「ここはれいむのゆっくりプレイスだよっ!人間さんはゆっくりでていってねっ!」
「・・・・・はい?」
少女が自宅に帰ると、室内の様相は一変していた。
倒れたテーブルにソファー、戸棚に入っていた菓子類が無残に床に散乱している。
菓子だけでは無い、床にはそれに混じって点々と泥の跡が室内を蹂躙していた。
その跡を辿った先には、リビングの中央で頬を寄せ合いながら屈託の無い笑みを浮かべるまりさと野良のれいむの姿があった。
「ゆゆっ!れいむ、ここはれいむのゆっくりプレイスじゃないよっ!ゆっくり理解してねっ!」
「ゆっ?なに言ってるの?誰も居なかったんだからここはれいむのものだよっ!」
無言で僅かに開いている窓を開けたり締めたりを繰り返す少女。
鍵をかけたつもりだったが、窓が僅かに開いていて、きちんとロックがされて居なかった様だ。
この窓から野良れいむがまりさの気配につられて、室内に入り込んでしまったのだろう。
「まりさっ!すりすりしようねっ!」
「ゆゆっ!わかったよっ!すーり!すーり!」
楽しそうに体を擦りあう2匹を見ていると、少女はとても怒る気にはなれなかった。
それに、兄がまりさとその番のありすへ行った事も少女には後ろめたさとしてあった。
そんな複雑な面持ちの少女の方へ、まりさが時折チラチラと視線を送ってくる。
どうやられいむは勝手に家に入ってきてしまった様で、困っているのはまりさも同じの様だ。
「ふたりともご飯の前にお風呂に入ろうね」
「「ゆっくり理解したよっ!!」」
今日でまりさはこの家を去るのだ。
ここで少しばかり説教してもお互い何の得にもならないだろう。
まりさは人目の付かない森の「ゆっくりぷれいす」でこれからを過ごすのだし、
人間の自分勝手なルールを無理矢理押し付けて、まりさを注意するのもどうかと思った。
これ以上人間に対する恐怖を駆り立てるのも良くないと言う事もあるだろう。なので少女はまりさを叱る事はしなかった。
◆
「ゆゆっ!ぱしたさんっ!」
「ゆっくり食べるよっ!うめっ!これめっちゃうめぇ!マジぱねぇっ!」
少女は泥で汚れた2匹を洗面所で洗った後に、スパゲッティを振舞った。
ちるちるとパスタをすするまりさと、犬食いで貪欲に食べると言うよりも、むしろ体内に取り込むと言った方がしっくりくるれいむ。
美味しそうに食事をするまりさを見るのも今日で最後である。
色々と大変な事も多かったが、居なくなるのはそれはそれで寂しいものである。
また、孤独なひとりでの生活が始まることを思い出した少女は小さくため息をついた。
「まりさ、お引越しした群れが見つかったよ」
ひとり物思いにふけっていた少女だったが、ポン!と手を叩くとまりさにこう話を切り出した。
その音に驚いたまりさはちるちるとすすっていたパスタをポタリと皿に落とした。
「ゆゆっ!?・・・ま、まりさの群れはまだ無事だったの!?」
「ちょっと大変な事になっていたけど、もう大丈夫」
「そ、そうだったの・・・?ゆ、ゆっくりホッとしたよ」
「ありすも無事だったんだよ、まりさにお嫁さんが居たなんて知らなかったよ」
まりさは「ありす」という単語を聞いて、再びすすりだしていたパスタをブーッ!と吐き出した。
そのパスタの直撃を食らったれいむが、テーブルから「ビターン」と転げ落ちた。
突如舞い降りた災難に、れいむが歯茎をむき出しにしながら「ゆ゛っ!」とその見た目からは想像できない野太い悲鳴を上げた。
そんなれいむを気にもかけずに、まりさはオロオロと落ち着きのない様子で少女に語りかける。
「あ、ありすはもうとっくに永遠にゆっくりしたと思ってたよ・・・っ!無事なんて思わなかったよっ!」
「まりさがお兄・・・「恐ろしい人間」を引き付けてくれたお陰で無事に巣まで逃げられたんでしょ?」
「ゆっ!・・・そ、そうだよっ!まりさはゆっくりとありすを逃がしたよっ!ありすの事も最初におねえさんに伝えれば良かったねっ!」
何やら落ち着きの無い様子のまりさを見て、少女が小首をかしげた。
兄は何度かぱちゅりーが率いるゆっくりプレイスにまりさの入った水槽を、見せしめとして持ち込んでいた筈である。
まりさはありすが酷い目にあいながらもまだ生きていると言う事を知っていなければおかしいのだが・・・?
ふと、そんな事を考えた少女だったが、そんな疑問はすぐに忘却の彼方へと吹き飛んだ。
俯いてもそもそとパスタを口に運んでいたまりさが、クルリと少女の方へ視線を移すと、ポツリとこう漏らしたからだ。
「や、やっぱり・・・まりさは群れには帰れないよ・・・・」
「えっ?どうして・・・?やっと見つけたのに」
思いがけないまりさの言葉に、少女が目を丸くして驚いた表情を浮かべてまりさを見つめる。
そんな少女の視線を避けるように、モジモジと体を揺さぶりながらボソボソとまりさが話を続けた。
「まりさにはとってもゆっくりできる素敵なお帽子があったんだけど、悪い人間に取り上げられてなくなっちゃったんだよ」
「オボウシ?帽子がどうかしたの?」
「お帽子が無いと、まりさは群れには帰れないよ・・・」
そういえば聞いた事がある。
ゆっくりが体に見につけている飾りは命と同じくらい大事なもので、
それを失った場合、他のゆっくりに迫害されたり、場合によっては外敵と見なされて命を奪われてしまうこともあるのだそうだ。
兄も道端で見かけたゆっくりの飾りを奪って踏み潰したり、汚したりしてゆっくりにちょっかいを出していた事があった。
そんな少女とまりさの会話にいつの間にかテーブルへと舞い戻っていた野良のれいむが口を挟む。
「ゆっ!そういえばまりさはお飾りが無いねっ!野良のゆっくりにはきっといじめられるよっ!」
「えっ?れいむは野良じゃないの?」
「ゆふんっ!れいむは飼いゆっくりだよっ!バカにしないでねっ!」
野良だと思っていたれいむは、実はれっきとした飼いゆっくりだった。
しかし、ある日れいむは、鬱蒼と草が生い茂る空き地で目を覚ました。
そこに飼い主の姿は無く、どういう訳かれいむは飼い主とはぐれてしまったのだった。
その為、ここ数週間は野良の様な生活をしているが、れいむは野良では無い。れっきとした飼いゆっくりなのだ。きんばっちさんなのだ。
「それは捨てられたのではないのですか?」と、言いかけた少女だったが、ニコリと乾いた笑みを浮かべると口をつぐんだ。
◆
「はぁ・・・」
兄の部屋に足を踏み入れた少女は、小さくため息をつくと、整然と並ぶ家具を見回した。
余り気は進まないが、まりさの帽子がまだ残っているのならば、探し場所はここ以外に無いだろう。
少女は押入れの中をかき回してみたり、棚に積み重ねてある小箱の中を一つ一つ覗いてみたりと、入念に部屋を散策する。
しかし、几帳面に整理された兄の部屋にはあまり探し場所が無く、帽子の捜索はすぐに行き詰ってしまった。
途方に暮れた少女はふと、机に飾ってあったフォトフレームを手に取る。
そこには、お腹の大きな母とその側に立って朗らかな笑みを浮かべる兄。
その幸せそうな笑顔からは、ゆっくりにここまで酷い事をするような人間にはとても見えない。
いや、実際に兄は優しかった。ゆっくり以外の全ての物に兄は優しかったのである。
しかし、そんな事を思い返した所で、今現在、兄の尻拭いをさせられているという現状は覆らない。
少女は写真をひっくり返して少々乱暴に机へと置いた。
その時だった。
フォトフレームの裏側にテープで止められている「それ」を見つけて少女は小さく声を上げた。
それは小さな鉄製の鍵だった。
少女はこの鍵が何処の鍵なのかを知っていた。
兄の机の一番下の引き出し。そこには兄がまだ生きていた頃から鍵がかかっていた。
こういう事はできればやりたく無い。
逆の立場だったら、絶対にされたくなかった。
墓荒らしにも近いその行為を実行する事に、少女は暫く躊躇っていたが、フルフルと首を振って決心する。
この引き出しを開けて、そこにまりさの帽子が無かったら、その時はまりさをこの家で飼おう。
れいむはちょっとわからないが・・・。
全ては兄が悪いのだ。まりさにあんな酷い真似をしなければ、
鍵をかけてまで見られまいとしたこの引き出しの中を確認される事も無かったのだ。そう、全ては兄の自業自得なのだ。
少女は自分にそう言い聞かせながら、フォトフレームから引き剥がした鍵を、引き出しの鍵穴にそっと差し込む。
鍵は何の抵抗も無く、スルリと鍵穴の奥まで突き刺さる。
静かにそれを回すと「カチリ」と辺りに小気味良い音が鳴り響いて、引き出しは呆気なく開いた。
「・・・あった」
引き出しの中にまりさの帽子と思わしき、とんがり帽子はあった。
中に入っていたものは、まりさの帽子の他に2冊の本。
まりさの帽子を脇に抱えながら、2冊のうちのひとつを手にとってパラパラと捲った少女が小さく呻いた。
それは、ゆっくりの生態を記したものだった。
どんな言葉を投げかければ、ゆっくりが精神的な苦痛を感じるのか?
どの部分を痛みつければ、効果的にゆっくりに肉体的な苦痛を与えられるのか?
人間用の薬品をゆっくりに使用した場合に、どういった効果が見られるか?
仲の良いゆっくり同士が互いが殺しあう程にまで相手を憎ませるのにもっとも効果的な手段とはなにか?
そういったゆっくりの虐待に関する事柄が事細かに、
兄が自分で書いたと思われるメモやイラスト、更にネットからプリントアウトされたものまで几帳面にファイルされていた。
「なんなの・・・これは・・・?」
恐ろしい。この人は一体何を考えているのだろう?
少女にはもはや兄という人間が分からなくなりつつあった。優しかった兄の人間像が音を立てて崩れていくのを感じる。
帽子の発見という当初の目的を果たしたので、すぐにでもこの恐ろしい引き出しを閉じようと思った少女だったが、
そんな気持ちとは裏腹にもう一つの冊子にも手を伸ばしていた。
もう一つの冊子。それは兄の日記帳だった。
これを読むのはかなり気が引ける。拒む事ができない故人に対してこの様な行いはするべきでは無い。
そんな事はわかっているのだが、これを読むことによって地にまで落ちてしまった兄への信頼を少しでも元に戻したいという気持ちが勝った。
暫し迷って、この場に立ち尽くしていた少女だったが、静かに一度頷くと兄の日記帳をめくった。
その日記は両親が離婚して、兄と母が二人で暮らし始めた辺りからはじまっていた。
そこには、優しい兄の姿があった。
兄は少女に父の話をする事が全く無かった。つまり父はそういう人間なのだろうと、物心がついた頃には少女は理解していた。
そんな事もあってか、両親が離婚したというのにも関わらず、日記の兄の文章からは全く負の要素を感じさせない。
妊娠している母を気遣い、貧しいながらも明るく楽しく過ぎていく日常が日記には書かれていた。
しかし、少女は違和感を覚える。
日記には一切ゆっくりに対する記述が無いのだ。
この日記は何処かに提出するわけでない。あくまでプライベートなものである。
あそこまで露骨にゆっくりに対する嫌悪感をあらわにしていた兄の日記に、ゆっくりの事が全く書かれていないのはおかしい。
そして、少女の違和感は完全なものになる。
それは少女が産まれる数週間前の出来事を書いた文章である。
○月×日、母さんと一緒に買い物へ行って戻ってくると、ゆっくりが窓を割って家に入り込んでいた。
さも自分の家の様に寝息を立てている2匹をすぐに叩き起こすと、外へつまみ出そうとした。
しかし、母さんは「夜も更けてきたので、外に出すのは明日にしてあげよう」と言った。
他の家じゃ、勝手に家に入り込んだゆっくりは殺す所だってあるのに暢気な事だ。
仕方が無いので座布団の上に置いて毛布をかけてやった。よくみたらかわいい顔してるな。
「おかしいよ・・・・これ」
兄は窓を割って、家に勝手に入り込んできたゆっくりを母の提案とはいえ許していたのだ。
私にとってそれは信じがたいものだった。
兄の前を通り過ぎただけのゆっくりですら、後を追いかけて殺すような人間だったというのに。
しかも、そのゆっくり達の事がその後も度々日記に記されている。
餌をあげたり、お風呂にいれてあげたり、半分飼っている様なものだった。
私はこんな事があったなんて兄から聞かされていない。昔この家でゆっくりを飼っていた時期があったなんて・・・
怪訝な表情を浮かべながら、少女がページをめくると、次のページに挟んであった紙片がハラリと床へ落ちた。
「これは・・・写真・・・?」
写真には、にこにこと幸せそうな微笑みを浮かべている母と兄。
そしてその傍らには、頬を膨らませて飛び跳ねる2匹のゆっくりの姿があった。
この2匹が度々日記に記されていた窓を割って家に侵入したゆっくりなのだろう。
その頃、兄はまだゆっくりに対して殺意にも近い嫌悪感を感じていなかったという事だ。
つまり、私の知る兄の不可解な行動は生まれつきのものでは無いという事だったのだろうか?
これより後に、兄の考えを変えるほどの大きな出来事があったのかも知れない。
しかし、そんな事よりも、生前の母の事を良く知らない少女にとって、兄の日記は新鮮なものだった。
母がお腹に居る少女を気遣っている記述を見つけて少女の頬が思わず綻ぶ。
だがしかし、この幸せは長く続かない事を少女は知っている。
母は少女を産んだ半年後に事故で他界するのだ。
その事を思い出した少女の表情はどんどん曇っていった。
日記の中の幸せそうな家族の記述を読めば読むほど、今の自分とのギャップに少女の気持ちは徐々に沈んでくる。
少女は自分が生まれた日の日記を最後にして、これ以上は兄の日記を読み進める事をやめようと思った。
しかし、少女の誕生日。日記には一行だけこう綴られていた。
母さんが亡くなった
「どうして!?」
少女は思わず大きな声で叫んだ。
母は少女が生まれて半年後に事故死した筈である。
それが、少女が産まれたその日に死んだと書いてあるのだ。こんな事はありえない。
少女は額に汗を滲ませながら、日記のページを捲る。
しかし、次の日もその次の日も日記には何も書かれていなかった。
先程の誓いを破って荒々しく白紙のページを捲り続ける少女。
そして、少女の誕生日から4日後、まるで別人が書いたような荒んだ字で日記には一行だけこう書き殴られていた。
やっとまりさが起きた。すぐにありすの居る場所を喋った
「なにしてるの?」
「!!」
そこには、兄の部屋の入り口から体を半分だけ除かせて少女を見つめるまりさの姿があった。
突如背中に響いた声に、少女は驚いて手に持っていた日記を床に落としてしまっていた。
日記と一緒に床に落ちて転がるまりさの帽子。
それを見たまりさが、血相を変えてこちらに向かって飛び跳ねて来る。
「ゆゆっ!まりさのお帽子!ゆっくりできるまりさの素敵なお帽子っ!」
帽子に向かって目を血走らせて床を蹴るまりさの形相に違和感を覚えながらも、
少女はまりさに向かって取り繕った笑顔を浮かべながら語りかける。
「まりさの帽子を探してたんだよ、それまりさのでしょ?」
「そうだったんだねっ!ゆっくりありがとうっ!おねえさんっ!」
「うん、これで巣に帰れるね」
「・・・・・・・・」
少女のその言葉を耳にした途端にまりさの顔色が曇った。
大切な帽子がまりさの元へと帰ってきたというのにまりさの顔色は優れない。
これで何の心配も無く、元居た巣へと帰れるというのにも関わらず、嬉しそうな素振りも見せずにその場に立ち尽くしている。
そして、少女の問いかけに答えること無く、まりさはポツリとこう言った。
「ここはゆっくりできないよ、すぐに「そふぁー」さんの所へいこうね」
まりさはぽいんぽいんと床を跳ねながら、れいむの居るリビングへと戻っていった。
◆
その日の夜。
少女はベッドの上で横になりながら、机に置いた兄の残した2冊の本をぼんやりと眺めていた。
何故、兄の日記は私の生まれた日から突然ピタリと止まったのだろう。
(やっとまりさが起きた。すぐにありすの居る場所を喋った)
何故、母が亡くなってしまったというのに、兄は家で飼っていた2匹のゆっくりの事なんか書いたのだろうか?
そもそも、母は私が生まれてから半年後に事故で亡くなった筈なのに・・・
まりさとありす・・・この2匹はもしかして・・・
少女の考えはまとまらない。
いや、まとまる。まとまってしまう。
しかしそれは・・・
ギッ
突如響いた音に、少女はびくりと体を奮わせた。
体を動かさずに、視線だけを音の聞こえた方へと向けると、少女の部屋の入り口の戸が少しずつ開いていく。
「ゆっ・・・ゆっ・・・ゆっくりあけるよ、とびらさんゆっくりひらいてね・・・・」
ぼそぼそと呟くまりさの姿がそこにあった。
まりさが少女の部屋に入り込もうとしているのだ。
先程、リビングでれいむと身を寄せ合って寝息を立てていたので、今日はここへは来ないと思ったのだが・・・
「そろーり・・・そろーり・・・」
口でそういいながら、ゆっくりと部屋の中をそろりそろりと進むまりさは、少女のベッドにもぞもぞと入りこんだ。
明日でお別れなのだから、まりさも寂しいのだろうか?そう考えると少女は少し嬉しくなった。
「すーり・・・すーり・・・」
しかし、まりさの様子がおかしい。
何時までも眠りにつく事無く、少女の服の中に潜り込んでお腹の上でもぞもぞと体を動かしている。
何時まで経っても体を落ち着かせることなく、少女の腹部に延々と体をこすり付けているのだ。
「すっ・・・!すっ・・・!すっ・・・!」
布団の中からまりさの荒い息遣いが聞こえてくる。
まりさの体からは粘り気をもった液体が分泌されて、少女の腹部と擦れ会ってネチャネチャと淫猥な音を立てている。
次第にまりさの体の動きが早くなる。その荒々しい動きにベッドがぎしぎしと軋んだ音を立て始めた。
「すっ!すすすすすっきりぃぃぃ!!」
ビクビクッ!と布団の中のまりさが大声をあげて痙攣する。
それと同時にまりさの動きがピタリと止まった。
火がついたように熱かったまりさの体が、急激に体温を失って冷たくなっていく。
ひんやりとした物体の「ゆふぅゆふぅ」という息遣いが腹部を通して少女に伝わった。
「ゆっ・・・・ゆっ・・・・」
暫くしてまりさがモゾモゾと布団から這い出てきた。
少女は起きている事に気がつかれない様にそっと目を閉じた。
目を閉じていても、まりさからの突き刺すような視線を感じる。
ジッと少女を見つめていたまりさは眉間にシワを寄せてギリッ!と歯を鳴らす。
「ゆぅ・・・!どぼじで茎さんが生えないの・・・!」
茎・・・?何の事だろう?
少女にはまりさの言っている言葉の意味が理解できなかった。
更にまりさは苛立たしそうに声を漏らす。
「このままじゃ巣に連れて行かれるよ・・・!いまさらあんな所になんか戻りたくないよ・・・!」
そう呟くと、まりさは再びモゾモゾと布団の中へと潜っていった。
まりさはにゅるにゅると体を変形させながら少女の服の中を這い回り続けている。
まりさは一体さっきから何をしているのだろうか?
まりさの奇行を目の当たりにして少女の思考はまとまらなかった。
しかし、布団の中で呟いたまりさの一言で、まりさが一体何をしようとしているのかをようやく理解する事ができた。
「ゆっくり「まむまむ」を探すよ・・・!「まむまむ」ですっきりすれば、きっとおちびちゃんができるよっ・・・!」
パァン!!
まりさの言葉を聞いた次の瞬間、少女は咄嗟に布団を跳ね上げて起き上がると、両手でまりさを掴み上げて床へと思い切り叩きつけた。
少女の手によってフローリングの床に全身を強打したまりさは、突然自分の体に駆け巡った激痛に舌を出しながらのたうち回った。
「ひぎっ!い゛っ!い゛だい゛っ!いだい゛よ゛ぉぉぉぉぉ!!」
顔面を醜く歪ませて、涙を撒き散らしながら床を転がるまりさ。
「どぼじでごんなごどず・・・・!!」
「ガバリ」と起き上がったまりさは少女に向かって悲痛な叫び声をあげたが、その声はすぐにピタリと止まる。
少女の顔を直視したまりさは、暫くカッ!と目を見開いて形相を浮かべていたが、
次の瞬間、無言で踵を返して部屋の外へと逃げる様に跳ねていった。
少女は洗面所へ駆け込んで手早く体を洗うと、兄が残した二冊の本を鞄へと放り込んで外へと駆け出した。
まりさは群れに帰りたくなかったのだ。
だから毎日何かと理由をつけて帰ろうとしなかった。
だから番のありすの事も教えてくれなかったのだ。
それ所か、毎晩ベッドに潜り込んであんな事をしていたのだ。
そうなれば、家から追い出されないと思ったのだろうか?
理由はどうあれ、暫くまりさの顔は見たく無かった。
それよりも、私は自分の生まれた産婦人科病院へと急いだ。
私の推測が正しければ、母の命日が半年もずれている事、そして何故兄はゆっくりが死ぬ程嫌いなのかもわかるだろう。
つい先程までまとまらなかった断片的な情報の数々は、少女の中のまりさ像が180度変わった事によって、
最後のピースが揃ったパズルの様に、一気に真実と言う完成に近づきつつあった。
もし、私の推測が当たってしまっていた場合は・・・・そう、その場合は・・・・
白々と薄明るくなってきた空を見上げて少女は思った。
歩いていけば、到着する頃には丁度いい時間になっているだろう。
◆
少女は自分が産まれた産婦人科病院の待合室に居た。
そこへ1人の年老いた医師が現れると、少女を今は使われていない古びた病室へと案内した。
個室の中にはカーテンが設置して無かったので、朝日が目を開けていられない程にむき出しのガラス窓へと差し込んで来る。
「ご家族が貴方のお母さんの命日を偽っていたという事は、その事で貴方が傷つかない為だったに違いありません」
すぐに本題を切り出してきた医師の言葉に、少女は息を呑んで無意識に全身が強張った。
朝日を背にした医師は、ぼんやりと薄暗いシルエットが見えるだけで、その表情を垣間見る事はできない。
「でも、貴方も大きくなられた。聞けばお兄さんも最近亡くなられたとか」
「・・・はい」
「わたしの一存で、この様な重大な事を知らせていいものかと迷いましたが・・・・」
「・・・大丈夫です。教えてください」
暫く押し黙って、しきりに自分の顎をさすっていた医師だったが、一度大きく咳をすると会話を続けた。
医師の口から告げられた母の本当の死因は、やはり兄から聞かされていた事故死では無かった。
母の本当の死因。それは、自宅の「階段から転落」した事による早産の手術中の「出血死」だった。
「貴方のお母さんの強い希望で、母体の安全よりも貴方を産む事を優先した為に救う事ができなかったのです」
「そうですか・・・・」
深々と頭を下げた医師に対して自らも深く頭をさげる少女。
そして、産婦人科から出て来た少女の目は、まるで川底の汚泥の様に濁っていた。
(ゆっ?ゆゆっ!?やめてねっ!”しゃわーさん”はゆっくりできないよっ!ゆっくりやめてねっ!)
(ごべんなざいっ!もうゆるじでぐだざいっ!までぃざはばんぜいじばじだぁぁぁ!)
(怖い人間さんがまりさのゆっくりプレイスを無茶苦茶にしたんだよ)
(すーや!・・・・すーや!)
(お母さんの仲間が沢山殺されたんだよっ!それに比べたら大したことないよっ!)
(すーや!・・・・すーや!)
(あでぃずは・・・あでぃずはばんぜいじばじだ・・・ごべんなざい・・・ごべんなざい・・・)
(ゆゆっ!?・・・ま、まりさの群れは”まだ”無事だったの!?)
(まりさは恐ろしい人間さんに「ゆうかん」に立ち向かって一度はやっつけたのよ)
(ゆっ?なに言ってるの?誰も居なかったんだからここはれいむのものだよっ!)
(すっ!すすすすすっきりぃぃぃ!!)
ゆっくり達の言葉が少女の脳内を駆け巡る。
まりさとありすの2匹がゆっくりの群れを離れて手に入れた新しい巣。
それは私の家だったのだ。
兄の日記に挟まっていた写真に写っていたゆっくりも「まりさとありす」であった。この2匹達は同一人物だったのだ。
奴等は留守の時に私たちの家に侵入し「誰も居ないから」と、勝手にこの家を自分たちの「ゆっくりプレイス」としたのだ。
まりさは「シャワーはゆっくりできない」と言っていた。森に住んでいたまりさがシャワーの事を知っている筈が無い。
これは飼いゆっくりでなければ知り得ない情報である。何故、気がつかなかったのだろう?
そして帰ってきた母と兄を「侵入者」として疎ましく思っていた。
日記の記述にある様に、食べ物をくれたり、体を洗ってくれる母と兄を召使いか何かと思っていたのだろうか?
そんな母を「ゆっくりプレイス」から追い出す為に奴等は・・・
(まりさは人間を追い払おうと、果敢に体当たりをして人間を転ばせてしまった)
ぶつかって転ばせて、母は階段から転落した。
だから、それを見たであろう兄は、まりさが動かなくなっても殴りつけるのをやめなかったのだ。
当然の反応だ。誰だってそうする。わたしだってそうするだろう。
親を奴等ごときに殺されたのだ。優しかった兄が病的なまでにゆっくりが嫌いになるのも無理は無い。
(やっとまりさが起きた。すぐにありすの居る場所を喋った)
兄の日記の最後に書いてあった文章。
兄は動かなくなったまりさを治療して意識を覚醒させると、逃げたありすの居場所を聞き出したのだ。
ありすは「まりさが人間の注意を引きつけてくれた内に、何とか元居たゆっくりプレイスへと逃げる事ができた」等と言っていたが、
そうまでして守りたかったのならば、”すぐに喋る”だろうか?
真相は、まりさが殴られている隙に自分だけは助かろうと、ありすはまりさを見捨てて一人で逃げ出した。そんな所だろう。
それならば、すぐに喋る事も合点が行く。とうの昔に奴等の関係は終わっていたのだ。
だからまりさはありすの事を私に何一つ喋らなかったし、ありすもまりさの名前を聞いて素っ頓狂な表情を浮かべていたのだ。
兄はまりさに吐かせて突き止めた奴等の巣を焼き払った後に、生き残ったゆっくり達を使ってありすを延々と拷問させた。
そして、「実行犯」であるまりさだけは、自分の家に連行して、あの水槽で永遠に溺れ続けさせたのだ。
奴等が母に行った事への報復として、同じようにその生命を絶つというだけでは我慢ならなかったのだろう。
現に奴等は私が助けてやった直後には、口では反省した様な事をしきりにアピールしていたが、
その実、これっぽっちも反省などしていない。それどころか自分たちは被害者だと言わんばかりの態度を取っていた。
何が「怖い人間がまりさのゆっくりプレイスを無茶苦茶にした」だ。どうしてそんな考えに至れるのだろうか?まるで理解できない。
私はそんなまりさを助けて、食事をさせて、我侭を許し、巣に返してやろうと奔走したのだ。
何も知らなかったクセに兄に対して、精神異常者という烙印を押して見下していたのだ。
兄の病的なまでのゆっくり嫌いの原因はあのまりさだったというのに・・・
「ゆーっ!おちびちゃんっ!ゆっくり育ってねっ!」
「ゆっくりはやく産まれて一緒にゆっくりしようねっ!」
少女が歩く歩道のすぐ脇の空き地から聞こえてくる声に無意識に視線を移す少女。
そこには2匹のゆっくりの姿があった。空き地に勝手に住んでいる野良のれいむとまりさだった。
その内のまりさの方は青々とした茎を頭から生やしている。
その茎には目を閉じた小さな赤ゆっくりが何匹も生っていて、時折「ゆっ?ゆっ?」と元気な声を上げている。
(ゆぅ・・・!どぼじで茎さんが生えないのぉ・・・!)
それを見た途端に、少女は倒れこむように電柱にもたれ掛かると、
顔を歪めて苦しそうな表情を浮かべていたが、一度大きく痙攣すると、力尽きたように吐瀉物を吐き出した。
電柱にしがみ付きながら、ズルズルと地面に崩れ落ちる少女。
全力疾走したかの様に、辛そうに荒い呼吸を繰り返す。
「ゆっ?人間さんが居るよ?」
「ゆゆっ!ほんとだっ!ゆっくりしていない人間さんがいるよっ!」
少女の存在に気がついたれいむが軽快に地面を跳ねて少女の元へと駆け寄り、
その後ろを茎を生やしたまりさが、赤ゆっくりに気を使いながら、ずりずりとすり足でれいむの後を追う。
だらしなく口を開いて、涎を垂らしながらポロポロと涙をこぼす少女をジッと見つめる2匹のゆっくり。
少女は、2匹が自分を心配して側に寄ってきたのだと思い、力なく笑みを浮かべた。
「だ、大丈夫だよ・・・なんでもないよ・・・」
「ゆっ!まりさのおちびちゃん可愛いでしょっ?」
「とってもゆっくりできるでしょ?ゆっくりみていってねっ!」
まりさは少女に自分の額から生えている茎に生っている赤ゆっくりを自慢げに見せつける。
そんなまりさの様子を見て、れいむも誇らしげに「ゆっへん!」と胸を張る。
そんな光景を見た少女の眉間がみるみると歪む。
「そ、そうだね・・・ありがとう楽になったよ・・・」
「ゆっ!じゃあお礼にまりさに「あまあま」を頂戴ねっ!」
「たくさんでいいよっ!」
「えっ!?」
「「ゆ゛っ!!」」
少女の戸惑った表情を見て2匹の顔色が見る見る変化する。
歯茎をむき出しにして、まるで「信じられない」と言った表情で少女を睨みつけた。
「なにじでるの!?まりさの可愛いおちびちゃんを見ておいて何もお礼をしないなんてバカなの?死ぬの?」
「ゆっくりできない人間だねっ!あつかましいにも程があるよっ!あまりれいむを怒らせないでねっ!」
少女の考えは大きく外れていた。
2匹は弱々しい少女の姿を見て、勝てる相手だと思い、半ば強引に食料の強奪に来たのだった。
ニヤニヤと少女を見下したような笑みを浮かべる2匹は、少女が何も言い返さない事に、更に自信を深めていた。
「ゆっ!はやくしてねっ!まりさは気がみじかいんだよっ!」
「ばかな人間さんには「せいさい」が必要だねっ!ゆっくりしねっ!」
「ま、まって・・・!」
れいむは地面を蹴ると大きく弾んで少女に体当たりをした。
「いたっ!」
それにまともにぶつかってしまった少女は、体勢を崩して背中を打ち付けながら、地面に仰向けに倒れこんだ。
そんな少女の上にれいむは乗りかかって腕に噛み付きながら、自分の体を四方八方に振り回している。
「いたたっ!痛いよっ!やめてっ!」
「はやくしてねっ!はやくしてねっ!はやくしてねっ!」
ガジガジと少女の腕に歯を突き立てながら、れいむが食料の催促を連呼する。
そんな様子を少し離れた場所からまりさが勝ち誇った様な表情で眺めている。
そのニヤニヤとした薄ら笑いが、母を殺したまりさの表情と重なる。・・・その瞬間だった。
グチッ!!
気がつくと少女は無意識に”それ”を行っていた。
腕に噛み付くれいむを振りほどいて壁に向かって思い切り叩きつけると、
後ろでニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていたまりさに少女は自分が持っていた鞄を懇親の力を込めて振り下ろした。
「い゛・・・っ!・・・い゛ぃぃぃ・・・・っ!」
少女は無言で、粘ついた様な湿った音と共に鞄を持ち上げる。
そこには、まりさの変わり果てた姿があった。
まりさの頭から生えていた茎は根元からグシャグシャに拉げて、そこに生っていた赤ゆっくり達は、
少女の鞄とまりさの顔面との圧迫によって破裂し、断末魔の形相を浮かべてながらまりさの顔面に斑点の様にへばり付いている。
まだ息があるのか、つい先程までの可愛らしい姿の面影も無く、醜く歪んだ表情で、
「ゆ゛っ!」と時折思い出したように体の底から搾り出す様な奇声をあげている。
母体であるまりさも、鞄の一撃によって脳天が深々と陥没しており、声にならない声をあげながら、
ギュッと目を瞑ってその形容し難い激痛に何とか耐えている。
そんな中、少女に振りほどかれて地面に全身を強打したれいむは、
重症のまりさの事を気にかける素振りも見せる事無く、地面に打ち付けた尻の辺りを必死に嘗め回している。
「い゛だい゛・・・っ!どぼじで・・・!どぼじで・・・!」
「ゆ゛っぐり゛な゛お゛っでね゛!べーろ゛!べーろ゛!べーろ゛!」
ダラダラと汗や涙、そして正体不明の体液を滴らせながら、まりさが少女に向かって「どぼじで?どぼじで?」と連呼する。
何が「どうして?」なのだろうか?そちらから襲い掛かってきたくせに、何故不慮の事故にでも巻き込まれたような顔をしているのだろうか?
そんな2匹に少女は強い苛立ちを覚えつつも、冷め切った表情で粘液を垂れ流す醜い饅頭を見下ろしていた。
そんな少女の冷たい瞳を目の当たりにしたまりさは、見る見る表情を青ざめて、力なく少女に向かって謝罪の言葉を吐き出した。
「ごっ・・・ごべなざい・・・ゆるじでぐだざい・・・」
「まりさは反省しました」
「ばでぃざばばんぜいじばじ・・・ゆ゛っ!?」
喋ろうと思った言葉を先に少女に言われた為に、ビクリと体を震わせながら歯茎をむき出して驚いた様な表情を浮かべるまりさ。
そんなまりさを見下ろしながら、少女は思った。
こいつらは皆揃って同じ事を言う。
これは本当に悪いと思って謝罪したのではなく、もしかして「こういう鳴き声」では無いのだろうか?
数年間も虐待されていたあの2匹ですら、自分のした事を理解できずにすぐに被害者面をしだしたのだから、
今の出来事くらいでは、この反応も当然なのかも知れない。
少女がまりさに視線を戻すと、地面にこぼれ落ちた瀕死の赤子を気に留める事も無く、ズルズルと体を引きずってこの場を離れようとしている。
その遥か前方には、とうの昔にまりさを見捨てて、1匹で逃走を開始したれいむが必死に地面を飛び跳ねている。
少女はそんな2匹を興味無さ気に見つめていた。
れいむは道路の向こう側へ行くには、とても間に合いそうに無いタイミングで横断歩道に入り込んでしまい、
れいむの存在を気にかけることも無く接近してきた車の集団にあっという間にそのシルエットを飲み込まれて行った。
まりさも必死にれいむの後を追いながら、道行く人々に向かって助けを求めているのか、何やら周囲に奇声を発していたが、
側を通りかかった中年男性にその体を蹴られて道の隅に追いやられると、すぐに静かになった。
恐ろしい光景であったが、不思議と心は痛まなかったし、気分も悪くならなかった。
それ所か澄み切った青空の様に、自分の心の中に爽やかな風が吹いているような奇妙な高揚感を感じた。
あんなゴミクズのせいで自分の人生がこの年にして大きく頓挫している現実。
あいつらさえ居なければ、母は命を落すことなく、今もあの家で少女の帰りを待っていてくれていたのだろう。
あいつらさえ居なければ、兄も、家計を支える為に肉体を酷使して若くして命を落すことも無かっただろう。
あいつらさえ居なければ、母を捨てた父に、生活の為とは言え下げたくも無い頭を下げる必要も無かっただろう。
兄がどうして奴等をすぐに殺してしまわなかったのか、今ならばわかる。
「罪を憎んで人を憎まず」等と言うが、奴等は「罪」を理解できていないのだ。
現に今死んだ2匹も、自分達に大きな非があったのにも関わらず、次の瞬間には被害者面をぶら下げながら喚いていた。
そして、あの2匹は今は痛くも、苦しくも、悲しくも無い、それは奴等の言う所の「ゆっくり」しているという事にならないだろうか?
兄は奴等の住処を焼き払い、奴等を数年にも渡って拷問し続けた。
もし相手が人間であったのならば、その償いはとっくに清算したと私は考えただろう。
3年所では無かった。まりさは私が産まれた直後から「溺れ」続けていたのだ。
さぞかし苦しかっただろう。辛かっただろう。
しかし、それで全てを許そう等と言う気は全く起きなかった。
私が今もそしてこれからも辛い生活を強いられるというのに、高々十数年酷い目にあっただけで開放されて、
その後はヘラヘラと幸せな面を浮かべて平穏な生活を送るなど許されない。我慢ならない。
相手はゆっくりである。残念ながら、ゆっくりと人間では対等では無い。それを最もわかりやすい形で今、理解した。
足りない。まだまだ足りなかった。その程度の痛みで奴等がした事が清算されたとは微塵も思えなかった。
罪が理解できないのであれば、理解する必要など無い。わけもわからずに永遠に苦しんで貰うだけだ。
兄も恐らく今の私と同じ考えに至ったのであろう。その答えがあの水槽と仲間のゆっくり達からの虐待であったのだ。
少女はゆっくりと歩き始めた。
そして、道の傍らで中身を飛び散らせた生ゴミの様になった先程の野良まりさを一瞥すると、
高々と振り上げた足を、躊躇なくその生ゴミの顔面へと振り下ろした。
僅かな抵抗を足の裏に感じた次の瞬間「プリョッ!」という奇妙な音と共に生ゴミの顔面は深々と陥没すると、ビックリ箱の様に目玉が飛び出して地面を転がる。
野良まりさは思い出したかの様にビクン、ビクンと丘へ打ち上げられた魚の様に何度か痙攣すると、むき出しにした歯をギリッ!と軋ませて、
「・・・ゆ゛っ」と小さなうめき声を吐き出した。
少女は野良まりさのそんな様子を見て涼し気な笑顔を浮かべると、
飽きること無く、振り上げた足を何度も何度も野良まりさの崩れた顔面へと向かって振り下ろし続けた。
つづく
今まで書いたもの
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- 作品として素晴らしい!もっと評価されるべき!
愛情のないすっきりで悪寒がした。久々にどす黒い憎悪を抱いた。
この少女の傍にいてあげたい··· -- 2018-01-09 00:37:51
- 少女の心情が変わった時点で感動を覚えた
やっぱゆー虐はこうでなくちゃ -- 2011-07-10 20:17:19
- どんなふうにするのかマジ楽しみ -- 2011-03-22 15:46:07
- 見入ったw -- 2011-02-14 07:12:33
- オカーサンノカタキヲトルノデス -- 2010-12-19 00:11:07
- 良い文章だ。読み入ってしまったよ…
お兄さんがゆっくりを憎む理由がすとんと納得できた…!
こんな奴等がのさばってるのは許せないな -- 2010-12-02 17:44:43
- 性的興奮を覚えた俺は明らかに救いようのないHENTAI -- 2010-11-30 21:58:02
- 面白いんだが腹が立ってくる。
少女を睡姦とかさ、しかも性欲捌けたいとかじゃなくてもっと糞みたいな理由だし -- 2010-11-19 22:01:12
- 読ませるねぇ
しかしゆっくりの行動原理が人間の常識と乖離している、ということを良く描けてるぶん
最後に出てきたつがいのテンプレ台詞が邪魔になっている気がするな
こんな安い挑発わざわざしなくても、この世界のゆっくりは十二分に害悪過ぎる -- 2010-08-18 18:47:31
- 頑張れ少女
家族の無念を晴らすのだ
もぅ、ゲスとか関係無い、生半可に自分に都合の良い様に考える知能があることが許されないのだ、ゆっくりは
それにしてもSSとしてのレベルが高い・・・ -- 2010-08-09 22:52:01
- まりさが少女をレイプしようとしたあたりは本気で吐き気がした -- 2010-08-09 19:52:14
- ・・・じっくり見入ってしまった。 -- 2010-07-08 01:58:12
- すごいな -- 2010-07-01 17:35:34
- おおお・・・ -- 2010-06-16 00:42:33
最終更新:2010年03月17日 09:52