お前たちに明日はない 37KB
「お前たちに明日はない」
※初投稿です
※現代設定(?)です
※独自設定があります
※ハイスペック希少種愛で、善悪問わず通常種ジェノサイドです
※虐待ではなくジェノサイドです
暦の上では秋になっても、いまだに続く残暑のせいで、
夜の9時を回ったというのに半袖でも汗ばむ暑さだった。
そんな中を一匹のゆっくりまりさが、人通りのない道を目的地に向かって急いでいた。
ここは郊外というのも憚られるくらいの田舎だった。
まりさの跳ねている、森から抜け出た道の両側には、雄大な山を背景にして途方もなく広い田んぼが広がっている。
ここに暮らす人々の多くは農作業に従事しており、朝早くからの作業に備えてすでに就寝していた。
しかしながら例外もいた。
バスが1時間に1本という田舎から、片道5時間かけて都心に通うという例外が。
今まさにまりさが到着したのは、その例外の家であった。
そしてまりさの目的は…
「ゆっふっふ。まってるのぜ、あまあまさん!」
…言わずもがな。
まりさがこの家に目をつけたのは1週間前である。
このあたりに住む他の人間とは明らかに異なる格好をして、
時折まりさたちの暮らす山奥にまでやって来た不思議な人間に興味を持ち、
ゆっくりと観察を続けた結果、「この家には人間が1人しか住んでおらず」、
そのたった1人の人間も、「出かけたら深夜まで帰ってこない」という事実を突き止めたのである。
そして、人間に見つかる危険の低い夜になってから、まりさは意気揚々とやって来た。
一般的に里山付近に生息するゆっくりは、農家の人たちが精魂込めて育てた作物を食い散らかし、
住居に侵入して乱暴を働き、挙句の果てに暴言まで吐く害獣もとい害饅頭として認識されている。
しかしこの地域のゆっくりは、豊富な山の食料に恵まれていたため、
人間のテリトリーを犯すことなく穏やかに暮らす、極めて稀有な存在だった。
そのため人間の方も、特にゆっくりを意識することなく日々の生活を営んでいた。
それでは何故このまりさは人間の住居に侵入するという暴挙に出ているのか?
まりさはかつて、都会で暮らす野良ゆっくりだった。
それがある時、気まぐれな人間に拾われて飼われる事となったのである。
野良だった頃からは想像もできなっかた夢のような日々に、
まりさはしあわせーの絶頂だった。
だが、夢は醒めるから夢なのである。
まりさは今からおよそ2週間前に、この近くの森に捨てられた。
その時の人間の言葉をまりさは未だに覚えていた。
「やっぱり『つうじょうしゅ』なんて飼うもんじゃないな…。
ここなら餌には困らないだろうし、まあ、達者でな」
まりさの元飼い主は中途半端な愛情からか、どうせ登録もしていなかったこともあってか、
あるいは処分費用(200円)を惜しんだのか、まりさを自然に帰すことにした。
都会育ちのゆっくりが野生に順応することが極めて困難で、
同じように捨てられたゆっくりの多くが死んでいる現実を鑑みれば、
まりさの命運は尽きたかに思われた…。
ところがぎっちょん、まりさは生きていた。
まりさ種特有の小賢しさと生存本能の強さに加えて、
このまりさがペットショップ育ちの純粋な飼いゆっくりではなく、
野良生活の経験があったこと、そして何よりも運が味方した結果である。
元飼いゆっくりであった頃の知識と、そこそこの器量を武器に、
群れに入り込むとそれなりの地位も確保することができた。
いかなる神の慈悲によってか、それなりにゆっくりとした生活を保障されたまりさだったが、
自分をこんな所に置き去りにした人間に対する恨みの炎は消えず、
そしてそれ以上に、
「ゆうう…あまあまさんがたべたいのぜ…」
かつての飼い主から与えられていたケーキやクッキー、ドーナツの味を、
まりさは忘れることができなかった。
かくして現在に至る。
慎重に慎重を期して、家の周りに人間の気配がないことを確かめると、
まりさは石で窓ガラスを割った。
パリーン、という破壊音があたりに響く。
しかしその音が隣家の住人に聞かれることはなかった。
一番近い家でも100メートルは離れているのだ。
まりさは首尾よく侵入に成功した。
家の中に入ると、当然明かりは消えていたが、
食べ物の匂いがまりさの鼻腔(そんなものないとは言ってはいけない)をくすぐった。
「ゆゆゆっ!こっちからおいしそうなにおいがするんだぜ!」
どうせ人間はいないのだ、とばかりにポヨン、ポヨンと派手に跳ねて、
薄暗い廊下を進むと、リビングらしき部屋に出た。
床にはお皿が置いてあり、その上には食べ物が盛られていた。
どうやら匂いの正体はこれらしい。
あまあまさんではないが、まあ軽く腹ごしらえをするかと、
まりさはお皿に近づいていく。
その時だった。
「…何してるんだい?」
暗がりから声が聞こえたのは。
「ゆゆっ!だれだぜ!?どこにいるんだぜ?!」
自分以外誰もいないと思っていた家の中に他者の存在を認識したことで、
まりさはパニックになりかけた。
馬鹿な、人間はいないはず。
このまりささまが、しくじるなど…。
だが現に声がした。
まずい、まずい、まずい!
早く逃げ…。
まりさが素早く身を反転させ、逃亡を図ろうと決断しかけたとき、
月明かりが部屋に差し込み、その声の主は姿を現した。
そこにいたのは見たこともないゆっくりだった。
濃い紫みの青い豊かな髪をもち、背中には輪っかになった注連縄がついている。
そして黒い筒のようなものを4つ背負っていた。
そのゆっくりの後ろには、さらに二匹のゆっくりがいた。
鮮やかな緑色の長い髪に蛇のような飾りをつけたゆっくりと、
目玉のついた変な帽子をかぶった金髪のゆっくりである。
それぞれの飾りにはバッヂがついている。
飼いゆっくりであることは明白だ。
先ほどの食べ物はこいつらの餌といったところだろうか。
「ゆひぃ!ゆっ…ゆっくり…?」
いきなり現れたことにビクッ、と震えたものの、
相手がゆっくり、それも飼いゆっくりだと分かると、まりさが落ち着きを取り戻すのも早かった。
「ゆゆっ!おどろかさないでほしいんだぜ!
まりささまはかんだいでれいせいだからゆるしてやるけど、
ほかのゆっくりだったらそうはいかないのぜ!」
先ほどまでの怯えぶりを忘却の彼方へと押しやり、
まりさは胸(だからそんなもn(ry)を張った。
しかし対するゆっくりは無言のままだ。
「ゆぅ…?ゆっくりしていってね!」
「……」
やはり無言。
まりさがもしも、人間かそれに準ずる感性をもっていたのなら、
自分に向けられる険しい表情を察知できただろう。
しかしまりさはゆっくりだった。
こいつらはいったい何なのだろう。
さっきからずっと黙ったままだ。
挨拶すら返せないとは。
ひょっとすると、これがいわゆる「足りないゆっくり」なのだろうか。
きっとそうに違いない。
だから見たこともない変な姿かたちをしているのだ。
その頭のバッヂも中身の無いお飾りに違いない。
おお、あわれあわれ。
そしてこんな無様なゆっくりを飼っている人間も馬鹿だ。
おお、おろかおろか。
こんなクズどもに関わっている暇などない。
さっさとあまあまさんを探そう。
飼いゆっくりに対する嫉妬心と、人間に対する憎しみとがぐちゃぐちゃに混ざり合った負の感情を、
無意識のうちに根拠のない優越心へと昇華させたまりさが踵を返した時、
「待ちな」
青い髪のゆっくりが再び声を発した。
「ゆあん?」
まりさはうるさそうに振り返る。
「なんなのぜ?クズがきやすくまりささまにはなしかけていいとおもっているのかぜ?
みのほどをしr「黙りな」nて…ゆ?」
高説をのたまっているところに割り込まれ、まりさはいよいよ苛立たしさをあらわにした。
しかしまりさが罵倒の言葉を口にする前に、青い髪のゆっくりが喋りだした。
「いいかい、あんたは人間の家に勝手に上がり込んでいる。
さっきの音からすると、窓を割ったみたいだね。
まったく、何てことしてくれたんだい」
そう言ってからため息をつく。
「…でも、やってしまったことは仕方がないね。
このまま大人しく出て行くのなら、見逃してやるよ。
私たちも無益な殺生は好まないんでね。
何しろ今はまだ…」
「ふざけるんじゃないのぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
まりさの中で何かが切れた。
何だ?
こいつは何と言った?
見逃す?
それはこっちの台詞だ。
自分はゆっくりしているから心が広い。
命まで取るつもりはなかった。
だがそれもここまでだ。
あの世でゆっくり自分の愚かさを呪うがいい!
まりさの目の奥で、餡子が弾けた。
床を蹴り、突進する。
標的は青い髪のゆっくりだ。
一気に間合いを詰め、跳躍。
その間、僅か0.2秒という神速に青い髪のゆっくりの顔からも余裕が消える。
しかしその目が驚愕に見開かれる前に、まりさの鋭いボディプレスが直撃し、
青い髪のゆっくりは、そのまま物言わぬ饅頭と化した。
そこまでがまりさの思い描いていた未来であった。
実際にはたっぷりと2秒はかけてようやく青い髪のゆっくりの目の前に到着し、まりさは飛び上がった。
青い髪のゆっくりは動かない。
「しぬのぜっ!!!」
対する青い髪のゆっくりは驚いていた。
そのまま引き下がるだろうと思っていたまりさが、憤怒の表情で突っ込んできたのだ。
思わず体が反応し、現時点で自分が持つ最も強力な攻撃手段をとってしまった。
「もらったのぜぇぇぇっ!!!」
勝利を確信していたまりさの目の前に突き出されたのは、
あの黒い筒だった。
「ゆっ?!なにこr…」
直後、パンッ、という乾いた爆発音とともに、
まりさは激痛に襲われた。
「フンフフンフンフンフンフンフフーン♪」
狭いうえに、舗装されていないためでこぼこになっている道を自転車で走るのはなかなかにスリリングだが、楽しくもある。
思わず鼻歌を歌ってしまってから、今が夜の11時であることを思い出し反省する。
こんなだから上司や同僚に子供っぽいとからかわれるのだ。
ここに住み始めた当初は、バスと電車を乗り継いで職場に通うつもりだったし、実際そうしていたが、
ある日気まぐれで自転車を使ってみたところ、所要時間がそれまでの6時間から5時間に短縮できたので、
今では雨が降っていようが雪が積もっていようが自転車で通っている。
どうしてこんな所から都心に通っているの?馬鹿なの?とお思いの方もいらっしゃるだろうが、
何を隠そう俺の仕事と関係があって…、
っと、到着。
とりあえず一息つかせてほしい。
さすがに疲れた。
「ただいまー」
玄関に入り、靴を脱ごうとして手が止まる。
廊下の向こうから我が家の愛すべき同居ゆっくり、
目玉つき帽子の可愛いゆっくりすわこ、通称すわこさまと、
緑の髪の美しいゆっくりさなえ、通称さなえさんがやって来たのだ。
「あーうー…」
「お帰りなさい、お兄さん…」
えらく元気が無い。
「どうした?暗い顔して。具合でも…」
と言いかけておや、と気付いた。
怪我をしてはいないようだが、すわこさまとさなえさんの顔に何やら汚れが付いて…いや…これは…。
スッ、とその汚れのようなものを手にとって見る。
間違いない、餡子だ。
「これは一体…?」
我が家のゆっくりの中身は餡子ではないため、とりあえず安心する。
となると考えられるのは…。
「リビングです…、野生のゆっくりがしんにゅうしてきて…」
さなえさんが説明してくれた。
「なるほど、で、かなこさまがやっつけた、と」
すわこさまとさなえさんが頷き、俺たちはリビングへと向かった。
リビングには、同居ゆっくりであると同時に、
俺の仕事のパートナーでもあるゆっくりかなこ、通称かなこさまがいた。
かなこさまにも怪我がないのを確認しようとすると、
「お兄さん…。ごめんなさい…」
と、普段の快活で剛毅なかなこさまからは考えられないような暗い声で謝られた。
一体全体どうしたんだ、と思いつつかなこさまの視線の先に目をやると、
ゆっくりの死体があった。
黒い帽子と金髪から判断するに、どうやらゆっくりまりさのようだ。
「殺したことを気にしてるのか?それなら心配要らないぞ。
実は今日の会議で…」
しかし、かなこさまはまりさを見ているわけではなかった。
もっと上…俺もつられて視線を動かし…壁を見て時が止まった。
そこにはポスターが、額縁に入れて飾ってあった。
俺の生涯のベストオブベストオブベストと言っても過言ではないTVアニメ、
『魔法少女ゆうかにゃん』のDVDボックス初回限定版の特典ポスターであり、
今ではオークションでも手に入るかどうかといわれる代物である。
そのポスターの中央で、太陽のように微笑むゆうかにゃんの額には…ぽっかりと…穴が…ががっがくぁwせdrftgyふじこlp
「ゆうかにゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんん!!!!!!!!!」
お隣さんの話では、この時の俺の叫び声は両隣十軒にまで響き渡ったらしい。
その後、泣き出したすわこさまを宥めたり、責任を取って自決しようとするかなこさまを止めたりで、
俺たちは大騒ぎだった。
「とにかく、これは不可抗力で、どうしようもなかった訳で、かなこさまは悪くないから!
悪いのはこいつ!このまりさが悪いわけで…。
かなこさまが撃つのを躊躇って怪我でもしていたらそっちの方がショックだから!
いや、そもそも俺にとってはポスターよりも、お前たちの方がずっと大事だから!」
後々冷静になってから思い起こすと相当に恥ずかしい台詞であるが、
俺も気が動転していたのだ。
とにもかくにも、ようやく俺たちは落ち着いた。
時計を見ると、すでに午前2時を回っている。
かなこさまたちを休ませて、さてまずはまりさの死体を片付けようかとそちらに近づく。
それにしても…。
かなこさまの体長は俺の身長の約半分、90センチメートルである。
一番小さなさなえさんでさえ40センチメートルはある。
一方このまりさは精々30…、バスケットボールよりもほんの少し大きいくらいか。
勝てると思ったんだろうなぁ、やっぱり。
呆れつつもまりさに手を伸ばしかけた俺は驚愕した。
まりさはまだ生きていたのである。
どうやら仮死状態だったらしい。
「本当にしぶといな…。オンバシラをくらってまだ生きてるとは…」
ゆっくりかなこ種は「オンバシラ」と呼ばれるキャノンを持つことで知られている。
さらに、生まれ持ったキャノンのみならず、およそ火器の類は体のサイズにさえ合っていれば、
見事なまでに使いこなすのである。
ゆっくりうどんげ種と並んで、俺の職場で活躍しているゆっくりだ。
おっと。
そういえば、俺の仕事の説明をしようとしてたんだっけ。
それが醜態を晒してしまい…まあいいや、説明しよう。
俺の仕事は「自然保護官」、かっこよく言うなら「レンジャー」だ。
一応国家公務員である。
自然保護官というのは、読んで字の如く自然を保護するのが仕事だ。
従来はデスクワークが主な仕事で、頻繁に自然に干渉することなど出来なかったのだが、
「人間だって自然の一部なんだから積極的に干渉して何が悪い?」
というぶっ飛んだ意見にマスコミが飛びつき、
後は国民、政治家という流れであれよあれよという間に法改正が進められた。
そして、自然保護官は自然に介入する極めて強力な権限を持つようになったのである。
「自然環境の保全を第一の目的とし、妨げるものあらばこれを実力で排除する。」
これが俺たちのモットーだ。
その結果、当然といえば当然なのだが、
俺たちの最大の敵はゆっくりとなった。
そして俺は、対ゆっくり専門の保護官である。
有史以来人類が出会ったどの生命よりも謎に満ちた存在、ゆっくり。
3年前に突如として世界各地に現れたゆっくりに挑んだ数多の研究者たちの考察から、
今でこそ、人語を解する饅頭生命体ということでひとまず落ち着いているが…。
底なしの食欲、ネズミ算など足元にも及ばない繁殖力、本当に生物なのかと疑いたくなる生命力。
おまけに中途半端な賢さと、自己中心的な性格、他者をイラつかせる天性のセンスも備えている。
ゆっくりによって多くの生態系は破壊された。
昆虫や植物といった、小さく、移動手段を持たない生物は例外なくゆっくりの餌となり、その数を減らした。
そうなれば、他の生物にも多大な影響が出てくる。
今まで主食としていたものをゆっくりに取られ、ゆっくりを捕食するようになった生物は健闘したほうだ。
だが最終的には数の暴力と、「ドスまりさ」と分類される大型種の登場により、やはりその数を減らしていった。
いずれにせよ、ゆっくりが現れた地域の生態系は、
最悪の場合ゆっくりを中心としたものに書き換えられてしまったのだ。
近年では、世界各地で進む砂漠化の原因はゆっくりではないか、という研究データすら出てきている。
人間が今までやってきたことを棚に上げて、ゆっくりに憎悪を抱くというのも随分勝手な話だ。
しかし俺はこうも思う。
ゆっくりの出現は、ゆっくりを反面教師として自らを省みるよう、
人間に与えられたチャンスなのではないか、と。
事実、ゆっくりが現れてから、人間による環境破壊や紛争は減少の傾向を見せていた。
ここまで説明すると、ゆっくりがとてつもない害悪のように思われてしまうかもしれないが、救いもある。
それが、ゆっくりの研究が軌道に乗り始めた頃にその存在が確認された「希少種」と分類されるゆっくりである。
希少種とは、文字通りその絶対数が少ないことから名づけられたゆっくり種のことで、
環境破壊饅頭である「通常種」とは一線を画す存在である。
その大きな違いは心にある。
希少種は通常種と違い、相手を思いやる心を持っているのだ。
その他に優れている点としては、知能や体力、寿命など枚挙に暇がない。
飼いゆっくりや家畜、そして研究用として飼育されたり保護されたりするごく一部を除いて、
通常種は人間から疎まれ、憎まれていった。
それに反比例するかのように、
絶対数が少なく、理性的である希少種は親愛なる隣人として迎えられていった。
今では人間社会のあちこちで、幸せそうに暮らす希少種たちを見ることが出来る。
希少種たちからも、人間は多くのことを学んでいるのかもしれない。
さて、そんな世界で俺は自然保護官なんてやってるわけだが、
現在の任務はこの地域―居住区から10キロ離れた山岳地帯が準自然保護区に指定されている―の保全である。
1年ほど前から通常種ゆっくりの目撃情報が寄せられ、俺はパートナーと共に赴任してきたのだ。
そして毎日のように調査活動を行ってデータを集め本部へと提出した。
ここ数日は会議やら何やらで、本部と仮の住まいを行ったり来たりである。
薄給でえらいこき使われようだが、税金で希少種たちと一つ屋根の下で暮らせるのだから、
まあ、ありじゃないだろうか。
そして今俺の手の上で、
「ゆっ…ゆっ…」
と痙攣しているまりさ。
こいつも運のない奴だな、と思い、そう思った自分に苦笑した。
どうせ時間の問題なのだ。
俺たちが集めたデータから、この地域の自然環境とゆっくりたちとの共栄の可能性は、
9パーセントと算出された。
かつてないほどに高い数値だったが、それでもあまりに低い。
調査開始当初は、随分と穏やかなゆっくりたちの暮らしぶりに期待していた保護官たちも落胆した。
そして、このままではおよそ1ヶ月で、ゆっくりたちの勢力圏が希少動物たちの営巣地と衝突するとの報告が決め手となり、
今日の会議で「環境保護プログラム」の発動が正式に決定された。
早い話が、当該地域の通常種ゆっくりの殲滅である。
2日後、朝の6時に起床した俺たちは重装備を背負い、集合地点に向かった。
現地集合という、遠隔地に住んでいる保護官には悪夢のような任務だが、現地に住む俺には関係ない。
心配されていた天候も、予報どおりの快晴だ。
木々の間から漏れる朝日の光が眩しかった。
森の中をしばらく進むと、開けた場所に出た。
ここが集合地点で、すでに到着していた同僚たちが本部テントを設営している。
俺たちも手伝おうとしたら、横から声をかけられた。
「遅かったじゃない。あなたが一番近くに住んでいるのに、弛んでるわよ」
「まだ集合時間の2時間前なんだが…。お前こそ一番遠くに住んでいなかったか?」
「税金で最高の装備を使わせてもらって饅頭狩りができるのよ。
気合が入るのは当然じゃない。ねえ、ゆうか?」
「ええ、そうね、おにいさん」
そういって微笑み合う同僚とゆっくりゆうか。
お互い良いパートナーに恵まれている。
「あなたたちは今回の作戦の花形なんだから。
あたしたちの分まで頑張ってよね」
へいへい。
本部の設営が終わった頃には、今回の作戦に参加する全ての保護官とゆっくりが集合した。
訓示の後、俺たちは早速行動に移った。
俺とかなこさまは実働部隊として作戦に参加するが、
すわこさまとさなえさんは通信担当の補佐として本部に残る。
「ごぶうんを祈っております」
「あーうー!」
あいよ、と俺は軽く手を振って答え、かなこさまもそれに倣う。
総勢14名の保護官と、113体のゆっくりたちと共に、俺たちコンビも森へと足を踏み入れた。
作戦の概要はこうだ。
第一段階。
ゆっくりれみりゃやゆっくりふらん、きめぇ丸などをパートナーにした保護官たちが通常種ゆっくりの群れを追い立てる。
俺たちがゆっくりをパートナーにしているのは、その優れたゆっくり探知能力によるところが大きい。
餅は餅屋、といったところか。
ついでに言うと、この地域に希少種と危険動物がいないことは確認済みだ。
第二段階。
恐慌によって群れが散り散りとなった時点で、第一陣はいったん引き上げる。
これはドスまりさを警戒するためであり、
さらには群れを守ろうとするドス特有の性質を利用し、通常種ゆっくりをドスのもとに一極集中させるという狙いもある。
第三段階。
あらかじめ捕獲しておいた群れのゆっくりを使い、ドスもろとも群れを予定ポイントまで誘き寄せる。
第四段階。
罠にかかった群れを掃滅する。
第五段階。
後片付け。
単純だが、それゆえに手堅い作戦だった。
森の中はゆっくりたちにとっての楽園、ゆっくりプレイスだった。
食料となるきのこさんやおはなさんやむしさんは豊富にあり、毎日どれを食べようか悩むくらいだった。
自分たちゆっくりよりも大きい生き物はおらず、安心して遊んだり狩りに出掛けることが出来た。
「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇえぇぇぇ!!!」
「おちびちゃんたち、たくさんあるからいっぱいたべてね!」
「ごきげんようぱちゅりー!きょうもとかいはないちにちね!」
「むきゅ!そうね、ありす」
「ゆっくりかりにいってくるよ!」
「「「「「おとーしゃんいってらっしゃい!!!!!」」」」」
ゆっくりたちは皆、この素晴らしくゆっくりした日々がいつまでも続くと信じて疑わなかった。
「うー!みつけたー!」
見たこともないゆっくりが、突然茂みから飛び出してくるまでは。
「れみりゃがいちばんのりー!」
それが楽園の終焉を告げる合図だった。
「うー!」
「うー!ゆっくりしね!」
「き・めぇ・丸!う・ぜぇ・丸!」ヒュンヒュンヒュン
「「「ゆぎゃあああぁぁぁ!ごないでえええぇぇぇ!!!」」」
作戦開始からものの5分で、森の中は(通常種にとっては)阿鼻叫喚の様相を呈していた。
何しろ今まで見たこともなかったであろうゆっくりたちが突然襲い掛かってきたのだから無理もない。
「ぎゃおー!たべちゃうぞー!」
「れいみゅはおいぢぐにゃいよぉぉぉ!!!」
「しねっ!しねっ!」
「やべでええええええぇぇぇぇぇ!!!」
「毎度おなじみ、きめぇ丸です」ヒュンヒュンヒュン
「おなじみじゃないいいいいぃぃぃぃぃ!!!」
保護官たちも一緒になって追い立てる。
「とっとと逃げんと潰しちまうぞ!」
通常種たち―ゆっくりれいむとまりさが殆どで、それにありすとぱちゅりーが少々―は悲鳴を上げてひたすら逃げ惑う。
ついさっきまで、ここは最高のゆっくりプレイスだったのに、
ゆっくりできないやつらが現れたせいでゆっくりできなくなってしまった。
いやだ、いやだ、ゆっくりしたい!
そうだ、こんな時こそドスに助けてもらえばいいのだ!
ドスがいればもう大丈夫!ドスのところへ行こう!
恐怖のどん底に差し込んだ希望の光は一気に増幅される。
途端に気の大きくなった1匹のまりさが高らかに宣言した。
「どすがきたらおまえらはみなごろしだよ!
ゆっくりぷれいすをこわしたじじいはしね!!!」
「誰がジジイよっ!この糞饅頭っ!!!」
罵倒された保護官がまりさを蹴り飛ばす。
茂みに突っ込んでもなお勢いを殺すことなく吹っ飛び続けたまりさは大木に激突し、
「ゆぐぇばっ…!!!」
大量の餡子を吐き出した。
「んもうっ!失礼しちゃうっ!」
「おにいさん、おちついて」
パートナーのゆうかが宥める。
第一段階において、ゆっくりを殺傷することは好ましくない。
後片付けが面倒になるし、何かのはずみで貴重な動植物を傷つける恐れもあるからだ。
「やだっ、あたしとしたことが…」
「きにしないで、あんなこといわれたらむりないわ。それよりも…」
そう言って、ゆうかは茂みの奥で這いずりながらも逃げようとするまりさを見やる。
「そうね、こいつをこのままには出来ないわね」
保護官とゆうかは微笑んだ。
死なないように、さりとてゆっくりもできないように微妙に加減しつつ予定のラインまでゆっくりたちを追い立て、
ゆっくりたちが森の奥深くに逃げ込んでいくのを確認した時点で、
第一陣は撤退を開始した。
そのうちの1人、ゆうかを連れた保護官の手には袋が握られており、
中には凄絶な表情を浮かべて事切れたまりさが入っていた。
本部にいるすわこさまたちからの連絡によると、第一陣は派手にやっているようだ。
ゆっくりたちの叫び声がここまで聞こえてくるような気がする。
俺たちの出番は第三段階からなので、すでに予定ポイントに罠を仕掛けて待っていた。
ここには長い年月をかけて浸食されたU字谷が、およそ10キロにわたって伸びており、
谷底の高度も30メートルはある。
そしてその行き止まりには、かつて湖があった空間がぽっかりと広がっていた。
草木は1本も生えていないが、準自然保護区の近くだけあってなかなかの絶景だ。
そしてこのU字谷の上、入り口から1キロの地点に俺たちはいた。
俺を含む保護官3名とそのパートナー、ゆっくりかなこやうどんげが谷を挟むように待機している。
時刻は正午を回ったところで、作戦開始から3時間が経過していた。
この作戦の要とはいえ、出番が来るまでは暇を持て余してしまう。
俺がうどんげと砂山崩しに興じ始めて(うどんげは胴付きである)20分が経った時、
上空で哨戒任務にあたっていたきめぇ丸から通信が入った。
「こちらきめぇ丸2。ゆっくりの群れはドスまりさに完全に合流し、
ポイントM−9に向けて移動しています。
ドスまりさの数は3、それ以外はおよそ1000。
ドスの体長は、一番大きいのが5メートル、小さいので3メートルです。
おお、オーバーオーバー」
事前調査の数とも合致する。
この地域に生息する全てのゆっくりが集合したと見て間違いないだろう。
にしても、何てこった、峡谷の入り口のすぐ近くじゃないか。
ラッキーだ、早速第三段階発動といこう。
「了解、状況を開始する。通信終わり」
短い通信を終えると、俺は背負ってきたリュックサックの中からあるものを取り出した。
強化プラスチックの箱に入った、先日の不法侵入まりさである。
あの後、俺はこいつを治療して、この作戦に協力するように説得もとい強制して連れて来たのだ。
生への執着の強さにかけては、他のどのゆっくりをすら凌駕するといわれるまりさ。
その点を突けば容易にコントロール出来た。
「予定とは少し違うがむしろ好都合だ。
まりさ、谷の入り口にいるドスたちをここに呼ぶんだ。」
俺の言葉にビクッ、と震えたものの、まりさは大人しく従った。
スゥーッ、と大きく息を吸い込み、谷に向かって叫んだ。
「どすうぅぅー!みんなあぁぁー!
ここにはへんなやつらもいないからとぉーってもゆぅーっくりできるよおぉーっ!!!
はやくおいでよおぉーっ!!!!!」
1キロも離れているのに聞こえるわけないだろ、と突っ込まれるかもしれない。
確かに通常種のゆっくりたちには聞こえないだろう。
だがドスには聞こえるのだ。
ドスが群れを守るための能力の一つとして、ゆっくりの声に極めて敏感なことが知られている。
最長で2キロ先のゆっくりの声を感知したという記録があるのだ。
今回はその半分の距離である上に、谷に声が反射してより届きやすくなっている。
その能力を逆手に取らせてもらうぞ、ドス。
ドスまりさたちは困っていた。
ゆっくり出来ない奴らにゆっくりプレイスが奪われた、と群れの全てのゆっくりたちがドスたちのもとに逃げてきたのだ。
ひどい恐慌状態で、中には餡子を吐き出すゆっくりまでいた。
こんな経験は初めてだった。
この森にはゆっくりにとっての天敵が存在せず、平和な日々を送っていたドスたちには、
戦うという選択肢はなかった。
どうしよう、みんなをゆっくりさせてあげたい。
でもどうすれば?
ゆー、だの、やー、だの好き勝手に騒ぎ立てる普通サイズのゆっくりに囲まれて、ドスたちは途方にくれていた。
その時、
「ゆっ!」
短い声を上げドスが顔を上げた。
「むきゅ?どうしたの?どす」
側にいたぱちゅりーが尋ねる。
それには答えず、ドスたちは互いに目を合わせ頷いた。
そして一番大きなドスが、群れのゆっくりたちに伝える。
「これからみんなをゆっくりぷれいすにつれていくよ!」
群れに歓声が響き渡った。
双眼鏡をのぞき、うさぎそっくりの耳をピンと立てていたうどんげが、
峡谷の中をこちらに向かって移動してくるゆっくりたちの姿を補足した。
「たいちょー、ほーこくどおりドスが3体とふつーサイズが数百体、
きょーこく内にしんにゅーしてきました。
距離は500ヤードです」ケラ
よし、と頷き速やかに指示を出す。
「モリヤ1より各員へ。配置に付け」
洗練された動きで準備が整えられていく。
俺もまりさをリュックサックの中に戻すと、リュックサックとは別に持ってきたケースを開ける。
取り出したのはライフルだった。
ゆっくりに対して銃など、過剰装備もいいところだが、
そんなことが言えるのは相手が普通サイズだった場合のみだ。
ドスまりさは見た目どおりのパワーとタフネスを持ち、
見て目からは考えられないほどのスピードを備えている。
さらに口から「ドススパーク」なる熱線を発射することも出来る極めて危険な相手だ。
ドスまりさが出現した当初は、接近戦による駆除が試みられたが、手痛い反撃を受けてしまった。
その苦い経験を教訓として、味方の被害をゼロにするために俺たちが出した結論が、銃の使用だった。
ライフルに弾を装填し、伏射姿勢をとる。
俺の左10メートルでは、オンバシラを24ミリ機関砲に換装したかなこさまが射撃姿勢をとり、
右を向けばうどんげが俺と同じように伏射姿勢をとっていた。
何も知らないドスと群れは順調に近づいてくる。
上空からの監視によって、ゆっくりの動きは完全に把握されていた。
目視できる普通サイズの数が当初の報告よりも若干少ないのは、ドスの帽子の中に入っているからだ。
「第一目標はドスだ。コマいのには構うな。
モリヤは先頭の、ヤサカは左翼の、コチヤは右翼のドスを狙え。
合図があり次第斉射しろ。合図があるまで絶対に撃つなよ」
「ヤサカ1、了解」
「コチヤ1、了解です」
「こちらモリヤ2、まかせとくれ!」
「モリヤ3、りょーかいです、たいちょー」ケラ
ドスたちは前進を続け、ついに俺たちの真下にやって来た。
先頭のドスが停止し、辺りを見回す。
「ゆう…。このあたりだとおもったんだけど…」
次の瞬間、
「撃て!」
6丁のライフルと12門の機関砲の先から閃光が走り、轟音が響き渡った。
「ひゅぃぐべっ…!」
「ぷぎょっ…!」
「ごっ…!」
突然襲った衝撃に、反射的に悲鳴を上げるドスたち。
遅れてやって来た、生まれて初めて味わう激痛によって精神が崩壊する直前、
ドスたちは、爆ぜた。
俺たちが使用しているのはホローポイント弾と呼ばれる特殊な弾丸だ。
こいつには弾頭を窪ませる処理がしてあり、標的に命中すると内部で変形し、多大なダメージを与えることが出来る。
特にゆっくりのように中身がやわらかいものが相手だと、
その威力は…まあ見ての通りだ。
発射された全87発が悉く命中し、その運動エネルギーは最大限の効果を発揮した。
目の前でドスが餡子と皮の塊と化し、ゆっくりの群れは再び恐慌状態に陥った。
ドスの帽子に入っていたゆっくりたちは、土台を失って地面に叩きつけられ、
ドスの近くにいたゆっくりたちは、ドスの餡子を全身に浴び、
そのどちらでもないゆっくりたちは、現状を認識できず固まっていた。
「いぢゃいぃぃ!なにやっでるんだぜどずぅぅぅ!!」
「れいみゅのきゃわいいおきゃおがよごれちゃあぁぁぁ!!!
おきゃーしゃんぺーろぺろしちぇえぇぇぇ!!!」
「ゆ…?どす…?どこにいったのぉ…?」
ドスは仕留めた。
ドスを失ったゆっくりの群れなど脆弱な存在で、右往左往するその姿には哀れみを感じる人もいるかもしれない。
だが俺たちは容赦なく撃ちつづける。
谷底には土煙が舞い上がり、硝煙と餡子の匂いが立ち込めた。
鼻がムズムズしてきたが、それでも俺たちは射撃を重ね、
物言わぬ饅頭を大量生産する作業に熱中した。
「れいぶぅべらっ…!」
「ばりずぇあっ…!」
「おぎゃざぁっ…!」
「おぢびぃぇあっ…!」
ドスまりさほどの大きさになると、ライフルの一撃で倒すことは困難だが、
普通サイズのゆっくりたちは容易に吹き飛んでいく。
特にかなこさまたちの機関砲の威力は絶大だ。
1秒毎に、大量の餡子の花が咲き乱れた。
「やめてあげてね!いたがってるよ!!!」
そう叫んでいたれいむは痛みを感じる暇も無いまま弾け飛んだ。
「むぎゅうぅぅぅ…!」エレエレ
ぱちゅりーは精神負荷が限界を突破し、中身を吐き出して絶命した。
「おちびちゃん…まりさ…とっても…とかいは…」
家族の死をまざまざと見せつけられ放心していたありすは、その直後自分の下半身とも永遠にさよならした。
次から次へと仲間たちが死んでいく中で、多くのゆっくりはただ死を待つだけだったが、
この屠殺場から逃げ出そうとするゆっくりもいた。
「ゆひぃっ!ゆひぃっ…!まりさはゆっくりにげるよっ!!!」
「まっでえええぇぇぇ!でいぶもづれでいっでえええぇぇぇ!!!」
さすがに1000匹もの大群を俺たちだけで殲滅することは出来ない。
弾も切れそうだし、残りは下にいる別働隊に任せよう。
「撃ち方やめ!別命あるまでこの場で待機する」
「了解。ふぅ、終わったぁ…」
「ここまで派手なのは久しぶりだったね、お兄さん!」
「へくちっ…。」ケラ
逃げ出したゆっくりたちは、峡谷の入り口へ向かったものと、行き止まりへ向かったものに分かれたが何の問題もない。
どちらに逃げても同じ運命を辿るのだ。
峡谷の入り口の方、すなわちもと来た方へとへ逃げていったゆっくりたちはおよそ30匹だった。
れいむを先頭に、底部が傷つくのにも構わず必死の形相で跳ねている。
「みんなっ!いそぐよっ!」
この若いれいむにはリーダーの資質というものがあったのだろう。
将来は立派なゆっくりになったかもしれない。
存在しない未来のことなど考えても意味はないが。
れいむたちの前方10メートルに、またしても見たことのないゆっくりがいた。
銀色の長髪に紅白のリボンが幾つかついている。
こいつもゆっくりできないやつかっ…!
れいむは警戒する。
だが、その一匹以外には何も見当たらない。
ならばいけるっ…!
れいむは一気に襲いかかった。
そしてあと1メートルというところにまで迫ったとき、
「もこたんINしたお!」
銀髪のゆっくりは炎を吐き出した。
このゆっくりはゆっくりもこうと呼ばれ、
体内に火炎袋を持つこと、そして1千℃の熱にも耐えうる体を持つことで知られている。
れいむはその火炎放射を真正面から浴びた。
「…!」
叫び声すら上げる間もなく、炎に包まれたれいむのりぼんが、もみあげが、髪が、顔が、溶けて一つになり、
それでもなお炎はれいむだったものを燃やし尽くし、
もこうが炎を吐くのを止めた時には、そこには何もなかった。
いや、地面に僅かばかり付いた煤のようなものが、れいむがそこにいたことを物語っていた。
れいむの後ろにくっついて来ていたゆっくりたちも無事では済まなかった。
顔面が溶け、激痛にのた打ち回るもの。
髪や飾りに炎が燃え移り必死になって消そうとするもの。
逃走の意志などとっくに砕かれていた。
そんなゆっくりたちに近づいていくもこう。
「ふじやまぼるけいの!」
1分後、焼き饅頭としてこの世にとどまることすら出来ずに、ゆっくりたちは消滅した。
一方行き止まりの方へと逃げていったのも、やはり30匹ほどのゆっくりで、
こちらも死に物狂いで跳ねていた。
「ばりざざばをゆっぐりざぜないぶのうなどずはじねぇぇぇ!!!」
「でいぶばじんぐるばざーなんだよ!?がわいぞうなんだよ!?
ざっざどだずげでね!!!」
好き勝手なことを喚き散らしながらも、なかなかの速度で逃げ続けるゆっくりたち。
だが悲しいかな、そっちは行き止まりである。
10キロ近い距離を逃げ続けて、行き止まりだったことを知ったゆっくりたちの絶望はどれほどのものだろうか。
とはいえ、そんな茶番に付き合う気などさらさらないものたちが、そう遠くない所で待ち構えていたわけだが。
「じゃじゃーん!」
「やっぱり、こっちにも来るのですね…」
「いいじゃないか、わくわくしてきたよ!」
赤い髪を左右で三つ編みにし、黒い猫耳とリボンがアクセントになっているゆっくりおりんと、
薄い紫の髪に、目玉のような飾りをつけているゆっくりさとり、
そしてさらに、金色の髪に額から生えた角が特徴のゆっくりゆうぎである。
「おりん、私たちが前に出ますから、後は落ち着いて、訓練どおりにね」
「はい!さとりさま!」
さとりとゆうぎが迎撃の態勢を整えたところで、30匹のゆっくりたちがやって来た。
「ゆううっ!?またへんなのがいるよぉぉぉっ!?」
「いやじゃあああっ!ゆっぐりしだいぃぃぃっ!!!」
目先の恐怖から逃げ出したくて、引き返そうとするゆっくりたち。
「まつんだぜっ、みんな!」
それを1匹のまりさが止めた。
「なにいっでるのおおおぉぉぉ!?ばやぐにげないどごろざれぢゃうよおおおぉぉぉ!!!」
「もどってももっとひどいめにあうだけなのぜ!
どすたちがやられたのをおぼえてないのかぜ!?」
「「「ゆゆっ!!!」」」
このまりさも反対方向に逃げていったれいむ同様、多少は頭の働くゆっくりらしい。
確かにあの殺戮空間に比べれば、たった3体のゆっくりのほうがはるかにマシだった。
「みんなっ!まりさについてくるのぜっ!!!」
得体の知れないゆっくりに向かって駆け出すまりさ。
その姿を見て、他のゆっくりたちの中にも希望が芽生えてきた。
なんて賢くて勇敢なまりさだろうか。
いつの間にか消えてしまった無能なドスなどよりずっと頼りがいがある。
このまりさについて行けば自分たちはもう大丈夫。
よかった、本当によかった。
われらの英雄、まりさ!
ばんざい、まりさ!まりさ、ばんざい!
「ぴぎげばっ…!」
ゆっくりの英雄まりさ。
ゆうぎの角の一突きにて死す。
「ばり…ざ…?」
呆然とするゆっくりたち。
さとりはその隙を逃さずに素早く近づいた。
ゆっくりたちがハッ、と我に返った時、さとりは目の前にいた。
「ば…」
「『まりささまはえらい』のですか、そうですか」
「で…」
「『れいむはしんぐるまざー』なんですか、そうですか」
「ご…」
「『こんなのとかいはじゃない』ですか、そうですか」
「ど…」
「『どうしてせりふとっちゃうの』ですか。すみませんね、これが性分なのです」
「ゆ…」
「『ゆっくりしないでしね』ですか。
奇遇ですね、私も同じことを考えていました」
その瞬間、さとりの後ろからゆうぎが現れる。
そしてまりさたちは悲鳴を上げる前に、ゆうぎの一突きによって絶命した。
さとりは心を読むことの出来るゆっくりである。
特に相手がゆっくりならば、その思考の100パーセントを把握することが出来た。
さとりがゆっくりたちの動きを封じたところを、ゆうぎが一撃で屠る。
即製の組み合わせとは思えないコンビだった。
「正面からぶつかるのが好きなんだけどねぇ」
「今回は我慢してください…おりん、準備はいい?」
10匹ほど片付けたところで、さとりはおりんに呼びかけた。
「はい!さとりさま!」
おりんはぴょん、と飛び跳ねると高らかに宣言した。
「おりんりんランドかいえんだよー」
谷の入り口の方へ向かったゆっくりたちは、もこうの活躍によって全滅したとの報告を受け、
俺たちはさとりたちの援護…というよりは検分に向かった。
そこではまりさがれいむを、れいむがありすを、ありすがまりさを食い殺すという光景が展開していた。
「ばりざあああぁぁぁ!!!やべでえええぇぇぇ!!!」
「どぼじでごんなごどずるのおおおぉぉぉ!?」
「じねええぇぇ!ありずばじねえええぇぇぇ!!!」
「「「…」」」
襲われているゆっくりが力の限り叫びまくるのに対し、襲う方は無言のままだ。
そしておりんが嬉しそうに指示を出している。
おりんの能力、それは損傷の少ないゆっくりの死体を「ゾンビゆっくり」として操ることができることだ。
その能力がこの仕事にどの程度活用できるかを確かめるため、
ベテランのさとりとゆうぎがサポートについて初の実戦に参加していたのだが、結果は上々のようだ。
最後の1匹であるれいむが息絶えて、こちらに逃亡してきたゆっくりも全滅した。
残るは俺の腕の中のまりさただ1匹だった。
万が一を考えて生かしていたが、必要なかったな。
「ど…じで…」
ん?
「どぼじでごんなごどにぃ…?」
絞り出すような声で、素朴な疑問を口にするまりさ。
あれだけ大勢いた群れの仲間たちが自分だけを残して全滅したのだ。
無理もない。
「まりざだぢ…ゆっぐりじでだだげなのにぃ…」
まあ、そうだろうな。
でもお前たちがゆっくりするために、他の多くの生き物が犠牲になるんだよ。
仕様がない。
「…ぇ」
ん?
「じねぇ…。ゆっぐりじないでじねぇ…」
「許しは請わんさ。恨んでくれ」
そして俺は、まりさを一撃で踏み抜いた。
ピンク色の髪と水色の帽子がトレードマークのゆっくりゆゆこたちが、
ぐちゃぐちゃに積み重なった饅頭の山を平らげていく。
「こぼね!こーぼねっ!」ハフハフ
弾丸などの金属もその食欲の敵ではなく、綺麗さっぱり片付けてくれる。
「モット…ユックリ…シタカッ…タ…」
「ゆゆこがおりんのゾンビたべちゃったぁぁぁ!!!」
「また新しいの作らせてあげるから我慢しなさい」
ちょっとした騒ぎはあったが、無事に片付けを終え、
30分後、俺たちは本部へと帰還した。
全員無事、作戦完了だ。
本部に帰った俺たちを真っ先に出迎えてくれてのは、
すわこさまとさなえさんだった。
「あーうー!」
「お帰りなさい、お兄さん!かなこさま!」
時刻は午後5時、作戦開始から8時間が経過していた。
俺もかなこさまも疲労困憊だったが、すわこさまとさなえさんの笑顔でたちどころに回復する。
やはり天職だ、これは。
同僚たちもパートナーのゆっくりとの談笑を楽しんでいた。
やがて解散式が始まり、家に帰るまでが任務である、との言葉で上司が解散を宣言した。
今日のところはこのまま解散で、書類の処理なんかは後日になるんだが、弾薬費の清算とか面倒くさいな…。
そんなことを考えていると、本部テントから騒がしい声が聞こえてきた。
「おいィ?みんな、ひんじゃくゆっくりをいじめてないでこのいっきゅうゆっくりであるてんこをいじめるべきでしょう?
このままではてんこのじゅみょうがストレスでマッハなんだが・・」
今日も今日とて出番の無かった衛生担当。
その補佐である、看護服を着たゆっくりてんこが駄々をこねていた。
やれやれ。
帰り道、俺は今後のことについて思いを巡らせた。
この地域のゆっくりが全滅した以上、俺たちの異動は間違いない。
今度はどこになることやら…。
まあ、どこだろうとこいつらと一緒ならば楽しくやっていけるだろう。
俺はかなこさまたちの方に振り返った。
「お前たち、今日の晩御飯は何にする?」
(了)
あとがき
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
楽しんでいただけましたら幸いです。
ご意見・ご感想などありましたら、是非お聞かせください。
ゆ虐の先達に敬意を表して
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- もこたんーーー -- 2018-09-19 10:47:05
- オカマが居たような...気のせいだよね? -- 2017-01-15 23:02:36
- ゲスは制裁!希少種最高! -- 2016-12-25 09:54:22
- おりん飼いたいわー -- 2016-09-28 14:58:26
- ↓納得 -- 2016-08-30 07:43:14
- 神奈子様のオンバシラの破壊力を上げてみて 理由はゲスが大嫌いだから -- 2016-07-07 00:14:56
- 最高にヒャッハーな気分じゃおー!!\(*^▽^)/ -- 2016-06-19 21:40:49
- 希少種愛でさいこー
百はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ -- 2016-06-10 22:37:33
- 希少種優遇モノ大好き -- 2016-05-10 02:18:03
- すごくゆっくりでにるssなんだねーわかるよー -- 2016-04-09 12:11:36
- これさいっこう!ヒャッハー!
-- 2014-12-30 16:31:53
- さとりまじさいこう
-- 2014-10-20 23:16:02
- 俺のオンバシラは世界一!!!!!!!!!!! -- 2014-06-08 22:12:40
- ぶろてんがいるぞ -- 2014-03-01 13:09:47
- ゆっくりは、虐待する物Wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
-- 2013-12-15 18:54:01
- 知ったか乙w -- 2013-10-29 20:47:47
- 「•希少種だけ特別優れてて全ての能力が通常種より上って考え方はゆっくりできない 」
は?そんなわけがない。 -- 2013-09-07 18:10:47
- ↓↓細かいことを気にしていたら SSは読めないぞ?
蛇足だけど、500ヤードの射撃でスポッターを付けない場合もある
知ったかぶりは良くない
因みに、転勤や部署が変わるのは“異動”で合ってるよ -- 2013-08-18 01:24:40
- ↓リアリティの求めすぎはつまらない
そんなこと言うなら自分で書け -- 2013-07-18 07:30:52
- 弾もきれそうだしって......
普通弾は余分にたくさん持っていくんじゃないの?
それに500ヤードの射撃でスポッターが役目を果たしてないってどういうことなのwwwwww
ニワカ軍オタかなにか? -- 2013-05-20 00:06:52
最終更新:2009年10月26日 18:09