ふたば系ゆっくりいじめ 451 俺が、ゆっくりだ! 9

俺が、ゆっくりだ! 9 22KB


『俺が、ゆっくりだ! 9』





・「俺がれいむでれいむが俺で」的設定です

・俺の考えたことは、ゆっくりでもわかる語彙であれば自動的に翻訳されてれいむが喋りやがります

・見た目、性能はゆっくり、頭脳は人間です

・「その8」を読んでいないとよくわからないかと思われます









十六、

「ゆっくりしていってね!」

『「「ゆっくりしていってね!」」』

「ゆ~、よくねたのぜ」

「わかるよー…きもちいいあさなんだねー」

『ゆっくりごはんさんむーしゃむーしゃするよ』

「むきゅっ。みんなでむーしゃむーしゃしたら、きのうのつづきをがんばりましょう!」

『「「ゆっくりりかいしたよっ!!!!」」』

 …。

 ………ッ?!

 いや、ちょ、待っ…。うわああああああああああああああああああああああ!!!!

『ゆわああああああああああああああああああああああ!!!!』

「むっきょおぉぉぉぉ??!!!」

「れいむ!!どうしたのぜっ?!ゆっくりおちつくんだぜっ?!」

「まりさー!ぱちゅがえれえれしてるんだねー!!!」

 今、俺、ほぼ、ゆっくりだった!!!!限りなくゆっくりに近い何かになってた!!!!感化されすぎだろ、オイ!!
普通に朝食にキノコ出されたから、普通に何も疑問に思わず団欒しちまったじゃねーか!!!!あぶ…あぶねぇ!危なす
ぎるだろ、マジで。

「ぱちゅうぅぅぅぅぅ!しっかりするのぜぇぇぇぇぇ!!!」

 げっ…ゲロ袋が白目剥いて、クリーム吐いてやがるっ!!!朝からとんだハプニングだな…!…俺のせい、だけどよ。

『ゆっ…ぱちゅりーがなかみをはいてるよっ!あさからゆっくりたいへんだねっ!!』

 久しぶりにナメた翻訳してくれやがった!この腐れ饅頭型自動翻訳機がああああああぁぁぁぁぁっ!!!!

「れいむのせいでしょおおおぉぉぉぉぉぉ??!!!」

 返す言葉もない。

「む…むきゅっ、むきゅっ」

 あ、起きた。良かった。死んだかと思った。

「れいむはたまにおかしくなるけど、いまのはいくらなんでもおかしすぎなのぜ」

「れいむー?ぐあいがわるいならちぇんにもおしえてねー?」

『ゆっ…な、なんでもないよ!』

 そんなに心配そうな目で見ないでくれ。逆に恥ずかしい。本当になんでもないのに、周りがやたら心配して事が大きく
なったりしたときって、もうどうしようもないくらいやりづれぇんだよな…実際。いや、それより…

『ゆっ!そんなことよりぱちゅりーをやすませてあげようねっ!』

 俺が言うのもかなり、おかしな話だが言わないことにはゲロ袋が自滅してしまいそうだったから、言わざるを得なかっ
た。目覚めたばかりのぱちゅりーをすぐさま横にして、看病を始めるまりさとちぇん。本当に仲間を思いやる気持ちは、
人間顔負けだな…。馬鹿だけど人情には熱いのがゆっくりだからな。その人情の熱さを利用して、苛めぬくのがまた最高
に快感なんだが。

 ふむ…この森に来てから、“俺”も含めてこいつら働きっぱなしだもんなぁ…。ぱちゅりーはもちろん、まりさもちぇ
んも…昨日は気づかなかったが、疲労の色が濃い。確か今日は土曜日のはず。この姿になったのがちょうど月曜日だった
から…うわぁ…長いことゆっくりやってんなぁ、俺。笑えねぇ。ふむ…。

『きょうはいちにちゆっくりしようね!』

 1日、ゆっくり。この言葉はまりさとちぇんにとって、まさに魔法の言葉だった。1日中…ゆっくりする。それは野良
ゆっくりになってから、1度たりともできなかったことだ。

「ゆ…ゆゆゆ…ゆっくり~~~~~~~!!!!!」

「わかるよ~!ゆっくりできるんだねぇ!!!!」

 饅頭共も嬉しそうで何より。まぁ、どうせゲロ袋の看病で1日終わるんですけどね。休日出勤、乙。




 そんなこんなで、ようやく顔色のよくなってきたぱちゅりーがすぅすぅと寝息を立てている。すぅすぅと寝息を立てて
いるのに、

「すーや、すーや…」

 口ずさんでいる。ある意味、本当に器用なことを平然とやってのける生き物だな、こいつらは。巣穴の外からは、

「ちょうちょさん!まってね!ゆっくりまりさにたべられてね!」

 まりさが蝶々を追いかけまわしているのか、能天気な声が聞こえてくる。ちぇんも欠伸をしながら、

「のーびのーびするんだねー」

 普段の顔(体?)の2倍くらいに伸びやがった。やっぱこいつら化け物だわ。そっちのほうが「ぷくぅ」より効果ある
んじゃないか?

 しかし…切羽詰まってるときはともかく…ゆっくりしているときの、ゆっくりってのは…なんというか…本当に…馬鹿
だな。あんまり馬鹿なことやってるから、ついつい殺したくなってきちまったぜ。まぁ…こいつらにはそんなことはしな
いけどよ…。甘くなったもんだぜ、ホント。…ゆっくりすればするほど、馬鹿になる。これで論文書けないだろうか?

 明日、1日かければ野菜畑の体裁はできあがるだろう。それが終われば次は川の水を畑の近くに引く。植えた野菜の種
に水をやるには、ちょっと遠いからな…。水場としてはかなり近くにあるんだが…。ちょっとでも便利さを求めるために
動く、って思考回路は饅頭共にはないだろうから…。指示を聞いてくれるだろうか?まぁ、聞かなかったらそんときゃそ
んとき。最悪、1人でもできるさ。

 人間のときだとすぐ二度寝とかするのに、この姿になってからというもの、早寝早起きが徹底されている気がする…。
本能的にというかなんというか…。それ以前に夜更かしする理由がないのもあるかもな。暗くて何も見えないし、単純に
毎日疲れ切ってる、っていうのもある。

 暇だな…。散歩がてら川の水をどこから引くか考えに出るか。

『ゆっ。れいむ、おさんぽにいってくるね!』

「わかったよー!きをつけてねー!」





『ずーりずーり…』

 この行動を声にする、っていう機能も結局謎のままなんだよなぁ…。底部…つまり、あんよを這わせながら森の中を
移動してるのに、皮が破れないのはどういう理屈だ?アスファルトの上を歩いてたときは、すぐに痛くなったのに。…
ま、まさか…皮が強くなってきてんのか?そりゃ裸足で歩けば足の裏は鍛えられたりするけど…。…っと。さすがに傾
斜を這って登っていくのは無理だな。…この後、“俺”はこう言うだろう。“ぴょんぴょんするよ”と。

『ぴょんぴょんするよっ!』

 はい、正解。初めてジャンプして移動するのを覚えたのは、母さんから逃げるときだったか…。あのときは焦ったな
ぁ…本気で死ぬかと思ったよ…。

 ………え?





「としあき!頼むから落ち着いてくれ!!!」

「もうやだぁ!おうちかえるぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

「だ、だから家に帰る、って言ってるのに…っ!!!」

 な…ん、だと?…嘘だろ…?あれは…父さん…?車もある…し。見えにくいけど、助手席に座ってるのは…母さん?

『ゆ゛?ゆ゛?ゆ゛?ゆ゛?』

 登り切った小高い丘の下に、俺の姿になっているのであろう“れいむ”がいた。予想はしていたが、なんてザマだ。
れいむの姿の“俺”が人間としての尊厳を守ろうと必死に頑張っていたというのに、あのクソ饅頭はどうだ。明らかに
ゆっくりじゃねぇか…。ていうか、どう見てもあれは俺の姿をした廃人です、本当にありがとうございました。

「いい加減にしろ!!!!!」

 乾いた音が俺の耳に届いた。凄まじい平手打ち…。父さん…ゆっくりを潰したくなる気持ち…少しでもわかってくれ
たかい?でも、あんまり俺の体を叩いてやるなよ…。元に戻った時、すげぇ痛そうだから。

 …なんて、言ってる場合じゃない!とりあえず、あのクソ饅頭とコミュニケーションを取らないことにはどうにもな
らん!実の父親が目の前に立ちふさがっているのが非常に恐ろしいが。

 慌てて、丘を駆け降りる。

『ゆっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ!』

 千載一遇。どうやって、“れいむ”と接触しようか考えていたが、まさか向こうの方からやってくるとは思わなかっ
た。このチャンスを逃してしまったら…一生、この姿のままでいることになるような気がする。それだけは…あっては
ならないことだ。

 もう、“れいむ”と父さんは目の前だ。深く深呼吸をして、大声を張り上げる。

 父さん!!!!!俺だよ!!!!!

『ゆっくりしていってね!!!!!!!!』

 ばかああああああああああああああああああ!!!!

『ばかああああああああああああああああああ!!!!』

「ゆゆっ?!」

「どいつもこいつも…馬鹿にしやがって…っ!!!!」

 反応の対比は素晴らしいが、ちょっと待て、父さん!それから翻訳最低ッ!!!!

『ゆっ!さいていのくそじじい!ゆっくりしないでまってね!!!!』

 嫌がらせ?語順がめちゃくちゃだろ、この翻訳機っ!!!何をどう思っても、相手を挑発するようにしかできてないっ
てのかよっ!!!たまらねぇな、オイ!!!!

 宙に浮く俺。

『おそらをとんでるみたい!!!』

 髪を掴まれてるのがすんげー痛いんだが…ッ!ちょ!ギブ、ギブ!!!

『いたいよ!やめてね!ゆっくりはなしてね!!!』

「死ね!」

 と、父さん…ちょっとカルシウムが足りなさすぎなんじゃ…。高速で腕を振り下ろす父さん。マジっすか??!!!!

『どぼじで??!!!!』

『ゆっぎぃぃぃぃっ!!!!!』

 叩きつけられる。…叩きつけられた…はずだが…そんなに…痛くない…。

「ゆぅぅぅん!!!ぺーろぺーろ…っ!!!」

 なんと…“れいむ”が“俺”をかばって…?!正直助かった…。あのスピードで地面に叩きつけられてたら、即死だっ
たぜ…。…って…、ん?

 ほああああ?!“俺”が俺の姿の“れいむ”に舐められているっ?!俺は後世まで語り継ぐことはないだろう。自分に
舐められる、という滅多にできない経験を。

「と、としあきっ!!!よせ、やめろ!!!」

 ですよねー…!“れいむ”の腕を掴んで“俺”から引き離す。

「れいむー!れいむー!!れいむのからだ、ゆっくりしないでかえしてね!」

 今、すごく重要なセリフを“れいむ”が言ったんだが、父さん、全然聞いてませんね。そんな殺意のこもった視線を実
の息子に向けないでください。大変、悲しいです。…チッ!こうなったら…っ!!!

『にんげんさんっ!!ゆっくりしないでまたここにきてねっ!こんどはあまあまさんちょうだいねっ!!!』

 “れいむ!今度はオレンジジュースか何か持って、もう一度ここに来い!”…って言ったつもりがこれだよっ!!!!
理解はしなくてもいい。とりあえず、あいつに…“れいむ”にもう一度ここに来るよう仕向けなければならない。

 遠くで、父さんが何か叫んでいる。“俺”に罵声を浴びせているのだけはわかった。

 そして、思い出した。

 俺が、ゆっくりになってしまう直前の出来事…。あの日、何があったか。ファンタジーもクソもねぇ。よくあるかは知
らんが、よくある話だ。…多分!この場合、元に戻るためには、あのときと同じことをしなければならない。だが、この
身長差では、“それ”を行うのは不可能。…どうする?“れいむ”がいつここに来るか…。そもそも、来るかもわからな
いが…それまでに解決策を見つけないと…っ!!!!




 巣穴へと引き返す。まりさと目が合った。まりさが何か叫んだような気がした。まさか、父さん…追いかけて?!

 “俺”は思いっきり…4回転半くらいしながら空中に投げ出された。後頭部に激痛が走る。美しい放物線を描く途中の
“俺”の視界に、これまで見たことのないゆっくりが入ってきた。

 狂気に染まった紅い瞳。赤やら青やら黄色やら…宝石みたいなものがくっついた翼…のようなもの。そして何より…れ
みりゃと同じような…キバ。キバは、れみりゃのそれよりも…すごく…大きいです…。

「ふらんだああああああああああああ!!!!!」

 まりさの絶叫が耳に入る。

 なんとなくだが、理解することができた。目の前にいるのは…多分、捕食種。あの常に笑顔を崩さなかったれみりゃの
表情とは対照的に、殺意しか感じることのできない形相。俺の結論はこうだ。あいつの名前は…。ふらん。




 最強の、捕食種。








十七、

『ゆべしっ!!!!』

 今度こそ地面に叩きつけられる“俺”。痛ぇ、これは本当に痛ぇ!!!まりさと、巣穴から飛び出してきたちぇんが駆
け寄る。

「れいむ…れいむぅ…」

 まりさがすでに半泣きだ。いつもの威勢はどうしやがった、クソ饅頭。

「わかる…よー…。ふらんにあったら…たべられるしかないんだねー…」

 おいおい、れみりゃも捕食種だろ?れみりゃからは逃げようとしたのに、ふらんからは最初から逃げられないみたいに
思ってんのか?確かに一撃のダメージは相当なもんだったが…。よく見たら、ちょっと厳つい表情のれみりゃの色違いな
だけじゃねーか。…なんていうか、れみりゃがキメラなら、ふらんはメイジキメラみたいなもんじゃないのか?

「……しね」

『ゆぐぅぅぅぅっ?!」』
「いだいの゛ぜぇぇぇぇ!!!!」
「に゛ゃあああああ!!!!」

 ま、待て待て。何が起こった?顔面になんか衝撃が走ったと思ったら、いつのまにか“俺”もまりさもちぇんも吹っ飛
ばされたぞっ?!

 ふらんが攻撃を開始する。一瞬で、また、まりさが突き飛ばされた。そして、次の瞬間には、ちぇんの尻尾をくわえ宙
にぶら下げていた。

 ………(°Д°)ハァ?!

「までぃざのおがおがあああああ!!!」

「わ゛がら゛な゛い゛よ゛ーーーーー!!!!」

 …速過ぎる。れみりゃとは比較にならん。メイジキメラどころじゃない。こいつはスターキメラだ。レベルが違いすぎ
る。どう考えてもチート設定だろ。ていうか、俺個人の意見としてはこんなのゆっくりなんかとは認めん!そりゃ見たこ
とないわ。人間に捕まるはずがねぇ。飛ぶし速いし凶暴だし。ぶっちゃけ幼稚園児くらいならケガさせられるんじゃない
か、こいつ。

 ちぇんをまりさに叩きつける。2匹は悲鳴を上げ、涙を流していた。だが、そこは巣穴入り口の近くだ。

『まりさ!ちぇん!!ゆっくりしないですあなのなかにかくれてね!』

 ふらんが“俺”のほうを睨みつける。“俺”に背中があるかは知らんが、今、確かに背筋が震えた。

「れいむはどうするのぜっ?!」

『ふらんを…やっつけるよ!!!!』

 ああ。正直無理かも。ふらんが一瞬で“俺”目がけて飛来する。ゆうかの真似をしてカウンターで合わせるつもりだっ
た。まずはその羽根を引きちぎって、飛ぶことができなくなるようにしてやるぜ!!

『まずははねさんをちぎってとべなくするよ!』

 作戦バラしてんじゃねぇよクソ翻訳機があああああああああああああ!!!!!

 ふらんが顔を90度ひねり、太く鋭いキバをまるでナイフのように振りかざす。“俺”は思いっきり顔を横に振り、そ
れをかわした。…つもりだった。

『れいむのもみあげさんがあああああああ!!!!』

 どうでもいいわ、そんなもん!今のは本能の声なのか?確かに右の揉み上げは今の攻撃でスッパリぶった切られたみた
いだが…。うん。シャレにならなくね?

 考え事なんてしてる暇はなかった。“俺”はこいつの…ふらんの攻撃でまた宙を舞った。3度目かよ。落下時の衝撃で
皮が破れないかと思ったが…。だてに森の中を歩き回ってねーぜ。まだ無事と見える。予断は許さんが。皮を破られたら
終わりだ。間違いなく殺される。

 元の姿に戻れる可能性が出てきた、ってときにむざむざ殺されてたまるかよ…っ!

「むきゅ!!おうちのなかににげるのよ!」

 いつから起きていたかは知らないがぱちゅりーが巣穴の入り口から叫ぶ。

 まりさもちぇんもすでに巣穴の中のようだ。こいつは一体どういうつもりなんだろう…?まりさといい、ちぇんといい、
“俺”といい、わざわざ巣穴の入り口近くに向かって突き飛ばしているように感じる。“俺”が巣穴の中に逃げ込む瞬間、
ふらんはニヤリと笑った。






「むきゅ!ふらんはえものをいためつけてからたべるくせがあるのよ」

 何ソレ、タチ悪い。…って、ああ…もしかして。

「どうしてふらんがそんなことをするのかぱちゅにはわからないのだけれど…」

 恐怖心で満たされたゆっくりの餡子は…甘みが増して美味しくなるからなぁ…。本能でそれをやってる、って言うなら
…ふらん…恐ろしい子。

 今、ちぇんが必死になって巣穴の裏口を掘っている。その際に出た廃土を使って、“俺”とまりさが入り口側の穴を埋
めていく。何もしないよりはマシだろう。

「ちぇん!がんばるのぜ!!!」

「わかったよー!!!」

 高速で穴を掘って行くちぇん。

「…しね…しね…」

 マジでホラーだな。巣穴の入り口の内部に侵入してきたのか、土の壁越しにふらんの声が聞こえてくる。ぱちゅりーは
がたがた震えながら、尖った木の棒を咥えていた。まりさも泣きながら、必死で土を入り口側に運んで行く。ここが突破
されたら、もう終わりだ。4匹まとめて全滅だろう。

「…む…きゅぅ…」

「ゆっゆっゆっゆっ…」

「こわいよー」

 泣きながら、震えながら、それでもこの絶体絶命の状況を何とかしようと、それぞれが動いている。俺はというと、こ
いつを倒すことはできないと悟っていたが…1つだけ策を思いついた。ちぇんが今掘っている穴を貫通させ、この巣穴を
脱出したあとに、入り口を壊してふらんを閉じ込めるということ。だが…正気を保つのがやっと、というこいつらにそれ
ができるだろうか?

「しね」

 土の壁を突き崩しながら進んできたであろう、ふらんの紅い瞳が“俺”たちを捕えた。まりさは成体ゆっくりのくせに
しーしーをぶちまけた。ぱちゅりーはこの時点でショック死寸前だ。そんなぱちゅりーから“俺”は木の枝を奪い取ると、
それをふらんの目玉に突き刺した。

「う…っ!!うっがあああああああああああああああああああ!!!!!!」

 ふらんの絶叫が、巣穴の中にこだまする。空気がビリビリと振動するのがわかるくらいの大声だった。ようやくふらん
に一矢報いたことで、にわかに巣穴の中が活気づく。しかし、“俺”の一撃はここまで…お遊び気分だったふらんの闘争
本能に火をつける結果となってしまった。

「できたよー!おそとにでれるんだねー!!」

 ちぇんの掘っていた穴が外に貫通した。ちぇん、ぱちゅりー、まりさの順に巣穴から脱出させる。ふらんはついに土の
壁を壊し、巣穴の中に入ってきた。左目を潰されたふらんは、息を荒くして“俺”を睨みつけている。正直、怖い。震え
が止まらない。

『ゆっくりにげるよ!』

 高速でふらんが飛びかかってくるのと、“俺”が出口へと向かって逃げ出すのはほぼ同時だった。巣穴の中が狭いので
ふらん本来のスピードは発揮されない。それでも、ふらんのキバは、“俺”の左の揉み上げを噛みちぎった。激痛が走る。

『ゆぎぃぃぃっ?!!!』

 先ほどのように、切られるのではなく、噛みちぎられた痛みは筆舌に尽くしがたいものがあった。が、それでも振り返
る余裕はない。

 光が見える。飛び出す。追ってきたふらんの開かれた口が、“俺”のあんよを捕えようとしていた。だが、

「…っ!し、しねっ!じねぇっ!!!」

 思わず振り向く。ふらんの顔にはまりさの帽子がかぶせられていた。目隠しのつもりだろうか。

「…っがあああああ!!!!」

 キバと羽根をめちゃくちゃに振り回し、引き裂かれるまりさの帽子。まりさは歯を食いしばって涙を流していた。まり
さ種が帽子を失うこと…それは、“死”を意味する。

「れいむ!!!!ゆっくりしないでにげるのぜっ!!!!」

 それでも、まりさは“俺”の身を案じてくれた。その意味を理解するのが少し遅かった。ふらんの視界にはもはや“俺”
しか入っていない。

『ぴょんぴょんするよっ!!!!』

 逃げる方向は丘の上しかなかった。まりさとちぇんが上から土を落としてふらんの動きを牽制していたが、大した足止
めにはならない。高速で、ふらんが羽根を広げて追ってくる。またしても宙に投げ出された。

『ゆっぐぅっ…っ!!!』

 一気に丘の上まで放り出される。…話にならんわ…。これは死ぬ。間違いなく死ぬ。ふらんのキバをよけようと、後ろ
に飛びのいて…

 ………え?

『………ゆ?』

 そこに地面はなかった。“俺”は真っ逆さまに丘の上…切り立った崖の一部分から落ちていった。ふらんは…追っては
こなかった。巣穴の方に戻って行く。…恐らく、あいつらは…ふらんによって…全滅させられるだろう…。“俺”ももう、
助かる見込みはない。

 …あいつらのこと…守ってやれなかったな…

 薄れゆく意識の中、“俺”は目を閉じた。だが…意識は…いつまで経っても消えることはなかった。恐る恐る目を開け
る。“俺”は空を飛んでいた。

『ゆ?…ゆゆっ?』

「うーうー!たすけてやるんだどぉ!」

 嘘…だろ?こいつはまさか…森に入ってすぐに“俺”たちを襲ってきて…返り討ちにあった…あのときのれみりゃか?!
れみりゃは“俺”のリボンを咥えているにも関わらず、相変わらず器用に喋る。そのとき、閃いた。

『れみりゃ!れいむをふらんのうえまではこんでね!!』

「わかったんだどぉ」

 …情けは人のためならず、ってな!起死回生の一発、確かに受け取ったぜ、れみりゃよぉ!!!!

 巣穴の前で、ふらんが3匹への蹂躙を行っている。れみりゃは“俺”の言ったとおりに、ふらんの真上で止まる。ふらん
は3匹への攻撃に夢中で“俺”の存在に気付かない。まりさが叫ぶ。

「れいむーーーーーーーー!!!!!!!!」

『…ゆっくりしんでねっ!!!!!』

 叫ぶ。まりさが、ちぇんが…ぱちゅりーが“俺”の方を見る。ふらんが上を見上げる。“俺”はふらんめがけて絶賛落下
中だ。そして、ふらんの羽根に噛みつき、落下速度を利用して…一気に引きちぎった。

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!ふらんの゛…ふらんのばでがあああああああああああああ!!!!」

 片目を潰され、片方の羽根を失ったふらんが、その場で暴れる。飛ぼうとするのだが、片方の羽根だけではそれは不可能。
それどころか、飛ぼうとすることしか考えていないらしく、何度も何度も自身を地面に打ち付ける結果となった。もはや、
半狂乱状態のふらんに“俺”は体当たりをかまし、巣穴の中に叩きこんだ。

「じねっ!じねえええええええええ!!!!」

 巣穴の中でも飛ぼうとしているだけなのか、一向に巣穴の中から出てくる気配はない。

『まりさ!ちぇん!おうちのいりぐちをふたつともふさぐよ!!!!』

「ゆ…ゆっくりりかいしたのぜ!」

「わかったよー!」





 ほどなくして、巣穴の入り口は完全に閉じられ、ふらんの声も聞こえなくなった。“俺”は、

『れみりゃ…ゆっくりありがとう』

「たすけてくれたおれいをしただけなんだどぉ」

『れみりゃ…じつはれいむ、もうひとつだけおねがいがあるよ』

「…?」






「「「れいむーーーーーーー!!!!!」」」

 れみりゃが飛び去ったのを確認して、すぐに歓声が上がる。やっぱり、れみりゃは怖いか。

 3匹が“俺”に駆け寄ってきて、3匹がかりですーりすーりをしてきた。良く見ると、ちぇんの尻尾が1本しかない。ふ
らんに噛みちぎられたのだろう。ぱちゅりーも帽子についていた月の形をした飾りを失っている。まりさもまた、帽子をか
ぶってはいなかった。よく考えたら、“俺”も揉み上げを左右、共に失っている。

 “俺”たちは野生のゆっくりから見たら、すごくゆっくりできないゆっくりなんだろうな。

 それでも、“俺”たちは生きている。今は、それでいい。それだけでいい。みんなで…ふらんを倒したのだ。最強の捕食
種を。

 そして、同時にそれがゆっくり界の弱肉強食に反していることにも気付かされた。本来なら、“俺”たちはみんな仲良く
ふらんの腹の中だった。

 こいつらを助けることができたのは、素直に嬉しい。

 嬉しいけど…。やっぱり俺はこいつらと一緒にいてはいけないと…思った。

 今ならまだ…こいつらとの出会いを…共に過ごした短い日々を…ただの夢物語にすることもできる。





 そう何度も…奇跡なんて起こってはいけないのだ。
















「ゆっくりやめてね!おろしてね!」

 少年は、れいむの髪を掴んで自分の家に持ち帰った。揉み上げがぴこぴこと動いているのが嗜虐心を刺激する。それに
加えてこの情けないツラがたまらない。少年は、床にれいむを投げつけると、思いっきり蹴り飛ばした。部屋の壁にぶつ
かって、跳ね返ってくる。

「いだいよ゛おおお!!!れいむ…なんにもわるいごどじでないのに゛ぃぃぃぃぃ!!!!」

「うっせーよ馬鹿」

 二度、三度、蹴り飛ばす。三度目に跳ね返ってきたときは、そのままダイレクトで蹴り込んでやった。

「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ」

 その日は日曜日だった。少年の家には誰もいない。少年はゆっくりを痛めつけるのが好きだった。高校生にしてゆっく
りを苛めるのが好きとは、とんだDQNだったが、それを理解した上で少年はゆっくりを弄り続けていた。これだけ痛め
つけても、れいむは死なない。歯を食いしばり、涙を流し、少年を見上げているだけだ。

 今度は、れいむの顔面に四、五発、拳を撃ち込む。

「ゆっくりしたいよーーーーー!!!!!」

 泣きながら叫ぶ。

「はははははは」

 それがたまらなく可笑しかった。

「ゆっくりの癖に、ゆっくりなんかさせてたまるかよ!俺らが勉強やらでクソ忙しいときに、てめぇらが呑気なツラして
 “ゆっくりゆっくり”言ってんのがさぁ…」

 れいむのまむまむの辺りにつま先で蹴りを撃ち込む。どうやら、まむまむを捕えたようだ。

「ゆがああああ!!!れいむの…まむまむがぁあああああ!!!!」

「俺らがゆっくりできないのに、お前らなんかがゆっくりできるわけねーだろ」

 少年は、ゆっくりが“ゆっくりしたい”と願っているのが一番気に入らなかった。

「誰だってなぁ、ゆっくりしてぇんだよ。それをてめぇらは馬鹿の一つ覚えみたいに、“ゆっくりしたい”“ゆっくりさ
 せて”って…。生意気にもほどがあるわ!特に、“ゆっくりさせて”っていう根性が気に入らないんだよ。てめぇなん
 かゆっくりさせて誰が得するんだ、っての」

「れいむはぁぁぁ!もりでしずがにぐらじでだだけなんでずぅぅぅぅ!!!」

 れいむが餡子を吐き出しながら、悲痛な叫びを上げる。

「知ったこっちゃないね」

 笑いながら、れいむを再び蹴ろうとする少年だったが…。れいむの吐いた餡子で足を滑らせた。

(え?)

「ゆ?」

 そして、倒れ込んだ少年の頭と、れいむの頭が激突した。

「…ッ?!」

「ゆげぇっ!!!」

 一人と一匹は気を失った。

 それが、全てのことの始まりだった。















つづく



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感想

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  • レミリア(;ω;`*)うぅお前はよくやったよ。
    。・゜・(ノД`)・゜・。うう、あれ?目から汗が -- 2017-12-27 09:18:04
  • これは神作だよな -- 2014-05-14 16:42:34
  • 久しぶりに見て感動した -- 2012-05-01 22:13:37
  • 久しぶりにれみりゃの存在に血がたぎった -- 2011-09-07 01:57:21
  • うーうー!たすけてやるんだどぉ

    でぐっときたあ… -- 2011-04-12 16:28:55
  • 面白い! -- 2010-05-16 04:58:09
最終更新:2009年10月29日 20:05
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