「クリスマス短編」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

クリスマス短編 - (2006/12/22 (金) 17:17:20) のソース

男「なあ、シュー」
女「ん? 私はゾウよりもキリンが好きだが」
男「それは聞いてねえよ。シューってさ、いつもそれ(〒)付けてるよな」
女「ああ、これか」
男「気に入ってるの?」
女「これはとても大切なものだからな」
男「もらいもの?」
女「うむ、君には聞いてもらおうか。回想開始」

#

クリスマスの翌日のことだ。
クー姉が風邪を引いた。

ク「…油断した」
シ「昨日は寒かったから」
ク「うむ、彼と一緒で浮かれすぎた。反省」
シ「風邪のときはネギを焼いて短冊を吊るすと願いが叶うらしい」
ク「私の知ってる話と少し違うんだが」
シ「些細な違いは気にしない。というわけで短冊を用意したから書いといて」
ク「…把握した」

私はクー姉の食事を作るために席を外した。
幸いながらたいした風邪では無いようだ。
早く直ってもらうためにも美味しいお粥を作らなくては。

シ「シューの三分クッキングー。まずお粥を用意します。
 次に食べやすいように三分間ふーふーします。できあがりー」

#


シ「クー姉、お粥作ったよ」
ク「ありがとう。出来る妹で本当に助かるよ」
シ「そんな言葉を私が望んでいると思ったか? 望んでいたから嬉しい」
ク「…美味しい」
シ「それは良かった。体の調子は?」
ク「少し体が重いな」
シ「じゃあそれを食べたらゆっくり寝ててね」
ク「彼氏と約束があるのだが」
シ「ダメ」
ク「でも」
シ「サンダーバード愛好会の人たちのためにも寝てて」
ク「さすがに知らない人のためには」
シ「ついでに私のためにも」
ク「しかし」
シ「寝ててくれなきゃ、舌噛んで痛いって言ってやる」
ク「…わかった」
シ「いたい」

わかってくれた様でクー姉は静かに寝てる。
しかし辛そうだったな。
体が重いって……そうか、私も体も重くすれば良いんだな。
やっぱり姉妹だからなクー姉の辛さは分かち合いたい。
というわけで両手足に10kgの重りを付けてみた。

#

約束があったようだし、クー姉の彼氏に電話をしておくか。
プルルルル
「はい、もしもし」
「シューです」
「あ、シューちゃん? どうしたの」
「うちのクー姉は預かった。返して欲しくて返してやらない」
「はい?」
「つまりクー姉が風邪引いた」
「え! クーは大丈夫なの?」
「2、3日休めば大丈夫」
「そうか、でも困ったな」
「困った?」
「あ、いやなんでもないんだ。クーは今どうしてる」
「ぜっとぜっとぜっと」
「寝てるのか、じゃあお大事にと伝えて」
「今年中にな」
ガチャ

うむ、これでよし。
クー姉は寝てるようだし、私も静かにしておくか。
…………もう、こんな時間か。

そろそろ夕飯を作らないといけない。
その前にクー姉の様子を見に行くか。


#

シ「クー姉、調子はどう………いない」
布団はまだ暖かい。
トイレかと思って少し待ってみたが違うようだ。
そう言えばクー姉が妙に出かけたがってたな。
と考えたところで机の上に短冊が置いてあるのを発見した。
少し出かけます。 クー
シ「…あれほど言ったのに」
次の瞬間、私は家を飛び出していた。

シ「どこにいったんだ……クー姉」
私は走った。
近所のコンビニやスーパー、ハローワーク、若い女性が行きそうな場所はすべて探した。
シ「…いない」
クー姉が他に行きそうな場所はどこだ。
最初に思いつくのが彼氏の家だ。
でもそれはないだろう。
彼はクー姉が風邪を引いていることを知っている。
それを知っていてクー姉を連れまわすような人ではない。
くそ、いつもより体が重い。
気温が低いせいだろうか、まるで重りをつけている気分だ。

その後、二時間は探し続けたがとうとうクー姉は見つからなかった。
もう帰っているかもしてない。
私は一旦、家に戻ってみることにした。
家の近くまで帰ると玄関に明かりがついていることに気が付いた。
安堵の息をついてドアを開けると、そこには顔を真っ青にして倒れているクー姉がいた。

#

シ「クー姉!」
ク「……シューか」
シ「クー姉、すごい熱だ」
ク「下がったと…思ったんだがな……油断した」
シ「この寒い中、出歩いたりするから」
私も今にも倒れそうなクー姉を抱きしめた。
ク「心配かけたな」
シ「それはこっちのセリフだ」
ク「……私であってるよ」
シ「どうして外に出たんだ」
ク「本当は男と一緒に買いに行く予定だったんだけど」
そう言ってクー姉は私に小さな小包をを手渡した
ク「今日は……シューの誕生日だろ」
シ「…!?」
ク「店が閉まってたから、こんな物しか買えなかった。すまない」
シ「そ、そんなことで」
ク「私には大切なことだよ」
とても耐え切れないほどの涙が出た。
嬉しくてたまらないことを姉に伝えたかったが、嗚咽にかき消されて言葉にはならなかった。
だから私は精一杯、クー姉を抱きしめた。
大切な人の冷たくなった体が少しで暖かくなるように。
少しでも大好きな姉の鼓動を感じられるように。

#

女「……というわけだ」
男「へー、じゃあそれ(〒)がそのときの小包?」
女「いや、これは関係ない」
男「今までの話の意味は!?」
女「嘘だよ。冗談だ」
男「だよな」
女「今までの話が」
男「マジで!?」
女「それも嘘だ」
男「もう訳わかんねえよ!!」

あの頃はクー姉が世界一だったけど、今は同率一位になってしまった。
クー姉と同じくらい大切な人が出来るなんて思いもしなかったけど
だから今年の誕生日はいつもより二倍楽しくなる、そんな気がする。

fin
目安箱バナー