親の顔を見てやりたい 49KB
制裁 ゲス ドスまりさ 希少種 うんしー 群れに闖入したゲスれいむ
親の顔を見てやりたい
ある森の奥にひとつのゆっくり里があった。
通常、ゆっくりは家族単位でバラバラに暮らす。
ゆっくりが群れを形成するためには、中心となる存在が必要となり、その存在の影響力が群れの規模を決定する。
最大規模となるのは言うまでもなくドスまりさの群れだ。
ドスはその武力、統率力に加えてゆっくりを集めたがる傾向があり、ドスあるところにはほぼ必ずゆっくりの群れがある。
だが、ごく稀にだがドス以外のゆっくりが長となって群れを形成することがある。
この群れはゆっくりえーきによって治められていた。
えーきは『仕切りたがり屋』な性質があり、そういう点では群れを形成しやすそうだが、
実際にえーきによる群れが発生することはほとんどない。
ドスまりさのような武力がないからである。
武力がないものの言うことなど誰も耳を貸しはしない。
この群れも、もともとはドスまりさが治めていた。
だが、そのドスは人間たちとの外交にしくじり、殺されてしまったのだ。
ドスは人間にも勝てる(ことがある)という卓越した能力を持っているが、かけひきに関しては全然駄目としか言いようがない。
そうして群れは散り散りになったのだが、えーきを中心に何家族かのゆっくりが集まり、縮小再形成された群れが発生した。
かつてドスはこのえーきを自分の片腕として、裁判官として起用していた。
普段から「えーきの言うことをドスの言うことのようにゆっくり従ってね」と含めていたので、ドス亡き後もえーきに従い続けるゆっくりが残ったのだった。
ともかく、このえーきはドスの威光のいくばくかを継承することに成功したのだ。
希少種といえど通常種よりわずかに知能が優れている程度である。
到底ドスのようにがっちりと群れをまとめ上げることなど到底できはしない。
えーきは日々裁判に忙殺されていた。
群れのゆっくりたちはドスから継承したえーきの掟を破り、揉め事を起こし、しばしば争いあった。
とはいえ、えーきが裁きを行えばゆっくりたちもとりあえずは従い、
えーきの判決に異を唱えるものも有罪とされたゆっくり以外にはほとんどいなかった。
ゆっくりたちがこの手の事柄に極めて疎かったためであった。
ゆっくりたちは善悪の概念が曖昧だ。ゆっくりできることが善で、ゆっくりできないことが悪、そんな程度のものだ。
だからえーきに反論しようにもその根拠がない。抗弁しようがないのだ。
しかし、その日の裁判は普段と様子が違っていた。
被告人は群れのゆっくりではなく、外からやってきた見知らぬゆっくりだったからだ。
「だぜぇぇぇぇぇぇぇ! だぜぇぇぇぇぇぇぇ! でいぶをごごがらだぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
森の開けた場所、中央に開いた穴の中にれいむ種ゆっくりが囚われている。
穴の側にはえーきと護衛のゆっくりたちが控えている。
群れのゆっくりたちは少し離れて取り巻き、裁判の成り行きを見守っている。
そのれいむは大きなゆっくりだった。大きいというか太ましいというか……。
れいむは身をもがき、涎を吐き散らしながら出せ出せと喚き散らしている。
「静粛に! 静粛に! これよりゆっくり裁判をゆっくり開廷します!」
「だぜぇぇぇぇぇぇぇ! だぜぇぇぇぇぇぇぇ! 穴がらだぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
れいむ以外は押し黙った。
「被告見知らぬれいむは、この里に押し入り、里のありす一家六ゆを殺害し、食料と宝物を強奪しました。
群れのゆっくりたちの証言からこのことは明白です。被告ゆれいむ、この事実をゆっくり認めますか?」
「ふん! あのありすがグズなのが悪いんだよ! ゆっくりさっさと食べ物を頂戴ね、宝物も頂戴ね、ついでにおうちを明け渡してねっていっただけだよ!
れいむがよこせっていったらさっさと渡さなきゃだめでしょぉぉぉぉぉぉ! かわいいれいむがゆっくりできなくなるでしょぉぉぉぉぉぉ!」
「被告ゆれいむ、あなたはなぜそのような凶行に及んだのですか?
あのおうちも財産もありす一家のものであり、あなたには一切手出しする権利はありませんよ?」
喚き散らすれいむの醜さに顔をしかめつつも、えーきは努めて冷静な声色で動機をたずねた。
「れいむちゃんとおうち宣言したもん! みんなに聞こえるように大きな声でおうち宣言したもん!
ここはれいむのおうちだよ! グズどもはゆっくりさっさと出ていってね!ってね!
おうち宣言したんだからおうちも中にあるものもぜーんぶれいむのものに決まってるでしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
そんなこともわからないの? ばかなの? しぬの?」
れいむの傲岸不遜ぶりにえーきは吐き気がする思いだった。
(これほどのゲスがこの世に存在するなんて……。どうして通常種からはこういうゴミクズが生まれるんだろう……)
えーきは内心では通常種(れいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりーなどの個体数が多いゆっくり)を見下していた。
通常種は希少種(えーき、ゆうか、かなこなどの個体数が少ないゆっくり)に比べて知能が低く、掟を破りやすいと考えられていたからだ。
以前仕えていたドスまりさもしばしば通常種のことで愚痴をこぼすことがあり、えーきもドスと同意見だった。
里で問題を起こすのはほぼすべて通常種だった。まったく命令を聞かない、あるいは聞いた振りをして実際には従わないゲスゆっくりたちも、ほぼ必ず通常種から発生した。
通常種は劣等種──希少種の間では多かれ少なかれ共通認識となっていた。
しかし酷いゲスであることを除いても、このれいむには特異な点が多かった。
まず体が大きいこと。これは相当栄養が充実しているということである。
おそらくは今回のありす一家のように出会ったゆっくりから食料を強奪して回った成果なのだろう。
このれいむの余罪は相当なものと思われる。
またもうひとつは喧嘩が強いこと。
ありす一家はこの群れの中でもかなり屈強な部類に入った。
そもそもありすという種自体、レイパー化現象が示すとおり、潜在的に体力に優れた種である。
しかも、このありす一家は巣立ちを控えたほぼ成体のゆっくり姉妹が四ゆもいたのだ。
れいむの証言が正しいなら、れいむは最初におうち宣言をした。
ということは不意打ちではなく、正面からの戦いでこの一家六ゆを皆殺しにしてのけたということになる……。
このれいむを捕らえられたのは、えーきが策を弄したおかげだった。
囮のゆっくりをもって甘言で惑わし、落とし穴にはめたのだ。
単に真正面から捕り手を放っていたら返り討ちにあったかもしれない。被害が出ていたことは間違いないだろう。
通常種といえども無駄に損傷させるのは知的なえーきの好むところではなかった。
この更正など到底不可能であろうゴミクズゲスのれいむをすぐさま殺さず、裁判にかけたのは理由があった。
えーきはこの異質なれいむの背後を知りたかったのだ。
「被告ゆ、あなたにも家族はいるのでしょう? あなたの家族が殺されることをゆっくり想像してみなさい。
殺されたありす一家の痛みがあなたにはわからないのですか?」
「家族ならお父さんがいるよ! すっごく強いまりさお父さんだよ! おまえらグズどもなんかゆっくりする間もなく叩き潰せるよ!
早くれいむを解放して、たくさん食べ物と宝物をくれないとお父さんとっても怒るよ!
お父さんはれいむのことが大好きで、れいむをいじめるやつを全員すごくゆっくりできない目にあわせるんだよ!
おまえら全員ゆっくり地獄逝きだよ! ゆふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇ!」
家族の話を振ってみると、れいむはまるですでに助けられたかのように得意げに話した。
(まりさ?……まさかドスまりさじゃないでしょうね……)
ドスは子供を産まないというが、養子ということもありえる。
いずれにせよ、このれいむの親まりさは相当なゲスであることが伺える。
そして、すっごく強いというのもはったりだとは言い切れない。ドスの可能性を抜きにしてもだ。その子供であるれいむがこれほど剣呑なのだから。
そのゲスまりさに被告ゲスれいむ以外にも子がいるのだとしたら……家族を形成していたならば……ちょっとした戦闘集団ということになる。
えーきは未知なる敵の姿を思い描いて戦慄いた。
(早急に対策を立てないと……最悪里を別の場所に移すことになるかも……まず敵の実態を調べて……)
「被告ゆの父は今どこにいますか? 参考となる発言を聞きたいので今すぐゆっくりこの場に出廷できますか?」
「れいむのお父さんはどこにだっているよ! いつだっているよ! 今すぐここに助けに来てくれるよ!
お父さん! 早くゆっくり今すぐ急いでれいむを助けてね! このクズカスうんうん雑魚どもをマリスラでボコってズタボロにしてやってね!」
れいむはえーきへの暴言と父への嘆願を喚き続けたが、しばらく待ってもれいむの父とやらは現れなかった。
(本当にこの場にいるならすぐにでも現れるはず。父親の存在自体この出来損ないの妄想の産物なのかも。とりあえず周辺の警戒は続けさせて……)
「被告ゆれいむ、あなたはとてもすごくあまりに反省してなさ過ぎる。ゆえにあなたの罪は許しがたい。
判決! 被告ゆれいむは死刑! うんうん漬けの刑に処するものとする!」
「異議なし!」
「異議なしだぜ!」
「異議なしだよ!」
広場中に異議なしコールが沸きあがった。群れ全体がれいむの処刑に同意していることは明白だった。
「ゆあああああああああああああ! ゆああああああああああああああ! だずげでええええええええええええええ!」
「刑はこの場で即時ゆっくり執行されるものとする! 以上ゆっくり閉廷!
この狂ったれいむからはこれ以上の情報を引き出せないと判断したえーきは、とりあえずゴミクズに当然の報いを与えてやることにした。
「ごごがらだぜぇぇぇぇぇぇぇぇ! おりでごぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「死刑執行!」
前もって食いだめさせておいた群れのゆっくりたちが、れいむの囚われた穴に向かって一斉にうんうんを放出する。
「これでも食らえゲスれいむ!」
「うんうん地獄でゆっくり反省していってね!」
「ゆげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ぐざいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
穴の中には次第にうんうんが溜まっていき、れいむは大量のうんうんに押しつぶされる。
「ほれほれゆっくり急いでうんうん食べないと溺れちゃうんだぜぇ?」
「いい気味だね! ゲスに相応しいゆっくりできない末路だね!」
「ぐざいぃぃぃぃぃぃぃ! ぐざいぃぃぃぃぃぃぃ! おどうざんだぢゅげじぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
完全にうんうんに没すると、れいむの喚き声も次第に小さくなっていき、やがては完全に途絶えた。
(正義は為された……ゆっくりの神よ、このものの魂をゆっくり地獄で更正させたまえ……)
正義を執行するときほどえーきの心が満たされるときはない。
この世には過ちが多すぎる。
それは頭が悪く、神を敬わず、品性のない通常種ゆっくりたちに由縁する。
だが裁判で過ちが正せる。悪を制裁することができる。
いつかこの世からすべての過ちが駆逐されるとき……ゆっくりの天国が生まれるのだ。
──えーきはそう確信していた。
夜、えーきは自分の巣穴の中で書類(といっても葉っぱに印をつけただけのものだが)を整理していた。
整理しながら明日予定されてる数多の裁判について考えをまとめていく。この世には裁かなければならないことが多すぎる。
だが、考えは次第にあらぬ方へと漂っていく。──処刑されたゲスれいむとその父親のことに。
(すべて取り越し苦労であればいいんだけど……)
念のため、里の警備は普段よりも厳重にしてある。
周囲に偵察ゆっくりを放ち、なにか少しでも変わったことがあるなら報告させることにしている。
これらのしたっぱたちは所詮通常種なのであまり期待はできないが……。
(もしれいむの父まりさがドスなら真っ向勝負での勝ち目はない。でも人間たちを炊きつけることができるかもしれない)
人間はドスをも殺したゆっくりできない連中だが、こういう目的でなら使えるだろう。
(人間はゲスなドスを殊のほか嫌うはず……。うまく潰し合わせて……)
うまくいけば漁夫の利で人間の財産を得られるかもしれない。そこまでいかなくとも、生き残るための手段として悪くないはずだ。
(まあ、相手がドスであればの話だけれども……)
ただのゆっくりならばいかにゲスであってもそれで人間を動かすのは難しいだろう。
もちろん、人間の村にまで来て畑でも荒らしたならば対応するだろうが……。
(あのゲスれいむ、あれほどのゲスなのに今まで生き残れたのは何故だろう?)
あれほど傲慢なら誰かの不興を買って、遠からず報復されるはずだ、とえーきは考えた。
多少喧嘩が強くてもゆっくり一ゆの生存能力など限られている。あんな敵ばかり作るような生き方ならばなおさらだ。
(きちんとしたゆっくりの群れに会わなかった? 寛大な人間にしか会わなかった? 悪運が異様に強かった?
やはり父親はドスなのだろうか? ドスに庇護されていた……今も? ならなぜ現れなかった?)
れいむの証言から過保護な親であることが伺えた。ならば愛するれいむをみすみす死なせるとは思えない。
たとえ数の差で無謀と思われても必ず乗り込んでくるはずだ。──その場にいたのならば。
もしドスならば、あの場にいたのなら絶対にわかるはずだった。
極めて特異だがドスの中には他者から姿を見えなくさせる能力を持つものがいるという。
だが、その能力はゆっくりできない存在にしか通用しないのだ。──えーきの知っている伝承の通りならば。
(となると結論は……)
あのれいむはかつてドスと思われるまりさに庇護されていた。
そのドスはすでに死亡していると思われるが、れいむはそれにも関わらず傲慢に振舞い続けていた。
愚かな通常種らしい行動である……。
えーきはそう結論付けた。やや希望的観測が入ってはいたが、あまり思い悩んでも仕方がない。
(でも、あのゲスれいむの親の顔が見れなかったのは残念ね。どんな醜い姿のまりさなのかしら……ゆふふふ!)
「さあてそろそろゆっくり寝ようかし……ん!?」
えーきの巣穴の中になにか丸いものが転がりこんできた。
対応する間もなく、丸いものは猛烈な勢いで煙を噴出しだした。
「なにこれぇ! 誰か! 誰か! 助けてぇ!」
えーきは助けを呼びつつ、巣穴から出ようとしたが、急激に動きが鈍くなった。
(うご……けな……い……、い……し……き……が……)
えーきは目覚めると、まず自分が外に出ていることに気がついた。
どうやら里から少し離れた森のどこかのようだった。
また、蔦のようなものでかんじがらめにされていることにも気がついた。
「ゆぅぅぅぅぅぅ! ゆぅぅぅぅぅぅん!」
どんなに力をこめても動けない。
仰向けにされて、平らな石のようなものに紐でくくりつけられてるらしかった。
「よお、お目覚めか?」
ずいぶん上の方から声がした。
「ゆゆ! 人間さん!?」
声の主は人間だった。
「あ、あの……えーきに何か御用ですか?」
賢い希少種であるえーきは人間は怒らせないほうがいい存在だと知っている。
無駄につっかかって怒りを買う愚かなゲス通常種とは違う。
「なにが御用だゲスカス饅頭!」
「ゆひぃ!」
人間は唐突に怒鳴った。えーきは恐ろしさに餡を吐き出さんばかりだ。
「こいつを見やがれ!」
そうして人間がえーきにつきつけたのは……リボンだった。
かなり臭いリボンだった。
「こ、これは……!? まさか!」
それは今日処刑されたゲスれいむのリボンだった。
通常よりも大きめな上に、うんうん塗れになっていたのだからすぐわかった。
「このリボンの持ち主を殺したのはおまえか?」
「は……はい、えーきがやりました……」
実際にはえーきの従者たちが下手人とも言えたが、えーきは素直に答えた。
そのようなまぜっかえしはこの人間──怒りを湛えた危険極まりない──を無意味に刺激するだけだろう。
「人間の飼いゆっくりだとわかってやったのか?」
「か、飼いゆっくり!?」
思わぬ成り行きにえーきは絶句する。あのれいむが、あのゲスれいむが飼いゆっくり? 一体なんの冗談だというのだろうか?
「ちゃっちゃと答えろ!」
「い! いいえ! いいえ! 知りませんでした!」
「知らねえわきゃねえだろ! バッヂがついてんだろが!」
「ゆええ!?」
人間が示して見せたリボンにはたしかに金のバッヂがついていた。
かつて村と協定を結んでいたドスの里に属していたえーきは、それが何なのかわかった。
飼いゆっくりと認められたゆっくりにのみ与えられる印だった。
「そ、そんな……」
よく調べれば見つけられたかもしれなかったが、あのれいむは落とし穴にはめられたまま裁かれ、処刑された。
わざわざ穴の中に降りていって調べるものがいるはずもない。
「まあ、普段は偽装してるからぱっと見じゃわからんかもしれんが、よく調べれば必ず見つかったはずだ。
おまえら饅頭どもは飾りにやたらうるせーからなぁ」
「ゆぅぅ……」
今更悔やんでも遅かった。
あのゲスれいむが特異な存在であることはわかっていたのだから、その身体も徹底的に調べるべきだったのだ。
「あ、あのあなたがあのれいむのお父さ……」
「ああそうだよ! あいつは俺の子供も同然だったんだぞ! どんだけ苦労して育てたと思ってんだ!」
よく見てみるとこの人間は頭につばの広い帽子を被っていた。──ちょうどまりさ種がつけてる飾りのような。
まさか『まりさお父さん』の正体が人間だったとは……。
そういえば、人間がゆっくりを飼うとき、馴染ませやすいようにゆっくりの飾りを模したものをつけることがあると聞いたことがある。
『ぶりーだー』と呼ばれるものたちがそういう手を使うらしい。
「な、なんで飼いゆっくりが森をうろついているんですか!?」
えーきがもっとも解せない点はそこだった。飼いゆっくりとは人間の暖かく安全なおうちでゆっくり過ごすものと相場が決まっていた。
「人がどうゆっくりを飼おうと勝手だろうが! てめえ人間様に意見すんのか!?」
「い、いえ! でも、それじゃあのれいむはゲスいえ! ゲスなゆっくりに人間さんのれいむがいつ殺されてしまうか……」
「ああ、たしかに殺されたな。ゲスなおまえらにな!
……野に放しているといっても、普段は常に監視している。おまえらには理解できんだろうがこのバッヂにそういう機能があるんだよ。
だが、あのときは不意に受信機が故障したんだ……やっと修理してれいむを探し出したと思ったら……」
人間は小刻みに震えている。
可愛がっていた飼いゆっくりを見つけたらうんうん漬けの死体となっていた。──えーきは人間の怒りのほどを想像して総毛立つ思いだった。
れいむが言っていた『お父さんはどこにでもいる。いつでもいる』は妄想ではなかった。本当のことだったのだ。
気がついたときにはすでに手遅れだったが。
「で、なにか言いたいことはあるか?」
人間は瞳に強烈な殺意を湛えていた。
直視しがたいものであったが、えーきは勇気を奮い起こした。
抗弁する機会を与えたということは、まったく話の通じない人間というわけではないはずだ。
理を説くのだ。
あのれいむを殺さざるを得なかった事情を話すのだ。それしか生き残る道はない。
賢いえーきは人間の恐ろしさを知っていた。その気になれば自分だけでなく里をも滅ぼすかもしれないのだ。
戦ってはだめだ。話し合うのだ。
「あ、あのれいむは……その人間さんの飼っていたれいむは……すごくゲスだったんです!」
「俺のれいむがゲスだとぉ!」
「ゆひぃ! だ、だって群れのゆっくりをたくさん殺したんですよ! 食べ物を盗んでいったんですよ!
まったく反省しなかったんですよ! えーきたちは被害者なんですよ! 公正な裁判をしてみんな処刑に賛成したんです!」
あなたのしつけがなってないせいだとも付け加えたかったが、そこまでの勇気はなかった。
「ハァ? 何いってんのおまえ?」
「ゆぇぇ?」
「ゆっくりを殺した? 食べ物を盗んだ? 私たちは被害者? それがなんだというんだ?」
「そ、そんな……」
この人間は悪人──ゆっくりでいうところのゲスなのだろうか? だとしたら何を言っても無駄だ。えーきは絶望に囚われた。
「おまえ、鳥が虫を食べたらどう思う?」
人間は唐突に奇妙な問いを放った。
「ゆえ? 鳥さんが虫さんをむしゃむしゃ? ……いえ、なんとも」
「じゃあ、その鳥を猫が食ったらどうだ?」
「ええ……よくわかりませんが……」
「理不尽だとは思わないのか?」
「当然のことだと思います……」
動物が捕食するのは当然のこと。人間はそんな当然のことを理不尽に思ったりするのだろうか? えーきにはわけがわからなかった。
「じゃあれいむも悪くないな。自然界では弱肉強食が唯一の掟だ。鳥が虫を食うようにな。おまえらもそうやって生きてんだろ?
れいむに殺された雑魚ゆっくりどもの方が悪い!」
「そ、そんな! た、たしかに強い動物は弱い動物を食べるけど……でもえーきたちは仲間なんですよ!」
「同族同士で食らうことも普通にあるだろが! 人間だってそういうやつらがいるんだぞ。
おまえらゆっくりは人間よりお上品でお高級だって言いたいのか?」
「い、いえそんなことは! で、でも……人間さんが人間さんを殺したら悪い人間さんですよね?」
えーきはなんとか食い下がる。ここで言い負かされたらどんな理不尽な目に合わされるか……。
「ああ、そうだな。俺らの界隈ではな。で?」
「それはなんでなんですか?」
「簡潔に言えば、それが社会の法律だからだ」
「しゃかい……? あ!」
えーきは思い出した。社会というのは人間にとっての群れのようなものらしい。そうドスが言っていた覚えがある。
「それならえーきたちにも群れの掟がありますですよ! 人間さんの社会みたいなのがあるんですよ!
あのれいむは掟を破った悪いゆっくりだったんです!」
「ふーむ。そういやさっき裁判がどうとか抜かしてたな。
なるほど、おまえらの群れには文明があり、法によって治められており、弱肉強食の自然界ではないと言いたわけか?」
「は、はい! たぶんそんな感じです!」
説得の糸口を見つけられえーきの心に希望の火が灯った。やっぱりえーきの話を聞いてくれる人間だったんだ、と。
「そうか……それじゃいよいよ許せねえな!」
「ゆぇぇぇぇぇぇ!」
「裁判とやらで、群れの総意とやらで俺のれいむを理不尽なリンチにかけたのなら……おまえらますます許せねえな!」
「な、なんでそうなるんですか! あのれいむはえーきたちに酷いことをしたんですよ! ゲスだったんですよ?
人間さんで言えば犯罪者なんですよ!」
「饅頭の分際でいっちょ前に人間の言葉でたとえてんじゃねえ!」
ひゅん、となにかが風を切った。
「ゆげぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
えーきのむき出しの底部に火がつくような衝撃が走った。
「ゆぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん! ゆぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん! ゆるじでぐだざいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
どうやら鞭のようなもので打たれたらしい。えーきはあまりの痛みに希少種のプライドも気品もかなぐり捨てて泣き喚き許しを乞うた。
「ふん、れいむのうんうんほどの価値もないクズが……。
とにかく、おまえらの裁判ごっこはとても公正とは言えん」
「で、でもえーきの群れの掟はドスが作ったんですよ!
ドスは人間さんの村と協定を結んでいたんです! 人間さんも掟作りに参加したってことですよね!?
だったら、人間さんにとっても正しい掟じゃないでしょうか?」
「協定か。……正しく運営されていたならそう言ってもよかろう。だが、そうとは言えない理由がいくつもある。
まず第一に、おまえらが裁いたれいむは本当におまえらに被害を与えたゆっくりだったのか?
よく似た別のれいむ種だったかもしれんぞ? 証拠はあるんだろうな?」
「そ、それは……みんながあのれいむだって証言しました……」
ひゅん、再び鞭が風を切った。
「ゆんびゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「人間の社会でも誤認逮捕や冤罪はしばしばあるんだぞ! 貴様らゆっくりの証言など信用できるか!
物的証拠はねえのか? 髪の毛とか、表皮の破片とか、底部の型とかだ。リュウは? モンは? 何もないのか!?」
「わがんないでず!」
そのような科学的調査はゆっくりの文明レベルではあるはずもなかった。
「ほらな! 人間の社会でも偏見を持たれている人種の無実の人間が、いい加減な証言で何十年も拘留されたことがあったんだぞ!
おまえらは、れいむ種は取り柄のない無能だから罪を犯すとか思ってんだろ? 俺のれいむは唾液が多めだったからそれで偏見を持ったんだろ?
ハッ! 公正さのかけらもないたいしたリンチ裁判だな!
だいたい、バッヂに気がつかないってのがありえないんだよ。証言は信用に値しない。捕縛後の取調べも杜撰そのもの。
おまえ少しでも怪しいと思ったゆっくりはなんでも速攻で有罪にしてんだろ!」
「でも、れいむ自身が罪状を認めたんですよ! 自分でやったんだって!」
「それは平静な状態で引き出した自白なのか?」
「ゆっ……」
「お前ら可哀想なれいむを取り囲んで、よってたかって責め立てて、無理やり言わせたんじゃないのか?
ゆっくりできない状況に追い込んで言わせたんじゃないのか?
孤立無援でヤケクソになっちまったんじゃないのか? ええおい!?」
「そ、それは……」
たしかに、れいむは落とし穴にはめられていて、しかも食料は一切与えられていなかった。
周囲は群れのゆっくりたちが囲い込み、れいむへの呪詛を吐き散らしていた。
「人間の先進的な社会では拷問なんかとっくの昔に禁止されてんだよ!
不当な方法で得た情報や証言は一切認められねえんだ!
なにが群れの掟だ! 単に余所者をきまぐれに責め殺してみたくなっただけだろが!
俺のれいむが栄養充分で肌艶いいのを嫉妬したんじゃねえのか? おい!」
「ゆひぃぃぃ……」
「第二にだが、おまえのその掟とやらはいつ誰が決めた?」
「そ、それは前にも言ったようにドスが……」
「あの群れにドスはいなかったようだが?」
「ドスは殺さ、死にました。それでえーきが……」
「継承したわけか。で、その証は?」
「あかし?」
「おまえ以外に掟の内容を知ってるやつは?」
「おおまなかな事はみんな知ってますが、細かい部分はえーきだけです」
「人間の村とコンタクトはとっているのか?」
「いいえ……」
人間はドスを殺したゆっくりできない連中だ。必要がなければこちらかからは近づかない。
ドスが死んだ後、人間の方からもゆっくりたちに接触してきたことはない。
「ふん……チェックする第三者がいないってことはだ、おまえはその掟をいくらでも自由に作り変えられるわけだな!」
「ゆゆっ! えーきはそんなことしてません! ドスの教えを……」
「ハッ! 信じられんね。誰も証明するやつがいねえ。だいたいおまえ自身、その掟とやらを厳密な形で、
一字一句違えずに覚えてんのか? 掟を書いた文章なんかねえんだろ? ドスが最初に設定した通りに忠実に従ってんのか?」
「……」
そう問われると、えーきに自信はなかった。
そもそも、ドス自身臨機応変に(悪く言うとその場の気分で)裁いていた。
盗みをしたらどれぐらいの刑、殺しをしたらどれぐらいの刑、というような明確な基準はなかった。
そんなものなくてもゆっくりたちは納得する。なにせドスのご聖断なのだから。
えーきもドスの見よう見まねで今日までやってきたのだ。
「答えられないか。となれば意識的にも無意識的にもおまえは人間とドスが決めた掟を改竄してきたであろうと判断せざるをえないな。
気に入らないゆっくりを殺すためにその場で禁忌を拵えたりしなかったか?
欲しい宝物を没収するために即興で罪状を作ったこともあるんじゃないのか?
ええ、どうなんだ!?」
「ゆぅぅぅぅぅ……」
そう問われると、えーきの自信は揺るいだ。
そんなこともあったかもしれない。見た目の良し悪しで罪の軽重を決めたことがあったかもしれない。
欲しい宝物を持ってるゆっくりがたまたま罪を犯し、結果的にえーきのものになったこともある。
それが、作為的なものであったかどうか……そんな願望もあったような気がしてくる。
「それに、人間との協定が元になった掟なのに、人間に正しく運営しているかどうか監査してもらってない点も致命的だ。
ドスから群れ長の座を正式に引き継いでないことも含めて、これでは協定が存続しているとは言いがたい。
つまり、おまえらの掟は正当なものとは言い難い」
「そんな……」
だが、えーきに言い返すことはできなかった。
人間を避けていたのはえーき自身が決めた方針だったからだ。
「第三に、刑の不当な重さが気にかかる。
なぜうんうん漬けなんだ? どうしてそんな苦しく残酷で屈辱的な刑なんだ?」
「それは……えっと……掟の大切さをみんなに知ってもらうために……」
「つまり見せしめということか」
「はい……」
「まったく前時代的だな! 野蛮そのものだ。そうやって残虐な行為で威圧して群れを支配してるわけか?」
「だって通常種は、その……頭が悪いから……口で言っても……」
「ハッ! ついに本音が出たな! その偏見がおまえの本性そのものだよ。
そうやってゆっくりたちに劣等感を与え、優れたおまえが支配するのは正当だってごり押ししてんだろ!
本当は誰もおまえの支配なんか望んじゃねえんだよ!」
「違います! みんなえーきの裁判に賛成しています! えーきの掟を認めています! みんなのためなんです!」
「おまえの掟じゃねえだろ。ドスの掟だ。おまえが支持されてるんじゃない。ドスが支持されてたんだ。
おまえはドスの威光の名残りを傘にきて威張ってるだけにすぎねえ。
しかもドスほどのカリスマ性はないから、残酷さで無理やりゆっくりたちを押さえつけてるわけだ。
みんなのため? 違うな。おまえだけのためだろうが!」
「ちがうもん……ちがうもん……えーきわるくないもん……」
「まだまだあるが、もう充分だろう。
とにかくおまえらのは裁判じゃなくてリンチでしかない。でなきゃ野蛮そのものの生贄の儀式だ。
とても文明とは呼べん。公正とは言えん。
で、もう言うことはないのか? なければそろそろ……」
「ゆぅぅぅぅぅぅ! ゆぅぅぅぅぅぅ! ゆぅぅぅぅぅぅ!」
えーきは必死に知恵を振り絞った。えーきは懸命に考え続けた。
何かないのか。この人間を説得する方法は。
なければ群れが滅びる。自分も殺されてしまう。
「可愛いれいむ……。俺のれいむはただ自然のままに生きていたのによぅ……。
まあ、保護はしてやってたけどな。そりゃ親が子を助けるようなもんだ。不自然なもんじゃねえ。
クソ! 金かけてきっちり鍛えてやったんだ! よっぽどの大群か卑劣な手でも使われなきゃあいつは負けたりしねえ。
ドスの群れがあるところには放さないし、捕食種にも気をつけていた……。
前にふらんに襲われたときは危なかったなぁ。あのクソふらんは一年かけてじっくり苦しめて殺してやったっけ。俺のれいむを傷つけやがって……。
生きたままのゆうかを与えてやると大喜びして、ずっと遊んでたなぁ……。
ハァァァ……。グズえーきごときがいっちょまえにドスの真似事なんかしやがってよ……。
こんなクソ群れにひっかかりさえしなけりゃ……れいむ……俺のれいむ……」
人間のつぶやきを聞くほどに、えーきの恐怖は高まっていった。
やはりこの人間は普通じゃない。れいむが異常だったように、この人間も少なくとも変人であることは間違いない。
「俺のれいむ……森が大好きだったれいむ……。なにが群れの掟だ! こちとら自然の掟に従ってんだ!」
自然……? 掟……?
極限状況にあるえーきの餡子脳の中でひらめくものがあった。
最初はおぼろげだったが、考慮を重ねるにつれそれは次第にはっきりとした形を成してきた。
この人間は矛盾している!
ゆっくりであるえーきにもそれがわかった。
だが……その矛盾をついたところで、この人間を説得できるだろうか?
いや、何もしなければただ死ぬだけだ。どうせ死ぬのなら、その前に一度だけでも人間を言い負かしてみたい。
それは裁判官としての本能だったのかもしれない。
──えーきは決意した。
「異議あり!!!!!」
考えをまとめたえーきは唐突に大声で叫んだ。
「うわなんだよ! いきなり叫ぶんじゃねえ!」
「人間さんは矛盾しています! 人間さんは矛盾しています!」
「ああん? 俺の何が矛盾してるんだってんだ? 言ってみやがれ!」
「れいむは自然のままに生きていると言ってましたね?」
えーきは朗々と語りだした。
「ああ。おまえらせこい群れゆっくりどもとは大違いだ」
「そして、弱肉強食は自然の掟、正しいことだと言いましたね?」
「なにが言いてえんだ?」
「えーきたちの裁判は不当だと言いましたね?」
「そうだ。てめえらの裁判もどきは言語道断だ」
「えーきたちの裁判は文明的ではない野蛮だと言いましたね?」
「さっさと結論を言え!」
一呼吸おいて、えーきは一気に結論を叩きつけた。
「人間さんから言えばえーきたちの群れは文明的ではない、つまり自然ということです。
えーきたちは自然なんです!
だったらえーきたちも人間さんのれいむと一緒で弱肉強食の掟に従ってます!
つまり、自然のれいむと自然のゆっくり群れが戦っただけなんです!
人間さんが自然のれいむを悪くないというのなら、自然のえーきたちも悪くありません!
人間さんたちの掟とは関係ないんです! ゆっくりさっさとえーきの群れから出て行ってね!」
証明終了。
えーきは感無量だった。
人間を言い負かした。完全に論破してやった。もう死んでもいいぐらいの満足感を得られた。
だが人間は……ほくそ笑んでいた。
それは、えーきの予想した反応とは違った。
悔いるという反応が理想的だった。恐れていたのは怒りだすことだったがそれとも違う。
「いやあ、なるほどなるほど。こりゃ一本とられたわ」
人間はいかにも感心したような口ぶりだが、その冷笑は明らかにえーきを嘲っていた。
「そうだそうだ。まさにおまえの言うとおりだ。自然のれいむに自然のゆっくり群れ……クククク!」
えーきは人間の真意を測りかねて困惑した。
「ハハハハ! アハハハハハハハハハ! ハーッハハハハハハハハハハハハ!」
人間はやにわに大笑いした。えーきは思わず身震いする。
「おまえら皆殺しだな」
笑い止んだ人間は実に静かな口調でそう告げた。
「どぼじで……どぼじで!」
人間はいわゆる逆ギレ状態に入ったのだろうか? いや、怒ってるのとはなにか違うようにえーきには思われた。
とにかく得体の知れない不気味さがあった。
「たしかにおまえの言うとおりだ。ていうか俺も最初はそうだと思っていた。
数の暴力に騙し討ち、それらは弱肉強食の自然界では別に卑怯でもなんでもない。勝つためにはなんでもやる。それが自然の正義だ。
だから俺も、最初は群れ長であろうおまえを殺すだけで満足するつもりだった。親が子の仇を討つ、それは自然なことだろう?
だがおまえは唐突に裁判などと抜かしやがった! 公正な裁判だとよ!
その裁判とやらはまるでお話にならぬ無茶苦茶な代物。おまえが群れで好き勝手し放題するためだけの形骸どころか形すらない掟。
まあそれでもまだ最悪ではない。おまえらは餡子脳のゆっくりなのだから仕方がない。そういう独裁国家のような群れがあっても仕方がない。
無知な大多数のゆっくりに罪はない。だが長であるおまえと側近たちだけは殺す。悪の支配を終わらせるためにな。
その後群れは監視下におき、できるならば他のまともな群れと合流させるなどしてゆっくりたちを更正させる」
「だ……が……。
おまえは言を翻した。
自分たちは自分たちの正義に従ってると言い張っていたのに、それを捨てた。
いかに無茶なものであってもおまえがそれを命がけで主張し続けるなら俺はその道理を尊重するつもりだった。
歪んだ秩序の元にあるとしても、おまえたちを烏合の衆ではない、ひとつのまとまった群れとみなすつもりだった。
だがおまえは自らの道理を捨てた。
これが何を意味するかわかるか?」
「わかりません……」
「おまえらは自然のままのゆっくりではない。だが、人間と協調する理知的な存在でもない。
ではなにか?
ゲスだ! おまえらはゲスの群れだ!」
「ゆええええええ! どぼじで! どぼじでぞうなるんでずがぁぁぁぁぁ!」
唐突にゲス認定されてえーきは狂乱せんばかりだ。
「おまえたちは俺のれいむを殺した。飼いゆっくりは人間の財産。つまりおまえたちは人間の財産を損なったのだ。
だがもし自然ならば言い訳しない。自然の摂理に従った、それだけのこと。自然に償わせることはできない。
また理性あるならば言を翻したりはしない。きっちり話し合い、補償が必要ならばそれをする。そちらに義があるというならそれを訴え続けるがいい。
だがおまえは人間の財産を損なっておいて、補償をするつもりが一切なかった。
掟運用に関する不明瞭な点を追求されると自分たちは自然だと開き直り、掟がどこかに行ってしまった。
掟自体はたしかにある。それも人間との協定で作られた正当な掟がな。しばらく更新されてないようだが。
……だが、ある状況ではなぜか弱肉強食の自然界になる。掟に従った裁きが行われなくなる。
それはどういう意味か?
おまえらは俺のれいむを意図的に正当な裁判で裁かなかったということだ!
人間の飼いゆっくりは正当な掟で裁く必要はないとおまえは言ってのけたということだ!
つまりは、人間相手に掟を遵守するつもりはないということだ!
これは協定破棄そのもの。人間に対する宣戦布告に他ならない!
要約するならば『えーきたちはにんげんよりつよいんだよ! つよいからおきてをやぶってもいいんだよ! もんくがあるならゆっくりかかってきてね!』ということだ。
これがおまえたちの群れの総意だ!
人間に敵対的な群れ、すなわちゲス!」
「ぞんなごどいっでないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「いいや言った。
おまえたちのゲス性は極めて深刻だ。
なぜならおまえ自身が正当性の拠り所として、人間の村との協定を持ち出したからだ。
協定を持ち出しておいて、おまえはそれを捨てた。これは人間とのあらゆる協定を破棄するという意味に他ならない。
畑荒らし、おうち宣言、なんでもありだ。おまえたちとは一切約束事ができん。信頼に値しない。
俺のれいむを卑怯な騙し討ちにしたように、人間にも襲い掛かってくるかもしれない。その公算はかなり高い。
もう安心して森を歩くことはできない。どこにゲス謹製落とし穴が仕掛けられてるかわからんからな。いつうんうん漬けにされるかわからんからな!
これはもう全面戦争しかない。お強いお強いゆっくりさんたちは人間相手に弱肉強食を試してみたいそうだからな。
どちらかが全滅するまで安らげる日は訪れない。
徹底的な駆除だ! 一匹残らず逃しはしない! どこに逃げても必ず見つけ出す!」
「ゆっくり撤回しますぅぅぅぅぅぅぅ! えーきのさっきの言葉は間違いでしたぁぁぁぁぁ! ゆっくり忘れてくださいぃぃぃぃぃぃぃ!」
「駄目だな。おまえのような高い地位にある者は一挙手一投足に責任が付きまとうんだ。
人間の世界でもしょっちゅう舌禍事件が起きている。最近ではみくしいだのついつたあだの……まあそれはおいておこう。
おまえのダブスタ発言は人間の不思議な機械でちゃんと蓄えてあるぞ」
どこからともなく声が流れてきた。それはえーきの声そのものだった。
『えーきたちは被害者なんですよ! 公正な裁判をしてみんな処刑に賛成したんです!』
『それならえーきたちにも群れの掟がありますですよ! 人間さんの社会みたいなのがあるんですよ!
あのれいむは掟を破った悪いゆっくりだったんです!』
『で、でもえーきの群れの掟はドスが作ったんですよ!
ドスは人間さんの村と協定を結んでいたんです! 人間さんも掟作りに参加したってことですよね!?
だったら、人間さんにとっても正しい掟じゃないでしょうか?』
『えーきたちは自然なんです!
だったらえーきたちも人間さんのれいむと一緒で弱肉強食の掟に従ってます!
つまり、自然のれいむと自然のゆっくり群れが戦っただけなんです!
人間さんが自然のれいむを悪くないというのなら、自然のえーきたちも悪くありません!
人間さんたちの掟とは関係ないんです! ゆっくりさっさとえーきの群れから出て行ってね!』
「やめてね! えーきの声を返してね! 誰にも聞かせないでね!」
「いいや駄目だね。おまえは群れを背負っているんだ。それが長である責任というものだ。おまえの言動はイコール群れの総意だ。
さて、これから人間総力を挙げておまえらを潰すが、安心しろ。おまえだけは生かしておいてやる。
最後の最後まで生かしてやる。おまえの目の前で群れのゆっくりを一匹ずつ潰してやるよ。
えーきが人間さんに戦いを挑んだせいで殺されるんだってゆっくり理解させてからな!
ゆっくり地獄での再会が楽しみだなぁ!」
「ゆひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
ゆっくり地獄! それはえーきのもっとも恐れる単語だった。
もし、群れゆっくり全員が地獄の法廷でえーきに不利な証言をしたとしたら……善行を積んだ希少種であっても地獄逝きは免れない!
「お願いです! 人間さんお願いです! 群れのみんなをゆっくり助けてあげてください!
えーきはどうなってもいいです! 全部えーきが悪いんです! 群れのみんなは悪くないんです!」
「ほーう。身を挺して群れを庇うのか。暴君かと思ったが案外責任感があるんだな」
人間の感想は半分は正確だが、もう半分は間違いだった。
えーきの自己犠牲精神は、実のところ利己的な部分もあった。
ゆっくり地獄。
いつのころから言われだされたのか、正確にはわからない。
それはゆっくりにおける宗教の発生だった。
ドス、希少種らはこの宗教が群れの統率に役立つとすぐに理解した。
生物がもっとも恐れるものは死。死の恐怖は支配のためのもっとも基本的な道具といえよう。
死の恐怖を増幅させられるものがあるならば、積極的に利用されるのは必然だ。
神の存在が、ドスや希少種の優位性を証明する背景になるということもあった。
神が自分たちに特別な姿と権能を授けたのだから、通常種を支配するのは神の御心にかなった行為ということだ。
また、人間側もゆっくりたちのこのブームを察知すると、すぐさま利用価値を見いだし、様々な形で干渉していった。
ゆっくり地獄に落ちる要因となる罪科に、人間に迷惑をかけるという項目があるのはこのためだ。
宗教はいつでもどこでも強者の道具となる。
前述のように、希少種たちは熱心に布教していたが、それは同時に自分たち自身が率先して信仰することを意味していた。
最初は方便にすぎなかったゆっくり地獄は、いまや希少種たちにとって第二の本能とまでなっていた。
このえーきもゆっくり地獄を恐れていた。(えーき種とかなこ種は希少種の中でもとりわけ熱心な信者であることが知られている)
単なる死よりも地獄を恐れていた。
えーきにとって群れを救うために命を投げ出すことは、単なる自己犠牲精神ではなく理に適った行為だったのだ。
「ふーん。まあいいだろう。おまえの意地に免じて、群れのゆっくりどもは助けてやる」
「本当ですか!? ありがとうございます! ゆっくりありがとうございます!」
えーきは涙を流しながら感謝する。ゆっくり地獄から逃れられたという安堵感で一杯になった。
「だが、おまえには償ってもらうぞ。俺のれいむを不当に虐殺した罪、ゆっくりの群れを私物化し圧政を敷いた罪、
そして、人間に戦いを挑んだ罪だ。
さあ、群れのゆっくりたちをあの広場に集めるんだ」
人間はえーきの戒めを解いた。
えーきは物理的には自由になった。だが、魂に決してはずせない枷が取り付けられている。もはやどこにも逃れようがないのだ。
えーきは群れのゆっくちたちに触れ回り、広場に集まるように伝えて回った。
空が白み始めていた。
広場にはすべての群れゆっくりたちが集合していた。
いずれも落ち着かない面持ちだ。
なにせ、群れ長たるえーきの傍らに人間──ゆっくりできないものの代名詞──が控えているのだから。
えーきの表情も暗い。なにかよくないことがあったに違い。でなければ、これからおきるのか……。
ゆっくりたちは今すぐにも逃げたい気分だったが、群れに属しているゆっくりはなかなか群れから離れるという決断ができない傾向がある。
群れでの暮らしに慣れると一ゆ、一家族だけでの暮らしというものがとても不安に感じられるのだ。
しばらくして、えーきが話始めた。
「み、みんな……。えーきはとても悪いことをしました。今までとても悪いことをしてきました……」
「ゆぇぇー!?」
えーきは訥々と自己批判を始めた。
ドスと人間の掟を勝手に改竄したこと。
私腹を肥やすために掟を悪用したこと。
不当な裁判で罪のないゆっくりを虐殺したこと。
無謀にも人間に戦いを挑んだこと、などなど。
「えーきは悪くないよ!」
「ゆっくりと群れを治めていたよ!」
といった叫びもあった。えーきを崇めるゆっくりは少なくなかったし、傍らの人間の存在がいぶかしげだった。
えーきは脅されているのかもしれない、と思ったのだ。
だがえーきの告白を聞いているうちに、ゆっくりたちも本当にえーきが悪い群れ長だったような気がしてきた。
思い当たる節があったからだ。
刑死者の遺族もいたし、拷問的なきつい制裁を受けたものもいるし、宝物を取り上げられたゆっくりもいたのだ。
「それで……えーきは……」
「さっさと言え」
人間に則され、えーきは渋々とある宣言をした。
「えーきは今後お帽子を被りません!」
「ゆぇぇぇぇぇー!?」
群れゆっくりたちは驚愕した。
ゆっくりが飾りを外すというのは裸になるのも同然である。
飾りは個体識別の役に立つものなのだが、飾りなしのゆっくりというのはゆっくりから見てとても無様な、恥ずかしいものなのだ。
「おら、とっとと外しな」
「はい……」
えーきは帽子を外し、地面に置いた。
ゆっくりたちがゆーゆーと騒ぎ出す。直視できずに目を伏せるものもいた。えーき自身も俯き、顔を真っ赤にしている。
あのえーきが。
群れ長のえーきが、
裁判長のえーきが、
希少種のえーきが、
誇り高いえーきが、
憧れの的えーきが、
群れ中の信望を集めていたえーきが、
ただの通常種のそんじょそこらの十把一絡のゆっくりとは大違いのえーきが、
帽子なしのあられもない姿を群れの全員に曝け出したのだった。
「まだやることがあんだろが。さっさとやれ」
「ゆぅぅぅぅ……これだけは勘弁して……」
「嫌ならいいんだぜ。しかし地獄行く」
「わ、わかりました!」
えーきは自らの帽子を歯で引きちぎり始めた。
「ゆぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「えーきがおかしくなっちゃったよ!」
ゆっくりの飾り、帽子は唯一無二のものだ。一度失われたらもはや再生することはない。
再取得する唯一の手段は他のゆっくりから奪うだけだ。(人間が本物同然に機能するレプリカを作れるという噂もあったが)
もちろん、最悪のゲス行為のひとつであり、そもそもえーきは希少種である。帽子を取り戻す可能性はゼロと言い切れる。
やがて帽子はバラバラのズタズタに寸断された。もはや再起不能だ。
「さあえーき、群れのみんなに宣言するんだ。それが群れを救う唯一の方法だ」
「はい……。えーきは……えーきは……えーきはこれから群れの奴隷になります!」
ゆっくりたちは沈黙した。
意味がわからなかったからだ。あまりに想像を絶する展開に餡子脳がついていけなかった。
「奴隷の掟を宣言するんだ」
「はい……」
これよりえーきは、
ひとつ、普通の食べ物は決して口にしません。
ふたつ、群れの皆様のうんうんとしーしーだけで生きていきます。
みっつ、群れの皆様のどのような命令にも忠実に従います。
よっつ、群れの皆様のすっきり欲の捌け口となります。いつでも好きなときにえーきをお使いください。
いつつ、えーきはあらゆる財産を所有しません。これには子供なども含まれます。
……。
それはあらゆるゆん権を放棄することであった。
えーきは誇り高い希少種から、通常種より遥か下の最低のゴミクズにまで貶められたのだった。
「ゆぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
えーきは慟哭した。大粒の涙をとめどなく流した。えーきは破滅したのだ。完全に破滅したのだ。
そしてそれを希少種の知能で完全に理解し、理性とプライドゆえに狂うことすらできなかった。
えーきの悲惨なゆん生が始まった。
最初、群れのゆっくりたちはかつて威厳を持って支配していたえーきに対して、強く出ることはなかった。
群れの主導権を失ったことは事実だが、奴隷の掟は半ば無視され、結局は普通の食べ物を与えられ、酷い扱いを受けることもなかった。
だが、日が経つにつれ徐々にえーきの扱いが悪くなっていった。
人間は役割を与えられると、それに相応しく振舞うようになる。
囚人役は囚人らしく、看守役は看守らしくといやつだ。
餡子脳のゆっくりとなればその移行はより単純でスムーズなものとなる。
えーきはだんだん奴隷に相応しい卑屈さを見につけていき、主人であるゆっくりたちも横暴になっていった。
一ゆが手をあげたならば、他のゆっくりもそれにならう。
一ゆがえーきですっきりしたならば、他のゆっくりもすっきりする。
畑荒らし、みんなでやれば怖くない。
最初は徐々にだったが、やがて激しくエスカレートしていった。
「ゆげぇぇぇぇぇぇ! ゆげぇぇぇぇぇぇ!」
「ああン! まりささまのうんうんが食べられないってのぜ!?」
「ずびばぜん! ずびばぜん!」
臭くてねっとりしたうんうんの風味はいくら食べても慣れるものではない。
えーきはしょっちゅううんうんを吐き出し、そのたびに吐き戻しごと綺麗に舐めとることを強要された。
「ほんとえーきはグズだね! 生きてる価値のないゴミだね!」
「ほら、さっさと働くんだぜ! ぐずぐずするんじゃないのぜ! 誰のおかげで生かしてもらってると思ってるんだぜ!」
「その後はありすとすっきりするのよ! ちゃんとありすを満足させてね!」
「ゆひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
えーきは常に小突かれ、汚物を食わされ、屈辱的な扱いを受け、馬鹿にされ続けた。
(えーきが導いてやっていたのに! 愚かな通常種どもを裁いてやっていたのに! 恩知らずのゲスゆっくりども!)
かつて群れの上に君臨していたとは到底思えないみじめな姿だった。
皮肉なことに群れが平和であり続けたことだ。むしろえーきが没落する前よりも栄えているようにさえ見えた。
あの人間は定期的に群れを訪れた。
食料などを持って来ては、群れのゆっくりたちを援助していた。
群れのゆっくりたちに対する愛情深いその態度は、えーきに酷い仕打ちを与えたのと同一人物とは思えなかった。
とにかく、人間の存在が群れの平和に一役買っていることは間違いなかった。
それはえーきの苦しみを完璧に保証するものでもあった。
やがて、えーきに子供が生まれた。
群れ中から昼夜の区別なくすっきりさせられていたのだ。生まれないはずがない。
えーきの子供はすべて群れ全体で育てることとなった。えーきには養育権がなかった。
片親と同じ姿をした子供は普通の待遇を受けた。
えーきと同じ姿をした子供は生まれてすぐさま帽子を奪われ、親と同じ奴隷とされた。
仔えーきは何から何まで他の子供とは違う扱いを受け、虐待で躾けられた。
一方、えーき種以外の子供たちも、表面上の扱いは一緒だったが、他のゆっくりは明らかに嘲られていた。
口に出さなくとも、目は「おまえは奴隷の子」と雄弁に語っていた。
そのストレスのはけ口は、直下に位置する仔えーきたちに向けられた。
兄弟姉妹同士が互いに苦しめあうのだ。
親えーきはその様を見て泣き続けた。
だが、仔えーきもえーき種以外の子供も、自分を差別される存在として産んだ親えーきを憎むことでは底なしだった。
とくに仔えーきはえーき種に生まれたことを激しく恥じた。
かつて親えーきが誇りにしていた、希少種の姿を恥じたのだ。
希少種であることのプライドを完全に粉砕された親えーきの精神は果てしなく苛まれた。
「ゆっくりの神さま……ゆっくりの神さま……えーきをお救いください……哀れなえーきをお救いください……
どうか、えーきをゆっくり天国でゆっくりさせてください……」
えーきの唯一の希望はゆっくりの神だった。
すべてを失ったえーきにそれ以外頼れるものはなかった。
「ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛……」
数年後、ゆっくり里の外れの誰も省みない寂しい場所で、えーきは死に瀕していた。
果てしない虐待によって髪の毛はすべて抜け落ち、肌は荒れて変色し、まるで腐った饅頭のようだった。
額には『どれいえーき』と文字が刻まれていた。
あの人間が面白半分に烙印を押したのだ。(どれいえーき、どらいえーき、どらいやーき。なんだかどら焼きが食べたくなってきたぞ)
えーきは楽しかった昔のことを思い出そうとした。
だが、出てくる思い出は奴隷になってからの辛いものばかりだった。記憶餡そのものを犯されたかのようだった。
(すべてはあの人間のせい……。いえ、あのれいむのせい……あのゲスれいむ……醜いれいむ……
ふてぶてしい……丸々太った……涎の多い……そう、ちょうどこんな……えっ!?)
えーきの目の前に、あのゲスれいむがいた。
それは今わの際に見た幻ではなかった。本物のゆっくりだった。
目の前に究極の悪夢が現出していた。
「おじいちゃん! こいつがお父さんを殺したゲスえーきなの!?」
「そうだれいむ! そいつがお父さんの仇だ!」
「にん……げん……さん……?」
「よお、えーき」
それはあの人間とあのれいむの子供だった。
「あいつの種餡を冷凍保存しておいたんだ。こいつは俺のれいむ二世ってところだな。
親の仇を子が討つ、美しい話じゃないか!」
そして最後の虐待が始まった。
「ゆっくり死ね! ゆっくり死ね! お父さんを殺したゲスえーきめ!」
「ゆぁぁぁぁぁ! ゆぁぁぁぁぁ! ゆぁぁぁぁぁ!」
「おー、それだけ叫べるってことはまだまだ元気だな」
れいむ二世の攻撃でえーきは右に、左に跳ね飛ばされる。
この日のために特訓したのだろう。
れいむ二世の攻撃は絶妙な手加減が施されており、えーきをなるべく傷つけずに最大の苦しみを与えた。
「がびざま! がびざまっ! ゆっぐりのがびざまぁ!」
「大往生できるとても思っちゃった? おまえのようなゲスにそんな甘い話あるわきゃねえだろ。
れいむの痛みを思い知りな!」
いつの間にか、周囲を群れのゆっくりたちが取り囲んでいた。
ゆっくりたちの表情には冷笑が浮かんでいた。どうやら助けに来てくれたわけではないらしい。
そして、ゆっくりたちはいっせいに呪詛を吐き始めた。
「ゲスえーきはゆっくり地獄へ堕ちろ!」
「ゲスえーきはゆっくり地獄へ堕ちろ!」
「ゲスえーきはゆっくり地獄へ堕ちろ!」
「ゲスえーきはゆっくり地獄へ堕ちろ!」
「ゲスえーきはゆっくり地獄へ堕ちろ!」
「ゲスえーきはゆっくり地獄へ堕ちろ!」
「ゲスえーきはゆっくり地獄へ堕ちろ!」
「ゲスえーきはゆっくり地獄へ堕ちろ!」
「ゆぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
それは魂の虐待だった。
えーきがもっとも恐れたゆっくり地獄。
それを避けるために、どんな屈辱にも耐えてきたのだ。
だが、人間もゆっくりたちもそれすら許してくれなかった。
えーきを未来永劫完全に破滅させつくすつもりだった。
もっとも激しく呪詛を浴びせているのは、えーきの子供たちだった。
「どぼじでえーきたちを産んだのぉぉぉぉぉぉぉ! えーきに産まれたくなかったのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「おまえのせいで一生奴隷扱いだよ! ゆっくり死ね! ゆっくり死ね! ゆっくり地獄へ堕ちろ!」
「い゛や゛だ……ゆ゛っ゛ぐり゛じごぐばい゛や゛だ……だずげ……」
えーきはそのゆん生で何ひとつ報われなかった。
「……以上で終わりです」
ぱちゅりー先生は話を終えた。
受講者たちの多くは、えーきの運命の壮絶さに絶句している。
あるものは「間抜けなやつだぜ」と言わんばかりに冷笑している。
ここは森の奥深く、ぱちゅりー先生の私塾。
このぱちゅりーは賢者として一部で名が知られ、才気煥発なゆっくりたちがその教えを乞うために集まっていた。
経歴はよくわからないが、いろいろなドスの群れを渡り歩き、どこでも側近として仕えていたのだという。
そしてそれらの群れが壊滅した今でも生き残っている……。
「さて、質問です。このえーきが助かるためにはどうすればよかったのでしょうか? わかるゆっくりいますか?」
「はいはいはーい!」
一ゆのまりさが大声で名乗りを上げる。
「はい、そこのまりささん」
「さっさと死ねば良かったんだぜ! 奴隷に落ちてまで生き恥を晒すなんて間抜けなんだぜ! あのえーきは自決すべきだったんだぜ!
ゆっくり地獄なんて迷信なんだぜ! そんなものに惑わされていたらゆっくり天下の大事は計れないのぜ!」
「なかなか悪くない答えですね。
食べ物でもおうちでもつがいでも宝物でも、そして命でも執着しすぎるととても苦しむことになりますね。
どんなに元気なゆっくりでも最後には死んでしまいます。命運尽きたらそれを潔く認めることも大切ですね。
また、宗教というものは利用するのはかまいませんが、自分まで信じ込んではいけません。群れ長たるもの常に冷めてなければいけないのです。
ですが、今回のケースではこうなる前に生き残る方法もあったはずです。わかるゆっくりいますか?」
「はい!」
一ゆのみょんが素早く名乗り出る。
「はい、そこのみょんさん」
「えーき自身後悔していましたが、やはり飼いゆっくりのれいむを詳しく検査するべきだったと思います。
バッヂを見つけたのならもっと他の対応ができたと思います」
「ええ、そうですね。
怪しいものはとにかくよく調べることです。ゆっくりでも、足跡でも、動物でも、植物でも、ゴミでも、チラシでも……。
バッヂに気がついたなら、人間のれいむを群れから追放するだけにとどめておくか、とりあえず穴に閉じ込めたまま食料だけ与えておくか、
ともかく生かしておけば人間の怒りをかわせた可能性が高いですね。
殺害というのは取り返しのつかない行為なので慎重に行うべきです。そもそも、このえーきはどうも血の気が多いように思えます。
処刑は楽しむために行うものではなく、必要だから行うものです。群れ長たるものときには恐怖で威圧することも必要ですが、度を越せば群れは崩壊します。
このえーきは遠からず、群れゆっくりの反乱にあっていたかもしれません。
……これでもほとんど正解なのですが、さらにいい方法があります。
人間という生物は知ってのとおり、極めて理不尽で暴虐で、そのくせ臆病な存在です。
たとえ飼いゆっくりを無傷で返しても、突然なにか理由をつけて攻撃行動に移らないという保証はありません。
わかるゆっくりいますか?」
「……」
誰も答えられるゆっくりはいなかった。
しばらく待ってから、ぱちゅりー先生は語りだした。
「それは群れを作らないことです」
「ゆぇぇぇぇ?」
ゆっくり一同は意外な答えに驚いた。
なぜならこの私塾は『よりよい群れを作るための方法』を教えるところなのだから。
群れを作らないというのは逆説であった。
「ドスが倒された時点でこのえーきは群れを完全に放棄するべきでした。
なぜならえーきだけの実力では群れを治められないからです。
他者を裁き、処刑するということはとても大変なことなのです。他者を納得させられる正当性と武力が必要です。
えーきにはとにかく武力が欠けていました。だから、裁きに反対する強い者が現れると、あっさりと転落してしまったのです。
えーきの権力は実態のない、言ってみれば絵に描いたれみりゃだったのです。
どうしても群れを維持したいなら、ドスに変わる新たな力を手に入れる必要がありました。
ドスのような力があれば、このケースでも人間は直接里に殴りこみをかけることはできません。
ドスは人間にとっても剣呑な相手である上、もし協定を結んでいるなら人間の群れでの掟破りになりうるからです。
その場合、必ず人間のしかるべき勢力を通して、ドスに話をつけなければならないのです。
件の人間がドスのいる地域では飼いゆっくりを離さないと言っていることからしても、間違いないでしょう。
群れというのは一見安全に見えて、その実危険を孕んでいます。
寄らば大きな木さんの陰と言いますが、その木さんが腐って倒れかけているならすぐに離れるべきなのです。
……今回の講座はここまでとします」
「あの、ぱちゅりー先生」
「なんですか?」
「このえーきのお話は本当にあったことなんでしょうか?」
「さあねぇ? なにせ昔のことですから……」
ぱちゅりー先生は含みある笑みを浮かべ、それ以上答えることはなかった。
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- でまかせいうな»ログ見ろ
-- 2017-10-23 21:43:38
- 下»でまかせいうな -- 2017-10-23 21:42:58
- 凄くキチが湧いてる。作品にもコメントにも。私は正直この作品が気に食わないが、
アンチ死ね的な書き込みが湧くあたり、キチはキチを呼ぶのだとよく分かった。「ゲスゆっくりザマァー!」出来てこそゆ虐なのに。こんなものに需要は無い。
-- 2017-10-23 21:41:34
- もし飼いれいむがヤケクソになったとしても
命令口調ってのは多分ゲスだろ
まず本当にやってないならヤケクソになってもも
逆に狂ったように否定するだろってことでれいむが
罪を犯したってことになると自分は思います。
えーきが可哀想 -- 2017-10-18 22:32:47
- 調子に乗ったえーき?とかいうゴミがうざいな
群れ中から差別されて最高
飼ゆ>野良
害虫は死ね -- 2017-05-20 15:57:06
- シンプルにつまらない。
ペットの放し飼いとか典型的なダメ野郎だね -- 2017-05-17 20:58:33
- 飼い主れいむを愛しすぎる。
ちょっとキチガイじみてる、全くゆっくりできないよ!!!!!
分かったらゆっくりしないでえーきにあやまってね!!!! -- 2017-05-09 21:12:58
- いくら落とし穴に落ちようと、ちゃんとしたゆっくりは
自分の意見を主張するぞ -- 2017-01-28 23:48:36
- ふん希少種も殺す馬鹿キチガイのくせに「聞こえる声で」
ちぇん あのくそにんげんはあんこのうなんだねわかるよー -- 2017-01-07 11:16:17
- 善良や希少種虐待も許せるが、饅頭に真っ向から言い負かされる餡子脳な人間はNG
くわえてゲスを擁護するとは、こいつは人間側からも敵としかみなせない
ゆ虐SSのくせに最も望んだのがブリーダーの制裁だったよ!
-- 2016-10-11 14:54:59
- 一度ネットに投下したものはずっと残る 作者は中学生ぐらいなんだろうけどよく考えて投稿しないとダメだ -- 2016-06-25 20:10:55
- この作品は…個人的に苦手です…出てくる人間の精神年齢がでいぶレベルの時点で諦めてはいましたが…まぁそれでも難癖つけて躾として理不尽にされるのこそ虐待の本質でしょうからそういった観点からならば良作なのだと思われます…ご苦労様でした。あと個人的にはえーきに対して理不尽を働いた人間の手足を切り離して穴に落としたあと多種多様の芋虫、幼虫類を流し込んでみたい所まで想像させていただきました。失礼します
-- 2016-05-21 19:16:40
- 批判多いけどこういう徹底的に理不尽な作品嫌いじゃないぞ。
主役を通常種のまりさかれいむにしとけばここまで叩かれなかったかもね。 -- 2016-04-24 16:31:49
- 作者センスないですね
ゆ虐の需要と言うものを全く理解してない
あ、需要の意味わかりますか?
文章から低学歴さがあふれでてますけど -- 2016-04-17 09:32:37
- でいぶは嫌い -- 2016-01-20 19:06:10
- えーきが言ってる事が正しいという人は「えーき達は仲間なんですよ!」とか言ってるからでいぶも仲間だとおもってるんだから仲間を不当に殺したも同然ジャネ?見下してたじゃんとか言う人はえーきはゲスと同じ考えだったことを認めるってことね?w
この作品チョーサイコー!!!!! -- 2016-01-09 00:41:56
- キチガイ飼い主だな
-- 2015-12-11 02:28:09
- なんか嫌な思いをした・・・・・ -- 2015-09-17 20:05:10
- 胸糞わるあゎ
-- 2015-08-13 02:09:28
- ゆっくり以下の人間だな -- 2015-07-29 23:36:50
最終更新:2010年03月27日 08:16