対価 5KB
虐待-いじめ 小ネタ 注:食後にお読みください 作・米印
特にあてもなくぶらりぶらりと気の向くままに夜の街を歩いていると、路地の陰から声をかけられた。
「ゆっくりしていってね!」
なんて第一声で足下から人に呼びかけるのはゆっくりって呼ばれている生首饅頭くらいしかないだろう。
案の定、物陰からひょっこり顔を出したのは黒髪に赤いリボンをしたゆっくりれいむだった。そいつは満面の
笑みを浮かべてこっちを見上げるともう一回ゆっくりしていってね、と声を上げた。
急ぐ用もなく、気侭に歩いていただけの私は何の気無しに足を止めてそのゆっくりれいむと見つめ合った。
しばらくするとニコニコ笑っていたれいむが急に眉を吊り上げて目を見開いた。そして精一杯がんばった感の
ある引き締まった表情でれいむは私に告げた。
「おにいさん、ゆっくりしたれいむをみてゆっくりできたでしょ? おれいにれいむをゆっくりさせてね!」
私は、ああいいぞ、と軽く請け負った。
※ ※ ※ ※
対価
※ ※ ※ ※
行き付けの飲み屋に着くと、まずは駆けつけ一杯。
中ジョッキの生ビールを受け取ると半分ほどを一息に呷る。口内に広がる苦みと味わいをぐびりぐびりと飲ん
でゆく。この喉越しが堪らないッ!
そしてつきだしの枝豆。塩茹でしただけの、この緑色の豆がまた旨い! あんぐり開いた口に向けて、房から
押し飛ばした豆を塩気のある汁とともに飛ばしてゆく。一つ、二つ、三つ……、小鉢に盛られた枝豆総てを口内
に納めると、私はおもむろに咀嚼を始めた。
もっしゃもっしゃと噛み締めるたびに口内に枝豆の旨味が充満して、これがまたなんとも言えず……! そう
して砕かれ磨り潰した豆を残り半分の生ビールとともに飲み干した。っかぁーっ! 旨い!
空いたジョッキを横に置いて、二杯目を注文。
と、そこで足下から声がかかった。
「おにいさんばっかりずるいよっ! れいむもはやくゆっくりさせてね!」
そうそう、れいむを連れてきたのを忘れていた。早くゆっくりさせろと催促してくるれいむを宥め賺せて、丁
度空になったジョッキに入れてやった。
れいむは底に少し残っていたビールを舐めたがすぐにえずいた。苦くてゆっくりできないそうだ。ゆっくりっ
てのはお子さまだねぇ。
さて、気を取り直して何を食おうか。
とりあえず店主の姐さんにいつものを注文して、私は目線をカウンターの上に乗せた。
この飲み屋はカウンターに手作りの料理が大皿に盛りつけて並べてある。冷めても美味しいし、暖めるのが簡
単な品々。ま、大半は煮物系だ。
治部煮、筑前煮、ヒジキの煮物などなど。私は調理に向かう姐さんを呼び止めて、ヒジキの煮物と手羽煮を取
り分けてもらった。
まずは手羽煮。
甘辛く煮付けた手羽を手掴みで持ち上げると、L字型の手羽先の先細りになっている方、つまりは羽根の先側
をもぎ取る。目出度く手羽元となった骨付きの肉を私はぱくりとくわえ込んだ。
そしてつまんだままにしてあった骨の根本を引っ張って口から骨を引き出してゆく。もちろん、歯は閉じたま
まで、だ。こうすると歯に刮ぎ落とされて肉だけが口の中に残るという寸法だ。手が汚れてしまうが私はこの食
べ方が一番好きだ。
柔らかいゼラチン質の皮、味の引き締まった肉、染み込んだ甘辛のタレ。唐辛子の辛味は素材の旨味を損なわ
せず、食欲を刺激する絶妙なものだった。あぁ、旨い。
ついでに頼んだ白米と一緒にかき込むと食が進む進む。
そうして手羽煮が片づくと私の箸はヒジキの煮物へ移った。
オーソドックスにヒジキに大豆、人参、油揚げが入ったそれは実にほっとする味だ。それを白いご飯の上に乗
せてはかっ込み乗せてはかっ込む。箸のひとつまみで茶碗に移せる量はさほどでもないので一口の量もそこそこ
だ。じっくり噛み締めれば一つ一つの素材の味が滲み、そして白米の旨味が口一杯に広がってゆくのが解る。
こんな一時に米食っていいなぁ、としみじみと思う。
ヒジキの煮物が入った鉢が空になる頃には茶碗の白米もまた空になっていた。
ご飯のお代わりを頼み、次のおかずがくるまでビールで喉を潤す。
大して間を置かずに姐さんが奥の厨房から現れた。その手には私がここに来れば注文している『いつもの』が
あった。カラリと揚がったこんがりきつね色の衣に包まれたそれを食べなくては私がこの店に来た意味がない。
私にそこまで言わせるもの。それは鰺フライ。
キャベツの千切りの上に乗せられた二枚の鰺フライ。その皿が目の前に置かれるや、私は揚げたてアツアツの
フライにソースをだばっ、とかけて大口開けてバクリと食らい付く!
ザクッ! と音を立ててサクサクの衣を破り、まだ瑞々しい肉汁を湛える鰺の身を食いちぎる。熱々の身に嬉
しい悲鳴を上げながらも口を動かせばザクザクと口内で衣が砕け、芳醇な鰺の旨味と絡み合う。べったりかけた
ソースもこれの前には単なる隠し味にしかならない!
タイミング良く姐さんがお代わりのご飯をスッと差し出してくれた。これでもう止まらない、止まれない。止
まる気もない。
フライを囓り、白米をかっ込み、キャベツを貪り、ビールを飲み干す!
私は一心不乱にガツガツと喰らう。その間、空になったジョッキがカタカタ鳴ってたようだが気にもならなか
った。
※
食後に頂く一杯のみそ汁。豆腐とワカメだけの赤出汁の良さは味と香りもさることながら、五臓六腑に染み入
る温もり。これがまた落ち着くねぇ……。
と、これまで忘れかけていた存在が大口を開いて泣き喚いていた。
「ゆっくりさせてよぉ、ゆっくりしたいよぉっ! おなかすいたよぉっ!! おにいさんばっかりずるいよっ!
れいむをゆっくりさせてくれるっていったのにぃっ!」
私はれいむ入りのジョッキの取っ手を掴んで顔の前まで持ってきた。
れいむと目線を合わせると、私はにやりと笑って告げた。
れいむのゆっくりとした姿をみたことで私がゆっくりした分の対価は、私のゆっくりした姿を見せたことで
支払っただろう、と。
「……ゆ? ゆんやぁっ!! こんなんじゃゆっくりできないぃっ!?」
そうかい、私もおまえを見てもゆっくりできなかったよ。
さて、ごちそうさま。今日も美味しかったよ。おあいそう……。
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- 虐待しない理由はそういうことかww
だが、れいむは理解してないだろうな~(早く虐待したい -- 2018-01-05 18:02:04
- お腹空いちゃったじゃん... -- 2016-08-08 22:04:44
- いろんな意味でうまいw -- 2013-07-26 09:53:57
- やべー餓鬼なのに美味しそうと思った (18) -- 2013-04-02 10:35:50
- 枝豆食いたい -- 2012-07-26 20:13:23
- ああ、俺の空腹中枢が… -- 2012-07-23 23:01:16
- ちくしょう、深夜なのにお腹が空いてきたw -- 2011-10-29 01:17:24
- 昼の鯵フライミックスと、さっき風呂上がりのビールと
皮串思い出した、どうしてくれるww
-- 2011-10-07 22:39:24
- うまいし旨そうだ…… -- 2011-09-16 09:56:01
- 自分のゆっくりした姿見せて「ゆっくりできたでしょ!?」とかほざいたくせに人様のゆっくりした姿を見てゆっくりできないとはどういう了見だ! -- 2011-01-15 13:11:05
- なるほどねぇw
うまいわーww -- 2010-12-15 18:31:49
- 美味しそうな描写が上手すぎて……腹が減って来たよ…… -- 2010-12-08 22:55:47
- 注意書きまで粋だ -- 2010-12-08 17:35:18
- ↓うなぎ屋の匂いだけで米食ったヤツが対価にお金の音だけを聴かせるってヤツな。タイトルは分からんけど。
にしてもこの話はゆ虐よりも、ザックザクのアジフライの描写をしたかったんじゃ、って感じだな。お腹すいちゃう -- 2010-11-11 23:36:19
- なんだったっけな、あの落語の……確かうなぎ屋のやつ -- 2010-09-22 01:28:36
- まさか店内で迷惑な虐待をするのかと思ったらそうきたか
まさに対価だな -- 2010-09-17 16:57:08
- なんてゆっくりしたお兄さんだ -- 2010-09-03 17:21:35
- ゆっくり見てゆっくりできるわけ無い。 -- 2010-08-25 23:04:28
- あんなもの見てゆっくりできたらたいしたもんだぜ。 -- 2010-08-25 06:39:41
- ゆっくりを見てゆっくりできる人なんていないわな。 -- 2010-07-29 08:57:45
最終更新:2010年03月29日 18:15