんを……」
◇◇◇
帽子は男に奪われてしまった。
後で返してくれると言っていたが、本当だろうか。
帽子を失った頭頂部、後頭部、側面、正面。
足にぺにぺに、あにゃるまで、もはやまりさは針まみれになっていた。
身じろぎするだけで痛いし、かといって何もしていなくても痛い。苦しい。
たった一箇所、いや、二箇所だけ針が刺さっていない部分がある。
それは、左右の目だ。
そんなまりさの目は、自分を苦しめている男を映す。
まりさが目をそむけると、男はその視線を追ってきた。
目を閉じたかったがそれもできない。まぶたを貫く針のせいだ。
男の二つの目はまりさの目を執拗に覗き込み、男の口は笑みを浮かべる。
まりさは、今やたった一つだけ自由になるその目から、大粒の涙を流し続けた。
――おそらく、自分はこの場で永遠にゆっくりしてしまうのだろう。
いかに能天気で楽観的なゆっくりとはいえ、この状況ではそう考えずにはいられない。
これからのゆん生、やりたいことなどまだまだたくさんある。
お母さん。
またすーりすーりしてもらいたい。一緒にむーしゃむーしゃして、すーやすーやしたい。
お父さん。
顔は見たことがないけど、きっとゆっくりしたゆっくりだったに違いない。まりさのお父さんなのだから。
いつか親子三人、仲良くゆっくりと暮らしたかった。
そんな願いも、もう叶わないかもしれない。叶わないだろう。
――もっとゆっくりしたかった。
まりさが最後の言葉を思い浮かべようとした時、
「おちびちゃんになにしてるのおおおおおおおおお!?」
絶叫が聞こえた。
まりさの知っている声だ。いつものようにゆっくりしてこそいないが、間違えようもない。
目の前の男が声のした方を見た。
まりさも、最後の力を振り絞って体ごとそちらに向ける。
そして、そこにはいた。
まりさの大好きなお母さんと、その横には見たこともない人間が。
◆◆◆◇◇◇
「おちびちゃんになにしてるのおおおおおおおおお!?」
まりさが絶叫した。
俺たちがやってきたその場所には、まりさ親子の巣であろうダンボールがあった。
しかしその中に、まりさのおちびちゃんの姿はない。
眠っていたはずのおちびちゃんは、巣の外に外に出ていた。いや、出されていた。
誰に? おちびちゃんと一緒にいる、目の前のこの男にだ。
俺もまりさも、おちびちゃんから目が離せなかった。
「ゆむうううううううううううううっ!」
おちびちゃん――全身に針を付きたてられた子まりさが、くぐもった呻き声をあげる。
すごい針の数だ。何本刺さってるんだ?
「おぢびっ! おぢびぢゃんっ! なんでごんなごどになっでるのおおおおおおおおっ!?」
まりさはパニックに陥っているが、この光景を、俺はある程度予測していた。
俺とまりさが話していた場所から、巣の前で屈んでいるであろう男の顔――顔を見ればその趣味はわかる――がちらちらと見えていたからだ。
あの時のまりさの不案内にも、おれが巣の場所を特定できたのはそのためだ。
しかし、まりさにはそれが見えなかった。
俺たちの横にあった植え込みが、まりさの背丈よりも高かったせいで、それに視界を塞がれてしまったわけだ。
だから、まりさはのんびり俺と話していられた。子まりさの見に何か起こっているなどとは、考えもしなかったのだ。
子まりさの側にいる男は、心なしか硬直している。
俺は声をかけた。
「ああ、心配しなくていいぜ。止めるつもりなんかないんだ」
その一言で、男の緊張が和らいだのがわかった。人懐っこい笑顔を俺に向けて、
「なんだ。焦らせないでくれ。万が一、あんたが飼い主だったらどうしようかと思ったよ」
と言った。
「公園でゆっくりを飼うような物好きには見えないだろ? ――それよりそれ、珍しいことしてるな」
俺は男の目から視線を外さず、あごで子まりさをさした。
「そう? 針での虐待なんて、むしろ基本でしょう。確かに本数は多いかもしれないけどね」
「いや、針じゃなくてその口元――ガムテープで塞いでるよな。さらにその上から針が刺さってる。それじゃ、せっかくの悲鳴も聞こえないだろ」
「ああ――いや、俺はゆっくりの悲鳴ってヤツが大嫌いなんだよ。あんなもの、ただうるさいだけだ」
はあ? ずいぶんとまあ、変わった虐待お兄さんだ。
しかし、なるほど。
今この場でも聞こえない悲鳴が、俺とまりさが話し込んだ場に聞こえてくる道理などない。
だからこそ、まりさは間抜けにも、「おちびちゃんは静かに寝ている」と勘ちがいしてしまったのだ。
男はさらに続ける。話好きなのか?
「悲鳴なんかより、俺は瞳が好きだね。絶望に見開かれる、あるいは苦痛に歪められる瞳。際限なく涙を放出し続ける瞳――たまらないよ」
「へえへえ、そんなもんかね」
「もっとも」
人懐っこい笑顔を、少しだけ意地の悪いものに変えて、
「あんたみたいフツーの虐待お兄さんは、ゆっくりの悲鳴を聞くのが大好きなんだろうけどね」
と男は言った。「フツー」のあたりに力が入っていたのは、俺の気のせいだろうか。
「はん。なんで俺が虐待お兄さんだと思うんだ?」
「おとぼけだね。同類はわかるんだよ――あんただってそうだろ?」
けっ。
その質問には答えず、俺は足元のまりさを見た。
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ」
ハリネズミのようなにされた子まりさに、トラウマを刺激されたらしい。まりさは小刻みに痙攣しているだけだ。
俺はもう一度子まりさに目をやる。
帽子は被っていない。すでに破いてしまったのだろうか。
頭といわず足といわず、子まりさの小さな体に無数の針がびっしりと刺さっている。ただし、目だけは避けるようにして。
唯一自由になる場所だからだろうか。その目は苦しさを表現するようにぎょろぎょろと動き、絶えず涙を流している。
「どう? かわいいだろ?」
男が尋ねる。
かわいい、だと? その気持ち悪く蠢く目が?
偏執的とでも言おうか――見上げた趣味だ。参ったね。
俺はやはり男の質問には答えず、
「で、どうすんだ、こいつ。もう死にかけに見えるぜ」
と言った。
「そうだね。もう潰すつもりだよ」
「じゃあ、断末魔の悲鳴を聞かせてやってくれよ――いや、俺にじゃないぜ。お母さんにさ」
俺の言葉に、男は笑みがさらに意地の悪いものになった。
つられて俺も口元を緩める。
「お母さんに、ねえ――まあ、いいでしょ。ちょっと待って」
男はそう言うと、子まりさの口の周りの針を抜き、口を塞いでいるガムテープをはがした。
「ゆがあああああああああ!! おぎゃあぎゃあああああああん!! ぢゃぢゅげゆんだげええええええ!!」
やっと自由になった口を開き、堰を切ったように叫ぶ子まりさ。
まともな言葉になっていないのは――驚いたな。舌にまで針が刺さっているぜ。
男はその針も抜いた。
「おぎゃあぢゃああああああん!! いぢゃいんだじぇええええええ!! まりじゃをだずげるんだじぇええええええ!!」
ん? なんだよ、「だぜ」口調の子まりさだったのか?
まりさは「躾けが行き届いている」なんて言っていたけど、どうやらあてにならないな。
「はやぐはりじゃんををぬいで、まりじゃをゆっぐりざぜでね! ゆっぐりざぜるんだぜえええええええっ!!」
その大きな泣き声を聞いて、男が顔をしかめるのがわかった。
よほどゆっくりの悲鳴が嫌いなんだな……。
逆に、俺の顔の筋肉は緩む一方だ。
「いぢゃいんだじぇえええええええ!! おきゃあしゃん!! ぺーろぺーろしてほしいのぜえええええええ!!」
「ゆゆゆううううううっ! まっででねおぢびじゃんっ! おがあざんがぺーろぺーろじであげるがらねっ!! ゆっぐりまっででね!!」
子まりさに負けないくらい大きな声で、まりさが言った。
おお。大事な子まりさの叫びが、トラウマを忘れさせたのか。子まりさの方へぴょんと跳ねた。
それを見た男は、
「いい加減、うるさいよ」
と子まりさを踏み潰した。うお、容赦ないな。
「おぢびちゃん、ゆっぐりおまだぜ! さあ、ぺーろぺーろして――」
子まりさの前に着地し、子まりさに言ったつもりなのだろう。
しかし残念、それは男の右足だ。もっとも、その下には子まりさがいるわけだから、あながち間違いでもないんだけど。
「ゆわああああああああああっ!! ばりざのおぢびじゃんがあああああああああっ!!」
男の足の下からはみ出す金色の髪と肌色の皮膚だったもの、そして餡子を見て、まりさが絶叫した。
「どぼぢでごんなごどずるのおおおおおおおおっ!? がえじでっ!! まりざのかばいいおぢびぢゃんをがえじでねええええっ!!」
あ、そんなに大声出したりしたら――
「おまえもうるさい」
「ゆげえっ!!」
ほら見ろ。
案の定、男の癇に障ったようだ。まりさは横っ面を蹴られ、巣であるダンボールに飛び込んだ。
「おお、ナイッシュー」
ついこぼれた俺の独り言に、男は微笑んだ。
「じゃあ、俺は帰るよ」
男はそう言うと、潰れた子まりさ、そしてそれに刺さりっぱなしの折れて曲がった針を、ティッシュで包んだ。
「どうすんだ、そんなもん」
持って帰って、さらに針でも突き刺して遊ぶのか? そこまでのこだわりか?
俺のその疑問に、男は静かに答える。
「ルールを守って楽しく虐待――ゴミはゴミ箱に捨てないと。常識だよ。ほら、素敵なお帽子もここに」
男はズボンのポケットを叩いてみせた。
「後で返すって約束したんだ。同じところに捨ててあげないとね」
「はっ。律儀なもんだ」
「常識だよ常識」
「ところで、あんた」
俺は気になっていることを聞いてみる。
「その針、一回一回、使い捨てか?」
「そうだけど。それが?」
はあ、それはもったいないことで。
男は「じゃあ」と言うと、俺に背中を向け、右手をひらひらさせながら帰っていった。
変わってるけど、悪い人間でもなさそうだ――多分。
「……まっでええええ! おぢびぢゃんをがえじでえええええ!!」
お。まりさがダンボールから這い出してきた。
苦労してきただけあって、なかなかにタフなようだ。
でもおまえ、おちびちゃんを残したまま巣から出たのはマズかったな。
いくらしんぐるまざーで、なりふり構っていられなかったとしても、それはお前の失敗。この結果も自業自得だ。
「おぢびじゃんをがえじでえええええ!! がえじでぐだざいいいいいいい!!」
地べたに這いつくばって、男の去った方に叫んでいる。
すでに思うように体を動かせないのだろうか。まりさは前に進もうとせず、ただお尻をプリンプリンさせているだけだ。
「おぢびぢゃんは、ゆっぐりじだにんげんざんにもらっでほじいんでず!! ぞじでばりざのぶんまで、ゆっぐりじだゆんせいをおぐっでもらいだいんでず!!」
満足に食うこともできず体力も落ちているところに、あのキックだ。動けなくても無理はないだろうな。
俺はそんなまりさを、力いっぱい蹴飛ばした。
「ゆぶうううううっ!!」
再びダンボールに飛び込むまりさ。おお、我ながらナイッシュー。
さらに、ダンボールを踏みつける。
「ゆべっ! ゆべっ! ゆべっ!」
俺は二度三度と踏みつけ、そして足を止めた。
横から中のまりさを伺う。
「いぢゃいいい……。いぢゃいよおおお……」
潰れてこそいないが、すでに元の「まん丸」とは言えない体型になっている。
破れた表皮から、口から、そこら中から餡子が飛び出しているのが見えた。もう長くねえな、こいつも。
「やべでえ……。おにいざん、おでがいでずがらやべでぐだざいいい……。ばりざとおぢびぢゃんを、だずげでぐだざいいいい……」
その声を聞いて、俺は踏みつけるのを再開した。
ゆっくりに敬語を使われるのが嫌いだって、さっき言ったよな? 俺言ったよな?
「やべっ! やべでぐだざいっ! ばりざど、おぢびじゃんをっ……!」
まだわかんないのか? なんなんだこいつ!
俺はより力を込めて、ダンボール越しのまりさを踏みつけた。
「ゆびゅうっ!!」
まりさが何かを噴き出すような声をあげたと同時に、俺はダンボールを、まりさを完全に潰しきった。
不恰好に平らになったダンボールからは、大量の餡子が漏れ出している。
ふう、すっきり。
満足して、その場を後にしようとした俺の頭に、さっきの男の声が甦った。
――ルールを守って楽しく虐待。
俺はダンボールを持ち上げる。平べったいくせに、やたらと重い。
「ルールを守って楽しく虐待、っと。へいへい」
餡子まみれのダンボールを手に、俺はその場を離れた。
(了)
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- 「公の場で」「おおっぴらにすべきで無い趣味を」堂々と楽しんでるのに「ルールを守って」とかw
ゆ虐自体は大好きだし、やり口もいいんだけど、こういう頭の悪いことを恥ずかしげもなく抜かすヤツはどうなのよ -- 2013-06-24 17:49:30
- 確かに叫び声を聞くのは不愉快だろうな 悪くはないけどかなり五月蝿いから愉快<不愉快だろうし
その点瞳を見るのは良いだろうなあ
よく虐待で早々に目潰しするのがありゃまったくわかってねえ -- 2011-08-17 02:45:31
- これめっちゃおもしれえ!善良理不尽虐待はゆっくりできるね!
またお兄さん達が小粋で小気味が良いじゃないの!
ゆっくりにとっては理不尽な暴虐の限りをつくす鬼威山であっても
人間社会の中にあってはルールとマナーを遵守する紳士
鬼威山たる者、こうありたいものですよね
だからこそ主人公のお兄さんは
管理の怠慢でまりさを逃がしてしまった飼い主鬼威山を下の下と断じたんでしょうね -- 2011-07-08 07:06:07
- ゆっくりに徹底した理不尽な虐待を与えるのはゆっくり出来るね! -- 2011-07-07 10:40:50
- ダンボールごとゆっくりをつぶすって言う描写はいいよね!
とってもゆっくりできたよ!!! -- 2011-06-09 19:20:23
- ↓このSSは注意書き読んだ上で読んでても不愉快になる人がいるタイプのSSだと思う。
そして無駄に人を中傷する内容の入ったコメントはゆっくりできないからやめてくれ。 -- 2011-01-21 22:44:11
- 自分が何言ってるかも碌に解ってない欠陥だらけの良識をお持ちの
制裁厨はコメント書く前に一番上の注意書き呼んで読まない努力をしろ -- 2010-11-20 14:11:19
- 虐待お兄さん同士の対面か。
人との触れ合いが少ない現代ではこんな感じなのかねぇ…
意気投合して虐待するお兄さんズって、人懐っこかったんだ、新視点開けたよw -- 2010-10-30 16:53:02
- ↓実は違うよ -- 2010-09-08 19:06:37
- え?ここいじめSSWikiだよね? -- 2010-08-23 21:29:06
- 虐待お兄さんの生態を描いたものとして読むと面白いですよ -- 2010-07-31 21:08:03
- 虐厨はヤク中みたいなもん。理屈や理性なんて働かないよ。銃夢のモブキャラみたいなやつら。 -- 2010-07-28 10:23:00
- 虐待お兄さんってカッコワルイひとが多いな。 -- 2010-07-03 19:15:01
- んー、つまんね。 -- 2010-06-12 12:28:58
- 虐待はともかく、この男がなぁ?
飼い主がいるかもしれない(と少なくとも男が思っている)ゆっくりを虐待するってどうだよ
単にゲス人間じゃん -- 2010-03-26 12:27:02
最終更新:2010年01月23日 05:15