模倣派学説

模倣派学説概論

戦争後期に一部の支持を得た派閥。
魔物との戦いで敵を観察した結果、どうやら魔物は種族特有の能力ではなく、魔力によってすべての現象を起こしているのではにかという推論から積み上げられた魔力解釈論である。
魔物が魔力によって実現しているであろう事象を分類・整理し、人間の魔法使いでも魔物と同等の力を発揮することを目指している。
今までに主流となった様々な学説とは一線を画している異色の派閥であるが、過去にも一部類似した研究結果も存在していたともいう。
残念ながら、模倣派として成立した時期において魔法使いは激減しており、研究に回せる人員が圧倒的に不足していた。
未完成ながら極めて的を射た部分と矛盾した考察が入り混じった不安定な学説。
模倣派によると属性派のような分類方法は必要であるが、属性派の考える分け方は根本的に間違っており、正確には以下のように分類されるとした。

激化

すでに存在しているものの作用・効果を著しく高める。
魔力に目覚めた人間はそうでないものと比べて高い身体能力を発揮するが、それはすでに激化に属する魔法を使っているからだという。
始祖派における防護系魔法や回復系魔法は激化による魔法のごく一部に過ぎず、例えば燃える火の勢いを強めたり、音を聞く力を高めたりできるとした。
実際、始祖の高弟の残した資料によると、始祖は下級兵が使う汎用的な剣で大地を切り裂き、乗馬した部隊に駆け足で並走したなどうなずける部分がある。

射撃

魔力を撃ちだす能力である。
始祖派における球系攻撃魔法や放射系攻撃魔法、また属性派のあらゆる魔法に火や石を撃ちだすものがある。
未熟な魔法使いは手のひらに火球や氷球を生み出せるものの、撃ちだすことができなかったり、ごく短い距離にしか飛ばせない場合がある。
模倣派の理論によれば、これらのケースは射撃の修行が不足しているか、そもそも射撃の資質が低いと説明できる。

持続

魔力に対する命令を持続させる能力である。
決まった効果を実現することを重視する始祖派にとって、効果時間を評価に含めるのかどうかは長年の議論となっていた。
また得意属性の様々な効果を発揮する魔法を比較的自由に開発していく属性派にとっても、効果時間は重要な要素であった。
射撃が魔力の速度を決める力であるのに対して、持続は魔力の時間を決める力である。
また激化によって高まる効果を低減することなく持続させる力でもある。
作成と模倣によって生み出されたなにかを存在させ続けるのもまた持続の力による。

作成

魔力に形を与える力であり、形を与えられた魔力は普通の人間にも見ることができるという。
始祖派における回復系魔法や防護系魔法は効果が発揮していても、魔法使いでないものの目にはなにが起きているかわからない場合が多い。
しかし、魔力によって生み出された火や水は見ることができるし、さわることもできる。
これらの事例は魔法を行使している術者の力が弱いためと考えられてきた。
だが、強力な防護系魔法を使用する無名の傭兵の魔法であっても、一般人は見た目上の変化・効果を及ぼす様子を見ることはできなかった。
模倣派によれば、作成と激化に魔力を分類することでこの矛盾を説明した。
傷を癒す魔法は激化によって起こる現象であり、回復系魔法を使用するにあたって一般人にも見ることができる神々しい光を発する作成の力を使う必要はない。
つまり模倣派の説によれば、これまで強力であるがゆえに一般人にも見ることができる防護系魔法や回復系魔法の術者はむしろ未熟ということになる。
なお、この説明における反証として、強力な回復系魔法の使用者のほとんどは一般人にもわかる神聖な光を発していたという点、また目に見えない強力な炎や岩を放つ魔法の発見例がないというものがある。

模倣

魔力になにかの性質を模倣させる力であり、模倣派がこれまで有力とされてきた学説の間違いを説明するために多用される能力である。
模倣派によれば魔力で火を生み出しているのではなく、魔力に火を模倣させているということになる。
模倣によって火の性質を模倣させ、作成によって火球の形を作り、射撃によって撃ちだすと説明できる。
これまでの主流な学説によると、模倣・作成・射撃のいずれかが苦手であればレベルの低い魔法使いとならざるをえない。
激化や後述の念動が得意な魔法使いが才能を発揮することなく、くすぶっている状況を模倣派は重大な問題として捉えたのである。
他派の学説の支持者は、模倣という考え方を一部支持するものの、例えば防護系魔法は肉体を激化させているのか、それとも身体を覆う魔力に鎧や盾を模倣させているのかわからない点は問題があるとした。
この議論に関しては模倣派のなかでも見解は分かれており、決着を見ていない。
たしかに高い魔力的素養を感じさせる人間が、いつまでも始祖派の基本的な修行をクリアできなかったり、属性派の理論で修行するものの強い魔法を習得できなかったケースが存在するが、それらを一定の説得力のある説明ができる点は多くの魔法使いに評価された。

念動

魔物は時に人間を意のままに操ることがある。
また属性派学説における闇属性の魔法は死者を操る。
これらは魔物特有の能力であるとか、闇にまつわるなんらかのおぞましい魔法であると考えられてきた。
模倣派はこれらは魔力によって動かす力によって実現していると仮定した。
実際、魔法使いのなかには机の上にあるペンをさわらずに動かすことができる者がそれなりに存在する。
特に役立つわけではないが、変わり者が修練した結果、習得したケースも確認されている。
人の心や遺体を動かす力と、ペンをさわらずに動かす力は同じ種類の力であると考えたのである。
また、属性派学説における風属性魔法は念動によるものとする説もある。
射撃と念動は同じではないかという反論もあるが、撃ちだす力と動かす力は別に分類し、射撃と念動の併用もあわせて説明したほうがより合理的に魔力を解釈できるとされる。

例外

その他に分類せざるえない魔力による現象を指す。
属性派学説における無属性魔法のような考え方である。
これまでの学説をより洗練し、あらゆる魔法を合理的に説明しようとした模倣派であったもその他を設定せざるを得なかった。
人間が魔力の研究にさくリソース不足の時代に発達したこともあり、その後の魔法使いたちの研鑽によって例外をいずれなくなる未来もあるのかもしれない。

模倣派における主な細論

模倣派による特徴的な細論は以下のとおり。
なお模倣派はいまだ未完成な学説であり、仮説の域をでないものが多い。

魔法使いの魔力量と習得量の違い

魔法使いは魔力量が高い者を見分けることができる。
したがって才能ありと目されるのは魔力量の多寡による。
しかし魔力量と習得量は別個の才能である。
魔力保有量が高くとも、魔法習得量が少なければ多くの魔法を覚えることができない。
大魔法使いへと成長すると思われたが、一つも始祖派の魔法も属性派の魔法も習得できないケースがあるが、それは習得量に問題がある。
また2つ目の属性魔法を習得した時に、1つ目に習得した属性魔法が使えなくなるケースも習得量によるものである。
魔力量も修行によって後天的に増やすことができることから、習得量も同様に鍛えることは可能であると考えられる。

才能の偏りと限界

いわゆる始祖派の目指す最終到達地点である万能の魔法使いは、模倣派によれば不可能とされる。
激化によって強靭な肉体を実現し、あたり一面を巨大な炎の海にしながら、倒した敵の死体を動かして配下とするようなことは理論上不可能である。
必ずなにかしら苦手な能力があり、2~3程度の力を十全に発揮するのが限界である。

始祖に対する魔力解釈

始祖の存在は模倣派による説明では矛盾が生じる。
激化・射撃・模倣・作成・念動・例外というすべての力を自在に操っており、才能の偏りがない。
また始祖だけでなく上位の魔物にもあてはまることだが、模倣派で言うところの例外に属する現象があまりにも多い。
特に存在は危ぶまれてはいるが、転移系魔法については激化・射撃・模倣・作成・念動で説明できず例外の力として分類しているが、既存の魔法とはあまりにもかけはなれている。
(無属性魔法という分類を設けている属性派学説も同じことがいえるが)
始祖の存在は伝説化されているものの、記録としてはかなり正確に残っており、非実在の人間とは考えにくい。
その記録によれば確かに始祖が積極的に活動した時期において、転移系魔法を使ったとしか思えないような各地での活躍が記録されている。
模倣派の論理で考えると始祖にとって苦手な種類の力であっても、平均的な魔法使いにとってはるか高みにあったということになる。
また転移系魔法については実際に観察できないため憶測となるが、超スピードで自身を念動して移動しているだとか、激化を施した足によって超スピードで跳躍している可能性もある。
従って始祖や上位の魔物の存在によって模倣派学説が崩れるというわけはない。

魔法使いと寿命

魔力は生命が持つ生きるために使われるなんらかのエネルギーであると考えられてきた。
したがって多く魔力を使う魔法使いの平均寿命は一般人の平均寿命よりも短い。
また魔力を多く持つ魔物は長命であり、過去に伝説と呼ばれるレベルの魔物が戦争でも目撃されている。
しかし、魔法使いは戦闘に身を置くものが多く、後方に勤務する魔法使いの平均寿命は一般人のそれとほぼ違いはなかった。
また魔力が生きるために使われるエネルギーであれば、ちょっとした小さな火すら生み出せないほどの魔力の持ち主は短命であるはずである。
したがって魔力と寿命の関係性は薄いと結論付けられる。
ただし激化によって通常よりも長く身体の機能を保つことは模倣派の理論上、可能である。

模倣派学説による変化

既存の魔法と大きく異なる魔法の出現

模倣派学説はかなり突飛な主張であり、過去の偉大な魔法使いの説の多くを否定する面があった。
そのため躍起になって模倣派の説を否定しようとする魔法使いも存在した。
ある熱心な属性派の魔法使いは、模倣派の理論によれば魔力に剣の形を与え、鉄の持つ特徴を持たせることが可能であることに着目した。
石や氷を尖った形にして放つ魔法はすでに存在していたが、実在する剣を生み出すような魔法は誰も開発していなかった。
果たして魔法の開発は成功し、術者の想定よりは脆いが確かに魔力で鉄の剣を生み出すことができたのである。
似たような事例は各地で散見され、戦後に属性派学説で言うところの無属性魔法が激増することになった。

魔法の一般への浸透

戦争によって戦闘で実用レベルで魔法を使える魔法使いが激減した。
しかし、魔力によって小さな現象を起こせる一般人が増え、またこれまで才能なしとされた魔法使いが飛躍的に能力を開花させるケースも増えた。
また、魔法によって引き起こされる現象の種類が増加したため、悪用に対する対策として一般人であっても魔力に対する知識を求める場合が増えた。
最終更新:2021年03月10日 17:24