ふたば系ゆっくりいじめ 1110 いほうありす

いほうありす 15KB


制裁 悲劇 越冬 群れ 自然界 人間なし 越冬を扱った話です。ギリギリ季節外れじゃないはず……?


注:このSS内ではレイパーの設定を採用しておりません。悪しからず。





(いほうありす)







この群れの、“けんじゃ”と呼ばれるぱちゅりーたちは、
“けんじゃかいぎ”と称して毎日のように集まっては、なにやら話し込んでいた。
その中には、“おさ”であるぱちゅりーの姿も見えた。
この群れについての一切は、このけんじゃかいぎで決まった。

人里離れた小高い山の中に、どこからともなく住み着いたゆっくりたちは、
じわじわと増えて、いつしか小さな群れをなしていた。
群れには、まりさや、れいむや、ありすが多かった。
他にぱちゅりーがわずかにいた。ぱちゅりーだけが少ないのは、
身体が弱く、寿命が短いからであろう。
しかしぱちゅりーは、他の三種に比べて知能が高かったので、
代々おさや、けんじゃとして、群れを統べる立場にあった。




「そろそろえっとうのことをかんがえなければいけないわ!」

おさが言った。この群れのゆっくりは毎年、冬の間約三ヶ月、
それぞれの巣穴に食糧を蓄えて、閉じ籠もる。
食糧の貯蓄には時間がかかるため、早いうちから群れ中のゆっくりたちに喚起しておくのだった。

「むきゅ?」

けんじゃの内の一匹が、ぱちゅりー独特の短い声を出した。

「そういえば、あのありすはどうするのかしら?」

そう言って、おさの方を見た。

「むきゅん?ありす?」

 おさも同じ声を上げて、「何のことだか分からない」という目をした。

「あの“ゆーへい”されているありすよ」

“ゆーへい”とは、この群れの刑罰の一つで、“せいさい”(死罪)の次に重い刑だった。
ありすは群れの外れの洞穴(ほらあな)の中に、ゆーへい、即ち監禁されていた。

「むきゅん!すっかりわすれていたわ!」

おさは慌ただしく身体(からだ)を揺すり、茄子のような重量感のある髪をばたつかせた。

「あのありすも、えっとうさせなくてはいけないわ!」

おさがそう言うと、他のけんじゃたちはにわかに顔色を変え、
同じように激しく身体をゆすりながら反論した。

「むきゅん!いまからではとてもまにあわないわ!」
「ぱちゅりーは、ぱちゅりーと、ぱちゅりーのかぞくがえっとうするのでせいいっぱいだわ!」
「ぱちゅりーもそうだわ!みんなもきっとそうよ!ありすのぶんをあつめるなんてむりだわ!」

全てのゆっくりにとって、えっとうとはまさに死活問題だったので、
どのけんじゃも皆、おさに対して必死で訴えた。
もっとも、これまでこのありすは、けんじゃたちが持ち寄った食糧で養われてきたのだから、
計画的(ゆっくりに求められることではないが)に集めれば、
えっとうに充分な食糧を集められないはずが無かった。

なにぶんにも、急過ぎたのだった。
既に秋は終わろうとしていた。
この山でも、もうすぐ雪がちらつきそうな気配があった。
その雪が積もる前に、充分な食糧と共に巣に籠れなければ、冬を越すことは出来なかった。
実際に毎年、三割前後のゆっくりが、春を迎えることができないまま死んだ。
その大半が、食糧の不足による餓死だった。

「むきゅう!でもあのありすはふつうのありすじゃないのよ!」

おさはムキになって叫んだ。監禁されているありすというのは、先々代のおさの妹の子だった。
つまり、人間ふうにいえば、先々代のおさの姪であり、先代のおさの従姉妹であり、
もっと遡っていえば、三代前のおさの孫だった。
ぱちゅりーに生まれなかったので、けんじゃとは呼ばれなかったが、
それでも群れの中では、特別視されているゆっくりだった。

ゆーへいが言い渡されたのは、今年のはじめ、
つまり、えっとうの終わったすぐあとの事であり、
その直後に当時のおさが死んで、今のおさが跡を継いだのだった。

「むきゅ?でもそういえば、どうしてありすはゆーへいされているのかしら?」

不意にそんな声が上がると、けんじゃたちは互いに顔を見合わせた。
代替わっていたのはおさだけでは無かった。
ここにいるけんじゃの全てが、おさより年少であり、
当時の事を知るゆっくりは、一匹もいなかった。
なにしろぱちゅりー種は、そもそもが短命なゆっくりの中でも、群を抜いて早死にだった。
ぱちゅりーがけんじゃ、つまり成体ゆっくりとして活動出来る期間は、一年が限度だった。
だから、ありすが監禁された当時というのは、けんじゃたちにとっては大昔のことであった。

「むきゅん!どうしてかわからないのに、ゆーへいしておくことはないわ!」

けんじゃの中の一匹が、そう言った。

「むきゅ、そうよ!ありすはかいほうしてあげるのが、けんじゃらしいやりかたよ!」

そんな事を言い出すけんじゃが現れると、けんじゃたちの論調は、
一気にありすを解放するほうへと流れていった。
その実、ありすのえっとうに関する責任を、他へと転嫁したかったのだった。




ありすはかつて、“びゆっくり”と呼ばれた、眩いばかりのゆっくりだった。
その姿は、しかし、約八ヶ月の間の“ゆーへい”によって、変わり果てていた。
クリームが透けるように柔らかだった白肌は、乾き、くすみ、黄色がかっていた。
絹糸を束ねたかのようだったブロンドの髪には、煤けた白いものが混ざり、
ぼそぼそと縮れて、かつてのような滑らかさを失っていた。
唯一、清らかに澄んだ青い瞳だけは、昔の姿を留めていたが、
それがかえって哀れさを引き立てていた。
ぱちゅりー種より長く生きるありす種とはいえ、
ゆっくりにとって八ヶ月というのは、途方も無く長かった。

結局、ありすの姉の子、人間ふうにいえば姪っ子のまりさの一家が、
ありすの身を預かることになった。
けんじゃたちは、なんだかんだと口実を作って、ありすの世話から逃れることに成功した。
まりさは、れいむとつがいになっていた。
他に子どもが五匹いた。
ありすは肩身が狭かった。
夜になるといつも、隣の巣穴からまりさとれいむの会話が聞こえたからだった。

「こまったんだぜ……このまんまじゃ、まりさたちも、
おちびちゃんたちも、みんなえっとうできなくなんだぜ」
「どおしてこんなことになったの?こんなのゆっくりできないよ!」

れいむは特に、ありすを快く思っていなかった。

「しかたがないんだぜ……けんじゃがそうきめたんだぜ」
「でも……」
「けんじゃにさからえば、せいさいなんだぜ……がまんしなきゃだめなんだぜ……」

まりさはけんじゃの怖さをよく知っていたのは、
妹を罰せられた母ありすから、何度も何度も聞かされていたからだった。

「れいむはあのありすのことがこわいよ……いったいなにをしたありすなの?」
「しらないんだぜ……けんじゃがそんなことを、まりさたちにおしえてくれるわけがないんだぜ
……まりさのおかあさんも、しらないといっていたんだぜ」

亡きまりさの母(ありすの姉)のありすが、
ありすの罪について知っていたか否かは、今となってはわからないが、
とにかく現在、この群れに、ありすがなにをしてゆーへいされたのかを知るゆっくりは、
ありす自身を除いては、一匹もいなかった。

けんじゃたちに気兼ねしてか、元々が善良だったのか、まりさもれいむも精一杯、
ありすの世話をしようとしているようだった。
しかし、食糧の事だけはどうにもならなかった。
厳しい冬の息吹は、刻一刻と迫って来ていたが、まりさ一家は充分な食糧を蓄えられずにいた。
元々、五匹の子を抱え余裕の無い処へ、
急にありすを押し付けられたのだから、無理も無いことだった。

そして一週間が経とうとした頃、遂にありすは堪りかねて、
「いまならまだ、なにかたべられるものがあるはずだわ」と、
自ら食糧の調達に出ることを願い出た。
まりさは「すこしかんがえさせてほしいんだぜ」と言って渋い顔を作ったが、
その日の暮れた頃に、五匹の子どもの中で一番大きなまりさを連れてきて、
「ひとりはあぶないから、このまりさといっしょになら、いってもいいんだぜ」と言った。




次の日、ありすは子まりさと共に餌場へと向かった。
ありすは大きな葉っぱを提げていた。
この葉っぱを風呂敷のように使って、見つけたものを持ち帰るつもりだった。
傍らの子まりさは木の枝をささげていた。
岩などに擦りつけて、先を尖らせた、ごく原始的な槍だった。

子まりさは生まれ持った性格なのか、そういう時期なのか、極めて無口だった。
生まれてまだ四ヶ月だったが、身体だけなら、もう成体といって差し支えないほど、大きかった。
野原を駆けまわって、槍をふるいながら小虫を追いかける姿には、力がみなぎっていた。

かたやありすは完全に衰えきっていていた。
長い監禁生活で脚は柔軟さを失い、昔のように跳ね回ることは出来なかった。
ナメクジのように、陰惨に這いずりながら、必死で木の実を探したが、すぐに息が上がった。

木陰に水の溜まっているところがあった。
ありすはそれを飲もうと、水たまりに近づいた。
そこには、醜く年老いた、老ゆっくりの姿があった。
ありすは一気に蒼ざめた。

子まりさはなかなか成果の挙がらない狩りに、不満そうだった。
帽子の中には小さな虫が、わずかに入っているだけだった。
ありすも一生懸命に食糧を探したが、見つけられたのは、数粒の木の実だけだった。

「もうさむくなってきたから、ひとやすみしてかえりましょう」

ありすはそう言って、虚しく軽い木の葉の包みを口にくわえた。
二匹は、近くにあった洞穴で、寒さをしのぎながら、休憩を取ることにした。

ありすは水面(みなも)に映った自らの醜い姿を、何度も思い出した。
果たしてあれは、本当に自分だろうかと、頭の中でよく吟味してみた。
しかし、いくら思い出してみても、やっぱりそれはありす自身だった。

ありすの罪は、本来ならせいさいの刑に値するものだった。
しかし、おさのクリームを引いていたために、
特別に減刑されて、ゆーへいの刑に処せられたのだった。
その刑によって、ありすの時間は奪われ、美貌は侵されたようだった。
こうして実際に餌場へ出かけてみて、はじめてそれを痛感したのだった。
そしてようやく、自分の“ゆんせい”が、如何に惨めなものとなっていたかに、気がついたのだった。

ありすは傍らの子まりさを見た。
子まりさは、帽子の中から小虫を取り出して食べていた。
ありすも勧められたが、「おなかがすいていないの」と、断った。
黙々と食事をする子まりさは、生気に満ちていた。
たくましく、活気が溢れていて、それが美しかった。
ありすは子まりさに、不思議な親しみを感じた。




春が終わりに差し掛かって、日差しがいっそう強くなり始めた頃に、ありすは生まれた。
ありすは抜群の美貌を備えて生まれて来たので、周りのゆっくりたちからひときわの愛情を受けて、
赤ゆっくりの頃から既に、大きくなったらけんじゃの処へ嫁いでゆくのだと期待されて育った。
そしてありすはその美貌を損なうことなく、むしろ日に日に美しさを増して、大きくなっていった。

しかし同世代のゆっくりたちが、子ゆっくりから成体ゆっくりへと成長する過程で、
若いゆっくり同士、互いを意識し合うようになっても、ありすは独りでいた。
年頃になったありすの処には、けんじゃをはじめ多くのゆっくりが求婚にやって来たが、
ありすはそれらをことごとく断った。
そして、もっぱら紅葉(もみじ)を拾い、かげろうを追って時を過ごした。

しかし、秋も終わりに近づき、えっとうの準備が本格的になった頃、
立派な成体ゆっくりとなっていたありすは、親ぱちゅりーから、
「“はるさん”がきたら、けんじゃとつがいになるのよ」と言われた。
ありすは嫌がったが、親ぱちゅりーに「ほかに“いいこ”がいるの?」と聞かれても、
答えることが出来なかったので、
親ぱちゅりーはその気になって、我が子のパートナー探しに没頭し始めた。

隠していたが、ありすには好きなゆっくりがいて、しばしばそのゆっくりと密会していた。
―――夜、ありすは頃合を見計らって、こっそりと巣穴を抜け出した。
居待月が、散り積もた紅葉の作った、赤や黄色の敷布を照らしていた。
ありすはその上を駆けて、いつもの場所へと急いだ。

大きな楓の木があった。
その下にうっすらと浮かび上がる、丸いものがあった。
まるでもう一つ、月があるように白かった。

「まっていたわ、“ありす”」
「おまたせ、“ありす”」

二匹のありすが、互いにすり寄った。
ありす同士の密会だった。
待っていた方のありすは、ありすよりも少しだけ若かった。
そのありすは、まだ子ゆっくりのあどけなさを残していたが、
両の親ゆっくりを失っていて、群れの外れの洞穴に、独りで住んでいるのだった。
群れのゆっくりたちは、そんなありすのことを“はぐれありす”と呼んだ。

はぐれありすは、決してびゆっくりではなかった。
びゆっくりとして知られたありすと一緒にいると、随分みすぼらしく見えた。
また頭も鈍く、けんじゃのクリームも引いていなかった。
ただ純粋で、鷹揚で、真面目なのが取り柄だった。
ありすもそんな所を、好いていた。

ありすはありす種以外のゆっくりに、好意を持てないゆっくりだった。
これはゆっくりの常識から大きく外れたことだった。
普通、同種のゆっくり同士に、特別な感情が芽生えることはなかった。
そんな感情を持つゆっくりは、異常とみなされた。
だから、この群れはおきてでそれを禁じ、
禁を破ったものはせいさいの刑に処されることが決まっていた。

果たして、ありすはそのおきてを破った。
いよいよ寒さが本格的になってきたある夜、はぐれありすは、とうとうありすの子を授かった。
はぐれありすは感動していたが、ありすは困惑した。
ありすははぐれありすの頭に生えた四匹の実ゆっくりたちを、摘んでしまおうと言った。

「どうして?すごくとかいはなあかちゃんたちなのよ!」

はぐれありすは取り乱したように、それを拒んだ。

「でも、もうえっとうまでじかんがないわ
……これから、そのこたちのぶんのたべものをあつめるのは、むりよ」
「いやだわ……ありすたちのはじめてのあかちゃんなのに!」

はぐれありすはわんわんと泣いたが、ありすの長い説得を受けて、ついにはそれに同意した。
ありすによって、つるごとむしり取られた実ゆっくりたちは、みるみるうちに萎んだ。
はぐれありすはそれを見て、また一層声を大きくして泣いた。

「えっとうはたいへんなことなのだから……しかたがないことなのよ……」

そういって、ありすははぐれありすの涙を「ぺーろぺろ」と、舐め取った。
それでも、涙はどんどん溢れてきて、止まらなかった。




ありすとはぐれありすは、別々に冬を越した。やがて雪は溶け、春になった。
しかし二匹は互いに気まずくて、なかなか会うことが出来ないでいた。
はぐれありすは独りで暮らしていたので、当然、狩りへも自分で行った。

ある日、はぐれありすが狩りから戻ると、巣の前に一匹のぱちゅりーがいた。
ぱちゅりーは、小石の上に座って、つくしをむさぼり喰っていた。
はぐれありすはそれを見て激しく狼狽した。

「ぱちぇ!そこでなにをしているの!」

ぱちゅりーはつくしの“はかま”をぺっと吐いた。

「むきゅ?はぐれありす……みればわかるでしょう?けんじゃはおしょくじちゅうなのよ」

そう言って、つくしをもう一本、口に運んだ。
ありすはぱちゅりーの方へ、猛然と駆け寄って、断固抗議した。

「そのつくしさんは、ありすがおちびちゃんたちのためにとってきたつくしさんよ!」
「なにをいうの!このつくしさんは、ぱちゅりーがここでみつけたのよ!」

ぱちゅりーは散歩途中に、小石の前につくしが四本、綺麗に並べてあるのを見つけたのだった。

「いまぱちゅりーがすわってるのは、ありすのおちびちゃんのおはかなのよ!
つくしさんはおそなえものなのよ!ゆっくりりかいしてね!」

ぱちゅりーは構わず二本目のつくしを平らげた。

「むきゅん!うそばっかり!ありすにおちびちゃんがいるはずがないじゃない!
けんじゃのつくしさんをよこどりしようなんて、ほんとうにいやしいありすね!」

そう言ってまた吐き出したはかまが、はぐれありすの頬に当たった。
ありすはとうとう我慢出来ず、ぱちゅりーに思い切り体当たりした。
ぱちゅりーは小石の上から転がり落ちて、地面に叩きつけられると、
ブクブクとクリームの泡を吐いて、失神した。
すぐに、騒ぎを聞きつけた他のゆっくりたちが集まってきて、はぐれありすを取り囲んだ。

はぐれありすは捕まって、けんじゃたちの下へ連れて行かれた。
その結果、ありすとはぐれありすとの関係は一切が暴かれた。
けんじゃかいぎでの決定で、ありすはせいさいを免れたが、
生涯を群れの外れの洞穴で過ごすことが決められた。




「―――それで、その“はぐれありす”はどうなったの?」

子まりさはありすの話にすっかり入れ込んでいた。

「わからないけど……きっとせいさいされてしまったわ……」

ありすは微かに笑顔を作って、「“ばかなこ”だったけど……」と呟いた。
そのあと何かを言おうとしたが、言い澱んで、
そしてにわかに、「……さあ!そろそろかえしましょう!」と言った。

「おかおをあらえるといいけど……」

ありすの顔は涙で溶け出しそうになっていた。

「それなら、むこうのほうに“かわさん”があったよ」

ありすは葉っぱの包をくわえ、子まりさは槍を持って洞穴を出た。
二匹は子まりさのいう川へと向かった。
川原(かわら)へ着いてありすはハッとした。
そこには一面、紅葉が敷いてあった。ちょうどあのありすと待ち合わせた場所のように。

川は清らかだったが、案外流れが速かった。
ありすは慎重に足場を選び、少しせり出した所を見つけて、そこに葉っぱの包みを置いた。
赤茶色の地面の上に、包の中の黒い木の実がバラバラと散らばった。

ありすは川の面を眺めた。そこには、ありすの姿が映っていた。
その姿は、川の流れのせいでぼんやりとしていて、醜く老いたありすの姿を、
かつてのびゆっくりに変えてみせた。
ときどき赤や黄色の葉っぱが、星のように流れてきて、それが余計にありすを悲しくさせた。

ありすは川面に顔をつけようと、ゆっくりとかがんだ。
しかし、いよいよ水の冷たさを感じるというところで、
ありすの身体になにか、燃えるように熱いものがぶつかってきて、それを阻んだ。
ありすがふと、自分の腹を見遣ると、なにか尖ったものが腹の中から生え出ていて、
そこから熱を帯びたカスタードクリームが、じんわりと溢れてきていた。

「めいれいだよ……」

背後からそんな声が聞こえた。
ありすの意識は、その声を言葉として捉える間もなく、どこかへと遠のいていった。
子まりさが突き立てた木の槍を引き抜くと、ありすはそのまま、前のめりに水の中へ落ちた。
子まりさは、急流に呑まれていくありすの姿を見届けた。

「えっとうはたいへんなことだから……しかたないよ……」

まりさはそう言い残して、その場を立ち去った。
ありすは事故死したことになった。

子まりさがいなくなると、そこにはありすの採った木の実だけが残った。
一匹のゆっくりの、一食分にもならないほどわずかばかりの木の実が、散漫に転がっていた。

やがて、ちらちらと白いものが舞い降りてきた。
赤と黄色の風景は、みるみるうちに雪景色へと変わっていった。
雪は全てを包み、山はあたかも冬となった。

あとは、川の流れる音だけが、ごうごうと響いていた。





(終わり)

【過去に書いたもの】
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ふたば系ゆっくりいじめ 995 私の研究


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感想

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  • 部落とかそんな人間にも有り得るような悲劇だった -- 2014-08-27 19:08:08
  • 子まりさ君、うんうん浸しの刑。 -- 2012-09-14 19:16:59
  • 子魔理沙君ちょっと裏行こう -- 2012-07-27 12:27:36
  • なんて悲しい… -- 2012-04-04 22:46:55
  • この無常の感じがぞくぞくした。善悪を越えたところにある命の辛さってとこだなぁ。 -- 2011-08-24 02:53:35
  • えっとうはたいへんだから、か。
    なるほどねぇ…因果応報か -- 2010-12-18 14:43:19
  • イイ作品だった。「えっとうはたいへんだから」っていう死ぬ理由がまたいい。 -- 2010-10-30 10:04:39
  • 切ねぇ…
    こういうのもアリだな -- 2010-10-06 08:53:42
  • カムイ伝の寒村みたい -- 2010-08-20 02:07:43
最終更新:2010年04月06日 17:19
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