9
翌々日の朝、その日は薄っすらとした川霧が川の方から沼地へと流れ込み、アメーバの
ように伸縮を繰り返し、水面を、地面を覆っていった。本来ならば、新緑を背景に、そ
の黒ずんだ紅色の花も鮮やかに咲き乱れているはずのワレモコウの花は霧に覆われ、ま
るで雲の上に咲く、幻の花のようであった。
東の空から金色の太陽が顔を出し、暖かな陽光が差し込んでくると、川霧は徐々にその
占領地から撤退し、代わりに鮮やかな緑が帰ってきた。
そして、撤退した川霧と入れ替わるように、もりのむれのゲロりー支隊が沼の岸辺に現
れた。
「むきゅ!ドスは…まだ来てないのね…ぱちぇの立てたげいじつてきな作戦通りだわ!」
ゲロりー支隊は、まずぬまのむれのゆっくりを牽制し、陸橋入り口から連中の注意を逸
らさなければならない。そのためには、被害を抑えつつも、ある程度本格的な攻撃を仕
掛ける必要があった。
「むっきゅうん!!行くのよ!まりさ!さなえからごはんさんを解放するのよっ!!!」
「ゆっくりりかいしたよ!」
「ゆっへっへ!!!すーぱーむーしゃむーしゃたいむ!すーぱーすっきりたいむのとき
なんだぜええええっ!!」
ゲロりー支隊の主力を構成するまりさたちは、帽子を水上に浮かべ、防備の手薄そうな
場所への上陸を目指して、ゆっくりと櫂を漕ぎ始めた。
「…来たか…」
お館さなえはゲロりー支隊に占める黒い帽子が多く、まりさ種に偏った編成であること
からこれが主攻ではないことを看破した。しかし、主力がどこから来るのかが分からな
かった。
お館さなえは飼いゆっくり出身であるため、どすすぱーくの威力、射程はまるで予想で
きなかった。もしも、沼地の岸辺からこの巣まで届くようであれば、ドスが沼地に接近
するまでに速攻をしかけて包囲するしかない。
かと言ってあちらこちらに兵力を分散配置しては、ゆん口で負けているぬまのむれは各
個撃破を受け、競り負ける可能性が考えられた。
「えーりん!主力を率いて陸橋の外に布陣、ドスを捜索せよ!水上部隊は出撃、敵まり
さを殲滅せよ!ゆン・イレギュラーズは作業を続行せよ!」
お館さなえは本当はゲロりー支隊を無視し、水上部隊を利用した遊撃戦が展開できるよ
う、よーム戦士団は待機させておきたかった。しかし、ゲロりー支隊のまりさだけでも、
数だけならこちらの水上部隊に匹敵する規模であり、ドスが率いるであろう本隊にぶつ
ける陸上兵力をできるだけ大きなものにするためには、速やかに敵の水上戦力を殲滅す
る必要があった。そして、よーム戦士団ならそれが可能と考えていた。
「やろうども!でっぱつするんだぜ!!!」
「「がってんしょうちみょん!!!」」
水上部隊を指揮するのはでぶまりさ、通称でぶりである。
見た目はぱっとしない顔つきのまりさであり、太っていることも相まってとても帽子や
船の上に乗せるべきではない存在に見える。しかし、この群れで一番の漕ぎ手であり、
まだお館さなえが町で活動していた頃から、どぶ川のボスを務めていた個体であった。
でぶりの指令とともに、水草の陰に隠れていた発泡スチロールの軍船、帽子に乗った水
上まりさ、せいっさいっされたゆっくりから取り上げた帽子に乗って移動しているまり
さが続々と姿を現した。せいっさいっされた帽子に乗っている個体は、元々帽子に穴が
開いており、奇形とされたか、二次的に帽子を損傷してしまい、両親からも捨てられた
まりさたちだった。
「取り舵いっぱ~いっ!!!ゆっくりしないで全速前進!!!」
船長まりさの指示のもと、漕ぎまりさたちが一斉に櫂を漕ぎ始める。
「ゆっくりりかいしたよ!!!」
そこにはあの父まりさの姿もあった。父まりさが乗り込んだのは、発泡スチロールの軍
船二番船ゆリシーズである。
舳先を敵のまりさ達に向け、ゆリシーズはぐんぐんと加速していった。
船上では、よーム戦士団の戦闘ゆんであるみょんたちが武器を構え、出番を今か今かと
待っている。
「これが終わったらまたみんなですっきりするみょん…」
「ゆふふ、みょんのあにゃるはえる・どらどなんだみょん…」
よーム戦士団に配属されたみょんたちは、連携を強力なものとするために、あにゃるす
っきりを利用していた。これはテーバイの神聖隊などでも使われていた手法である。
そんなみょん達の会話に、父まりさのあにゃるはきゅっと絞まった。
「目標補足!敵のまりさを目指して突っ込むよ!!!」
「「ゆっくりしねぇっ!!!ゆっくりしねぇっ!!!」」
二番船「ゆリシーズ」、三番船「ひるでがるで」、四番船「けるげれん」が一列に並び、
その後方からは一番船にして総旗艦「ヴぁんがーど」が最大戦速でゆっくり突撃してい
く。その左右には三匹一組で戦隊を形成したまりさが展開していた。
「ゆわあああああっ!!!こないでねっ!!!まりさのほうにこないでねっ!!!ゆっ
くりしないであっち…ゆぼぉっ!!!だじゅげっ!!!ごぼぼ…」
巨大な発泡スチロールと正面衝突し、もりのむれのまりさは一撃で沼に沈んだ。
「ゆわあああっ!!!ぐるなあああっ!!!まりざのほうにぐるなあああっ!!!」
もりのむれのまりさたちは混乱に陥った。滅多に帽子で水上移動を行わないもりのむれ
のまりさと、ぬまのむれの水上部隊とでは、戦力として差がありすぎたのだ。
「ゆひいいいっ!!!」
一匹のまりさが必死に櫂を動かし、ゆリシーズの突進を回避する。
「ゆっくりしないで沈んでねっ!!!」
父まりさはすかさず櫂でその敵まりさを叩いた。
「ゆべっ!!!やべっ!!!まりざばっ!!!」
「往生際が悪いみょん!!!」
なかなかしぶとく粘る敵まりさに業を煮やしたみょんが、長い棒の先端に打撃用の石を
取り付けたタイプの槍で、思いっきり叩きのめす。
「ぶぎゃあああっ!!!ゆぎっ!!!おぢるっ!!!だじゅげべええええっ!!!」
ぼちゃん
みょんと父まりさに散々叩かれた敵まりさは、とうとうバランスを失い、涙を流し、悲
劇的な表情のまま、ほの暗い水底へと沈んでいった。
同様の光景はあちこちで展開されていた。
「やじゃよ!!ばでぃざはみじゅにおぢだぐないよ!!!やべで!!ぶだないで!!ゆ
ぶっ!!!ごぼぼ…だじゅ!!!…ごぼぼ…」
「ゆがああああ!!!どぼぢでばでぃざのおぼうじやぶれぢゃっでるのおおおっ!!!」
「もうやじゃあああっ!!!おぶぢがえぶううっ!!!ゆんやああああっ!!!」
「ゆぎいいいっ!!!おふねさんはゆっくりできないいいっ!!!ゆっくりしないで上
陸するよっ!!!」
「ゆゆ!!!あそこならゆっくりがいないんだぜ!楽勝で上陸できるんだぜ!!!」
もりのむれのまりさたちは、ぬまのむれの軍船と戦うの諦め、ぬまのむれの本拠地があ
る半島へと必死に櫂を動かした。数が少ないせいか、ぬまのむれの兵ゆっくりの配置に
はムラがあり、もりのむれのまりさたちは、明らかに手薄な面から上陸を試みる。
「ゆっへっへ!上陸してしまえばこっちのもんなんだぜ!!!あまあまはまりささまの
ものなんだぜ!!!」
とうとう、半島にたどり着いたもりのむれのまりさが、帽子から湿原へと飛び降りる。
べちゃ
「ゆ?」
そこには見たことのない植物が広がっていた。幅広の葉に朝露のようなものがたくさん
付着している。
「ゆびいいいいっ!!!なんなのぜえええっ!!!ばでぃざのあんよがうごかないんだ
じぇええええっ!!!」
そこは、かつてごっつありすが立ち入るなと、ありす一家に警告した場所だった。その
場所に生えているのはモウセンゴケ。葉の上に分泌される粘液で昆虫を絡め取る食虫植
物である。上陸したまりさのあんよには、モウセンゴケの粘液がべっちょりと張り付い
ていた。
モウセンゴケ一株一株の粘液は大したことがなかったが、ゆっくりのように、体の体積
に対して接地面の多い体形の生き物は、たくさんの粘液をそのあんよに張り付かせてし
まい、進めば進むほど、身動きが取れなくなっていった。
「ゆぎいいいっ!!!ばでぃざのあんよざんうごくんだじぇえええっ!!!」
上陸したまりさが必死にあんよを動かす。しかし、渾身の力で跳ねようとした瞬間、バ
ランスを崩し、顔面から粘液まみれの食虫植物群に突っ込んだ。
ぶちゃあぁ
「ゆぐぐぐぐぐぐっ!!!うぎょげないんだべえええええっ!!!」
顔面から腹部にかけて粘液が付着し、もはや上陸したまりさは自力では起き上がれなく
なっていた。必死に起き上がろうとあんよをぐにぐに動かし、お尻をぷりんぷりんと動
かすが、船上のみょんたちの笑いを誘うばかりであった。
もはや、このまりさには少しずつ群生する食虫植物に吸収されていくか、そのまま雨の
日に溶けていくかの二択しかなかった。
「かしこいまりさは逃げるよ!こーそこーそ…どぼじでうじろにおぶねざんぎでるのお
おおおおっ!!!」
「うるさいみょん!さっさと沈むか、けつを出すみょん!!!」
みょんに槍でがすがすと突かれ、また一匹まりさが沈んでいく。
「ゆびっ!!ゆぶぅっ!!なんじぇ!!まりざが!!ごん…」
お館さなえの命令から一時間しないうちに、もりのむれのまりさの半数ほどが沼に沈み、
残りは岸へと逃げていった。
陸橋を目指して、ドスと、ゆっくりの大群が姿を見せたのは、そのときであった。
10
ドスは陸橋に対して正面方向の森から姿を現した。ドスの出現方向をつかめなかったの
は、おそらく、偵察に向かわせたゆっくりがもりのむれのゆっくりに殲滅されてしまっ
たためであろう。
ここに来て、お館さなえはドスたちの狙いに気がついた。
陸橋を縦隊にて通過しようとすれば、確実にどすすぱーくを打たれる。かといって戦力
の逐次投入は、兵力差で劣勢なこの状況下では各個撃破されるだけである。予備戦力と
してとっておいたゆン・イレギュラーズを投入する機会は、当分訪れそうになかった。
お館さなえはドスとゲロりーの作戦を読みきれず、結果的に戦力の分断を許してしまっ
たのである。
(どすすぱーくが打てる状況下では、我は出れぬ…)
総司令官が戦死しては、群れの敗北は決定してしまう。戦術的な勝利はばばさまこと、
不死身のえーりんに任せるしかなかった。
お館さなえは前回の戦いでドスまりさを永遠にゆっくりさせなかったことを後悔してい
た。
(我も甘い…結局、人質を見殺していたほうが、永遠にゆっくりするゆっくりの数が少
なかったのではないか…)
お館さなえは、巣に残された母子ゆっくりが全て、避難用の洞窟(どすすぱーくの直撃
を受けない位置にある)に避難していることを確認させると、ただ水上部隊の帰還を待
った。
「やべ…れい…いや…じゃ…」
「じゃお…じゃおおお…じゃおおおおおおおおんっ!!!」
「ゆっぎぃっ!……」
片目が潰れている姉めーりんが、瀕死のれいむですっきりしている。このれいむは、え
ーりんが放った偵察任務の兵ゆっくりの一匹だった。
ぬまのむれが放った偵察ゆっくりのうち、ドスがいる方向に向かったものはすべて、こ
のめーりん姉妹によって永遠にゆっくりさせられていたのである。
「ゆぅ…めーりん!そのへんにしといてね!もうてきの本拠地だよ!!!」
「じゃああおおおおおん!!!」
姉めーりんは最後にもう一度、黒ずみ、もはや動かなくなっているれいむですっきりし
てから、進軍に加わった。
この姉めーりんは気に入らないゆっくりをぼこぼこにいたぶってからすっきりすること
を好む特殊な性癖のゆっくりであった。そのため、大事にされている金バッジや、近く
を通った野良など、片っ端から暴力をふるってすっきりをし、最後には飼い主が大事に
していた子猫に乱暴を振るおうとして捨てられたのである。
「…ゆぅ…やれやれ、面倒なのが来たのぉ…」
えーりんは葉っぱで作った兜をくいっと、舌で持ち上げ、敵の様子を確認する。えーり
んが赤と青の帽子の上から兜を被っているのは、指揮官がどこにいるかを分からなくす
るためであった。
えーりんは兵ゆっくりたちを、ぬまのむれ得意のまけどにあん・ふぁらんくすではなく、
散開陣形で接近させた。ドスまりさの周囲は、もりのむれのふぁらんくすで固められて
おり、えーりんらは可能な限り素早くドスたちに接近し、乱戦に持ち込む。そして敵味
方入り乱れる状態を作り出すことで、どすすぱーくを打てなくするしかなかった。
しかし、散開陣形のまま突っ込んでは、敵のふぁんらんくすに押しつぶされる。
「進みながらゆっくりふぁらんくすになってね!!」
えーりんは次々と指示を飛ばし、散開陣形を敵前で密集させるという職人芸を披露する。
だが、ふぁらんくすの陣形が完成しようかというそのとき、それは来た。
「ゆふふ!これが!これがしんせかいをきりひらくそーせーのひかりだよ!!!どすす
ぱぁぁぁぁぁくっ!!!」
輝く極太の光線がドスまりさの口内から放たれ、えーりん隊の中央を削り取る。光線は
そのまま湿地に着弾し、泥と草を派手に舞い上げた。
えーりん隊の中央に位置していた、数列のふぁらんくすは丸々消滅し、後には、焦げた
餡子やチョコレートのようなものの臭いが漂った。
「ゆっくりしないで逃げるよーっ!!!」
「ゆっくりしないで逃げるんだぜーっ!!!」
無事だったえーりん隊の左翼と右翼から叫び声が聞こえ、それぞれ左右に蜘蛛の子を散
らすように跳ねていく。
「おお、ぶざま、ぶざま!!!まるでむしさんのようにみみっちいね!!!右と左のふ
ぁらんくすは逃げるごみを追撃してみなごろしにしてね!!!まんなかのふぁらんくす
はどすと一緒にぬまのむれの巣をたたきつぶすよっ!!!」
「もうやじゃあああっ!!!だじゅぐぶっ!!!」
「ゆげえええっ!!!どぼじでぢぇんのおべべびえないのおおおおっ!!!わがらない
よおおおおっ!!!」
「ゆ゛…ゆ゛…ゆ゛…」
ドスはそのまま逃げ切れなかったぬまのむれのゆっくりを踏み潰し、陸橋から半島へと
進軍を開始した。
そのとき、ドスの左側から接近してくる影があった。二隻の軍船、ゆリシーズとけるげ
れんを中心とした水上部隊である。でぶり提督の指示を受け、陸橋に比較的近い位置で
掃討戦を行っていた二隻が、陸橋通過時にドスたちの側面を突くべく急行を命じられた
のである。
「他の群れのドスが!小汚いゆっくりが!まりさたちの縄張りを縦隊組んでゆっくり跳
ねていくなんて!このぐらん・だるめが!このよーム戦士団が許すと思ってるの!!?
ばかなの?死ねよ!」
先遣隊の指揮を執る、ゆリシーズの船長まりさの号令のもと、一気に船速を上げて行く。
ドスまりさはその光景を不愉快そうに横目で眺めた。
「ゆぅ…みみっちいいきものがうるさいよっ!!!」
どすは二個目のきのこをむーしゃむーしゃと咀嚼した。
裁断されたきのこ飲み込んでしばらくすると、どすの口内からうっすらとした光があふ
れ出す。
「どすすぱぁぁぁぁぁぁくぅぅぅっ!!!」
二射目の光線は派手に水蒸気を巻き上げながら、水上を走り、四番船けるげれんを直撃
した。
「!!!」
「うわわああああああっ!!!」
「ゆ゛!!!…ごぼがぼ…」
何かが弾けるような音と共にけるげれんは文字通り蒸発し、水面が沸騰、水蒸気がもう
もうと舞い上がった。けるげれんの近くを航行していたまりさ種もこの沸騰に巻き込ま
れ、帽子から振り落とされ、水中に叩き込まれていった。
「ゆぎゃああああああ゛っ!!!」
けるげれんの隣を航行していたゆリシーズは直撃を免れたものの、甚大な被害を受けた。
いきなりのどすすぱーくに驚いた父まりさのあにゃるが決壊を起こしたのである。ゆリ
シーズの上ではうんうんが天下統一を果たしていた。
「ゆっぴいいいいいいいっ!!!どぼじでう゛ん゛う゛ん゛がどまらないのおおおおっ
!!!!ばでぃざのあにゃるざんじんごぎゅうじでおぢづいでねえええええっ!!!」
「なにやってるのおおおお!このうんうんまりさああああああっ!!!」
「ゆぎゃあああああ!!!みょんのじらうおのようなあんよにうんうんがああああああ
ああああああっ!!!」
「ま、まりさはかしこいからうんうんさんから逃げるよ!うんうんまりさはゆっくりで
きないよっ!!!」
「ばか!敵前逃亡はせいっさいっされるみょん!たとえうんうんまみれでも戦うんだみ
ょん!!!…くさいみょおおおおん!!!」
結局、水面に向かって放たれたどすすぱーくは、けるげれんを撃沈し、随伴していたま
りさを数匹蒸発させた。そして、ゆリシーズもまた、一時的とは言え、戦闘不能に追い
込まれたのである。
「ゆっはっはっは!!!いいざまだね!!!いいゆっくりは死んだゆっくりだけだよ!
このえらばれしどすたちをのぞいてね!!」
とうとうドスまりさたちは陸橋を突破した。
そこには緑色の草花が繁茂し、ぬまのむれの中心部である小さな林まで、ドスまりさた
ちを阻むものは何もなかった。
11
「待ってね~!おとなしくちぇんたちにこーさんしてねー!無駄な抵抗はわからないよ
ー!!!」
以前、らんにぷろぽーずされた細目のちぇんは、もりのむれの左翼を構成していた軍の
中にあって、逃亡したぬまのむれの右翼を追っていた。
「ゆひいいいいっ!!!ぐるなあああっ!!!までぃざのほうへぐるぶううううっ!」
ちぇんの突き出した槍が泣きながら逃げ惑っていたまりさの口から差し込まれ、中枢餡
を貫通する。
ぬまのむれのぐらん・だるめは練度が高いせいか、敗走も速かった。それでも、逃げ遅
れたゆっくりから一匹、また一匹と刺され、潰され、餡子の花を咲かせて永遠にゆっく
りしていく。
「…ここらかの…」
逃亡したぬまのむれの右翼を指揮しているのはえーりんであった。えーりんが采配代わ
りにくわえているススキを高く振りかざす。
「横槍をくらわせよ!!!」
「ぐらん・だるめはせかいさいきょおおおおおおっ!!!」
「!!?」
追撃を続けるもりのむれ旧左翼の側面の草むらから、一列の伏兵が一気に槍を突き出す。
「ゆわあああっ!!!どぼじでごんなどごろにぶぐっ!!!」
少数の伏兵による奇襲的な反撃であったが、追撃に夢中になっていたもりのむれ旧左翼
軍を混乱させるには十分だった。
最初からえーりんは、ドス以外の敵ゆっくりひきつけ、これを追撃、または乱戦のまま
ドスに接近する算段だったのである。
ドスが左右のどちらかに逃亡した隊を追ってくることは、陸橋をきれいにどすすぱーく
の射程に入れようとする自分達の策を放棄することになるため、ありえない選択肢であ
った。万が一、追ってきたならば、本拠地からさなえ率いるゆン・イレギュラーズら予
備戦力が出撃可能となり、戦力分断の利を放棄することになる。もっとも、ゲロりーの
いない状態で、あのドスがそこまで考えられたかが疑問ではあるが。
そして、もし、追撃してこなかったのならば、そのまま後背を突き、乱戦に持ち込む腹
積もりであった。
左右に分かれたことで、伏兵の効果は薄まってしまったが、これはどすすぱーくで戦力
を一網打尽にされないために必要な措置であった。当然のことだが、どすすぱーくのき
のこには限りがあるはずである。前回の交戦でドスが持ち込んでいたきのこは二個、そ
のきのこのサイズとドスの帽子の大きさから、どんなに帽子に詰め込んでも五、六発が
限界とお館さなえらは考えていた、他のゆっくりが運ぶには、どすすぱーくのきのこは
大きいためである。実際、今のところ、ドスはある程度、ゆっくりが固まっている場所
にしかどすすぱーくを打っていなかった。
「さて、戦るか…」
もりのむれの旧左翼軍が伏兵で混乱している間に、あっという間に再編成を済ませた、
えーりんたち右翼隊が襲い掛かる。この編成の速さと巧みさこそが、えーりんの恐るべ
き手際の良さ(ゆっくりにしては)と、日頃の訓練の化学反応によるものであった。
あのありすは反撃に転じたえーりん隊にあって、槍を振るっていた。
「おとーさんとおかーさんのおうちに!ゆっくりできないゆっくりが近づくなああああ
あああっ!!!」
「ゆっぎゃあああああああああっ!!!でいぶのぼうぜぎみだいなおべべっ!!!おべ
べがああああっ!!!」
その前に細目のちぇんが立ちはだかる。
「難儀だねぇっ!!」
ちぇんが連続で突き出す槍をありすが一撃、二撃と受け流し、反撃する。
「そいぁっ!!!」
「やるんだね!わかるよー!!!」
細目のちぇんは二本の尻尾で巧みにありすの槍を逸らす。
「ありす!ちぇんは戦いにおいて、ありすこそライバルと認めるよ~っ!!分かってね
~っ!!」
「らいばるなんてとかいはね!!!のぞむところっよっ!!!」
互いに突き出した槍が交差し、それぞれがありすの頬を、細目のちぇんのおでこを微か
に傷つける。
「ありすーっ!!」
そこへ仲間のゆっくりたちが駆けつける。横槍で崩されたもりのむれ旧左翼軍はもはや
総崩れになりつつあった。
「ゆゆ!一騎打ちを邪魔するなんて無粋なんだね~!分かってね~っ!!!この勝負は
お預けだよ~っ!!!」
細目のちぇんはそのまま軽快に飛び跳ね逃げていった。
一方、逃げたぬまのむれ左翼隊は、ごっつありすの指揮の下、同じ戦法で反撃に転じて
いた。
「剛力招来!!!超力招来!!!」
ごっつありすの操る槍が、ぺにが、辺りを真っ黒な餡子で染め上げていく。
「さあっ!!懺悔なさいっ!!!」
「ぢぃーーーーーーんぶっふううっ!!!」
恐るべきごっど・ぺに・かのんの一撃を食らったもりのむれのみょんが、ホワイトチョ
コレートを撒き散らしながら、弾け、永遠にゆっくりした。
元々、ぐらん・だるめに比べれば烏合の衆であり、恐怖による統制も、掟による秩序も、
信仰による団結も持たないもりのむれは、ドスやめーりん姉妹といった中核となる戦力
なしでは、一度守勢にまわったが最後、士気が崩壊するのも無理なからぬことであった。
12
ドスまりさ率いるもりのむれ中央軍は、誰もいない半島を進撃していたが、すぐにその
進撃は停止することになる。
「ゆぎゃああああああああああああっ!!!」
突如、先行していたもりのむれのまりさつむりが悲鳴を上げ、転げまわった。
「いたいんだじぇええええっ!!!つむりの!!つむりのえぐぜれんどなあんよがああ
ああああっ!!!」
「ゆ!どうしたの!てきさん!!?」
だが、ドスの問いかけへの回答よりも早く、次の犠牲者が現れる。
「ゆぎいいいいっ!!!でいぶのあんよがあああっ!!!でいぶのいふーどーどーたる
あんよがあああっ!!!」
「ゆええええええ゛!!!あんよがいじゃいよおおおおっ!!!わっがらないよおおお
おおっ!!!」
次から次へとあんよの痛いみを訴え、進撃を停止するゆっくりが現れた。よく見ると、
そのあんよには何やら褐色の木の実のようなものが突き刺さっている。
それは水生植物ヒシの実、撒き菱の元ネタとなった植物の実であった。その名の通り
(むしろ、菱型の語源がこのヒシの実や葉であると言われている。)、菱型の実の両端に
は鋭い棘があり、実際に忍者はこれを道に撒いて追っ手の追撃をかわしたという。
この北の大地においては、古来、澱粉の豊富な貴重な食糧源としてされており、このぬ
まのむれにおいては、食糧源兼防衛用トラップとして使われていた。
「ちょこざいだよっ!!!ドスはどこにもにげないよっ!!さなえは出てきてせーせー
どーどーどすとしょうぶだよっ!!!」
ドスは大声でそう呼びかけた。だが、どこからも返事はない。
「ひきょーものはせいっさいっだよ!」
ドスは三個目のきのこを口に入れた。
「どすすぱぁぁぁぁくっ!!!」
ドスまりさは三度目の光線をぬまのむれの本拠地がある、小さな林に向けて撃った。
「ゆゆ!?」
しかし、さすがに距離がありすぎた。どすすぱーくは湿度の高い、水辺の空気中で拡散
し、わずかな熱風が林の木々を揺らしただけだった。
「そんなとおくにかくれてるなんてひきょーだよっ!!!」
ドスはいーらいーらしていた。足元には何やら棘のある実が撒かれており、それを踏ん
でしまったときのことを考えると、とてもゆっくりできない。さなえはびくびくとかく
れていないでどすと対決するか、さっさとあまあまを出して降参すべきなのだ。沼の水
面から照り返される陽光は明らかに大自然の王者としてドスを歓迎していた。
「ドス!降参するんだぜ!!まりさたちは平和の使者なんだぜ!」
「だからもうどすすぱーくを撃つのは止めて欲しいみょん!!」
そこに来たのは、きれいな帽子のまりさと、白旗を掲げたみょんであった。
「こーさんするのはゆっくりできる選択だよ!でもまりさやみょんじゃだめだよ!さな
えを連れてきて土下座させないとゆっくりできないよっ!!!」
ドスは高圧的な視線で二匹をにらみつける。
「さなえならもう逮捕したんだぜ!あそこにいるんだぜ!ドスへのあまあまも一緒なん
だぜ!」
「ゆゆ!!?」
使者まりさが指し示す方角には、沼のほとりの草の上に低く山盛りにされたあまあまを
はじめとするご馳走、そしてつるで縛られ、口をふさがれ、ひたすらもがくさなえの姿
があった。
「さなえはゆっくりできないりーだーだったんだみょん!奇形とか捨て子とかゆっくり
できないゆっくりばかり大事にしているくずだったんだみょん!だからせいっさいっし
たんだみょん!」
「これはさなえが隠し持っていたあまあまなんだぜ!!」
そう言って使者まりさは地べたに笹の葉で包まれたあの餡子の塊を置いた。
ドスは胡散臭そうにそのあまあまを見つめると、兵ゆっくりの一人にそれを食べてみる
よう促した。兵ゆっくりは明らかな毒見役に嫌がったが、そのあまあまの臭いを嗅ぐと
目の色を変えた。
「ゆゆ~ん!とてもゆっくりできる臭いがするよ!…むーしゃむーしゃ…しあわせーっ
!!!こんなあまあま食べたことないよ!!!」
「ゆ!!?」
その反応にドスまりさも早速、舌であまあまを口に運ぶ。
「むーしゃむーしゃ…しあわせぇぇぇぇぇっ!!!」
それはドスも食べたことがない味だった。
「これはゆっくりできるあまあまだよ!まりさとみょんはゆっくりできるゆっくりみた
いだから、ドスがたくさんもらってあげるよ!」
「気に入ってくれたかみょん!!もっとたくさんあるけどみょんたちでは運べないみょ
ん!安全な道を案内するから持って行ってほしいみょん!!!」
「でも、まりさたちもあまあま食べたいから、全部は勘弁してほしいんだぜ!ドスの帽
子に入る分だけドスにあげるんだぜ!!」
ドスは考えた。敗戦群れであるぬまのむれはドスにあまあまを全部献上すべきだ。だが、
ゲロりーが愛だのあーうーだの言っていた通り、支配には甘い餌も必要であろう。まず
はドスの偉大さと寛大さに心服させ、あまあまはまた後で徴収すればいい。
それに、あそこにあるあまあまがこのドス自慢の大きな帽子に全て入ってしまう可能性
だってあるのだ。それなら誰も文句は言えまい。ドスは約束にうるさいのだ。
「ドスはかんだいだから、その条件でいいよ!!!ゆっくりかんるいのなみだをながし
てよろこんでね!!早速あまあまをもらいに行くよ!!!ゆっくりしないでどすをあん
ないしてね!!」
「「ゆっくりりかいしたよ!」」
ドスは念のため、二匹の兵ゆっくりに先行させ、使者の後を跳ねていった。後方ではま
だ戦いが続いているようだが、あまあまを回収したら、宣言しよう、ドスたちの光り輝
く勝利を。
大量のあまあまは沼のほとりに葉っぱを敷き詰めて置かれていた。
これなら全部持ち帰れるのではないか?
ドスまりさの頬が自然とほころぶ。
そうだ、本当はもっとあまあまを隠しているのかもしれない。
ドスはこれを全てもらってから、この二匹の使者を問い詰めようと考えた。
もうしばらく跳ねると、今度はつるでぐるぐると縛られたさなえの姿が見えてきた。真
っ赤に泣きはらした目から涙を流し、むごいことに飾りは全てむしりとられ、口は葉っ
ぱで塞がれていた。周りへのずんだ餡の飛び散り具合からして、おそらく、口はぐちょ
ぐちょにされているのではないか?ご丁寧にまむまむ(ぺにぺにが切られた痕?)とあに
ゃるには、鋭い棒が刺し込まれていた。
(おお、あわれあわれ…ゆっくりできないばかがせのびするからそうなるんだよ!!!)
ドスまりさは嗜虐的な笑みを隠そうともしなかった。
「さあ、どうぞドス!まりさたちはここで待ってるんだぜ!!」
「ゆっくり持って行ってね!さなえは好きにしていいよ!!」
「ゆふふ、ご苦労だったね!そうさせてもらうよ!!!」
ドスは涎を垂らす二匹の兵ゆっくりを押しのけると、あまあまの山のところまで跳ねて
いった。
「ゆっくりできなくてりーだーがせいっさいっされるとか、かたはらだいげきつうだね!
さなえのことはあまあまをいただいてから、ゆっくりせいっさいっしてあげるから楽し
みにっ!?」
突如ドスの視界に変化が起こり、縛られているさなえが、あまあまの山がせり上がって
いく。
いや、ドスが沈んでいたのだ。
そこは、草によって巧みに偽装された泥炭地であり、かつてせいっさいっされたゆっく
りが生き埋めにされた場所だった。
このような寒冷な気候下の湿原では、植物が分解されず、泥炭として堆積する。そして
水気の多い場所では、まるで底なし沼のように重いものを飲み込んでいくのである。
通常のゆっくりならば、脱出不可能なまでに埋まることはなかったかもしれないが、体
重がときに百キロを越えるドスでは事情が異なった。
また、所々にある小さな穴、それらは泥炭の隙間であり、その直下には広大な空洞が空
いていることもある。かつて、北海道開拓時代には、このような泥炭地の空洞に馬が落
ち、そのまま生き埋めとなったケースが少なくなかったという。
お館さなえの群れは、かつて何度か、あんよが泥炭から抜けなくなる事故が発生してお
り、その経験を利用したのである。泥炭地の中心に面積の広い葉を次々と投入し、簡単
なシートを作り、その上に少しずつあまあまを重ねていく。あまあまの山が低くなって
いたのは、重量が狭い範囲に集中することで沈下するのを防ぐためであった。お館さな
え率いるゆン・イレギュラーズは、もりのむれの出撃を知って以来、最後の手段として、
この天然の落とし穴による罠を用意していたのである。
「ゆぎいいっ!!!どぼじでどずのあんよざんうごがないのおおおおっ!!!」
ドスは跳ねて着地したときの衝撃であんよがまるまる泥炭中に埋まり、ちょっとやそっ
とでは脱出できない状況に陥っていた。
「でっかいくそ袋なんだぜ!!!」
使者まりさがきれいな帽子を脱ぎ捨て、すかさずみょんと共にドスまりさの口を槍で貫
く。きれいな帽子の下にあったのは、あの潰れた帽子。それはお館さなえを護衛してい
た禿げまりさであった。
「ゆぎゃあああああっ!!!あああ゛っ!!!あああ゛っ!!!」
ドスになっても痛みに弱いという、ゆっくりの特徴は変わらないらしい。突き出された
槍は、ドスの口を、舌をずたずたにした。
ドスに随伴してきた兵ゆっくりが慌てて棒きれを構え、潰れた帽子のまりさと、みょん
に襲い掛かる。
「ゆ!!」
「みょん!!」
二匹の背中に鈍い痛みが走った。だが、この槍を離せば、ドスは助かってしまうかもし
れない。
「まだまだああああっ!!!」
二匹はあらん限りの力を込め、槍をさらに押し出した。
「ああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
ドスはもうまともに口をくきことも、叫ぶことも出来なかった。
「群れを守る働き!大儀です!」
そこに一番船ヴぁんがーどに乗って、水草の陰に隠れていたお館さなえが、よーム戦士
団を引き連れて上陸する。あの縛り上げられていたさなえは影武者、何度もあまあまを
要求してきた間諜まりさに、この前せいっさいっしたあほ毛さなえの皮を被せたものだ
ったのだ。
「かかれぇっ!!!」
よーム戦士団のみょんたちは一斉に槍を突き出し、潰れた帽子のまりさとみょんに棒を
突き刺していた、もりのむれの兵ゆっくりを、ドスの口を、帽子を、頭を貫いていく。
もはや、ドスはハリネズミのようだった。
帽子は叩き落とされ、口はずたずたにされ、もうどすすぱーくを撃つことはできない。
「念のため、あんよも潰しておけ!」
さらに槍がドスの下腹部目掛けて次々と突き出される。ドスのあんよは泥炭の下に埋ま
っているので、ちゃんとあんよに刺さっているのか確かめる術はなかった。しかし、ド
スに残されたゆん生は、突き刺された槍の痛みに苦しみながら、ゆっくりと泥炭に沈ん
でいくだった。
「旗を揚げよ!これより全軍により、もりのむれを追撃する!一人も生かして帰すな!」
総旗艦ヴぁんがーどの上に、赤と黄色のマケドニア国旗(小学校の運動会の万国旗がちぎ
れたものを、町にいた頃に、群れの印としたものだった)、すなわちヴェルギナの星の旗
が翻った。
13
助攻として、ドスとは沼を挟んで反対側に布陣していたゲロりーは、まりさ部隊が壊滅
した後は、特にやることもなく、ドスの勝利を楽しみに待っていた。
そこへドス戦死(実際は、この時点ではまだ泥炭に半ば埋もれて生きている)、ドスの軍
勢敗走の報が伝わったのは、ドスが泥炭の罠にはまってから一時間ほど経ってからであ
った。
「…は?…」
ゲロりーは唖然とした。まるでゲロりーだけ時が止まってしまったかのように。
それまでゲロりーはずっといーらいーらしていた。ドスは半島内に侵入してからという
もの、ずっと動きを止めていたように見えたからである。
伝令―あの細目のちぇんはゲロりーの反応を、報告が聞こえなかったものと思ったよう
だ。
「ドスは永遠にゆっくりしちゃったんだよー!作戦は失敗なんだよー!今、めーりんた
ちが殿をしながら逃げてるんだよー!撤退戦は難儀なんだよー!分かってねー!早くゲ
ロりーも逃げるんだよー!」
「…ありえないわ!!!」
ゲロりーは突如爆発した。
「このきせきのまじゅつし!じょーしょーしょーぐん!ふはいのぱちゅりーさまが負け
るわけないでしょおおおおおおっ!!!」
ゲロりーは自身の失敗を受け入れられなかった。なぜならば、この世界を動かしている
のはゲロりーのはずだからだ。
「負けたんだよ~!分かってねー!早く撤退するんだよー!」
「撤退!!?なに言ってるの!!!これから全軍で突撃してあのちんちくりんどもを根
絶やしに!!!」
ゲロりーは頭から湯気を上げながら、どう見ても不可能な攻撃を主張する。もはや、残
っている兵ゆっくりたちも呆れ果てていた。
「そんなできもしないこと言ってるから負けるんだよー!!!ゆっくり分かってね!!
この低能ゲロまんじゅーっ!!!」
とうとう細目のちぇんはキレてしまった。もはや、ぱちゅりーは自分の地位の心配しか
していない、それも現実を無視して、と見なしたからである。
細目のちぇんの罵声にゲロりーの顔がみるみる青ざめていく。
「きゅ…むきっ…むぎゃああああ!!!…むっきゅぅぅぅううう゛んんんんっ!!!」
ヒステリーを起こしたゲロりーはそのまま泡を吹いて失神してしまった。
「どうしたの!!ぱちゅりーさまどうしたの!!」
兵ゆっくりの一匹がぱちゅりーを気遣う。
「おつむがろいやるふれあしたんだね~…難儀なんだね~…撤退するよ~…」
ゲロりーが自棄を起こした時点で、残存ゲロりー支隊の半分は逃げていたが、細目のち
ぇんは残りの兵ゆっくりをまとめて、愛するらんが待つ巣へと撤退した。
結局、もりのむれの侵攻は、もりのむれ、ぬまのむれ双方に多大な犠牲与え、もりのむ
れには何も益することなく終わった。
もりのむれの損害は、撤退時のめーりん姉妹の奮戦により、三割の戦死、及びゆっくり
不能で済んだ(敗北状況からして、この表現を使わざるを得ないが、群れのりーだーで
あるドスまりさがいなくなったことで、およそ半数がもりのむれを離れ、どこかへと旅
立っていった。その中には、ドスがゆっくりぷれいすの宣言をして以来、ずっとまじめ
に働いて、群れを支えてきたゆっくりが多く含まれていた。
残ったもりのむれのゆっくりたちは、ゲロりーを非難し、自分達にごはんさんを早く配
るよう要求した。これに対して、意識を取り戻したゲロりーはめーりん姉妹と結び、戒
厳令を発令、彼らを暴力で弾圧した。ゲロりー自身は戒厳令司令官に就任し、全ての群
れのゆっくりの心に愛の灯火が光るまでの一時的な体制として、赤ゆ、子ゆをゲロりー
の管理下に人質として置き、群れのために食糧を取ってこないゆっくり、ゲロりーに反
抗的なゆっくりを次々とせいっさいっした。
その代わり体制に従順なもの、そして、ゲロりーの切り札であるめーりん姉妹には優先
的にごはんさん、果物などのあまあま、すっきり相手を提供し、自身の支配力の確保に
努めた。そして、ゲロりー本人は、あまあまとすっきりに溺れていった。
一方、ぬまのむれは、群れの一割が戦死及び、ゆっくり不能になった。この被害の半分
以上はどすすぱーくによるものだった。逆に言えば、ぐらん・だるめの精強さを示した
と言っていいだろう。幹部クラスの戦死もなく、体制は安定し、お館さなえの求心力は
強化された。また、正常ゆっくり、奇形ゆっくりが共に危機を乗り越えたことで、彼ら
の団結力は堅固なものとなった。
雨降って地固まったのである。
だが、
ゲロりーは自分に恥をかかせたぬまのむれを決して赦しはしなかった。
そして、皮が厚く、活動力に優れるめーりん姉妹もまた、ドスに匹敵する強敵であるこ
とをこの度の戦いで示した。
そして、夏が過ぎ、これから厳しい季節が訪れようとしていた。
動物達が、限られた食糧資源を求め、争う、実りの秋が…
北の大地の戦いはまだ始まったばかりに過ぎない。
戦いの翌日、兵ゆっくりたちの半分が任を解かれ、巣への帰省が許された。
ありすはぼろぼろの葉っぱの兜を脱ぎ、船着場で、父まりさを待った。
「きれいにするよ!まりさはおふねさんをきれいにするよ!!!」
「おとーさん!!!」
「…!…ありすっ!!!(ぶっぱっ)…ゆ?…」
父まりさは軍船の掃除を一匹でやらされており、それが終わった頃には日が傾いていた。
それまで、ありすは船着場の近くに埋まっている、なんだかゆっくりできないもので遊
んでいた。それは金髪の大きなハリネズミのようであり、あちこちから棒を生やしてい
た。これに石をぶつけたり、棒でつついたりすると、時折、
「ゆ゛…」
と変な鳴き声が聞こえ、どこからか砂糖水が流れてくるのだ。
母ありすはずっと二匹の無事を祈っていた。避難用の洞窟から巣に帰ってきたとき、そ
こにはまだ手をつけてない、あの、父まりさからもらったエゾイチゴの実があった。ま
だ食べられなくはないが、少し痛んでしまっている。
何度か食べようと思ったのだが、食べられなかったのだ。
「…ふぅ…」
母ありすは、どうやら群れが勝利したらしいことは知っていたが、父まりさとありすが
無事なのか、いつ帰ってくるかはさっぱり分からなかった。
母ありすは気を紛らわせようと、葉っぱとつるでシーツを作り始めた。寝床に敷いてあ
ったものが、父まりさのあにゃるだすとれヴぁりえで汚されたままだったからだ。
ふと、入り口から懐かしい話し声が聞こえたような気がした。
「「ただいま!」」
ぶりっぱっ…
― 第一部 完 ―
神奈子さまの一信徒です。
趣味丸出しで書いた作品ですので、ゆっくりできなかった方も多いと思います。
楽しんでくれた、という方がいらっしゃるのでしたら、嬉しく思います。
ここ数日忙しかったので、前作のコメントには返事をする暇がなく、申し訳ありません
でした。一つ一つ、大事に読ませていただきました。ありがとうございました。
ご覧の通り、終わってません。また休みが取れたときに、少しずつ書いていこうと思い
ます。
なお、文中でも書いていますが、タイトルの「ヴェルギナの星の旗」とはマケドニア国
旗のことです。
ヴェルギナの星とは古代マケドニアの象徴とされていました。現在は過去の歴史云々で
隣国と揉め、それが簡素な図案化されたものとなっているそうです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。お目汚し失礼致しました。
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- 第二部は楽しみなんだねーわかるよー -- 2023-03-05 07:51:48
- 第2部たのしみです!第2部では城や出丸などが出てもいいかもしれませんね。 -- 2018-07-19 15:55:16
- 三国志と銀英伝をインスパイアしたっぽいな。面白いけど続きが無いのが残念。 -- 2015-07-26 15:41:27
- まりさパパのところは重度のアナルすっきりだと思われてるだろうな -- 2013-04-21 18:14:11
- ドスの政治能力の無さには逆にすげぇって言いたくなるな。
あと小が大を倒し、努力している者が勝利するのは読後感が良いね。 -- 2011-10-04 17:56:15
- 実際のところ、ドス一匹で沼の群れの全兵力を上回る戦力だよね。
このドスはヘタレだからちゃんと運用されなかたけど。 -- 2011-07-13 19:23:07
- とても面白かったです。
冷酷なさなえもかわいかったな〜 -- 2011-02-13 12:09:16
- 凄いな…面白かった!
どげすまりさざまぁw
げろ袋が生きてるのが不満なので、次回が楽しみです -- 2010-12-04 22:14:15
- 北方の文字を見て三国志のパロかと思ったら違ったけど後半は似た事になっていたw
パパの脱糞癖はシリアスに上手くギャグを挟むターちゃんみたいで良いアクセントで良かったと思う -- 2010-09-13 05:30:38
- まりさパパの脱糞癖が悪化してる原因ってどう考えてもありすママが原因だろ。 -- 2010-08-26 22:22:59
- すごいな!面白かったよ! -- 2010-07-13 20:16:56
- 面白かった。 -- 2010-06-16 02:52:50
- 速く第二部が見たいです!!! -- 2010-06-13 15:13:04
- んっほぉぉ一信徒お兄さんのSSはとっても都会派よぉぉゆっくりできたはぁぁ
-- 2010-04-17 22:13:00
- 貴方の話はいつもドキドキしながら読ませていただいています
ゆっくりらしからぬ、それでいてゆっくりらしい話でとても面白いです -- 2010-04-16 02:43:56
最終更新:2010年03月17日 17:45