童貞男の乾坤一擲 - (2007/08/19 (日) 13:23:28) の1つ前との変更点
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**童貞男の乾坤一擲 ◆QJWUEHXtwM
「…」
「♪♪♪~ ♪~」
テテテッ
俺がパスタをゆでている間、風子はキッチンに入り何かを探していた。
「………」
「♪♪♪♪~」
タタタッ
俺がピザを焼いている間、風子はキッチンを出て外でガチャガチャやっていた。
「………………」
「♪♪♪~ ♪♪♪~」
俺が皿を並べている間、風子はいつの間にか戻り、鼻歌交じりに眺めていた。
「………………出来た」
「わぁ、ようやくですか」
待ち遠しかったとばかりに飛びつこうとする風子に、当然の疑問を投げ掛ける。
「なぁ、何で俺一人で料理してんの?」
「お昼♪お昼♪」
聴いちゃいねぇよ。
まあ、俺も腹は減ってる事だし深くは追求しないでおくか。
「じゃあ、フロアに持ってくぞ」
そして俺と風子の分を持って行く。
今日のお昼は、
『ピザ(冷凍)』『ペペロンチーノ』
である。
(カレーにしようとしたら、風子に『カレーは夜。昼はパスタ』と駄々をこねられた。ずっとココに居座る気かよ、オイ)
* * *
「ほぅいえあさ」
「…北川さん。口に物を入れながら喋るのはお行儀が悪いですよ」
「…」
モグモグモグ………ゴクン。
「そういえばさ、俺が料理作っている間キッチン出入りしてたけど、何かしてたのか?」
その質問をした途端、風子の眼が輝いた。
「聴きたいですか?」
「…」
この時点で見当はついた。
………ロクなことじゃないって事だけは。
が、風子は話したいオーラを全身から放っている。
こりゃ、とめる事は出来ないか。やぶ蛇だったなぁ。
そう思いながら、何気なく探知機を懐から出す。
「実はですね…」
「!」
その時に気付いた。探知機に一つの反応が現れていたのに。
しまった。何でもっと早く気付かなかったんだ。
「その話は後だ!!!」
風子の話を遮り立ち上がる。
「?どうかしましたか?」
「誰かがこっちに近付いて来る。逃げるぞ」
そう言って、探知機を風子に見せる。
「…」
が、風子は動かない。
ったく、俊敏な動きの取れない奴だな。
「ホラ」
そう言って風子を立たせようと手首を掴み、風子に
「動かない方が良いです」
と、言われた。
「え?」
「北川さん。相手は一人、しかも階段を上って来ます」
「そうだが?」
まあ、エレベーターを使うアホはそう居ないだろう。
「さっき言いかけましたけど、北川さんが料理している間、階段口に罠を仕掛けておきました。だから問題無しです」
「罠?」
「糸に引っ掛かると中華ナベが降ってきます」
「…」
絶句。
こいつ、行動を共にすればするほど、天然っぷりに磨きが掛かってこないか?
「ふふん。驚くほどのものではないですよ」
と胸を張りつつ言う風子。
どうやら俺の無言を感心して二の句が告げないと受け取ったらしい。
「あのなぁ。そんな子供だましに引っ掛かるバカが居るわきゃないだろ?
そんな奴が居たらお目にかかりたい…」
ゴ ン ! ! ! ! ! !
「…」
ウソ。
「お目にかかります?」
「…はい」
そして二人して立ち上がり、罠に引っ掛かった人間を調べる為、俺は風子の後について行った。
得意気な表情で現場に向かう風子の後を、とぼとぼと。
何?この敗北感。
* * *
………………
………
…
「………ん」
目を覚ました時、私は寝かされていた。
確か私は、百貨店に入って、圭一たちに会った時の事を考え宇宙服を脱いだ。
そして1階から順に調べて回って、7階まで来た時に…
「…くっ」
起きようとすると同時に襲い掛かる頭痛。
どうやら私は、何者かに頭を殴打されたらしい。
そして、状況を把握しようとして驚いた。
まず、私はどこも拘束されていない。
デイバッグこそ辺りに無いものの、床の上にテーブルクロスを敷き、その上に横たえられていた。
そして、痛む頭には冷えたタオルが載せられている。
どうやら私は、誰かに看病してもらっているようだ。
そういえば、誰かの声が聴こえてくる。
私は寝たふりをして聞き耳を立てた。
「…だから、これは俺の分だっての!」
「今回のピンチを救った風子に、労りの1ピースをくれたって良いじゃないですか」
「いたいけな子供に無差別攻撃を仕掛けただけだろうが!絶対謝れよ!」
(…)
何か、会話の内容がやたら緊張感が無い気がするけど、
多分、今会話中の人達が助けてくれたのだろう。
そして私に攻撃したのも彼らのようだ。
「という訳で、後の事は北側さんに任せます」
「何で俺なんだよ」
「風子には解るんです。今回の書き手さんは風子を活躍させる気がありません」
「(…ついにリアルに干渉しやがったよ、こいつの電波)」
「?何か言いました?」
「じゃあ何で中華ナベはあの子にクリーンヒットしたんだよ、って言ったの」
ちゅ、中華ナベ。
私はそんな原始的な罠に引っ掛かったの?
別の意味で頭が痛くなってきた。
「むむ。変態さんのクセに理路整然としてますね」
「こんな時だけ変態言うな!!!」
…何?この呑気な会話。
ここまでの会話を盗み聞きして、取り敢えず確定した事が一つ。
この二人、人畜無害。
いや、脳天に一撃喰らったようだけど、この人達に殺される可能性はゼロ。
だって、この緊張感の無さったら…。
そう考えた私は寝たふりを止め、起き上がった。
「あ…」
女の人は、私が起きた事にすぐに気付いた。
「ん?どうした」
「あの子、起きたようです」
そう言って、女の人が私を指し、男の人が振り返った。
* * *
「本当にゴメンな。梨花ちゃん」
「ゴメンナサイ。人を選ばないトラップを仕掛けた風子が悪かったです。この通りです」
俺達の所為で頭に怪我した少女に自己紹介をして、名前を聞いた後に先ず俺達がやった事。
それは謝罪。
梨花ちゃんは
「へいきなのです」
とだけ答えた。
口数の少ない子だな。
まあ、俺達の事を警戒しているのかも知れない。
「ところで、今まで一人で居たの?」
梨花ちゃんの不安を少しでも和らげるよう、俺は出来る限り優しい声で訊いた。
俺の質問に、梨花ちゃんは肯く。
「じゃあさ、俺達と一緒に居ない?一人で居るよりずっと安全だからさ」
「…」
俺の言葉に、キョロキョロと俺達を見比べる梨花ちゃん。
やはり警戒しているのだろう。梨花ちゃんにとって、俺達は得体の知れない人間なのだから。
「その方が良いですよ、梨花ちゃん」
そこに入る風子のフォロー。
そうだな。この場合は俺みたいな男より、女の方が説得しやすいだろう。
幸い、今の風子は電波を受信していそうじゃない…
「ココで風子達と別れると、梨花ちゃんは空気になっちゃいますよ」
アンテナ立ってたあああぁぁぁ!!!
しかも受信してるの、よりによってリア電(※『リアルへ干渉する電波』の略)かよ!!!
さっき開花させた能力をもう使いこなしてやがる!
「おま、訳わかんない事言うな!」
「そうそう、北川さんだって、風子がいないとひどい扱いを受ける所だったんですから」
俺の制止を受け流す風子。
更に何気に酷い事言われた。
「どこがだ!」
「立ち絵が一枚しか無い北川さんは…」
「ぎゃあああぁぁぁ!!!」
言わないで!俺の深層意識のトラウマ!
おのれリア電。
ただでさえ“天然”+“電波”という相乗効果を持つ風子の凶悪性を助長しやがって。
「って、そりゃ原作の話だろうが!今は関係ねぇ!
それに俺達みたいな立場の人間は、お前らよりも少なくなるのは仕方が無いんだよ!!!」
言い返す俺の声は涙声になっていた。
目じりに溜まる涙が零れ落ちないよう必死に堪える。
大丈夫、俺泣かないよ。だって男の子だもん。
「でも、一枚というのは稀に見るほどの雑な扱い…」
「うわあああぁぁぁん!!!!!!」
決意は2秒後に崩れていた。
男のプライド完全に叩き折られちまった。
ひどいよ、ひどいよぅ。
そして、さめざめと泣く俺の頭を…
ポフポフ
誰かが撫でていた。
「?」
ふと頭を上げると、梨花ちゃんが俺の頭を撫でていた。
「かわいそかわいそ」
この時の俺の心情を正直に言おう。
俺は梨花ちゃんが天使に見えた。
惨めだと笑いたい奴は笑うが良いさ。
とにかく俺は梨花ちゃんに救われたんだよ。
………グスン。
―――数分後。
泣き止んだ俺は、梨花ちゃんに改めてお願いする。
「なぁ、梨花ちゃん。俺達の仲間になってくれないか?」
この、心優しい少女を守るために。
護る人間が増えると、それだけ難しくなるのは百も承知。
でも、俺は梨花ちゃんを見捨てる事は出来ない。
どう考えても、この子を一人にするのは危険だ。
というか、今まで生きてこれた事自体が奇跡なくらいだ。
だから俺は梨花ちゃんを護ろうと心に決め、一緒に居ようと持ちかけた。
そして、俺の提案に梨花ちゃんは
「にぱぁ☆」
と、笑ってくれた。
* * *
「お前に言われたくねぇ!ってか、俺は変態じゃないっての!」
「立派な変態さんですよ。だって…」
「わあああぁぁぁ!!!言うなあああ!梨花ちゃんの教育上宜しくない!」
「それって、自分が変態だと認めているのと同じですよ?」
「…くっ」
私が仲間入りしてから、暫くは情報交換を行なっていた。
が、この二人と話していると、すぐに脱線してしまう。
(因みに上の会話も潤が『祐一と名雪を捜している』という話から脱線してこうなった)
何でこの二人はこんなに緊張感が無いのだろう。
殺人ゲームに強制参加させられているという自覚はあるのだろうか。
「………あ」
不意に“それ”に気付き、口元へ手をやる。
私の口は、自然に笑みを浮かべていた。
上辺だけではない、本当に自然に浮かび上がる笑み。
自覚がないのは私も同じか。
でも、嬉しい誤算だった。
こんな狂ったゲーム内でも、笑える場所はあるんだ。
それが本当に嬉しくて、つい私も、潤達のやり取りを楽しみながら話し込んでしまった。
(でも、この二人の隙は致命的ね。なら…)
そう考えた私は、突如風子の背後に回りこみ…
………腕をねじ上げた。
「…っ。梨花ちゃん、痛いですよ」
私が立ち上がっても二人とも警戒せず、腕をねじ上げても風子はまだのんきな事を言っていた。だが、
「梨花ちゃん、君はもしかして…」
流石に潤の方は気づいたようだ。
そう、それでなくては困る。
「このゲームに乗ってるのか?」
潤の疑問に私はこう答える。
「殺しなんてしたくないけど、それ以上に死にたくないから」
「だから優勝を狙う、と?」
「そう。だから二人とも、大人しくして」
* * *
まさか、こんなチビッ子がゲームに積極的に参加しているとは思わなかった。
が、現状は否が応でもその事実を突き付けてくる。
ち。またこの三択かよ。
①ハンサムでモテモテなクールガイ、北川は突如反撃のアイデアを思い付く
②仲間が助けに来てくれる
③殺される。現実は非情である
「風子と会う時の三択より、①が何気にグレードアップしてますね」
「…俺の聖域(※脳内)に進入するんじゃねえ」
ってか、お前自分の状況わかってんのかよ。
ま、現状を考えれば①しか選択肢は無い。
実際、梨花を取り抑えるのはそう困難な事じゃないと思う。
問題は、どうやって風子を救うかだが…。
まずいな。とっさには思い浮かばない。
が、ちんたらしていたら殺される。
そんな風に迷っている時、風子が突然質問して来た。
「北沢さん。チャーリー・ウィンステッドってご存知ですか?」
「そんな事言ってる場合じゃないだろうが」
意味不明の質問に、俺は風子に現状認識させようと返事する。
案の定、梨花が制止してきた。
「喋らないで」
しかし、風子は口を閉ざさない。
「とっても、とっても大事な事です」
だから俺は、梨花の様子を窺いながら、打開案を考えながら、風子の質問に答えた。
「…ああ、知ってるよ。エリートにコンプレックスを持ってるツンデレジジィろ?」
「じゃあ、チャーリーさんがサリバンさんに教えた事知ってますよね?」
!!!
その一言で俺は風子の言わんとする事が理解出来た。
何だ、コイツただの天然じゃないみたいだ。
「…ああ、知ってるよ」
「喋らないでって言ってるでしょう」
再度の警告。
だが、俺の答を受けた風子は
「解りました。なら北川さんはこれの本当の使い方を知ってると信じます」
と言って…
ヒュッ!
俺に向かって懐のコルトバイソンを投げた。
「なっ!」
意表をつかれた様に一瞬硬直する梨花。
そして俺は銃をキャッチし
「風子!梨花を抑えろ!」
と叫ぶ。
「くっ」
俺の言葉に、慌てて風子の方を向く梨花。
そして風子は…
………ボーーーッとしていた。
が、そんな事は百も承知。
俺の狙いは、俺の言葉に反応した梨花が、一瞬でも風子に気を取られるようにすること。
そしてその隙を突いて、俺は…
ガ ァ ン ! ! !
* * *
駅からオフィスに向かう途中、私(サリバン)はエルパソでの一日に聞かされたウィンステッドについての恐るべき噂の数々を思い出していた。
私がアルバカーキに行くと聞いたとき、居合わせた捜査官は争って、私の新しい上司についての悪口を言い始めた。
彼が如何に気難しく、不愉快な変人であり、一緒に働く事が如何に不可能な事であるか、いくら言っても言い足りない風であった。
ウィンステッドは駆け出しの捜査官を嫌うし、大学出を嫌う。そして何よりも、東海岸から来た人間を嫌う。
…
「小僧、エルパソじゃ、俺の事をどう聞いてきたんだ」
「エルパソでは、貴方が老練な捜査官だけれど、事件をいっぱい抱えて弱っている、と言ってます」
「小僧、この嘘つきめ。連中がお前に何を吹き込んだか、俺が知らんとでも思っているのか」
ウィンステッドはそう言って、エルパソの捜査官の間に流布しているウィンステッド評を、殆どそのまま繰り返してみせた。
「知っているんなら、何故わざわざ訊くんですか」
私は勇気を奮い起こしてそう言った。
「お前がどんな受け答えをするか見たかったのさ。あんまり高い点数はやれねえな」
私を睨み続けながら、ウィンステッドは続けた。
「エルパソの連中が言ってた事は、全部本当だ。俺と一緒に働くつもりなら、それを忘れん事だ。
俺は意地悪で不愉快な年寄りだ」
…
「小僧、お前牛の事がわかるのか。東部の都会育ちなんだろう」
「私は田舎で生まれ、田舎で育ったんです。
毎日、学校まで十キロも歩いて通ったもんです。
ボールトンの町の中は勿論ですが、ボールトンまで来る交通機関も、公共の者は何もなかったからですからね。
電話も郵便も電気もなかったんですよ。
小さいときからずっと、牛や馬の世話をして育ったんです。
今思うと、田舎から出てきたのは大きな間違いだった気がします」
「牛や馬の世話をして育ったってか」
チャーリーは意外そうに繰り返した。
「何てこった。本部が次にどんなのを送ってよこすやら…。まあ、それもいいか」
チャーリーは哲学的な呟きを漏らした。
二人の間でそのことが話題になる事は二度となかったが、私に対するチャーリーの態度は一晩で変わった。
…
チャーリーは生まれつき旺盛な好奇心を持っており、情報をよく吸収して保持し、利用する事が出来た。
簡単に自分を明かす男ではなかったが、知る価値は十分にある男であった。
私たちは、あらゆる事を語った。
例えば、容疑者を逮捕するときは
「絶対に連中と取っ組み合いをしちゃいけねえ。
“銃身でこめかみを殴るんだ”。
簡単なもんさ」
と教えてくれた。
~W・サリバン著 『FBI』~
* * *
「大丈夫か?」
「風子は大丈夫です。それよりも梨花ちゃんは…」
まず敵の安否を確認する辺り、さすが風子。
「お前のアドバイス通り、後頭部殴って眠ってもらった。
んでも、正直女の子、しかもあんないたいけな少女に手を上げるのは後味悪いな」
「梨花ちゃんが起きたら、ちゃんと謝らなきゃダメですよ」
「ヘイヘイ」
ったく。底抜けにお人よしだな。
呆れると同時に何故か込み上げる笑いを抑え、俺は梨花の下へ向かう。
コテン。
後ろから何か聞こえたような気がした。
まあいい。まずは梨花だ。
「…」
眠る梨花の頭に手を添える。
ああ、頭の頂点と後頭部にこぶが出来てる。
「…冷やしてやらなきゃな」
そしてキッチンへ行ってタオルを濡らす。
そして梨花の元へ戻り、
「ごめんな…」
こぶの箇所にタオルを当て…
ゴオオオオ!!!
眼前が火にまみれた。
「え!?」
何が起こったのか解らずうろたえている所へ
ズドッ!
腹の衝撃に転ぶ。
起き上がると、そこには銃を手にした梨花が居た。
* * *
解ってない。
この二人、全然解ってない。
そして私も解らない。
何で頭を叩いた後縛り上げないの?(さすがに殺しはして欲しくないけど)
何で私が寝たふりしていると疑問に思わないの?(素人の一撃で昏睡する訳ないじゃない)
何で私の手当てを最初にしようとするの?(しかも謝りながら)
本当、この二人何も解っていない。
だから私は起き上がり、潤の不意をついた。
ちょうど、この怪しげな指輪も実験的に試す事が出来たし(予想以上の火力に驚いたけど)、
敵を放置しておくとどういう目に遭うか、潤達もいい勉強になったでしょう。
私は銃口を潤に向けた。
* * *
まな板の鯉。
かなりピンチ。
だけどまだ生きている。
まだ終わりじゃない。
この北川君も、梨花に銃を奪われ、しかも銃口を突きつけられているかなり絶体絶命の状況だけど、まだ諦める訳には行かない。
俺だけじゃない。風子の命もかかっている以上、最後の最後まで投げ出しちゃいけないんだ。
さて、ここで本日三度目の三択だ。
①控え目に言ってもミケランジェロの彫刻のようにハンサムな北川は、突如反撃のアイデアを思い付く
②仲間が助けに来てくれる
③殺される。現実は非情である
ってか、この三択の時点で、結論は出ている。
まずは状況把握だ。相手は銃を持ってこちらは手ぶら、体格差はこちらが有利。
この状況で逃げは無い。そんなことしたら背中を撃たれる。
ならば、気迫で相手を呑んで怯ませた所を、銃を奪うのがベストだな。
「おい、クソガキ」
何とか声を震わす事無く出せた。
そう。ビビってることがばれたら負けだ。
逆に、相手をビビらせたら光明が見える。
「何?」
「ジェノサイドかましてお前だけが生き残っても、ろくな大人にならねーぞ」
「…でも、そうしなきゃ死んじゃうじゃない」
どうやら俺の話を聴く耳はあるようだ。
「アホか。そんな事しなくても生き残る手段はあるだろうが」
「どんな方法があるっていうの?」
「この首輪を外す、主催者を打倒、ゲームを無効化、ゲームに死ななくて済むようになる特別ルールを設ける、色々ある」
「そのどれか一つでも、具体的な案はあるの?」
「…今は無い。けど見つけてやるさ。必ずな」
「…」
梨花は銃口を俺に向けたまま黙っている。
「もう一度訊く。お前はゲームに乗るのか?」
「何度訊かれても答えは同じ。私は死にたくない」
「そうか…」
「話は終わり?じゃあ二人とも大人しく敗北を認めて」
「やなこった。その前にやる事があるからな」
「?」
小首をかしげる少女。
状況が状況じゃなきゃ可愛いのに。
そう考えながら、俺は眼前に拳を掲げる。
「これ以上女の子を殴るのは勘弁したい所だが、躾がなってないなら仕方ない。灸を据えてやる」
「素手で銃に立ち向かうというの?」
「俺の拳は、お前みたいに寝ぼけた事言ってる奴の目を覚ますためにあるんだよ」
祐一が居たら馬鹿笑いされそうなセリフ。
だが、この時だけは、かなりマジ入ってた。
「その前に、銃弾が貴方の命の灯を消し去るわよ」
年不相応に眼を細める少女に向かって、精一杯のハッタリをかます。
「勝負に乗ってやろうじゃねえか。叩き込むのは命の灯を消し去る銃弾か、目を覚ます一撃か」
「…」
そして梨花と睨み合いながら、俺は風子に向かって告げる。
「おい、風子。お前はこの場を離れてろ。俺に何かあったら逃げ…」
そして風子の方を伺い…
「Zzzzzzz………」
「アホオオオォォォ!!!」
ガ ン ! ! !
…思いっっっ切り殴ってやった。
* * *
「…」
私は眼前の光景に絶句していた。
けど、それも仕方ない事じゃない。
シリアスなバトルフィールドが、何故か漫才の舞台と化していたのだから。
「痛っ!…北川さん。乙女の安らかなまどろみを邪魔するとは、紳士の風上にもおけません」
「不自然に静かだと思ったらそういう事か!
ってか、何でこの状況で眠れるんだ、お前は!?それ以前に、お前寝過ぎだ!
…って、ああああ!突っ込みどころ満載で、どこから突っ込んでいいのかわからねえええ!!!」
そこに、つい横槍を入れてしまう私。
「なるほど。確かに目を覚ます一撃だわ」
呟き声は、しっかり潤の耳に届いていたらしい。
振り返りざま、私に弁解してくる。
「ちょ、違う!そういう意味じゃねえ!もう一度やり直しだ!!!」
「テイク2ですか。風子がもう一度寝るところから始めるんですね。おやすみなさい…」
「寝るなあああぁぁぁ!!!」
「そんなこと言っても、食後は眠いんですよ」
「食後はいつも寝るのか!?お前は!」
「そんなこと無いですけど、今日は食べ過ぎておなかが重くて…」
「ま、まさか…」
そう言いながら潤が見上げる先にあるのは、テーブルの上に置かれた空の皿群。
「あああぁぁぁ!!!俺のピザ!!!」
「北川さんのお昼、おいしかったです。褒めてあげます」
「それは俺の分だあああぁぁぁ!!!吐け!もどせぇ!!!」
「風子がもどしたピザを食べたいんですか?北川さん、やっぱり変態…」
「違ぁぁぁう!!!」
「………あの」
黙って見てる限り、永久にこの漫才は終わりそうに無いので、口を挟ませて貰った。
不毛な言い合いをしていた二人は、同時にこちらを向く。
「今、貴方達が何とかしなくちゃいけない相手って誰だっけ」
私の質問に、二人は無言で指差す。
潤は風子を、風子は潤を。
「………」
あ、頭痛い…、やっぱり別の意味で。
こりゃ、私がどうにか出来るもんじゃないわね。
そう考えた私は、銃を放り投げた。
「「???」」
私の行動の真意を測りかねている二人に向かって、私は告げた。
「降参。貴方達の勝ちよ」
* * *
突然降参する梨花に、俺は唖然とした。
ちなみに風子は、
「やった♪風子達の快進撃は止まる所を知りません」
とか言ってる。
それは無視するとして、どういう事だ?
何故あの状況で降参する?
俺達を殺そうとするのなら、降参どころかこれほどやりやすい状況は無い…
「って、ああああああ!!!俺達殺されかけてんじゃん!」
今思い出した。
ヤバイ、知らず知らずの内に、俺も風子ののほほんブレーンに染められている。
案の定、梨花に
「…今頃思い出したの?」
と溜め息を吐かれた。
返す言葉もありません。
にしても、このタイミングで俺達を殺さない梨花は、ゲームに乗っている人間とは到底思えない。
だから俺は確認をする。
「なあ。お前、ゲームに乗ってないだろ」
「…」
「何で嘘をついた?」
沈黙を守る梨花。
まあ、どうしても言いたくないのなら無理して聞く話でもない。
だが、聴けるのなら聴きたいのも事実。
だから俺は、梨花が口を開くのを待った。
「………から」
「?」
梨花がポツリと呟いた言葉を聞き逃した。
「悪い。もう一回言ってくれ」
俺の言葉を受け、梨花は顔を上げてはっきりと告げる。
「貴方達なら、口だけじゃなくて本当に生き残る手段を見つけてくれそうだから」
* * *
「貴方達なら、口だけじゃなくて本当に生き残る手段を見つけてくれそうだから」
私のこの言葉はウソ。
私が潤たちに降参した理由は一つ。
そして私が彼等に立ちはだかった理由も一つ。
彼等に危機感を抱いて欲しかったからだった。
目を覚ました時から思ってた。ここは居心地が良い。
この場が殺し合いの舞台である事を忘れさせてくれる。
疑心暗鬼に陥ってた私がバカに思えるくらい。
打倒主催者の為、一致団結するチームもあるだろう。
外敵から身を守る為に互いを信じるチームもあるだろう。
だが、ここ以上に“日常に近いチームがあるだろうか”。
主催者を倒し元の世界に戻るためには、打倒主催者チームは必須だろう。
でも、私はこう考える。
“元の世界に戻った後、この凄惨なゲームに縛られずに日常へ戻るには、この二人のような人たちが必要だ”と。
だからこの二人に願う。
敵に襲われない時はさっきのようなテンションで良い。
でも、敵と思われる人間が居る時は無防備で居て欲しくない。
でないと、いつか死んでしまう。
だから、
①私が勝利し、潤達を配下にしつつ、彼等に緊張感を与える
②私は敗北し、潤たちの配下になり、潤達は今回のトラブルから学んで緊張感を得る
どちらかの結果がえられると考え彼らに襲い掛かったり銃を向けたりしたのだけど、
結果は“私じゃこの雰囲気は壊せない”というもの。
だから私は降参した。
彼らに緊張感を植え付け、気を引き締めてゲームに向かわせる事を諦めた。
その代わり…
「だから、私を仲間にして下さい」
潤達に守って貰おうという内容のお願い。
でも私の心の内は全く逆。
私に出来る事は少ないけど、このチームを外敵から守るため、私に出来る可能な限りの事をしよう。
それが私の下した決断だった。
* * *
俺は今、改めて仲間になった梨花と相談をしている。
(ちなみに相談に入る前にこっぴどく叱られた。
『銃を手にしている敵を前に漫才を始める奴がいるか!』って。
まあ、色々と勉強になったよ、うん。)
「じゃあ、出入り口に車を置いてたら何か仕掛けられるかも知れないから、駐車場に入れておいた方が良いのか」
「そう思う。で、
“道具材料豊かな百貨店に陣取っている”“店内に潤達以外の人間はゼロ”
こんな恵まれた状況なら、下手に動かずにいた方が良さそうね」
「ああ。トラップとか仕掛けてここをホームにする事で、戦闘になっても俺達を有利に働かせる事が出来るからな」
「トラップは、風子にも手伝ってもらった方が良いわね」
「あいつが!?ただ糸張って、引っ掛かったら落ちる仕掛けだろ?」
「いくら私でも、そんなのには引っ掛からないわよ。あの子、意外に器用よ。
さっきの罠も、タイル目に合わせて糸を3つ位張り、どれかを踏むと落下すると言う仕掛け。
予め知っていないと見切るのは難しいんじゃないかしら」
「そうか…。なら梨花の言う通りにしよう」
「でも、第二放送がもうすぐ始まるから、それを聴き終えてからにしましょうか」
「いや、先に車だけでも入れとくよ。第二放送が終わって俺が戻ったら風子も含めて一緒に始めよう。
後、百貨店では得られないものをどうするか考えないと」
「銃とか?」
梨花の疑問に俺は肯く。
「あぁ。俺等の装備じゃ、マシンガンやバズーカ持ってる相手に何とかなると思えないし。
それに仲間もどうにかして見つけないと」
「そうね」
そして暫く沈黙が下りた。
「そういえば、一つ気になってるんだけど…」
「言うな」
言わないでくれ、梨花の訊きたい事も、その答えも解り過ぎるくらい解ってるんだから。
「ってなわけで、俺が車入れてる間、梨花は第二放送と“そちら”を頼む」
「えぇ」
そう、何で俺と梨花だけで打ち合わせしてるのか。そしてその理由は…。
―――家具ルーム
「Zzzzzz…」
【A-3 百貨店店内/1日目 昼】
【北川潤@Kanon】
【装備】:コルトパイソン(.357マグナム弾6/6)、首輪探知レーダー、車の鍵
【所持品】:支給品一式×2、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本)
ノートパソコン(六時間/六時間)、 ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×7
【状態】:至って健康
【思考・行動】
基本:殺し合いには乗らない。というかもう乗れねーつーの!
1:車を駐車場へ移し、百貨店内の探索&トラップ
2:第二放送後は梨花たちと合流して1を続ける
3:百貨店を拠点とし、風子と梨花を守る
2:知り合い(相沢祐一、水瀬名雪)と信用できそうな人物を捜索したいんだけど、二人(風子達)をわざわざ危険に晒すわけにもいかないからなぁ
3:PCの専門知識を持った人物に役場のPCのことを教える
4:鳴海孝之(名前は知らない)をマーダーと断定
5:てかさ、いい加減俺のタイトル『童貞男』にするの止めて欲しいんだけど
【備考】
※チンゲラーメンの具がアレかどうかは不明。
※チンゲラーメンを1個消費しました。
※パソコンの新機能「微粒電磁波」は、3時間に一回で効果は3分です。一度使用すると自動的に充電タイマー発動します。
また、6時間使用しなかったからと言って、2回連続で使えるわけではありません。それと死人にも使用できます。
※チェーンソのバッテリーは、エンジンをかけっ放しで2時間は持ちます。
※首輪探知レーダーが人間そのものを探知するのか、首輪を探知するのかまだ判断がついてません。
※車は百貨店の出入り口の前に駐車してあります。(万一すぐに移動できるようにドアにロックはかけていません)
※車は外車で左ハンドル、燃料はガソリン。
※一連の戦闘で車の助手席側窓ガラスは割れ、右側面及び天井が酷く傷ついています。
【伊吹風子@CLANNAD】
【装備】:無し(コルトパイソンは潤に預けたまま)
【所持品】:支給品一式、猫耳&シッポ@ひぐらしのなく頃に祭、赤いハチマキ(結構長い)
【状態】:健康。満腹
【思考・行動】
1:Zzzzzz…
2:北川さんは風子がいないと本当に駄目ですね。やれやれです
【備考】
※状況をまだ完全には理解していません
※名簿に目を通していないので朋也たちも殺し合いに参加していることを知りません
【A-3 北東部(百貨店店内)/1日目 昼】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備】:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に 祭
ヒムカミの指輪(残り2回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄
紫和泉子の宇宙服@D.C.P.S.
【所持品】:支給品一式
【状態】:健康…と言いたい所だけど、頭にこぶ二つ
【思考・行動】
基本:潤と風子を守る。そのために出来る事をする
1:幸せそうな子ね(風子の眠るベッド脇に腰掛けながら)
2:第二放送を聴く。その後、風子を起こして捜索、トラップ仕掛けを潤と一緒に始める(風子のトラップ技術を評価)
3:取り敢えずは潤達と一緒に居る
4:もしも(別の仲間が入る等して)自分がいなくても潤達が安全だと判断出来たら、一人で圭一達を探しに行く(D-2へ)
5:死にたくない(優勝以外の生き残る方法を見付けたい)
【備考】
※皆殺し編直後の転生。
※ネリネを危険人物と判断しました。
※探したい人間の優先順位は圭一→赤坂→大石の順番です。
※ヒムカミの指輪について
・ヒムカミの力が宿った指輪。近距離の敵単体に炎を放てる。
・ビジュアルは赤い宝玉の付いた指輪で、宝玉の中では小さな炎が燃えています。
・原作では戦闘中三回まで使用可能ですが、ロワ制限で戦闘関係無しに使用回数が3回までとなっています。
※紫和泉子の宇宙服について
・紫和泉子が普段から着用している着ぐるみ。
・ピンク色をしたテディベアがD.C.の制服を着ているというビジュアル。
・水に濡れると故障する危険性が高いです。
・イメージコンバータを起動させると周囲の人間には普通の少女(偽装体)のように見えます。
・朝倉純一にはイメージコンバータが効かず、熊のままで見えます。
・またイメージコンバータは人間以外には効果が無いようなので、土永さんにも熊に見えると思われます。
(うたわれの亜人などの種族が人間では無いキャラクターに関して効果があるかは、後続の書き手さんにお任せします)
宇宙服データ
身長:170cm
体重:不明
3サイズ:110/92/123
偽装体データ
スレンダーで黒髪が美しく長い美人
身長:158cm
体重:不明
3サイズ:79/54/80
|111:[[完璧な間違い(後編)]]|投下順に読む|113:[[第一回定時放送]]|
|111:[[完璧な間違い(後編)]]|時系列順に読む|113:[[第一回定時放送]]|
|104:[[来客の多い百貨店]]|古手梨花||
|104:[[来客の多い百貨店]]|伊吹風子||
|104:[[来客の多い百貨店]]|北川潤||
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**童貞男の乾坤一擲 ◆QJWUEHXtwM
「…」
「♪♪♪~ ♪~」
テテテッ
俺がパスタをゆでている間、風子はキッチンに入り何かを探していた。
「………」
「♪♪♪♪~」
タタタッ
俺がピザを焼いている間、風子はキッチンを出て外でガチャガチャやっていた。
「………………」
「♪♪♪~ ♪♪♪~」
俺が皿を並べている間、風子はいつの間にか戻り、鼻歌交じりに眺めていた。
「………………出来た」
「わぁ、ようやくですか」
待ち遠しかったとばかりに飛びつこうとする風子に、当然の疑問を投げ掛ける。
「なぁ、何で俺一人で料理してんの?」
「お昼♪お昼♪」
聴いちゃいねぇよ。
まあ、俺も腹は減ってる事だし深くは追求しないでおくか。
「じゃあ、フロアに持ってくぞ」
そして俺と風子の分を持って行く。
今日のお昼は、
『ピザ(冷凍)』『ペペロンチーノ』
である。
(カレーにしようとしたら、風子に『カレーは夜。昼はパスタ』と駄々をこねられた。ずっとココに居座る気かよ、オイ)
* * *
「ほぅいえあさ」
「…北川さん。口に物を入れながら喋るのはお行儀が悪いですよ」
「…」
モグモグモグ………ゴクン。
「そういえばさ、俺が料理作っている間キッチン出入りしてたけど、何かしてたのか?」
その質問をした途端、風子の眼が輝いた。
「聴きたいですか?」
「…」
この時点で見当はついた。
………ロクなことじゃないって事だけは。
が、風子は話したいオーラを全身から放っている。
こりゃ、とめる事は出来ないか。やぶ蛇だったなぁ。
そう思いながら、何気なく探知機を懐から出す。
「実はですね…」
「!」
その時に気付いた。探知機に一つの反応が現れていたのに。
しまった。何でもっと早く気付かなかったんだ。
「その話は後だ!!!」
風子の話を遮り立ち上がる。
「?どうかしましたか?」
「誰かがこっちに近付いて来る。逃げるぞ」
そう言って、探知機を風子に見せる。
「…」
が、風子は動かない。
ったく、俊敏な動きの取れない奴だな。
「ホラ」
そう言って風子を立たせようと手首を掴み、風子に
「動かない方が良いです」
と、言われた。
「え?」
「北川さん。相手は一人、しかも階段を上って来ます」
「そうだが?」
まあ、エレベーターを使うアホはそう居ないだろう。
「さっき言いかけましたけど、北川さんが料理している間、階段口に罠を仕掛けておきました。だから問題無しです」
「罠?」
「糸に引っ掛かると中華ナベが降ってきます」
「…」
絶句。
こいつ、行動を共にすればするほど、天然っぷりに磨きが掛かってこないか?
「ふふん。驚くほどのものではないですよ」
と胸を張りつつ言う風子。
どうやら俺の無言を感心して二の句が告げないと受け取ったらしい。
「あのなぁ。そんな子供だましに引っ掛かるバカが居るわきゃないだろ?
そんな奴が居たらお目にかかりたい…」
ゴ ン ! ! ! ! ! !
「…」
ウソ。
「お目にかかります?」
「…はい」
そして二人して立ち上がり、罠に引っ掛かった人間を調べる為、俺は風子の後について行った。
得意気な表情で現場に向かう風子の後を、とぼとぼと。
何?この敗北感。
* * *
………………
………
…
「………ん」
目を覚ました時、私は寝かされていた。
確か私は、百貨店に入って、圭一たちに会った時の事を考え宇宙服を脱いだ。
そして1階から順に調べて回って、7階まで来た時に…
「…くっ」
起きようとすると同時に襲い掛かる頭痛。
どうやら私は、何者かに頭を殴打されたらしい。
そして、状況を把握しようとして驚いた。
まず、私はどこも拘束されていない。
デイバッグこそ辺りに無いものの、床の上にテーブルクロスを敷き、その上に横たえられていた。
そして、痛む頭には冷えたタオルが載せられている。
どうやら私は、誰かに看病してもらっているようだ。
そういえば、誰かの声が聴こえてくる。
私は寝たふりをして聞き耳を立てた。
「…だから、これは俺の分だっての!」
「今回のピンチを救った風子に、労りの1ピースをくれたって良いじゃないですか」
「いたいけな子供に無差別攻撃を仕掛けただけだろうが!絶対謝れよ!」
(…)
何か、会話の内容がやたら緊張感が無い気がするけど、
多分、今会話中の人達が助けてくれたのだろう。
そして私に攻撃したのも彼らのようだ。
「という訳で、後の事は北側さんに任せます」
「何で俺なんだよ」
「風子には解るんです。今回の書き手さんは風子を活躍させる気がありません」
「(…ついにリアルに干渉しやがったよ、こいつの電波)」
「?何か言いました?」
「じゃあ何で中華ナベはあの子にクリーンヒットしたんだよ、って言ったの」
ちゅ、中華ナベ。
私はそんな原始的な罠に引っ掛かったの?
別の意味で頭が痛くなってきた。
「むむ。変態さんのクセに理路整然としてますね」
「こんな時だけ変態言うな!!!」
…何?この呑気な会話。
ここまでの会話を盗み聞きして、取り敢えず確定した事が一つ。
この二人、人畜無害。
いや、脳天に一撃喰らったようだけど、この人達に殺される可能性はゼロ。
だって、この緊張感の無さったら…。
そう考えた私は寝たふりを止め、起き上がった。
「あ…」
女の人は、私が起きた事にすぐに気付いた。
「ん?どうした」
「あの子、起きたようです」
そう言って、女の人が私を指し、男の人が振り返った。
* * *
「本当にゴメンな。梨花ちゃん」
「ゴメンナサイ。人を選ばないトラップを仕掛けた風子が悪かったです。この通りです」
俺達の所為で頭に怪我した少女に自己紹介をして、名前を聞いた後に先ず俺達がやった事。
それは謝罪。
梨花ちゃんは
「へいきなのです」
とだけ答えた。
口数の少ない子だな。
まあ、俺達の事を警戒しているのかも知れない。
「ところで、今まで一人で居たの?」
梨花ちゃんの不安を少しでも和らげるよう、俺は出来る限り優しい声で訊いた。
俺の質問に、梨花ちゃんは肯く。
「じゃあさ、俺達と一緒に居ない?一人で居るよりずっと安全だからさ」
「…」
俺の言葉に、キョロキョロと俺達を見比べる梨花ちゃん。
やはり警戒しているのだろう。梨花ちゃんにとって、俺達は得体の知れない人間なのだから。
「その方が良いですよ、梨花ちゃん」
そこに入る風子のフォロー。
そうだな。この場合は俺みたいな男より、女の方が説得しやすいだろう。
幸い、今の風子は電波を受信していそうじゃない…
「ココで風子達と別れると、梨花ちゃんは空気になっちゃいますよ」
アンテナ立ってたあああぁぁぁ!!!
しかも受信してるの、よりによってリア電(※『リアルへ干渉する電波』の略)かよ!!!
さっき開花させた能力をもう使いこなしてやがる!
「おま、訳わかんない事言うな!」
「そうそう、北川さんだって、風子がいないとひどい扱いを受ける所だったんですから」
俺の制止を受け流す風子。
更に何気に酷い事言われた。
「どこがだ!」
「立ち絵が一枚しか無い北川さんは…」
「ぎゃあああぁぁぁ!!!」
言わないで!俺の深層意識のトラウマ!
おのれリア電。
ただでさえ“天然”+“電波”という相乗効果を持つ風子の凶悪性を助長しやがって。
「って、そりゃ原作の話だろうが!今は関係ねぇ!
それに俺達みたいな立場の人間は、お前らよりも少なくなるのは仕方が無いんだよ!!!」
言い返す俺の声は涙声になっていた。
目じりに溜まる涙が零れ落ちないよう必死に堪える。
大丈夫、俺泣かないよ。だって男の子だもん。
「でも、一枚というのは稀に見るほどの雑な扱い…」
「うわあああぁぁぁん!!!!!!」
決意は2秒後に崩れていた。
男のプライド完全に叩き折られちまった。
ひどいよ、ひどいよぅ。
そして、さめざめと泣く俺の頭を…
ポフポフ
誰かが撫でていた。
「?」
ふと頭を上げると、梨花ちゃんが俺の頭を撫でていた。
「かわいそかわいそ」
この時の俺の心情を正直に言おう。
俺は梨花ちゃんが天使に見えた。
惨めだと笑いたい奴は笑うが良いさ。
とにかく俺は梨花ちゃんに救われたんだよ。
………グスン。
―――数分後。
泣き止んだ俺は、梨花ちゃんに改めてお願いする。
「なぁ、梨花ちゃん。俺達の仲間になってくれないか?」
この、心優しい少女を守るために。
護る人間が増えると、それだけ難しくなるのは百も承知。
でも、俺は梨花ちゃんを見捨てる事は出来ない。
どう考えても、この子を一人にするのは危険だ。
というか、今まで生きてこれた事自体が奇跡なくらいだ。
だから俺は梨花ちゃんを護ろうと心に決め、一緒に居ようと持ちかけた。
そして、俺の提案に梨花ちゃんは
「にぱぁ☆」
と、笑ってくれた。
* * *
「お前に言われたくねぇ!ってか、俺は変態じゃないっての!」
「立派な変態さんですよ。だって…」
「わあああぁぁぁ!!!言うなあああ!梨花ちゃんの教育上宜しくない!」
「それって、自分が変態だと認めているのと同じですよ?」
「…くっ」
私が仲間入りしてから、暫くは情報交換を行なっていた。
が、この二人と話していると、すぐに脱線してしまう。
(因みに上の会話も潤が『祐一と名雪を捜している』という話から脱線してこうなった)
何でこの二人はこんなに緊張感が無いのだろう。
殺人ゲームに強制参加させられているという自覚はあるのだろうか。
「………あ」
不意に“それ”に気付き、口元へ手をやる。
私の口は、自然に笑みを浮かべていた。
上辺だけではない、本当に自然に浮かび上がる笑み。
自覚がないのは私も同じか。
でも、嬉しい誤算だった。
こんな狂ったゲーム内でも、笑える場所はあるんだ。
それが本当に嬉しくて、つい私も、潤達のやり取りを楽しみながら話し込んでしまった。
(でも、この二人の隙は致命的ね。なら…)
そう考えた私は、突如風子の背後に回りこみ…
………腕をねじ上げた。
「…っ。梨花ちゃん、痛いですよ」
私が立ち上がっても二人とも警戒せず、腕をねじ上げても風子はまだのんきな事を言っていた。だが、
「梨花ちゃん、君はもしかして…」
流石に潤の方は気づいたようだ。
そう、それでなくては困る。
「このゲームに乗ってるのか?」
潤の疑問に私はこう答える。
「殺しなんてしたくないけど、それ以上に死にたくないから」
「だから優勝を狙う、と?」
「そう。だから二人とも、大人しくして」
* * *
まさか、こんなチビッ子がゲームに積極的に参加しているとは思わなかった。
が、現状は否が応でもその事実を突き付けてくる。
ち。またこの三択かよ。
①ハンサムでモテモテなクールガイ、北川は突如反撃のアイデアを思い付く
②仲間が助けに来てくれる
③殺される。現実は非情である
「風子と会う時の三択より、①が何気にグレードアップしてますね」
「…俺の聖域(※脳内)に進入するんじゃねえ」
ってか、お前自分の状況わかってんのかよ。
ま、現状を考えれば①しか選択肢は無い。
実際、梨花を取り抑えるのはそう困難な事じゃないと思う。
問題は、どうやって風子を救うかだが…。
まずいな。とっさには思い浮かばない。
が、ちんたらしていたら殺される。
そんな風に迷っている時、風子が突然質問して来た。
「北沢さん。チャーリー・ウィンステッドってご存知ですか?」
「そんな事言ってる場合じゃないだろうが」
意味不明の質問に、俺は風子に現状認識させようと返事する。
案の定、梨花が制止してきた。
「喋らないで」
しかし、風子は口を閉ざさない。
「とっても、とっても大事な事です」
だから俺は、梨花の様子を窺いながら、打開案を考えながら、風子の質問に答えた。
「…ああ、知ってるよ。エリートにコンプレックスを持ってるツンデレジジィろ?」
「じゃあ、チャーリーさんがサリバンさんに教えた事知ってますよね?」
!!!
その一言で俺は風子の言わんとする事が理解出来た。
何だ、コイツただの天然じゃないみたいだ。
「…ああ、知ってるよ」
「喋らないでって言ってるでしょう」
再度の警告。
だが、俺の答を受けた風子は
「解りました。なら北川さんはこれの本当の使い方を知ってると信じます」
と言って…
ヒュッ!
俺に向かって懐のコルトバイソンを投げた。
「なっ!」
意表をつかれた様に一瞬硬直する梨花。
そして俺は銃をキャッチし
「風子!梨花を抑えろ!」
と叫ぶ。
「くっ」
俺の言葉に、慌てて風子の方を向く梨花。
そして風子は…
………ボーーーッとしていた。
が、そんな事は百も承知。
俺の狙いは、俺の言葉に反応した梨花が、一瞬でも風子に気を取られるようにすること。
そしてその隙を突いて、俺は…
ガ ァ ン ! ! !
* * *
駅からオフィスに向かう途中、私(サリバン)はエルパソでの一日に聞かされたウィンステッドについての恐るべき噂の数々を思い出していた。
私がアルバカーキに行くと聞いたとき、居合わせた捜査官は争って、私の新しい上司についての悪口を言い始めた。
彼が如何に気難しく、不愉快な変人であり、一緒に働く事が如何に不可能な事であるか、いくら言っても言い足りない風であった。
ウィンステッドは駆け出しの捜査官を嫌うし、大学出を嫌う。そして何よりも、東海岸から来た人間を嫌う。
…
「小僧、エルパソじゃ、俺の事をどう聞いてきたんだ」
「エルパソでは、貴方が老練な捜査官だけれど、事件をいっぱい抱えて弱っている、と言ってます」
「小僧、この嘘つきめ。連中がお前に何を吹き込んだか、俺が知らんとでも思っているのか」
ウィンステッドはそう言って、エルパソの捜査官の間に流布しているウィンステッド評を、殆どそのまま繰り返してみせた。
「知っているんなら、何故わざわざ訊くんですか」
私は勇気を奮い起こしてそう言った。
「お前がどんな受け答えをするか見たかったのさ。あんまり高い点数はやれねえな」
私を睨み続けながら、ウィンステッドは続けた。
「エルパソの連中が言ってた事は、全部本当だ。俺と一緒に働くつもりなら、それを忘れん事だ。
俺は意地悪で不愉快な年寄りだ」
…
「小僧、お前牛の事がわかるのか。東部の都会育ちなんだろう」
「私は田舎で生まれ、田舎で育ったんです。
毎日、学校まで十キロも歩いて通ったもんです。
ボールトンの町の中は勿論ですが、ボールトンまで来る交通機関も、公共の者は何もなかったからですからね。
電話も郵便も電気もなかったんですよ。
小さいときからずっと、牛や馬の世話をして育ったんです。
今思うと、田舎から出てきたのは大きな間違いだった気がします」
「牛や馬の世話をして育ったってか」
チャーリーは意外そうに繰り返した。
「何てこった。本部が次にどんなのを送ってよこすやら…。まあ、それもいいか」
チャーリーは哲学的な呟きを漏らした。
二人の間でそのことが話題になる事は二度となかったが、私に対するチャーリーの態度は一晩で変わった。
…
チャーリーは生まれつき旺盛な好奇心を持っており、情報をよく吸収して保持し、利用する事が出来た。
簡単に自分を明かす男ではなかったが、知る価値は十分にある男であった。
私たちは、あらゆる事を語った。
例えば、容疑者を逮捕するときは
「絶対に連中と取っ組み合いをしちゃいけねえ。
“銃身でこめかみを殴るんだ”。
簡単なもんさ」
と教えてくれた。
~W・サリバン著 『FBI』~
* * *
「大丈夫か?」
「風子は大丈夫です。それよりも梨花ちゃんは…」
まず敵の安否を確認する辺り、さすが風子。
「お前のアドバイス通り、後頭部殴って眠ってもらった。
んでも、正直女の子、しかもあんないたいけな少女に手を上げるのは後味悪いな」
「梨花ちゃんが起きたら、ちゃんと謝らなきゃダメですよ」
「ヘイヘイ」
ったく。底抜けにお人よしだな。
呆れると同時に何故か込み上げる笑いを抑え、俺は梨花の下へ向かう。
コテン。
後ろから何か聞こえたような気がした。
まあいい。まずは梨花だ。
「…」
眠る梨花の頭に手を添える。
ああ、頭の頂点と後頭部にこぶが出来てる。
「…冷やしてやらなきゃな」
そしてキッチンへ行ってタオルを濡らす。
そして梨花の元へ戻り、
「ごめんな…」
こぶの箇所にタオルを当て…
ゴオオオオ!!!
眼前が火にまみれた。
「え!?」
何が起こったのか解らずうろたえている所へ
ズドッ!
腹の衝撃に転ぶ。
起き上がると、そこには銃を手にした梨花が居た。
* * *
解ってない。
この二人、全然解ってない。
そして私も解らない。
何で頭を叩いた後縛り上げないの?(さすがに殺しはして欲しくないけど)
何で私が寝たふりしていると疑問に思わないの?(素人の一撃で昏睡する訳ないじゃない)
何で私の手当てを最初にしようとするの?(しかも謝りながら)
本当、この二人何も解っていない。
だから私は起き上がり、潤の不意をついた。
ちょうど、この怪しげな指輪も実験的に試す事が出来たし(予想以上の火力に驚いたけど)、
敵を放置しておくとどういう目に遭うか、潤達もいい勉強になったでしょう。
私は銃口を潤に向けた。
* * *
まな板の鯉。
かなりピンチ。
だけどまだ生きている。
まだ終わりじゃない。
この北川君も、梨花に銃を奪われ、しかも銃口を突きつけられているかなり絶体絶命の状況だけど、まだ諦める訳には行かない。
俺だけじゃない。風子の命もかかっている以上、最後の最後まで投げ出しちゃいけないんだ。
さて、ここで本日三度目の三択だ。
①控え目に言ってもミケランジェロの彫刻のようにハンサムな北川は、突如反撃のアイデアを思い付く
②仲間が助けに来てくれる
③殺される。現実は非情である
ってか、この三択の時点で、結論は出ている。
まずは状況把握だ。相手は銃を持ってこちらは手ぶら、体格差はこちらが有利。
この状況で逃げは無い。そんなことしたら背中を撃たれる。
ならば、気迫で相手を呑んで怯ませた所を、銃を奪うのがベストだな。
「おい、クソガキ」
何とか声を震わす事無く出せた。
そう。ビビってることがばれたら負けだ。
逆に、相手をビビらせたら光明が見える。
「何?」
「ジェノサイドかましてお前だけが生き残っても、ろくな大人にならねーぞ」
「…でも、そうしなきゃ死んじゃうじゃない」
どうやら俺の話を聴く耳はあるようだ。
「アホか。そんな事しなくても生き残る手段はあるだろうが」
「どんな方法があるっていうの?」
「この首輪を外す、主催者を打倒、ゲームを無効化、ゲームに死ななくて済むようになる特別ルールを設ける、色々ある」
「そのどれか一つでも、具体的な案はあるの?」
「…今は無い。けど見つけてやるさ。必ずな」
「…」
梨花は銃口を俺に向けたまま黙っている。
「もう一度訊く。お前はゲームに乗るのか?」
「何度訊かれても答えは同じ。私は死にたくない」
「そうか…」
「話は終わり?じゃあ二人とも大人しく敗北を認めて」
「やなこった。その前にやる事があるからな」
「?」
小首をかしげる少女。
状況が状況じゃなきゃ可愛いのに。
そう考えながら、俺は眼前に拳を掲げる。
「これ以上女の子を殴るのは勘弁したい所だが、躾がなってないなら仕方ない。灸を据えてやる」
「素手で銃に立ち向かうというの?」
「俺の拳は、お前みたいに寝ぼけた事言ってる奴の目を覚ますためにあるんだよ」
祐一が居たら馬鹿笑いされそうなセリフ。
だが、この時だけは、かなりマジ入ってた。
「その前に、銃弾が貴方の命の灯を消し去るわよ」
年不相応に眼を細める少女に向かって、精一杯のハッタリをかます。
「勝負に乗ってやろうじゃねえか。叩き込むのは命の灯を消し去る銃弾か、目を覚ます一撃か」
「…」
そして梨花と睨み合いながら、俺は風子に向かって告げる。
「おい、風子。お前はこの場を離れてろ。俺に何かあったら逃げ…」
そして風子の方を伺い…
「Zzzzzzz………」
「アホオオオォォォ!!!」
ガ ン ! ! !
…思いっっっ切り殴ってやった。
* * *
「…」
私は眼前の光景に絶句していた。
けど、それも仕方ない事じゃない。
シリアスなバトルフィールドが、何故か漫才の舞台と化していたのだから。
「痛っ!…北川さん。乙女の安らかなまどろみを邪魔するとは、紳士の風上にもおけません」
「不自然に静かだと思ったらそういう事か!
ってか、何でこの状況で眠れるんだ、お前は!?それ以前に、お前寝過ぎだ!
…って、ああああ!突っ込みどころ満載で、どこから突っ込んでいいのかわからねえええ!!!」
そこに、つい横槍を入れてしまう私。
「なるほど。確かに目を覚ます一撃だわ」
呟き声は、しっかり潤の耳に届いていたらしい。
振り返りざま、私に弁解してくる。
「ちょ、違う!そういう意味じゃねえ!もう一度やり直しだ!!!」
「テイク2ですか。風子がもう一度寝るところから始めるんですね。おやすみなさい…」
「寝るなあああぁぁぁ!!!」
「そんなこと言っても、食後は眠いんですよ」
「食後はいつも寝るのか!?お前は!」
「そんなこと無いですけど、今日は食べ過ぎておなかが重くて…」
「ま、まさか…」
そう言いながら潤が見上げる先にあるのは、テーブルの上に置かれた空の皿群。
「あああぁぁぁ!!!俺のピザ!!!」
「北川さんのお昼、おいしかったです。褒めてあげます」
「それは俺の分だあああぁぁぁ!!!吐け!もどせぇ!!!」
「風子がもどしたピザを食べたいんですか?北川さん、やっぱり変態…」
「違ぁぁぁう!!!」
「………あの」
黙って見てる限り、永久にこの漫才は終わりそうに無いので、口を挟ませて貰った。
不毛な言い合いをしていた二人は、同時にこちらを向く。
「今、貴方達が何とかしなくちゃいけない相手って誰だっけ」
私の質問に、二人は無言で指差す。
潤は風子を、風子は潤を。
「………」
あ、頭痛い…、やっぱり別の意味で。
こりゃ、私がどうにか出来るもんじゃないわね。
そう考えた私は、銃を放り投げた。
「「???」」
私の行動の真意を測りかねている二人に向かって、私は告げた。
「降参。貴方達の勝ちよ」
* * *
突然降参する梨花に、俺は唖然とした。
ちなみに風子は、
「やった♪風子達の快進撃は止まる所を知りません」
とか言ってる。
それは無視するとして、どういう事だ?
何故あの状況で降参する?
俺達を殺そうとするのなら、降参どころかこれほどやりやすい状況は無い…
「って、ああああああ!!!俺達殺されかけてんじゃん!」
今思い出した。
ヤバイ、知らず知らずの内に、俺も風子ののほほんブレーンに染められている。
案の定、梨花に
「…今頃思い出したの?」
と溜め息を吐かれた。
返す言葉もありません。
にしても、このタイミングで俺達を殺さない梨花は、ゲームに乗っている人間とは到底思えない。
だから俺は確認をする。
「なあ。お前、ゲームに乗ってないだろ」
「…」
「何で嘘をついた?」
沈黙を守る梨花。
まあ、どうしても言いたくないのなら無理して聞く話でもない。
だが、聴けるのなら聴きたいのも事実。
だから俺は、梨花が口を開くのを待った。
「………から」
「?」
梨花がポツリと呟いた言葉を聞き逃した。
「悪い。もう一回言ってくれ」
俺の言葉を受け、梨花は顔を上げてはっきりと告げる。
「貴方達なら、口だけじゃなくて本当に生き残る手段を見つけてくれそうだから」
* * *
「貴方達なら、口だけじゃなくて本当に生き残る手段を見つけてくれそうだから」
私のこの言葉はウソ。
私が潤たちに降参した理由は一つ。
そして私が彼等に立ちはだかった理由も一つ。
彼等に危機感を抱いて欲しかったからだった。
目を覚ました時から思ってた。ここは居心地が良い。
この場が殺し合いの舞台である事を忘れさせてくれる。
疑心暗鬼に陥ってた私がバカに思えるくらい。
打倒主催者の為、一致団結するチームもあるだろう。
外敵から身を守る為に互いを信じるチームもあるだろう。
だが、ここ以上に“日常に近いチームがあるだろうか”。
主催者を倒し元の世界に戻るためには、打倒主催者チームは必須だろう。
でも、私はこう考える。
“元の世界に戻った後、この凄惨なゲームに縛られずに日常へ戻るには、この二人のような人たちが必要だ”と。
だからこの二人に願う。
敵に襲われない時はさっきのようなテンションで良い。
でも、敵と思われる人間が居る時は無防備で居て欲しくない。
でないと、いつか死んでしまう。
だから、
①私が勝利し、潤達を配下にしつつ、彼等に緊張感を与える
②私は敗北し、潤たちの配下になり、潤達は今回のトラブルから学んで緊張感を得る
どちらかの結果がえられると考え彼らに襲い掛かったり銃を向けたりしたのだけど、
結果は“私じゃこの雰囲気は壊せない”というもの。
だから私は降参した。
彼らに緊張感を植え付け、気を引き締めてゲームに向かわせる事を諦めた。
その代わり…
「だから、私を仲間にして下さい」
潤達に守って貰おうという内容のお願い。
でも私の心の内は全く逆。
私に出来る事は少ないけど、このチームを外敵から守るため、私に出来る可能な限りの事をしよう。
それが私の下した決断だった。
* * *
俺は今、改めて仲間になった梨花と相談をしている。
(ちなみに相談に入る前にこっぴどく叱られた。
『銃を手にしている敵を前に漫才を始める奴がいるか!』って。
まあ、色々と勉強になったよ、うん。)
「じゃあ、出入り口に車を置いてたら何か仕掛けられるかも知れないから、駐車場に入れておいた方が良いのか」
「そう思う。で、
“道具材料豊かな百貨店に陣取っている”“店内に潤達以外の人間はゼロ”
こんな恵まれた状況なら、下手に動かずにいた方が良さそうね」
「ああ。トラップとか仕掛けてここをホームにする事で、戦闘になっても俺達を有利に働かせる事が出来るからな」
「トラップは、風子にも手伝ってもらった方が良いわね」
「あいつが!?ただ糸張って、引っ掛かったら落ちる仕掛けだろ?」
「いくら私でも、そんなのには引っ掛からないわよ。あの子、意外に器用よ。
さっきの罠も、タイル目に合わせて糸を3つ位張り、どれかを踏むと落下すると言う仕掛け。
予め知っていないと見切るのは難しいんじゃないかしら」
「そうか…。なら梨花の言う通りにしよう」
「でも、第二放送がもうすぐ始まるから、それを聴き終えてからにしましょうか」
「いや、先に車だけでも入れとくよ。第二放送が終わって俺が戻ったら風子も含めて一緒に始めよう。
後、百貨店では得られないものをどうするか考えないと」
「銃とか?」
梨花の疑問に俺は肯く。
「あぁ。俺等の装備じゃ、マシンガンやバズーカ持ってる相手に何とかなると思えないし。
それに仲間もどうにかして見つけないと」
「そうね」
そして暫く沈黙が下りた。
「そういえば、一つ気になってるんだけど…」
「言うな」
言わないでくれ、梨花の訊きたい事も、その答えも解り過ぎるくらい解ってるんだから。
「ってなわけで、俺が車入れてる間、梨花は第二放送と“そちら”を頼む」
「えぇ」
そう、何で俺と梨花だけで打ち合わせしてるのか。そしてその理由は…。
―――家具ルーム
「Zzzzzz…」
【A-3 百貨店店内/1日目 昼】
【北川潤@Kanon】
【装備】:コルトパイソン(.357マグナム弾6/6)、首輪探知レーダー、車の鍵
【所持品】:支給品一式×2、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本)
ノートパソコン(六時間/六時間)、 ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×7
【状態】:至って健康
【思考・行動】
基本:殺し合いには乗らない。というかもう乗れねーつーの!
1:車を駐車場へ移し、百貨店内の探索&トラップ
2:第二放送後は梨花たちと合流して1を続ける
3:百貨店を拠点とし、風子と梨花を守る
2:知り合い(相沢祐一、水瀬名雪)と信用できそうな人物を捜索したいんだけど、二人(風子達)をわざわざ危険に晒すわけにもいかないからなぁ
3:PCの専門知識を持った人物に役場のPCのことを教える
4:鳴海孝之(名前は知らない)をマーダーと断定
5:てかさ、いい加減俺のタイトル『童貞男』にするの止めて欲しいんだけど
【備考】
※チンゲラーメンの具がアレかどうかは不明。
※チンゲラーメンを1個消費しました。
※パソコンの新機能「微粒電磁波」は、3時間に一回で効果は3分です。一度使用すると自動的に充電タイマー発動します。
また、6時間使用しなかったからと言って、2回連続で使えるわけではありません。それと死人にも使用できます。
※チェーンソのバッテリーは、エンジンをかけっ放しで2時間は持ちます。
※首輪探知レーダーが人間そのものを探知するのか、首輪を探知するのかまだ判断がついてません。
※車は百貨店の出入り口の前に駐車してあります。(万一すぐに移動できるようにドアにロックはかけていません)
※車は外車で左ハンドル、燃料はガソリン。
※一連の戦闘で車の助手席側窓ガラスは割れ、右側面及び天井が酷く傷ついています。
【伊吹風子@CLANNAD】
【装備】:無し(コルトパイソンは潤に預けたまま)
【所持品】:支給品一式、猫耳&シッポ@ひぐらしのなく頃に祭、赤いハチマキ(結構長い)
【状態】:健康。満腹
【思考・行動】
1:Zzzzzz…
2:北川さんは風子がいないと本当に駄目ですね。やれやれです
【備考】
※状況をまだ完全には理解していません
※名簿に目を通していないので朋也たちも殺し合いに参加していることを知りません
【A-3 北東部(百貨店店内)/1日目 昼】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備】:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に 祭
ヒムカミの指輪(残り2回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄
紫和泉子の宇宙服@D.C.P.S.
【所持品】:支給品一式
【状態】:健康…と言いたい所だけど、頭にこぶ二つ
【思考・行動】
基本:潤と風子を守る。そのために出来る事をする
1:幸せそうな子ね(風子の眠るベッド脇に腰掛けながら)
2:第二放送を聴く。その後、風子を起こして捜索、トラップ仕掛けを潤と一緒に始める(風子のトラップ技術を評価)
3:取り敢えずは潤達と一緒に居る
4:もしも(別の仲間が入る等して)自分がいなくても潤達が安全だと判断出来たら、一人で圭一達を探しに行く(D-2へ)
5:死にたくない(優勝以外の生き残る方法を見付けたい)
【備考】
※皆殺し編直後の転生。
※ネリネを危険人物と判断しました。
※探したい人間の優先順位は圭一→赤坂→大石の順番です。
※ヒムカミの指輪について
・ヒムカミの力が宿った指輪。近距離の敵単体に炎を放てる。
・ビジュアルは赤い宝玉の付いた指輪で、宝玉の中では小さな炎が燃えています。
・原作では戦闘中三回まで使用可能ですが、ロワ制限で戦闘関係無しに使用回数が3回までとなっています。
※紫和泉子の宇宙服について
・紫和泉子が普段から着用している着ぐるみ。
・ピンク色をしたテディベアがD.C.の制服を着ているというビジュアル。
・水に濡れると故障する危険性が高いです。
・イメージコンバータを起動させると周囲の人間には普通の少女(偽装体)のように見えます。
・朝倉純一にはイメージコンバータが効かず、熊のままで見えます。
・またイメージコンバータは人間以外には効果が無いようなので、土永さんにも熊に見えると思われます。
(うたわれの亜人などの種族が人間では無いキャラクターに関して効果があるかは、後続の書き手さんにお任せします)
宇宙服データ
身長:170cm
体重:不明
3サイズ:110/92/123
偽装体データ
スレンダーで黒髪が美しく長い美人
身長:158cm
体重:不明
3サイズ:79/54/80
|111:[[完璧な間違い(後編)]]|投下順に読む|113:[[第二回定時放送]]|
|111:[[完璧な間違い(後編)]]|時系列順に読む|113:[[第二回定時放送]]|
|104:[[来客の多い百貨店]]|古手梨花||
|104:[[来客の多い百貨店]]|伊吹風子||
|104:[[来客の多い百貨店]]|北川潤||
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