ふたば系ゆっくりいじめ 1171 微笑みの代償 前編

微笑みの代償 前編 65KB


虐待-普通 制裁 家族崩壊 現代 虐待人間 テンプレ展開です


『微笑みの代償 前編』




序、

「おすわり!」

 男の声に、飼い犬が後ろ脚を曲げて座る。飼い犬の前には銀の餌皿に入ったドッグフードが置かれていた。

「待て」

 次の指示で、涎を垂らしながら餌皿を見つめる飼い犬。時折、飼い主である男の顔をチラリと覗きこむ。

「よし!」

 キタ!とばかりに、飼い犬が餌皿に顔を突っ込む。噛まずに飲み込むといった感じでドッグフードがあっという間に口の中へ
と消えていった。

 男が食事中の飼い犬の頭を撫でる。普通、犬が餌を食べている途中に人間が手を触れたりすると「餌を取られる」と勘違いし
て唸り出すのだが、この飼い犬はそういうことはしない。まだ仔犬の頃に手厳しい躾を施されたからだ。男の叔父にあたる人物
は警察犬の指導教官であり、飼い犬に必要な躾の基本は全て彼によって叩きこまれた。

 その結果。何か芸ができるわけではないが、聞き分けも良ければ物分かりもいい、愛らしい飼い犬として男の家で十五年ほど
共に暮らしている。

 十五歳は犬にとって“超高齢犬”に当たる年齢であり、正直いつ天に召されてもおかしくないのだがまだまだ元気だ。ただし、
昔に比べて耳は遠くなったし、目もあまりよくは見えていない。加えて元々の性格のせいもあるのだが、全盛期の頃に比べて大
人しくなったため番犬としての役目はもはや果たすまい。

 しかし、男とその両親。飼い犬は既に強い絆で結ばれた家族だ。番犬の役目などどうでも良くて、ただ同じ時間を過ごしてく
れているだけで幸せなのだろう。

 食事を終えた飼い犬が男の元へと寄ってくる。頭を腕の間に押し込んできて「構って」とアピールをしてくる。男がひとしき
り飼い犬の頭を撫でてやると、落ち着いたのかもそもそと犬小屋の中へと入って行った。入り口側に顔を向けているため、目は
合ったままだ。男は苦笑しながら、ドッグフードの入った袋を持って家の中へと戻って行った。

 家の中ではテレビの音だけが無機質に部屋の中で響いている。バラエティ番組が映し出されていた。

「ふぅ……」

 普段は家族三人で暮らしている“我が家”に、今日は男が一人しかいない。正確にはこれから一週間、男はこの家に一人でい
ることになっている。

 男が働き始めて最初に貰ったボーナスを両親の銀婚式の旅行費用に充てた。そんなわけで両親は今頃東北地方あたりで羽根を
伸ばしているはずだなのである。

 携帯電話ではなく、実家に設置されている電話が鳴った。男が受話器を取る。

「はい。 はい……そうですか。 わかりました。 すぐに行きます」

 受話器を置き、ハンガーに引っ掛けていた上着を羽織ると男はすたすたと家を出て行った。犬小屋の中から飼い犬が小首をか
しげてその様子を眺める。

 ほとんど街灯のない夜の田舎道を歩く。今日は月が出ているから十分に明るいのだが、新月の日などは目が慣れるまでは歩く
ことができないほどの暗闇に覆われている。

「おお、来てくれたか!」

 男に声をかける七十を過ぎる老人が先ほどの電話の主だ。普段は独り暮らしをしており、畑で農作物などを作ってひっそりと
隠居生活を送っている。

「また出たんですか?」

「そうじゃ……すまんが何とかしてくれんかいのぅ……」

 困り果てた様子の老人の訴えに男は無言で頷いて、近くに立てかけてあったクワを一本右手に掴む。暗闇の中、目をこらす。
畑がうっすらと視界に入り、その中央でバスケットボールほどの物体が蠢いているようだ。

(でかいのが二匹……家族単位での畑荒らしか)

 男の実家であるこの町はド田舎で、近隣住宅のすぐ後ろには山があるというような辺境の地であった。その山には多くの動物
が生息している。“野生のゆっくり”も、その生息している動物たちの中の一種であった。

 “ゆっくりの畑荒らし”。都会ではもはや都市伝説と化しているような出来事だが、田舎の奥地ではまだまだ十分に日常起こ
りうる話である。一か月ほど前は十数匹の野生ゆっくりが山から下りてきて、とある農家の畑を荒らすという地区内でそこそこ
話題になるような事件も起こったりしていた。

「ゆっくち~~~♪」
「ゆゆっ! おやさいさんはおいしいねっ! たくさんむーしゃむーしゃして、ゆっくりおおきくなってね!」
「「「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!!」」」

 男が携帯電話を片手に畑の裏手からそっとゆっくり親子の近くへ忍び寄る。ガサガサ……と野菜の葉っぱを揺らしながら影が
もぞもぞと動いていた。

「……ゆ?」

 そのうちの一匹が男に気付くが時既に遅し。男により振り下ろされたクワが親であろうゆっくりの顔を真っ二つにぶった切っ
た。半分に分かれた顔がびくびくと痙攣を起こしている様子が、携帯電話のフォトライトにより照らし出される。

「がひっ!!! ごひゅっ!!! ゆ゛……ぐり゛ぃ゛……っ!! ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ……!!!」

 おぼつかない呼吸。何か言いかけようとした言葉。後はひたすら苦しそうに“ゆ”と短く呻くだけである。

「までぃざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ??!!!!」

 スポットライトが当てられたかのように照らされる親まりさの変わり果てた姿に、つがいであろうもう一匹の親ゆっくりのれ
いむ種がぴょんぴょんと駆け寄ってきた。その後ろをぴょこぴょことソフトボールほどの子ゆっくりがついてくる。状況を飲み
込めていないのか困惑した様子で、

「ゆっくち! ゆっくち!」

 などと小さく叫んでいる。

「れ゛い゛……、も゛っど、ゆ゛……り゛……」

「う……うわあああああああああ!!!」

「「「おちょーしゃああああん!!!!」」」

 突然の父まりさの死亡に母れいむと子ゆっくりたちが絶叫にも等しい悲鳴を上げた。

「どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ??!!!」

「おちょーしゃん!! ゆっくち!! ぺーりょ、ぺーりょ……っ!! ゆわあああああ!!!!」
「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃっ!!! きゃわいくっちぇ、ごめんにぇっ?!」
「ゆ゛んや゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」

 滝のように涙を流しながら男を糾弾する母れいむとその横で何故かいきなりの“可愛さアピール”を始める子れいむ。二匹の
子まりさは既に息絶えた父まりさの頬を舐めて傷を治そうとしたり、すり寄せた頬のあまりの冷たさに発狂寸前になったりと反
応は様々だ。

「ぷっくぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 頬に空気を溜めて威嚇を試みる母れいむ。少しずつ事態を呑みこんできた子ゆっくりたちは、体が僅かばかり大きくなった母
れいむの後ろにぴょんぴょんと隠れてぶるぶる震えている。

「ゆ゛ぅ゛ぅ゛!! にんげんざんっ!! ゆっぐりれいむだぢにあやまっでねっ!!!」

 母れいむが言い終わるのを待ってから、転がっている父まりさの寸断された顔の一つをクワで叩き潰す。

「ゆげえぇぇっ?!」

 父まりさの中身の餡子が撥ねて母れいむの頬に付着する。母れいむは自身の頬をゆっくりと垂れていく父まりさの餡子の感触
でようやく理解することができた。

 “この人間さんには絶対に勝てない”と。正確には“どの人間さんにも絶対に勝てない”というのが正解であるが、今はそん
な事をわざわざ教えてやる必要はない。

「れ……れいむたち、おやさいさんをむーしゃむーしゃしてただけだよっ……!」

 威嚇を解いてひゅるる……と萎んでしまった母れいむが顔中冷や汗を流しながら主張を始めた。男を倒すのも謝らせるのも不
可能だと悟った今、なんとしてでも許してもらってこの場をやり過ごすしかない。そんなことを考えているのだろう。

「うん。 それで?」

「ち……ちびちゃんたちは、そだちざかりなんだよっ!!」

「ああ。 そうだな」

「たくさん、むーしゃむーしゃしないといけないんだよっ!!」

「そのとおりだな」

「だ……だったら、どぼじでごんなびどいごどずるの゛ぉぉぉっ!?」

 いつもの馬鹿饅頭のいつもの台詞に男が溜め息をつきながら、母れいむの後ろに隠れていた子まりさと子れいむをクワで器用
に二匹まとめて叩き潰した。

「ぴぎゅっ!!」
「ゆ゛ぶっ!!」

 短く断末魔を上げて仲良く潰れる二匹。母れいむが歯をカチカチ鳴らして震えている。もう一匹の子まりさは、恐ろしさのあ
まり白目を剥いてしーしーをちょろちょろと流していた。

「ゆ……ゆぁ……ちび……ちゃ……ゆ、ぐり……っ」

「野菜はな。 お前たちが勝手に食べていいものじゃない」

「ど……どおしてそんなごどいうの゛ぉ゛ぉ゛っ?! おやさいさんはかっでにはえでぐるでじょぉぉ?!」

 聞き飽きたセリフを無視して、気を失っている子まりさを靴の裏で踏み潰す。

「びゅっ!!」

 体中の穴という穴から中身の餡子を飛び出させてひしゃげた子まりさを見て、母れいむが更に大きな声で絶叫する。それに呼
応するかのようにどこからか犬の遠吠えが聞こえてきた。

「ひどい……ひどいよぉ……っ!!」

 全滅した家族を見回して、はらはらと泣き崩れる母れいむ。ひとしきり泣いた後に男の方へ振り返ると、

「にんげんざんはおやさいさんをひとりじ……ぶぎゅるびゅぐっ??!!!」

 最期の言葉にも聞く耳持たずクワを一直線に振り下ろすと、母れいむの中身が四方八方に飛び散ってそのゆん生を終了させた。
男は携帯の光を頼りにゆっくり一家が全滅して他にも生き残りがいないことを確かめると、老人の待つ道端へと戻って行った。

「終わりましたよ」

「すまんのぉっ! これは御礼じゃ……取っておいてくれ」

 そう言って千円札を取り出す老人の手を男が制する。

「いいですよ」

「しかし……」

「本当に結構です。 だって……」

「だって?」

「いえ、なんでもありません」

 老人からの依頼はもう何度目かわからない。山がすぐ後ろにあるため畑荒らしの最初の標的になり易いのだろう。男が老人に
挨拶をして家へと戻る。

「ありがとうのぉ!!」

 男が片手だけを上げてそれに応える。口元が緩んでいた。

「だって、ゆっくり潰しは……僕の趣味ですから」

 聞こえないように、呟く。

 男は、いわゆる“虐待お兄さん”だった。




一、

 一日の仕事を終えた男が務め先から帰ってきた。

(ん……?)

 犬小屋の前で、家の隣に住んでいる婆さんがうずくまっている。様子がおかしい。男は慌てて車から降りると、隣の婆さんの
元へと駆け寄った。

「婆さん! どうしたんですか!? しっかりして……―――――――え?」

「兄ちゃん! 大変だよっ! さっきからあんたんとこの犬が動かねんだっ!!!」

「コタロー?! おい、コタロー!!」

 飼い犬の名前を必死になって呼び続ける。男の声に、前足を微かに動かして反応を示したが起き上がる気配はない。飼い犬は
ぐったりした様子で横たわっていた。

(何が……? 何があったんだ?!)

 困惑の表情を浮かべる男。

(こうしちゃいられないっ!!)

 何度か飼い犬が病気になったときに連れていった動物病院が近所にある。田舎の病院ながら設備も整っていて、町中のペット
のかかりつけになっているような場所だ。そこの電話番号を携帯電話のアドレス帳から引き出すと、すぐに電話をかけた。診察
の予約を完了した男は車の後部座席を倒して、飼い犬をそこに載せようとする。

「キャンキャンキャンッ!!!!」

 悲痛な声を上げてその場で抵抗する飼い犬を無理矢理、車の中に押し込む。飼い犬はしきりに後ろ脚のあたりをぺろぺろと舐
め続けていた。よく見ると後ろ脚が不自然に腫れ上がっている。

(……骨折してるかも知れない……)

 首筋を冷や汗が流れた。表情に覇気はないが、それ以外の場所に外傷はなさそうだ。出発しようとした男の後ろから婆さんが
声をかけてくる。

「兄ちゃん! ここにキュウリ、置いとくから食べてな!!」

「ありがとう!!!」

 窓から顔だけ出して隣の婆さんに礼を言う。それからアクセルを思い切り踏み込んだ。

「コタロー……しっかりしろよ!!」

 倒した座席の上でぐったりと横たわっている飼い犬に声をかけながら、車を走らせた。

 走らせること五分。その動物病院にはすぐにたどり着くことができ、早速診察をしてもらった。診察台の上でも飼い犬は自分
から無理に動こうとはしなかった。病院の先生とも顔見知りなので安心しているというのもあるだろう。

「ふぅむ……両方の後ろ脚を骨折しとるなぁ……。 それと肋骨の辺りにも少しだけヒビが入っとる」

 レントゲン写真を見ながら先生が男に説明をする。

「……こいつは超高齢犬です。 たまに後ろ脚をひきずることもありましたが、それが関係してるんでしょうか?」

「たまにあんたがこの子と散歩をしているところを見かけるが、そのせいということはあり得ないだろうなぁ……」

 診察台で少し気分を落ち着けてきたのか、短く鼻で息をする飼い犬。ここに来れば助けてもらえるというのを理解しているの
かも知れない。

「……言いにくいがこの子は、“骨折した”んじゃなくて“骨折させられた”んだろうな」

 男の顔色が変わった。拳に力が入る。先生が椅子から身を乗り出して続ける。

「近所の子供のイタズラか……それにしては度が過ぎているような気がするな。 春先だからおかしな人間が出てきたのかも知
れない」

「そんな……」

「どっちにしろ、この子は手術だ。 心配はいらないよ。 命がどうこうという話にはならない」

「……そうですか」

「だが、退院した後はしばらく室内で飼ったほうがいいかも知れんな。 この子にはストレスかも知れんが」

「わかりました……」

 誰がやったかなど知る術はないが、どちらにしろ対策を取らなければならない。言われてみればおかしい事だらけだった。い
くらなんでも両方の足を一度に骨折したりするはずがない。先生は男に、「代金は術後で構わない」と言って飼い犬をケージの
中に入れた。

 ケージの中から飼い犬が男に寂しそうな視線を送っていた。しかし、先生の言うとおり瞳の輝きが失われているわけではなさ
そうだ。手術が終わればまた元気な顔を見せてくれるだろう。

「またな……頑張れよ」

 飼い犬に声をかける。手を鼻の近くに伸ばすとそれに応えるかのように臭いを嗅ぐ。鼻の頭をちょん、と触った後に先生への
挨拶を済ませて病院を後にした。

 家へと向けて走らせる車の中、男はずっと飼い犬をあんな目に遭わせた犯人が何者かを考えていた。

(……近所の子供だろうが、変人だろうが……ぶん殴って警察に突き出してやる……)

 ルームミラーに映る男の顔は修羅の如き形相であった。ハンドルを握り潰すのではないかと思うほどに握力をかけていた。程
なくして自宅へとたどり着く。車から降りた男はすぐに犬小屋へと向かった。飼い犬を繋いでいた鎖や餌皿を回収するためだ。

 そのとき。

「ゆゆっ!! ここはまりささまのおうちなんだぜっ!! にんげんさんはどこかよそへいくのぜっ!!!」

 犬小屋の中から顔を出した成体のまりさ種が男に向かって言葉を投げつけた。小屋の奥にも数匹のゆっくりがいるようだ。ど
うやら家族らしい。

「……け」

「ゆ?」

「出て行け!!!」

 まりさのお下げを強引に引っ掴んで犬小屋から引きずり出す。宙にまで浮かされたまりさのお下げから手を離すと、慣性の法
則に従い空中に投げ出され物干し竿に激突して砂利の敷かれた地面に落下した。

「い……い゛だい゛のぜぇぇぇぇぇ!!!」

 小屋の中から今度は成体のれいむ種が飛び出してきた。

「ま……まりざぁぁぁぁ! どぼじでごんなごどずるの゛ぉぉぉぉ?!」

 デジャ・ビュを感じるがその後ろからソフトボールほどの大きさの子ゆっくりが六匹も成体れいむを追いかけて小屋から出て
きた。みな、一様に男に対して威嚇を行っている。

「俺は今、イラついてるんだ。 潰されたくなかったらすぐに消えろ」

 普通なら問答無用で捕獲してまとめてあの世逝きと言うところだが、今日に限ってはこんなクソ饅頭ごときに構っている暇が
なかったのだろう。

「チッ……」

 犬小屋の中を覗き込むと、葉っぱや木の枝がたくさん放り込まれている。男はガレージに置いてあった火ばさみを持ってくる
とそれを掻きだし始めた。まりさとれいむが慌てて男の足元に跳ねてくる。

「や……やめるのぜっ!!!」
「れいむたちのおうちにいじわるしないでねっ! ぷんぷんっ!!」

「冗談は顔だけにしろ。 ここはうちのペットの……」

 お前らみたいなゴミの住処じゃない、と言いかけたそのときだった。

「ちがうのぜっ! ここはまりささまたちのおうちなのぜっ!!!」
「ゆゆーん! おちょーしゃんはちゅよいんだよっ!!」
「“わんわんしゃん”もやっちゅけたんだから、れーみゅたちのおうちなんだよっ!!!」

「ゆっふっふ……」

 男の動きがピタリと止まる。“ワンワンさんをやっつけた”。聞き間違いでなければキリッとした表情を浮かべている子れい
むは確かにそんな鳴き声を聞かせてくれたように思える。男がしゃがみ込んで尋ねる。

「おい。 詳しく聞かせてくれよ」

 目線がだいぶ下がったことで途端に強気になったらしく、まりさがふんぞり返ってべらべらと語り始めた。

「ここにゆっくりできるおうちをひとりじめしてる“げす”がいたのぜっ!」

「ほう。 それが、ワンワンさんか?」

「そうなのぜっ!! やさしいまりささまはさいしょ、“わんわんさん”にここをどくようにこえをかけてやったのぜ!」

「そしたら……? どうしたんだ?」

「“わんわんさん”がまりささまのことををむししたから、“せいっさいっ!”してやったのぜ!!!」

「…………」

 男が気付かれないように拳を握りしめる。まりさの横にいたれいむもやたらと得意気な表情で、

「ゆゆっ! あのときのまりさはとってもかっこよくて、すてきだったよっ!! こうやって……っ! こうっ!!」

 れいむがその場で力強くジャンプして地面にあんよを叩きつけている。恐らくはつがいであろうれいむの自身を褒めたたえる
言葉を聞いて、さらにまりさがふんぞり返る。

「わかったのかぜ? ここはまりささまたちが“わんわんさん”をやっつけて、ていにいれたおうちなのぜ!!!」
「ゆっくりりかいしたら、はやくどこかにいってね! すぐでいいよ!!!」
「「「「「「ゆーゆーゆーゆー!!!!」」」」」」

「ああ、分かった。 すまなかったな、出て行くことにするよ」

 男があっさりと引き下がった事に気を良くしたのか、まりさがゲラゲラと笑いながら、

「ゆーっへっへっへ!!! まりささまにおそれをなして、にんげんさんがにげていくのぜ!!!」
「ゆっくりすごいよっ!! まりさはにんげんさんをやっつけたんだね!!!」
「「おちょーしゃん、しゅごーいっ!!!」」

 母れいむと子ゆっくり一同が父まりさを称賛した。羨望の眼差しさえ向けられている。

 男は家の中に戻ると工具セットを引き出しの中から取り出した。そして、厚めの板を一枚持ってくる。家の柱を一発思いっき
り殴りつけた。男の拳に血が滲む。

 男はゆっくりの習性を知り尽くしていた。現在午後七時前後。大抵のゆっくり一家は家族で夜の餌を食べている頃だろう。そ
して、それが終わったらほぼ確実に子ゆっくり六匹は眠りにつく。そうなればその寝顔を見ていた親ゆっくり二匹も程なくして
深い眠りにつくだろう。

 半年前くらいに行った「野良ゆっくりを飼いゆっくりにして幸せな生活を一週間送らせてから突如虐待」の時のデータが男の
頭の中に入っていた。

 時計が午後七時半を指す。男は再び庭に出ると、犬小屋の近くまでやってきた。耳を澄ます。

「ゆぴー……ゆぴー……」
「すーやすーや……」

 砂利の上を歩いているので音はするはずだが、犬小屋の中のゆっくり一家は気づかない。安心しきっているのであろう。自分
たちよりも大きな飼い犬を倒して奪ったゆっくりできるおうちの存在に。

 おおかた、目も耳も悪い老犬である飼い犬の隙をついて寄ってたかって痛めつけたのだろう。たかがゆっくりとはいえ、バス
ケットボールほどのサイズと重量がある。骨も弱ってきていた飼い犬にとっては、不意を突かれた挙句動けなくなるまで痛めつ
けられた事は相当な苦痛であっただろう。最終的に骨まで折られているのだ。

(こんな……ゴミ以下の糞饅頭共なんかに……っ)

 木製の犬小屋の入り口を板でそっと塞ぐ。暗くて小屋の中は見ることができなかった。そのほうが良かったかも知れない。こ
の中で馬鹿面揃えて眠っているゆっくりの姿など見てしまえば、ひと思いに全滅させてしまった可能性がある。

 入り口を塞いだ板に釘を打ち付ける。さすがにこの音には気付いたのか、まりさ一家が一斉に飛び起きて騒ぎ始めた。

「な……なんなのぜぇっ?!」
「うるさいよぉぉぉぉ!!!」
「ゆっくちできにゃいぃぃぃ!!!」
「やめちぇぇぇぇ!!!」
「しゅーやしゅーやしちぇたのぃぃぃぃ!!!」

 父まりさか母れいむが板に体当たりをし始めたのだろう。衝撃が伝わってくるが、もう釘は打ち終えている。どれだけ体当た
りをしても小屋の中から出ることはできない。

「かべさん!! ゆっくりいじわるしないでね!! れいむたちをおそとにだしてね!!!」

 小屋の中から母れいむの声が聞こえてきた。呑気なものである。男は入口を天に向ける形で小屋を倒した。

「ゆびゃああああ!!」
「ゆっくりできないのぜぇぇぇ!!!」
「どぉしちぇぇぇぇ?!」

 突如、あんよをつけていた床が垂直になったため小屋の中をごろごろと転がるまりさ一家。子ゆっくりたちは目をぐるぐると
回していた。

「おい。 糞饅頭共」

 小屋の中のまりさ一家に声をかける。父まりさの声が聞こえてきた。

「ゆぎぃぃっ!! にんげんさんのしわざなのぜっ?! さっさとまりささまたちをここからだすのぜっ!! ゆっくりできな
くさせられたいのかぜっ?!」

「馬鹿野郎。 ゆっくきできなくさせられるのはお前らだ」

「なにいってるのぜぇぇぇ?! むれでいちばんつよいまりささまに、にんげんさんなんかがかてるわけないのぜ! げらげら
げら!!!」

「ゆぷぷっ! まりさにかとうなんて、むのうなにんげんさんだねっ!!」

 小屋の中から一家の男に対する様々な罵倒が聞こえてくるが、男は既にその付近にはおらず家の中に入っていた。押し入れか
ら透明な箱を三つほど取り出す。どれも年季が入っており、洗っても落ちなかった餡子が付着しているものもあった。

「最近はこっちから山に入って野生ゆ狩りとかしてたからな……こいつを見るのも久しぶりだ」

 独り言を言いながらそれを畳の部屋に一つずつ置いて行く。ここを地獄の舞台にするつもりなのだろう。男は自分の部屋に隠
してあった霧吹きを取り出すと窓の外に向かって取っ手を引いた。シュッ……という音と共に中身の液体が放たれる。

 霧吹きの中にはラムネを砕いて水に溶かしたものが入っていた。強力な“対ゆっくり用催眠スプレー”である。この男がまだ
虐待を始めたばかりの頃、ラムネを使ってゆっくり一家を眠らせようとしたことがあったのだが、赤ゆがラムネを一個丸ごと飲
み込んでしまいそのまま死んでしまったことがあった。人間で言えば致死量を遥かに上回る睡眠薬を一気に投与したのと同じ状
態になったのであろう。ちなみに、ゆっくりにラムネを与えると理由はわからないが何故かすぐに眠りに落ちる。

 再び犬小屋の前へと足を向ける男の耳にはまだまだ元気に叫んでいるまりさ一家の罵声が聞こえてくる。

「くそじじぃ!! まりささまがやさしくしてるうちに、さっさとここからだすのぜ!!!」
「ゆゆ!! きいてるの?! ばかなの? しぬの?」
「きゃわいいれーみゅたちをゆっくちさせちぇにぇっ!!!」
「まりしゃは――――」

 シュッ……

 小屋の入口の隙間から霧吹きを吹く。それを数回繰り返す。

「ゆほぇ……?」
「にゃんだか……ねむ……く……ゆぴー…………」
「しゅーや……しゅーや……」
「ゆ……ぅ、ゆっくりすーや……すーや……」

 小屋の中のまりさ一家が一瞬で深い眠りに包まれた。父まりさと母れいむは寝息を立てるまでに少しばかり時間差があったが、
程なくして意識を失ってしまったらしい。こうなってしまったゆっくりはちょっとやそっとの事では起きない。体内に取り込ん
だラムネの成分が抜け切るまではずっと眠り続けているだろう。

 男が入り口を塞いでいた板を外す。携帯電話のライトをかざすと、まりさ一家が間抜けな寝顔のまま全員転がっていた。試し
に子れいむを人差し指で転がす。

「んゆ……」

 反応は示すが目を覚ます気配はない。男は小屋の中から父まりさ、母れいむ、六匹の子ゆっくりと順番に取り出して畳の部屋
に置いてある透明な箱へと収めていった。蓋を閉め、中に閉じ込められたまりさ一家を観察する。

(寝顔は天使、とは言うがこいつらにも同じことが言えるのかね……?)

 眠っているうちにそっと一匹潰してしまおうかとも思ったのだがそんな幸福を与えてやる義理はない。男は冷蔵庫からオレン
ジジュースを取り出した。それをコップに注いで一息。

「さて……今回はこいつらをどうしてやろうか……」

 飼い犬を野生ゆっくりに襲われケガをさせられた。最初はその事について腸が煮えくりかえるような思いだったが、命に別状
はないということを自分に言い聞かせて平静さを保っていた。先生は腕がいい。任せておいて安心だろう。男はある事を思いつ
いた。

「コタローが退院したときの……、退院祝いがいるな」

 眼下のまりさ一家を見下ろす。これから我が身に起きる苦痛も恐怖も絶望も知らずに眠りこけている。

 男の住む家は集落のかなり端の方である。男の家も含んで小さな路地には数軒の家が並ぶが、ほとんどが高齢者の独り暮らし
や空き家になっているので騒がれても迷惑をかけることはないだろう。

 時計が午後九時を告げる。男の両親が戻ってくるのは一週間後だ。

「ゆ……なん、なのぜ……?」

 父まりさがゆっくりと体を起こす。

 男がゆらりと透明な箱の前に足を向けた。




二、

「やい、くそじじぃ!! さっさとまりさまをここからだすのぜ!!!」

 一番最初に睡眠薬の効果が切れたのは父まりさだった。透明な箱の中で男の動きに合わせて右に左に移動している。自分の置
かれている状況が理解できていないのだろう。自身が完全に拘束されていることもそうだが、家族一同の命が男の手の中にある
事なども。

「まりさ」

「ゆっ?」

 男が父まりさに声をかける。父まりさは男を睨みつけるように見上げていた。表情を見るに激昂している様子である。

「ワンワンさんは強かったか?」

「ゆふん! ぐずでのろまなやつだったのぜ!! れいむといっしょにたいあたりしたら、すぐにたおれたのぜ!!」

 父まりさが箱の中で興奮しながらまるで冒険譚でも語るかのような口調で続ける。

「“わんわんさん”はすぐにくるしそうになったのぜ! でもまりささまのいかりはそれじゃおさまらなくて――――」

 震えながら俯き、そこから飛び上がるような仕草で目を輝かせた父まりさが叫ぶ。

「ゆっくりできなくさせるだけで、ゆるしてやろうとおもったのぜ!! まりささまはやさしいのぜ!!!」

 顔全体を“むんっ”と膨らませ、まるで自分が英雄か何かと勘違いしているような恍惚とした表情で武勇伝を語り終えた父ま
りさ。

「じゃあさ。 俺もそうしようかな」

「ゆ?」

「愚図でのろまなお前を、ゆっくりできなくさせるだけで許してやろうかなと思ってるんだ」

 父まりさの表情が微かに強張るのを男は見逃さなかった。何を言っているのか理解する力はあるらしい。

「ま……まりさぁ……?」

 男の足下に置いてある箱の中で母れいむが目を覚ました。

「ゆ? ゆゆっ!?」

 自身が何か狭い場所に閉じ込められている事。つがいである父まりさも同じ状況下にある事。そして何よりも大事な子供たち
も閉じ込められて眠り続けているという状況を少しずつ把握していき、箱をガタガタと揺らしながら自分たちをここから出して
解放するよう男に向かって主張を始めた。

 程なくして、子ゆっくりたちも目を覚ましてもぞもぞと動きだす。

「ゆふぁぁぁ……」
「ゆっくちおきちゃよっ」
「ゆぅ……? ここはどこなのじぇ……?」
「ゆゆっ?! にゃんだかゆっくちできにゃいかべしゃんがあるよ?!」
「ゆゆゆゆ?!」
「ゆっくち……! ゆっくちできにゃ……」

 まりさ一家全員が目を覚ましたところで、箱の中から子まりさを一匹取り出した。男の右手の中であんよを動かしている。

「お……おろしちぇにぇ!! ゆっくちできにゃいよっ?!」

「くそじじいっ! ちびちゃんにきたないてでさわるな、なのぜ!!!」

「やめてあげてねっ!! ちびちゃんがいやがってるよ!!」

 男は父まりさの入った箱の壁に子まりさの顔面を押し付けた。透明な壁にへばりついて頬を平坦にした子まりさが涙をこぼし
ながら呻いている。父まりさが箱の中で何度もジャンプして脱出を図ろうとするが、帽子越しに頭を天井に打ちつけるだけで何
の意味も成さない。

「おちょ……しゃ……、ぐりゅぢぃ……よぉ……っ」

「やめてねっ! やめてねっ!! どおしてこんなことするのぉぉぉ?!」

 もう一方の箱から母れいむの声が聞こえてくる。男に遮られて子ゆ五匹が入った箱の中からは何が起こっているんか見えない
ようだ。あるいは、怯えて声もろくに出せないだけかも知れない。

「や、め、ろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 父まりさがゆっくりらしからぬ形相で男を睨みつけて咆哮を上げた。

「かわいいちびちゃんにひどいことするにんげんさんは、まりささまがじきじきに“せいっさいっ!”してやるのぜ!!!!」

 男は父まりさがようやく待ち望んだ言葉を口にするのを確認すると、子まりさを箱の中に投げ込んだ。箱の床に叩きつけられ
て“ゆげぇ、ゆげぇ”と苦しみもがく子まりさの元に、残りの子ゆが集まってそれぞれの方法で慰める。母れいむは既に涙目に
なっていた。やはり、れいむ種は精神的に脆い。

「まりささまをここからだすのぜっ!!! ゆっくりできなくさせてやるのぜっ!!!」

 自力で脱出することもできないくせに、口調だけはどんどんと激しくなっていく。男が透明な箱の蓋を開けた。そこから父ま
りさが勢いよく飛び出す。なるほど。身体能力は高いようだ。あくまでゆっくり基準で。

 父まりさが自由を取り戻した事で残りのゆっくりたちはもう勝利を確信しているかのようだった。口々に男を批難し、父まり
さを称えるエールを送り続ける。父まりさもすっかりその気になっているようだ。

「ゆっへっへ! あやまるなら、いまのうちなのぜ? まりさまをおこらせると……」

「強いのは口喧嘩だけか? ごちゃごちゃ言ってないでかかってこいよ(笑)」

 男の挑発的な態度ともの言いに父まりさが激怒する。父まりさはこれまでのゆん生でここまでコケにされたのは初めてだった。
男に向かってぴょんぴょん、たむっ!と助走をつけて体をぶつける。その衝撃で父まりさは後ろにごろごろと転がった。すぐに
体を起こし、

「どうなのぜっ?!」

 悠然と立ったままの男。父まりさの頬を汗が一筋垂れた。父まりさは一瞬だけニヤリと笑うと、

「もう、てかげんはしないのぜっ!!!」

 そう言って男の周りをぐるぐる回りながら体当たりを繰り返す。父まりさの激しい“猛攻”に箱の中に閉じ込められた残りの
家族は大盛り上がりだ。これほどまでの攻撃に耐えられるような者はいない。そう確信しているかのようだった。

「おちょーしゃん、がんばれぇぇ!!!」
「わりゅいにんげんしゃんをやっつけちぇにぇっ!!!」
「ゆっくちできにゃくさしぇてあげりゅのじぇっ!!!!」

 子供たちの声援を受けて、父まりさが更に攻撃を繰り出してくる。しかし、男が一向に倒れる気配がないのに気付き始めると、
途端に疲労が父まりさを襲い始めた。顔には大量の汗が噴き出している。

(おかしいのぜ……っ! こんな、こんなはずじゃないのぜ……っ)

 “ゆはっ、ゆはっ”と荒く呼吸をしながら、なおも体当たりを繰り返す父まりさに男が声をかけた。

「おい」

「ゆ゛?!」

 父まりさの見上げた先には自分に対して鋭いナイフのような視線を送る男の姿。一瞬だけ父まりさが後ずさりした。

「そろそろこっちから行くぜ?」

「ま……まつのぜ―――――――」

 言い終わるか終わらないかのうちに、アッパー気味に父まりさの顔の中心に男の拳が深々とめり込んだ。顔は中央に向かって
凹み、顔全体を“くの字”に曲げて勢いよく宙に投げ出される。

「「「「「「「―――――――?!」」」」」」」

 家族一同、美しい放物線を描く父まりさの動きをまるでスローモーションでも見るかのように目で追っていた。ようやく畳に
叩きつけられた父まりさは後ろ向きにごろごろと転がっていく。止まった場所は、役目を終えて片付けられたコタツ用の大きな
テーブルの下だった。五、六メートルは飛ばされている。

「ゆ゛ひっ……? ぐひぃ……っ?」

 父まりさが、べこりと凹んだ顔の中央に違和感を感じながら苦しそうに呼吸をしていた。帽子も脱げてしまい、金髪で覆われ
た頭頂部が露わになっている。

「い……い゛だい゛の゛ぜえ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!」

 コタツの下でのた打ち回る父まりさのお下げを掴んで引きずり出す。

「ま……まりさああああああああ!!!!」

 母れいむが絶叫する。こんな状態にまで追い詰められた父まりさを初めて見たのかも知れない。父まりさは腹這いになるよう
な形で母れいむの閉じ込められた箱へとずりずり移動を始めた。助けを求めているのだろう。男が父まりさの頭を踏みつけてそ
の行動を制する。子ゆっくり一同は絶句しており、目を点にしながらその信じがたい光景を見つめていた。

 父まりさの尻に当たる部分を蹴りつける。一瞬だけ「ゆ゛ぎぃ」と叫んで、ぷりんぷりんと尻を振って痛みに悶えていた。

「や……やめ゛るのぜっ?! どぼじでごんな゛ごどずるのぜぇぇ!??」

「そうだよ! ひどいよ! ちびちゃんをさきにいじめたのはにんげんさんでしょっ!? ゆっくりりかいしてねっ!!!」

 母れいむの主張に、男は「なるほど」と小さく笑みを浮かべた。父まりさにとっては、死闘の末に手に入れたおうちでゆっく
りしていたところをこんな場所に閉じ込められて子供をいたぶられた。そしてそれに対して起こって反撃を試みたがまるで通用
せず、逆ギレした男によって今度は自分が痛めつけられている。どうしてこんな事になったの?

 だが、大事な部分が抜け落ちている。先に男の飼い犬に手を出したのはまりさ一家の方だ。いや、この際どちらが先かとかそ
なんことはどうでも良かった。ゆっくりが飼い犬に被害を与えた。痛めつける理由はそれだけで十分なのである。

 男が父まりさの後頭部を髪の毛ごと掴んで何度も柱に打ちつけた。そのたびに、

「がひっ!! ゆ゛ぐっ!!! びゅげ……っ!!!」

 走る激痛に短い悲鳴を上げる。それでも、父まりさの皮は破れたり中身を吐いたりはしていない。男はゆっくり虐待に手慣れ
ている。致命傷を与えずに長く苦しませることなど朝飯前だった。

 掴んだ手を離すと腹から畳に“べちゃり”と落ちて痛みに打ち震えていた。その父まりさの尻を平手で力強く打つ。ぱぁんっ!
と乾いた音が部屋に響き、父まりさが悲鳴を上げる。抵抗するだけの気力はないらしい。男は父まりさの尻を十数発叩き続けた。

「ゆ゛びっ! ひぎぃっ!! い゛だぃ…! ゆ゛べっ!! ゆがっ!! ん゛ぅ゛!! ゆ゛ぶっ!! ゆげっ!!!」

 最後に一発腫れ上がった尻に蹴りを叩きこむと、つま先があにゃるに少しめり込んだのかごろごろと転がって激痛に耐えてい
た。

「や……やめてね!! にんげんさんがつよいのはわかったよ! あやまるからまりさをゆっくりさせてあげてね!! れいむ
たちをおうちにかえしてねっ!!!」

 母れいむが箱を揺らしながら意味不明な主張を始める。涎を垂らして放心状態になっている父まりさは、仰向けになってぐっ
たりと横たわっていた。時折、体を渦巻く痛みに身を捩る。

「おちょーしゃあああああん!!!」
「ゆっくちしちぇぇぇぇ!!!」
「おちょーしゃんをいじめりゅ、ゆっくちできにゃいにんげんしゃんはしねっ!!!」

 “生”という概念からはかけ離れている存在であるはずのゆっくりはどこで“死ね”などという言葉を覚えてくるのか理解は
できないが、生意気な口を利く子供には十分な躾を施して黙らせてやらなければいけない。しかし、それは後回しだ。まずは父
まりさ。続いて母まりさを徹底的に痛めつけて自分たちの立場を餡子脳に刻み込むことから始めなければならない。

 男は、部屋の隅に置いてあった少し太めの竹の枝を取り出すと素振りを始めた。しなりの良い竹はまるで中世ヨーロッパのレ
イピアのようで、男が振り回すたびに“ひゅっ”と空気を切り裂く音がする。試しに足下でうなだれている父まりさの顎の辺り
をそれで思い切り打ちつけてみた。

「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!」

 びくんっ、と体を跳ね上げて絶叫する父まりさ。 

 拳や手の平と違い衝撃が分散さずれ細い竹の枝に集中するため、そのダメージは殴ったり叩いたりの比ではない。打たれた顎
の付近がミミズバレになって赤く浮き上がっている。

「い゛ぅ……っ!! ゆ゛ぐひぃ……っ!!!」

 打たれた箇所から波紋のように広がる痛みは留まるところを知らない。父まりさは、威厳も何もかも忘れてぼろぼろと涙をこ
ぼしていた。男が父まりさに唾を吐きかけて罵倒する。

「群れで一番強いんだろ?」

「ゆ゛ぐぅ……」

「弱いじゃないか。 お前、すごく弱いよ」

「ゆぐっ……ひっく……」

 上手くいかないとすぐに泣き出すところが、我儘な子供を見ているようで癇に障る。

「泣けば済むとでも思ってんのかよ」

 竹のムチで、二度三度とひっぱたく。

「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!!!」

 母れいむと子供たちの前で、情けなく大泣きする父まりさは悔しくてたまらなかった。

 “まりさの方が強いのに。でも勝てないよ。勝てるはずなのに上手くいかないよ”などと思考を巡らせながら、それでも涙が
溢れてくる。“だって痛いもん。苦しいもん”と心の中で必死に言い訳をしながら泣き叫ぶ。

 そこに、父親としての威厳は欠片も残されていなかった。

「まりさ……まりさ!! ゆっくりしてね!!!」

「おちょーしゃん……」
「ゆっくち……しちぇ?」

 子ゆっくりたちはもちろんのこと、母れいむも目の前に広がる光景をにわかには信じることができなかった。群れでは一度も
喧嘩に負けたことはなく、“ワンワンさん”さえも倒すことに成功した最強のはずの父まりさが、顔の形が変化するほどに殴打
されて滝のように涙を流している。

 父まりさは動く気力もないと言った様子で“ゆんゆん”泣き続けている。母れいむはそれを不安そうな顔で見つめていた。

「人のこと心配してる暇はないぜ?」

「……ゆ?」

 母れいむの入った透明な箱の蓋が開けられ、父まりさ同様髪の毛を掴まれて箱の中から持ち上げられる。皮から離れようとす
る髪の毛を離すまいと負荷をかける頭頂部に激痛が走った。

「い゛だい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」

「「「おきゃあああしゃあああああん!!!!」」」

 子ゆっくり達は先ほどから大合唱を繰り返している。男は母れいむから手を離すと竹のムチを構えた。

「ゆっくり……やめてね……」

 怯えた顔で部屋の中をぴょんぴょんと逃げ始める母れいむ。しかし、全ての扉が閉ざされているこの部屋から逃れることはで
きない。母れいむの跳ねるスピードと男が普段通りに歩くスピードは同じくらいだった。男が歩いて母れいむの後ろをついてく
る。

「か……かべさんっ! ゆっくりれいむのじゃまをしないでねっ!! れいむ、こまってるよっ!!!」

 パチィィィィン!!!という高い音が母れいむの足元から発せられる。

「ゆひぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 戯れに男が母れいむのすぐ傍の畳を竹のムチで打ったのだ。見る見るうちに顔が青ざめていく母れいむ。また、ぴょんぴょん
と飛び跳ねて逃げ惑う。

「や……やめてねっ! やめてね!! こっちこないでね!!!」

 目に涙を浮かべて時折、男の方に振り返りながら母れいむが部屋を反時計回りに逃げ続ける。子ゆっくりたちは泣きながらそ
の様子を目に焼き付けていた。

 そろそろ飽きたのか、男が母れいむの頭に竹のムチを勢いよく振り下ろした。

「ゆ゛びゃんっ!!???」

 刹那、頭部に強力な電撃のような痛みが走った。一瞬、体全体を跳ねあげて前のめりに倒れる。

「い゛だいぃぃぃ!!! やめでぇぇぇぇ!!!」

 横目で男に懇願しながら激痛にのた打ち回る。その瞳には恐怖が宿っていた。男が竹のムチを振り上げる。

「い……いや……!! いだいのは……い、や……っ!!」

 問答無用。母れいむの尻目がけて執拗に竹のムチを振るう。最初は尻を跳ね上げてその場から逃げようとあんよを動かそうと
したが痛みにより感覚がマヒしてきたのか、「ゆぎぎぎぎぎぎぎ」と歯を食いしばることしかしなくなった。たまに思い出した
かのように背筋運動みたいな動きで顔だけ思いっきり上に向ける。

「ゆ゛んぎぃぃぃ……っ!! も、も゛ぅ……やべで……よぉ……!!!!」

 目を固く閉じて唇を噛み締め激痛に耐えている母れいむが男に訴える。

「おきゃーしゃんをいじめりゅにゃああああ!!!」
「ゆっくちできにゃいにんげんしゃんは、しねぇぇぇぇ!!!!」
「おきゃーしゃあああん!!!」
「かべしゃん、じゃましにゃいでにぇっ! おきゃーしゃんいぺーりょぺーりょしてあげりゅんだよっ!!!」

 子ゆっくりの入った箱の前に竹のムチを打ち込み、乾いた音を響かせる。それだけで子ゆっくりたちは箱の隅へと一目散に逃
げ出して固まって震えていた。既に本能で理解している。両親をあんなに追い詰めた物で自分たちが叩かれたら痛いどころかす
ぐに死んでしまうことに。

「……に、にんげんざん……っ!!」

 声に振り向くとそこには動ける程度には回復した父まりさがいた。竹のムチを振り上げる。

「ゆひぃぃ!!! ま……まっでぐだざい……っ!!」

 額を畳に押し付けながら必死の様子で懇願してくる。格好からして土下座をしているつもりなのだろうか。

「も……もう、いいでず……ゆっぐりりがいじまじだ……」

「……何が?」

「にんげんざんのほうがづよいです。 あのおうぢはざじあげまずから……もう、やべでぐだざい……」

 男が呆れた顔で父まりさを見下ろす。別に男はこの一家からおうちを奪い取ろうとして現在に至るわけではない。男が腕組み
をした。その一挙一動が恐ろしいのか父まりさがカチカチと歯を鳴らす。

「何か勘違いをしているようだがな。 あれは元々、俺の持ち物だ」

「……ゆ? ……ゆゆっ?」

「お前らにも分かりやすく言うと“ワンワンさん”は俺の家族で、お前らが奪った“おうち”は俺が“ワンワンさん”にあげた
物だ。 それを“差し上げるから許して”とか言われてもな」

 父まりさだけではない。母れいむも“信じられない”というような表情を浮かべていた。それから一拍置いてようやく大事な
事に気がついた。

「……ご、ごべんなざいぃぃ!!! “わんわんさん”にひどいごどじで……ずびばぜんでじだああああ!!!!」

 男は少しだけ感心した。そこにちゃんと気付いてすぐに謝れるところは、ゆっくりにしては優秀だ。案外、群れで一番強いと
いうのもまんざら嘘ではないのかも知れない。されど、男は父まりさの顔面を竹のムチで打つ。

「ゆ゛びゃあああああ!!!!」

 突如顔面に走った激痛にその場で転げ回る父まりさ。その様子を見て母れいむが涙ながらに訴える。

「どぼじでぞんなごどずる゛の゛ぉぉぉぉっ?! まりさ、あやまったでしょぉおおおおぉぉ??!!!」

 生意気にも程がある口を利いた母れいむにも竹のムチを放った。父まりさ同様にその場をのた打ち回る。男は父まりさと母れ
いむを再び透明な箱に入れると蓋をして鍵をかけた。皮肉にも“透明な箱”で守られている形になった二匹の親ゆっくりは唇を
震わせながら男を見上げている。

「最初に言っておく。 謝らなくていい。 俺はお前たちを許すつもりはない」

「「…………っ!!!」」

 父まりさと母れいむの表情がみるみる暗くなっていく。目にたっぷりの涙を湛えて、震えながら男の次の言葉を待っていた。

「だがな」

「……ゆ?」

「この中で、“一匹だけ”なら助けてやってもいい」

「……ゆぁ……ゆぐぅ……」

 父まりさが呻き声を上げる。“全員助けてほしい”と言いたいがそんなことを言わせないだけのプレッシャーが男から発せら
れている。

「まりさ」

「ゆひぃぃぃ!!」

「明日からお前らを一匹ずつ殺してやる。 朝までに話し合って誰を殺すか決めておけ」

 それはあまりにも無慈悲な死の宣告。八匹家族の中で助かるのはたった一匹である。まりさ一家ががたがたと震え始めた。男
がまりさの箱に歩み寄る。

「お前が決めろ。 自分が一番可愛いなら、最後まで残りの家族を殺すように言えばいい」

「ぞんな゛の……!! できるわげな゛い゛でじょぉぉぉぉ??!!!」

「できない、じゃない。 やるんだ。 ゆっくり理解しろ」

 父まりさがこの“死のゲーム”から絶対に逃れられないことを理解した。母れいむは既に目が虚ろになっている。子ゆっくり
たちは身を寄せ合って泣いているだけで一言も喋ろうとはしていなかった。

 男が部屋から出て行く。しばらく隣の部屋でまりさ一家の様子を窺っていたが、憔悴しきっているらしく言葉を発する者はど
れ一匹いなかった。時計が午後十一時半を回っている。男は風呂に入り、その日はさっさと布団に入った。明日も仕事なのであ
る。疲れを次の日に残すわけにはいかなかった。




三、

 翌朝。

 朝食を終えた男が歯を磨きながら、まりさ一家の様子を窺いに畳の部屋へ足を踏み入れた。男に気がついた八匹はほとんど同
じようなリアクションをした後に、箱の壁に顔を押し付けて恐怖から逃れようとしていた。朝早くに目覚めたのか、一睡もでき
なかったのかは知らないが活動はしていたようである。

「どれを殺そうか?」

 爽やかな顔で男が父まりさに尋ねる。父まりさは、すぐに涙目になって唇を強く噛み締めた。母れいむの入った箱と、子ゆっ
くりの入った箱を交互に見る。一家全員、恐怖で震え上がっていた。

「ゆ……」

「ん?」

「ゆるじでぐだざいぃぃぃ!!! ごべんなざいぃぃ!! みんな゛、だずげでぐだざいぃぃぃぃぃ!!!!」

 昨夜の終わり頃から“だぜ口調”が抜けてしまうくらいに怯えているようだ。それはそれとして、また見当違いな要求を始め
たものである。男が父まりさの入った箱の前に座り込み、傍らに置いてあった竹のムチを手に取る。

「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!! それ、やべで……っ!!! いだいのは、いや゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

「で、どれを殺そうか?」

 再び、同じ質問を繰り返す。父まりさは涙を流して口をぱくぱくと動かしていた。そのとき、

「れいむを……、れいむをころしてね……」

 男も含めたまりさ一家一同が母れいむの入った箱を一斉に注目する。母れいむは恐怖で全身をがたがたと震わせて、ぼろぼろ
と涙をこぼしながら言葉を紡いだ。

「にんげんざん……れいむを……すきにしていいよ……。 だから、まりさとちびちゃんは……ゆぁ……ゆぐっ……」

「れいむ……!」

「まりさと、ちびちゃんは……たす、けて……っ!!!」

 言い終わると、しーしー穴から砂糖水がちょろちょろと漏れ始めた。ガチガチと鳴り続ける歯の音が部屋中に響く。目は半分
白目を剥いていた。

「どうする?」

 男が父まりさに尋ねる。父まりさは号泣したまま無言で顔を横に振る。“答えられません”という意思表示だった。男が溜め
息をついて立ち上がる。まりさ一家のどれもがその様子を虚ろな眼差しで見つめていた。

「よし。 じゃあ、最初は特別に俺が選んでやろう。 こいつにするか」

「ゆんやああああああああああ!!!!」

 まりさ一家が一晩かけても選べなかった命を男があっさりと選んで箱の中から持ち上げる。男の手の中で必死に身を捩り抵抗
を繰り返すのは、一匹の子れいむだった。ちなみに箱の中には子れいむと子まりさが三匹ずつ入っている。

「おろしちぇぇぇぇぇ!!! きょわいよぉぉぉぉ!!!!!」

「れ……れーみゅ、れーみゅうぅぅぅうぅぅ!!!!」
「やめちぇあげちぇにぇっ!!! こわがっちぇりゅよっ!?」

「ゆあああああああ!!! やべでぐだざい!! おでがいじばずっ!! おでがいじばずっ!!!!」

 顔をぐしゃぐしゃにして父まりさが必死に懇願する。母れいむは恐ろしくてまともに声も出すことができないらしい。男はわ
ざわざまりさ一家全員が見える位置に移動して、手の中で足掻き続ける子れいむを見せつけるように持って来た。

「おちょーしゃあああん!!! おきゃーしゃあああん!!! たしゅけちぇえぇぇぇえぇ!!!!」

 自分の力では抗うことはできないと踏んだのか、箱の中で何もできない両親に向かって無意味な助けを求めだす。その必死の
哀願が父まりさと母れいむの心の奥を深く深く抉っていた。

 子れいむを拘束する男の五本の指に少しずつ負荷がかけられる。

「ゆ゛ぐぃ……っ?!」

 すぐさま、自分の皮が徐々に締め付けられつつあるのを察知する子れいむ。くねらせていた体がもう動かない。少しずつ大き
くなっていく痛み。それはやがて恐怖へと変化していった。

「ゆわあ……あぅ……ゆひぇ……だじゅ……げ……」

 か細い声で誰へともなく訴えかける。箱に閉じ込められた無力な家族へか、それとも男への懇願か。男はこうやって何匹も手
の平サイズのゆっくりを潰してきた。当然、苦しませるコツやどのあたりまで皮が負荷に耐えられるかも把握している。

 まず最初に小指を折り曲げて力をこめた。

「んゆ゛ぅ゛……っ!!!!」

 あんよの周辺に当たる皮が圧迫される。中身の餡子が一部は上に、一部は下に押しやられる。その段階であにゃるから餡子の
一部が無理矢理漏れ出てくる。畳にぽとぽとと落ちる中身の餡子を見て家族一同が震え上がった。

「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……っ!!!」

 目から涙が溢れだす。食いしばった歯の隙間から涎が一筋垂れた。無理矢理あにゃるから“必要な餡子”を排出させられた痛
みは相当なものらしい。

 続いて薬指を折り曲げる。

 下から押しやられていた中身の餡子が更に上へと持ち上げられる。中身が口へと逆流してきたのか、子れいむの顔が苦悶の表
情に変わっていく。見開かれた目は血走っている。涙が滝のように流れ出した。恐ろしさのあまり、しーしーが勢いよく噴き出
す。

「や゛べでぇぇぇぇ!!! れいぶのちびちゃんにびどいごどじないでえ゛ぇえぇええぇえ!!!!!」

 少しずつ変形していく我が子の姿を見て耐えられなくなったのか、母れいむが男に向かって叫び声を上げた。父まりさも何か
喚いている。残りの子ゆっくりたちは姉妹が苦しみもがいているのを見て、無言で泣き続けるだけだった。

 中指。

 口のすぐ下辺りが押さえつけられる。もう口の中に中身の餡子が大量に出てきているのだろう。まるで威嚇をしている最中の
ように両方の頬が膨らんでいる。子れいむは、中身を吐きだすまいと必死になって口を固く閉じていた。顔が真っ赤になってお
り大量の汗が流れ出す。

「ん゛ゆ゛ぶ……れ、みゅ……ちゅ……ぢゅぶれ゛り゛ゅう゛ぅ゛ぅ゛う゛ぅ゛……っ!!!」

 “潰れるからやめてください”とまでは言えず、このままでは自分がどうなってしまうのかのみを訴えて男への哀願の代わり
とする。その際に口に溜めていた餡子が少量漏れ出した。

「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!! やべる゛の゛ぜえ゛ぇ゛ぇ゛!!!」

 逆ギレでもしたのか、“だぜ口調”を復活させて箱の中で暴れまわる父まりさ。母れいむは全身をわななかせて目の前で繰り
広げられる戦慄の光景を見つめていた。

 人差し指。

「ぶぎゅぇ゛っ!!!!!!!!」

 行き場を失った大量の餡子が目玉を押しのけてかつて目のあった場所から噴水のように飛び出す。圧迫されて破れてしまった
頭頂部からも餡子が勢いよく噴出された。

「「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」」

 父まりさと母れいむが口を揃えて絶叫した。中身を失って皮だけとなった子れいむの残骸を畳に落とす。それが子れいむだと
理解する判断材料は無傷の赤いリボンだけだ。それ以外は、そこにかつてゆっくりという生き物がいたことを判別させる要素は
一つとしてない。飛び出した目玉もその付近に転がっている。

「「「ゆっぴゃあああああああ!!!!」」」

 数匹の子ゆっくりも箱の中で、叫び声を上げてしーしーを大量噴射する。惨たらしい最期を遂げた姉妹の姿を見て、気が狂い
そうなほどの恐怖が小さな子ゆっくりたちの体を蹂躙する。

 男は子れいむの残骸を袋の中に入れると部屋を出て行った。箱の中の七匹が静まり返る。恐ろしさのあまり、声を出すことも
できなかった。

 それから、男はこの部屋には一度も足を踏み入れず働き先へと出かけていった。

「ちび……ちゃん……れいむの、かわいい……ちびちゃんが……」

 うわ言のように繰り返す母れいむ。どれ一匹としてそれ以降言葉を発する者はいなかった。残り五匹となってしまった子ゆっ
くりたちも泣き疲れて死んだように眠っている。

 広い畳の部屋に取り残されて監禁状態にある七匹のまりさ一家は、一日中水も食料も与えられず少しずつ衰弱していった。昨
夜からの疲労も抜けきってはいない。子ゆっくりたちは、恐怖と空腹を互いに頬を舐めたりすり寄せたりして慰め合っていた。
そんな健気な子供たちの姿を見て、父まりさと母れいむは少しだけ落ち着きを取り戻したかのように見える。

 日中が、永遠にも感じられた。この状況を打破する方法はない。男が心変わりでもしない限り、“助けてやる”と言われた一
匹以外は確実に殺される。今朝、生きたまま握り潰されて死んだ子れいむのように。

 外が少しずつ暗くなっていく。既に日が西の空に傾き始めていた。

「ゆ……」

 ガチャガチャと玄関の鍵を回す音が聞こえてきた。箱の中のまりさ一家が身を固くして震えだす。玄関の引き戸が開けられる
音。そして、それが閉められる音。続いて隣の部屋へと男のものであろう足音が続いて行く。その音を聞いているだけで涙をこ
ぼす子ゆっくりもいた。

 部屋の扉が開けられる。男が入ってきた。父まりさが生唾を飲み込む。

「に……にんげんさん……」

 声をかけたのは母れいむだった。男が母れいむへと向き直る。

「ち……ちびちゃんたちになにか、たべものをあげてほしいよ……」

 子ゆっくりたちは全体的に萎んでいるようにも見える。力なく呼吸をしている者もいた。男は母れいむの言葉を無視して、父
まりさに問いかける。

「さぁ、まりさ。 次はどれを殺そうか?」

「おねがいじばずぅぅぅ!!! ちびちゃんだち……なにもたべでなぐで……っ!!! がわいそうなんでずぅぅぅ!!!!」

「うんうんでも無理矢理捻り出してそれを食え。水は互いのしーしーでも飲んでろ」

 吐き捨てるような物言いの男に、母れいむがうつむいて静かに涙を流している。男は父まりさに視線を向けた。

(……?)

 心なしか、父まりさの表情に余裕があるように思えた。竹のムチを使って痛めつけてやろうかと思ったが、次の言葉を聞いた
瞬間に父まりさの“意図”を理解した。

「にんげんさん……いちばんはじっこのちびちゃんをころすのぜ」

 男が氷のような視線で父まりさを射抜く。父まりさはそれにすら気づいていないようだ。そして選択されたこれから捨てられ
る命と、母れいむが父まりさに向かって声を荒げて反抗を始める。

「な゛に゛い゛っでる゛の゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ??!!!! ばかなのぉっ!? じぬ゛の゛ぉ゛っ!!??」

「おちょーしゃんのばきゃーーーーー!!!! まりしゃのこちょ、きりゃいになっちゃったのにょおぉぉぉぉ??!!!」

 子ゆっくりたちの入った箱の中でたむたむと跳ね続けて父まりさを罵倒する子まりさから、そっと残りの子ゆっくりが離れて
行く。それに気付いた子まりさが、姉妹たちに悲しそうな視線を送っていた。

「み……みんにゃ……、まりしゃを……たしゅけちぇ……」

 箱の隅で身を寄せ合っている四匹の子ゆっくりたちが顔面蒼白の状態で顔を小さく横に振った。

「ごめんにゃしゃい……たしゅけちぇあげらりぇにゃいよ……」
「れーみゅたち……にんげんしゃんにはかてにゃいよ……」
「ごめんにぇ……ごめんにぇ……」
「ゆるしちぇにぇ……」

 姉妹たちは全員理解しているのだろう。これから子まりさが惨たらしく殺されることを。そして、それに対して自分たちでは
何の手助けもしてあげられないということを。子まりさがぷるぷると震えだす。恐怖を抑えきれなくなったのか、涙としーしー
を流し始める。

「ゆんやあああ!!! しゅーりしゅーりしちぇぇぇ!!!!」

 叫んで姉妹の元へと駆け寄ろうとする子まりさを男が掴んだ。突如、あんよが地から離れて男の顔の高さまで持ち上げられる。
今朝、潰されて死んだ子れいむの姿が子まりさの脳裏によぎる。

「やじゃやじゃ、やじゃああああああああああ!!! まりしゃ、しにちゃくにゃいよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

「ゆあああああ!!! にんげんざん、おでがいじばず! おでがいじばず!!! おろじであげでえ゛ぇ゛え゛ぇ゛!!!!」

 泣き叫ぶ子まりさと母れいむとは対照的に、父まりさは無言でその様子を眺めていた。男と目が合う。男は見逃さなかった。
父まりさの口元が一瞬だけつり上がったのを。男はそれに気付かないふりをして、子まりさの処刑の準備を始めた。手の中でも
がき続ける子まりさにデコピンを数発食らわせて静かにさせる。

「ゆぇ……ゆぐ……ふぇ……」

 力なく、くすんくすんと泣き続けるぐったりした子まりさを持ったまま台所へ移動する。男は引き出しから大根おろし器とプ
ラスチック製の小さなティースプーンを取り出すと畳の部屋へと戻ってきた。

「ゆぅ……、ゆぅ……っ!」

 これから自分が何をされるか分からない不安と恐怖。そしてそれを紛らわせるための叫び声を上げることさえ許されていない
子まりさが、あんよを緩く振って僅かばかりの抵抗を試みる。

 男が、三つの透明な箱の位置からよく見える場所に腰を下ろす。今朝、子れいむを潰したのと同じ場所だ。大根おろし器を畳
に置く。

「しょれで……まりしゃに……ひじょいこちょ、すりゅの……?」

 ぼろぼろと涙を流しながら尋ねる。分かってはいるのだろうが質問せずにはいられなかったのだろう。男はあえて答えない。
子まりさは何度も何度も訪ねた。“どうするの?”、“何をするの?”と。母れいむが顔を真っ青にして男と子まりさのやり取
りを凝視している。父まりさも、先ほどまでとは打って変わって少し怯えたような表情をしていた。

 男が大根おろし器を子まりさの近くに持って来た。わざわざ目の前でちらつかせる。

「とげとげしゃんは……ゆっくちできにゃい……」

 体の震えが増す。小さな歯をカチカチ鳴らし出す。

「これが怖いか?」

「きょわいよぉ……たしゅけちぇよぉ……! まりしゃ、なんにもわりゅいこちょしてにゃいのにぃ……」

 男が大根おろし器を戻して、代わりに小さなティースプーンを手にかける。

「怖い物が見えないようにしてやるよ」

「……ゆ?」

 一瞬だった。子まりさの目玉の下にティースプーンがねじ込まれる。最初、子まりさは自分の身に何が起きているかを理解で
きていなかった。一拍置いて、捕まえた虫がその場で羽根を勢いよくばたつかせるように、子まりさが激しく震えだす。

「ちびちゃあああああああああん!!???」

「ゆ゛っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!」

 母れいむの叫び声を合図に、子まりさが子ゆっくりらしからぬ凄まじい声で悲鳴を上げた。見開かれた目玉の奥へとティース
プーンをねじ込んで行く。子まりさは必死になって身を捩り、激痛に悶え苦しんでいた。

「い゛ぢゃい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛!!!!!!」

 壮絶な痛みからかしーしーが、ぴゅっ、ぴゅっ、と途切れ途切れに噴出される。ティースプーンのねじ込まれた側の目玉の穴
からは涙と思われるものが、とろとろと溢れだしている。無傷の右目は男の手の動きを追っているようだった。

「や゛べちぇ……っ!! びゅぎい゛ぃ゛っ!! いや゛ぁ……!! い゛……っ!!! い゛ぢゃあ゛あ゛い゛!!!!」

「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!! くそじじい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!! や゛べろ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!!」

 母れいむが激昂して咆哮を上げた。しかし、どれだけ猛り狂おうと透明な箱の中に入っている以上、何の役にも立つことがで
きない。目の前で苦しみもがく我が子の悲痛な叫びを聞くことと、恐ろしい形相で激痛に耐える顔を見ることしか許されていな
いのだ。

「ひぎっ……っ!! ゆぐひっ……!!!」

 ついに子まりさの目玉が抉りだされた。ティースプーンの上でころころと転がる自分の目玉を見た子まりさが狂ったように叫
ぶ。

「まりしゃの……おべべがあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!! がえじでっ!!! がえじでっ!!! い゛ぢゃいよ゛お゛!!!」

 空洞となった穴から液状化した餡子が流れ落ちてくる。ゆっくりの生態などに興味はないが、あれが目玉と何か関係している
のだろう。

「ああああ……っ! あああっ!!」

 母れいむが悲痛な声を上げた。愛する我が子が理不尽に片目を奪われてしまった。それに対して何もできなかった自分が悔し
くて仕方がなかったのだ。泣き叫ぶ子まりさを見ていることしかできない自分の無力さを呪っていた。

「目玉は一個だけで勘弁しといてやるよ」

「がえじでくだじゃいぃぃぃ!!! ゆっぐちでぎな゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」

 子まりさの懇願に対し、わざわざ見える位置で目玉を潰してやる。

「……っ!」

 口をぽかんと開いたまま、カタカタと震える。溢れる涙は留まるところを知らない。顔色が悪くなっていく。

「ゆげぇっ!!! げぇっ!!」

 気分でも悪くなったのか、子まりさが突然自分の中身を吐き出し始めた。少し落ち着いてからも呼吸がおぼつかない。残され
た目玉はどこを見ているのかわからない。虚ろな視線を宙に泳がせていた。

「ちびちゃん…ごべんね……ごべんね……っ!!!」

 小声でひたすら“ごめんね”を繰り返すのは母れいむである。男は大根おろし器に手をかけた。その上に子まりさをあてがう。

「ゆ……ぐち……?」

 子まりさの腹部に当たる皮の部分を押し付けて激しく上下にこする。

「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!」

 再び上げられる絶叫。まだまだ力は残っていたようだ。まだ柔らかい子ゆっくりの皮を容赦なく大根おろし器のイボとトゲが
抉り、引き裂き、破り散らかしていく。破れた皮からは餡子が覗き、それを更に大根おろし器で掻きまわされる。露出した体内
を直接傷つけられるという、これまで味わったことのない痛みに対し狂ったような悲鳴を上げた。

 畳の部屋を子まりさの絶叫が包む。それは余りにも長い悲鳴だった。中身の全てを失って即死した今朝の子れいむはまだ幸せ
だったのかも知れない。

 既に皮の半分以上はすり下ろされてぐちゃぐちゃにされている。それでもまだ死ぬことはできない。体内の餡子が三分の一以
下になるまでは望んでも死ぬことはできないのだ。

「ゆ゛ぎゃひっ!!!!!」

 最後に体を跳ね上げるような仕草を取った後に短く叫び声を上げると恐ろしい形相のまま、ようやく子まりさは死を迎えた。
大根おろし器の容器の中にはすり下ろされた皮と餡子が入っていた。その中身を子ゆっくりたちの入った箱の中に投げ込む。

「ゆびゃあああああ!!!!」
「ゆんやああああ!!!!」

 一様に悲鳴を上げて箱の壁に顔を押し付ける。

「餌だ」

 母れいむは絶句していた。父まりさも、少しだけ呼吸を荒くして子まりさの残骸を見つめていた。箱の中で泣き叫ぶ子ゆっく
りたちを尻目に、男は母れいむを箱から取り出した。恐ろしい形相で睨みつけてはいるが竹のムチをちらつかせた途端に、その
表情は恐怖へと変わっていく。

 執拗に母れいむの顔面を竹のムチで打ちつけた。昨夜の一件で立場というものを理解できたと思っていたのだが、甘かったら
しい。顔の皮の一部が裂けて中身が漏れ出しても、「ごめんなさい!」と泣き叫んでも打ち続けた。

 男から解放されて箱の中に戻された頃には、母れいむは虫の息だった。冷蔵庫から持ってきたオレンジジュースをコップ一杯
分かけてやる。

「ゆ……っ!」

 揉み上げをぴくん、と動かしてあんよをずりずりと這わせて箱の奥へと逃げる。ずたぼろの顔から覗く男を見つめる目は酷く
怯えきっていた。

 一方で父まりさは、無言のまま帽子を深くかぶって目を閉じている。眠りにつこうとしているのかも知れない。竹のムチで殴
ってやろうかとも思ったが、このまま泳がせておくのも悪くない。父まりさは、自分以外の家族を見殺しにして助かろうとして
いるに違いなかった。“一匹だけ助けてやる”の“一匹”に自分自身を選んだのだ。

「まりさ」

「……な、なんなのぜ……?」

 さすがに話しかけられるのは恐ろしいのか少しだけどもった口調になる。

「明日もどれを殺すか考えておけよ」

 父まりさは一瞬だけ額に汗を浮かべたがすぐに、

「……ゆっくりりかいしたのぜ……」

 そう言ってもう一度目を閉じた。男が小さく口元を緩める。

 昨夜と同じように、六匹となった一家は一言も発することなく真っ暗な部屋で一夜を過ごした。不気味なほどに静かだった。
本当なら慰め合ったり励まし合ったりと言った家族ごっこのままごとでも展開してくれるものだが、それが一切ない。満身創痍
なことに加えて、父まりさへの不信感が一家に不協和音を奏でさせていたのだ。

 男の携帯電話に着信が入った。

「もしもし……はい、はい……そうですか、わかりました。 ……よろしくお願いします。 では失礼します」

 飼い犬の手術を明日の午後一時に行うという連絡だった。仕事先から駆けつけることはできないが、男は先生の腕を信じてい
る。彼に任せておけば平気だ。

 今日は就寝前に少しだけまりさ一家の様子を覗いてみた。どれも死んだように眠っている。与えた“餌”に手を付けている様
子はなかった。男が静かに扉を閉める。

(まりさは明日どのゆっくりを選ぶかな……?)

 そんなことを考えながら、男もまた深い眠りについた。




四、

「い゛ぢゃい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!」

 翌日、父まりさが選んだのは子れいむだった。母れいむは相変わらずやめるように訴えかけてくるが昨日ほどの勢いはない。
男は捕まえた子れいむの顔中に縫い針を差し込んでいる途中だった。針による虐待は中身の餡子を失わせる事なく延々とゆっく
りに苦痛を与えることができるので多くの人に好まれる。

 男は更に縫い針を子れいむの目の前にちらつかせた。

「もうやじゃああ!!! おうちがえりゅぅぅ―――い゛ぢゃあ゛あ゛ぃ゛!!!!」

 “ゆんゆん”泣き叫んであんよをくねくねと動かす仕草は実にユーモラスである。仕事先から帰宅した男は上機嫌であった。
先ほどから本当に楽しそうに子れいむに針を刺して遊んでいる。

 飼い犬の手術が成功したという連絡が入ったのだ。これから四日間ほどは術後の経過を見たり、軽いリハビリを行ったりする
らしい。飼い犬の無事を確認したことで男の虐待にも熱が入っている。

 父まりさと母れいむはともかく、子ゆっくりたちはなぜ自分たちがこんな酷い目に遭っているのかまるで理解できていない様
子だった。

 母れいむは一度“謝ったんだからもういいでしょ”などと言っていたが、今はそんな口を利くような体力も気力もないようだ。
父まりさに至っては飼い犬に対する行為は既に忘却の彼方で、今は自分が助かることだけを考えている。

 ゆっくり相手に反省を促すのは無意味な行為と男は考えていた。だから、最初に明言したのだ。

 “許すつもりはない”と。最初はそれでも必死になって謝罪を繰り返すと思っていた。どれだけ謝っても許してもらえずにひ
たすら痛めつけられる日々を演出しようとしていたのに、父まりさがあっさりと保身に走ってしまったため当初の計画とは少し
軸がずれてしまった。

「もう……やめて……くだざい……」

 憔悴しきった母れいむが男に必死の哀願を続ける。当然聞き入れられることはない。一本。また一本と縫い針が子れいむの皮
の中へと差し込まれていく。

「ゆぴぃっ! ゆ゛っ……ゆ゛っ……」

 だらりと舌を出して涙と汗で顔をぐしゃぐしゃにした子れいむがなおも身をよじる。よじるたびに、体内で針先がこすれ合っ
て子れいむに激痛を与えた。

「ゆ゛ぎい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛……っ!!!」

「ああ……ちびちゃん……れいむのかわいいかわいいちびちゃんが……っ!!!」

「おきゃーしゃん……いちゃいよぉぉ……たしゅけちぇ……おにぇがい……たしゅけ……」

 今度はしーしー穴に縫い針を思い切り突き立てた。揉み上げが爆発しそうなぐらいに髪を逆立たせて、飛び出る一歩手前まで
きているのではないかと思わせるほどに目を大きく見開く。

「ゆ゛ぎひっ!!!」

 そこから強く強くしーしーの通り道を針で掻き回して、更に奥へと針をずぶずぶと差し込んで行く。

「ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!」

 しーしー穴から、砂糖水と餡子が混じったような何かがちょろちょろと垂れ始める。男は針山のように子れいむを床に落とし
た。

「ゆ゛ぐっ!!!」

 顔から床に叩きつけられた衝撃とそれにより体内で動く無数の縫い針が子れいむに耐え難い激痛を与える。三つの透明な箱を
代わる代わる眺めて、目で助けを求めるが家族の中のどれも子れいむに救いの手を差し伸べようとするものはいない。

「どぉしちぇ……れいみゅ……こんにゃこちょ……」

「知りたいか?」

「ゆぇ……?」

 男が子れいむの問いに答えようとしていた。男は子れいむをそっと持ち上げると父まりさの箱が良く見える位置に持って来た。
そして、未だに箱の中で震える三匹の子ゆっくりたちにも聞こえるように口を開く。

「こいつが俺の大事な家族を傷つけたからだよ。 だから、俺はこいつの大事な家族であるお前たちを傷つけているんだ」

「ゆ゛、ぐぅぅ……っ!!」

 父まりさが目を逸らす。子れいむの表情には覇気こそ感じられないものの静かな怒りが沸き立っているように見える。

「……おちょーしゃん……っ! おちょーしゃんの、せい……にゃの……?」

 自分の方を見ようとしないことを肯定の意と受け取り、父まりさを罵倒し始める子れいむ。

「ゆ゛あ゛あ゛っ!! じねっ!!! れいみゅたちをゆっくちさしぇちぇくれにゃいおちょーしゃんは、じねっ!!!!」

「ゆあああ……ちびちゃん……おとうさんにそんなこといわないでね……っ? ね……っ?」

 昨日の一件と今日、あっさりと自分の子供を差し出したばかりの父まりさを擁護するようなことを母れいむが言うとは予想外
だった。母れいむの中ではまだ父まりさは最愛の“だーりん”のままでいるらしい。夢見がちにも程がある。

「うるしゃいよっ!! じぇんぶ……じぇんぶ……おちょーしゃんが……っ!!!!」

「おい、馬鹿饅頭」

 男が声をかけながら子れいむの両目に縫い針を深々と刺し込む。光を失った子れいむが絶叫しながら中身の餡子を吐き出す。

「お前だって、こいつが“ワンワンさんをやっつけたんだよ”とか得意気に言ってたじゃねーか」

「ゆ゛っぐちでぎにゃい、おちょーしゃんなんかぁぁ!!! じねっ!!! じんでじまえ゛ぇ゛ぇ゛!!!」

 男の言葉は聞こえていないらしい。一心不乱に父まりさに罵詈雑言を浴びせ続ける。それを見かねた母れいむがたまらず叫ぶ。

「ちびちゃん、もうやめてえぇぇぇ!!!!」

 我が子からの呪詛を一身に浴びる父まりさはずっと下を向いたまま体を小刻みに震わせていた。気がつけば残りの子ゆっくり
たちも、父まりさに“ゆーゆー”文句を言い始めていた。怒りの矛先を向ける相手を探していたのだろう。男に矛先を向けてし
まえばたちまち殺されてしまう。だから、実の父親である父まりさを罵倒するしかなかったのだ。

「ゆっくり……ゆっくりしてねっ!!!」

 母れいむが繰り返す。

「うるしゃいのじぇっ!!!!」

 箱の中から子まりさが母れいむに向かって怒鳴りつける。母れいむが思わず後ずさる。

「おきゃーしゃんたちみちゃいな、むのうなおやからうまれちぇきちゃのがまちがいだったのじぇっ!!!!」

 “無能な親から生まれてきたのが間違い”。母れいむの中の世界が音を立てて崩れて行く。母れいむにとって家族は自分にと
っての全てであった。最愛の父まりさと可愛いちびちゃん。六匹ものちびちゃんに恵まれた幸福な日々は母れいむが幼い頃に描
いた夢そのものだったのだ。

「おちょーしゃんも、おきゃーしゃんも……ゆっくちできにゃい、おやはゆっくちじねぇぇぇぇぇ!!!!!」

 その夢を粉々に砕いたのは他ならぬ愛する我が子であった。母れいむが無言のままぼろぼろと涙を流す。

「うるさいのぜっ!!!! どうせちびちゃんたちはこれから、ころされるんだから……だまってるんだぜっ!!!!」

 父まりさが本性を現して子ゆっくりたちに“家族の終わり”を告げる言葉を投げつける。

「どぼじでぞんな゛ごどい゛う゛の゛お゛ぉ゛ぉ゛ッ??!!!」
「「「どおしちぇ、そんにゃこちょいうにょおぉぉぉぉっ!!??」」」

 ゆっくりの一家崩壊ほどの笑い話はない。お互いがお互いに責任をなすりつけ合いながら、これまで共に過ごした家族を人間
もしくは捕食種に売り合っていく。

「俺の家族に手を出したんだ。 それ相応の罰を受けないとな」

「にんげんさんだって、れいむのちびちゃんを―――」

「ゆっくりの命なんか知るか。 そこのまりさが言ってたみたいに黙って潰されてろ」

 男の無慈悲な言葉にそれまで騒いでいたゆっくりたちが静まり返る。これまでの出来事から自分たちとこの人間の間にはどう
足掻いても越えることのできない壁が存在している事を理解しているため、男にとって自分たちの命がどれほど小さく儚いもの
であるかというのが嫌でも分かってしまうのだろう。

 男が一息吹けばすぐに消えてしまうような小さな灯。それが自分たちの命で、どうやっても抗うことなどできない。父まりさ
以外のゆっくりが言葉を失い無言で涙を流す。

 父まりさが“助けてもらえる一匹”に選んだのは父まりさ自身だ。それが意味するのは何か。自分たちは確実に殺されるとい
うことである。

 そうこうしているうちに男の手中にある子れいむはびくびくと痙攣を起こし始めていた。縫い針を目に刺し込まれてから壮絶
なまでの苦しみが全身を駆け巡り、何度も何度も中身を吐き出していたのだ。出餡多量で既に瀕死の状態に陥っている。このま
ま放っておいても死ぬだろうが男はそれを良しとしなかった。

 カッターを取り出す。伸ばした刃を子れいむの額にそっと当てた。朦朧とする意識の中で何かを当てられたことだけは理解で
きるのか、一瞬だけ子れいむが体を震わせた。男はカッターで子れいむの頭頂部の皮を切り開き始めた。

「ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ッ!!!!!」

 縫い針を刺されるのとはまた別次元の激痛が切り裂かれた皮から広がっていく。揉み上げをびくびくと跳ね上げしーしー穴か
ら伸びた縫い針に沿って砂糖水が垂れていく。

「じぬっ!!! れいみゅ、じんじゃうぅぅぅ!!!!」

「オイオイ、さっきまで親に“死ね”って言ってたくせに自分が“死ぬ”のは嫌だってか? そんな我儘通らねーよ」

 カッターの刃がどんどん子れいむの体内に侵入していく。縫い針から発せられる痛みの源泉は“点”のみであるが今度は“線”
を単位とした痛みである。更に中身の餡子に触れるのはカッターの“面”。餡子に直接異物が触れる面積が縫い針とは桁違いの
ため、頭頂部付近を中心に凄まじい熱と激痛が体中を襲っているのだ。

「ゆ゛ぐぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!!!!!!」

 成体ゆっくりでもこれほど醜い悲鳴を上げるかどうかわからない。カッターはまだまだ子れいむの頭の皮を切り裂いている。

「や゛べぢぇ や゛べぢぇ や゛べぢぇ や゛べぢぇ や゛べぢぇ や゛べぢぇ や゛べぢぇ や゛べぢぇ!!!!!!!」

 舌を口からピンと伸ばしそこから大量の餡子を吐きながら狂ったように「やめて」と繰り返す。それはもはや“ゆっくり”の
行動パターンの範疇には当てはまらないものであった。

「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……」

 ついに意識と言葉を失った子れいむが短く呻くだけの物体に変わりつつあった。少しずつ目の前の我が子の命が消えて行く様
子を母れいむが泣きながら見つめている。父まりさはさすがに笑みを浮かべてはいなかったが、それほど悲観的な表情にはなっ
ていない。

 ついにカッターが子れいむの頭の皮を完全に切り裂いた。男がリボンをつまむと未だに結われたままになっている髪の毛と、
少量の餡子が付着したままの皮がべろりとくっついてきている。

「ゆ゛……、ゆ゛っ……」

 額の辺りから皮を切り開かれた子れいむの頭頂部は既にそこになく、中身の餡子が露出した状態で意味を成さない言葉を繰り
返していた。どこへ向かっているのかはわからないが少しずつ少しずつ移動をしている。

 その異様とも言える光景を残り五匹となった元・まりさ一家が怯えながら見つめていた。

「ゆ゛…………――――――――」

 子れいむが死んだ。

 最後の最後の最後まで、激痛に悶え絶望に打ちひしがれ苦しんで苦しんで死んだ。かなりの量の餡子を吐いていたのだろう。
頭頂部から覗く子れいむの中身の餡子の量は少なかった。

 “お前らの中身だよ”と言わんばかりにそれを子ゆっくりたちに見せると、しーしーを漏らしたり泣き叫んだり中身を吐き出
したりと反応は様々だった。

「ゆっ!! にんげんさん! つぎはあっちのちびちゃんをえらぶのぜっ!!!」

「「「「――――ッ??!!」」」」

 父まりさの言葉に四匹のゆっくりが一斉に注目する。選ばれた子まりさは既に怯え切って中身の餡子を吐いていた。

「……ッ!!! ま……までぃざあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!」

 母れいむが泣き叫ぶ。父まりさは、そんな母れいむの悲痛な叫びなどどこ吹く風である。男によって“同族が惨たらしく処刑”
されているのを見るのが辛いだけであって、父まりさの中では残り四匹のゆっくりは家族でもなんでもないのだろう。

 残り三匹となってしまった子ゆっくりたちは身を寄せ合って震えていた。

 男が部屋を出て行く。扉を閉める前に振り返ると、

「それじゃあ、明日はそこのまりさを殺すからな」

 捨て台詞を残して去っていく。

「ゆんやあああああああああああ!!!!!!!!!!」

 生贄に捧げられた子まりさが悲痛な声を上げた。








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感想

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  • 犬の復讐を大義名分にしてる時点でクソ人間
    そんなこと無関係に虐待してたくせに -- 2023-04-27 22:02:32
  • ↓その例えだと自分DQNと同じ学校の気の弱い奴らを
    ボコって虐めてたわけだから完全に自業自得だな -- 2013-08-01 23:25:09
  • 自分のことを気にかけてくれる祖父とか祖母がDQNに足の骨折られたら殺したくなるだろ、そりゃw
    傷害やら殺人未遂やらで警察沙汰にして刑務所にぶちこんでもらうでしょ、そりゃ。 -- 2012-09-03 09:07:58
  • 人によっては理解できないかもしれないがペットって家族なんだよ
    自分の祖父母の脚をクソ饅頭に折られたら潰すだろ?
    そういうことだよ、充分に大義名分あるだろ
    「おちびちゃんにひどいことするげすはせーさいするよ!」ってこと -- 2012-02-11 13:59:39
  • ほんと性質悪い害獣だな。 -- 2011-05-20 17:11:45
  • 犬飼ってた身としては、不法侵入してきた糞饅頭に愛犬が凹られると考えると、ぶち殺してもざまぁwwとしか思えないぜ。

    最初のは、ゆっくりが害獣扱いされてるって事の描写じゃね?
    勝手に生えてくると主張して、野菜を食い散らかす害獣を駆除して、(受け取らなかったが)報酬を支払われる世界観の描写だと感じたが…
    ゴキブリ以下の害獣が愛犬傷つけたんだ、ぶち殺して当然w -- 2010-12-30 21:58:27
  • ↓↓↓↓
    犬を人間にすると分かる
    この男にとって犬は家族であって、家族を傷つけたゆっくりは死刑だな -- 2010-12-29 22:36:48
  • これは良い虐待!
    クソ饅頭どもには本気で頭に来るからじわじわと溜飲を下げられるよ! -- 2010-12-24 03:01:57
  • まあ家族がどうであれ、ゆっくり如きが他の動物様に迷惑かけた時点で虐待対象でよし! -- 2010-12-21 03:35:49
  • 長い -- 2010-10-05 11:47:41
  • 普段ゆっくりを虐待してんだから犬がゆっくりに
    やられても文句言えないだろ。 -- 2010-09-26 23:58:33
  • 心の底からゆっくりできるわ -- 2010-07-12 23:58:57
  • 制裁は制裁なんだが、人間サイドにあんまり大義名分を感じないな。 -- 2010-06-30 23:49:34
  • 良い感じだとおもうけど、犬がやられてその仕返しに虐待っていう話なら、一番最初いらなくね? -- 2010-05-17 03:59:06
最終更新:2010年05月15日 09:45
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