月下の出会い - (2007/03/18 (日) 07:03:38) の1つ前との変更点
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**月下の出会い
「ここは……どこ?」
私の第一声は思わず口をついて出たそんな言葉だった。
辺りを一通り見回してみても灯り一つ見えず、鬱蒼と生い茂る木々の影が私のまわりを取り囲んでいるだけ。
「…………」
普段見慣れた初音島のそれとまったく異なる景色に、私はしばし呆然となる。
まるで考えるという役目を放棄してしまった脳裏にふとよぎるのは先程のタカノとかいう女の人のあの言葉……。
――これからあなたたち65人には最後の一人になるまで殺し合ってもらうわ――
殺し合い、私の聞き間違いでなければ確かにそう言った筈だ。
最初、私には達の悪い冗談か、単なるドッキリ企画だと思っていた。
同じように考えていた人は他にもいたようで、私の言葉を代弁するように女の人に尋ねた男の子もいた。
その言葉に皆が今更そんな冗談流行らないよと笑いあっていた。
だけど、あの言葉の直後に起こった惨劇がそんな甘い予想をあっさりと打ち砕いてしまった。
永久保存のビデオのように私の頭に焼き付いたあの凄惨な光景は、忘れようと思っても忘れられない。
一生付きまとう悪夢となってそのまま消えることは決してないだろう。
思い出しただけでも気分が悪くなってきた。
「……どうして、どうしてこんなことになっちゃったんだろう?」
思考を放棄していた頭がまず考えたのはそんな当然の疑問だった。
あんな能力(ちから)をもっていたとは言え、それが過去のものとなった以上、今の私はどこにでもいそうな、ごく普通の女子学生の筈。
そんな私がなぜこんなところに連れてこられて、殺し合いなどと言う非日常的なことを強要されているのか?
考えようとして……私はすぐにその疑問を追い払った。
多分、あの人たちには深い考えなど無いんだと思う。
もしかしたらあるのかも知れないけど、多分私には分かりっこない。
それに、二人の人の命を何のためらいもなく、むしろそれが愉しい事であるかのようにあっさりと奪ってみせる人たちの考えなど分かりたくもなかった。
それよりも、今考えなくちゃいけないことは他にたくさんある。
今後何を目標として行動し、 (もちろん最終的な目標は生きてこの島を脱出することだけど……) どう生き残るか? ということ。
あの人は最後の一人まで残れば帰してくれる、と言っていた。
でもそれは他の全員を殺すか、見殺しにしなければ決して為しえない事。
参加者の中には朝倉君をはじめ知り合いも何人か含まれている。
気の知れた相手、特にあの時、私を助けてくれた朝倉君が死ぬなんてことになったら……。
「うっ……」
思わず最悪の光景を思い浮かべてしまった自分を私は呪いたくなった。
とりあえず基本としては、ゲームには乗らない、誰も殺さない。甘い考えかも知れないけど、まずそれを前提にしよう。
知り合いでなくても誰かを殺すなんて出来ないし、誰かが死ぬ所だって見たくもない。
じゃあ、それを実行するにはどうしたらいい?
目を瞑って、耳を塞いで、お経でも唱えながらじっとしている?
確かにこれなら前提条件は守られるし、生き残れる確立も高いだろう。だけど、皆が皆私と同じようにゲームに乗っていないとは限らない。
私の見ていないところで殺し合いが起こるだろうし、なにより禁止エリアなるルールもこのゲームには存在する。
じっとしていたら禁止エリアに指定されて、首輪爆破されちゃいました。なんてことになったら本末転倒もいいところだ。
そうなると残された手は、自ずと限られてくる。
「朝倉君たちと……、ううん、誰でも良いから仲間になってくれる人を見つけよう」
そう、一人で出来ることなんて高が知れている。なら誰かと協力して……と考えるのはごく普通のことだと思う。
私と同じように島の脱出を考えている人、もちろん、朝倉君たちのような知り合いであれば言うことはないけれど、この際贅沢は言っていられない。
それでも一つだけ、留意しておかなくちゃいけないことがある。それは、本当にその人が信頼できる相手であるか? ということ。
賛同してくれてる相手が必ずしもゲームに乗っていないとは限らない。私を殺す機会を虎視眈々と狙っている殺人鬼の可能性もある。
あるいはただ単に私をいい様に手駒として利用するために近づいてくる相手と言うのもいるかもしれない。
その辺りの見極めはとても難しいけど、大切なことだ。問題はどうやって見極めるか? だけど……
「はぁ、あの能力がまだあったらこんな苦労はしないで済んだんだろうなぁ……」
思い出すのは今年の春の事。
私が白河の家に引き取られたときからあの日まで、私が持っていた他人の心を読むという能力。
周りの人の邪念や憎悪の念まで読み取ってしまうそれを邪険にしていた私だけど、やっぱりあの能力に頼っていた部分は大きくて……。
初音島の桜と共に霞のごとくあの能力が消えてしまったとき、自分の殻に閉じこもっていた幼い日の私と同じように偽りの笑顔で自分を固める事しか出来なかった。
ショックで落ち込んでいた私を心の底から心配してくれたお姉ちゃんやみっくん、ともちゃん、そしてなにより私に道を示してくれた朝倉君。
みんなのおかげで能力が使えた頃とまでは行かないけれど、私は立ち直る事が出来た。
今思うと、あのまま能力が消えることなく能力に頼り続けていたら、いつか私はダメになっていたんだと思う。
それでもこんな状況に放り込まれてしまうと、あの時消えてしまった能力に頼りたくなってしまう。
「だめだなぁ、私って……。あれからもう結構経ってるのに……無いものねだりでしかないのに……」
そう、どんなに願っても無いものは無い。今あるものでやっていくしかないのだ。
「そういえば、私の支給品は何なんだろう?」
食料他と共に武器などが参加者には支給される。と言う言葉を今更のように思い出し、私はディパックの中身を確認することにした。
水、食料、地図、名簿、筆記具と言ったいわゆる共通の支給品を抜き出した後、次に出てきたそれを見て、私は思わず絶句した。
「こ、これって……」
大きさとしては両手の上に載るくらい。いかにも持ちやすそうな三日月形で色もやっぱり月の様な黄色。
持ったときの感触や重さは私の記憶の中にあるソレと全く同じで……。
でも、いまいち信じられなくて私はその内の一つを手に取ると皮をむいて、それをおもむろに口に運んだ。
口の中に広がる甘い、あの味。舌の上で溶けるようなこの食感。もうこれは誰がどうもても……
「バナナ……だよね?」
そう、私のディパックから出てきた支給品はごく普通のバナナ(それも5房もあった)だった。
それと一緒に説明書みたいな紙も出てきたので一応目を通してみる。
『バナナ(台湾産) 栄養価満点のバナナの中で特に日本人好みの味を持つ高級品。やったね! 大当たりだ!』
どう見てもハズレです。これをアタリだなんて思える人は天枷さん以外、誰もいないと思う。
「あ、頭痛くなってきたかも……」
溜息混じりに頭を抑えつつ、私は最後の一つとなった中身を取り出した。
「これは、竹刀……?」
出てきたのはどこにでもありそうな竹刀だった。
支給品の武器の上限がどの位なのかは分からないけど、少なくともバナナよりは使えるだろう。
「これで、どうにかなる……かな?」
そうつぶやきながらほっと胸をなでおろした、まさにそのときだった。
「そこの貴女」
「はい?」
支給品の確認に気を取られていた私は、突然かけられた声にさして疑問を持つこともなく声のした方を振り返り……再び、固まった。
そこに立っていたのは私より少し年上ぐらいの女の人だった。
月夜の中でもやけに映える長い黒髪に、きっと引き締まった顔立ち。赤と白を基調にした服はどこかの学校の制服だろうか?
一見するとどこにでもいそうな女の子に見える。
だけど、こちらを見つめる瞳は、私を射抜いてしまうのではないかと思うほど鋭い。
何より、その片手に握られた黒光りを放つ鋼の塊はどうみてもピストルにしか見えない。
「あっ、あっ……」
背筋を冷たい汗が流れるのを感じながら、思わず後ずさった私は小石か何かに躓いて、その場に尻餅をついた。
今、私の手元にあるのは闘いになんか使えそうもない共通の支給品と5房のバナナ、それと唯一武器と呼べそうな竹刀だけ……。
ピストルをもった人が相手で、しかも腰を抜かした状態では反撃はおろか逃げることすら叶いそうもなかった。
朝倉君たちを探そう。仲間になってくれる人を見つけて脱出法を考えよう。
そう思った矢先に私はやられてしまうのか? このまま殺されてしまうのだろうか? そんな事ばかりが頭を過る。
(いやっ! そんなの絶対に嫌っ!)
心が必死に悲鳴をあげているのに、それが口から漏れることはない。
ただ口をぱくぱくさせながら、女の人から目を逸らすことすら出来ずに全身を震わせるだけだ。
そんな私とは対照的に女の人は表情一つ変える事無くこちらに寄ってくる。私は顔を俯かせ、目をぎゅっと瞑り覚悟を決めた……。
「………佐祐理」
「えっ?」
だけど聞こえてきたのは銃声ではなく聞き覚えの無い名前だった。
私は顔を上げて、女の人を見た。
「貴女、佐祐理と会わなかった?」
「…………」
どうやら、この女の人は人を探しているらしい。そう理解するまで私はしばし時間を要した。
嘘を言う必要も無いと思ったので、私は素直に答える。
「えっ、えっと……私が会ったのはあなたが初めてです……」
「…………そう」
ぽつりと、そう一言答えると女の人は踵を返し、再び森の中に踏み出そうとする。
何も起こらなかったことにほっとするのと同時に、私の中でまた一人きりにされるのは嫌だ。という気持ちが芽生える。
それは急速に膨れ上がってきて、気付いたときには私は大声で女の人を呼び止めていた。
「あっ、あのっ!」
私の声に、一歩踏み出しかけていた女の人の足が止まる。
「あのっ! まっ、待って下さい!」
少しよろめきつつ立ち上がった私は、女の人の空いている方の手を掴む。
私が例の感覚に襲われたのは、その直後の事だった。
――…いち、佐祐理、無事でいて……――
(えっ!?)
頭の中に直接声が響いてくる感覚、とでも言えばいいのだろうか?
耳で聞いたわけじゃないのに聞こえるその人の声。そんな不思議な感覚に私は覚えがあった。
(今のって、まさか……)
「なに?」
突然の出来事に、思考が縛られかけた私は、女の人の訝しげな声で我に返った。今度はちゃんと耳で聞き取ったものだ。
「あっ、えっと……」
今の一件と、もともと何かこれと言った用件を考えていなかった私は、目に付いたアレを拾い上げると、それを差し出しながらできる限りの笑顔で言った。
「え、えっと……、バナナ食べます?」
「………………食べる」
私と差し出したバナナを交互に見つつ、たっぷり間を空けてからそう答えると、女の人は私の差し出したバナナを受け取り、食べはじめた。
「あの、食べながらでいいので、ちょっといいですか?」
私はさっきの事について考えたくなる衝動を無理矢理心の片隅に追いやりながら、この人に仲間になってもらえるよう打診しようと、再び口を開くのだった。
【C-6 森/1日目 深夜】
【白河ことり@D.C.P.S.】
【装備:竹刀 風見学園本校制服】
【所持品:支給品一式 バナナ(4房+3本)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。 最終的な目標は島からの脱出。
1)出来ればこの女の人(舞)と一緒に行動したい。
2)仲間になってくれる人を見つける。
3)朝倉君たちを探す。
4)今のは心の声……? それとも気のせい?
【備考】
※テレパス能力消失後からの参加ですが、主催側の初音島の桜の効果により一時的な能力復活状態にあります。
ただし、ことりの心を読む力は制限により相手に触らないと読み取れないようになっています。
ことりは、能力が復活していることに気付きつつありますが、『触らないと読み取れない』という制限については気付いていません。
【川澄 舞@Kanon】
【装備:ニューナンブM60(.38スペシャル弾5/5) 学校指定制服】
【所持品:支給品一式(他に武器があるのかは次の方にお任せ)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。 佐祐理を探す。
1)バナナ…嫌いじゃない。
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