それでもゆっくりは畑を守る 9KB
そのまりさは畑を守っていた。
耕された、栄養さんのある黒い土。 そこに、さほど深くなく埋められた小さな小豆色の種。
埋めたのは何日前になるだろう。 三日より前は数えられないからわからない。
気が遠くなるくらい年月をこうして守っている気がする。
だが、冬さんはまだ1回も来ていないし、まあるい月さんはまだ2回しか見てないから、そんな長すぎるわけではないだろう。
畑からは数本の、長い茎が伸びていた。 種から出た芽が成長し、伸びたものだ。
その茎の先端に、ピンポン玉かミニトマトくらいの大きさの、丸いつぼみがくっ付いている。
それは、まりさの我が子たちだ。 愛しい我が子達だ。
立っている茎の周辺には、枯れてしなびた茎や、半分から先が齧られて無くなっている茎もいくつかある。
それは、育たなかった我が子たちだ。 あるいは、守れなかった我が子達だ。
まりさは先端を削った短い棒を口に銜えながら、大分前からこうして我が子を守っている。
やがて、あの丸いつぼみが花さんが咲くようにゆっくりと割れて開いて、中から可愛い我が子が生まれてくる。
それを、まりさはひたすら待っていた。
「みずさんをかけるよ! ゆっくりそだってね!」
「はやくおおきくなってね!」
まりさとれいむがすっきりー!して、れいむの頭から伸びた蔓に宿り、そして零れ落ちた数十の小豆色のゆっくりした種。
日当たりの良い肥沃な土地を木の棒で耕して畑を作り、撒いた種にそっと土を被せる。
その上に、まりさは川から口に含んで汲んで来た水さんをかけた。
まりさとれいむの種族はこうやって子供を作るゆっくりだ。
土に抱かれて水分をたっぷり吸った子供たちの種は、やがて土の中で小さな芽を出す。
夜のうちに土を押しのけて芽は外に出て、朝の光を浴びるだろう。
「ゆっ! めさんがでたよ! ゆっくりしていってね!」
「おひさまをあびて、ゆっくりはやくそだってね!」
日光を浴び、穏やかな風を受けた小さな芽は、すくすくと育つ。
葉を二枚、四枚と増やし、茎を伸ばし、空へ向かって成長する。
しかし、全部の種が芽を出せるわけではないし、全部の芽がそうなるわけではない。
「やべでえええええ!! はとさん、まりさたちのたねをたべないでええええ!!」
「ここはれいむたちのはたけなんだよお!? たねさんたべたらあがちゃんだちがゆっくりできなくなるでしょおおおお!?
ほじるのやめないとれいむおこるよ! ぷくー!!」
「うわああああああ!! めさんがたべられぢゃっでるうううう!!」
「どおじでごんなごどずるのおおおおお!? とりさんやむしさんには、ちもなみだもないのおおおおお!?」
折角撒いた種や、折角発芽した芽を何割か食べられてしまったまりさとれいむは、畑を守る必要性に直面する。
群れで畑を作っている同種のゆっくりたちは、一箇所に畑を作って皆で植えて、皆で交代で畑を守る事もするという。
しかし、いかなる理由によってか群れに属していないまりさとれいむは、たった二匹きりで自分たちの畑を守らなければならなかった。
畑を守るのは容易ではない。 畑を襲いに来る外的は、昼に来るのも夜に来るのも居るからだ。
加えて、まりさとれいむは自分たちが生きるためにご飯を調達しなくてはならない。
交代で畑の番をすれば、片方一匹だけでは畑を守りきれない事も多いのだ。
そして、畑を襲うのは何も外敵だけではない。
「ゆっ! おいしそうなやさいさんがはえてるよ!? むーしゃむーしゃしあわせー♪」
「なにやっでるのおおおお!? それはまりさたちのあがぢゃんなんだよおおおおお!?」
「ゆ? なにいってるの? あかちゃんがはたけからはえてくるわけないでしょ?
へんなうそをついておやさいさんをひとりじめしないでね!」
「まりさたちはそうやってこどもをつくるゆっくりなんだよ! そのくきさんからまりさたちのあかちゃんができるんだよ!?」
自分たちとは繁殖方法が違うので、それが子供たちが実のる茎だと知らないゆっくりの襲来。
「ゆーしょ! ゆーしょ! ゆー! いっぱいしごとごっこしたりゃ、ちゅかれたよ!」
「なにやっでんのおおおお!? どうじでくきさんをひっこぬいでるのおお!! どこのちびちゃんなの!?
おやはどんなぎょういくしでるのおおおおお!? ばかなの!? しぬの!?」
「ゆぇーんしりゃないおばちゃんがいじめりゅー!」
「ずいまぜんずいまぜん! なにもわがらないこどものやっだごどなんでず! ゆるじでね! ゆるじでね!」
分別の付かない子ゆっくりの遊びや悪戯によって、台無しにされてしまう茎や芽。
自然環境もまた、敵である。
「どおじでかれじゃっでるのおおおおおお!?」
「ゆう…あめさんがゆっくりしてたから、ねっこがくさっちゃったんだよ…おひさまもっとでてね!」
「こんどはどおじでたおれちゃでるのおおおお!?」
「ゆうう…あめさんがたりなかったからだよ…みずをくんでこなきゃ…おひさまあんまりゆっくりしないでね!」
「ゆあああああん!! やべでね! かぜさんゆっぐりふいでね! れいむたちのこどもをゆっぐりさせであげでよおおおおお!!」
「ゆああああん! せっかくみがつきはじめたのにいいい!! おっごちぢゃっだよおおおお!!
かぜざんのばがああああ!!」
ただ長雨が続いたり、日照りが続いたり、風が強く吹くだけなら多数は残ってくれる。
最大の敵は季節の変わり目にやってくる。
「たいふうざんゆっぐりじないではやぐどっがいげえええええ!! あめさんもかぜさんもどっがいげええええ!!
れいむのかわいいちびちゃんをゆっぐりさぜろおおおお!! たいふうさんはゆっぐりじねえええええ!!
こどもだちはれいむがまもるよおおおおおお!!」
「れいむ! だめだよ! はやくおうちにもどってね! れいむがえいえんにゆっぐりしぢゃうよおおおお!!」
大粒の雨が勢いよくれいむの体を打ちつけ、強風がゴウゴウと森の木々を揺らすなか、れいむは畑の前で暗い空にむかって叫んでいた。
まりさは帽子が吹き飛ばされそうになるので、おうちの中かられいむに呼びかけるしか出来ない。
だが、必死に畑を守ろうとするれいむには、まりさの声は届かなかった。
やがて、れいむの悲痛な声も風に掻き消されて聞こえなくなり、台風はその夜が明けるまで猛威を振るい続けた。
ゆっくりできない台風さんがれいむと、畑の子供たちの多くを永遠に連れ去ってしまってからも、まりさは畑を守り続けた。
残った実をつけている茎は、まりさが数えられるほどしか無い。
たったこれだけしか、生き残らなかった。 台風の後も、大きく育ったつぼみを狙って、捕食種のれみりゃやふらんが畑を襲う事もあった。
「うー♪ うー♪ あまあま~♪」
「やべろおおおお! まりさのあかちゃんたちをすうなあああ!!」
「ゆっくりしね! ゆっくりしね!」
「ゆっ! このっ! ゆぎゃあああ!!」
生まれる前の、赤ゆっくりを宿したつぼみは捕食種にとって絶好の餌である。
毎夜襲来するれみりゃやふらんに対し、まりさは尖った棒で必死に応戦し、傷だらけになって畑を守ったが
それでも力及ばず、残り少ない実はさらに少なくなってしまった。
あらゆる色んなものがゆっくりしてくれなかったので、愛しいれいむとの結晶は、たった一本の茎とその先端のたった一個の実だけになった。
だがそれも、やがて報われる。 茎の先のつぼみは、ようやく充分な大きさにまで育っている。
もうすぐだ。 もうすぐ、あのつぼみが、実が割れて、中からまりさとれいむの赤ちゃんが姿を現すはずだ。
そして、ゆっくりしていってね! と挨拶してくれるに違いない。
そうしたら、自分も涙を流しながらゆっくりしていってね! と返すのだ。
茎から元気よく飛び降りてくる赤ちゃんをまりさのお腹で受け止めて、そして残った茎をまりさが柔らかく噛み砕いてから、
赤ちゃんたちは生まれて最初のご飯を食べるのだ。
それからは、まりさは赤ちゃんとゆっくりした日々を過ごすのだろう。
まりさはその瞬間を待ちわびながら、畑の前で守り続ける。
いまかいまかと、つぼみを見つめながら。
そして、運命の瞬間は
「ゆっ…! つぼみさんがひらきはじめたよ! まりさのあかちゃん、ゆっくりでてきてね!
ゆうううう! おそらさんにいるれいむ、みて、まりさたちのあかちゃんがゆっくりうまれるよおおおおお!!」
「ゆっくち…」
ゆっくりと
「あっ、こんなところに畑さんがあるよ! 赤ちゃんゆっくりさん、お兄さんに千切られてね!」
「ゆびぇ!」
台無しにされた。
心無い人間の手によって。
「ゆうううううう!? にんげんさんなにやっでんのおおおお!? まりさのあかちゃんがああああ!!」
「何って、赤ちゃんは畑から勝手に生えてくるものでしょ? お前ら、俺の畑をいつもそうやって荒らすじゃん。
赤ちゃんを独り占めにするのは悪い事なんだよ? 」
「あかぢゃんはかっでにはえでごないでじょおおおおお!? それに、まりさはにんげんさんのはたけをあらしたごどなんがないよおおおおお!!
どおじでごんなひどいごどずるのおおおおお!!」
「うるせえ! いつもいつも俺が苦労して耕して、種を撒いて、虫を取って、鳥を追い払って、育てた野菜を収穫前に荒らしやがって!
野菜だって勝手に生えてこないんだぞ!! お前がやってなくても、お前らの仲間がやってるんだろうが!
お前らゆっくりなんて大嫌いだ!! 全滅しちまえ!! 種族を残せないようお前らの畑全部潰してやる!!
ヒャッハー制裁だ!!」
…結局、人間の八つ当たりに近い報復行為のおかげで、まりさは自分たちの子供を一つも守る事が、生まれさせる事が出来なかった。
たった一つの、生まれようとしていた赤ちゃんを人間に潰され、自身も暴力を振るわれてボロボロになったまりさは
痛む体を引きずって畑の上に投げ捨てられた、生まれるはずだった我が子の亡骸に這って近づいてゆく。
人間の手で乱暴に掴まれ摘み取られ、握りつぶされて捨てられた赤ゆっくりのひしゃげた体からは、餡子がぶにゅると漏れていた。
まりさは涙をとめどなく流すと、我が子の亡骸に頬を摺り寄せた。
声も出なかった。 泣き言一つ呟く気力すら、まりさには無かった。
やがて秋が訪れ、冬を越し、暖かい春が来た。
「みずさんをかけるわ! ゆっくりそだってね!」
「はやくおおきくなってね!」
まりさとありすがすっきりー!して、ありすの頭から伸びた蔓に宿り、そして零れ落ちた数十の小豆色のゆっくりした種。
日当たりの良い肥沃な土地を木の棒で耕して畑を作り、撒いた種にそっと土を被せる。
その上に、まりさとありすは川から口に含んで汲んで来た水さんをかけた。
生き延びて冬を越したまりさはありすという新しいパートナーを見つけ、再び畑に子供たちを植えた。
土に抱かれて水分をたっぷり吸った子供たちの種は、やがて土の中で小さな芽を出す。
夜のうちに土を押しのけて芽は外に出て、朝の光を浴びるだろう。
「ゆっ! めさんがでたよ! ゆっくりしていってね!」
「おひさまをあびて、とかいはにそだってね!」
まりさは何度でも繰り返す。
何度芽を踏み潰されても、引っこ抜かれても、雨や日照りや強い風に枯らされても、台風になぎ倒されても、
捕食種に実を食べられても、人間に意地悪されても。
それでも、種を撒き、育て、畑を守る。
今度こそ、今度こそ守る、ゆっくりした自分たちの赤ちゃんと、ゆっくりしていってね!と笑いあうと胸の内で誓った。
元ネタ絵 byM1
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- 挿絵の顔がキモイ -- 2012-12-18 17:18:59
- 絵の鳥謎いw -- 2012-09-16 22:43:42
- ゆっくりがお百姓さんにおこなってきた仕打ちを考えれば、ゆっくりは何も言えないような気がする。 -- 2012-09-01 23:11:40
- 今回の虐待お兄さんは新でいいとおもう。 -- 2012-04-08 04:31:48
- 流石に今回は人間が余計 -- 2012-02-22 19:49:31
- 因果応報ってのはまさにこのことか…
赤ゆの行動ってどうしても悪意があるとしか思えない -- 2011-07-17 19:27:11
- 押絵の鳥がエビフライに見えるwww -- 2011-01-10 22:56:38
- 普段ゆっくりが自然や人間にやってる事がそのまんま返ってきてるな -- 2010-10-06 16:08:01
- やはり同種であっても赤ゆ子ゆのウザさは異常
まじで赤ゆ子ゆだけは無条件で潰れろ -- 2010-08-25 23:13:28
- 挿絵のれいむが可愛すぎる -- 2010-08-25 20:29:26
- こんな繁殖法では滅びちゃうんじゃ… -- 2010-07-07 09:25:56
- やっぱ赤ゆがいっとうウザいな
親は何も分からない子供とか言ってるし実際そうなのかもしれんが、行動がいちいち悪質すぎる -- 2010-06-26 15:52:17
- 八つ当たり兄さんのせいで野菜勝手に生えてこないと思ってる種全滅させたら自業自得だと思う -- 2010-02-25 22:24:40
最終更新:2009年10月20日 16:09