ふたば系ゆっくりいじめ 1149 ゆっくりシャンティー

ゆっくりシャンティー 25KB


虐待-普通 調理 現代 大食いアイドルによる、食用ゆっくりエッセイ


 いつの頃からか憶えてないけど、あたしのモットーは『人生は一度しかないから、色
んな事をやってみる』だった。いやまぁ、犯罪とか人に迷惑を掛ける事は駄目だろうけ
ど。人として。
 思えばあたし、色んな事をやったよ。自衛隊にも入ったし、セミプロのコスプレイヤ
ーもやった。そして今は……。

 『大食いアイドル』って何よ? 本人が『何よ?』って言うのも変だけど、自分で付
けた肩書きじゃないしなぁ。大体、アイドルって言える歳かなぁ? コスプレだって去
年で引退したっていうのに……。
 まぁ、大食いタレントってヤツなのよ。そのジャンル自体も微妙だけど。顔の方も、
コスプレイヤーやってたぐらいだから、多少の自信はある。あー、いやいや、自慢じゃ
ないから。飽くまで、他の大食い連中と比べて、って話ね。まぁなんとか、テレビに映
ってても大丈夫だよね、ってコト。
 そんなワケで、テレビとか雑誌とかで『大食いアイドル』なんて肩書きを付けられち
ゃたの。いや、本物のアイドルには悪いと思ってるわよ。あの娘達にしたら、あたしな
んてオバサンだろうし。


 さて、今日は胃袋を広げに来たんだ。ん? 意味分からないって? えーと……。

 一口に大食いタレントって言っても、色んなタイプがいる。人によっては、胃や腸の
柔軟性が高くて、物凄く沢山の食べ物が入るって人もいる。でも、あたしはそういうタ
イプじゃない。普段の胃のサイズは、それほど大きくもない。だから、イベントとか試
合の前には暫くの期間、多目に食べるようにして、徐々に胃のサイズを大きくしなきゃ
ならないんだ。
 普段から大きくしておけばいいと思う人もいるかも知れないけど、そうもいかない。
沢山食べたいのは山々だけど、そんな事をしてたら、あっという間に財布が悲鳴を上げ
る。大食いタレントのギャラなんて、たかが知れてるのよ。彼氏に奢ってもらうにして
も、破局の原因になる(あ、現在、彼氏募集中。週1ぐらいでデカ盛りを奢ってくれるよ
うな人がベター)。
 そんなワケで、シーズンオフ(?)は胃を小さく(と言っても、普通の人と比べて小さい
かどうかは怪しい)しておいて、必要に応じて大きくしていく、って感じなの。

 でね、このアーケード商店街の中の、とあるお店が今日のターゲット。そこで大食い
しようって話。
 この商店街の最寄り駅は、あたしの自宅の最寄り駅から2駅離れている。普通なら自転
車で来る距離なんだけど、あたしはよく歩いて通う。ま、都会の私鉄の2駅分なんて大し
た距離じゃないんだけど、一応、大食いをする以上、カロリー消費の助けにね。あ、カ
ロリー計算は数字のまやかしだって事は知ってるし、そもそも気休め程度の運動量だけ
どね。
 今日行くお店は、駅側からアーケードに入ってちょっと行った所にある、『ゆっくり
の王様』ってトコ。店の名前で分かると思うけど、原材料に食用ゆっくりを使ったスイ
ーツのお店。
 ぶっちゃけ、このお店、有名な割にはそれほど美味しくはない。特段安くもない。内
装もそんなに綺麗じゃない(ソファーなんか、ボロボロに破けてるトコもある)。じゃぁ
何故?って思うわよね? 実は、所謂デカ盛りメニューが多いってトコがポイント。ス
イーツ屋なのにね(笑)。ま、スイーツの大食いの練習とかにはもってこいってワケ。


 とかなんとか言ってる間に、お店の前に着いた。よく見る光景だけど、店頭には一押
し商品の宣伝ポスターなんかが貼られている。今貼られてるのは『モンふらん』……。
 うーん。この商品にはイヤな思い出が……。
 これは名前の通りの商品で、アイス化してある子ふらんや赤ふらんが、山のように積
まれてる物。
 アイス化って言うと聞こえはいいけど、要は凍死体みたいなもの。いや、それは流石
に聞こえが悪いか(笑)。でもそもそも、人間が食べてるものの殆どは、形態はどうあ
れ、動物か植物の死体だし。

 死体を食物にする事とそれに対する罪の意識っていうのは、古今東西に有って、それ
らは形の変遷は色々と有れど、特に宗教観に大きく反映されてたりする。イスラム教の
ハラームなんて有名よね。あれは『穢れているから』と理由を付けてはいるけど、そも
そもの起源は、死体を食べることに対する罪の意識とか、寄生虫の危険性の問題から来
ているのよね。

 え? なんでそんな事知ってるかって? そりゃまぁ、一応こういう仕事してるんだ
からさ、食べ物についてぐらいはある程度の知識が無いとマズいでしょ。
 まぁ、それ以前に、食べるだけじゃなくて料理とかも好きだし、大学では『食物文化
論』とか『食物論』とかの単位も取ったし。『チョコレートとマヨネーズの相似と相違
は……』とか『エマルションとサスペンションが……』云々とか。ま、そんな感じの事
をやってたワケよ。

 あぁ、話が脱線しちゃった。『モンふらん』の話ね。
 これさ、見た目はカラフルで綺麗だし、少しだけならそこそこ美味しいの。ただ、殆
ど全部がふらんで出来てるワケじゃない? いくら食べても餡子味だから、あの量は流
石に飽きるのよ。いや、あたしがそもそも餡子がそれほど得意じゃないってのは有るか
も知れないけどね。
 前に注文した時は、もったいないから全部食べたけど、流石にキツかったなぁ……。

 そもそもあたしは、大食い自体が目的じゃないんだ。美味しいから沢山食べる。その
結果として大食いになる。……ってだけ。だから、いくらデカ盛りでも、飽きるほど単
調な味だったりするとキツい。
 あたしも仕事で大食いやる以上は、なんとか克服したいとは思ってはいるんだけど、
こればかりはねぇ……。

 ん? さっきこの店の事を『それほど美味しくはない』って言ったじゃないかって?
いや、美味しいには美味しいんだけど、お洒落な美食雑誌とかで特集されるレベルまで
じゃない……って意味よ。その辺りは察してよ(笑)。


 店に入ると、店員が迎えてくれる。流石に店員とはもう顔見知りだ。会釈を交わして
から奥に案内され、ソファーに座った。

 店は、今では多くなくなった、イートインが出来るケーキショップみたいな感じ。入
り口付近にはテイクアウト用のケーキショウケース。そこから進むと厨房とカウンタ
ー。一番奥に客席がある。
 なんか、一昔前の駄菓子屋兼お好み焼き屋とかみたいで、結構こういう店は好きだ。

 席について間も無く、店員が水とメニューを持ってくる。まぁ、注文する物はもう決
まっているのだけど、一応、メニューを開いて指差しながら言う。
「『ロッキーマゆンテン』を一つ」
「かしこまりました」
 店員がうやうやしく頭を垂れてから下がる。

 この店はゆっくりスイーツの店だが、メインはケーキだけではなく、他にサンデーや
パフェがある。さっき出てきた『モンふらん』はケーキ系だけど、今、あたしが注文し
た『ロッキーマゆンテン』はパフェ系。他のデカ盛りメニューもパフェ系が多い。
 この店で使われている食用ゆっくりは、成体ゆっくり、子ゆっくり、赤ゆっくり共、
全てが養殖物だ。盛り付けの問題で、サンデーやパフェには子ゆっくりや赤ゆっくりが
使われることが多いそうだ。そりゃそうだ。あの成体の大きさの物が皿の上に載ってい
たりするのは、いくらデカ盛りでも邪魔だろう。一方、成体ゆっくりの方はそのまま使
われる事は少なく、加工されて素材やソースとして使われる事が多いとか。

 この店はチェーン店なのだが、以前、このチェーンの食用ゆっくりは『野良ゆっくり
を捕まえて使っている』という噂が流れた事がある。
 結論から言うと、これは嘘だ。そもそも、これだけ養殖の食用ゆっくりが安定供給で
きる今現在、野良ゆっくりを捕まえて食用にするコストと手間を考えれば、分かりそう
なもんだけど……。
 この噂の発端というのは、チェーンのとある店での出来事。この店は大きな駅の地下
街にあったんだけど、そこから地上に伸びる通気ダクトの排気口にはめてあった金網が
何故か外れていて(野良ゆっくりが壊したのかも知れないけど)、そこから店内へと野良
ゆっくりが転げ落ちてきて、店内を叫びながら走り回ったという事件があったのだ。た
またまそれを見ていたお客さんが、『野良ゆっくりを使っている』という噂を立ててし
まったというワケらしい。
 実はこれ、実際にその店でバイトしてた友達から聞いた話。


 とかなんとか言ってる間に、
「お待たせしました。『ロッキーマゆンテン』です」
 注文したのが出来てきた。
 これは何回見てもすごい絵面だ。アイス化されたれいむ、まりさ、ありす、ぱちゅり
ー、ちぇん、みょんの6種類の子ゆっくりや赤ゆっくりをそれぞれ数匹使って、山のよう
に盛り付けられている。頂上の赤ありすの口に刺してある花火がパチパチいっているの
は若干悪趣味って感じはするけど、まぁ、しょうがない。

「いただきます!」
 あたしは手を合わせて言った。コレに限らず、食事の時は必ず『いただきます』を言
うようにしている。声を出しちゃマズいような時でも、心の中では言うようにしてい
る。
 最近、『いただきます』を言わない人が多いような気がする。そりゃまー、個人の主
義の問題だから他人の事に口出す権利は無いけど、『いただきます』の言葉の意味ぐら
いは知っていて欲しい。
 『いただきます』って言葉は本来、『自分の命を繋ぐため、あなたの命をいただきま
す。あなたの命をいただく事に感謝し、その命を無駄にしません』という、食材となっ
た物への感謝の言葉だ。まぁ、今の日本じゃ、命を繋ぐっていう切迫した状況のために
食事をする事はまず無いけど、それでも食材への感謝は必要だと思う。

 美味しいから沢山食べるって言ったけど、それも食材への感謝に関係が有る。どうや
って食べようと、あるいは、食べないで捨てようと、食材の命を奪っている事に変わり
は無い。それだったら、美味しく戴く方が食材への供養になるんじゃないかって思って
てね。うん、自己満足だなんてことは分かってる。でも、そうでも思わないと、自分が
他の命を奪って生きている事自体を深く考え出して、切なくなる。

 美味しく食べるために、それ以外にも気を使っている事はある。例えば、化粧。あた
しは普段からあんまり化粧はしない方だけど、食べ物屋に入る時は特に、スッピンか無
臭の薄化粧で行く事にしてる。
 たまーにゴテゴテの化粧してて、クッサくてしょーがない女とかいるのよね。食事っ
て五感で楽しむものだから、それを化粧品の匂いで邪魔されるのがイヤ。自分も他の人
の邪魔をしたくないから、化粧には気を使ってる。
 普段からそう言ってたお陰で、最近はテレビとか雑誌とかの仕事でも、メイクさんが
気を使ってメイクしてくれる。感謝、感謝!

 そう言えば、世界には食べ物が充分に無くて飢えている人が沢山いるのに、大食いな
んて真似をして恥ずかしくないのか!って、テレビとか雑誌とかの大食いイベントに対
する感想としていただくことが有る。あたしに対する名指しの批判も有る。
 確かに、命を繋ぐ量以上の大食いなんて『必要』は無い。それは確かにそうだ。でも
残念ながら、あたしが食べなかったからっていっても、その分が飢餓地帯に回されるっ
て事は絶対に無い。世の中はそんなに単純じゃあない。あたしが飢えている人を助けよ
うと思っても、それが直接出来るワケでもない。
 だったらあたしは、あたしの社会的な役割を果たす事がベストなんじゃないかな、と
思ってる。あたしが大食いイベントに出て、それを見た人が喜んでくれるなら、それで
いいんだと思う。それは、いくばくかの経済効果になるだろうし、そういった事が巡り
巡って飢えている人を救う事になるかも知れないから。全く遠い道のりの話だけど、い
つの日か、そうなればいいなと思ってる。ただ、食べ物に関する感謝は、飢えている人
達に負けないぐらいしないといけないとは思う。
 勿論、違う意見の人達は、あたしの言い分なんか受け入れられないだろうけど、それ
は仕方ないし、あたしも分かってる。ただ、あたしがどういう考えを持って大食いと向
き合っているか、それだけは知っていて貰えると嬉しい。

 あー、なんか説教臭くなっちゃったわね。あたし自身、説教臭いのは嫌いだから、さ
っきの話はスルーしてもらってもオーケー。人によっては、ああいう話ってイラっとす
るだろうしね。あたしの悪い癖なんだ。ゴメンね。以下同文。

 さて、まずは一口。……ん、美味い。いや、普段言葉に出す時は『美味しい』って言
うけどね(笑)。甘いには甘いんだけど、色んな種類のゆっくりが使われてて中身毎に味
が違うから、味の単調な『モンふらん』に比べると、飽きにくくて量を食べ易い。
 同じデカ盛りパフェやサンデーが売りの店の中でも、材料費をケチっているような店
だと、単価の安いれいむやまりさが多く使われている事が多い。そういったヤツは結
局、餡子味しかしないんで、飽きてしまう。変なトコをケチっちゃ駄目っていう良い見
本ね。
 パクパクと快調に食べていく。ギャラリーが居ればビックリまなこで眺められる事も
多いけど、今日は今んとこ他に客は居ないし、店員はもう見慣れたもんだ。

 『大食いアイドル』のあたしに対する感想は、批難や否定的意見ばかりでもない。具
体的意見は、否定的、肯定的のどちらもありがたいし、応援メッセージを貰うと励みに
もなる。
 好意的メッセージの中でも多いのは、『食べ方が綺麗ですね』というものだ。これは
あたしが意識してやっていることではないけど、言われて嬉しい事には間違いない。多
分、子供の頃の親の躾のお陰だろう。それに関しては、親に感謝してる。
 同じ大食いタレントの中でも、食べ方が汚い人もいる。勿論、『大食いタレント』の
第一義は『沢山食べる事』だから、一概に否定はしないし、他人の主義だから、あたし
が意見するような問題でもない。
 ただ、あたしの主義として、沢山食べるためとか早く食べるために、食べ方の美しさ
を犠牲にするつもりはない。それは、あたしなりの美学ってヤツだ。
 以前聞いた事がある言葉に、ある論客が言っていた『スポーツというのは美しくなけ
ればならぬ。筋肉の塊のようなのが走っているのは言語道断』というものが有る。それ
はまた極端な意見だとは思うけど、言いたい事は分かる気がする。目的のためにそれ以
外を切り捨てるのもいいけど、人に見られる事である以上は、醜いよりは美しい方がい
いと思うし、そうありたいと思ってる。
 実際のところそのお陰で、大食いだけじゃなくて、B級グルメリポートみたいな仕事
も入ってくるようになったから、実益もあるんだけどね。エヘヘ。


 ……と、店に他の客が入ってきた。親子連れ、というか母と娘だ。お父さんが会社に
行っている間の久しぶりにお出掛けって風情なのか、娘の方はエラくはしゃいでいる。

 近くの席に座ったその親子は、暫くの間、楽しそうにメニューを眺めていた。する
と、特に気にしていたワケではないんだけど、あたしの耳にその注文が聞こえた。
「『ゆっくりシャンティー』一つ」
 口には出さなかったが、あたしは内心『えっ?』と思った。
 『ゆっくりシャンティー』と言えば、この店では『ロッキーマゆンテン』と並び称さ
れるデカ盛りメニュー二枚看板の一つだ。その手のマニアからは、『ゆっくりの要塞』
という、ワケの分からない二つ名まで付けられている。
 いくら二人とはいえ、母親と娘でそれを食べ切るのは無謀なんじゃないかなー?と、
あたしは思った。

 注文品が来るまでの間も、その子のワクワクは止まらないようで、はしゃぎ続けてい
た。それはまぁいいし、分かるんだけど……。その内、ソファーに上がって跳ねなが
ら、叫び声を上げるようになった。
 ここまでくると迷惑だ。が、その親は一向に注意しようとしない。最近、こういう親
が多いんだよなぁ……。たとえ注意したとしても、『ほら、おねえちゃんに怒られちゃ
うわよー』とか言ってる事が多い。そーじゃないだろ。他人のせいじゃなくて、自分の
責任を認識させるように注意しろよ!とか思うわけで。
 昔はあたしも、見ず知らずの相手に対してマメに注意してたりもした。たまーに徹底
抗戦してくる相手も居るけど、殆どは注意を低姿勢にしさえすれば分かってくれる。
ま、その後に同じ事を繰り返してないとは言えないけどね。
 ただ、今のあたしはタレントの端くれだ。大してではないが、それでも顔は知られて
いる可能性がある。注意したがために、逆捩じを食らわせられないとも限らない。まし
てや、あの親の態度を見るに、その危険性は高い。
 他に客が居ないせいもあって、イライラしながらも我慢していたあたしだったが、つ
いに耐え切れなくなって注意しようとした時だった。
「お客様、危険ですし、他のお客様のご迷惑となりますので……」
 店員が気を利かせてくれたのか、先に注意をしてくれた。
「……ごめんなさい」
 幸いな事に、その子は素直におとなしくなった。あぁ、良かった。
 でも、親の方はというと、一言も発せず、それどころか店員を睨みつけている。あー
もう、こいつは完全に『でいぶ』だ……。
 店員はその親の視線を完全に無視しつつお辞儀をすると、下がり際にあたしの方を向
いて目くばせをした。あたしも苦笑しながら会釈を返した。お行儀悪く、フォークをく
わえたままだったけど。


 さて、人間の言葉を喋るという事を除けば、ゆっくりを食用とする事に対する違和感
の大きな原因の一つは、その生物としての地位にある。
 生物学的に同じ生物が、同じ場所において、愛玩用、食用、害獣、益獣の全てに該当
する可能性が有るというのは、かなり珍しいそうだ。ゆっくりは、その珍しい例の一つ
なのらしい。つまり、ある人にとっては可愛がるべき存在が、他の人にとっては食べる
物であったり、叩き潰すべきものであったりするというワケ。
 ま、急激にその存在が拡大したゆっくりという生物に対して、法律をはじめとした社
会的な共通認識が確立されていないという点が問題なのかも知れないわね。

「ゆ?」
 ん? どうやら、『ゆっくりシャンティー』が出来たのかな?
「ゆゆっ?」
 『ゆっくりシャンティー』が『ロッキーマゆンテン』とかと大きく違うのは、それに
使われているゆっくりが、まだ生きているって事。ま、勿論、歩き回ったり、跳ね回っ
たりは出来ないように処理はされてるけどね。もしそうじゃなかったら、店内が大変な
騒ぎになるわよね……。
「ゆ? ここはどこ? ゆゆっ? なんであんよしゃんうごかにゃいのお?!」
 冷凍睡眠状態から戻って徐々に正気を取り戻すにつれ、皿の上に盛られた子ゆっくり
や赤ゆっくりが騒ぎ出す。
「お待たせしました。『ゆっくりシャンティー』です」
 店員が親子の席にそれを置く。
「ゆっ? ゆっ? にんげんさん、ゆっくりしてね! ゆっくりしてね!」
 フォークとスプーンを構える女の子を見上げて、ゆっくり達は身の危険を感じたの
か、必死になって人間をなだめようとする。ただ勿論、女の子はそんなものにかまうは
ずも無く。
「ゆっくりしちぇにぇっ!! ゆぎッ!? いちゃいぃ~っ!! ゆぶッ……」
 フォークが刺されて固定された一番手前の赤まりさは、スプーンで切り裂かれて絶命
した。


 生きたままのゆっくりを食べるというのも、人によっては抵抗がある事だ。ただ、あ
たし個人としては、魚の活け造りとか踊り食いなんかに比べれば全然マシ。それだけゆ
っくりの事を『食物』として見ているのかも知れない。
 そもそも、魚の活け造りなんていう物が出てくるようなお上品な店に、あたしが自分
から行く事はない。でも、まだあたしがコスプレやってた頃に、とあるプロダクション
のお偉いさんが連れてってくれた店で、一度だけ出てきたコトがあった。その時、盛ら
れてた魚が突然暴れだしたの。単なる脊髄反射で動いたのかも知れないなんて事は分か
ってるけど、真っ当な女の子(!)が見て、喜ぶようなものでもない。驚いたあまりに飛
び退いて涙を流してるあたしを見て、そのお偉いさんは笑ってたな。あの時、『あぁ、
もうこのプロダクションとは関わるまい』と思ったもんだ。
 魚の活け造りっていうのは、元々は鮮度というか味を落とさないための調理法だ。そ
れなのに、『魚には痛覚は無い』とかいう偽善的理由を後付けしたもんで、調理法自体
のイメージが悪くなっちゃったっていう経緯は有る。
 魚にも痛覚が有るっていうのは、何年か前の学術研究報告で見たような気がする。そ
もそも、脊髄の有る生物に痛覚が無いと思われてた方が、おかしいと言えばおかしいん
だけど。人間で言うところの『感情を興奮させる』痛覚と同じものかどうかは微妙だけ
ど、身体の物理的危険を感じるレセプタが発見されたって事は、やっぱり同じようなも
のなんだろうね。

 そういえば、食用の養殖ゆっくりというのは、出荷前に恐怖や苦痛を与えられるらし
い。ゆっくりというのは、ストレスを与えられると甘みや旨みが増すからだそうだ。
 これが残酷だと言う人も世の中には居る。その意見はもっともな面もあるけど、食用
生物のこういった処理は、ゆっくりに限った話でもない。
 例えばアサリ。アサリを料理する前は、砂を吐かせた後に水から上げておく。こうし
ておくとアサリは、エラ呼吸が出来なくなって酸欠状態になる。するとアサリは、体内
に蓄積してあるグリコーゲンを使って生き延びようとし、その時に貝類の旨み成分であ
るコハク酸が増えるそうだ。つまり、酸欠にして旨み成分を増すという話。酸欠状態が
アサリの苦痛に当たるかどうかは微妙なトコだけど、少なくともアサリにとっては好ま
しい環境じゃないわけで、ストレスを掛けて味を向上させるという点では一緒だと思
う。
 味以外の面でも、食用生物にストレスを掛ける処理方法は有る。最近多くなってきた
背綿無しのエビ。アレなんかは、背綿(要するに、消化管の中の消化途中の餌と、それと
一緒に飲み込んだ砂)を無くすために、出荷の何日か前から餌を与えなかったりする。こ
れなんかは手段と結果の違いは有るけど、エビにストレスを与えてるって点においては
一緒よね。

 そもそも人間は、美味しい物を食べるためだったら、いくらでも(あたし個人として
は、この言葉が正しいとは思わないけど)『虐待』をしてきた。ガチョウに強制給餌して
脂肪肝を作らせたりとかは、問題として取り上げられる事も有るけど、そんなに極端な
例じゃなくても、考えようによってはいくらでもある。レイヤーやブロイラーを狭い所
に押し込めて飼っているのも似たようなもんだし、さらには、養殖全てが……ってな話
になりかねない。
 ま、人間が捕食種である以上、その捕食種と被捕食種の関係が変わらない以上は変わ
らないんだろうけどね。いや、変わったらそれはそれで困るけど……。

 もっと根本的な話だと、食肉のための屠殺にだって色々と議論は有る。最近、盛んに
言われているのは、『不要な苦痛を与えない人道的な屠殺方法』とかの話。
 正直、死んだ人に話なんか聞いた事ないから(当たり前)、何が人道的かなんて分から
ないし、死んだら意識自体が存在しなくなるはずだから、その前の苦痛っていうのがど
んな意味を持っているのかも分からない。それが分かるというのなら、(多くの場合は
『希望的な』)推測に過ぎない。屠殺銃にせよ、屠殺槌にせよ、電気にせよ、ガスにせ
よ、殺す事には変わりない。
 それに『人道的』な話をするなら、苦痛だけが問題ってワケでもない。食用に養殖さ
れている多くの動物は、充分に育つまでは大事に大事に育てられる。ところがある日、
食品として加工されるため、それまで思ってみたこともない『屠殺』をされるワケだ。
これは人間の感覚だと、『騙された』とか『裏切られた』だよね。

 競走馬の屠殺についても聞いたことがある。競走馬というものは、大金を稼ぐ『ダイ
ヤモンドの原石』として、それはそれは大事に育てられる。ただ、そういった馬の多く
は、レースで十分に稼ぐ事が出来ないままに歳を取り、種馬になる事も出来ず、コスト
ばかり掛かるのを嫌がった馬主(こうした馬主の多くにとっては、競走馬は投資対象にし
か過ぎない)は屠殺する事を選択する。
 それまで大事に育てられてきた競走馬は、全く何も疑う事もなく屠殺場に連れられて
くる。屠殺銃が眉間を打ち抜くその瞬間まで。
 そうして屠殺された競走馬は、二束三文で食用の馬肉となる。元々食用として育てら
れたわけじゃないこの肉は、硬くて美味しくない。食べる方にもあまり喜ばれない。
『他者に支配された生死』の価値を云々するのも馬鹿らしいけど、何て言うか……、
『殺され甲斐が無い』って感じよね。

 じゃ、動物じゃなくて植物ならばいいのかっていうと、それも違うと思う。植物だっ
て同じ生物だから、その『存在を停止する』、つまり、生命活動を停止する事は、動物
にとっての死と同じ意味のはず。少なくとも、科学が発達した現代では、そういう意味
だろうと思う。健康のために、とか言うのならともかく、屠殺がイヤだから、とか言っ
て肉や魚を食べないベジタリアンは、はっきり言って馬鹿か偽善者だと思ってる。あ、
今のはオフレコで。あの手の過激派って怖いのよ……。
 これ以上の話は哲学的な問題になっちゃうから、あたしには難しくって良く分かんな
いわ。……って、表向きはそういう事にしてある。本当は興味が無いっていうだけだけ
どね(笑)。

 端的に言うと、『人道的屠殺』っていうのは、屠殺対象に暴れられると危険だからと
か、屠殺する側やそれを食べる側の気休めって意味が一番大きい。ま、そう言ってくれ
るなら、それが一番すっきりする。誰だって、食事の度に罪の意識にさいなまれたりし
たくないだろうからね。食べられる対象の気持ちを考えられるっていうのは、ある意味
人間の特権だろうし。

 そういえば昔、『サタデーナイトライブ』のあるコーナーで、『君が殺して、君が切
る! 好みの厚さに切り放題!』とかいう、ステーキハウスのパロディCMをやってたの
を見た事がある。当時は『悪趣味だなぁ』ぐらいにしか思ってなかったけど、今考えて
みると、物凄く社会派なメッセージが入ってたんだなーとか思う。成長って大事よね。


「ごぷっ! えれえれえれ……」
「えれえれえれ……」
 『ゆっくりシャンティー』には、その名前通り、ぱちゅりーが沢山使われている。ぱ
ちゅりー種は良く知られている通り、ゆっくりの中では身体的にも精神的にも脆弱だ。
だから、皿の中の他のゆっくりが切られたり食べられたりするだけで嘔吐する事があ
る。場合によっては嘔吐だけで死んでしまう。ま、嘔吐っていっても中身は生クリーム
だから、食べる方にしてみたら問題無いんだけど。
 『ゆっくりシャンティー』のマニアは、まず、ぱちゅりー以外をわざとその目に付く
ように食べ、それを見たぱちゅりーがショックで嘔吐する(『チェーンリアクション』と
呼ぶらしい)のを見て楽しむそうだ。なるべく一度に多くのぱちゅりーに嘔吐させず、あ
るぱちゅりーが嘔吐したのを見て他のぱちゅりーが嘔吐して……、というように連鎖(汚
い言い方をすれば『貰いゲロ』)する数を競う楽しみ方もあるとか。マニアってのは業が
深いわねぇ。

「れいみゅは、つよいん……、ゆがッ!」
「えれえれえれ……」
「おぼうしさんかえしてね! まりさのすてきな、おぼッ……!」
「えれえれえれえれ……」
「こ、こんなのとかいはじゃ……。もっとゆっ……」
「えれえれえれえれえれ……」
 幼いゆえの無垢さによる残酷さか、女の子は嬉々として『ゆっくりシャンティー』を
食べ……、というより潰し続ける。
 断末魔を叫ぶゆっくり。断末魔さえ叫べないゆっくり。それを見て吐くゆっくり。皿
の上のゆっくり達にしてみれば、まさに地獄絵図&阿鼻叫喚。

「ありしゅは、こんないなかもッ……!」
「きゃわいいれいみゅを、いじめなッ……?!」
「ちゅぶれりゅぅ! ちゅぶッ……!」
「ゆっくり……、もっちょゆっぐうぅッ……」
「うしょだあぁ~! まりしゃの、かれいなゆんしぇいがはッ……!」
「いちゃいぃ~! これぬいッ……!」
「……」
 親子が交互にフォークとスプーンを持っていたが、ゆっくり達の声がしなくなるまで
にはそれほど長い時間は掛からなかった。それから程なく親子は席を立ち、会計を済ま
せて店を出た。

 ふと、その『ゆっくりシャンティー』の皿を覗くと、どうやら半分も食べてなかった
みたい。ゆっくりの死屍累々って状態。
 なんかイラっとする。あたしはゆっくり愛で派じゃないので、可哀想って感じじゃな
いんだけど、それでも、もったいないとは思う。
 ただ、もしもお父さんも一緒に来てたら、『もったいないから』ってんで、お父さん
が残り全部を食べる羽目になるんだろうなー。そういうのが、子持ちのお父さんが太る
一因だって聞いた事がある。それはそれで可哀想だ。


 で、あたしの方はなんとか完食。いやいや、そんなに飽きはこなかったけど、やっぱ
り楽に食べ切れる量でもない。それに何と言っても、コレだけの量のアイスだ。体が冷
える。
 昔、医者には胃下垂気味だって言われたことはある。そのお陰か太りにくい体質では
あるけど、やっぱりこれだけ食べてると太るのは心配。心配なら『大食いアイドル』な
んかヤメロっつー話もあるけど。まぁ、体型が維持出来なくなったら、やめる事も考え
ようかな。

「ごちそうさま」
 レジでは店員が、申し訳なさそうな顔をしていた。
「すみませんねぇ、色々と……」
 それがさっきの親子連れの客の事を意味している事は、すぐに分かった。
「大変よね。仕事とはいえ」
 あたしが眉をひそめながら言うと、店員は苦笑しながら答えた。
「まぁ、そうなんですけどね……。あぁ、お代はいいですよ。さっきの事も有るし、い
つも贔屓にしてもらってるし……」
 それはマズい。あたしが大食いするのも仕事だけど、店が食べ物を出すのも仕事だ。
ちゃんとした仕事にはちゃんとした見返りが有るべき。それがあたしの主義でもある。
お金を払った方が、内需拡大にもなるしね(笑)。お金が回らないと、景気も良くならな
い。
「駄~目。お仕事なんだから、代金は取らないと」
 あたしがそう言いながら突き出した代金を、店員は必要以上にかしこまりながら受け
取った。


「おねえさん! かわいいれいむに、あまあまちょうだいね! たくさんでいいよ!」
 店から出た直後のあたしの足元に、どこに隠れていたのか、野良ゆっくりらしき薄汚
れた成体れいむが寄ってきた。
「あー、悪いけど、あんたにやれるようなもんは持ってないわよ」
 実際、ゆっくりにやれる餌なんか持ってなかったんだけど、それを聞いたれいむの反
応は予想通りって言うか……。
「つべこべいってないで、さっさとあまあまよこせ! このくそばばあ!」
 態度の悪い野良ゆっくりには良くあるタイプの反応だ。自分の要求が通らないと、す
ぐに悪態をつき始める。少しは我慢できる生き物なら、人間の反応も違うだろうに。
 あたしはため息をつきながら、そのれいむに言った。
「あのさぁ……、あんたみたいなのがこんな所にいたら……」
「ゆ?」
「店が野良ゆっくり使ってると思われそうで迷惑だろッ!」
「ゆべッ!?」
 会心のインステップキックを喰らったれいむは、見事に舞い上がり、狙いたがわずア
ーケードの隙間から消えていった。漫画やアニメでよく見る、『お空にキラーン』って
ヤツだ。

 それにしてもいいキックだったなぁ。あたし、高校の時はソフトボール部だったんだ
よなー。女子校だったから、後輩にはモテたけど……。サッカー部に入ってれば、全国
行けたかなー。
 そんなことを思いながら、あたしは家路についた。


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感想

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  • お話ししたいなぁ -- 2014-08-10 16:13:12
  • 社会の事を良くわかってらっしゃる。
    てか、あの親子を虐・・たいと思ったが、問題はない。ゆっくりと同じだからwww -- 2012-08-03 23:29:07
  • 昨日は店頭で山のようにケーキを積み上げて売ってたねw -- 2011-12-25 13:51:39
  • 話の元ネタとなった店の近くにオレの勤務先があるわw
    あそこのパフェはまさにドカ盛りだよね。 -- 2011-12-24 01:11:37
  • 読みがいはあったけど、文章はちょっと冗長気味に感じたかな。タイトルが「お姉さんの一人語り」的なものだったら、もっとしっくり読めたかも。 -- 2011-10-30 16:13:57
  • ゲスというより、現実社会によくいるタイプ。 -- 2011-10-27 23:28:50
  • 親子うぜえええ、将来有望な虐待師じゃなくただのゲスだな -- 2011-10-20 12:00:42
  • 話が長い -- 2011-09-10 06:40:48
  • 考えさせられるSSだった。例えば…
    オレが熊とかライオンに喰われるって状況なったら、生きたまま体の末端部から喰われるんじゃなくて、
    一撃で首の骨を折って即死させるとかしてから喰って欲しいって思うもん。
    他の動物やゆっくりも、喰われる・殺されるってなったら苦痛の少ない方法で、殺って欲しいって思うんじゃないかな? -- 2010-07-15 23:45:51
  • この女自己主張強いなwww -- 2010-06-04 22:23:24
最終更新:2010年04月19日 17:04
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