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ふたば系ゆっくりいじめ 1145 のるま

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『のるま』 74KB
制裁 理不尽 自業自得 群れ 虐待描写薄め

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「あいつらの様子はどう?」
 一匹のゆっくりまりさが、言った。
「ゆっ、おとなしくしてるよ。さすがにあそこからは逃げられないのがわかったみたいだ
よー」
 ちぇんが、まりさにそう答える。
 まりさは、ぽよんぽよんと跳ねていく。
 ここは、公園の片隅、野良ゆっくりの群れが住み着いており、まりさはそこのりーだー
だった。
 まりさが向かう先には、犬を入れるような檻があった。
 その中には、何匹かのゆっくりが入れられている。
「まりささまをここから出すんだぜえええ!」
「れいむはしんぐるまざーなんだよ! やさしくしないと駄目なんだよ! あまあまもち
ょうだいね!」
 どれも例外なく口汚い。こんなところに閉じ込められているのだからそれも当然だが、
ここに入れられる前からこいつらはこんなだった。つまり、ゲスである。
「ゆぅ……ゆぅ……ゆぅ……ゆっ!」
 まりさは幾つかある檻を端から端まで眺めてぶつぶつ呟いていた。
「ゆん、ちゃんといるね。のるまたっせいだよ!」
「ゆゆん、これでゆっくりできるねー、わかるよー」
 まりさは、自分を罵るゲスどもを見てとてもゆっくりした表情をしたあと。
「……今回は、ゲスがちゃんとそろってよかったよ」
 と、ゆっくりしていない表情で呟いた。
「りーだー、あれはしょうがなかったんだよ、みんなわかってるよー」
「ゆん……」
 ちぇんの慰めに頷いたものの、やはりその顔がゆっくりすることはなかった。



 お腹いっぱいむーしゃむーしゃできることはそんなになかった。
 それでも、家族みんなで幸せに暮らしていた。
 まりさおとうさんとれいむおかあさん。
 同時に生まれた姉妹れいむ、そして自分たちより後に生まれた妹れいむと妹まりさ。
 まりさは、幸せだった。ゆっくりできていた。
 しかし、その幸せは一瞬で壊された。
 都会に住む野良ゆっくりの幸せほど脆いものはない。
 気だるげな二人の男がやってきて、有無を言わさずおとうさんとおかあさんを軍手をは
めた手で掴み上げて、持参していた袋に放り込んだ。
「ゆっくりできないよ! ここからだして!」
「おちびちゃんが見えないよ! これじゃゆっくりできないよ!」
 袋から両親の声が聞こえてくる。
「おとうしゃん、ゆっくちちてぇ!」
「にんげんさん、だしてあげてね! ゆっくりできないって言ってるよ!」
「どぼちてこんなことすりゅのぉぉぉぉ!」
「おとうしゃんとおかあしゃんをかえちちぇぇぇ!」
 まりさたち姉妹ももちろん泣き叫んで懇願した。しかし、男たちは、
「そうは言っても、ノルマがな」
「こいつらで達成なんだ。悪いな」
「ま、ノルマは達成したし」
「おまえらはちいさいから勘弁してやるよ」
 と、意味不明のことを言って、背中を向けた。
「まっちぇぇぇ!」
「おとうじゃあああああん! おがあじゃああああん!」
「おいでがないでえ! まりちゃたちもつれでってええええ!」
「ゆええええん! ひじょいよぉぉぉ!」
 必死に跳ねたが、すぐに妹たちは脱落。自分たちが頑張らねばとれいむと一緒に懸命に
男たちの背を追った。
 すぐに引き離され、男たちが角を曲がった。必死に跳ねた。ぽよん、ぽよん、と跳ねる
たびにあんよが痛んだ。
 まりさとれいむが角に到達し、男たちが姿を消した方向を見れば、あれからまた別の角
を曲がったらしく、その姿を見つけることはできなかった。
 そして、それが両親との永別になった。

 まりさたちは、それでも生きようとした。
 ゆっくりしようと励まし合った。そうしていればきっとおとうさんとおかあさんにまた
会えると、また家族でゆっくりできると信じていた。
 両親がいなくなったのは悲しいことだが、それでもまだ姉妹がいる。ゆっくりできる。
 そう思っていた。
 両親の庇護が無くなったことにより、自分たちがどうしようもなく弱く、束の間のゆっ
くりすら容易に享受できぬ身なのだとすぐに思い知らされた。
 両親がいなくなった翌日、おうちにしていた段ボールを早速ゲスゆっくりに奪われた。
 両親がやっていたようにぷくぅーと威嚇した。両親のそれに対しては怯んだ様子を見せ
たゲスどもはその小さなぷくぅーをせせら笑うばかりだった。
 それならばと両親がやっていたように体当たりをした。ぷくぅーでも引かない気合の入
ったゲスどもも泣きながら逃げ出した体当たりだが、もちろんまだ子供のまりさとれいむ
のそれが両親と同じように行くわけがない。
 ゲスどもの反撃に遭い、ズタボロにされた。それでもなお、力の差がいまいち理解でき
ずにまりさとれいむは睨み付けた。
 ゲスどもは、抵抗する気力を奪うために、妹たちの目をえぐって威嚇した。
「「「「ゆぴぃぃぃぃぃ」」」
 これには、さすがに姉妹は震え上がってゲスの嘲笑を浴びながら逃げるしかなかった。
 目をえぐられた妹たちは、そのダメージを回復するのに甘いものを食べる必要があった
が、子供だけでは甘いものどころか満足に食べるものすら得られない。
 れいむは、まりさが止めるのを振り切って道行く人間に誰彼となく助けを求めた。
「いぼうどがじにぞうなんです! おねがいだがら、あまあまくだざい! ゆっぐりおね
がいじます! ゆっぐりおねがいじます!」
 皆、通り過ぎた。
 非情な人間ばかりというわけでもない、ほとんどの人間は一瞬程度は哀れんだ表情を見
せるが努めて無視して去っていく。
 この程度の不幸なゆっくりにいちいち関わっていられないのだ。
 それでも、100円程度で買える甘いお菓子ならば、優しそうな人間を選んで声をかけ
ていればなんとか恵んで貰えたかもしれない。
 しかし、必死になって周りが見えていないれいむは誰彼構わずだった。そして、遂にと
てもゆっくりしてない人間さんに声をかけてしまい、
「うぜえ」
 と、踏み潰されて死んだ。
「れいぶぅぅぅぅぅ!」
 まりさは、ぺったんこになった姉妹の前で泣いた。
「うっせえぞ」
 しかし、れいむを踏み殺した人間にそう言われて、賢明にも口をつぐんで逃げ出した。
 少し離れた所に待たせていた妹たちは、まりさが帰る頃には永遠にゆっくりしていた。

 孤独になったまりさは、流れ流れて他の野良ゆっくりと一緒に暮らすようになった。子
供を亡くしたという親切なぱちゅりーに拾われて、ようやく久しぶりにゆっくりできるよ
うになった。
 まるで、二人目のおかあさんだ、とまりさは思った。
 その時にはさすがにもう本当のおかあさんとそしておとうさんも、この世でゆっくりし
ていることはないだろうとは察しがついていた。
 この二人目のおかあさんと一緒にゆっくりしよう、そしていつか自分が大きくなったら
ぱちゅりーおかあさんをゆっくりさせてあげようとまりさは決意するのであった。
 そして、またまりさは母を奪われた。
 奪ったのは人間だ。
 また、同じだ。
 ノルマ、という意味不明の言葉を言う人間に、ぱちゅりーおかあさんは袋に入れられて
連れて行かれてしまったのだ。
「かえぜええええ! かえぜええええ!」
 追いすがる。あの時よりも自分は大きくなった。今度こそ、見失ったりしない、今度こ
そ……。
「ん、なんだお前。……今捕まえたやつの子供か?」
 男は、まりさに気付いて言った。
「かえぜえええ! おがあざんをかえぜえええ! もう、もうおがあざんをわたしだりじ
ないよぉぉぉ!」
「んなこと言ってもこっちもノルマがなあ」
 その時、袋の中から弱々しくも一筋の力のこもった声が聞こえた。ぱちゅりーだ。
「おねがい、その子はにがしてあげて」
「んー、まあ、お前でノルマは達成したからなぁ」
 男はそう言うと、袋を肩に担いで、走り出した。
「ゆ゛わあああああ! まっでえええええ!」
 人間が本気になって走ったら、ゆっくりになど追いつけるものではない。まりさは必死
に跳ねたが、当然、瞬く間に二人目の母と思い定めたぱちゅりーを見失った。
「ゆ゛あああああ、なんでええええ! どぼじでえええ! のるまってなんなのぉぉぉ!」
 まりさは、しばらく泣き叫んでいた。

「りーだーたちが帰ってきたよ!」
「ゆっくりおかえり!」
「ゆっくちおきゃえりなしゃい!」
「ゆっゆっ、ごはんさんがたくさんとれたよ!」
 とある公園に住み着く野良ゆっくりの群れ。
 そこではりーだーまりさに率いられた食料調達隊が成果を上げて帰還していた。
「ゆゆぅ、みんなゆっくりしているよ」
 まりさは、ごはんをむーしゃむーしゃする群れのゆっくりたちを見てゆっくりとしてい
た。
 このりーだーまりさ、かつて両親を奪われ、姉妹を殺され、妹たちを救えず、そして二
人目の母をも奪われたあのまりさである。
 苦労して育ち、二人目の親であるぱちゅりーに色々と教え込まれたまりさはとても賢い
ゆっくりに成長し、皆に推されてリーダーを勤めていた。
 賢いまりさは、とにかく人間と関わるのを避けていた。ごはんの調達の際も細心の注意
を払って接触しないようにしたし万が一見つかってもすぐに平謝りして下手に出た。
 そもそも、まりさたちが狙うのはどうせ捨てるようなゴミばかりである。そこまでへり
くだるとほとんどの人間はまあいいやと見逃してくれる。
「ゆーん」
 まりさはゆっくりしていた。
 そして悲しいかな餡子脳。どんなに賢くてもどこか抜けているところはある。
 まりさの場合は、あまりにもゆっくりでしあわせーな日々の中で、生涯で二度も親を奪
った出来事をついつい頭の片隅に追いやってしまっていた。あまりにもゆっくりできない
記憶を無意識に忘れようとしていたのかもしれない。
 まあ……注意していたとしても防げるものではないのだが……。
 突如やってきて、問答無用でゆっくりを捕まえる人間などは……。
「ゆんやあああああ、やめでええええ!」
「やめちぇ! おかあじゃんつれでがないでええええ!」
 ゆっくりしていたまりさの顔が一変する。
 忌わしい記憶を呼び起こす声。
 そして、決定的な一語が聞こえてくる。
「悪ぃな、あと一匹でノルマ達成なんだ」
 ノルマ。
 なんだかわからないがとってもゆっくりできないものだ。過去まりさの幸せを壊した人
間たちはそのノルマとやらのために動いていたのだ。
「まっでえええええええ!」
「「「りーだー!」」」
 りーだーまりさの登場に、泣き喚いていたゆっくりたちが希望に満ちた視線を向ける。
「りーだぁー、だずげでえええ!」
「りーぢゃー、おきゃあじゃんがああああ」
 捕まっているのはれいむだった。それを見上げて泣き叫んでいるのは子供のまりさ。
「まってね! にんげんさん!」
「あ?」
「れいむをはなしてね! ゆっくりおねがいなんだよ! れいむがいなくなったらおちび
のまりさがゆっくりできないよ!」
 半ば、否、99%無駄とわかりつつもまりさは言った。群れのみんなはりーだーになに
やら過大な期待を抱いているようだが、何をどうやったって人間には適わない以上、人間
にそれを止めて貰う以外に無いのだ。
「じゃ、他の奴でいいよ」
 と、その人間――袋を担いだ男は言った。
「ゆ?」
「別に、おれはノルマが達成できればなんでもいいよ。どいつを連れてきゃいいんだ?」
「ゆゆゆ?」
 まりさは戸惑いつつ見回す。無論のこと、誰も名乗り出るものなどいない。
「ゆっ……まりさを連れていってね!」
 まりさは、言った。群れのみんながざわめく。もちろん自分が連れて行かれるのは嫌だ
が、かといってりーだーのまりさがいなくなってしまってやっていけるのかと不安の声が
ぼそぼそと上がる。
「ほぅ……よし、じゃお前だ」
 男はまりさを掴んで引っ張り上げる。
「ゆぎぎぎ、まってね、まってね! まりさを連れていっていいから、少し教えてね!」
「んん? なんだよ」
「のるま、ってなんなの?」
「あー、んーとな」
「まりさのおとうさんもおかあさんも、のるまのためだって言って連れてかれちゃったよ。
二人目のおかあさんもだよ! のるまってなんなの!」
「あー、ノルマってのはな」
 男は、まりさの言葉に多少の同情を覚えたのか、懇々と説明した。できる限りゆっくり
にもわかるように平易な言葉で、それでも無理かな、と思ったが、
「ゆっ、ゆっくりりかいしたよ!」
 まりさは、すんなりと理解した。それというのもまりさも同じようなことをしていたか
らだ。
 群れで食料を調達する際などに、一人これぐらいは集めようね! と呼びかけたりして
いたのだ。
 それでも、それを達成できなかったからといって罰則や叱責などがあるわけではないの
で、ノルマというよりもニュアンスは努力目標と言うのに近いかもしれない。
「へえ……」
 男は、まりさのそういった話を聞いて、興味を覚えたようだ。
「つまり……人間さんは、まりさたちを食べるんだね……そうしないと人間さんたちも飢
え死にしちゃうんだね……」
 まりさは、達観した表情で言った。
「いや、食わない。ただ殺して捨てるだけ」
「それならどぼじで捕まえるのおおおおおお!」
 だが、男の一言で悟りなどふっ飛んだ。自分たちも虫やら野菜さんを食べている、人間
さんも同じことをしているのだ。そう思ったからこそ諦めもついたというのに、殺して捨
てるだけでは納得いくはずがない。
「ふむ、それはな……」
 男は、再び説明した。
 近年、野良ゆっくりの中にゲスが増えてきた。
 というのも、どうしても野良の過酷な環境を生き延びるには、善良よりも他者を踏みに
じっても自分を優先するようなゲスの性質が適しているところがある。
 このまりさの率いる公園の群れは善良なものばかりだったが、これはたまたま善良な上
に能力的に優れているゆっくりが集まったから可能なことであって、かなり例外であった。
 実のところ、ゲス野良ゆっくり被害は飼いゆっくりを一匹にしない、家の戸締りをきち
んとする、という程度の対策で防ぐことは可能であり、まったく気にしていない人間の方
が圧倒的に多かった。
 しかし、戸締りを忘れて家を荒らされた。散歩中に目を離した隙に飼いゆっくりがれい
ぽぅされて殺された、などなどの被害にあった少しばかりの人間が大声で喚きたてること
によって、ついに野良ゆっくりを定期的に駆除をすることになった。
 それをぶん投げられた役所ではこれを持て余し、下っ端役人がもちまわりでノルマを定
めて野良を駆除することにした。
 元々が、大多数の人間は気にしていないので、役所にとっては余計な仕事が増えただけ
だったが、それでも駆除はしてますという姿勢を見せておかないと、いざまた被害が出た
時にクレームに対する言い訳ができない。
 そんな適当というか後ろ向きな理由で野良ゆっくり駆除は続いた。
「なんなのそれ! それならもっとゲスな奴らをくじょしてね、まりさたち、悪いことし
てないよ、にんげんさんに迷惑かけてないよ!」
 話を聞いてゆっくりりかいしたまりさは、当然のことながらその理不尽さに不平をもら
した。
「……ぶっちゃけ、めんどい」
「ゆ゛っ」
「意外にゲスなんて見つからないんだよ。それでも一応、ゲス優先で捕まえてるよ? で
もな、ノルマまであと一匹、ってとこでもう疲れたなー、早く終わらせてえなー、って思
ってるとこに野良がいたらさ、もうこいつでいいや、ってなるんだよ、うん」
「そんなのゆっくりしてないよ! ゲスを捕まえるのがおしごとなんでしょおおおお!」
「……いや、でもな、野良ゆっくりなんて多かれ少なかれ人間に迷惑かけてんだよ。お前
らはかけてないっていうつもりなんだろうけど、迷惑なんだよ、だから野良ゆっくりであ
る以上、人間にとっちゃゲスっていう理屈も成り立つんだ」
「ゆゆぅ……」
 何か言おうとして、まりさは沈黙した。男の口ぶりからは悪意の類は感じられなかった
が、それゆえにこの行動を完全に作業として割り切っているので説得は困難に思われた。
「ゆぅぅぅぅ……ゆっ!」
 だが、まりさは今正に袋に入れられようとした瞬間、思い出した。
「ゆん、おにいさん! ゲスの居場所を知ってるよ!」
 最近この辺りに流れて来たゲスまりさのことを思い出したのだ。
 群れに対しては報復を恐れて手出ししてこないが、だいぶ悪さを働いているようだ。
 やだ、めんどい、と言われてしまえばおしまいだったが、一応はゲス優先で捕まえてい
るという言葉に一縷の望みはあった。
「んー、この近くか? あまり遠いとな」
「近くだよ、すぐそこだよ!」
「じゃあ、そいつにするか。別にこっちはノルマさえ達成できりゃどれでもいいんだ」
「ゆっ! それじゃ案内するよ!」
「……いなかったら、お前連れてくからな」
「ゆぅ……ゆっくりりかい、してるよ……」
 まりさが案内した路地裏の段ボールにお目当てのゲスまりさはすーやすーやと寝ていた。
「ゆぅ……なんなんだぜ……」
 ゲスまりさは、りーだーまりさを見ると警戒した。近くの公園の群れを率いるりーだー
が自分のことをゲスだと認識し嫌っていることにはもちろん気付いていた。
 今まで刺激しないように群れのものには手出しを控えていたのだが、とうとう何か因縁
をつけに来たのかと思ったのだ。
「ゆゆぅ……まりささまになにか用なのかぜ? そっちの群れとはもめる気は無いのぜ」
 そう言ってゲスまりさは、ぎらりと凄味のある視線をりーだーまりさに向けた。
「でも……やるっていうならだまってやられないのぜ。まりささまの頬の傷はふらんを殺
した時につけられた傷なのぜえ!」
「こいつか」
 男が、ひょいと掴んでゲスまりさを袋に放り込んだ。
「ゆびぃぃぃぃ、に、にんげんさん、なんなんだぜえええ!」
 袋の中から恐怖に震えた声がする。修羅場をくぐってきたゲス野良ほど人間の恐ろしさ
は身に染みて知っている場合が多い。
「よし、じゃ、これでノルマ達成だ」
「ゆん、それならまりさは帰っていいね」
 男とまりさは、んなもん知ったこっちゃねえと言わんばかりである。
「まりさ……ちょっと話があるんだがな……」
 男が帰ろうとするまりさを呼び止めた。
「ゆゆっ!?」
 当然、まりさは何かゆっくりしていないことを言われると思って身構える。
「実はな……」
 男の話はゆっくりしていない話だった。でも、ゆっくりできる話でもあった。
「ごべんなざい、まりざうそづいでまじた。ふらんを殺したなんてうそでず。ほんとうは
ふらんに襲われで、れいむとおちびたちを差し出じでみのがじでもらっだんですぅ」
 袋からそんな声がしていたが、もちろん誰も聞いちゃいなかった。



「おーす」
「ゆっ、おにいさん、ゆっくりいらっしゃい」
「りーだー! おにいさんがきたよ!」
「ゆん、ちゃんとのるまはたっせいしてるよ」
 りーだーのまりさが出てくる。
「おお、よしよし」
 男は、檻に入ったゆっくりたちを見て、それを数えると頷いた。
 男が、あの時りーだーまりさに持ちかけた話。
 それは、まりさたちがゲス野良をノルマの数だけ捕まえておいて引き渡せば、この群れ
のゆっくりは駆除しないという取引であった。
 死後時間を経過したものは死体を拾ってきたと見なされてノルマの数にはならないので、
生きたまま捕まえておけと男に檻を渡された。
 これは、ゲスといえどもよほど酷いものでない限りは同属殺しを嫌うまりさたちにとっ
ては、ありがたいことであった。
 餌は、その辺にいくらでも生えている草を食べさせればいい。生に執着するゲスは文句
を言いながらも、食わねば死ぬと思ったら結局は食べる。
「ゆべえ、まりささまをはなすんだぜえええ」
 男は袋にゲスどもを入れていく。
「れいむにさわったらしょうちしないよ! ぷくーするよ、ゆべ! いだい、や、やべで
え、ゆるじでえ、ごべんなざいぃぃぃ」
 うるさい奴を何匹か適当に痛めつけて見せしめにする。
「ゆひぃ……ゆひぃ……」
 中には傷付いて半死半生になっているものもいる。これはまりさたちに、ゲスを捕まえ
るための練習台にされた連中だ。
「よし、これでノルマ達成だ。ごくろうさん」
「ゆぅ……こんかいはよかったよ、ちゃんとのるまがたっせいできて」
「前の、アレのこと気にしてんのか」
「……ゆん、のるまのためだからしょうがないよ」

 前回、ゲスが思ったように見つからず、ノルマに一匹届かない事態になった。
 このままではノルマが達成できない。その時は、群れのものを一匹連れていくと言われ
ている。
「おーす」
 そして、遂に最後の一匹が見つからぬままに男がやってきてしまった。
「あ? ノルマ達成できてねえ?」
 男はそれを聞くとあからさまに不機嫌になったが、すぐに、
「ま、そんなら群れのを一匹連れてくだけだ。どいつにする?」
 あっさりと切り替えてそう言った。
「ゆゆぅ……」
 まりさは窮した。ここで以前のように自分が、とは言えなかった。あらかじめまりさは
連れて行かないと言われているのだ。ゲス狩りにはりーだーまりさの統率が不可欠と男は
よく承知していた。
「なあ、あいつ、ほら、あいつでいいんじゃね」
 男は、ひーそひーそとまりさに耳打ちした。
「ゆ……ゆぅ……」
 男が「あいつ」と言ったゆっくりを見て、まりさは視線を落とす。実は、男に言われる
までもなく、生贄の候補として思いついてはいた。
 その男とまりさのやり取りを見た群れのゆっくりたちは、自然と「あいつ」に視線を注
ぐ。そして、すぐに皆の間に「あの子でいいよね」と言った空気が流れ始めた。
「ゆゆぅぅぅ……」
 まりさは、歯を食いしばって呻くと、きりっと力強い視線を向けて言った。
「お兄さん、あの子を連れてってね」
 視線の先にいたのは一匹のゆっくりれいむ。成体サイズとは言わないがそこそこ大きい。
死後長時間経過したものの他に、あまりにも小さい子供はノルマの数にならないのだが、
そのれいむ程度の大きさならば十分であった。
「ゆ? ゆきゅきゅ?」
 そのれいむは、死の宣告を受けたというのに、事態を理解していないのか無邪気な顔を
して群れの仲間を――自分を生贄にしたものたちを見ている。
 それもそのはず、このれいむは、全く事態を理解していなかった。
 頭に一房の毛の塊が乗っていて、他の部分はハゲている。いや、生まれた時からそこに
は髪の毛が生えていなかった。
 もみ上げは短く、それが僅かにぴこぴこと動いている。
 いわゆる、未熟ゆであった。赤ゆっくりとして成長しきれぬままに産まれてしまったゆ
っくりである。
 この未熟ゆれいむは孤児であった。にんっしんっした母れいむが一匹でやってきて群れ
に入り、そしてその後に出産し、そのまま母れいむは死んだのだ。
 気立てのよかった母れいむのことを皆好いており、未熟ゆの子れいむを群れで育てるの
には異論は出なかった。しかし、所詮は未熟ゆである。成体サイズになるまでは生きては
いられないだろう。
 家族がおらず、そしてどうせもうそんなに長くは生きられない。
 これ以上ないほどに生贄の条件を満たしていた。
「れ、れいむのおかげで、まりさたちはゆっくりできるんだよ!」
 りーだーまりさが、自分を見るみんなを不思議そうに見返している未熟ゆれいむに向か
って叫んだ。
 せめて、せめて感謝の言葉を捧げようと思ったのだ。
「ゆっくりありがとう! れいむ!」
 そのりーだーの意図を察した他のゆっくりたちもそれに続いた。
「「「ゆっくりありがとう! れいむ! れいむのおかげでゆっくりできるよ!」」」
 一斉に言われて、未熟ゆれいむは戸惑っていたようだが、やがてなにやらみんなが自分
に感謝しているのだとなんとか理解すると、嬉しそうにもみ上げを動かした。
「ゆきゅ、ゆきゅきゅ! ゆきゅきゅっ!」
 その未熟ゆれいむは、どうしても「ゆっくり」という言葉を最後まで言えなかった。
「ゆきゅきゅいっちね!」
 これは、ゆっくりしていってね、と言っているつもりなのだ。
「「「ゆっくりしていってね!」」」
 群れのみんなが返す。
「ゆきゅ! ゆきゅ! ゆきゅっ!」
 果たしてどこまで理解しているのかはわからぬが、まるでそれは、今まで世話になるば
かりだった自分が群れのみんなのために役立てるのが嬉しくてたまらないように見えた。
そう、もちろん自分が死ぬなどとは思わぬまま……。
 まりさは、後悔していた。余計なことなどせずに、さっさと袋に入れてもらえばよかっ
たのだ。自分たちの罪悪感を軽減させようとしおらしくお礼など言った結果がこれである。
思い切り罪悪感を増幅させることになった。
「おし、じゃ、ノルマ達成。おつかれさんしたー!」
 それを察した男が、さっと未熟ゆれいむを掴んで袋に入れた。
「……次はがんばるよ、みんな……」
 男が、去った後、まりさは言った。
 皆、ゆっくりと頷いた。

 まりさたちのゲス狩りは上手くいっていた。
 群れのゆっくりの犠牲はあの未熟ゆれいむだけで止まっている。
 群れはゆっくりしていたが、ただ一つ心配なのは、そのゆっくりをもたらしたりーだー
まりさがあんまりゆっくりしていないことだった。
「のるま、のるま、のるまはゆっくりできないよ……」
 ぶつぶつと、そんなことを呟いていることもあった。
「でも、達成しないともっとゆっくりできないからなあ」
「そうだね、もう、あんなのは嫌だよ」
「はぁー、お役所も、なんか最近その辺厳しくなってきてなあ、色々他のことでもノルマ
ノルマって言われてんだ。前はそんなことなかったらしいのになあ、まあ、それでも公務
員辞めるのはなあ……」
「ゆぅ、お兄さんものるまにおわれてるんだね。ゆっくりできないね」
 時々、あの男と公園のベンチに並んで座ってぶつぶつ言い合っていることもあった。
 そのため、群れのゆっくりたちの中に、りーだーというのはとてつもなくゆっくりでき
ない大変な激務なのだという認識が広がっていった。それまでも決して楽な仕事ではない
とは思っていたものの、どうもそれが想像以上のものらしい、と。

「ゆっ! まりさを群れに入れてほしいんだぜ!」
 そんなある日、一匹の若いまりさが群れ入り志願してきた。
 りーだーまりさたちが審査した結果、ゲスではないようだし、とりあえず群れで暮らす
ことを許した。
「ゆん、りーだー! まりさもおともするんだぜ!」
 まりさは、りーだーまりさを慕って行動をともにしたがった。
 そうまで慕ってこられると、まりさも悪い気分ではない。幼い頃に妹を亡くしているこ
ともあり、このまりさが妹のように思えてくるのだった。
「まりさは、りーだーみたいになりたいんだぜ!」
 と、常々言っていた。
「ゆぅ、でも、りーだーはすごい大変だよ。のるまがあるんだよ」
 と、他のものに言われても、
「ゆん、のるまは大変だろうけど、それでもまりさはりーだーみたいになりたいんだぜ、
りーだーをそんけーしてるんだぜ!」
 そう固い決意を披瀝して、皆に感心されていた。
 そして、りーだーというのがとてもゆっくりできないと認識している群れの中に、次の
りーだーはあのまりさでいいのでは、という話が出てくる。
 りーだーまりさも、結構その気になってりーだー教育を施すようになった。
 若きりーだー候補の誕生に、群れはゆっくりしていた。

「ゆっ、りーだーはもっと威張っていいのぜ、威張るべきなのぜ」
 ある日、若まりさが言った。
 りーだーまりさは、驕り高ぶることなく謙虚であった。
「まりさ、りーだーっていうのは、そういうものじゃないんだよ」
 ごくごく自然にりーだーなんだから少しは威張っていいはずだ、と思っているのだろう
と思ったまりさは、静かに諭した。その目に、ゆっくりしていない光が宿っているのに若
まりさは気付いているのかいないのか、ゆゆぅ、と言ったきり反論はしてこなかった。
 その晩、まりさは、側近のぱちゅりーに向かってそのことを話した。
「ゆぅ……あの子は、りーだーにはふさわしくないかも」
 皆、ゆっくりできないのるまに頭を悩ますりーだーを見ているせいか自らがそれになる
のに及び腰な群れにおいて、ただ一匹、意欲のあるものではあるが、そのりーだーなんだ
から威張って当然、という考えに不安を覚えたまりさは、側近のぱちゅりーに意見を聞い
てみたかったのだ。
「むきゅ、あの子はまだ若いから。それに、きっと今まで威張り散らしてるりーだーしか
見たことがなかったのよ」
 ぱちゅりーは、若まりさを庇った。
 実際のところ、ぱちゅりーは現時点ではそれほど若まりさを買っているわけではない。
しかし、なんといっても熱意はあったし、りーだーまりさをあれだけ慕っているのだから、
一緒に行動するうちに感化されて、同じような謙虚で群れのみんなのことを思いやれるり
ーだーになるだろうと期待していた。
 それとは別に、後ろ向きの理由も存在する。
 他に誰かをりーだーにするとしたら、皆が推すのはおそらくぱちゅりーだ。だが、ぱち
ゅりーはのるまと人間との交渉という重圧を伴うそれをやりたくない。
 りーだーに意見を求められれば助言する補佐役の地位が一番いい。りーだーなどやった
らクリームを吐いて死んでしまいそうだ。
「ゆん、ぱちゅりーがそう言うなら、もう少し様子を見てみるよ」
 まりさは、ゆっくりした顔で言った。自分を慕う若まりさを好ましくは思っているのだ。
 できれば、成長して自分の後を継ぐに相応しいゆっくりしたゆっくりになって欲しいと
願っている。
 まりさは、ぱちゅりーのおうちを出て、自分のおうちへとあんよも軽くぽよんぽよんと
跳ねていった。
「……失敗したのぜ……するどい奴なのぜ」
 闇から聞こえたその声は、まりさにもぱちゅりーにも届かなかった。
 翌朝――。
「おはようなんだぜ! りーだー!」
「ゆん、ゆっくりおはよう!」
 いつものように、若まりさがりーだーまりさとのおうちへやってきて元気に挨拶した。
「りーだー、昨日の話なんだけど……」
「ゆん?」
「まだ、よくわからないんだぜ。でも、りーだーの言うことだからきっと正しいのぜ。こ
れからりーだーの下で修行して、わかるようになりたいんだぜ」
「まりさ! ……ゆっくりしているね!」
 りーだーまりさは、感極まって叫んだ。確かにまだまだ未熟だ。これはどうかと思う感
覚を見せることもある。でも、やっぱりこの子は素晴らしい。
 原石だ。
 磨けば、いくらでも輝くに違いない。
「ゆっくり! ゆっくりりかいしていってね! まりさもまりさに、知っていることはぜ
んぶ教えるよ!」
「ゆっ! ゆっくりりかいするのぜ! これからもよろしくなんだぜ! りーだー」
「ゆん、それじゃきょうもがんばるよー」
「がんばるのぜー」
 ぽよん、ぽよん、と二匹のまりさが跳ねていく。
 その師弟コンビを群れのゆっくりたちは、とてもゆっくりと眺めるのであった。

 人間との交渉はりーだーまりさが一手に引き受けていた。
 他のゆっくりは、人間を極度に恐れていたためだ。
 まりさとて、それは同じだったのだが、仕方なしにやっていたら慣れてきた。のるまを
こなしている限り男は群れのものには何もしなかったし、絶対にゆっくりにも人間にも他
言するなときつく言いつつ食べ物をくれたりおうちの材料になる段ボールや発砲スチロー
ルをくれたりした。
 どうやら男にとっても、この付き合いは決して割りの悪いものではなく、むしろ男のの
るま達成のために有効で、まりさの群れが食糧難や住居難で弱体化するのは望むところで
はないらしい、ということをまりさはゆっくりりかいした。
 しかし、それをもって自分と人間は対等な取引相手なのだ、などと思ったりしないのが
このまりさが賢明な証しであった。
 若まりさは、まりさにくっついて人間に会い、会話などもこなしていた。
「ゆぅ……まりさも人間さんは怖いのぜ。でも、りーだーみたいな立派なまりさになるた
めなのぜ」
 と、言っている若まりさの勇気に群れのみんなが感心していた。
 男はもちろん若まりさに関心を持った。りーだーまりさに何かあった際に後釜に据える
候補としてだ。だが、熱意はあるもののまりさほどには賢くないのを悟り、
「しっかり鍛えとけよ」
 と、まりさに言っていた。
「まあ、とにかくノルマを果たしてりゃいいんだ」
 男は、まだ色々難しいことを言ってもわからんだろうと思い、若まりさにはとりあえず
そのことを教えておくことにした。
「ゆん! ゆっくりりかいしたよ! のるまはゆっくりできないけど、がんばってたっせ
ーすればゆっくりできるんだよ!」
「そうそう」
「ゆゆっ、のるまをゆっくりしないでがんばるよ!」
 きらりと光った目は、リーダーを目指す若者のやる気の現われと群れのゆっくりたちは
若まりさを誉めそやした。
 少し、この若まりさへの群れの評価が過大なのではないかと男は思ったが、皆の嫌がる
リーダーに物好きにも志願しているのだ。それだけで期待をかけ有望視したくもなり、さ
らには逃げられたら困るのでおだてて乗せているのだろう、と結論付けた。
 りーだーまりさは、ゆっくりしていた。
 のるまのせいでゆっくりできないでいたが、自分を慕い、その後を継ごうとする若まり
さにものを教えつつ一緒に行動するのが楽しかった。
「養子にしたらどうだ。……ゆっくりにそういうのはないか」
 ある時、男に言われた。養子というものが何かを説明されて、それもよいと思ったが、
いくら歳の差があると言っても、親子というほどではない。
「ゆん、それじゃあ、あの子がもっと成長して、後を継がせてもいいと思ったら……あの
子にまりさをおねえさんって呼んでくれるようにお願いしてみるよ」
「ああ、それがいい」
 目をえぐられて無明の闇の中で激痛に苛まれ、やがては失餡によりゆっくりと苦しみな
がら死んだ妹たち。
 思えば、まりさはあの時から、おねえさんと呼ばれるのが怖くなっていた。自分にそん
な資格は無いと思っていた。でも、りーだーとしてこの群れを率いて随分と経つ。もうあ
の時のなす術もなく妹たちを死なせてしまった自分ではない、と自信がついてきたのだろ
う。
 そして――

「まりさ、そっちへいったよ!」
「ゆゆん! にがさないのぜ!」
 その日、りーだーまりさと若まりさは、二匹がかりでゲスみょんを追っていた。このゲ
スみょん、いわば辻斬りの常習犯でどこかで拾ったバターナイフを得物に切りまくってい
た。ノルマのためのゲス狩りを抜きにしても、付近の平和のためにやらねばならぬ相手で
あった。
「ゆゆん、とおせんぼなのぜ」
 前に立ちはだかった若まりさを避けるために、ゲスみょんは右に跳ねようとした。しか
し、そのために一瞬停止したところを後ろから追ってきたまりさに体当たりされて転倒し
た。しかも、その際にバターナイフを落としてしまい、それを若まりさに拾われてしまっ
た。身体能力は高いものの、なんといってもゲスみょんの強さは切れ味鋭いナイフあって
のものだ。
「ゆっ! みんなの仇だよ!」
 まりさは、続けざまに体当たりした。仇といっても、このゲスみょんに殺されたゆっく
りにまりさの群れのものはいない。しかし、ごく自然に群れ外のゆっくりに対して仲間意
識を持っていた。
「ちぃぃぃーーーんぽ!」
 ゲスみょんが最後の力を振り絞って反撃した。まりさは跳ね飛ばされる。
「まりさ!」
 ナイフをくわえたままじっとしている若まりさに救援を求めるが、若まりさは動かない。
「ゆん!」
 まりさとゲスみょんがもみ合っているので同士討ちを恐れているのだろうと思ったまり
さは、体当たりを食わせてから後ろに飛んで距離を取った。
「ゆゆっ!」
 ゲスみょんが体勢を立て直そうとした瞬間、若まりさが突進してきてゲスみょんの後頭
部に深々とナイフを突き立てた。
「いーんぽ……」
 かくして凶行で付近のゆっくりをゆっくりできなくさせていたゲスみょんは息絶えた。
「……ゆふぅ……やったね」
「……」
 まりさが言うのに若まりさは答えず、辺りをしきりに見回している。
「ゆん、大丈夫だよ。このみょんは一人だから」
 ゲスみょんの仲間を警戒しているのだろうと思ったまりさは言った。
「りーだー……」
「ゆん? なにかな」
「りーだーは、やっぱりもっと威張っていいと思うんだぜ」
「ゆぅ……まりさ、りーだーはそういうものじゃないんだよ。ゆっくりりかいしてね」
 今、するべき話だろうかと思いつつ、まりさは言った。
「でも、りーだーほど凄いゆっくりはいないんだぜ! 人間さんとたいとーに付き合って
るし、あのお兄さんの力をバックにすればもっとゆっくりできるんだぜ!」
 若まりさが、まりさを尊敬しているのはわかるが、その思想にとてつもなく危険なもの
を感じたまりさは、一度びしっと言っておく必要を感じた。
「まりさ……それはゆっくりできない考えだよ、まりさは人間さんとたいとーなんかじゃ
ないし、そんなことしたら、にんげんさんに見捨てられるよ」
「ゆっ! そんなことないんだぜ。のるまをたっせーしてればいいんだぜ」
「まりさ……今のままじゃあ、まりさを次のりーだーにすることはできないよ」
「ゆゆっ!?」
「りーだーがどういうものか、もっとべんきょーしてゆっくりりかいしてね」
 まりさは、若まりさに背を向けた。なにしろ唯一の意欲あるゆっくりなので、それでも
切り捨てる気にはなれなかった。でも、このままりーだーになったら、群れもそれ以外の
ゆっくりも、そして若まりさ自身もゆっくりできない結果になる。
「それじゃまりさ、ゆっくりかえ」
 しかし、やはりなんだかんだで自分を慕う若まりさのことを、まりさは大好きなのだ。
消沈して何も言わぬのを気遣って明るく、今のことはもう無しだと言わんばかりの声をか
けた。
 ずぶ――
 振り返ろうとした瞬間に背中に生じた激痛を伴った異物感に、まりさはゲスみょんがま
だ生きていて復活してきたのかと思った。
 まさか、考えられなかったのだ。
「ゆへっ」
 自分を尊敬する若まりさが、自分にナイフを突き立てることなど。
「ま……り、ざ……」
「まったく、ばかな奴なのぜ」
 若まりさは、日頃の尊敬の眼差しなどどこへやら、ゴミでも見るかのような目だ。
「ど、どぼじで……どぼ、じ、で」
「ゆふん、まったくばかな奴なのぜ」
 本当に心の底から思っているのだろう。二回言った。
「りーだーのけんりょくでもっとゆっくりできると何度も教えてやったのに」
「……ちが、……ばりさ……それは、ちが」
 この期に及んで、まりさは若まりさの間違いを正そうとする。それへ嘲笑をくれてやっ
た若まりさはナイフをぐいと押し込んだ。
「ゆぎっ!」
 ナイフの先端が中枢餡に触れたのを感じたまりさは、痛みと恐怖に涙を流しながら震え
た。思考がふっ飛ぶ。
 まりさは妙に諦観していた。
 もちろんゆっくりできたこともあったが、基本的には立て続けに自分の周りのものに不
幸が起きたゆん生であった。
 とうとう、自分の番か、という奇妙な感覚がまりさにはあった。
 ――おとうさん、おかあさん、れいむ、いもうとたち、ぱちゅりーおかあさん――
 ――今、いくよ、ゆっくりいくよ、ゆっくりしようね、いっしょにゆっくり――
 家族になろうとまで決意しかかっていた若まりさに裏切られてみじめに死んでいくのだ。
もう、まりさは家族のところへ行くことしか考えていなかった。
 いや、しかし、餡子脳の隅々にまで染み付いたあることだけはどうしようもなかった。
 卑劣な裏切りによる、とてつもなくゆっくりしていない死にも関わらず穏やかだったま
りさの顔が歪んだ。
「の……るま……のるまが……」
 のるまの期限が近いのを思い出したのだ。あと三匹ほど足りなかった。先ほど始末した
ゲスみょんも捕獲できるものならしたかったのだが、そのような余裕はなしと見て殺した
のだ。
「しぶといのぜ……ゆっくりしないではやくいっちまうのぜ」
 ぐいぐいと若まりさがナイフを押し込んでくる。既に中枢餡はかなりの部分が損傷して
いてもはや助かるまい。
「のるま゛っ」
 それが、まりさの最後の言葉だった。
「ゆっへっへ、あんしんするんだぜ、のるまはまりさがしっかりたっせーしとくのぜ」

「ああ? あいつが死んだ?」
 りーだーまりさの死を告げられた男は絶句した。
「ゆん、それでまりさがあたらしいりーだーになったのぜ」
「……ん、そうかあ」
 若まりさを見て、男は頷いた。群れの連中はどいつもこいつも人間との接触を極度に恐
れ、まりさがゆっくりできていなかったのを見てりーだーという重職を嫌がっていたから、
ただ一匹だけ意欲のある若まりさがりーだーになるのは不思議ではなかった。
 話を聞けば、ゲスみょんとの戦いでりーだーまりさは殺されてしまったのだが、その場
にいながらりーだーを助けることができなかった若まりさが、その遺志を継いで償いとし
たいと泣き喚いて新りーだーに選ばれたらしい。
「まあ、頑張れ」
 とりあえずは、こいつのお手並み拝見である。
「ゲスゆっくりどもをノルマの数だけ捕まえて引き渡す。ノルマに足りていなかったらそ
の分を群れのものから連れていく。それはわかっているな」
「ゆっ! ゆっくりりかいしているのぜ!」
「で、今回はどうよ?」
 男はノルマの進行具合を尋ねた。そもそも今日やってきたのはそのためである。ノルマ
の期限の前々日ぐらいにやってきて、達成していないようならはっぱをかけていくのだ。
「ゆぅ……あと二人なんだぜ」
「そんならゲス一家でもいりゃあ番をとっ捕まえて達成だ。気張れよ」
「おにいさん、おねがいがあるのぜ」
「ん?」
 今回はりーだーが急に変わったこともあり、ノルマ達成が無理っぽいからゆっくり勘弁
してねとか言いうのであろうと思ったが、そうではなかった。
「みんな、一応まりさをりーだーにみとめてくれてるけど……やっぱりまえのりーだーと
同じにいかないのぜ」
「まあ、そらそうだろうな」
「ここは、お兄さんの力をかりたいのぜ。簡単なことなのぜ」
「よし、言ってみろ」
 若まりさは、しゃがんで耳を傾けた男にひーそひーそと耳打ちする。群れのゆっくりた
ちがそれを不安そうに眺めていた。
 前りーだーがいなくなってから初めての人間との折衝なのだ。ここで人間が、あのまり
さがいないのならもうお前ら役立たずだから駆除だ、とか言い出さないとも限らない。
「おーし、集まれ」
「ゆぅゆぅゆぅ」
「このまりさが新しいリーダーであることを認める」
「ゆっへん、ゆっくりみとめられたよ」
「これから、こいつの言うことはおれが言うことだと思ってちゃんと従うように、わかっ
たな」
「「「ゆ、ゆっくりりかいしたよ!」」」
 群れのゆっくりたちは、若まりさが人間に認められたのにほっと安堵したものの、男の
口からなんだかゆっくりできない言葉を聞いて幾分戸惑いながら答えた。
「ありがとうなんだぜお兄さん、これでみんなまりさの言うこと聞くのぜ、のるまをちゃ
んとできるんだぜ」
「おう、がんばれよ」
 男がああまで言ったのは、若まりさに頼まれてのことであった。人間がバックについて
いるのならば誰も逆らえない。そうして前りーだーに比べて乏しい統率力を補うのだと聞
いた時、男は若まりさを見直した。
 ただひたすらにりーだーまりさを慕ってガムシャラについて回っているだけなのかと思
っていたら、このように狡猾とすらいえる知恵をめぐらせるとは、こいつは上手く行けば
前のまりさ以上に男にとってはよいりーだーになりそうだった。
 それはそれとして――
「そうか、あいつ、死んじまったか」
 死んだと聞いた瞬間に、この群れを利用してゲスゆっくり狩りをやらせるのもおしまい
かと思った。しかし、意外にも若まりさが後を継いでやっていけそうだとわかって安心す
ると、男の中にまりさとの記憶が蘇ってきた。
 多少賢いようだが、要するにただの野良ゆっくりである。
 そう思っていたのだが、改めて死んでしまったのだと実感すると、感慨深いものがあっ
た。
 ひょっとして、自分はあのまりさのことが好きだったのだろうか?
 ――いや、ただの野良ゆっくりだ。野良ゆっくり狩りを仕事として幾度もやってきた自
分にそのような感情が芽生えるはずはない、と男は首を振った。
「ゆんっ! いまきいたとーりだよ! まりさはりーだーとお兄さんに認められたよ! 
みんなゆっくりりかいしてまりさの言う通りにしてね! そうしないとお兄さんに言いつ
けておしおきしてもらうよ!」
 去っていく男の後ろから、若まりさの声が聞こえてくる。
 はっきりいって恐怖支配丸出しだが、あのまりさほど自然に尊敬と服従を得られるもの
が他にいないのだから、結局は誰がやってもああしないと群れはばらばらになってしまう
だろうからしょうがない。
「そうか、あいつ、死んじまったか」
 気付いたら、二度目のその言葉が口から出ていた。

「お、よしよし、ちゃんとノルマは果たしたようだな」
「ゆん! これもお兄さんのおかげなんだぜ、あれ以来、みんなまりさのめーれー通りに
動くから、上手くいってるんだぜ」
「そうかそうか」
 きちんとノルマを果たした新りーだーの若まりさに、男はだいぶ満足していた。このま
ま行けば、十分あいつの後釜としてやっていけるだろう。
「やべでええええ、でいぶはしんぐるまざーだよ! かわいぞうなんだよ! だからいの
ちだけはたずげでえええ! あとあまあまちょうだいね!」
「うっせ」
 喚くゲスどもをテキパキと袋に入れていく。
「ゆわああああん、れいむゲスじゃないよぉぉぉ、おちびちゃんたち、れいむがいなかっ
たらみんな死んじゃうよぉぉぉ、おねがいだがらおうぢにがえじてえええ!」
「ん?」
 だが、最後に掴み上げたれいむを見て男は軽い違和感を覚える。
 なんだかんだである意味ゆっくりとの付き合いはそこそこ長いので、色々な連中を見て
きた。その経験上、こいつは本当にゲスではないのではないかと思ったのだ。
「おい、まりさ」
「ゆへっ、なんなのぜ」
「こいつ、ゲスか?」
 一応、若まりさに聞いてみる。
 男としては、そこで若まりさが、実はそいつはそんなにゲスでもないんだけどノルマの
ためにしょうがなく捕まえた、と言えば、それでいいと思っていた。基本的にまずはゲス
ゆっくり狩りに全力を尽くすとしても、どうしてもノルマに足りなければそれほどゲス度
の高くないものでも群れのゆっくりが連れていかれぬために差し出すのは仕方ないことだ
ろうと群れのりーだーとして判断してもおかしくはない。前のりーだーまりさならばしな
かったことだが、それはあいつがちと甘いのだ。
「ゆっ、そいつはゲスなのぜ。なかなか演技がうまくてだまされそうになるのぜ。でもゲ
ス行為のもくげきしょーげんもあるのぜ」
「そうか」
「う、嘘だよぉぉぉぉ! れいむ、なんにもじでないよぉぉぉ!」
「……ふむ、演技が上手いな」
「ゆっ、まったくなんだぜ。とにかく、のるまはたっせーしたのぜ?」
「ん、ああ、そうだな」
 男は軽い違和感を拭いきれぬまま、ノルマはきちんと達成されていることに一応満足し
て、いつまでも自分はゲスではないと泣き喚くれいむを含めたゆっくりどもの入った袋を
担いで去っていった。
「ゆへへっ」
 その背中を、若まりさがへらへらとした笑顔で見送る。
「ゆぅ……」
「あのれいむ……」
「ゆゆっ、まりさ、だめだよ」
 その周りで、群れのゆっくりたちはとてもゆっくりしていない感じで若まりさを見てい
た。その目は、以前の若まりさを見ていた期待と希望に満ちたものではなかった。
「……むきゅぅ……」
 前りーだーの側近だったぱちゅりーが呻いていた。ノルマまであと一匹というところで
若まりさがあのれいむを引っ立ててきた。れいむは先ほどのように自分はゲスではないと
主張し、見た感じではその通りであろうと思われた。だが、若まりさは、こいつは演技を
しているだけでとんでもないゲスなのだと言い、群れの皆はそれを信じた。
 いや……その時は、新りーだーである若まりさの言うことの方が正しいに違いないと思
っていたが、後から考えれば、どちらを信じるべきか選択する際に、若まりさの背後に、
あのノルマを達成していなければ容赦なく群れの仲間を連れて行ってしまう怖い人間さん
の姿を見てはいなかったか。
 その、怖い人間さんの言うことには逆らえぬと思っていたのでは……。
「……むきゅぅ……」
 もう一度、ぱちゅりーは呻いた。
 なんだか、ゆっくりできなくなる予感がしていた。

 ぱちゅりーの予感は、不幸なまでに的中することになる。
「ゆっゆっ、新しい群れの仲間だよ」
 若まりさが、何匹かのゆっくりを連れて来た。
「「「ゆっくりしていってね!」」」
 それでも、まだ若まりさには一抹の不安を感じているだけで、基本的には期待している
群れのゆっくりたちは、若まりさが認めたのなら大丈夫だろうとゆっくりした歓迎の挨拶
をする。
「ゆゆーん、ゆっくりさせてもらうよ!」
「ゆっへっへ、とってもゆっくりできそうだぜ」
「んっほほほ、ありすのあいでゆっくりさせてあげるわね。とってもとかいはね」
 しかし、若まりさが連れてきたれいむとまりさとありすは、なんだか無闇にゆっくりで
きなさそうな――はっきり言ってしまえばゲスなオーラを漂わせていた。
「「「ゆゆぅぅぅ……」」」
 群れのゆっくりたちは、思い切り顔をしかめる。
「ほら、こっちなんだぜ」
 若まりさは、そんな群れの様子に気付いていないのか気付いても知らん振りしているの
か、新参者たちを案内している。
「……むきゅぅ……」
 ぱちゅりーは、呻いた。
「ゆぅ……あのれいむたちは……」
 ちぇんが言った。このちぇんは、前りーだーのまりさの側近的な地位にいた。ぱちゅり
ーが助言等を行う知恵の面での補佐役とすれば、ちぇんはその俊敏な動きと身体能力でり
ーだーまりさの手足となって働く実務面での補佐役であった。
 群れのゆっくりたちは、ぱちゅりーとちぇんにゆっくりしていない視線を向ける。あの
どう見てもゲスっぽい「新しい仲間」とやらを迎え入れようとする新りーだーに、先代の
側近だったぱちゅりーたちが何か意見してくれないものかと期待する目だ。
「……むきゅぅ……」
「わ、わからないよー」
 しかし、この二匹とて、他のゆっくりより優れているとはいっても極度に人間を恐れて
いることは変わらなかった。あの恐ろしい人間さんを後ろ盾にしている若まりさの機嫌を
損ねる可能性があるようなことを実行する勇気は持ち合わせていなかった。
 わからないと呟き続けるちぇんとは違い、ぱちゅりーはさすがに頭がいいだけあって、
自分たちの間違いを悟っていた。人間との交渉をまりさと若まりさに任せきりだったため
にまりさがいなくなってしまえば、それは若まりさの独占するところとなる。そんなこと
は少し考えればわかることだったのだ。
 怖いことから逃げて、それをりーだーまりさに全て押し付けていた。そして、それを自
ら受け継ごうとする若まりさが現れるとこれ幸いと全てを若まりさに押し付けようとした。
 しかし、それは人間の力を背景にした絶対的な権力を産むことになった。それまでそん
なことにならなかったのは、ひとえに前のりーだーまりさがゆっくりとしては相当珍しい
ほどに自己犠牲を厭わず他者をゆっくりさせようとする個体だったからに過ぎない。
「わからないよー、ぱちゅりー、どうしたらいい?」
 ちぇんは、まりさの指示通りに動くのを専らにしていたので、この時も指示が欲しかっ
た。まりさに助言していたぱちゅりーならば、なにかいい指示を与えてくれるのではない
かと期待した。
「……むきゅ……あの人間さんに言ってみるしか……でも……」
「に、にんげんさんは、こわいよー、嫌ってほどわかってるよー」
 案の定ちぇんも、他のゆっくりも怖気をふるった。
 それに、そのことを訴えたとして、あの人間が若まりさを排斥するとも限らなかった。
彼は、ノルマを達成していればいいのだ。むしろ、手段は選ばずゲスではないものでも差
し出す若まりさのことを有用であると見なす可能性もあるのだ。

「れいむはしんぐるまざーなんだよ、かわいそうなんだよ、だからごはんをちょうだいね」
「ゆん」
 新たに群れに入ったれいむは、しんぐるまざーだからと言って食料を要求し、若まりさ
はそれを受け入れた。
「前のりーだーもそうしてたんだぜ」
 と、言われれば、確かに前のまりさもしんぐるまざーなどには手厚く保護を与えていた。
しかし、それを当然と思うような傲慢なものには厳しかったし、そもそもそんな奴は群れ
には入れなかった。
 れいむは、確かに一匹の子れいむをつれていたが、ろくに面倒を見ておらず、最低限の
食べ物だけ与えて後はほったらかして、時々憂さ晴らしに暴力を振るっていた。そのれい
むに「かわいそうなしんぐるまざー」であるからと群れの備蓄食料を渡すのに皆納得して
はいなかった。
 しかし、誰も何も言わない。
 言うまでもない、若まりさの後ろには、あの怖い人間さんがついているのだ。何も言え
るはずがない。
 そして、そのような群れのものの態度を見て、若まりさも新りーだーの側近となった三
匹の新入りも、遠慮をする必要は無しと判断した。
「ゆっへっへえ、りーだーりーだー」
「ゆん、どうしたのぜ、まりさ」
 ある時、若まりさの元を新入りまりさが訪ねた。
「たいへんなんだぜ、群れにとんでもない隠れゲスがいたんだぜ」
「ゆゆっ! それは一大事なのぜ」
 と、言って、若まりさはにやっと笑った。
「れ、れいむが何をしたっていうのぉぉぉぉ!」
 一匹のれいむが、おうちから引きずり出された。その髪の毛とリボンをくわえて引っ張
っているのは、新入りのれいむとまりさだ。
「まってね! まってね! まりさのれいむをどうするの!?」
 泣きながらそれに追いすがるまりさは、このれいむと番になることを決めて、つい先日
新居を構えてそこに同棲し始めたばかりであった。
 今日明日にでもすっきりして子供を作ろうとしていたこの若夫婦を襲ったのは、れいむ
に対するゲス疑惑であった。
 根拠は新入りまりさの密告だ。なんでもれいむは隠れて群れ外の野良ゆっくりを襲撃し
てその子供を食べていたという。
「そ、そんなごとずるわげないでじょおおおおおお!」
 今まで清くゆっくり生きてきたつもりのれいむは絶叫した。いくらなんでも着せる濡れ
衣を少しは選べという感じであったろう。よりにもよってなんという言いがかりをつける
のか。
 番のまりさも否定したし、他の群れのものも否定した。れいむがそんなことをするわけ
はない、と。
「ゆぅ、でも、しょーげんがあるんだぜ」
 しかし、新入りまりさはふてぶてしい顔で言った。
「ゆん」
 促されて新入りありすに伴われてやってきたのは、一匹の子れいむだった。ゆわゆわと
震えている。
「ゆぅ、ゆっくりしょーげんするのぜ」
 若まりさが言うと、びくりとした子れいむは口を弱々しく開閉させていたがやがて下を
向いたまま言った。
「しょ、しょのれいみゅが、れいみゅのおきゃあしゃんをころちて、いぼうとをたべまち
た」
「な、なにいっでるのぉぉぉぉ!」
 そんな子れいむは見たこともないれいむは当然声を限りに叫ぶ。
「れいむはそんなことしないよ! 見間違いに決まってるよ!」
 番のまりさも、自分が選んだ伴侶がそのような超ゲス行為をしたなどとは信じられずに
叫ぶ。
「ゆっくりしずかにするのぜ! はんけつはまりさがするのぜ!」
 若まりさに言われて、その場が静まる。既に、その一挙手一投足にびくびくする空気が
この群れにはあった。
「ゆっくりまりさがしろくろつけるのぜ……ゆぅぅぅぅ……れいむはくろだよ! れいむ
はゲスなのぜえ!」
「ど、どぼじでぞんなごというのぉぉぉ!」
「り、りーだー! なんかの間違いだよ! れいむはそんなごとじないよぉぉぉ!」
 さすがに、れいむとまりさの番は若まりさへの恐怖を振り払って食ってかかる。
「ちょーどのるまが足りないところだったし、れいむはゲス小屋へ叩き込むのぜ!」
 男がくれたゲスを閉じ込めておく檻を、この群れでは「ゲス小屋」と呼んでいた。新入
りまりさとれいむが無罪を主張するれいむの髪の毛とリボンをくわえて無理矢理に引きず
っていく。
「れ、れいむぅぅぅ!」
「んほお、まりさ、だめよぉ、これ以上あんなゲスを庇ったらまりさもゲス小屋行きよぉ
ぉぉ」
 新入りありすが、追いすがろうとするまりさを止める。一見、まりさにまで咎が及ばぬ
ようにと気遣っているようにも見えるが、ありすの口の端から垂れる涎と、この状況で恥
かしげもなくそそり立つぺにぺにがその醜悪な本心を露呈していた。
「……ゆぅ……あのまりさ……ありすに」
「ゆぅ、きっとありすが……」
「ゆっ! やめなよ、そんなこと言ったらゲス小屋行きだよ!」
 ゆっくりたちがひーそひーそと話している。
 あのありすが、まりさに言い寄っていたことは周知のことであった。しかし、既にれい
むと番になることに決めていたまりさにすげなく断られていたのだ。
 とかいはなありすのみりょくがわからないなんていなかものね! などと悪態をついて
その場は引き下がったありすだったが、このようなことになるとは誰も思っていなかった。
 れいむが冤罪であり、それらをありすが仕組んだのだということを疑うものはいなかっ
た。
 あからさまな暴挙であり、初めての群れの犠牲者である。
 群れのゆっくりたちが、若まりさの圧政に反抗するならばこの時であったろう。誰かが
立てば、我も我もと後に続き、大反抗の形勢となったはずである。群れのものへの危害は
一線だ。それを超えてしまったのだから、みんな爆発寸前であった。
 皆、ちらちらとぱちゅりーとちぇんを見た。
 そして、ちぇんはぱちゅりーを見た。
「むきゅぅ……」
 しかし、ぱちゅりーは下手に頭がよかったために、そんなことをすればあの人間さんを
敵に回すと思い動けなかったし、むしろ激昂しようとする他のものを止める有様であった。
「ゆふん」
 若まりさは勝ち誇った顔であった。
 これは若まりさにとっても賭けであった。これが一線を超える行為であることは承知し
ていた。逆に言えば、それでもなお反抗しないということは……もはや何をしてもこいつ
らは反抗しない。自分の権力が完全に確立されたということだ。
 それを見極めるための賭けに、若まりさは勝った。
 もう、これで自分は絶対権力を手に入れた。
 後は、その権力の源泉である人間との関係を維持するためにノルマを果たしていればよ
い。問題は無い。ゆっくりなどゲスか善良かを問わねばその辺にいくらでもいるのだ。

「おーす」
「ゆん、ちゃんとのるまはたっせーしてるのぜ」
「おう」
 期限の日、いつものように男がやってきた。
「たずげでえええ、まりざなんにもじでないよぉぉぉ!」
「れいむ、ゲスじゃないよぉぉぉ」
「ゆひぃぃぃぃ、ゆるじで、ゆるじでええええ」
「こいつら……ゲスか?」
 何匹かは確かに見るからにゲスなのだが、また数匹ほどに違和感を覚えて男は言う。
「ゆっへっへ、さいきんそうやって演技をするゲスがふえてるのぜ」
「ふーん」
「ゆっへっへ、のるまはちゃんとたっせーしてるのぜ」
 男の表情は淡々としており、動いていない。しかし、若まりさは人間のことをそれほど
深く知っているわけではない。表情の変化が激しいゆっくりに比べ、人間は極めて容易に
おのれの本心が表情に出るのを隠すことができるのだということを知らなかった。
「まあいい、ちょっと話そうか」
 男は、いつも前りーだーまりさと話していたベンチに座った。
「どうだ。ノルマはゆっくりできないだろう」
「ゆへへっ、そんなことないのぜ。ちょろいもんなのぜ」
「ん、そうか」
「ゆん! まりさにかかれば簡単なのぜ、任せて欲しいのぜ」
 若まりさはここぞとばかりに自分が優秀なりーだーであることをアピールした。男は少
し拍子抜けした表情でベンチから立った。
「じゃ、まあ次もがんばれよ」
「ゆへへっ、わかってるのぜ」
 余裕綽々と言った感じの若まりさの笑みに、男はすぐに背を向けて足早に歩き出す。
 あそこのベンチでノルマについて愚痴を言い合う奴がいなくなってしまったのを男は残
念に思い、そしてのるまなんてちょろいもんだという若まりさに苛立ちを感じていた。
 そして、疑惑は強くなっていた。
 優れていたりーだーであったまりさでもノルマ達成に苦労していたのに、自分の後ろ盾
が得られたとはいえ若まりさがこんなにすぐに余裕でこなせるようになるとは思えない。

「ぱ、ぱ、ぱ、ぱちゅりー」
「むきゅ」
 ぱちゅりーのおうちに、ちぇんが駆け込んできた。
「ちぇん、あんまり来ないでって言ったでしょ」
 前りーだーの側近だった二匹のことを、若まりさが機会あれば排除してしまおうとして
いるのではないかと思ったぱちゅりーは、ちぇんにあまりうちに来るなと言ってあったの
だ。
「で、で、で、でも、わが、わがらないよー、どぼじで」
「いったいなんなの」
 既に述べた通り、このちぇんは考えることはりーだーまりさとその死後はぱちゅりーに
投げているところがあるので、自分の頭で処理できないことを持ち込んできたのであろう。
「ゲ、ゲス小屋のゲスをりーだーが逃がしてるんだよー、わからないよー」
「むきゅっ! な、なにそれ」
 ぱちゅりーはちぇんに連れられてゲス小屋の方へと行ってみた。
「ゆゆっ、そのまりさはゲスだよ! れいむたち見たんだよ!」
 そこでは、一匹のれいむがおそらくなけなしの勇気を振り絞ったのであろう、震えなが
ら若まりさに詰め寄っていた。
 その若まりさの後ろに、一匹のまりさがいて、ゆへらっと笑っている。その隣にはあり
すがいた。
 ありすは初めて見るが、まりさの方は昨日あのれいむが長を勤めるゲス狩りチームが捕
まえてきてゲス小屋に放り込んでおいた奴だ。
 ちぇんの言う小屋から逃がされているというゲスはあのまりさのことだろう。
「むきゅぅ、どうしたの?」
「あ、ぱちゅりー、きいてよ! りーだーが、れいむたちが捕まえてきたゲスを逃がすっ
て言うんだよ!」
「むきゅ、りーだー……」
「ゆふん、このまりさは反省しているし、奥さんのありすがしっかり見張るって言うから、
更生させるのぜ」
 どうやら、あのありすはまりさの番らしい。なんでも、番がゲス狩りにとっ捕まったの
を聞いたありすがやってきて、釈放を願ったらしい。
 そして、まりさは反省し、ありすも二度とゲスなことはさせないと誓っているので、釈
放してやるのだと。
「ゆっくりはんせいしたんだぜ」
「もうゲスなことはさせないわ。とかいはの名にかけて」
 と、まりさとありすは言うのだが、はっきり言ってゲス特有のニヤニヤ笑いを浮かべて
おり、さっぱり信用できそうにない。
「ゆゆっ、信じられないよ!」
 と、まりさを捕まえたれいむは言ったのだが、
「りーだーが決めたことなのぜ」
 と、若まりさに言われると黙り込んでしまった。
 他のものも、誰も文句を言うものはいない。
 それに満足そうな顔をすると、若まりさは、もう捕まるようなことするんじゃないのぜ、
とまりさとありすに言って、逃がしてやった。
「ゆっく、ゆぐぅぅぅ」
 れいむは、自分たちが捕まえたゲスを逃がされてしまって悔しそうだ。
「おかしいよ! こんなのおかしいよ! 前のりーだーの時はこんなことはなかったよ!」
「……」
 若まりさは、そんなれいむを一瞥して去っていった。

「わがっ、わがらぁぁぁ!」
「おちつきなさい」
 またちぇんがぱちゅりーのおうちにやってきた。
 どうせまたろくでもないことが起きたのだろう。
「れ、れ、れいぶが、れいぶがぁ」
 ちぇんの話によると、れいむ――あの捕まえたゲスまりさを逃がされてしまい、おかし
いと叫んでいたれいむ――が、今朝死体で発見されたという。
「まさか……」
 怖くて、誰がそれをやったか、或いはやらせたかは想像はできても口には出せなかった。
「き、き、きっと、りーだーがやらせたんだよ、わ、わ、わがるよー」
「もっと声小さくしなさい!」
 はっきりと口に出してしまうちぇんを、いつにない大声を出してぱちゅりーが制止する。
「ち、ちぇんは、おかしいと思って探らせたんだよー、だから、わかってるんだよー」
「……な、何がよ」
 あまり頭がよいとは言えぬちぇんが、独自に行動を起こしていたことに恐怖を感じつつ、
ぱちゅりーは尋ねた。
「り、りーだーは、あのありすにあまあまを貰って、ゲスのまりさを逃がしてやったんだ
よー、わ、わいろって言うんだよねこれ、わか、わかってるよー」
「むきゅぅぅぅ……」
 明らかに、若まりさのやることに遠慮が無くなっているのをぱちゅりーは確信していた。
もう、若まりさはゆっくりなど一切恐れていない。なにしろ人間の後ろ盾があるのだ。
「ち、ちぇんは、あ、あのおにいざんに言ってみようと思うよぉ、じ、じきそって言うん
だよねこれ、わが、わがっでるよぉぉぉ」
「むきゅ……」
 ぱちゅりーは思わず止めようとして、口ごもった。もうこうなったら本当にそうするし
か方法はないのではないか、一見お兄さんは若まりさの味方だが、さすがに若まりさがこ
こまで酷いことをしていることは知らないだろう。それを訴えた上で、もうこんな酷いり
ーだーには従うことはできないと群れのみんなが宣言すれば、お兄さんは若まりさをりー
だーの座から引き摺り下ろすかもしれない。
 しかし、これまで若まりさはのるまを達成し続けている。いいから言われた通りにこい
つの言うこと聞いて働けクソ饅頭どもが、と言われる可能性もある。
 それらのことを考えると、どうしてもぱちゅりーにはそれをする勇気が持てない。しか
し、ちぇんがそれをやるというのならやらせればいい。
「むきゅ、わかったわ」
「ち、ちぇんは、あたまがあんまりよくないから、どう話せばいいのかわからないよー、
ぱちゅりーに教えてほしいよー」
「むきゅ」
 ぱちゅりーは、ちぇんに、どういう順序で話をすればいいのか等を言って聞かせた。
「わ、わが、わがったよぉぉぉぉ!」
 ちぇんは言った。本当にわかっているかは非常に疑わしかったが。
「ぱ、ぱ、ぱちゅりぃぃぃぃ!」
 群れのれいむがやってきた。
「むきゅ! お、おどかさないで」
「おどろいたよー」
 なにしろ若まりさに知られたらタダでは済まぬ密談中だったので、二匹とも驚愕した。
「に、に、に、にんげん、さんが、来てる」
「むきゅ!」
「に、に、に、にんげん、さんが、来てるのー?」
「り、り、りーだーはいない、っていったら、ぱちゅりーと話したい、って」
「む、むきゃあ!」
「ちぇ、ちぇ、ちぇええええんが話すよぉぉぉ! わがってねええええ!」
「ゆ、ゆっぐりりがいじたよぉぉぉ!」
「む、むきゅぅぅぅぅ」

「ここまで怖がってたのか」
 男は、先ほどのれいむのことを思い出しつつ、呟いた。
 前りーだーまりさから、群れのみんなは人間さんをとても怖がっているとは聞いていた
のだが、まさか声をかけた瞬間に涙としーしー垂れ流して痙攣するほどだとは思わなかっ
た。
「り、り、り、りーだはいまぜん、ほ、ほんどでずぅ。に、に、にんげんざんと話すのは
りーだーだから、れいむは駄目でずぅ。だから話しかけないでぐだざい。そうじないど、
れいぶは死にまずぅぅぅ」
「あー、いや、あのな」
 と言いながら、男は若まりさがいないのは好都合であると思った。というか、そもそも
いつもならば「おい、りーだーいるかー」とまずりーだーを呼び出すのだ。
 それを、れいむに声をかけたのは、前りーだーの側近だったぱちゅりーと話したいので
呼び出してもらおうと思ってのことだ。それが、このような状態ではどうにもならない。
 とにかくぱちゅりー呼んでこい、と言うと、れいむは飛ぶように跳ねていった。とにか
く、それで男から離れられるからであろう。
「おう」
「む、むっぎゅうぅぅぅ」
 側近のぱちゅりーはかなり頭がいいと前りーだーに聞いていたので、それだけ頭がいい
ならそう無闇に人間を恐れまいと思っていたのが大間違いであった。
「え、えれえれえれ」
「あ、こら、吐くな、死ぬぞ」
「むきゅ、し、し、しつれいしたわ」
 本当に失礼だないきなり吐きやがって、とは思ったものの、それを言ったらまた吐きそ
うなので男は黙っていた。
「実はな、今のりーだーのまりさ、前のあいつと比べてどうなんよ。ちゃんとやってんの
か? とかその辺のとこを聞きに来たわけよ」
「む、むきゅっ!」
 ぱちゅりーは、ちぇんを見た。まさしく、こちらの目的にぴったり当てはまることだ。
「ち、ちぇぇぇんが話ずよぉぉぉ!」
「ん、ああ、お前もそういや側近だっけか」
 あんまり賢くはないが行動力があってよく働くちぇんのことも、前りーだーから男は聞
いていた。
「わっ、わが、わがっでね、わが、わが、わがぁぁぁぁ!」
「……いや、あのな」
「ぱ、ぱ、ぱちゅりーが話ずよぉぉぉ、わがっでねええええ!」
「むっぎゅぅぅぅぅ!」
「飴やるから落ち着こうな、ほら、甘いぞー」
 情報を聞き出すための餌として持ってきた飴を男は与えた。まさか話す前の段階で使う
ことになるとは思っていなかったが。
「「ぺーろぺーろ、しあわせぇぇぇ!」」
「それはよかったね」
 甘いもん食ってようやく少し落ち着いたぱちゅりーは諸々のことを話し始めた。先ほど
ちぇんに言わせるつもりで色々と整理していたためにスムーズに行った。
「ふむふむ」
 男は頷きながら、どうやら頭がいいというのは嘘ではないらしいと思った。
「ふーむ」
 一通りの話を聞き終わり、男は腕組みして唸った。
 ぱちゅりーとちぇんと、そして遠くから見ているれいむはそれを注視している。男の言
葉一つでこの地獄が終わるか、続くか、決まる。
「ゲスゆっくりを捕まえろ、とは言ってるが、ノルマのためならゲスでないのが多少混じ
るのは構わん。俺もやってたことだしな。でも、ものには限度がある」
 男が怒っているようなので、ぱちゅりーたちは、それが自分に向いているものではない
のがわかっていてもそれを恐れて震えていた。
「……ふむ」
 それを見て、男は笑った。人間をここまで恐れているのならば、人間に嘘をつくなど恐
ろしくてできないだろう。
「聞いてると、どうも、あいつ、最初からそのつもりで来たっぽいな」
「むきゅ? それは」
「あそこの群れのりーだーは人間に言われてゲス狩りをしているってのを聞いて、それな
らその人間の力を利用すればゆっくりできる、とでも思ったんじゃないのか」
「むきゅ、そんな……」
「わからないよー」
 人間を極度に恐れるこの群れのゆっくりには、そもそも人間の力を利用する、という発
想がなかった。
「そうなると……あいつがゲスみょんに殺されたってのも怪しいな」
「むきゅ!?」
「わからないか、あいつがいつまでも人間の力を利用してもっとゆっくりしろ、っていう
自分の進言を聞き入れないから、いっそ自分がりーだーに取って代わろうと……」
「そ、そんな、そんな……」
「ひ、ひどいよー、わがらないよー」
「まあ、証拠はない。けど、あいつに白状させるさ」
 その時、何やらざわざわとゆっくりの声が聞こえてきた。
「ん? なんだ」
「れいむ、どうしたのかちょっと見てきて」
 遠くから見ていたれいむにぱちゅりーが頼むと、れいむはぽよんぽよんと跳ねて行き、
すぐに戻ってきた。
「りーだーが、帰ってきたよ! にんげんさんはどこだ、って」
 その後ろから、新入りのれいむ、まりさ、ありすを引き連れた若まりさが現れた。
「人間さん! 話ならまりさが聞くのぜ!」
 若まりさたちは、野良ゆっくりからあまあまを奪ったり、美ゆっくりをナンパ(と称す
るただのレイプ)したりして楽しんで帰ってきたところ、群れのゆっくりの様子がおかし
いので問い詰めた。すると、なんと人間さんがやってきてぱちゅりーと話をしているとい
うので慌てて来たのである。
「ぱちゅりー、勝手にお兄さんと話すんじゃないのぜ!」
「むきゅぅ……」
 若まりさに言われてぱちゅりーは下を向く。
 若まりさにとっては、唯一のお兄さんとの交渉役であるというのは権力の源だ。ここで
頭がよく、群れのゆっくりにも評価されているぱちゅりーなどが人間と話せるようになっ
たりしたら困るのだ。
「あー、いいんだ。俺がぱちゅりーと話したいって言ったんだから」
「ゆ、そ、そうなのかぜ? こ、こんなのと話す必要はないんだぜ、用だったらまりさが
聞くんだぜ」
「てめえ、おれに指図すんのか?」
「ゆびっ! そ、そ、そんなつもりじゃ、ないのぜ?」
「まあいい、お前にも話があったんだ」
「な、なんなのぜ?」
「お前、ちゃんとゲス狩りしてねえだろ、ノルマが最優先とはいえ、ものには限度がある
んだよ」
「そ、そんなことは……」
「ああ? 人間様ナメんじゃねえぞ、んなこたとっくにお見通しなんだよっ!」
「ゆ、ゆひ、で、でも、のるまはちゃんと……」
「だから、その上でだよ。てめえ、捕まえたゲスを賄賂貰って逃がしたりしてるらしいじ
ゃねえか、そんなおいしいこと俺みたいな小役人はできやしねえんだぞ」
 少し私怨混じりに、男は若まりさを難詰する。
「てめえがそんなでゲスが野放しになってみろ。そいつらが問題起こしてとっ捕まって、
この群れのことゲロしたら、芋づるで俺んとこまで来るかもしれねえじゃねえか」
 男が何より心配していたのはそれであった。
 持ち回りのゲスゆっくり狩りだが、男はこの群れによるゲス狩りシステムを確立してか
らというものの、他の同僚の番の時にノルマ分のゆっくりを提供していた。そのことによ
り、他のことで色々と貸しを返してもらったりもしている。
 そこで、人間の力をバックにした新りーだーが好き放題にしてそれに取り入ったゲスが
大手を振って闊歩し、それが例えば飼いゆっくりに危害を加えたりの問題を起こしたりし
ていたということがバレたら、これはタダでは済まない。上司からの叱責となんらかの処
分の上に、同僚に対して全く面目が無いというものだ。
 若まりさは、人間に対する理解が足りなかった。いや、そんな理解をゆっくりに求める
のは酷な話だ。それでも、前りーだーのように公園のベンチで愚痴でも聞かされていれば、
どうもこのお兄さんは人間の集まりいわば群れの中で絶対的な権力を持っているわけでは
なく、彼自身もまた上からノルマを課せられてそれをこなすのに四苦八苦している存在な
のだということを自然と理解しただろう。
 とにかく形だけでものるまを果たして、お兄さんの機嫌を損ねぬようにすればよいと思
っていた。それは正しくはあるのだが、その機嫌を損ねない方法について致命的な誤りが
あった。
「まあ、俺もとにかくノルマ果たせばいいんだ、とかちょっと言葉足らずだったな。つい
つい前のあいつと同じレベルに扱っちまった。あいつが特例だったのにな」
 その辺り、男も反省していた。基本的にゆっくりはアホなのだということをわかってい
るつもりで失念していた。
「ゆ、ゆ、ま、まりさ、ゆっくりはんせいしたよ、これからはちゃんとするよ」
 若まりさは男が何やら自嘲的なことを言ったのに力を得て、ここぞとばかりにゆへらっ
と媚びた笑みを浮かべて言った。
「ああ、お前は、決して頭悪くはねえ。悪知恵も知恵のうちだ。もっと違う形で関わって
いたら、俺らけっこういいパートナーになれたかもしれないのにな」
 この若まりさがりーだーになった時に、きつく躾けていれば、前りーだーが持っていた
甘さの無い大層使える手駒になったかもしれない。
「ゆ、ゆっくりはんせいしてるよ! これからちゃんとやるよ! だからこれからもまり
さをりーだーに……」
「二つの理由で駄目だな」
 男は、冷たく言い放った。
「まず一つ、てめえ、前のりーだーのあいつを殺ったろ」
「ゆひっ! あ、あれはゲスみょんが……」
「人間様ナメんなよ、って言っただろうが、んなこたとっくにお見通しなんだよっ!」
 男が強く言うと、所詮ゆっくりである。ガクガクと震えて頷いた。
「ゆ、ゆ、まりさが……やりまじだ」
「それが一つ目だ。あいつの仇のてめえには死んでも従いそうにねえぜ、こいつら」
 男が後ろを見ると、思っていた通りの光景があった。
 若まりさの自白を聞いて、怒りに震える群れのゆっくりたちだ。ぼそりぼそりと、ゆっ
くりしね、ゆっくりやっちゃおう、ゆっくりころしてやる、と言った物騒な声が上がって
いる。
「二つ目、お前よりもいいりーだーが見つかった……これがなけりゃあ考えたとこなんだ
けどな」
「ゆっ! だ、誰なのぜ! まりさよりもりーだーにふさわしい奴なんていないのぜ!」
「ぱちゅりー!」
 男に呼ばれて、ぱちゅりーはむきゅと呻いた。男の言わんとすることを理解して吐きそ
うになる。嫌だ嫌だ、りーだーなんて、あんな辛い仕事はやりたくない。若まりさのよう
にすれば楽だろうが、それは人間さんが許さないだろうし、そもそもぱちゅりーの性格と
してできるものではない。
「そ、そのぱちゅりーは、まりさが来る前から次のりーだーにってみんなに頼まれても、
りーだーはゆっくりできないから嫌だって言ってたのぜ! そんな奴にりーだーの資格は
無いのぜ!」
 若まりさの言葉がざっくりとぱちゅりーの心をえぐる。そうだ。そうやってぱちゅりー
が逃げていたために、この度の若まりさの横暴を許すことになったのだ。
「む、むきゅぅぅぅぅ!」
「おい、ぱちゅりー、どうだ。お前がどうしてもやる気ねえなら……しょうがねえ、あい
つに引き続き……」
「ぱちゅがやるわ。りーだーを、やるわ!」
 ぱちゅりーが叫んだ。叫んだ次の瞬間にクリームを吐きそうになった。
 だが、耐えた。
「むっきゅう」
 ごくりと口までせりあがって来たクリームを飲み込んだ。涙が、じわっと眼球を濡らし
ていた。
「ぱちゅりーがりーだーになるなら、ちぇんは喜んで従うよぉ、わかるよぉー!」
 ちぇんが言うと、それに賛同する声が上がった。
 若まりさの顔色を窺うものなど一匹もいない。人間さんの後ろ盾を失ったまりさのこと
など、恐れるものは誰もいなかった。
「ゆ、ゆっくり逃げるのぜっ!」
 若まりさが、後ろを向いて跳ねた。従っていたれいむ、まりさ、ありすもこれに続く。
「むきゅ! 逃がしちゃ駄目よ! ゲスを捕まえるのよ!」
「わかったよぉぉぉぉ!」
「ゆっくりまってね!」
「ゆっくり捕まえるよ!」
 新りーだーのぱちゅりーの命令一下、群れのゆっくりたちは逃げる若まりさたちを追っ
た。
「んー」
 男は、歩き出した。
 ゲスは逃げ足のスタートダッシュが早いものが多く、若まりさもその例に漏れぬようで
これでは逃がしてしまいそうである。あいつらが生き延びてこの群れに復讐と称してちょ
っかい出して来たら面倒だ。
 だから、男は若まりさたちの逃げる先に回りこんでその行く手を阻んでやろうとしたの
だが、ぽよんぽよんと思わぬ速さで跳ねて行き、若まりさの前に立ちはだかったものがい
た。
「逃がさないんだよー、わかってねー!」
 前りーだーの側近だったちぇんだ。
 驚きの速さである。身体能力はあるとは聞いていたものの、必ず「ゆぅ、でもちぇんは
あまり頭が……ゆゆぅ」と言われていたので、どうしてもまず何よりもちぇんの個性はア
ホであることだという認識があり、ここまで速いとは思わなかった。
「ゆっくりどけえ!」
「当たらないよー」
 若まりさが体当たりをしようとするが、ちぇんはひらりとかわす。そして、そうしてい
る間に他のゆっくりたちが追いついてきた。
「ゆゆーっ、やっちゃえー!」
「ゆっくりしねえー!」
「二度とゆっくりさせないよ!」
「ゆっくりしね!」
「ゆっくり吊るせ!」
 瞬く間に、若まりさ一党はゆっくりたちの波に揉まれてめちゃくちゃにされてしまう。
「そのありすはまりさにやらせてね!」
 一際憤怒の形相も恐ろしいまりさが、押さえつけられたありすに向かって口にくわえた
先を尖らせた棒を突きつけた。
「ま、ま、まりざぁ、あ、あんなにあいじあっだながじゃないのぉぉぉ!」
「……ゆっぐりじねえ!」
 まりさは、遠慮なくありすの右目に棒を突き刺した。
 このまりさ、策謀により番のれいむにゲスの濡れ衣を着せられて殺されてしまったあの
まりさであった。
 あれから、ありすにたっぷりと犯されていた。姉妹や親の身の安全をちらつかされては
悔しくても逆らいようがなかった。
「ありす……あの時、まりさのれいむをゲスだってしょーげんしたおちびのれいむは今ど
こにいるの?」
「ゆ、ゆひぃぃぃ、あ、あれなら……」
 ちらりとありすが残っている左目でまりさを見上げる。
「……殺したね。どうせお前らのことだから、嘘のしょーげんをしたってことを喋らせな
いために口封じしたんでしょ!」
「その嘘のしょーげんだって、おどかしてむりやりさせたんでしょ! このゲス!」
「まりさ、残ったおめめもやっちゃえ! あの子の敵討ちだよ!」
 周りのゆっくりが煽る。
「ゆん、そのつもりだよ」
 まりさは、もう一本の棒をくわえてありすの前に立った。
「や、やべでえ、あ、ありずは、あいに、あいに生きただけなのにぃぃぃぃ!」
「ゆっくりしね!」
「ゆっがあああああああ!」
 ありすが光を失った頃、他のものたちも等しく制裁を受けていた。恐怖支配の大元締め
であった若まりさへのそれは特に激しく、既に若まりさは息も絶え絶えだ。
「おい、殺すな」
 男が言うと、ゆっくりたちはぴたりと止まった。その人間を恐れて絶対服従の姿勢に男
は満足そうに頷いた。
「話聞く限りだと、今も檻にはゲスじゃないのが何匹かぶち込まれてるんだろう。そいつ
らと交換だ」
「むきゅ! そ、そうだわ。助けてあげないと!」
 若まりさたちはゲス小屋へと引っ立てられた。
「まりさを出すんだぜえええ、ゆっぐりざせろぉぉぉ!」
「れいむはかわいそうなんだよ! おちびちゃんを殺したのも、あれはあのクズどもが悪
いんだよ!」
 と、いかにもなゲスの中に、
「おねがいじます、ゆるじでぐださい。れいぶ、ゲスなんかじゃありまぜん、ほんどでず
ぅ」
「ま、まりさはなんにもしてないよ! ゆっくり出してね! ゆっくりできないよぉ」
 何匹か、ゲスには見えぬものがいた。
 ぱちゅりーが指示して、そのゆっくりたちを檻から出す。当然ゲスどもがそんな奴らよ
りしんぐるまざーのれいむを出してあまあまちょうだいね、あとどれいにしてあげてもい
いよ、とか言ってるがみんな無視である。
「ほら、ゲスはゲス小屋へ入ってね!」
「や、やべろぉぉぉ」
「れいぶはじんぐるまざーなんだよぉぉ!」
「ん、んほぉ、んほぉぉぉ……」
「ゆ? ゆ? ゆゆぅ?」
 自分たちと入れ替えに、この群れのりーだーのまりさとその取り巻きが檻に入れられる
のを見て、出されたゆっくりたちは不思議そうにしている。
「むきゅ、ごめんなさい。ぱちゅたちが不甲斐ないばかりに……もう大丈夫よ」
 ぱちゅりーが、一連の経緯を説明すると、檻から出されたゆっくりたちはゆんゆんと嬉
し涙に頬を濡らした。
「よ、よかっだよぉ、これでゆっぐりできるよぉぉぉ」
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくりしていってね!」」」
 いつしか、群れのゆっくりたちも加わってゆっくりしていってねの大合唱になる。
 それをどーでもよさそうに眺めていた男は、ふとゲス小屋の住人となった若まりさを見
た。
「ま、まりざは、りーだー、なのぜ。えらいのぜ。まりさに、さからうやつは、みぃーん
な、ゲス小屋、行き、なのぜ。……なんで? どぼじて? どぼじてまりざがゲス小屋に
いるの? ま、まりざはりーだーなのぜ! りーだーなのぜええええ!」
「まりさ」
 名を呼ばれて上を見れば、あの人間が、あの若まりさの短い栄光を彩った権力の源泉た
る人間が立っていた。
「お、お、お兄ざん、まりざ、まりざ、のるまをちゃんとやるのぜ。お兄ざんの言う通り
にちゃんとやるのぜ。だがら、まりざを、もう一度、りーだーに……」
「今更俺がお前をりーだーに戻すと言っても、さすがにあいつらが承知しないさ」
「……り、りーだーじゃなくで、いいがら、たずげで、遠いところに行っで、もう二度と
ここには来ないがら」
「駄目だ」
「ど、どぼじで、まりざ、のるまをちゃんとやったのぜ? お兄ざんをゆっぐりさぜたの
ぜ? い、いのちだげはだずげでぐれでもいいのぜええええええ!」
「さっきは二つって言ったけど、三つ目の理由があったわ」
「ゆ゛?」
「おれは、あいつ……前のりーだーのまりさな、あいつとあそこのベンチで愚痴を言い合
ってる時間が、嫌いじゃな……いや、かなり好きだったらしい」
「ゆ、ゆぅ?」
「お前とも、あそこで愚痴を言い合っていたら、もしかしたら命だけはと思ったかもしれ
ないな。……でも、お前、ノルマなんかちょろいんだもんな」
 言ってから、男は、自分のいかにも狭量な怒りを自覚して恥かしくなってそっぽを向い
た。自分やあのまりさが苦労していたノルマをちょろいもんだと嘲笑うように言った若ま
りさに、自分は相当にむかついていたらしい。
「ゆ、ゆ、ゆぎぃぃぃぃぃ……」
 若まりさは、決して頭が悪くはないので悟ってしまった。
 この人間は、もう絶対に若まりさを助けてくれないのだということを――。

「おーす」
「むきゅぅ、いらっしゃい、お兄さん」
 新りーだーのぱちゅりーもようやく慣れてきて男をやたらめったらと恐れることはなく
なった。
「どうだ。ノルマは」
「むきゅ、大丈夫よ……大丈夫なんだけど」
「ゆゆぅ……」
 なんだか、群れの連中が浮かぬ顔だ。
「どうした? 大丈夫なんじゃねえのか?」
「あいつを出すことになるかも……」
「ん、あー、はいはい」
 男とぱちゅりーはゲス小屋へとやってきた。
「ふむふむ、あー、あいつを入れてノルマ達成なのか」
「ええ……」
 あいつ、と呼ばれたのは、かつてこの群れで権勢を誇った若まりさ……もうボロボロの
体はとても若くは見えない、あのまりさであった。
 あれから、すぐに取り巻きのれいむ、まりさ、ありすはのるまとして男に供出された。
「どぼじでまりざだけぇぇぇ!」
「おかじいよぉ、れいむもだずげでね! れいむはしんぐるまざーなんだよ!」
「んほぉ、んほぉ」
 とかなんとか喚きながら連れて行かれた三匹と違い、若まりさはそのまま檻に残された。
 ちなみに、しんぐるまざーれいむの子供の子れいむは、育児放棄の上に虐待はしっかり
する母親に完全に愛想を尽かし、子供が産まれなくて困っていたれいむとまりさの番にこ
っそり食べ物を貰ったりしているうちにお互い情が通い、若まりさの失脚と同時に、この
番の養子になっていた。
「お、おちびぢゃあああああん、りょうさいけんぼのれいぶをだずげでねえええ!」
 袋に入れられるために持ち上げられた時、れいむとまりさの夫婦に寄り添っている子れ
いむを見つけたれいむは最後の望みとばかりに懇願した。
「うるちゃいよ! おとうしゃんは、おまえがこきつかったからかろーししちゃったんだ
よ! れいみゅにだっちぇ、おきゃあしゃんらしいことちてくれたこちょにゃいでちょぉ
ぉぉぉ!」
 その懇願は、子れいむの激昂にあっさりと跳ねつけられた。逆ギレして親不孝でゆっく
りしてないと罵倒されると、子れいむはれいむとまりさにぴったりとくっついて、
「この二人がれいみゅのおとうしゃんとおきゃあしゃんだよ、おまえにゃんか親じゃにゃ
いよ!」
 と、れいむの罵倒などもはや痛くも痒くもないことを示した。
 さすがにがっくりとしたれいむは、そのまま袋に入れられてしまった。
 だが、この三匹も、残った若まりさが決して助けられたのではないということを知った
ら、果たしてあの時、自分たちも残りたいと思ったであろうか。
 若まりさは、さらなる制裁を受けるために残されたのである。
 皆に慕われていた前々りーだーのまりさを殺し、自らがりーだーだった時には恐怖政治
を布いて群れを支配した若まりさを、群れのゆっくりたちはどんな酷いことをしてもいい
存在だと認識しており、いつしか若まりさは群れのストレス解消の道具になってしまって
いた。
 ぱちゅりーは、それにすすんで加わったりはしなかったが、そのストレス解消が群れに
いい影響を与えているのを感じており、できれば若まりさを供出したくなかったのである。
 しかし、その代わりに群れのものや、ゲスではないゆっくりを差し出すのも本末転倒と
いうか、ゆっくりしていない話だ。
「ゆぅ……ゆ゛ぅ……、お、おにい、ざん、ようやく、まりざの、ばん、なの、ぜ? ま
りざ、ようやぐづれていっで、もらえるの、ぜ?」
 常に死ぬ寸前と言った状況がずっと続いている若まりさの心は、とっくのとうにぼっき
り折れて、今では男に連れて行かれるのを心待ちにしている有様だった。
「ああ、そういうことだ」
「ゆ゛ぅ、やっど、ゆ゛っぐり……」
「りぃだぁぁぁー!」
 そこへ、ちぇんが駆け込んできた。
「まってね! 今、ゲスを一匹捕まえたよ」
「ゆ゛っっっ!」
 さすがに哀れさを催すほどに、若まりさの表情が凍りつく。
「んっほおおお! あいを与えて何がわるいのよぉぉぉ! このいなかもの! ありずの
ぺにぺには宝よ! もっと大事に扱いなさい!」
 地面にぺにぺにをずりずりさせつつ引きずられてきたのは、もうどっから見てもクソレ
イパーのありすであった。
「じゃ、こいつでノルマ達成だな」
「むきゅ」
「わかるよー」
「……ゆ、ゆぐっ、ゆぐぅぅぅぅ……」
 若まりさの苦しみは、まだ当分続きそうであった。なにしろ、若まりさを差し出すこと
にならぬように、みんな以前よりも一層ゲス狩りに励んでいるのだから。
「んー」
 男は、さすがにそろそろ若まりさを解放してやってもいいのではないか、と思っていた。
 でも、思っただけである。
 若まりさがああやって皆にぶっ叩かれている方が、ゲス狩りに力が入り、ノルマ達成に
は有効である以上、男からは何も言うべきではなかった。
「こっちは、ノルマ達成してもらえりゃいいんだ」
「むきゅぅ、のるまはゆっくりできないわね」
「ああ、でも……達成しないともっとゆっくりできなくなるからなあ」
「そうねえ、のるまのるま、むきゅぅ」
「ああ、ノルマはゆっくりできねえなあ」

                                  終わり


 なんか、ようわからん話になったがぜよ。
 wikiを見たらおれ、つむりあき(仮)という名前になっとるのね。うーん、別にお
れがつむりを作ったわけでもないのにおこがましい感じがするのぅ。
 ここは一つ、名前考えるか、別んとこで使ってた名前そのまんま名乗ってもいいのだが、
うーん、それも含めてちと考えておく。


 過去作品
 anko429 ゆっくりほいくえん
 anko490 つむりとおねえさん
 anko545 ドスハンター
 anko580 やさしいまち
 anko614 恐怖! ゆっくり怪人
 anko810 おちびちゃん用のドア  
最終更新:2010年04月19日 16:38
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