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虐待-普通 現代 独自設定 もっと痛い
納屋の隅で、れいむは目を覚ました。
「ゆっ、ここはどこ?」
周囲を見回すれいむ。
だが暗くて何も見えない。
「ゆぅー、なにもみえないよ……」
ぽいんぽいん、と、その場で跳ねるれいむ。
不意に雲が晴れ、納屋の高い窓から月明かりが差し込む。
「あかるくなったよ!これでみえるね!」
そう言ってキョロキョロと周囲を見回すれいむ。
そこで思い出す。
人間さんの家に入って遊んでいた事を。
「たいへんだよ!もうよるだよ!いそいでかえらないと!」
れいむは入ってきた入口へ向かう。
「ゆっ、ゆぅ?いりぐちさんあいてね!いじわるしないでね!」
来たときに入った戸は閉まっている。
下半分は木板、上半分に格子状に摺りガラスのハメられた木製の引き戸はれいむの行く手を阻む。
「ゆぅ―!あいてねっ!あいてねっ!」
れいむは引き戸の下、木板に体当たりをする。
力は大したことも無いが、振動ですりガラスが大きな音をたてる。
何度か体当たりをした時、不意に引き戸が開いた。
「ゆっ?ゆぎゃっ!」
何度も戸にぶつかっていた位置で空を切り、不思議な顔をするれいむ。
もちろん次の瞬間には心構えの無い状態で、顔面から地面に激突する。
「ゆ゛っ、ゆびぃ……れいむのかわいいおかおがぁ……」
不意に後ろから、押さえつけられる。
「ゆっ、やめてね、はなしてね!」
じたじたと暴れるが、つかんだ手、人間の手からは逃れられない。
「やっぱり。」
人の声。
暴れる音を聞いてここに来た様だ。
突っ伏したれいむをしゃがんで後ろから手で抑える。
「ゆっ、にんげんさん、やめてね!はなしてね!」
ぷりぷりとはみ出た胴体を振って抵抗するれいむ。
「おい、お前だけか?他にはいないか?」
れいむに問いかける。しかし、れいむは聞く耳持たない。
「はなしてね!れいむをはなしてね!」
埒があかないと、れいむをつかみあげ掌に載せて対面して言う。
「他に仲間はいないのか?もしかして今日のはぐれか。」
れいむはお空を、なんてお決まりのセリフを言ってすぐにご機嫌になった。
「ゆっ、れいむはれいむだけだよ!とくべつなんだよ!
ゆっくりしていってね!」
こんな時間に納屋から出てきたという事は、
ずっとここにいた事になる。
戸締まりの時の確認が甘かったようだ。
「ああ、やっぱりか。わかった。ゆっくりしていけ。」
聞いて、嬉しそうに返事をしかけたれいむを、地面に押し付ける。
叩き付けず、しかし接地したら力を込めて押し付ける。
「ゆっ、ゆ゛ぅー!いだい!やめてね!ぐりぐりしないでね!」
暴れるれいむを抑えつけて体重をかけていく。
じっくりと、ゆっくりと。
頭頂部に手を当て押し付ける。
「ゆ゛っ、やべでね、つぶれぢゃっ、ゆぐっ、にんげんさん、れいぶは、とくべつに」
ほんの少し手を緩めて、腰に差していた鎌を抜く。
躊躇いなく、後頭部に鎌を突き刺す。
深く刺したら、抜いてそのまま素早く傷が十字になるようにもう一度。
「ゆぎゃっ!ゆぎっ!ややややややややめてねいたいよやめてね!」
刺した二度目は、そのままL字レンチのようにグリグリと回転させる。
十字傷の円形拡張だ。
「ゆぎゃぎゃぎゃぎゃ!やべてやべてやべていたいいたいいたいたい」
ドロドロと体中から体液を流してぬらぬらと光るれいむ。
鎌を乱暴に抜くと一層激しく一回声を出してれいむは息も荒く倒れる。
「ゆ゛っゆぎぃっ、いい゛だい、れいぶは、れいぶは……」
ぽっかり開いた穴に指を突っ込む。
生暖かい餡状の体内に寒気を覚える。
「れいぶは、とくべつだっで、いっでるでじょおー……ゆっぐり、りがい、じでね……」
そのまま指を静かに沈める。
少しだけ動かすとちょっと固い所にぶつかった。
「ゆぎゃあああああ!!ゆぎっ、ゆへへへへへへへ、ゆぎゃっ、ゆはふー、ゆぎぎぃぃいいいいいっ」
完全に今までと違う反応をするれいむ。
中枢餡だ。
鎌の掘削位置からしても完璧な位置取りだったのではないだろうか。
空いた穴からほんの指半分の所だ。
「なかなかうまくいったな」
満足げに言って、れいむを強く抑えつけて絞る。
「ゆ゛ぎっ、ゆぎゃあああああ!!」
れいむは中身の出る苦痛に叫ぶ。
もりもりと吐き出される中身。
「ゆっ、ぎっ、ゆっ、ぎぎっ、ゆ゛っ、ゆ゛っ」
死にかけだ。経験からもう動かなくなるのがわかったので力を抜く。
そのまま断続的に続く呻きを無視してれいむを持ち上げ、
備えてあった木桶にれいむだったものを放り込む。
中枢餡を避けていかに近くまで穴を開けるか、と言う試行だったのか。
れいむだったものは静かに動かなくなる。
周りにいるたくさんのゆっくりと共に。
世は飼いゆっくりブーム中期。
飼いゆっくりが浸透して未だその加速は冷めやらず。
しかし飽きて捨てる人間も出始めて、捨て野良ゆっくり問題が表面化し始めるそんな頃。
その男は緑深い初夏の森に来ていた。
「はぁ、まだ暑さは本格的ではないとはいえ、きついな。
ゆっくり探して徒歩の旅とは参るねどうも」
男はとある小さなゆっくりブリーダー会社の一員。
今回は社命で森深くに原初ゆっくりなるものを探しに来た。
社長が言うには人を知らず、語彙の極端に少ないゆっくりの事だそうだ。
ゆっくりが認知され始めた頃は今の様なペラペラと喋るゆっくりは居らず、
それこそ、ゆっくりしていってね、この言葉とその一部のみしか喋れない個体ばかりだったそうだ。
「しかし……社命とか言って絶対社長の趣味で思いつきだろこれ……。
社命で原初ゆっくりなるものを探しに来た(キリッ、じゃねーよ。笑えないっての」
こんな事を言いつつこの男はその社長を尊敬している。
なにしろ奇抜な発想の持ち主で男はいつも驚かされ、そのアイデアを楽しんでいた。
それが今回はたまたま自分が担当になっただけ。
「まあその原初ゆっくりとやらを捕獲できれば、
ボーナスと残りの日程が丸ごと休暇になるんだから美味しいけど」
見つかれば、の話。
期間は二週間。最悪野宿をすることもあるかもしれない。
緑深い森の中で初夏に野宿など死の危険すら孕む。
だがその突っ込み方は自分次第。
ふらふらと街近くの森を探しつつ二週間旅を楽しんでも良いのだ。
そんな事をしないと見抜いたからこそ、社長はこの男に任せたのだろうが。
ほんの二年程前にいたものを探すのだから、難度は低いかもしれない。
しかし、不安に思って事前調査した時は、
ここ一年程はそんなゆっくりは見た事がない、というのが専らの調査結果だった。
「リサーチの時に言われたアレなんだっけ……、人のいない所にはゆっくりはいない、か」
人のコミュニティーが出来上がった、ある程度人の住みやすい場所の近くにしかゆっくりは存在しない、
そんな研究結果を発表している学者がいた。
実際山深くに入り込む職種の人に話を聞くと、言われてみれば見かけた事は無いかもしれない、との事。
もちろん、その人達はゆっくりを探しに行ってる訳ではない、と言う理由で見逃されているかも知れない。
実際、ゆっくりの生存能力と環境を比べてみると、野生で生きている事、それだけで驚ける。
外敵、食料、生息条件。
余りにも敵の多いゆっくり。
生息可能な地理をデータで割り出そうとすると、奇跡的な可能性になってしまう。
しかし、ゆっくりは確かにいる。
「だとすると人里で情報を集めて、少しずつ遠ざかる感じが良いかなぁ……」
つまり、人間が危険を排除した生活圏と、その危険がある野生の土地、
その境目がポイントじゃないか、と男は考えていた。
男はそう方針を決めて地図を開き近くの村へ向かう。
平坦になってきた野原を暫く進むと建物が見えた。
村まではまだ随分とあるはずだし、近くには他に建物も無い。
森のそばにポツンと一軒だけ建った一戸建て。
「結構古い建物だけど……誰か住んでるのかな」
村に行くのが目的だったが、この家が村の中の一軒ならいわゆる人のコミュニティーの外れに位置する事になる。
ここで話を聞けるのは大きいと見て男は意を決して家の呼び鈴を鳴らす。
知らない土地で知らない家の呼び鈴を鳴らすのがこんなに緊張するものだとは。
男はそんな事を考えながら返事を待つ。
……暫く待つが返答はない。
どうも留守のようだ。よく見れば家の横にあるガレージには、車の入っていた形跡はあるが今は車が無い。
「留守か……まあ平日の昼間だし当たり前か」
仕方なく男は家を通り過ぎて村の方へ向かおうとする。
が、途中家の横手にある森の際に、大きめの土山が盛ってあるのが見えた。
「なんか掘り返したのかな。穴掘った後かも」
少し興味を覚えた男は庭伝いに森に向かってみることにした。
腰くらいまである柵の外は敷地外だろう、とお気楽に歩を進める。
明確に侵入を拒む厳つい柵に男は気付く。
「あぁー、よく見れば随分手入れされた綺麗な庭だなぁ。
そう来て腰までの頑丈な柵とくれば、こりゃゆっくり用かな」
男はそう結論づけて盛り土の方へ向かう。
予想通りそのすぐ横に穴があった。
土の量からすると相当深い気がする。
「そうなってくると、何となく予想はできるけど……うへぇ……」
男は覗きこんで声を漏らす。
相当な数のゆっくりの死骸がそこに詰め込まれていた。
飾りでゆっくりだろうとはわかるが、どうも何かの塊に見える状態で、
みっしりと詰まっている。
「頑丈な柵も作って戸締りもしてれば、あまり相手をする機会も無いと思うんだけどなぁ」
男はブリーダーをしている位だから、ゆっくりは好きな方だ。
ゆっくりを率先して潰したいとは思わないが、別に潰す人を嫌悪したりはしない。
でも、躾けられてこちらの言う事を聞くゆっくりは、可愛いと思うし、結構好きなのだ。
だが、潰されるのを見てもかわいそうとは思わない。
一度だけ自分の躾けたれいむが、目の前で潰されたことがある。
クレーマーによる余りにも酷い行為だった。
だがその時も、憤りもなく、ああ、躾けた時間が無駄になったなぁと言う感想が頭に浮かぶ程度だった。
れいむへの希薄な感情に自分で驚いたり、同僚に少し気味悪がられたりした。
「それにしてもこりゃすごい。いちいち穴掘って捨てる場所作ってる辺り、
もしかしたら俺の反対側の趣味の人かもなぁ」
つまり虐待。もしくは虐殺。
更には物として破壊、と言い張る人もいる。
そこまで行くと大抵、相当な嫌悪を以てゆっくりに接しており、
そんな人の前で饅頭と呼べば「饅頭に失礼だ、せめて饅頭モドキと言え」なんて言う。
まあ人それぞれ感じ入るところがあるだろうから触れないようにするのが一番、
と言うのはこの男の考え方。自分はたまたまゆっくりを可愛く思って躾ける仕事についた。
それだけの事。
前述のれいむの時に自分は今の反対側の人なんじゃないかと思ったりもしたが、
そうではなく、たぶん、物として見ている人たちに近い気がした。
心が強く動かされることが無いのだ。
もう今は好きも嫌いもなく、興味自体も仕事を始めた時よりなくなった。が、正解かも知れない。
今はまだブリーダーであるので、周りにはゆっくりを可愛がる人ばかりがいる。
だから愛でる方に天秤が傾いてるのかも、とも、男は考える。
自分の事なのにこれがまたよく解らないものだ。
さておき、男は周囲に目を移して言う。
「まあ凄まじいけどなんか、端々の作業が丁寧でギャップが面白いな」
男の言うとおり柵は手作りのようだがかなり綺麗な仕上がり。
家の周りは手入れが行き届いており、穴も妙に几帳面に四角く掘ってある。
ゆっくりも放り込んでいるのだろうが良く見ると、
原型を留めているモノと、お飾り、他に中身だけのと原型を留めてないモノが、
三箇所にそれとなく分けて放り込まれている様に見える。
「家の防護体制からして予想通りならわざわざ捕獲してる可能性が高いな。
この家の人に生息状態を聞くのも良いかも知れない」
並の愛護家より虐待する人の方が詳しいことは多い。
「しかし、どんな人だろうね。ここまでする人ってのは。何となく会うことも無いと思うけど」
男は誰とはなく呟くと当初の目的地に向かって再び歩きだした。
暫くすると男は村に行き着いた。
ここからは慎重に行かなければならない。
村によってゆっくりの扱いは異なるもの。
ゆっくりに限らず、同じものを食べたり食べなかったりする差がある。
まあ昔ほど情報が隔絶されているわけではないから、そこまで神経質になることも無いと思うが。
村の流行り、と言うものに逆らわなければ良いだけの事だ。
「さて……第一村人発見」
男は当たり障りない話から始め、ゆっくりに繋げ、ゆっくりに詳しい人を教えて欲しいと結する。
当然、村の流行りも抑える。
まとめるとこの村では農作物被害がゆっくりの入り口だった様で、ゆっくりは今を以ても全村民の敵。
対応は、と聞けば、見敵即殺、と来た。
村の外で見てもほっとくが、村の中では絶対に例外なく潰すそうだ。
「見たら潰すよ、そんだけ。逃げてもおっかけて潰すわ。そんで捨てる。それで終わり」
妙に抑揚の無いこの返事には寒気を覚えたが、どうも、最初の被害を出した群れが相当酷かったらしい。
表情も作ったように無表情で内心を悟られまいとしている様に見える。
見かけたら問答無用で追いかけてでも潰して捨てる。か。
うっかりブリーダーなんて口にしたら凄い目で見られること間違いなしだ。
男は礼を言って教えて貰った家に向かう。
詳しい人を訊いたら即答だった。その人以外は誰に聞いてもないと。
どんな理由かは知らないが、そこまで言うなら信用しても良いだろう。
少し歩いて男は辺りを見回しながら今の事を思い出す。
ゆっくりの話をしている時以外はとても気さくな人だったが、それだけにギャップが怖い。
見回せばそこかしこにゆっくり捨て場があり、ゆっくりが死んでいる。
立ててある棒の人間の腰くらいの位置に木桶が縛り付けられていて、その中にゆっくりが満載のようだ。
かなりぞんざいな感じで放り込まれ、はみ出しているのも多い。
発見直後からあれだけの意志で潰して回っても、ゆっくりの数は全く減っていないようだった。
「すさまじいなぁ。どこを見てもゆっくりの死骸が目に入るとか……
うちの狭弩さんが来たら卒倒するねこれは。どっちかの意味で。いや凄い」
狭弩さん(28)は当社きってのゆっくり大好き女史で、どうみてもネコ可愛がりなのに、
担当したゆっくりは高確率で礼儀正しい完璧な飼いゆっくりになるという、不思議なブリーダーだ。
よく一人でしている残業に秘密がありそうだが、怖くて内容は訊いたことはない。
以上男の脳内説明。
男がどうでも良い妄想をして歩いていると、ゆっくりの声がした。
「ここなのぜ!おやさいさんがいっぱいなのぜ!」
「ゆっ、ゆっ!ゆっくりたべようね!」
「ゆうーん!」
れいむ種が二匹、まりさ種が一匹。
畝に残された数十個の未収穫の野菜。
収穫を忘れたかのように萎びて取り残された感じがする野菜に、ゆっくりは近づく。
よく見ると端の野菜には歯型がついている。
ゆっくりにやられて収穫放棄したものだろうか。
ゆっくりはしなびた野菜を気にした風でもなく目を輝かせている。
村のルールは今聞いたばかりだ。
流石に此処で見てしまった以上食わせるわけには行かない。
しかし、あれだけ目の敵にしてる割には、罠だとか柵だとか全く無いのが不思議だ。
男はすぐ潰すのも憚られたので、話をして情報収集しつつ引き止める事にした。
「やあみんな、ゆっくりしていってね」
男が言うとゆっくり達はパッと向きを変えて男に向かい、
「ゆっくりしていってね!!」
と、返事をした。
男に見つかって逃げるだろうと思ったが、意外にもゆっくり達はそのまま野菜を食べ始めようとする。
「ちょ、ちょっとまてよ、その野菜は食べちゃだめだぞ!」
最初にかじりつこうとしたまりさがこっちを向く。
「なにいってるんだぜにんげんさん!
このおやさいさんは、まりさたちがたべていいおやさいさんなのぜ!」
野菜は勝手に生えるのに人間が独り占め云々、かと思ったがどうもニュアンスが違う。
「そうだよにんげんさん!まりさのいうとおりだよ!」
「れいむたちがたべる、おやさいさんなんだよ!」
れいむ二匹がまりさを擁護する。
大きさからいっても悪ガキまりさと取り巻き二人、といった感じだ。
しかし言葉のニュアンスがおかしい。
「だれかにたべていいって、いわれてきたの?」
ついゆっくりみたいな口調になってしまう。
中腰でまりさに顔を近づけて、男はまりさに聞いてみる。
まりさは得意満面に男を見て言う。
「ゆっへん、よくきくのぜにんげんさん。
ほんとはひみつだけどおしえてあげるのぜ!
まりさはむれでいちばんすごいかりうどなのぜ。
とくべつなゆっくりなのぜ!それでごほうびぇっ」
ぐちっ、ずしゅ、べちゃっ。
そこまでまりさが言ったとき、先程の村民が鍬でまりさを叩き潰した。
接近に全く気づかなかった男は心臓が止まりそうになるほど驚く。
木の柄と金属の接合部で、一発。続けて手首を返して刃で一発、真っ二つ。最後に平の部分で平たくトドメ。
叩いて、絶ち割って、潰した。
「ゆわあああああ、まりさー!!」
「ゆひぃっ!まりさが、まりさが―!!」
村民は続けて片方のれいむに同じく三発。
「ゆ゛びゅっ、ゆ゛っ、ゆ゛っ」
逃げ出そうと振り返って跳ねた最後のれいむを、村民は一歩踏み出して、
「ゆ゛っ、どうじでっ、ゆぐっ、れいむっ、じぬっ、ゆぶぇっ」
最後は刃の方で何度も地面ごと耕す。
村民の顔は見えないがどんな顔をしてるんだろうか。
最初の二匹は効率良く潰す方法に見えたが最後のは……。
刃の部分でれいむの背中の端からスライスしていったように見えた。
凄惨な光景に男は、鍬ってのは存外切れるもんなんだな、と妙な感想を浮かべた。
「あんた、すぐ潰す、っていったろ。何してる」
村民は男に背を向けたまま最後のれいむをグリグリと轢き潰して言う。
男は一つ呼吸をして静かに答えた。
「……っは、すいません、慣れてないもので。とりあえず食べられないように止めようかと」
村民は破顔して振り返る。
「慣れてねぇ、か、そらそうだな。わたしらはもう何時もの事だけど、そうだよなぁ。
すまんすまん、さっき言ってた家はもう見える。あっちの木の陰だよ、きぃつけてな」
村民は破顔しつつも早口でまくし立てる。
少し落ち着いては来たが、男にはまだ驚きが残っている。
男はもう一回、深く呼吸をして、答える。
「どうも、ありがとうございました」
村民が指さした方は少し丘になっていて大きな木が見える。
その陰に確かに民家が見えた。
重ねて礼を言って男は丘に向かう。
「それにしても、まりさと会話をしてたのは気づいただろうに。
あんなタイミングで潰さなくてもなぁ。
……それにしてもあのまりさ……」
男は少し薄ら寒いものを感じた。
下から見た時より距離を感じる道を歩き家に着く。
今の時間ならいるはずだと言われたが見当たらない。ならば中だろう。
「ごめんください、どなたかいらっしゃいますか」
男が尋ねると、戸を開いて老人が出てくる。
「どなたですかの?」
短い返事に男は簡潔に進めるべきだと判断した。
自己紹介をして村民に紹介されて来たと告げて本題に入る。
「ゆっくりを探しています。今回は調査のようなもので、野生の個体差を調べています」
嘘は言ってない。ブリーダーだと名乗るのは何の意味も無い。
とにかくここで原初、もしくはそれに類する近しいものが見つかればそれでいいのだ。
老人はゆっくりと聞いて態度を変える。
「ゆっくりの話か。まあ上がんな。茶でも出すで」
男は頷いて上がる事にした。
小奇麗な、と言うか物が少ない家だ。
居間に通され暫く待つ様、促される。
いきなり他人の家庭の中核に入ってしまって少し居づらくなる男。
とりあえずちゃぶ台の横に座り老人の戻りを待つ。
暫くして老人が戻ると申し訳なさそうにいった。
「婆さんは先に逝っとるし、娘も嫁に出とる。茶しか出んが」
老人は茶を二つの湯のみに入れ座る。
それを見て男はおかまいなく、いただきます、と茶をすする。
男が間を読もうとして様子を伺うと老人が語りだした。
「ゆっくりな。村の連中に聞いたならここではどう扱ってるか聞いたろ」
男はいきなりふられて驚くが冷静に答える。
湯飲みを置いて一呼吸。
「はい。農村では当たり前の対処ですね。」
老人はそれを聞いて頷く。
「んで何調べに来たって?」
会話がテンポよく進む。
男はこういった会話は好む所だ。
話が早くて良い。
「ゆっくりの喋る言葉について。
ご存知かわかりませんが数年前、初めて人間が確認したゆっくりは今ほど饒舌ではなかった」
老人は一瞬、呆気にとられた様な顔をした後、頷き聞いて、
首を捻りながら答える。
「はて、そういやそうだったんかな。いつの間にか慣れちまってたけんど、
たしかに前は挨拶くれぇしかしなかったな」
少し考えて男はいう。
「私の目的はただそれだけなんです。
原初ゆっくり。それを手に入れたいんです」
老人は思い出したように返してくる。
「ああ、おめぇさん、そのつまらんゆっくりが欲しくてこんなとこまで来たのか?」
なんだか様子が変わった老人を不思議に思いつつ、
男はその言葉が気になりつつ少し勘違いをしてたかも、と老人に問いただす。
「え、ええ。あなたはこの村で一番ゆっくりに詳しいと言うことでしたが、
生息地などに詳しい?」
それを聞いて老人は答えた。
「あー、そんだな。あれが何かなんてのは知らねーけど、何処に居てどっから来るかとかは詳しいつもりだ。
この村では、でなくてこの村なら、かなこりゃ」
男は期待とはちがったが、
それならばそれで良いと、老人に訊く。
「一番周囲の村からも遠い群れを教えてください。
僕の考えでは人より最も遠い群れに、喋らないゆっくりのいる可能性が高いと思うんです」
老人はうむむと悩む。
「一番遠いと朝から出ないと着けねぇだよ。今から出ると夜中になっちまうぞ」
男は驚く。
「そんな遠くまで把握してるんですか?すごいですね」
老人はハッとして男を見て答える。
「いや、ちょっと調べる機会があってな、近くに、いや作物の被害が多いとき、に」
歯切れの悪い老人。
少し慌てて老人が言う。
「とにかく、どうしても一番遠くが良いなら明日にすりゃええ。
ここに泊まっていってな」
男としては願ったり叶ったりだが、さすがにそこまで世話になるのは悪い気がした。
それに言っては何だが少し気味が悪いのだ。
「いえ、ありがたいですが、流石にそこまでは」
だが老人は押してくる。
「いや、久しぶりに話し相手になって貰ったし、世話したがりなんだ、きにせんで」
まあ、正直今晩は野宿かと覚悟していたし、目的地を考えると断る理由は無い。
知らない村に来たのだから違和感はあるだろうと、男は自分を納得させた。
「じゃあお言葉に甘えて、お世話になります」
そう男は言って、村に一泊することになった。
深夜。
男はなんとなく遠くから子供の、と言うよりはゆっくりの声が聞こえた気がして少し目を覚ます。
しばらく微睡んで又深い眠りに入りかけた所を、玄関の引き戸の開く音で引き止められる。
半覚醒の状態で布団を被ったまま音を拾う。
どうも音からすると老人が戻ってきたようだ。
外から。
男は枕元に置いておいた携帯電話を手元に引き寄せ開く。
光に目が馴染むまで数秒待って、時計表示を見る。
午前一時。
確か眠りについたのが午後十一時頃。
こんな時間に老人は外で何をしてきたのだろう。
そう考える男だったがおかしな事に気づいた。
玄関が開いた音で目を覚ましたが、閉じた音は聞いてない。
一瞬、色々な事を想像する男。
だが事実は意外とつまらないもので、耳を澄ませば老人は伴ってきた誰かと玄関で話をしているようだ。
別れ際の立ち話だろうか。それならば納得がいく。
はっきりとは聞き取れないが同じような声が二つ。
一つはここの老人で間違いない。もう一つは聞き覚えが無い。
当然だ、ここの老人と最初にあった村民以外はまともに話もしてないのだから。
ぼそぼそと聞こえてくる断片的な内容に、男は少し耳を傾ける。
拾った単語は、
あの男、
知らない、
何を、
ワシらの事を、
畑でいつもの、
特別な
明日の朝
ゆっくり。
静かな農村に訪れた旅の男を話題にした、他愛無い世間話にも取れる。
暫くすると締めの挨拶がなされ戸の閉まる音がした。
ぎし、ぎしっ、と廊下を軋ませて老人がこちらへ向かって歩いてくる。
確か老人の寝室は廊下を歩いて男の部屋を通り過ぎた所だ。
これから寝るのだろうからこちらへ来るのは当たり前だ。
なのに、男は、布団の中で嫌な汗をかいていた。
男の部屋の前で少し立ち止まる。
すぐに老人は通り過ぎ、自分の寝室に入る。
男は緊張を解いてぐったりと横たわる。
暫く音を聞いていたが、ひどく静かなまま。
男は頭の中で今までのことを組み立てながら再び微睡み、眠ってしまった。
翌朝。
何事もなく朝は過ぎ、男は老人に教えて貰ったポイントまで移動することにした。
老人は村の出口まで付き合うとついてきてくれる。
昨日の恐怖はなくなっていた。どうということはなく自分に危害は及ばない事が予想できたからだ。
途中でふと、昨日見たゆっくりを入れる桶を見て男が訪ねる。
「あの、ゆっくりの死体入れる桶ありますよね。どうして棒にくくって高くしてあるんですか?」
老人は気にする風でもなく答える。
「ああ、ゆっくり桶か。ああしとけば他のゆっくりに見えないからだで。下に置いとくと見っけられっちまうからな」
男はわざとらしく聞き返す。
「見られるとまずいんですか?むしろ、見たゆっくりはもう来なくなって丁度いいんじゃないですか?」
老人はもう慌てない。
静かに男に答える。
「いや、見られない方がええ。ワシらにとってはそれがええんじゃ。
ただ、嬉々として客人に伝えるような事じゃねぇ。そんだけだ」
男はほぼ予想通りの答えにもうそれ以上喋らない。
黙ったまま二人は村の外れに到着する。
「んじゃこっからは一人で頑張れ。結構遠いぞ」
男は言葉を受けて答える。
「お世話になりました。もし来れたら帰りにも寄らせてもらいます」
老人は、おうと手を振って見送った。
男は考え事をしながら慎重に獣道を行く。
さっきの村、あれは虐待村だと結論を出した。
最初の家は余り関わってないと思うが、
畑の辺りに行ってからは余りにもあからさまだ。
最後の問答のゆっくり桶は訪れるゆっくりを減らさないために。
最初のまりさも不自然だった。
人間を怖がらなかったし、死ぬ間際に行ったあの言葉。
村の外では潰さない。中では見つけたら絶対に潰す。
あの村に入って人間と出会ったゆっくりは絶対に死んでいる事になる。
萎びて取り残された野菜。
こんな考えを持ってしまうと呼び寄せる餌だと感じてしまう。事実そうなのだろう。
村の外で野菜を食べても良いよと甘言を呈し、来たら殺す。
なぜそんな回りくどいことを、と思ったが考えてもわかるまい。
そして、老人に男が原初ゆっくりの話をした時に言ったこと。
つまらないゆっくり。
男はこの村に来て何度目かの寒気を感じた。
娯楽の少ない農村で、暗い愉悦に目覚めてしまったのだろう。
それからほんのすこし歩いた所で、ゆっくりが二匹こちらへ向かってくるのが見えた。
脳天気な笑顔で無駄に嬉しそうだ。
「なんだか異常に嬉しそうなゆっくりだな」
しかし何か妙だ。
男はゆっくりを呼び止める。
「おい、ゆっくりしていってね」
ぞんざい過ぎる呼び掛け。
ゆっくり達、れいむとまりさは男の手前で止まって返してきた。
「「ゆっくりしていってね!!」」
何が楽しいのか、ぽいんぽいんと男を見ながら跳ねている。
「そんなに急いで何処に行くんだ?教えてくれよ」
男はある予感を感じながらゆっくりに問う。
ゆっくりはゆっふっふーとニコニコしながら男に答える。
「とってもいいことがあったんだよ!でも、ひみつなんだよ!
まりさとれいむはとくべつなんだよ!」
「ゆふふ!にんげんさん、まりさたちはとくべつなのぜ!」
ニコニコしながら言う。
単純に嬉しさが滲み出てるだけなのだろうが、男には久しく良い笑顔に見えた。
「へぇ、すごいな、特別なゆっくりなんだね。
いいじゃないか、教えてくれよ。教えてくれたらあまあまさんをあげるよ」
れいむはピクンと背筋を伸ばしてこっちを見る。
「あまあまさん?!ほしいよ!でも……」
れいむはこらえる。秘密はそれ程までに大切なのか。
しかし横のまりさは、あまあまと言う言葉で簡単にノックアウトされたようだ。
「ゆっ!まりさはあまあまさんのほうがほしいのぜ!」
それを聞いてれいむは考える。
「ゆぅー……ひみつのやくそくは、もともとにんげんさんからいわれたことなんだよ……。
それにほかのゆっくりには、ぜったいひみつっていわれたんだよ!」
このれいむは随分賢いようだ。躾け対象でもこんなに賢そうなゆっくりは見たことが無い。
男は確信を持って言う。
「なるほど、あまあまさんの方が、か。
村の人に言われたねれいむ。
特別に、村に生えている野菜を食べに来ても良いよ、と。」
れいむとまりさは目を剥いて驚く。
「ゆぅー!!なんでわかったのにんげんさん!!」
「おじいさんはひみつだっていってたんだぜ!」
男は止めようと思った。
あの村の衆の数少ない楽しみかも知れないが、気付いた以上は止めなければ。
久しぶりに見たこんなにも無垢な賢いゆっくりをむざむざ殺させたくない。
「なあれいむ、まりさ。ここに二つのあまあまがある。
今回はこれを食べたらお野菜は諦めてくれないか」
二匹は顔を見合わせてからこちらを見て言う。
野生にこんな物をやるのは、はっきり言ってかなりまずいが、この際手は選んでいられない。
ただの偽善だとしても。
「あまあまさんをたべたら、なんでおやさいさんはあきらめないといけないの?」
「りょうほうほしいのぜ!」
やはり引かないな。
当然だ。
「あのな、村に行ったらおまえらゆっくりできなくなるんだ。わかってくれよ。
あの爺さんたちはおまえたちを殺すために、村におびき寄せてるんだよ」
男はなんとか良い説得方法はないだろうかと必死に考えながら語りかける。
うまく浮かばない。
「ゆぅー。そんなわけないよ、おじいさんたちはやさしいよ」
れいむは理解できない、とうなるばかり。
人間が本気でゆっくりを騙しにかかってるのだ。当然だ。
逆に今言った自分のセリフの嘘くささに絶望する。
外では放っておくとはこのこと。本性を見たゆっくりは皆死んでいる。
そんな中、まりさは男の手にある小さなチョコレートをじっと見つめたままだ。
男が額に手を当てて妙案を編み出そうと苦悶してる間に、ヨダレまみれのまりさがれいむに耳打ちする。
話を聞いたれいむはニンマリしながら男に言った。
「ゆっ!にんげんさんのいったことは、りかいしたよ!
そのあまあまさんをもらったら、まりさといっしょにむれにもどるよ!」
「だからはやく、あまあまほしいのぜ!!」
まりさは未だ取り出した瞬間からチョコレートから目を離していない。
男は何も浮かばない自分の頭に焦りを感じていた所だった。
だからだろう、こんなにも稚拙な騙しを受けたのは。
「そうか、お前達は頭が良さそうだからな、わかってくれてよかった。
約束だぞ。村には近づかないでくれよな」
聞こえてないのか聞いてないのか、れいむとまりさは焦れて催促する。
「わかってるよ!はやくあまあまさんちょうだいね!」
「あまあまさんっあまあまさんっ!」
男は少し心配だったが野生ゆっくりにあまあまを出したせいだと、自戒する。
「「むーしゃむーしゃ、し、ししししあわせーぇええええ!!!」」
れいむとまりさは心底しあわせそうにチョコレートを平らげた。
男はほっと胸をなでおろして、言う。
「じゃあすぐに群れに帰るんだ。秘密にしとけよ」
それを聞いてれいむとまりさは顔を見合わせてゆっふっふっと笑う。
「わるいけどにんげんさん、せっかくのたべていいおやさいさんはあきらめられないよ!!」
「にんげんさんにはわるいけど、やっぱりりょうほうもらうことにするのぜ!!」
二匹は言うと村に向かって跳ね出した。
男は呆然として見ている。
数メートルゆっくり達が跳ねたところでやっと声が出る。
「お、おい、約束だろ!行ったらゆっくりできなくなるぞ!待てって、おい!」
れいむとまりさはニヤニヤしながら男の言葉を聞く。
「あんなのにだまされるわけないよ!
あのにんげんさんはきっとおじいさんのおやさいさんをねらってるんだよ!」
まりさは答える。
「ゆっ!きっとそうなのぜ!このままおやさいさんをむーしゃむーしゃしにいくのぜ!」
ふわっと、二匹は浮遊感を感じる。
「「おそらをとんでるみたい!!」」
同時にお決まりのセリフ。
男は造作もなく追いつき、二匹の頭をつかんで持ち上げた。
「……約束したろ。悪いことは言わないから早く群れに戻れ」
ここに来てかなりの苛立ちが男の中に育ちつつある。
心を落ち着けて男は言葉を紡ぐ。
まりさは不満を爆発させた。
「ゆぅー!!はなせくそじじい!!おやさいさんをよこどりしようとするじじいはしね!!」
男はそれを聞いて腰が砕けそうになる。
このまりさはゲスだ。
それもさっきからずっと一歩引いていた辺りかなり狡猾だろう。
れいむも同調して騒ぐ。
「そうだよ!れいむたちはだまされないよ!!
れいむたちがもらったおやさいさんをよこどりしようとしても、そうはいかないんだよ!!」
二匹に言われて、激しい苛立ちを覚えた男は、以前妄想した自分の中の天秤を、思い出した。
「俺は、中学生か。みっともない」
男は何か情けなくなってきた。
「いいかげんにしてね!!まりさのいったとおりだよ!
れいむたちのおやさいさんはわたさないよ!」
れいむは変わらずじたばたする。
「もうはなせくそじじい!!!うそついてもむだなのぜ!!
かしこいまりささまはだまされないよ!!しんでね!!」
心が抉られる。
ゲスまりさはもうどうでもいいが、れいむはおそらく根は善良だ。
しかし、そんなことはどうでも良い。
男は苛立つ心のノりにノッてきた。
「なあ、おまえら。本当に、行くのか。約束しただろ」
れいむは答える。
「やくそくなんてうそだよ!!まりさのいうとおり、だまそうとしたんだね!」
男は深呼吸する。
「まりさは?俺を嘘つきと言ったな?」
まりさはなおもニヤニヤして言う。
「そうだよ!まりさとれいむが、とくべつにもらったおやさいさんなんだぜ!
ゆっくりりかいするんだぜ!!
じじいにやるぶんなんてないのぜ!!だまそうとしたじじいは、はやくしねばいいのぜ!!」
男は限界だ。
「もう聞く耳持たないか」
男は二匹の頭をつかんだまま、目をつむる。
恥ずかしい事も何も無い。
心のままに叫んだ。
「じゃあ!もう!ここで!死ねよ!!!」
二匹を力いっぱい地面に叩きつける。
その後まりさを蹴飛ばす。
「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
近くの木に直撃して止まる。
そのままぐったりして動かない。
男はそれを見るとまだ地面でもがくれいむに眼をやる。
「おいれいむ、どうせ畑に言ってもじいさんに殺されるだけだ。
ここでゆっくりしていけよ」
れいむは男に仰向けにされて目をぱちくりさせている。
「ゆっゆべっ、なんでなの、どうして」
男はれいむの前にしゃがみこんで平手でれいむの底部を打つ。
パァーン。
良い音が響く。
「ゆぎぃっ、あしさんは、やべでっ!」
男は無表情で足を打つ。
「そうな。おまえらは足が命だもんな。
だから打つんだよ。そらっ」
パァーン。パァーン。パァーン。
軽い音が響く。
「いたいよ、やめてねっ、うごけなくなっちゃうよっ」
れいむは涙を流し始める。
男はやめない。
「しるか。痛い内は打ち続けてやるよ。そのうち痛く無くなるさ。
だがまあおまえは殺すつもりはないよ。さっきはつい頭に血がのぼって死ねなんて言ったけどな」
男は事実、叩きつけてゲスを蹴っ飛ばした時点でかなり落ち着いていた。
ゲスとこのれいむを見てある事を思いついたから、というのもある。
しかしなによりゆっくりに逆ギレだ。みっともなくて顔が赤くなる。
パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン。
短く素早いスパンにして叩き続ける。
「ゆ゛っ、ぎっ、ぐっ、やっ、ゆ゛っ、ゆっ、いっ」
れいむは叩く音に合わせて嗚咽を漏らす。
男は尚も表面的な痛みを与える平手打ちを続ける。
パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン。
「いだいょ、あしさんがいだいよ、やべてね、にんげんさん、やべでよぉ」
れいむは懇願し始めた。
男はそこで手を止め問う。
「れいむ、やめて欲しいか」
れいむは止まった痛みに安堵して更に涙を流す。
「やっ、やべでほしいよ……れいむしんじゃうよ……」
男はれいむを見つめて言う。
「これくらいじゃ死なない。店でやる躾けの範疇だぞこんなもん」
今回は道具なしで素手でやってるので男の手も凄い事になっているが。
男はちらりとまりさの様子を伺うと、予想通りの動きをしてて噴き出しそうになる。
そしてそれを確認すると男はれいむに問う。
「れいむ、やめてやっても良いが、次はまりさを傷めつけることになる。
このままお前が耐えきれば、まりさには手を出さないでおいてやるぞ」
れいむは愛しいまりさを思い出した。
「ゆっ、れいむがたえるよ……まりさ、まりさはたすけてあげてね……」
予想通り。男は込み上げてくる笑いを必死で噛み潰した。
そして冷徹な振りをしてさらに問う。
「しかしお前がまりさの分も叩かれるとなると、
二回分だ。お前は死ぬかもしれないぞ。それでも良いのか」
れいむはビクっとして男を見上げる。
「ゆぅ、それでも、まりさはれいむのたいせつなまりさなんだよ……」
男は満足気にそれを聞いた。
「たいしたもんだ。だとさまりさ!」
なんとわかりやすいゲス行動。
まりさは既に逃げ出していた。
男たちに背を向けて痛む体で必死に跳ねる。
「ゆっ、へっ、へっ、れいむがおとりになってるあいだに、とんずらなのぜっ」
れいむは信じられないという顔でまりさの後ろ姿をみつめる。
男はれいむに耳打ちする。
「なあ、れいむ。あれがたった今、お前が命をかけて守ろうとした愛しのまりささまだぞ?
どうするよ。何かの間違いだと思うか?」
れいむは、まだ信じていた。
「そ、そうだよ、まりさはいつもやさしく、つよくて、なにかのまちがいだよ」
男は頷いて、れいむを抱える。
「じゃあ訊いてみよう。まりさに」
そう言って男は静かに歩きだした。
まりさの後を追ってほんの数秒。
追いついた。さすがはゆっくりスピード。
男はれいむの口を抑えて訪ねる。
「なあ、まりさ。れいむは大切な恋人じゃなかったのか」
まりさは必死に跳ねながら答える。
「ゆっ、わらわせるのぜっ、そんなれいむっ、たいせつでもっ、なんでもないのぜっ」
男は笑いをこらえながら追い越さないように気をつけて歩く。
「なんてことをいうんだ。れいむはおまえのためにみをさしだしたというのに」
こらえるあまり顔がひきつって発音がおかしくなる。
耐えられない位面白い。
「ゆっへっへっ、まりささまのためにっ、じかんかせぎをしてくれればっ、それでじゅうぶんなのぜっ」
れいむは濁濁と涙を流している。
男は笑わせてもらったがれいむにとっては心底笑えない話だ。
少し考えて男はれいむの口から手を離す。
「だとさ、れいむ。どうする?」
れいむはブルブルと頭を振っていう。
「ゆっ、ゆ、れいむはこんなまりさしらないよ。もうむれに、かえらないと」
男はれいむを見て頷く。
「やっぱりお前頭いいなぁ」
そしてまりさに再び声を掛ける。
「まりさ、最後にもう一回言っておくぞ。
あの村に特別扱いされて行ったゆっくりは、みんな殺されてる。
殺すために嘘をついて呼び寄せてるんだ。だから、行ったら死ぬぞ」
まりさは、止まらない。
「いいかげんにっ、するのぜっ、そんなうそでまりささまをっ、だませるわけがないのぜっ」
男は呆れて物も言えない。
「じゃあ最後に少し手伝ってやるよ。飛んでけまりさ」
男はそう言ってまりさを村の方へ蹴飛ばす。
「ゆぎゃっ!!どうしてすぐうしろにいるのぉおおおお!!」
まりさは飛ぶ。
「追いつかれてないつもりだったのか。あのサイズをけった事はないが軽いもんだなゆっくり。よく飛ぶ」
蹴飛ばされたまりさは、必死で村の畑にたどり着いた。
「ゆっへっへっ、あのいりぐちにあるおやさいさんなのぜ!」
ぽいん、ぽいん、と緊張感の無い音を立ててまりさは進む。
「なにがむらについたらしぬ、だぜ!
このとおりおやさいさんをいただけるのぜ!」
まりさは野菜を齧ろうと、大きく口をあける。
「ほい、そこまでだ」
大きく開けた口の中に、木の棒がつっこまれる。
「ゆ゛っ、う」
男が最初に出会った村民より若い村の青年だ。
青年は辺りを見回して言う。
「一匹か?たしか今回声掛けたのはまりさとれいむの二匹だと聞いたけども」
これは村のゲーム。
村の殆どの人が作物を守るためのゆっくり駆除から転じて
ゆっくり殺しに愉悦を感じてしまったことを発端とする。
ほぼ毎日、早朝に山へ赴いた村人が帰り際にゆっくりに声を掛ける。これは男が世話になった老人が主に担う。
この日は老人が男に付き添っていたので、昨晩老人が代わりを頼みに出向いた家の男が早朝山に登った。
その内容は概ね男の想像通りで、話を聞いてゆっくりの自慢する部分を褒め讃え、特別扱いをして村に呼び寄せるのだ。
この流れをスムーズにするために村の外での行動は徹底的に制限している。
しかしその内容は男の想像を超える。
この時声をかけた個体と数などの特徴は村の皆に伝える。
呼び寄せたゆっくりを潰したものが勝ち。
潰したシチュエーションなどによって得点も決められている。
結構な本気なのである。
そして個体披露の後は村人は通常通りすごして運良く見つけることを期待したり、待ち伏せたり。
森からの入口近くの野菜は甘言に含まれるため、鉄板だが得点は低い。
まれに昨夜の納屋で寝過ごしたれいむのような個体もいるので待ちぼうけを食らうこともある。
大抵、その日の午前中にケリがつく。
稀に出る納屋のれいむみたいなのものは「はぐれ」と呼ばれ、伸びた時間の分得点が高い。
更にたまに出る全く関係ないただの野菜泥棒ゆっくりも点数がつく。
全て自己申請だがごまかしたところで何も良いことはないので誰もやらない。
この点数の多寡で何かが決まるわけでもない。
村民の村民による紳士淑女のスポオツなのだ。
青年は関係ないゆっくりかと思い少し様子をみる。
予想通り、まりさはすぐに声を上げた。
「なにをするのぜ!まりさはとくべつにここへよばれたのぜ!
おやさいさんはまりささまのものなのぜ!」
これまた予想通り。今回の得点と虐待権利はいただき、というわけだ。
「んでもれいむが一緒だったろお前?どこいった? 」
まりさはめんどくさそうに答える。
「あんなれいむ、どうでもいいのぜ!
ここにきたらころされる、なんていってたじじいにつかまったのぜ!」
青年は眉を寄せてまりさを見つめる。
「……昨日の来たって言うにいちゃんかなぁ。爺さんが気付いてるかもなんて言ってたしなぁ。
はずかしいこった」
そして、長い竹串をゾロリと取り出して、鼻歌まじりで言う。
「自慢出来た趣味じゃねぇが、好きな~もんは~仕方ねぇ~、と。
今日はよそもんの兄ちゃんもいねぇし、じっくりやらせてもらうかねぇ」
竹串による、「どっきりまりさの黒ひげ危機一発」が開始された。
まりさは縄で口の上あたりを縛られ吊るされる。
「おいじじい!さっきからいってるのにきこえないのかぜ!
まりささまはえらばれたとくべつなゆっくりなのぜ!」
無視して吊るす。
「よし出来た。よく聞けまりさ。お前はだまされたんだ。
此処にはお前の食べられるお野菜さんなんて無いし、
見つかった瞬間に捕まってこうやって殺される」
まりさはまくし立てられる言葉に追いつけない。
「ゆ……?」
青年は竹串をびよんといじるとまりさの口の下にそっと押し当てる。
そして少しづつ、力を入れる。
まりさは良くない感じに、思わず声を出す。
「なにしてるんだぜ!おいじじい!やめるんだぜ!
まりささまはとくべつなんだぜ!」
青年は手を止めずに言う。
「うん―まずそこだなぁ。じっくり説明しよう。たしかに特別だよお前は。まりさ」
竹串が突き抜けるかどうかギリギリの所で、青年は力を入れたり抜いたりする。
「ちくちくするのぜ!やめるのぜ!だからさっきからいってるのぜ!
とくべつにおやさいさんをたべていいまりさなのぜ!」
青年はまりさの語尾にかぶせるように言う。
「いいや、おまえは騙されたまりさだ」
そのまま、竹串で貫く。
勢いをつけて折れないよう、慎重に背中の皮も貫く。
「ゆ、っっっっっぎゃあああああああああ」
まりさはこの世の終わりとばかりにぐねぐねと暴れまくる。
青年は呆れて言う。
「まーだいっぽんめだぞ。がんばれー。
あとほら、ただの竹串だからな、そんな暴れると」
言うやいなや、竹串がまりさの中でミチミチと音を立ててささくれていき、へし折れた。
「ゆっぎぃいいい!!いたいのぜいたいのぜ!!
じじい!いまならゆるしてやるからはやくとるのぜ!!」
自らの動きで増幅された痛みがまりさを襲う。
青年は何かを思いついたように次の行動に出た.
「よし抜けたぞ.これで許してくれるのかね」
青年は素早く竹串を両側から抜いた。
「ゆ゛っ、そんなかんたんにゆるせるわけないのぜ!!
あまあまさんをもってきたらゆるしてやるのぜ!!」
青年は半笑いでまりさに言う。
「さっきは今なら許してやるから抜いてくれ、と言ったじゃないか」
まりさは傷の痛みに耐えながら激昂する。
「きがかわったのぜ!あまあまをついかするのぜ!」
男は少し考えてまりさに向かう。
「あまり面白くないな。話が進まん」
青年はさらに竹串を用意して言う。
「いつもどおりダイナミックに行こう。じっくりやっても、いまいちだ」
青年は言って、次々に竹串を刺す。
慎重に大胆に、乱暴に。
四方八方から串を刺して、中枢餡に刺さったら終わり。
昔のゲームを模した単純な虐待だ。
二十本を過ぎた辺りでまりさの言葉が少なくなる。
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ぎっ、いだいよ、じじい、とれぇ、これとれぇ」
青年は呆れて言う。
「その汚い口調をやめれば抜いてあげるよ。どうだい?」
まりさはすこし考えてから、言った。
「おでがいじまず、にんげんざん、ゆっぐりでぎないんでず、ごれどっでぐだざい」
青年の即答。
「いやだね」
まりさはきょとんとして、
「うぞづぎぃいいいいいい!!」
と、叫んだ。
「だから、
最初から嘘でここに呼んだろ。
いまさら何を言うんだ。
間抜け」
そういって死ぬまで突き刺すことにした青年。
四十二本目でまりさは変な叫びを上げて、死んだ。
新記録だった。
男は後ろを向いてブルブル震えているれいむをおろして言う。
「お前はこれで終わりだ。村に行くのも群れに戻るのも止めない。
ただ、さっき言った、村に行くと死ぬのは本当だ。
お前は群れに戻って村には行かないよう群れに伝えるのが正解だとは思うな」
れいむは俯いて言う。
「ゆぅ……でもだれもしんじないよ。れいむはむれではあまりすかれてないんだよ」
男は聞いて一瞬、言葉に詰まる。
そんな境遇をゲスまりさに利用されたのだろうか。
「まあ、お前がどうするかなんてどうでも良いんだ本当は。したいようにすればいい。
俺は村にも世話になってるからな。これ以上は何もしない」
れいむは語らない。
男は続ける。
「ただ、れいむ。おまえは、群れの仲間が無為に死ぬのを止められる可能性を手に入れたって事を、忘れるな。
……ちょっとカッコつけてわかりづらい言葉使ったか。すまん。
まあ、あれだ、ゆっくり出来そうなやつには、ゆっくりしていってね、と言ってやれ。
そうじゃなさそうなやつには何も言わずに逃げろ。それだけでいいよ」
うつむいたままれいむはこたえる。
「なんとなくわかるよにんげんさん。ありがとう。れいむはむれにもどるよ」
男はれいむを見て頷く。なんとなくだがこいつはもう大丈夫だろう。
「じゃあ、ここでお別れだ。れいむ」
言ってさっさと進む男。
しばらくして後ろから声をかけられる。
「にんげんさん!!ゆっくりしていってね!!」
男は目を丸くしてれいむを見る。
「ああ、ゆっくりしていってね」
結局、二週間探してみたけれど、原初ゆっくりなんてものは見つからなかった。
社長はがっかりしていたけれど、俺は何とも思わなかった。ボーナスが惜しいとは思った。
あの爺さんの言う通り、ひとつの言葉しか使わないゆっくりなんて、つまらないかもなぁ。
ゆっくりを率先して潰したいとは思わないが、別に潰す人を嫌悪したりはしない。
でも、躾けられてこちらの言う事を聞くゆっくりは、可愛いと思うし、結構好きなのだ。
終
過去作
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- 原始ゆっくりってどうなったんだろう?
不死なのに今はいないって不思議~?(国家研究機関に捕まった?)
※野良は絶滅させる気でやらないと、日本で農業できなくなるぞ?
現実問題、外来種で在来種が絶滅しそうなのに。 -- 2018-01-05 23:21:10
- ↓↓農作物への被害を防ぐための駆除ならともかく、遊び目的で虐殺するような連中の都合なんて考える必要ねーよks -- 2012-09-21 16:57:16
- 原初のゆっくりって、分裂で増えるし、そも「不死」じゃなかったか?
アンパンマンみたいに顔を割って「死なないおたべなさい」ができるようだし。
潰しても潰れないというか、潰れても「おおひどいひどい」とか言ってすぐ元にもどるはず。 -- 2012-09-14 11:20:44
- お兄さんのゆっくり好きを否定する気はないが、村の邪魔をして、しかもその邪魔の仕方が「自分やさしいですぅ」
って感じで殺したくなった。実際にあっても殺さないけどね。 -- 2011-10-24 15:44:47
- 中々面白い村だなw
青年も余計な事を… 人間よりゆっくりの味方するなよーw -- 2010-12-05 08:56:09
- ↓制裁派にはそうかもしれないが俺としては意外とそんなこともない -- 2010-12-01 03:51:48
- たしかに原初のゆっくりっていじめがいも愛でがいもないよなあ。 -- 2010-09-01 22:21:28
- とても興味深いお話でした。
ゆっくりありがとう! -- 2010-07-06 13:32:56
最終更新:2010年03月19日 10:25