プロジェクト・アポカリプス検討エピソード


★PA11章2話(2013.07.28-29/ラスベガス事件の勃発)

 ラスベガス郊外の獣害現場に、物々しい装甲車が現れた。
 兵員輸送用の装輪装甲車に似ているが、サイズは2周り以上も大きく、重戦車並みである。

 乗っているのは国連太平洋軍に所属する“対怪獣特戦隊”Gフォースのアメリカ側の作戦部隊及び、
 米軍の“特殊生物対策部隊”に参加している、複数の国籍を持つ“怪獣問題”のエキスパートたちである。
 怪獣が棲む世界の米軍は、Gフォースとは別に対怪獣戦闘用のチームも組織しているのだ。
 それも1998年に起きた怪獣事件を契機に組織されたもののようであるが。

 最初に降り立ったのは30代ほどの女性と、年齢不詳の男性である。
 女性はジャクリーヌ・グランジェ、実はアメリカ人ではなく、元々はフランスの諜報組織の出身である。
 1998年の事件で活躍したフランス人諜報員フィリップ・ローシェの優秀な教え子らしい。
 男性はニック・タトプロス、彼も1998年の怪獣事件で功績を挙げた生物学者だ。
 こちらは既に50歳前後にはなっているはずなのだが、元々童顔なため見た目でハッキリ年齢が分からない。

「巣穴らしきものを爆破したとか」
「えぇ、こちらです」

 軍人っぽくない風貌の2人を、クルーズ警部とスチュアート巡査部長が“爆破現場”に案内する。
 “第1発見者”の1人であるアイヒマン巡査と、上司のチャン巡査長も同行する。

 数分ほど歩くと、うっそうとした木立が割れて茶色の土壌が剥き出しになった斜面が現れた。

 数m四方に渡って、地面の土砂がトラクターで掘り返されたようになっている。
 ダイナマイト数個を使って、ここに開いていた斜孔が爆破されたのは、ほんの数十分前のことであった。
 楕円形に地面が窪んでいるのは、穴が陥没して埋まった跡だ。

「うーん、爆破する前に来たかったですねぇ」
「でもどのくらいの穴だったかは窺える……確かにこのサイズは、グリズリーの巣穴じゃないな」

 そう言って陥没した爆破現場を眺めるように歩き回るニック。
 その横でクルーズ警部が今度は質問する。

「アトミカントがラスベガスの地下に巣を作っているとしたら、他にも巣への入口があるのでは?」
「そうですね、今“ブリッジ部隊”の調査班が手分けして周囲を調べているところです。
 市街地に近いゴルフ場の池に強酸反応があったそうなので、1つはその近くにあると思われます」

 ニックの言葉に、クルーズ警部は「えっ」と小さな声を上げた。

「ベガスの市街地はここから10kmは離れていますが……アトミカントの巣はそんなに大きいのですか?」
「成虫でマイクロバスくらいになりますから、普通のアリの巣の1,000倍はあると思っておくべきでしょう。
 それに、潜んでいるアトミカントの群れが“1つだけ”とも限りません」
「なんてこった……」

 不安そうな顔で空を振り仰ぐクルーズ警部。
 そしてその横で、アイヒマン巡査とチャン巡査長も困惑したような表情を浮かべていた。

「ラスベガスの地下はモンスター共の住処だってことかよ……!」

★タイトル★11章2話(2013年7月28-29日)

「つまり――クリントやワンダは“招かれざる客”だったってことか」

『そのようだ……ビズロックの知人には雄弁だったそうだが、やけに落ち着きがなかったぜ』

 こちらはサンディエゴ基地に停泊しているヘリキャリア。
 トニー・スタークや神崎ヤマトが、ハリウッドの“偵察帰り”のクリント・バートンの報告を受けている。
 現場を離れてまだ1時間も経っていないので、サンディエゴ基地には着いていないのだ。


『それから――ワンダが変な気配を感じたらしい……人間である確証もないそうだ』


「――変な気配?」

 クリントが追加した言葉に、トニーはブルース・バナーと顔を見合わせた。
 先日このサンディエゴ基地でも、似たような“騒動”が起きたためだ。
 ワンダが妙な気配を察して調べ始めてから数分後、変形する謎の機械兵との“戦闘”が始まったのだ。
 そう――ビズロックたちの“宿敵”でもある、ディスヴェリオンのスパイである。

「あのゾッドとかいう男は、機械のエイリアンと手を組んでるのか?」

『さぁね……こっちも変な気配の正体までは掴めていない、強い殺気だったらしいがな』

「まぁ、普通はそう簡単に正体を見せないだろうな、人間であれエイリアンであれ」

 サム・ウィルソンが少し皮肉気味にそう言うと、横に立っていたビズロックが苦笑いして視線を逸らした。
 確かにビズロックたちはあっさり正体を暴露した……もちろん、それは理由のある行動だったが。

「変な事件といえば、ラスベガスで突然変異したモンスターの大きな巣が発見されたそうですね」
「アトミカントですね……数十年前にも出現した、放射能で巨大化した軍隊アリのミュータント個体群です」

 これは神崎だ……UNSCハワイ研究所の主任である彼は、過去に起きた“怪獣事件”を網羅している。
 その横で、国連太平洋軍に所属するシュミット少佐が情報を補完した。

「国連太平洋軍の特戦隊と、米軍の対モンスター部隊が駆除のために動いた……実は応援の要請も出ている」
「応援って……僕たちにかい?」

 シュミット少佐はサンディエゴ基地にアベンジャーズが“保護”されて以降、何度か情報交換に訪れている。
 国連軍戦艦アリゾナの暫定副艦長でもある少佐は、艦隊の有能な作戦参謀でもあるのだ。
 ただ出ずっぱりというわけにも行かないので、次の機会には上官のカニンガム中佐が来る予定のようだ。

「貴公らは、様々な特別な能力やスキルを持ち、連携して平和維持活動を行っていると聞いている」
「平和維持活動ね……まぁ、間違ってはいないか」

 シュミット少佐の言葉に、今度ははバッキー・バックスが皮肉交じりの言葉を放った。
 確かにアベンジャーズは“正義のヒーロー戦隊”だが、必ずしも1枚岩だったわけではないからだ。

「オプティマス隊長の“推薦”があったようです」

 ビズロックも情報を補完する……どうやら、アベンジャーズを“推した者”がいるようだ。

「オプティマスって……あのトラック宇宙人か」
「異世界での最初の任務は、ミュータント・アリの駆除ってわけか」
「まぁ、肩慣らしになるかもな、もしかすると意外に気が合うかも……それはそうと、クリントは良いのか?」

 “アントマン”スコット・ラングがそう言った直後だった。


「それは私が引き継ぐわ」


 その言葉と共に、“キャプテン・マーベル”ことキャロル・ダンバースが多目的研究室に入ってきた。
 その後ろにシールド長官ニック・フューリーの眼帯フェイスも見える。

「キャロル……君がハリウッドに行くってことか?」
「何か問題でもあるのかね……スターク?」
「……いや、別にないけど」

 じろりとトニーを睨む眼帯長官に、トニーは苦い顔で溜息を吐く……この2人は余り相性が良くない。

「ワンダが言っていた“殺気”の相手が少し気になるのよ」

「人間じゃないかも知れない、って言ってたらしいが……思い当たる相手でも?」
「この世界に来る前に、ヘリキャリアを襲撃した“敵”を覚えている?」
「あぁ……なんか物騒な銀色のイナゴがいたな、それとやけに派手な巨大モンスターもいたか」

 キャロルの言葉にトニーが“1週間前”の出来事を回想する。
 世界を飛び越える直前、空を飛んでいたヘリキャリアを奇襲攻撃した謎のモンスター兵団。
 その時“派手な巨大モンスター”にやられた傷を、ヘリキャリアは今も修理中だ。

 ただ修繕は間もなく終わる予定であり、停止しているヴィプラニウム反応炉の検査が既に始まっている。

「あの時感じた妙な気配……それとよく似た感覚を覚えるのよ」

「おいおい、そいつは本当か、キャロル?」

 キャロルの言葉に、スコットとブルースが目を丸くした。
 何しろ彼女は、世界を越える前にアベンジャーズを襲った“敵”と同じ気配を感じると言ったのだから。
 エイリアンの能力を受け継ぐ者としての、抜きん出た直感力が何かを感じさせるのか。

「まだ絶対の確証はないわ……だから確認したいの、ハリウッドに何がいるのか」

★ ★ ★

 ラスベガス郊外にあるネリス空軍基地。
 今この基地に、“ブリッジ部隊”の装備が続々と到着しつつあった。
 国連太平洋軍傘下のGフォースと、これを共同作戦を取るアメリカ軍特殊生物作戦群の装備である。

 ややポリゴン状に角張った大きな機体を持つ輸送機が、滑走路の上で接地と共に白煙を上げる。
 国連太平洋軍所属の大型輸送機“UC7ポセイドン”である。
 広義にはスーパーXシリーズやガルーダの系列に属し、巨体を持つにも関わらず短距離離着陸が可能だ。
 米軍のロッキードC5A“ギャラクシー”と同等以上の輸送力を誇る巨人機であり、
 海上輸送の要であるガイア級重強襲母艦と共に、兵站をカバーする重要な役目を負っている。

 駐機場の端には既に非常用テントが組み上げられ、ブリッジ部隊展開のための打ち合せが始まっていた。
 “駆除対象”となるアトミカントは、必ずしもゴジラのような巨大怪獣ではないが、
 成長するとマイクロバスほどもある巨大昆虫であり、食えるものなら何でも食らう貪欲さを持つ上、
 数十体以上の大きな群れをなして動くこともあるため、迅速に部隊展開しないと間に合わなくなるのだ。

「――巣穴の候補はこれで全部?」
「いえ、まだ調査中の地域が3ヶ所ありますね」
「急がせなさい、連中が一斉に動き出したら間に合わなくなるわよ」

 作戦指揮を執るのはコンドリーザ・ハッチンソン国連軍准将である……Gフォース北米部隊と連携している。
 元々はアメリカ陸軍に属していた黒人系の女性将官だ……やや小柄だが腕は逞しい。

 そこに“第1獣害現場”の視察を終えた先遣調査隊が帰ってきた。

「ジャクリーヌ・グランジェ、戻りました」
「ご苦労、新しい発見は?」

「爆破して混ざった土砂の中から、蟻酸の跡が見つかったよ、決定的だなフィリップ」

 ジャクリーヌの代わりにニックが口を開く……視線の先には細長い頭と丸メガネが特徴の初老男性。
 フィリップ・ローシェだ……ニックとは1998年事件以来の付き合いがあるフランスの諜報員で、
 今回のブリッジ部隊でも情報交換のまとめ役を担当している。

「やっぱりか……行儀が良いとは言えないからなアトミカントは」
「それで、これが巣穴の候補か? ……おいおい、思っていたよりかなり広いなこいつは」
「最初の現場を含めると、長径20km、短径10kmの広がりになる……まぁ、1つの巣とは限らんがね」

 テーブルの上にはラスベガス周囲の広域地図が広げられており、
 調査隊がこれまでに見つけてきた「巣穴と疑わしき候補」が複数プロットされている。


 それは、ラスベガスの中心市街地の半分を優に呑み込むほどの広さがあった。


「アトミカントは基本的に夜行性だったはず……それまでに巣穴の目星を付けて駆除体制を整える。
 ところで――国連太平洋軍が応援要請をしたという“異世界”の有志は?」
「先ほど第1陣がサンディエゴ海軍基地を出たそうです、日が暮れるまでに合流可能でしょう」

 コンドリーザ准将の問いに答えたのは元海兵隊員のベンジャミン・スレイス少佐だ。
 こちらは1991年に起きたエイリアン事件で活躍した経験があり、UNSCの神崎とも面識がある。
 1度退役したが、特殊生物作戦群の組織で経験者として招聘され、指揮官の1人となっている。

「白兵戦に強い者が揃っているらしいわね……怪獣相手にどこまで通じるかは分からないけれど」
「“飛ばされる前”にも1度、怪獣と交戦したとか」
「その異世界の有志も、怪獣を知っていたっていうんですか?」
「その辺は何とも言えないな……彼らの資料を見たが、自分たちの母船を酷く痛めつけられている。
 怪獣との戦闘に慣れているなら、こういう結果になるだろうか」

 ジャクリーヌの言葉に、ニックが苦笑いで応じた……話題にしているのはもちろんアベンジャーズだ。
 情報を共有するためのブリーフィングで、彼らの基本データも既に取得済みである。
 機密に触れる情報までは公開されていないが、基本的なスペックや来訪経緯は把握されている。

「空飛ぶ空母のような母船ですよね……アレを痛めつけるってキングギドラ並みじゃないです?」
「キングギドラか、あるいはゴジラに羽を生やしたようなヤツなのか、そいつは分からないが、
 ニューヨークに上陸してきた“ジラ”より手強い相手だったのは確かなようだ」
「思い出話はその辺にしておきなさい、タトプロス博士……今回の相手はアトミカントよ」

 やや口の軽いニックに軽く釘を刺すと、コンドリーザ准将はラスベガスのマップに再び目を移す。

「群れを掃討するだけではいたちごっこになるわ……“女王”を見つけて始末しないと」

 コンドリーザ准将が言っているのは、アトミカントの群れを率いるリーダー、つまり女王アリのことだ。
 アリは女王アリを中心にした1つの家族であり、女王の生死が群れの運命を左右する。

「いるとしたら、巣の最深部になりますね……しかしどれだけ潜れば“女王の間”にたどり着けるのか……」
「それについては地中探査用の無人ドローンがあるわ、スレイス少佐」

 そう言って、コンドリーザ准将は会議用テントの外に目を向けた。
 釣られてベンジャミンやニックが視線を向けると、いかめしいドリルをつけた小型戦車のような装備が数機。
 UGR12“ラットモゲラー”だ……対ゴジラ兵器“MOGERA”の技術を受け継ぐ機体であり、
 合体変形こそしないが、頑丈な機体で地底深くまで調査を遂行することが出来る。
 ガルーダの派生機であるスーパーガルーダとほぼ同期の設計だとされている。

「これを3機1組で3組、別々の巣穴から調査に向かわせる……そのために巣穴を選ぶ必要があるわ」
「でも……アトミカントの“兵隊”に妨害される可能性も高いですよね?」
「だからこれを使うのよ、ジャクリーヌ。 妨害で進めなければ、この機体は自分で道を拓けるのだから」

★ ★ ★

「――モンスター駆除の支援、ですか?」

 そしてこちらは南カリフォルニアのアメリカ陸軍フォート・アーウィン基地。
 “怪獣を知らない世界”出身の奔放なレンジャー部隊、第1混成小隊“サブスタテュース”の拠点である。
 レンジャー第2大隊の指揮官ラルフ・コルティ少佐の“ミッション指令”を聞くのは、マクラナハン少尉だ。
 第1混成小隊の隊長であり、ほんの1週間ほど前の“サンディエゴ戦役”でも活躍した。

「そうだ、ラスベガスの地下に“バグ共”の巣が見つかったそうでね、我が部隊にも応援要請が出ている」
「機械獣の次はバグですか……」

 苦笑するマクラナハン……柔軟で型破りなこの男にとっても、もちろん経験したことがない任務である。
 コルティ少佐やマクラナハンが言っている“バグ”というのは、もちろんアトミカントのことだ。
 日本で続発している特殊事件群で「出身世界が違う」防衛隊と自衛隊が連携しているように、
 アメリカでも「世界を越えた連携」の必要性がとりわけ、ゾイド紛争の後に大きく注目されるようになった。

 怪獣を知らない世界の陸軍中心で実施された“オペレーション・サマンサ”の失敗も尾を引いている。
 第1混成小隊も参戦しており、サンディエゴを強襲した敵、ゾイド兵団の対処を目的とした作戦であったが、
 テレンス・マクガイヴァーズ中佐率いる前線司令部が、ゾイド兵団に文字通り「1人残らず」殺された結果は、
 アメリカ軍を揺るがす事態として衝撃を与えており「サンディエゴの悲劇」として既に伝説扱いだ。
 損耗50%でも軍事戦術的には全滅扱いされるが、サンディエゴの悲劇は司令部に限れば「損耗100%」だった。
 第1混成小隊を含む作戦部隊の1部は生き残ったが、それが不可解に思えるほど悲惨な結果であり、
 国防総省直々に、「こんな無様な結果を2度と繰り返すな」と強く言明されているという。


 プライド云々の問題ではない……司令部が「虐殺対象」にされるということは、軍の無力化に等しいからだ。


 そのためには、現在起きている「非常識な事態」をどこまで織り込んで、作戦を組み立てるかにかかっている。
 今までも次元融合という事態を知識として共有するためのブリーフィングが何度も実施されてきたが、
 今や会議室の打ち合せの段階を越えて、実際の軍事作戦でその連携が求められているのだ。

 3日前にニューヨークの国連本部で開催された臨時国連総会でも、当然このテーマが議論の中心となった。
 「世界を越えた連携」は今や日本やアメリカだけでなく「人類の課題」になっているのである。

「国連太平洋軍のパウエル大佐が、君たちの実績を聞いて関心を示している」
「あぁ、あの軍なら自分たちもサンディエゴでの事情聴取で会いましたよ、その時のトップは中佐殿でしたが」
「戦艦アリゾナのカニンガム中佐だな、確かに彼や副官のシュミット少佐も関心を示していた」

「……けれども少佐、今回のミッションはラスベガスですよね?」

 マクラナハンの言葉にコルティは苦笑する……彼が言わんとしていることが分かるからだ。
 アメリカ内陸部、ネヴァダ州のリゾート都市で事件が起きているのに、どうして海軍が首を突っ込むのかと。
 太平洋に面したサンディエゴならまだ分かるし、先の作戦でも海軍特殊部隊シールズと実際に連携したが。

「もちろん、国連太平洋軍自体は海軍主体の多国籍軍だ、今回のミッションには直接関わっていない。
 しかし国境を越えた多国籍軍であると同時に、我々が知らないモンスターに対峙する経験値を持っている。
 今回のミッションにも、国連太平洋軍の傘下にある“Gフォース”が関わっているそうだ」
「あぁ……あの“ゴジラ”と交戦した経験がある特戦隊でしたっけ」

 マクラナハンも既に、Gフォースの名前だけはブリーフィングで聞いているようである。

「モンスターの駆除ミッションはこのGフォースと、“向こうの世界”の陸軍特殊生物作戦群が担当する。
 しかし駆除対象のバグ共は群れで動いているから、包囲網をかいくぐる個体が出てくる恐れがあるわけだ。
 そこを我々“こちらの世界”の陸軍にカバーして欲しいということらしい」
「了解しました、作戦の詳細はどこまで決まっていますか?」
「ミッションの中枢は、国連軍のハッチンソン准将が指揮を執るGフォース北米支部と陸軍特生作戦群だ。
 現れるバグ共を個別掃討しつつ、地下の巣の最深部にある“クィーン”の殲滅を目指すようだ。
 これをカバーする“こちらの陸軍”の指揮は私と上官が担当する……つまり第2レンジャー大隊が中心となる」

 マクラナハンの目が見開かれた……普段飄々としてニヒルな彼だが、さすがに心が動いたらしい。
 自分に目をかけてくれたコルティ少佐が、“知らない世界”側の陸軍部隊の前線指揮を執るのだから。

「ということは、今回は必ずしも“出張任務”ではないわけですね」
「そうだ、しかし君たちは我が大隊の本隊より先にベガス入りして欲しい……“連絡係”が要るからな。
 既に“補欠部隊”の名声は世界を越えている、誇りを持ってやってくれ」
「……了解しました」

 マクラナハンは軽く苦笑した……コルティ少佐が自分たちを認めてくれていることは知っているが、
 ここまで「期待された」ことはなかったかも知れない。
 かつて陸軍きっての“不良戦隊”と弄られた第1混成小隊が「今回は主役だ」と言われたようなものだ。
 型にはまらない第1混成小隊の柔軟性が「世界を越えた連携」では重要だということである。

 コルティ少佐のことだから、「お前たちなら出来るだろ?」という皮肉も入っていただろうが、
 それも含めて、マクラナハンには新鮮な気分だった……こういうのもたまには悪くない。
 もちろん慢心は無用だ、サマンサ作戦の失敗を繰り返すなと言われた先の作戦であり、油断は禁物である。

「モンスターは通学バスくらいの巨大なアリで、夜行性らしいから、日が暮れるまでに準備を済ませるんだ。
 もちろんここじゃなく、ベガスでだぞ……作戦開始は暫定だが、現地時間で午後6時となっている。
 作戦名は“レッド・カーペット”だ」

「了解しました、ではすぐに取りかかります」

 かくして――サブスタテュースの2度目のミッションが開始されることになった。
 彼らの相手は今度も“人外”である。

★ ★ ★

(ラットモゲラー準備とオーディアン到着)

★ ★ ★

 そしてこちらはハリウッド。

 賑やかな表通りから路地を分け入ると、すぐに薄暗い空間になる。
 既に午後5時を過ぎているが、7月末のカリフォルニア州はまだ太平洋に赤い夕日が見えている時間帯だ。
 だが日陰は既に長く東に延びており、路地裏をその陰の中に放り込んでいる。

 そんな裏通りを、シックな黒服の金髪女性が、無言で歩いている……キャロルだ。
 ソバージュがかった長い長髪の横から、鋭い眼光を油断なく周囲の空間に張り巡らせると、
 すぐに“怪しい気配”に気付いた……そこには中古の映画プロップを保管する倉庫の、安っぽい看板が。
 恐らくこの倉庫が――昼間クリントたちが訪れたゾッドの店なのだろう。

 怪しい気配はその倉庫の“屋根”の方から漂ってくる。
 屋根の奥まった中央部はここからは見えないが、キャロルはその方向を凝視し続ける。
 人間には倉庫の壁しか見えない場所だが――どうやら彼女には、その向こうが「見えている」らしい。
 そして突如その視線が動いた……屋上でうごめく“何か”を追うように。


(汝――何故にここに来た?)


 耳よりも頭に直接響くような不気味な声が――キャロルのすぐ横で響いた。
 そこには薄暗い路地の陰でハッキリとは見えないが、メタリックな物体が1つ、佇んでいる。

「それはこちらのセリフよ……あなたこそ、何故にここに来たの?」

 問い返すようにキャロルがそう言うと――物体はやおら、まばゆい光を解き放った。
 その光の中には、ぼんやりとしているが、まるで天使を思わせる白いシルエットが見えている。

(我は審判の天使……この世界に正義の審判を行うためにやってきた)

 敬虔なクリスチャンなら、その場でひれ伏していたのかも知れない――だが。

「悪いけれど、私にフェイクは通じない……潔く名乗りなさい、異世界の住人よ、さもなくば――」

(さもなくば――どうすると言うのだ……汝も“異世界の住人”ではないか)

 “光の天使”の言葉に、クールなキャロルの眉がピクリ、と動いた。

「あら奇妙なことね……どうして私が“異世界の住人”だと知っているのかしら?」

(我が名は正義の審判者エグゼル――全てお見通しということだ)


「あなたの気配に覚えがあるわ……あの時、空の上でヘリキャリアを攻撃した、悪意の化身たち!」


 そう言って、キャロルは両手にプラズマの炎を煌めかせた……対峙している相手が「何者か」、
 キャロルはどうやら「薄々勘付いている」ようである。
 だが光の天使――エグゼルは、ゆらゆらと不気味な揺らめきを続けながら“問答”を仕掛けてくる。

(正義と悪の区別も付かぬ、哀れな罪人たちよ……やはり審判が必要だな)

「その挑発、いつまで言えるかしら――!?」

 次の瞬間――光がバーストするように大きく膨れ上がり、何か小さな塊がキャロルに飛んできた。

(現在鋭意執筆ちぅorz)


プロジェクト・アポカリプス検討エピソード2


★PA第13章/休息と交流と再編と/2013-08-03

 2013年8月3日――プラズマモール事件が収束した翌日。

 午前10時頃か、サイトGの玄関前に2人の少女と2人の少年が立っている。
 加奈と咲、そしてディアスとカズヤだ。
 加奈がおっかなびっくり玄関ベルを鳴らすと、すぐライカがドアを開けて現れた。

「よく来たわね、遠慮しないで中に入って♪」
「は、はい……」
「お、お邪魔しまーす……」

 困惑しながら玄関ロビーに足を踏み入れる少女コンビと少年コンビ。


 実は昨日――4人はライカから、サイトGへの“招待状”を受けていたのである。


 といっても、別にホームパーティーを開催するわけではない。
 プラズマモール事件で“銅像娘化能力”を発現した加奈に対して、
 アドバイスや情報交換を行うことを目的に、ライカは4人をサイトGに呼んだのだ。

 また咲やディアスたちも友人である上、加奈の“変身”を目撃した当事者のため、
 加奈と一緒に来るようにライカは伝えていた。

 そして玄関ロビーに入った加奈たちは、再び目を見開いた。

「えっ……み、みんな……?」

 ロビー奥の多目的スペースで待っていたのは、木更津柚子や陽炎、冬雪たちである。
 彼女たちとは“喫茶店妖怪事件”からの縁なので顔は見知っており、
 昨日プラズマモールにも一緒に出かけているのだが、
 こうやって加奈たちの来訪を待っていたことの意味を、彼女らはまだ知らなかった。

「まずは4人に謝らなければならないわね……私たちの“正体”について」

 そう言って、ライカはまずは自分たちの“素性”について話し始めた――。

◆タイトル◆

(*****)


「つ、つまり……“異世界”からやってきたと……」

 再びサイトG。
 自らの“素性”を打ち明けたライカたちや冬雪たちに、加奈たちは目を丸くしている。
 特殊な背景を持つ人々では――と何となく思ってはいたようだが、
 改めて“異世界召喚者”と言われると、ちょっと信じられない気分になったらしい。

「厳密に言うと、この子たちは自発的にこの世界にやってきたというよりも、
 超現実的な“異変”によって、飛ばされてきたと表現した方が正しいかしらね。
 まぁ“陸自娘”の子たちは、自発的ではないけど、前から異世界は認識してたけども」
「まぁ、いきなりこんなこと言われてもファンタジーみたいに思えるだろうけど……」

 苦笑しながら、冬雪がそう言った。
 その横には柚子が立ち、柔らかい笑みを加奈たちに向けている。
 彼女もまた、加奈の“変異”の目撃者の1人だ。

 加奈は相変わらず困惑しているが、咲はかなり適応力が高いようで、何度か頷く。

「何だかとんでもない話ですけど……昨日起きた事件だって非現実的ですしね……」
「う、うん……そうだね……」
「昨日の事件だけじゃないよね、変な事件が相次いでるって、ニュースも言ってるし」

 そう言うと、咲は何か意を決したように、ライカの顔を見た。


「あの……じゃあどうして、加奈はあの時――あんな姿になってしまったんですか?」


 そう言った咲に――ライカはことの顛末を話した。
 金芽台で暗躍していた異世界のマフィアのようなものが、加奈を“銅像化”したこと。
 そしてそれを察した冬雪たちが、加奈と他の被害者を救い出したこと。
 更に“銅像化経験”が原因となって、加奈に“銅像娘化能力”が身についたこと。

「あの黒い雨……やっぱり、夢じゃ、なかったんですね……」
「黙っててごめんね、加奈さん……ボクらも、ちょっと言い出せなくて……」
「えっ、あっいやっ、碓氷さんが謝ることなんて……助けてもらったんだし……」

 困惑しながらも、頭を下げる冬雪に加奈はそう返した……そしてライカが話を続ける。

「一過性の事件だったら、そのまま忘れてしまっても、対して問題はなかったと思うわ。
 でもその経験値を再び呼び起こす事件が起きてしまったからには、
 あなたはどこかでこの“ファンタジーな現実”を受け止めるべきだと思う」
「そう、ですね……」

 “衝撃的な事実”をまだ噛み砕けていない加奈を見て、再び咲が口を開く。

「それじゃあ、加奈はこれからどうしたら……」
「これまでの生活はそのまま続けて構わないわ、彼女は彼女、他の誰でもないのだから。
 でも“新しい能力”については、理解があった方が良いと思うわね。
 それからこれはお願いなんだけど、改めてこの子たちのお友達になって欲しいの。
 この子たちも特殊な能力を与えられて、その運命に苦労してきたからね」
「そうか……何かよく分からないけど、色々あったんですね」

 そう言うと、咲は再び、自らに言い聞かせるように、うんうんと頷いた。
 そんな親友の振舞いを見て、加奈の表情も緩む――カズヤやディアスも同様だ。

「加奈、あたし頑張るよ……加奈や碓氷さんたちをもっと理解したい!」
「さっちゃん……さっちゃんは強いなぁ」
「何か、スゴいことになってきたね、ディアス兄ちゃん」
「あ、あぁ……まぁな」

「受け止める準備が、ある程度出来たようね……それじゃあ、新しい子を紹介するわね」

 ライカがそう言うと同時に――奥の廊下から別の人影が数人、現れた。
 そしてその姿を見た加奈たちは、更に大きく目を見開く。


 加奈たちの前に姿を現したのは、アイナやラティス、スミレやルイであった。


 青や黄色の肌を持つ女性――厳密には純粋な女性ではないが――や、鉱物の少女たちに、
 カズヤやディアスはもちろん、咲も唖然とする。
 ただ――加奈は自らもそういう経験をしたためか、驚きはしたが複雑な表情だ。

「ボクはラティス、こっちはアイナ。 キミたちにはあのモールでも会ったねw」
「初めまして、スミレです……こんな成りですけど、いちおう元々は人間だったんですよ」
(あたしはルイよ……えぇっと、ライカさん、この声聞こえてるんですよね?)
「えぇ、石化経験のある“キャリア”には、ルイちゃんの声も届いているはずよ」

 衝撃で開いた口が塞がらない3人と、複雑ながらも受け止めようとする加奈。
 咲も数秒ほどぽかん、としていたものの、徐々に適応したようだ。

「ま、マジか……」
「何か、マンガの世界に入り込んじゃったみたいだね……」
「……で、でも……元人間、って言いましたよね……考えてみたら凄く過酷な運命……」

「あたしなんて、全然大したことないですね……」

 スミレやルイたちの姿を見て、加奈は自嘲じみた苦笑を浮かべる。
 そのリアクションを見て、スミレとルイは顔を見合わせ、すぐにフォローに入った。

「あっ……そんなこと考えなくて良いんですよ、あたしたちも友達が欲しいから……」
(そうそう……友達になってくれたら、あたしすごく幸せだと思う)

 そんなスミレたちを見て、再び咲も前向きになったようだ。

「そっか……これって、滅多に経験出来ないことなのかも……だとしたら凄いよね」
「やっぱり、さっちゃんは強いなぁw」


(*****)


(温泉旅行の準備と伏線)

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最終更新:2024年11月23日 19:15