漁夫の利 12KB
同族殺し 駆除 群れ 独自設定 初投稿です
町外れにある公園。その中央にあるちょっとした広場でほぼ同じ数のゆっくりの集団が二つ、
一触即発の空気を漂わせながら向かい合っている。
一方の集団は、表情こそニヤニヤと笑っているが身のこなしに隙がない。
もう一方の集団の表情は一様にこわばっているが、同時に強い覚悟を感じさせる。
二つの集団は、公園というゆっくりプレイスを巡って争っているのだ。
元々公園にいたのは後者の集団だが、ある日やってきたニヤニヤ集団が
このゆっくりプレイスをよこせ、お前達は出て行けと難癖を付けてきたのが始まりだった。
しかし、生まれ育ったゆっくりプレイスをハイそうですかと明け渡すことなど出来るはずがない。
それ以来、両集団は何度かの小競り合いを経た末に、
お互いに相手に譲る気はないという結論に達していた。
そして、とうとう今日、ニヤニヤ集団がそれまでの小競り合いとは桁が違う数で
決着を付けるべく公園にやってきたのだ
ニヤニヤ集団の中心に位置していた長まりさが口を開く。
「そろそろ、まりささまたちにこのゆっくりプレイスをあけわたすじゅんびは出来たのぜ?」
元々公園にいた集団の中心にいたリーダーまりさが答える。
「なんども同じことを言わせないでほしいよ!このゆっくりプレイスはわたさないよ!」
自らの言葉をばっさりと切り捨てる返答。
しかし、長まりさにそのことを気にする様子は微塵もない。
むしろ楽しそうに笑っている。
「ゆふふっ。じゃあしかたないのぜ。じつりょくでもらい受けるのぜ」
その言葉を待っていたかのように、ニヤニヤ集団のゆっくり達が一歩前へと踏み出す。
それに反応して、公園集団のゆっくり達も前へと出る。
「おまえら!やっちまうのぜ!」
「ゆっ!みんな!くるよっ!」
両ゆっくりの言葉をきっかけにして、餡子が飛び散り断末魔の叫び声が響く悲惨な戦闘が幕を開けた。
戦闘は互角のまま進んだ。
単純な戦闘能力ではニヤニヤ集団に分があった。
ニヤニヤ集団にとって、食料やゆっくりプレイスの強奪はよくあることだったからだ。
同じゆっくりたちを踏みにじることで生き延びてきた集団なのだ。戦闘はお手の物だ。
しかし、生まれ育ったゆっくりプレイスを守ろうという決意を固めて団結した
リーダーまりさの集団はその差を強い覚悟で埋めた。
通常のゆっくり同士の戦いでは、普段は偉ぶっているゆっくりでも
ある程度ダメージを受けた時点で戦意を喪失して惨めに命乞いをすることがよくある。
しかし、この公園のゆっくりたちは自らの命を燃やし尽くすかのように、
永遠にゆっくりするその瞬間まで戦い続けたのだった。
ニヤニヤ集団も、これまで標的にした相手からこれほど苛烈な反撃を受けた経験は無かった。
その代償はむろん大きい。
「れいむの、れいむのおべべさんがなくなっちゃったぁ~。み゛え゛ない~」
「ありすのとかはなクリームさん。ゆっくり出ていかないでね。もどってね」
「わ゛がら゛ないよ~」
「も、もっとゆっくりしたかったよ――」
辺りには、ゆっくりの死体、その死体から漏れ出た中身から漂う甘い香り、
そして死にきれずに苦しむゆっくり達のおぞましいうめき声が広がっている。
だが、それは決して無駄な犠牲ではなかった。
文字通り命を懸けた反撃に晒されたニヤニヤ集団もほとんど壊滅状態だったのだ。
「だれか……だれか……がわいぞうなでいぶをだずげろぉ……」
「い、いなかもののぶんざいでぇ、よぐもありずをごんな目に」
「ゆひぃ~。ゆひぃ~。あんよが、あんよが――」
「ゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして、今、最後の決着を付けるためにニヤニヤ集団の長まりさと
公園集団のリーダーまりさは一対一で向かい合っている。
わずかな生き残りを除いて両集団とも壊滅状態のいま、
集団の指導者同士のこの勝負に勝った方がこの公園で覇権を握ることは明白だった。
「ゆっ!今ならゆるしてあげるよ!もうにどと来ないってちかってね!」
「ゆへへ。ゆるしをこうのはお前のほうなのぜ!ギタギタにしてやるのぜ!」
両者の会話はどこまでも噛み合わない。
もはや言葉は無用と、お互いにいつでも相手に飛びかかれるよう構える。
ピリピリとした殺気が飛び交い、肌を刺す。
『ゆぅ~、このまりさはなかなかのつかい手だよ。かつのはむずかしいよ』
『ゆふ。ぞくぞくするんだぜ。このきんちょう感がたまらんのぜ』
内心に湧きあがった消極的な気持ちを打ち消すように、
リーダーまりさが声を上げて長まりさに飛びかかった。
「ゆあっ!」
しかし、リーダーまりさの渾身の体当たりは長まりさの軽やかなステップに躱されて空を切った。
もちろん、その隙を逃す長まりさではない。すかさず体当たりを繰り出す。
「喰らうのぜっ!」
「ゆべっ!」
着地した体勢のまま体当たりを受けて吹っ飛ぶリーダーまりさ。
ダメージは大きい。
「ゆぅぅぅぅぅぅぅ」
「ゆっへっへ。まりささまにさからったばつなんだぜ」
相変わらずのニヤニヤ笑いを顔に貼り付け、長まりさは帽子から木の枝を取り出した。
人間であれば、子供のチャンバラごっこにも使えないような粗末な武器。
だが、ゆっくりにとっては驚異的な武器となる。
その武器で長まりさが何をしようとしているかは言うまでもない。
「トドメをくれてやるのぜっ!」
ふらつきながらようやく立ち直ったリーダーまりさに長まりさが突進する。
リーダーまりさが思わず目を閉じそうになったその時だった。
「ゆわあああああああ!!」
雄叫びを上げながら一匹の若いまりさがリーダーまりさの前に身を投げ出した。
木の枝を構えて全力で突進してくる長まりさ、そしてリーダーまりさが気付いたときには、
リーダーまりさへのトドメとなるはずだった渾身の一撃は若いまりさに突き刺さっていた。
「ゆふっ!」
死の一撃を自らの体で食い止めた若いまりさは間髪入れずに長まりさの金髪に噛み付く。
そして呆然としているリーダーに向かって叫ぶ。
「ひーはー!!ひはほふひはほ!!」(リーダー!!いまのうちだよ!!)
長まりさの金髪に噛み付きながらの言葉のため、まともに聞き取れない。
しかし、リーダーまりさには若いまりさが何を言いたいのか手に取るように分かった。
仲間が命を張って作ってくれたチャンスを逃すことは出来ない。
リーダーまりさは帽子から木の枝を取り出し、構えた。
長まりさもそれを見て我に返る。
このままではまずいと、自らの金髪に噛み付く若いまりさを何とかふりほどこうとする。
「はなすのぜ!この!」
しかし、若いまりさは決して離さなかった。
体に突き刺さった木の枝から伝わる地獄のような痛みに耐えながら食らいつく。
木の枝が中枢餡を傷つけたのか、遠ざかろうとする意識を懸命に繋ぎ止める。
その若いまりさの決死の努力にリーダーまりさも応えた。
懸命に体をくねらせる長まりさへの攻撃が、中枢餡を見事一撃で貫いたのだ。
「ゆがっ!まりささまが、まりささまがこんなところでやられるなんて!
ゆぎいいいいいぃぃぃぃ!!」
断末魔の悲鳴を上げて長まりさが死んだ確認すると、
リーダーまりさは若いまりさに駆け寄った。
「だいじょうぶ!?ゆっくりしていってね!?」
大丈夫ではなかった。若いまりさの顔には誰の目にも明らかな死相が現れている。
それでも若いまりさは懸命に口を動かそうとし、おそらくゆん生最期になるであろう言葉を発した。
「リーダー……まりさたちは……まりさたちはかったんだよね……」
「ゆっ!そうだよ!まりさのおかげだよ!」
「リーダー……みんなでまもったこのゆっくりプレイスでゆっくりしていってね……
まりさも……もっとゆっくりしたかったよ……」
「まりさ!やくそくするよ!きっと、きっと、ここを前にもまけない
すてきなゆっくりプレイスにするよ!」
「ありがとう……リー……ダ……」
「まりさ!?ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」
「……」
「ゆんやああああああああああ!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
しばらくの間、若いまりさの亡骸にすがりついて泣いていたリーダーまりさは、
周囲に生き残った仲間のゆっくりが集まって来ていることにようやく気付いた。
みんなケガだらけだが目は輝いている。
その中から参謀役のれいむが歩み出た。
「リーダー。れいむたち、やったよ。」
それを合図に生き残り達が次々と報告を始める。
「いなかものたちはやっつけたわ。
いきのこったいなかものも、おさがしんだとしってにげだしたみたい」
「かったんだね。わかるよー」
「むきゅ。ぎせいはおおきかったけど……
でも、ゆっくりプレイスをまもったわ」
リーダーまりさはようやく立ち上がった。
そうだ。泣いている場合ではない。
ゆっくりプレイスは守られたが、そのために払った犠牲はあまりにも大きい。
しかし、それを乗り越えて、前よりももっとゆっくりした
ゆっくりプレイスを実現しなくてはならないのだ。
そう若いまりさと約束したのだ
そして、それこそがそれが永遠にゆっくりした仲間達への最高の弔いなのだ。
「みんな、ゆっくりしていってね」
ざわつく仲間達にリーダーが語りかける。
「まりさたちは、たくさんのなかまを失ったよ
でも!でも、まけないよ!またみんなでがんばって――」
いつもならリーダーまりさの言うことを良く聞く仲間達なのに、
今日はざわめきがおさまらない。
「ゆっ!みんなしずかにしてね!まりさのだいじなお話をちゃん――」
リーダーまりさがそこまで言ったところで、生き残りの内の一匹が叫んだ。
「にんげんさんだああああああああああ!!」
町に生きるゆっくりの常として、この集団のゆっくり達も
人間は恐ろしいということを良く理解していた。
決死の戦いのあと、緊張がゆるんだ状態で人間という最大級の恐怖に出くわした
ゆっくり達は蛇ににらまれた蛙のように身動きが取れなくなった。
人間はそんなゆっくり達を気にすることなく近付いてくる。
作業服を着て、大きな麻袋を持った若い男だ。
「あ、いたいた。せんぱーい!!こっちに生きてるゆっくりがいましたよー!!」
ゆっくり達の金縛りはまだ解けない。
若い男が言っていることも聞こえてはいるが頭には入らない。
やがて、若い男の呼びかけに応じた中年の男も生き残り達のところにやってきた。
「おう、いたか。死んだゆっくりだらけで訳が分からなかったがこれでやっと仕事になる」
ようやくショック状態から解放されたリーダーまりさが中年男に向かって呼びかける。
「に、にんげんさん、ゆゆ、ゆっくりしていってね」
「おう、ゆっくりしていってね」
中年男が挨拶を返してくれたことで、ゆっくり達の緊張が少しほぐれた。
リーダーまりさは続けて、何とか中年男とコミュニケーションをとろうとする。
「にんげんさんは――」
「あー、待て待て。まずちょっと聞きたいことがあるんだ。
広場の向こうに死んだゆっくりが山ほどいたんだが、ありゃ何だ?」
が、リーダーまりさの言葉は遮られた。
しかし腹を立てたり、文句を言ったりは出来ない。
人間と出会ったゆっくりが生き残るにはとことん下手に出るしかない。
「ゆ。あれは、たたかいのあとだよ」
「戦いの跡?」
「このゆっくりプレイスをうばおうとしたゲスたちとたたかったんだよ」
「はー、なるほどね。読めてきたぞ」
「先輩、何が読めてきたんですか?」
リーダーまりさと中年男の会話に若い男が口を挟む。
もちろんゆっくり達は、リーダーがぞんざいに扱われても耐えるだけだ。
「俺たちにこの仕事が回ってきた理由さ」
「理由、ですか」
「ああ、俺たちがここに派遣されることになったのは、公園にゆっくりの餡子がまき散らされたり
死体が放置されたりして、不衛生だし景観が破壊されるから何とかしてくれって理由だったろ?
この辺のゆっくりは割とまともなのが多いのに、なんでそんなことになってるのか不思議に思ってたんだ。
多分、ゲス集団との小競り合いみたいなのがあってそうなってたんだろう」
「なるほど。で、とうとう今日、全面対決することになったと。面倒な話ですね」
「いや、面倒じゃないさ。むしろ仕事が楽になった。
なんせ殆どのゆっくりが勝手に戦って勝手に死んでくれてるんだ。
公園を封鎖する手間も駆除する手間も省けた。あとはここの連中を捕まえて掃除するだけだ」
駆除。
その一言に生き残りのゆっくり達がギクリと身を震わせた。
人間による駆除は町に生きるゆっくりにとって恐怖そのものだ。
一日で群れ数個が全滅することも珍しくないのだから当然と言えば当然だが。
生き残りのゆっくり達がリーダーまりさを見る。
先ほどまでの目の輝きはもはや消え失せていた。
その瞳から読み取れるものは恐怖と絶望だけだ。
それでもリーダーまりさは諦めなかった。
若いまりさとの約束のために、死んでいったみんなのために、
自分たちはなんとしてでもゆっくりプレイスを作り上げるのだ。
意を決してリーダーまりさが男達に声を掛ける。
「に、にんげんさん。まりさたちは、まりさたちは悪いゆっくりじゃないよ
にんげんさんにめいわくをかけたりしないよ。だから、だから、ゆっくりゆるしてね」
中年男が答える。
「いや、もう迷惑は掛かってるよ。だから俺たちがここに来たんだ。
今だって、こんなに公園を汚しちゃってるじゃないか」
「そ、それは、それはゲスたちとたたかったから――」
「だから、その戦いとやらが人間には迷惑なんだ」
あの死闘。大切なものを守るため犠牲になった仲間達。
その全てを迷惑の一言で片付けられたリーダーまりさはとうとう泣きわめきだした。
「だっだら、だっだらどうずればいいのぉぉぉ!!
だだがわなぎゃ、ばりざだぢがおいだざれでだんだよぉぉぉ!!」
「さあ?」
「ざあじゃないでしょおおおおお」
リーダーまりさは涙でぐしゃぐしゃになた顔を中年のズボンに押しつけながら懇願した。
「おでがいじばす。まりさたちをみのがして下さいぃぃぃ」
「無理無理。ズボンが汚れるから止めろ」
「おでがいじまずぅぅぅぅ」
中年男はうんざりした顔で、若い男に言った。
「おい。やっちまえ」
「分かりました」
そう答えた若い男が麻袋に生き残りのゆっくり達を詰めていく。
中には逃げだそうとしたものもいたが、あっさりと捕らえられた。
「くじょはいやぁぁぁぁぁ」
「こんなのとかいはじゃなわ。やめて。ね、はなしあいましょう」
「わからない、わからないよー」
「むきゅ、むきゅう――」
麻袋からは泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
リーダーまりさはそれを聞きながら、それでも中年男にすがりつく。
「やめでね!いやがっでるよ!やめでね!
ばりざだぢはわるいゆっぐりじゃ――」
「ああ、もう!鬱陶しい!」
「おでがいじばす!おでがいじばす!」
そこへ他の生き残りを全て捕まえた若い男がやってきた。
リーダーまりさを掴み上げる。
「ゆ?おそらをとんでるみた――ゆべっ」
そして、こんな時でも本能に刻まれた言葉を発するリーダーを麻袋に投げ入れた。
すぐに厳重に封をして逃げ出せないようにする。
「じゃあ、自分はトラックにこの袋を置いてきます。
その後さっさと掃除しちゃいましょう」
「ああ、頼む」
中年男がやれやれといった表情で頷いた。
その後、男達は半日掛けて公園を掃除して帰って行った。
当初は丸一日掛かるだろうと考えていた仕事が半日で済んだことで
男達は上機嫌だった。
後には静寂を取り戻した公園と鳥のさえずりだけがあった。
ゆっくり達の死闘の痕跡もゆっくりプレイスも跡形もなく消え去っていた。
(終わり)
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- いつもどーり 平和だね
-- 2019-03-13 14:12:53
- 死んでった若まりさwwww -- 2015-02-28 13:24:15
- ニヤニヤ集団の生き残りも駆除して欲しかったな……
-- 2011-10-11 16:00:09
- 公園に住み着く時点で間違い。森に帰れ。それが出来ないなら死ね。としか言えない。 -- 2011-09-11 13:13:53
- これが日常の無常さなんだね。わかるよー -- 2011-01-04 21:29:03
- 一応駆除される理由を教えてあげるなんて優しすぎる、、、 -- 2010-08-20 08:59:31
- まあ、おなじみの光景 -- 2010-07-25 05:15:27
- まぁいつもの事だね -- 2010-07-13 00:40:42
- 気の毒な公園ゆっくり達… -- 2010-07-12 09:51:26
- いつものことだな おじさんたちお疲れ様です -- 2010-07-11 01:36:44
- 無情。 -- 2010-06-20 03:08:08
最終更新:2010年05月15日 12:36