第1話
ローブの男が着地したあたりに何か落ちている。俺はそれを拾って見る。
「ブローチかな?」
葉っぱのモチーフとしたブローチのようだ。
「どんなのですか?」
「ほら、これ」
ティアにブローチを渡す。ティアはそれを見ると顔色が変わっていった。
「これは……」
「どうしたの、ティア?」
ティアはヘスティの質問を無視して、男が向かっていった方向に駆けだしていった。
「おい!?どうした?」
呼び止めるも、ティアは行ってしまった。
「追うぞ」
ヘルメスがそういって俺たちもその方向に走り出した。
ローブの男の逃げていった方へ駆け出したティアを追う。
開けた場所に出た。ティアと男が向かい合って立っていた。
「ティア!」
「エイルさん!?みなさん!?」
ティアが驚いた表情でこちらを振り返った。男はそれを見て口の端を吊り上げる。
「どうやら他のも来たようだ」
俺たちは男を見る。フードを被っているので口元くらいしか見えない。
「お前、誰だ?」
「俺か?俺はそうだな……」
男はそのフードを取って顔をあらわにした。その顔に俺とヘルメスは驚いた。
「お前は!?」
「まさか!?」
「やっぱり……」
そしてティアは少し表情に影を落とした。そう、なぜなら・・・・・・、
「久しぶりが二人とはじめましてが二人だな」
少し長い髪で眼帯で左目を隠している。青い髪に緑の瞳。この世界に来てお世話になったティアの家においてあった写真に写っていた男。
「レピオス兄さん」
ティアが呟いた。
「よくここまで来たな、ティア」
レピオスが微笑む。ティアも嬉しそうに笑った。
「……ねぇ、レピオスって誰?」
ヘスティが小声で訪ねる。そういえばヘスティはレピオスのことを何一つ知らないので、ヘルメスが「行方不明だったティアの兄だ」と説明する。
「今までどこにいたの?獣医になるって言って村を出ていったけど」
「色んなところを回っていた。おかげでいろいろわかった」
「わかったって何が?」
「いろいろだ。たとえば……」
レピオスが俺の顔を見る。
「なんだ?」
「エイルだったな。お前の知りたい元の世界に帰る方法とかをな」
「!? どういうことだ!?」
レピオスは笑ったままでこちらを見るだけで答えない。そこでヘルメスが言う。
「久しぶりだな、レピオス」
「ヘルメス、どうしてこんなところに居るんだ?ニギに籠っていると思ったんだが」
「俺だってずっとあそこにいては目的が果たせないがないからな」
「まだ、神のホムンクルスを創ろうと思っているのか」
「ああ……なあレピオス。俺たちはお前にまだ何も話していないんだが、どうしてそれがわかるんだ?」
「今はいえないな」
「じゃあ、他の質問だ。なぜラシアの人をひとり殺したのか」
ヘスティが顔をこわばらせた。レピオスは笑ったまま答えた。
「ああ、殺した。それがどうした?」
瞬間ヘスティが大剣を持ってレピオスに詰め寄る。
「お前が……お前があたしたちの仲間を!」
ヘスティの振り上げた刃はレピオスの頭上へと向かっていく。ティアが叫んだ。
「待って!ヘスティ!」
しかし次の瞬間、剣は地面を抉っただけだった。
「危ないじゃないか、イムラサのおじょうちゃん」
レピオスは俺たちの後ろに立っていた。
「お前、どうやって……!?」
「フフフ」
レピオスはフードをまた被ると
「そんなに知りたいならテオに聞きなよ。あいつなら俺の目的を知っているから」
と言って、消えてしまった。
「レピオス兄さん……」
ティアが呟くとヘスティが首を傾げた。
「今、手ごたえはあったのに?」
俺たちはレピオスの居たところを見つめる。
「テオって医者のヴィシナのことだよな」
「ああ、だけど二年半くらい前から会ってないって言ってたはずだぞ」
「嘘をついたのか?」
「わからない。だが、レピオスは何かを知っている。それも得体の知れない何かだ」
俺は頷くと、王都に向かうことにした。
最終更新:2014年07月02日 23:14