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仕事から帰ったら、ウチの飼いゆっくりのまりさが思いっきり上体を折り曲げて頭を下
げて来た。多分、土下座の積りなのだろう。
「おにいざんおねがいじまずう、ばりざをおどごにじでぐださい!」
男にして下さいって……お前ら男女の区別ないだろ、と内心で突っ込みつつ話を聞いて
みる。
「ゆゆ、まりさはけっこんするよ!」
おお、そう言えばこいつもそろそろ成体か。奥手だと思っていたが、やる事はやってる
んだなぁ。
「ほほう、お相手は誰だい? おとなりの鈴木さんのありすかい? それともお向かいの
ぱちゅりー?」
「ちがうよ! まりさはおにわにきたれいむとけっこんするよ! れいむはおそとでくら
してるゆっくりなんだけど、とびはねるのもじょうずでとてもゆっくりしてるんだよ!!」
何と、最近庭にちょくちょく出入りしているれいむと「けっこん」したいらしい。
ウチのまりさは我儘も言わず決まり事も守るしっかりしたヤツだし、出来る限り願いは
叶えてやりたい。
しかし野良、しかも成体を飼うのは躾が非常に難しい。今回は諦めて貰うしかないか……。
「まりさ、悪いけど野良はダメだ。どうしてもと言うなら、お前を捨てるしかない」
「ゆゆ!?」
普段は優しい飼い主からの意外な言葉に、「ゆがーん」と言う効果音と共に硬直するま
りさ。だが、まりさの「けっこん」願望は相当強かったらしい。
「ゆう……おにいさん、おせわになりました。まりさはおうちをでてれいむとけっこんす
るよ!」(キリッ
まりさは少し悩んだ後、決然たる表情で言い放った。
俺はと言うと、うちのまりさが美味しい餌で「しあわせー!」する事や快適な家でゆっ
くりする事よりも、愛を選んだ事にちょっと感動していた。いつまでも子ゆっくりのつも
りでいたのだが、いつの間にかこんなにしっかりしちゃって……よし、旅立つまりさにせ
めてもの餞を贈るか。
「分かった。まりさ、お外でれいむと存分ゆっくりするがいい……でもお前、外で本当に
暮らせるのか? 例えば……」
俺は言いながら庭にまりさを連れ出し、手近な庭木にくっ付いていた芋虫を目の前に置
く。
「ゆわあああああああ、むしさんだあああああごわいいいいおにいざんだずげでええええ」
あーやっぱり。
ウチのまりさ、殆ど室内飼いだったからなぁ。座敷犬ならぬ座敷ゆっくりってやつだ。
お陰で虫と接した事が殆ど無い。だが、これから野外で暮らすとなれば、虫をよけて通る
事は出来ない。俺は敢えて声を励まし、「ゆわーんゆわーん」と泣き喚くまりさに発破を
掛ける。
「なにやってるんだまりさ、そんな事じゃれいむが愛想尽かしちゃうぞ! 男をみせろ!」
「わ、わかったよ! れいむみててね! ま、まりさがんばるよ!!」
激励を受けたまりさは、すっかりれいむと番いになったつもりで張り切る。そして、空
気を吸い込んでいつもの二倍くらいに膨らんだ。ゆっくりの威嚇ポーズ「ぷくー!」だ。
「ゆっくりできないむしさんはゆっくりどこかにいってね!」
まりさの威嚇に恐れをなしたわけではないだろうが、芋虫はのそのそと向きを変えて草
むらに消えた。
「ゆっへん! むしさんをゆっくりげきたいしたよ! れいむをまもったよ!」
「馬鹿っ!」
思わずまりさの頭を手近な新聞紙ですぱこーんと叩いてしまった。ぷひゅるるるーと気
の抜ける音を出しながら、縮んで行くまりさ。
「どぼぢでぞんなごどずるのおおおおおお」
「あのなぁ、野良になったら毎日虫を食べるんだぞ! 追い払ってどうするんだよ……そ
れに、まりさだったら」
俺はそこで言葉を切り、先程逃げた芋虫を捕まえ、まりさの帽子をちょっと持ち上げて
中に放り込む。
「こうやって帽子の中に食料を入れて運ぶもん……って駄目だこりゃ」
「ゆぎゃああああ、むしさんごべんなざいいい」
まりさはぼうしを脱いで転がったり、走り回ったりして虫を振り落とそうとする。そし
てその内虫を潰してしまい、今度はきちゃないいいとか言いながら体を地面に擦りつけて
いる。今やすっかり泥だらけだ。
「ゆゆ!? どろどろさんはゆっくりできないよ! おにいさん、ゆっくりおふろにいれ
てね!」
何故か不敵な笑顔で反り返るまりさを前に俺は大きくため息をつき、会社に電話で一週
間の休暇を申請、まりさを連れてちょっと離れたキャンプ場に向かった。さぁ、おにいさ
んブートキャンプでやせい(笑)を取り戻そう!
キャンプ場では、連日の特訓だった。先ずは味覚の矯正。元々余り味の濃い食事を取ら
せては居なかったが、更にゆっくりんピースが保護した野生のゆっくりに与える「ゆっく
りフード やせい味」で味覚を野生のゆっくりに近いものに直す。
こうして虫の味を覚えさせたら、続いて「狩り」の訓練だ。
「そろーり!そろーり! ちょうちょさん、ゆっくりまりさにたべられてね!」
花の上に止まった蝶に、大声を上げながら近付くまりさ。当然蝶は逃げ出す。
「どぼぢでちょうちょさんにげじゃうのおおお!?」
「そりゃまぁ、そんだけ『そろーりそろーり』叫んでればなぁ」
「ゆ? でもおにいさんにはみえなくなったよ!」
そう言えば、家でかくれんぼした時には良く「そろーりそろーり」なんて言いながら移
動してたなぁ。バレバレだったんだけど、可愛いからつい見て見ぬふりをして、わざと見
当違いのところを探したりしたっけ。
「あー、すまん。あれ嘘」
「ゆがーーーーん!」
そんな感じで基本的な狩りの動作を覚えたら、次は食べられる虫の選別だ。
「てんとうむしさんはとってもきれいでゆっくりできるよ! むーしゃむーしゃ……ゆ
げぇ!? これどくはいっとる!」
「むしさんゆっくりたべられてね! ……あづいいいい」
「それはゴミ虫だな。食べられないぞ」
「もっどはやぐいっでねえええええええ」
こうして一週間は瞬く間に過ぎ去り、俺とまりさは懐かしの我が家に帰って来た。
まりさはすっかり野生の本能を取り戻し、野に放っても十分生活していけるようになっ
た。これでれいむとの結婚しても大丈夫だろう。まりさ、俺の元を離れてもゆっくりする
んだぞ! ……等と思いながら玄関を開けようとしたら、何だか庭の方が騒がしい。見て
みると、バスケットボールくらいの大きさのゆっくりれいむがバンバンと窓に向って体当
たりをしているではないか。俺は思わず蹴り飛ばしそうになったが、それより先にまりさ
が声をかけた。
「ゆぅ~、れいむ! まりさだよ! ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね! まりさどこいってたの? れいむとけっこんするんでしょ?
ゆっくりしすぎだよ!」
どうやら、コイツがまりさのお相手らしい。
「ごめんねれいむ! でもまりさはかりやおうちづくりのおべんきょうをたくさんしてき
たんだよ! これからはふたりでおそとでゆっくりしようね!」
「おそと? なにいってるのまりさ? まりさのおうちはここでしょ、はやくなかにいれ
てね!」
「ここはおにいさんのおうちだよ! まりさはこのおうちをでて、れいむといっしょにお
そとでくらすことになったんだよ。ゆっくりりかいしてね!」
誇らしげなまりさに対して、れいむは最初は呆然とした表情、そして次に怒りの形相を
浮かべる。
「どぼぢでぞんなごどいうのぉぉぉ!? ごごはでいぶどばりざのおうぢでじょおぉぉ!?」
花嫁の突然の豹変に驚くまりさに代わり、俺はれいむに声を掛ける。
「と言うわけでれいむ、まりさと一緒にお外でゆっくりしてね。家には絶対に入れないか
らゆっくりりかいしてね? そうそう、お外と言っても庭も駄目だよ。もし入って来たら、
ゆっくりできなくなっちゃうからね」
「ゆぎぎぎ」
「……それとも、おうちの無いまりさとはゆっくりできないのかい?」
それまで散々悪態を撒き散らしていたれいむは、この言葉を聞いて表情を凍らせた。恐
らく、図星を突かれたのだろう。
「ふん、かいぬしにおいだされたぐずなまりさにようはないよ! そこでゆっくりしていっ
てね!」
れいむは捨て台詞を残して大きく跳ね、庭と道路を隔てる生垣を潜って外に逃げ出した。
一方まりさは……
「おにいざあああああん、ばりざぶられじゃっだよおおおぉぉぉ」
おお、泣いてる、泣いてる。砂糖水の涙で地面がぐちゃぐちゃになるくらい大泣きして
いるまりさを抱え上げ、改めて家に入った。まりさ、理想の伴侶が見つかるまで、ウチで
ゆっくりしていってね!
おまけ
「ほーらまりさ、お前の大好きなあまあまなケーキだぞー!」
俺は振られて傷心のまりさを慰めるべく、行き慣れないケーキ屋に寄って高いケーキを
買って来た。買って来たのだが……
「ゆっへっへ、まりささまはけーきだなんてなんじゃくなものはたべないのぜ! わいる
ど(笑)なまりささまは、こいつをむーしゃむーしゃぼーりぼーりするんだぜ!」
すっかり野生に戻ったまりさは、帽子の中から何やら黒いモノを出して食べ始めた。う
げ、あれGじゃないか。
「ゆ? おにいさんもたべるのかだぜ。いっぴきあげてもいいのぜ!」
「……気持ちだけ貰っとくよ」
今度はまりさのやせい(笑)を矯正しなきゃいかんのか、と俺は一人頭を抱えた。
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- G…おぇぇぇぇぇ -- 2023-02-13 17:09:35
- 図星れいむをもっと追い詰めて欲しいwww -- 2018-02-02 21:18:49
- G…おげろおお -- 2014-02-04 09:04:34
- 珍しく異常に優しい飼い主に感動した
こういうのもいいよね -- 2013-05-13 10:39:02
- このまりさ可愛いな、身の程を知らないようだが愛嬌がある -- 2012-12-10 13:58:04
- メスの(G)は絶命時に大量の卵を撒き散らすんだぜ?おおこわいこわい -- 2012-03-20 02:40:50
- れいむは死んでほしかったww -- 2011-11-26 21:14:25
- ねぇ知ってる?ゴキは潰すと生ゴミくさいんだって。
…昔スリッパで叩き潰してその破片が顔(ryやめておこう。 -- 2011-11-16 01:11:18
- 家の窓をたたいていたゴミの処分と、せっかく飼ってもらっていたのに恩をあだで返すごみの処分をしないなんて
このお兄さんはゆっくりを買う資格がないな。 -- 2011-11-09 02:22:09
- れいむが捨てゼリフをはいた後道を渡るときに車に惹かれてくれれば完璧だった -- 2011-06-08 12:54:33
- ↓ゴキブリの内臓器官は未消化のまずいゴミが残留しているから苦いらしいけど(というか虫以外の雑食、腐食性生物の内臓類も)その他脂肪は脂質だし、外骨格や筋肉組織はたんぱく質だから苦くはないと思うよ?甘くもないと思うが -- 2011-03-09 07:16:30
- とりあえずれいむは死のうか -- 2010-10-07 16:36:56
- お兄さん窓に体当たりかましてたクズの処分忘れてるよ! -- 2010-09-24 14:37:59
- たまにはこういう和む話も良いんじゃない? -- 2010-09-04 18:06:39
- 和むなぁ。 -- 2010-08-31 21:44:25
- 黒いのはれいむの破片ならいいのに -- 2010-08-10 23:21:26
- 黒いG…ゴキなのか黒ずんだりぐるなのか…? -- 2010-07-24 17:46:50
- クスッと笑わしてもらいました
たまにはいいですねこうゆう和む話もw -- 2010-07-24 15:40:08
- まあ、たまには誰も死なない話も良い どっちにしろゲスなれいむはどこかで死んでるだろうし
>ゴキブリって相当苦いんだろ?まりさ死なないのかな???
それを言い出したら虫の大半がゆっくりが食べるのに適してない味だよ
生で食べて甘い虫ってハチとかの幼虫くらいしかいないんじゃなかったけ?
多分、虫は食べれるものっていう思い込み効果で大丈夫なんじゃないかな -- 2010-07-15 13:27:01
- 純情なまりさに寄生しようなんて…れいむ死ね。 -- 2010-07-15 06:11:18
最終更新:2009年10月17日 15:18