ふたば系ゆっくりいじめ 1324 ある愛護団体の午後

 ・まえがき
停電でパソコンが故障し、餡コンペ用に書いていたデータ含めて全てロストしてしまいました
これから記憶を辿り、なんとか期限までに間に合うようにしたいと思います
皆様も、くれぐれもPCを付けたまま眠られることがありませぬよう…

それでは暫しの時間、お付き合い下さいませ



―――


あきれかえるほどに過ごしやすい季節。
寒かった冬も終わり、ようやく春が訪れた。
外では桜が咲き誇り、新生活を送る人々を応援しているかのようだ。
窓から外を眺めて、快活な表情の人を見ると、自分の事のように嬉しくなる。

だが、そんなことばかりも言ってはいられない。
今日こそはあの問題を片づけないと。
「おにいさん、そろそろいきましょう?」
「あぁ、そうだね。行こうか。」
子ゆっくりというには若干大きい相方が、促す。
それに応えて僕は立ち上がり、部屋を見回した。
他の人が集まっている部屋とは別の部屋に入り、一度落ち着く必要があった。
深呼吸をし、平常心であろうとする。
緊張?それもあるだろう。
だけど、それ以上に期待しているのかもしれない。
誤解を解く事と、元通りに戻る事を。
そして僕は、相方を両手に乗せ、部屋を出た。
――先程までいた部屋の隅に、『ある物』を残して。

自分たちがいた部屋の向かい側。
ガラス越しに、中にいる人々の姿が見える。
少し躊躇った後、僕はノックをし、ノブを回して静かに中へ入る。
部屋の中は紅茶の甘い香りが漂い、午後のひと時を楽しんでいる気配が窺える。
「まずは挨拶をしないとな…。」
独りごち、僕は部屋の奥で盛り上がっている一団に挨拶をしに行った。


―――


「こんにちは、ご無沙汰してます。」
簡単な会釈と共に、そこにいる一同に対して挨拶をする。
僕の顔を見るなり、皆が少し訝しげな表情を作った。
それでも、まばらではあるが、挨拶が返ってきたことを嬉しく思う。

通行人を見下ろせる窓があるこのビル。
ここは、ゆっくりの愛護団体『ゆっくりんぴーす』の支部だ。
ゆっくりんぴーすでは、一ヶ月に一度、
野良ゆっくりの現状について議論し、対応策を考える日がある。
虐待お兄さんや駆除活動等、様々な事象から野良を守ろうとしているのだ。
そして、今日が丁度その日なのである。
とはいえ、実際に野良の対応策など二の次で、彼らが集まる本当の目的は、
「あら、お久しぶりね。いらっしゃーい。ありすちゃんも相変わらず都会派ね。
 ところで聞いてくださる?うちのれいむちゃんが可愛くて可愛くて…」
この様に、自分たちが飼っているゆっくりを自慢することが目当てで集まっている節がある。
実際問題、集まる為の理由があればそれで良いのだ。
手で促され、僕は席に着き、相方――ありすを膝の上に乗せた。
「お久しぶりです。お元気でしたか?相変わらずれいむちゃんも可愛いですね。」
「ゆっくりしていってね。ごきげんよう、おばさま、れいむ。
 おばさまはいつみてもとかいはね。」

こうして此処に来ている事からも分かると思うが、僕は愛護人間だ。
以前まではゆっくりになど興味はなかったのだが、去年の秋に友人とハイキングに行った帰り、
切り傷だらけのありすを見つけ、保護した縁からこうして今に至っている。
それ以外にも、両親が異常なまでの愛護人間という事も理由の一つなのだが、ここでは割愛する。
そして今、こうして僕の手の上にいるありすが、その時のありすだ。
後から親に聞いたところ、野良や野生でここまで礼儀正しい個体は珍しいらしい。
大抵は人間に罵倒を浴びせ、潰されるのが一般的だと聞かされた。
常に移動時はイヤホンを付けているので、街角でゆっくりを見かけても
気にしていなかったが、知らず知らずの内に僕も罵倒されていたのだろう。
僕も、あの時ありすが罵倒してきたら、今の様な愛護人間にはなっていなかったかもしれない。

「ゆっくりしていってね!!ゆゆーん!それほどでもあるよ!もっとれいむをほめてね!」
「ありすちゃんは本当に礼儀正しいわねー。うちのれいむに見習わせたいくらいだわ。」
「どぼじでぞんなごどいうのおぉぉぉ!!」
愛護団体員のおばさんとれいむが、仲良くじゃれ合っている。
このおばさんとは、両親の知り合いという事もあり、
この会合に参加をし始めた日からお世話になっている。
おばさんのれいむも含め、周りの団体員のゆっくりは、
ペットショップで教育を施された、一流の金バッジゆっくりである。
それに対して、僕のありすは教育などされていない野生のゆっくりだ。
何処で買ったのかと団員に聞かれ、ありすを野生で拾った事を話すと、大抵は嫌悪された。
しかし、このおばさんだけは笑って受け入れてくれた事は、今でも覚えている。
その後、おばさんの執り成しもあって、僕とありすは団体に受け入れられたのだった。
だが、そう上手くいく事ばかりではなく、ある問題を抱えたことで、
僕とありすは一時的にここへ来ることを控えていたのだ。

「それで、もう大丈夫なの?まだ解決してないんでしょう?」
「ゆぅ…れいむ、ありすがしんぱいだよ…またいっしょにあそびたいよ…。」
4つの瞳が、僕とありすを気遣うように向けられる。
今回ここに来たのは、今日こそはその問題を解決するためだ。
「大丈夫です。今日こそ解決させますよ。準備もしてきましたし。」
「おばさまとれいむは、そこでありすのぶじをいのっててほしいわ。」
そう、準備もしてきた。あとは相手が来るのを待つだけ。
気高に振舞いつつも、実は怖がっているであろうありすの髪を手で梳いて、
来たるべき時を待った。


―――


「あらあら、皆さんごきげんよう。」
「ごきげんようなんだぜ!ゆっへっへっへ。」
ありすの髪を梳くこと5分。
表面上は丁寧な挨拶をしながらも、
高圧的な態度を隠そうとしない一人の人間が部屋に入ってきた。
足下で跳ねている、眩く輝く金バッジを付けたまりさを伴って。
その人物が入ってきたと同時に、部屋の空気が変わった。
例えるならば、そう。再び季節が冬に戻ったかのような。
歓迎されていないことに気付く素振りも無く、かつかつとヒールを
音高く鳴らしながら、僕たちが集まっている場所まで歩いてきた。

この人物、実はゆっくりんぴーすの支部長婦人である。
そのことを鼻にかけて話すこともあり、良い印象を持たれてはいなかった。
しかし、立場の関係上周りが強く当たる事が出来ないので、今の様に増長している。
そしてこの人物こそ、僕とありすがここへ来ることを妨げた元凶なのだ。

「あら。どなたかと思えばれいぱーありすちゃんとその飼い主さんではありませんか。
 ここはあなた方のような人たちが来る場所ではありませんことよ。」
「れいぱーはいきててはずかしくないのぜ?ばかなのぜ?あんこのうなのぜ?
 まりささまとむりやりすっきりしようとしたげすは、ゆっくりしないでしぬのぜ!!」
開口一番に憎まれ口を叩くだなんて、本当にこの人物とそのまりさには呆れさせられる。
そしてありすの名誉の為に言っておくが、この子は決してれいぱーじゃない。
僕たちがこの会合に参加を始めて数度目かのある日。
この支部長婦人とまりさが因縁をつけてきて、更に罠に陥れたのだ。
相手方の言い分をまとめると、
「汚らわしい野生の分際で、私たちと同じ場所に立つだなんて無礼極まりない。
 ペットショップで教育もされていないし、どうせれいぱーなのでしょう。
 所詮銅バッジなど、その程度ですわね。」
大体この様な感じである。
再び弁解しておくが、ありす種全てがれいぱーになるわけでもないし、
教育は僕がバッジ昇格試験問題を見て教えたり、一般常識は施したつもりだ。
その気になれば、金は無理かもしれないが銀は取れる程度にありすは物事を理解している。
バッジ試験を受けさせないのは、特に現状で不自由を感じないからである。
銅バッジであろうとも、僕はありすの良さを分かっているから、別に構わないのだ。

「これはこれは支部長婦人。ご無沙汰しております。
 とはいえ、僕も愛護団体員ですので、ここに来る権利はありますよ。」
「ごきげんよう。しぶちょうふじん、まりさ。
 ほんとうに、おなじありすとしてれいぱーははずかしいわ。」
最大限の嫌みを込めて、挨拶を返す。
ここで怒るようでは、今日まで我慢していたことが無駄になる。
今は耐えなければ。
「ふん。図々しいですわね。飼い主が図々しいならゆっくりもかしら?
 これだから野良や野生は困りますわ。」
「ゆっへっへっへ。にんげんさんとありすははやくおばさんに
 あやまったほうがいいのぜ?まりささまにもあやまるのぜ!」
その野良に対しての対応策を考える場で、よくも野良を批判出来るものだ。
ここまではっきり言い切られると、もはや清々しくも感じる。
「で、今日は何の御用ですの?早くこの場から立ち去っていただきたいのですけど。」
きた。その言葉を待っていた。
再びありすを両手に乗せ、意を決して立ち上がり、婦人の目を見据えて口を開く。
「今日この場に失礼したのは、以前の誤解を解くためです。
 僕のありすが、あなたのまりさにれいぷしようとした、という誤解を。」

途端に周りがざわめきだしたが、そんなことは僕には関係ない。
変わらずに目を見つめたまま、次の相手の言葉を待った。
罠に嵌められたと前述したが、つまりはこういうことだ。
僕が団体員の人と話している間に、
婦人がまりさをけしかけ、ありすをれいぷしようとしたのだ。
結果的に未遂に終わったのだが、婦人は立場を利用して、
僕のありすが、逆にまりさをれいぷしようとしたと言って回った。
片やペットショップ出身の金バッジ、片や野生出身の銅バッジ。
周りがどちらを信じるかなど、もはや言うまでも無い。
おばさん以外の誰にも信じてもらえないことは辛かったが、
それ以上に陥れられた怒りが、それを忘れさせてくれた。
そして今日この場で、この問題に終止符を打つ。

「何の事かと思いましたら、そのことでしたか。
 誤解?事実の間違いではありませんこと?
 今謝るのでしたら、退会だけは許して差し上げますわよ?」
「きんばっじのまりささまとすっきりーしようとしたつみはおもいのぜ!
 どげざをしてあやまるなら、ゆるしてやらないこともないのぜ?」
上から目線とにやにやと嫌らしい目線で見つめられて、非常に不愉快だ。
ありすが怒りで震えているが、片手で抱きながら頭を撫でることで、我慢するよう促す。
「謝罪する理由がありませんので、御遠慮させていただきます。
 今回はその件について、弁解の場をいただこうと思いまして。
 それが終われば、もうこの場に来ないことを約束しましょう。ただ――」
そこで一度目を伏せ、再び顔を上げた時には、目に怒りを滲ませつつ、はっきりと言った。
「もしも僕とありすの無罪が証明された時は、しっかりと謝ってください。
 もちろん、そこのまりさも、ね。」
僕の言葉を聞き、婦人は眉を吊り上げ、不機嫌を露わにした。
まりさの方は、口に出してその怒りをぶちまけた。
「ゆはあぁぁ!?どうしてまりささまがあやまらなくちゃいけないんだぜぇぇぇ!?
 れいぱーのくせになまいきなんだぜ!せいっさいっするんだぜ!!」
ありすに飛びかかりそうになるまりさを婦人が制し、口調に怒りを混ぜつつ言い放った。
「いいでしょう。弁解する場を与えましょう。
 そして二度とその顔を見せられないようにしてあげますわ!」

よし、ここまでは計画通りだ。
後はこちらの要求を呑んでもらえたらいいだけだ。
「ありがとうございます、婦人。そこで一つ提案なのですが…」
感謝を身体で表現すべく、頭を下げながら言った。
今までの苦労に比べたら、これくらい安いものだ。
頭を下げられたことに気を良くしたのか、先程よりも少し優しい口調で婦人は答えた。
「いいでしょう。言ってみなさい。」
「はい。弁解ですが、婦人と僕は団体員の方に見ていただいて判断してもらい、
 まりさとありすは当事者同士で別の部屋で話してもらいたいと思います。
 その方が、お互いの飼い主の助言も無く、本当の事を話せると思いますので。」
これは賭けだ。これに相手が乗らなければ、その時点でここに来た意味がなくなってしまう。
しかし、相手にとっても悪い条件じゃないはずだ。
考えようによっては、ゆっくり同士で別の場所で話すという事は、
以前と同じ方法で、僕とありすを陥れることが出来る環境なのだから。
そのことを理解したのか、婦人は口の端を邪悪な笑みと共に吊り上げ、
考える振りをした後、こう言った。
「確かに、当事者同士で解決出来るならその方がいいですわね。
 …いいでしょう。その条件を呑みましょう。」

やったっ!
僕は咄嗟にそう叫びたくなった。
しかし、ここで叫んでこちらの計画がばれてしまっては、徒労になってしまう。
今は平常心だ、平常心。
「重ね重ねありがとうございます、支部長婦人。
 それでは、ありすとまりさには、あちらの部屋でお話ししていただこうかと
 思いますが、よろしいでしょうか?」
そう言って、僕は先程まで自分たちがいた部屋を指差した。
特に問題も無いだろうと、婦人は満足げな表情で納得の意を示した。
その後ろで、まりさが
「ゆっへっへっへ、ばかなじじいなのぜ」
と言っていたことは、聞かなかったことにしよう。

ドアを開けて、ありすとまりさを入れてあげる。
ドアノブの位置までは二人の体では届かないので、これで僕がドアを閉めてしまえば、
自分たちの意思では開ける事が出来ない。
「なにかあったら僕か婦人を呼ぶんだよ、いいね?」
確認するように、二匹に話しかける。
「わかったわ、おにいさん。」
「わかったから、さっさとでていくのぜ。はなしのじゃまなのぜ!!」
「はいはい。では、ゆっくり話し合ってね。」
婦人に僕の姿が見えるようにして、そっとドアを閉めた。
閉める直前に、僕がありすに何か吹き込んだと思われるのは癪だからだ。
尤も、本当に吹き込むのであれば、もっと事前に吹き込むであろうが。
(さて、後は頑張ってくれよ。ありす。)
胸中でそう呟き、婦人と話し合うべく、再び席に戻った。


―――


「確かに僕のありすは野生でした。ですが、教育もしっかりしたので、
 決してゲスでもなければ、れいぱーなどではありません。」
「れいぱーの飼い主は皆そう言うのでしてよ。
 いい加減罪を認めてくださいませんこと?」
平行線を辿る話し合いが始まって十分程した頃、
「ゆんやあぁぁぁ!!!!おばさんたすけてえぇぇぇ!!!!!」
という悲鳴が、こちらの部屋にまで響いてきた。
何があったのかを確かめるべく、僕と婦人は話し合いを中断して、
叫び声が上がった部屋に向かった。

先程まで話し合っていた部屋のドアを閉める時間も惜しいとばかりに、
ドアノブを捻り中に入ってみると、
そこでは泣き叫んでいるまりさと、平然と立ち尽くすありすがいた。
婦人が慌ててまりさに駆け寄って、怪我がないか確認する。
「まりさ!大丈夫?!何があったの?」
「ゆぐっ…ひっく……!……そのれいぱーが、またおそってきたんだよお゛ぉ゛ぉ゛!!!」
涙声になりながら、まりさが理由を説明する。
それを聞き、婦人は烈火の如く怒り出した。
「ほらみなさい!やはりれいぱーだったではありませんか!!
 一度ならず二度までも襲いかかるなんて、全く懲りないものですわね!!」
別の部屋にいる団員にまで聞こえる様なボリュームで、婦人が叫んだ。
団員に事実だと訴えるべく、意図的にであろう。
全く、飼い主もゆっくりも演技上手なものだ。

やれやれ、と思いながらも、僕もありすが無事かどうかを確認する。
「ありす、大丈夫かい?いったい何が起きたのか、教えてくれるか?」
呆れているのか、気だるげに僕の方を振り向き、ありすが答える。
「ありすはだいじょうぶよ。しんぱいしてくれてありがとう、おにいさん。
 べつになにもおこってないわ。まりさがおそいかかってきて、それでなきだしただけよ。」
事実を淡々と告げたありすに対して、婦人がそれに噛み付く。
「まぁっ!この期に及んでまだそんな言い訳を!
 団員の皆さん!この愚かな飼い主とれいぱーを早く追放なさって!!」
別室からその声を聞いた団員の男二人が、渋々こちらに向かってきた。
そして僕の両側に立ち、腕を抱えて持ち上げようとした。強制退場させる気らしい。
ここで退場させられては困る。ここからは反撃させてもらいますよ、ゲス飼い主とゲスまりさ…!

「待ってください、団員の方々!
 どちらが真実を告げているのか、証言してもらおうではありませんか!」
いきなり叫んだ僕の声に驚き、左右の二人が腕の力を緩めた。
その隙を狙ってありすのいるところまで走り寄り、腕に抱きしめて周りと距離を取った。
苛立たしさを隠さずに、婦人が吐き捨てるように言う。
「証言?うちのまりさちゃんが泣いているのが、何よりの証拠ではありませんか?!
 団体員の皆さんもお聞きになったでしょう?悪あがきはよしなさい!」
怒りの目で睨みつけられるが、怯むことなく真っ向から対峙する。
そして努めて冷静に、口を開いた。
「それはそちらの言い分。そしてこちらの言い分は、
 先程ありすが言ったように、まりさが襲いかかってきて泣きだしただけ。
 お互いの主張だけでは、双方共に説得力がありません。なので――」
そこで一度切り、指で出窓の端に置かれた物を指差す。
皆の視線が指の指し示す先に向いた事を確認し、続きを口にする。
「――そこにあるICレコーダーに証言してもらいましょう。
 どちらが真実を話しているかを、ね。」

ICレコーダー。
簡単に説明すると、レコーダーの名の通り、録音をする機械だ。
テレビのインタビュー等で、記者が対象に向けている物がそれである。
僕が、団員の集まっている部屋に行く前に置いていった物――
それがこれというわけだ。
置かれた位置の関係で、別室からは気付きにくい場所にある。
無論、部屋を出る際に録音を開始しているので、先程までこの部屋で
行われていた会話も、しっかり録音されているはず。
機械の機能を理解していないのか、まりさが未だに不敵な笑みでこちらを見ている。
一方、飼い主は先程までの気迫が無くなり、顔色がよろしくないようだ。
だが、そんなことは関係ない。罪は償っていただきましょうか。
「さて、それでは皆さんのいる部屋に戻って、内容を聞いてみましょう。
 支部長婦人も、それでよろしいですね?」

この日に支部に来ていた団体員を全て集め、音量を最大にした上で、
僕は、ICレコーダーの再生ボタンを押した。
そして、開始数十分は無音なので、その旨を伝えて早送りをする。
25分程で早送りを解除し、再生モードに戻す。
「……を呼ぶんだよ、いいね?」
「わかったわ、おにいさん。」
「わかったから、さっさとでていくのぜ。はなしのじゃまなのぜ!!」
「はいはい。では、ゆっくり話し合ってね。」
丁度良い具合に、僕が出て行った辺りまで早送り出来たようだ。
その後、僕がドアを閉める音が鳴った後、部屋に残された二匹が話し始めた。

「ゆっへっへっへ…さぁ、ありすはさっさとまりささまとすっきりーするのぜ!」
ここで、そこかしこからざわめきが起こった。
張本人のまりさだけは未だに状況が理解できず、
ただ自分の声が流れていることを不思議に思い、あたふたしている。
「どうしてありすがまりさとすっきりしないといけないの?
 それに、かいぬしさんのきょかなくすっきりしたらだめなのよ?
 かいゆっくりのきほんよ、きんばっじなのにそんなこともわからないのかしら?」
「ゆあーん?どうばっじのありすなんかが、きんばっじのまりささまの
 すっきりーべんきさんになれるんだぜ?!こうえいにおもうのぜ!!
 わかったらさっさとすっきりさせろおぉぉー!!」
ICレコーダーを置いている机に手を伸ばして取ろうとした婦人の手より、
少し早く僕の腕がICレコーダーを掴んだ。
取り合いの対象となった機械は、周りの騒ぎを気にせず、音を発し続ける。

「まりさ、まえもありすがことわったことをおぼえてないの?
 ありすはまりさがすきじゃないし、すっきりーもきらいよ。
 いいかげんにしないと、おにいさんをよぶわよ?」
「ゆがあぁぁ!!すっきりさせないありすは、ゆっくりしないでしねえぇぇ!!!」
ピョン、と何かが跳ねる音が聞こえ、バフッ、と着地音がする。
まりさがありすに襲いかかり、ありすがそれを避けたのだろう。
「ゆぎぎぎぎぎ!!ありす!またまりささまがおばさんをよんでもいいのぜ?!
 このまえみたいに、またれいぱーだとおもわれて、
 こんどこそせいっさいっされるのぜ?!よばれたくなかったら――」
「よんでみなさいよ、ありすはむじつだわ。このまえも、こんかいもね。
 むりやりすっきりしようとするなんて、まりさはいなかものね。」
自分の発言を遮られたこと、そして馬鹿にされたことに怒り、まりさは吠えた。
「ゆがあぁぁぁ!!すっきりさせなかったことをこうっかいっさせてやるんだぜ!!!
 (スゥー)……ゆんやあぁぁぁ!!!!おばさんたすけてえぇぇぇ!!!!!」


―――


停止ボタンを押し、辺りを見回す。
「そんなまさか…」や「こんなことが…」という呟きが、いたる所から聞こえる。
れいぱー扱いしていた飼い主とゆっくりは、俯き震えていた。
「以上の音声を聞いた上で、なお僕とありすが悪いと言えますか?
 なおもうちのありすがれいぱーであると言いますか、支部長婦人!?」
テーブルを叩き、目は婦人を睨みつけながら、返答を待つ。
やがて、少しずつ、振り絞るようにして口を開きだした。
「許可なく録音するなんて…プライバシーの侵害ではありませんこと…?
 仮にも成人しているのに、一般常識がないのですわね…。」
だが、出てきた言葉は無理がある揚げ足取りだった。
ふぅ、と露骨にため息をつき、僕は逃げ場を無くす一手を打つ。
「大事な相方ですので、万が一の可能性を考えて、
 ありすの安全の為にその様にさせていただきました。
 しかし、まさかこんな展開になるとは思ってもいませんでしたが。
 別に訴えて下さっても構いませんが、どちらが不利かはお分かりですよね?」
ギリギリと歯を食いしばり、婦人が睨んでくる。が、先程までの気迫は全く感じられない。
まりさは婦人の足下で「ゆっくりしてね!ゆっくりしてね!」と煩く騒いでいた。
うるさいっ!と婦人が一喝すると、涙目になって俯いた。

「婦人、約束を覚えていますか?
 僕とありすの無実が証明されたら、謝ってくださる約束でしたよね。
 いや、もはや一般常識ですよね。冤罪だったのならば謝るのは。
 既に成人しているのですから、当然していただけますよね?
 まりさも、金バッジだから当然出来るよね?」
畳みかける様にして追いつめる。こんな外道に情けは無用だ。
腕を震わせていたかと思うと、拳を机に叩きつけて、口を開いた。
「不愉快!実に不愉快ですわ!
 たかが学生の分際で、れいぱーの分際で、この支部長婦人の私によくも…!
 気分を害したので私はこれで失礼します!ごきげんよう!!」
そう言って、逃げるように部屋を出て行く婦人。
「ゆゆっ!おばさんまっでよ゛お゛ぉ゛ぉ゛!!」
それを追うように、ボインボインと跳ねて、まりさも出て行った。
「全く、どっちが一般常識がないんだか…。」
苦笑しながらひとりごちると、
「ごかいがとけたなら、ありすはそれだけでじゅうぶんよ。」
と言う声が、腕の中のありすから聞こえた。
「うーん…ありすがそう言うなら、いいか。」
ありすの頭を優しく撫でながら、僕も自分を納得させるように呟いた。

その後、僕とありすの誤解も解け、ようやく全てが元通りになった。
おばさんとれいむは
「よかったぁ!!本当によかったねぇー!!!」
「ありずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!れいむ、ありずがぶじでよがっだよお゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
と、泣きながら自分の事のように喜んでくれた。
ありすも、「そんなことでなくなんて、とかいはじゃないわよ?」
と言いつつ、涙目になりながら、れいむと親愛のすりすりをしていた。
その他に、何人かの団員や、支部長が婦人に代わって謝罪に来たが、今となってはどうでもいい。
確かに、野生と銅バッジでありすをれいぱーだと判断したのは許せない。
だが、悪いのは支部長婦人でありまりさであり、彼らの罠に気付けなかった僕だ。
婦人の扇動がなければ、もしかしたら彼らもその様に思い込まなかったかもしれないのだ。
ま、いくら考えたところで仕方ない。この世に「たられば」はないのだから。

そして、僕とありすは愛護団体を脱退した。
今回のような問題が起こった事も理由の一つだが、
一番の理由は愛護団体の在り方について、僕自身が疑問を感じたからだ。
愛護団体とは名ばかりで、
実際は野生と野良を見下した態度、そして自分達の飼いゆっくり自慢しかしていない。
否定はしないが、やはり本来の意味とは離れている感が否めないので、僕には合わなかったのだ。
おばさんやれいむが引き止めてくれたが、それでも僕とありすの意思は変わらない。
寂しくないと言えば嘘になるが、お互いの家に行けば、またいつでも会えるのだから。


―――


「――――ということがあったんですよ、先輩。」
事件解決から、一週間後。
ここは、飼いゆっくり同伴可のファミリーレストランだ。
借りていたICレコーダーを返すことと、事後報告も兼ねて、食事に誘ったのである。
「なるほどね…でもま、解決してよかったじゃないか、お疲れさま。」
そう言って先輩は、食後のコーヒーを啜る。
「それで、その支部長婦人とまりさはどうなったんだい?
 まさかそのままお咎めなしというわけではないだろうに。」
「えぇ、改めて家まで謝罪に来ましたよ。渋々ではありましたけど、ね。
 その時にまりさがいないことを聞くと、捨てたそうで…全く、愛護団体が聞いて呆れますよね。」
僕はストローから伸びたミルクティーを飲みつつ、答えた。
その横では、ありすが小皿に入れられたオレンジジュースを美味しそうに飲んでいる。
「あははは、まぁ愛護団体も所詮は人間の作ったものだから、仕方ないさ。
 それで…これからどうするんだい?」
先輩の言う「これから」とは、僕のこれからの在り方だろう。
愛護団体の在り方を否定した以上、僕は僕の道を示さねばならない。
だが、僕はもう道を決めている。
先輩の目を見つめながら、僕は真剣な眼差しをしながら口を開いた。

「先輩…僕は、ありすたちを保護したいと思います。」
「ほほう……続けてくれないか、中々興味深い。」
「はい。…うちのありすがれいぱーだって言われて、ありす種には派生が
 いるのかと思って、調べたんです。結果、れいぱーは蔑称だという事を知り、
 他にも個体ごとにそれがある事も知りました。そして気付いたんですが…」
そこで一度切り、ありすを見つめ、優しく頭を撫でてから続きを話す。
「れいむ種のでいぶ、まりさ種のゲスまりさ。他にも様々いますが、これらは野生・野良問わず、
 ゲスであると判断されると、処分されます。しかし、ありす種は違う。
 ただありす種であるというだけで、れいぱーだと嫌疑をかけられて、群れを追放されることもある。
 だから、僕はありすを保護したいんです。愛護団体のように、話し合うだけじゃなく行動することで。
 それに…証拠もないのに疑われるのは、辛いことですから、ね。」
まぁ、これも僕の偽善でしかないですけど。と付け加えて、話を切る。
先輩は瞼を閉じ、少し考える素振りを見せた後、口を開いた。

「確かに君のやろうとしていることは偽善だ。結局それは同情しているに過ぎない。
 ありすに自分を投影してのね。」
そこまで聞いて、少しだけ落ち込んだ。
勿論、偽善だとは分かっていたけど、いざ言われてみると、さすがに悲しくなる。
しかし、話はまだ続いていたらしく、先輩が続きを口にする。
「だが…こんな言葉もあるだろう?『しない善よりする偽善』とね。
 だから、私的には応援するよ。個人で出来ることは限られているけど、頑張ってね。」
「……はいっ!!」

そうさ、僕一人で出来る事なんて限られている。
それでも、僕は僕に出来ることをしたいと思う。
相方のように、苦しむありすがいなくなるように…。
ふと視線を落としてありすを見ると、目線が合った。
ニコリ、と柔らかく微笑み、相方は口を開いた。
「ありすもおてつだいするわ、おにいさん。
 ありすとおなじようなに、ほかのありすがくるしまないように…
 だから…これからもゆっくりよろしくおねがいします!」





―――


 ・あとがき
書き終わってみると、人間ばかり話していますね…
場違いかもしれませんが、投稿させていただきました
不快に思われた方にはこの場で謝罪させていただきます、申し訳ありませんでした

そして、このSS投下と同時に、二作目のSSを削除させていただきました
ご覧になられて不快に思われた方々には、重ね重ねお詫び申し上げます

最後に、月曜日の正午近くに、ぬえか小話どちらに上げるべきか尋ねた際、
答えて下さったとしあき諸氏に感謝を。





このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
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最終更新:2010年07月27日 17:10
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