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GDW検討エピソード1



★銀河社会点描/セイヴァネスロード合同演習

 リーヴァス・セイヴァネスロード。

 それは「銀河団の守護」を目的とした、大規模な平和維持組織の総称である。
 直径2,000万光年ほどもある、広大なリーヴァス・アヴィエラ銀河団の守護のために活動し、
 どの星間連合にも属さない義勇組織の1種であるが、その規模は星間連合の正規軍を凌ぐだけでなく、
 技術レベルもクルーの意識や矜持も高い「神々の軍団」として伝説的な影響力を持っている。
 “総称”と書いたように、厳密には複数の防衛目的の大規模な義勇組織を内包している。

 リーヴァス・セイヴァネスロード(略して単にセイヴァネスロードとも言う)の“顔役”が、
 銀河団の重心である、巨大なリーヴァス超銀河系を拠点とする“スペリオーグ機動団”であり、
 リヴレイズに代表される強大なザイオノイド系監視者、俗に言う“戦神族”が主導し、
 ゾアクロイド連合軍ヴァーツに代表される、巨大な脅威に対する抑止力として機能している。

 銀河社会は概ね平和が維持されているが、それは彼らの努力の賜物でもあるのだ。

 そしてセイヴァネスロードは、数十年に1度ほどの頻度で、定期的に“合同演習”も開催している。
 セイヴァネスロードに含まれる義勇の防衛組織は複数あるが、それぞれ違う個性と特性を持ち、
 それを相互に確認し合い、抑止力の隙を埋める必要から、こうした演習を開催するのだ。

 例えば上記したスペリオーグ機動団は、巨大なリーヴァス超銀河系を守護することを主任務とし、
 宇宙屈指の快速性能を誇る艦艇を複数保有し、ずば抜けた機動力を持ち味としているが、
 銀河の外縁部で大規模な防衛ラインを張るにはいささか小規模な組織でもあり、
 これをカバーし得る“同志”の援護を、ある程度前提とした運用構造になっているのが特徴である。
 単独で全て自己完結するのではなく、同志と協調することも重要な意義があるのだ。
 理性的な知性によって平和を維持する銀河社会では、それが常識でもある。

 そんなセイヴァネスロード合同演習で、しばしば拠点となるのがデウセス・トレヴァーナである。

 (画像)

 デウセス・トレヴァーナは、セイヴァネスロードの支援と仲介を主任務とする複合的な管理組織、
 デウセス・コンシェルードが運用する巨大なシティキャリアであり、
 全長5,000kmを越えるこの巨大な宇宙船に、複数のセイヴァネスロードが有志を派遣することで、
 情報交換を含めた大規模な演習を実施することが可能になっているのである。

 デウセス・トレヴァーナは細長い3基のユニットと円筒形のユニットを組み合わせた独特の構造で、
 中央の空隙は巨大な砲火兵器に見えるが、単なる宇宙艦隊の係留ドックで決戦兵器はない。
 あくまでもセイヴァネスロードの支援のために建造された「動く軍港」なのだ。
 管理組織デウセス・コンシェルードの基準年時代における代表はシェイラ・ミネルクス。
 セイヴァネスロードの1組織である軍事組織“リヴプラス銀河守護隊”の代表として知られる、
 アトラクルスの行動的な軍師エティナ・ミネルクスの姉として、知る人ぞ知る人物でもある。

★タイトル

 デウセス・トレヴァーナの主船橋――もっとも予備の船橋は船内に複数あるが――で、
 ミステリアスな黒いドレス風味のスーツを着た、長身の女性が宇宙空間を無言で眺めている。
 彼女こそ、デウセス・コンシェルードの“大統領”、シェイラ・ミネルクスその人だ。
 高度な物質化能力“メトラクタス”を持つ監視者種族アトラクルスであり、
 年齢不詳の“美魔女”であるが、基準年時代で既に軽く1万年余りを生きていると言われている。
 実は彼女が着ている印象的なドレス風スーツも、彼女自身のメトラクタスで生成している。

『大統領閣下――リヴオーバル団代表のリオセイル様が来られました』

 ふと――船橋の奥にある執務室に通信の声が響き、シェイラは窓から視線を逸らす。
 間もなく開催される“セイヴァネスロード合同演習”の関係者が、船橋にやってきたのである。

「分かった――通して」

 落ち着いた声でシェイラがそう言うと、1分もしないうちに船橋のテラ・ゲイトが強めに発光し、
 その光の中から、ひょろりとした竜人風のエイリアン種族が姿を現した。
 テラゲイトは離れた座標同士を結ぶ“固定式転送器”の1種で、銀河社会ではよくある設備である。

「ディアマントゥ・リオセイル、只今参上しました!」

 現れた長身の竜人はセグノーツのディアマントゥ・リオセイルだ。
 セイヴァネスロードの1つ“リヴオーバル有事調査団”に所属する、有名な幹部の1人である。
 セグノーツはリーヴァス・アヴィエラ銀河団ではなく、その外にある銀河団の出身だが、
 リヴオーバル調査団はこうした外銀河の有志をよく取り込む組織でもある。

「よく来たねディアム――あんたが1番乗りだよ」

 シェイラにそう返されて、ディアマントゥは人懐っこそうな笑みを浮かべた。
 義勇軍事組織の大幹部だが、オープンで社交的な女性であり、シェイラとは実は深い縁がある。
 シェイラにはファーストネームをもじった“ディアム”の愛称で呼ばれることも多い。

 (画像)

「姐さん――おっと大統領閣下、これは大事な演習ですから、当然ですよ!」
「ふふ、あんたに大統領閣下って呼ばれる時代が来るとはねぇ」

 ディアマントゥにとっては、シェイラは銀河を越えた監視者たちの交流ノウハウを教わった先輩で、
 プライベートでは“姐さん”と親しみを持って呼ぶ関係でもある――それが出たらしい。
 とはいえここは軍事支援組織の公的な場であるため、私語は慎まねばならない。

「今回の合同演習の“提督”も確か、ディアムの恩師だったね?」
「そうです、先に着いてしまったので、まだ挨拶はしていませんが……」
「来てから言葉を交わしたら良いさ」

 ディアマントゥは真鍮色の装飾装甲の下から、グラデーションが印象的な優雅なローブを着ている。
 一見してシルクを思わせる繊細な質感であるが、実は「ガスを圧縮したもの」であり、
 気体を高度に制御する能力“グラウディン”の術式を駆使したスーツだ。
 セグノーツの波動能力を背景にした固有文化の1つだが、アトラクルスのメトラクタスと似ている。
 そのためスーツの中では常に“強風”が吹き、必要なら自由に「穴を開ける」ことが可能だ。
 「高山にかかる傘雲やレンズ雲のようだ」と形容されることもある。

「他の同志もそろそろ集まる頃だから、指揮所の方に行こうか」

 シェイラはそう言って、ディアマントゥを連れて別のテラゲイトの方へと歩いて行った。

◆

 シェイラとディアマントゥ、2人がテラゲイトを抜けた先には、広大なホールが広がっていた。
 デウセス・トレヴァーナの中央指揮所で、巨大な円筒形構造物の頂部にあるため、
 指揮所の半分を覆う巨大なキャノピーの向こうには、特徴的な係留ドックが見えている。
 3基の細長いユニットをつなぐリング状の係留ドックには、既に様々な宇宙艦艇が集結しつつある。
 それはまるで、観艦式の準備をやっているようで壮観な光景だ。

 指揮所は有機的なペデストリアンデッキ(渡り廊下)をセンターに、複数のデッキを組み合わせて、
 体格が異なる種族が同じ指揮所で議論を交わせるように配慮されている。
 これも銀河社会ではよくある設備の1つで、目線を合わせるために多層的な構造となっているのだ。

 2人が中央指揮所に到着するや否や、大きな2つの影が2人を覆った。

 サメを思わせる巨大な生命体と、ディアマントゥに似るが、はるかに巨大な竜人である。
 前者はウォレクターのヴォラックス、後者はティトゥセギオンのパイローネだ。
 どちらとも全長200~400mほどと、それ自体がちょっとした宇宙艦艇並みの巨体を持つ種族だが、
 同時に銀河社会の秩序維持に欠かせない、象徴的な監視者として有名な種族である。
 ウォレクターはアレクトラ銀河系、ティトゥセギオンはアルフィナス銀河系の出身種族だ。

「早いね――2人とも」
「当然ですよ大統領閣下、大事な演習の打合せですからね」

 シェイラの言葉に、パイローネが見下ろすような高さから返答する。
 これでも彼女の下半身は、シェイラらが立っているペデストリアンデッキの下にあるのだが。
 パイローネの向かいにいるヴォラックスは彼女よりも巨大で、威圧感を漂わせる。

「ヴォラックス――何か不満かい?」
「……別に、私情を差し挟むつもりはありませぬよ」

 ヴォラックスは指揮所内に反響する野太い声でそう言い、パイローネを片目でちらりと睨んだ。
 この軍艦並みの巨体を持つ“巨神”は、かなり頑固な“保守派”で有名であり、
 どちらかと言えばリベラル気質であるシェイラや、パイローネとはしばしば意見が合わないのだ。
 真面目な議論ほど意見が対立し、激論になることが多いので、ある意味面倒な男でもあるが、
 銀河社会の有意義な伝統を重んじることは、決して悪いことではないのだ。

「まぁそうカリカリしなさんな、今回は定期的な演習だ、あんたも分かってるでしょう」
「別にカリカリなど……我はいつもこんなものであります」

 居合わせるディアマントゥは、遠慮がちに苦笑いの表情を浮かべた。
 確かに今日のヴォラックスは少々“拗ねている”ように見える……高潔な知性の持ち主だが、
 だからこそ「譲れないテーマ」で論破されると、ストレスを隠せなくなるのだ。


 そして、妙な空気を変えようと視線を逸らしたディアマントゥの表情が――パッと明るくなった。


「――ゼントミルト提督!」

「おぉ、ディアマントゥか……立派になったね」

 ペデストリアンデッキの反対側から歩いてきたのは、******・ゼントミルト。
 シェイラの妹エティナが指揮するセイヴァネスロード、リヴプラス銀河守護隊の幹部であり、
 エティナやシェイラと同じアトラクルスだ……今回の演習を指揮する“演習司令官”を努める。
 シェイラとも妹を介して縁があるが、やや堅い性格のためかプライベートの縁は少ない。
 ディアマントゥにとっては、星間安全保障の視野を拡げるきっかけになった“恩師”の1人だ。

 セグノーツは平均身長が2.5mほどもあるため、シェイラも******も彼女より小さいが、
 ディアマントゥにとってはどちらも先輩だ……実の所今回の演習に志願したのもこのためらしい。
 そして******の後ろからは、水牛のような角を持つ青い肌の竜人が歩いてくる。
 ネオシスのノルザムだ……彼はデウセス・コンシェルードの幹部で、今回の演習の仲介役である。
 ******が到着したため、彼が彼女をここまで案内してきたのだ。

「ご苦労さん、待ってたよノルザム」
「……大統領閣下、私の仲介にも限度があるので、余り頼られても困りますぞ」

 ノルザムはそう言って、頭上にのしかかるヴォラックスの頭をちらりと見上げた。
 どうやら――シェイラとヴォラックスの“口論”を、時々彼が宥める役を任されるようである。
 弁護士資格を持つノルザムは、デウセス・コンシェルードの専属弁護士でもあり、
 法的なグレーゾーンを把握しつつ、複雑な交渉を組織有利の視点で進める重要な役目があるのだ。
 意図的でなくても、違法が疑われる選択をしてしまうリスクがあるからだ。

 とりわけ――多種族共生社会である銀河社会では、ただでさえ「法制の摺り合わせ」が難しい。

 基本となるのは“銀河司法規範”だが、ローカルな法制は星間連合や種族によって様々であり、
 余計なトラブルを避けるためには、これらの法制を常に摺り合わせる必要がある。
 代表のシェイラは“親分肌”で部下の面倒見の良さに定評があるが、
 ノルザムほど銀河社会の複雑な法制に詳しいわけではないのだ。

 更にペデストリアンデッキの隙間に、転送システムによるタキオン干渉光が2つきらめき、
 こちらもヴォラックスやパイローネに比べると小柄だが、大きな体格を持つ人影が2つ現れる。
 ベルセディスのマナルとヨトゥルカンのヴァリア・アクシゼートだ。
 どちらもちょっとしたビルほどの身長を持つ、デウセス・コンシェルードの幹部である。
 先に来ていた“軍艦サイズ”の2人と相まって、まるで聳え立つ巨像のようだ。

 そしてペデストリアンデッキの澳から、今回の演習を指揮する指揮官がゾロゾロと歩いてくる。
 リーヴァス超銀河系を拠点とするスペリオーグ機動団からは*****の******、
 テクノーヴァル銀河系を拠点とするブレンロード連合艦隊からは*****の******、
 キュルティロン銀河系を拠点とするアマツガイ帥将軍からは*****の******、
 銀河団外縁部に展開するリーヴィエール義勇救援隊からは*****の******。
 いずれも“宇宙神族”の異名を持つ高貴な監視者種族で、著名な軍師だ。

「全員揃ったかい? ――それじゃ、打合せを始めようか」

◆

「――そういや、キュルティロン銀河系も大変だったね」

 打合せの開口一番、シェイラが“近況の話題”をふと、口にした。
 それを聞いて、アマツガイ軍の幹部である******が、神妙な表情で頷く。

 今回の演習から先立つこと数年ほど前に、キュルティロン銀河系で大規模な軍事衝突があった。
 “銀河革命”を標榜するゲリラ組織ヴァルドゥーラによる大規模な連続テロと、
 これを支援するマフィアや、混乱を利用しようとするマフィアが複雑に入り交じり、
 更にキュルヴレイン同盟内で起きた不祥事も重なって、大混乱が起きた事件のことである。

「アマツガイとしても反省点が多い事件でした……今回の演習で多くを学ぶ必要があります」
「緩みがあったことは否定出来ない……まぁ今や反省の時間ではないですがね」

 スペリオーグ団幹部の*****がそう言葉を返すと、******が言葉をつなぐ。

「アナクゾーディの暗躍がポイントの1つと言えるでしょう……出来るだけ早く対処せねば」
「ゼントミルト提督、*****提督、アナクゾーディの拠点はリーヴァス系では?
 細部まで管理が難しい巨大銀河であることは知っていますが、取り締まれぬものですか?」
「ヴォラックス殿……アナクゾーディは必ずしもリーヴァス系を拠点とする組織ではないですよ。
 リーヴァス・アヴィエラ銀河団を広く暗躍している組織で、中々尻尾を掴ませない」

 ******の“反論”に、ヴォラックスは言葉にしなかったが、小さく溜息の声を漏らした。
 口の中で含むような小さな呻き声だが、巨体のため少なからず指揮所内に反響する。

「しかし……あの規模のマフィアに手こずっているのは、良くない状態ですよね……
 アナクゾーディはヴァーツともコネクションがあると聞きますが、どうなのでしょうか?」

 これはパイローネだ……ヴォラックスほどではないが、彼女の声も結構指揮所内に反響する。

「リヴオーバル調査団でもその疑いで調べていますが……ハッキリした証拠は出てきませんね」

 ここにディアマントゥが意見を挟んだ……リヴオーバル団は有事より平時の調査が主任務で、
 ディガスやエルドヴァリウスと頻繁に情報交換し、銀河間情勢を詳しく調べている。


 ゾルディアンの狡猾な魔人ワギル・ゾムを首領とするマフィア、アナクゾーディは謎が多い。


 複数のテロ事件に関与していると言われているが、細部まで証拠を集めるのが難しく、
 リーヴァス・アヴィエラ銀河団内を広く渡り歩いているため制圧も困難だ。
 ワギルは時に、挑発的なメッセージを発することがあるが、それでも尻尾を掴ませないのだ。

「近年はリーヴァス・アヴィエラ銀河団の周囲でヴァーツが大きく動いた形跡はないですが、
 ヴァルドゥーラ危機とほぼ同じ頃に、アトラス銀河系で起きた事件はかなり不穏なものでした」

 こちらはノルザムだ……彼も独自のコネで情報収集し、遠く深宇宙の銀河まで出かけたりする。
 ノルザムが指摘したのは、キュルティロン銀河系での騒動とほぼ同じ頃、
 アトラス・イグザ銀河団の重心の1つであるアトラス銀河系で起きた印象的な軍事危機だ。
 数十年ほど前に大規模な銀河大戦が起きた銀河としても、記憶に新しい。

「ヴァーツの超魔神が1人で示威行為をしたという事件ですよね……異例のケースです」
「あのディルガが示威行為だけで、何もしないで去って行ったなんて、ちょっと信じられません」

 その軍事危機では、ゾアクロイド連合ヴァーツの精神的支柱に当たる“超魔神”の1体、
 “破壊の超魔神”ことディルガが、少数の側近と共に示威行為をしたとされている。
 超魔神クラスが動く場合は、ほとんどのケースでは銀河大戦クラスの大規模な戦火になるため、
 示威行為だけで「手を引いた」というのは、極めて珍しい事例なのだ。

「よもや……アトラス系の盟主共同体は、ヴァーツに舐められているのではないか?」

 再びヴォラックスが口を開いた……静かな怒りの感情が、空気をわずかに震わせる。

「確かに……オリオネス大戦でも、タイランタ連邦に1時はかなり押し込まれたようですからね。
 監視者が主導する盟主共同体としては、恥ずべき事態です」
「まぁ……キュルティロン銀河系よりはマシですよ、こっちは政府内で不祥事が起きたので」

 ******の指摘に、*****がやや自嘲めいた言い回しで反応する。
 するとそこに、リーヴィエール救援隊の*****が、ふと1つの“疑念”を挟んだ。

「キュルティロン系とアトラス系……数千万光年も離れた2つの銀河で同時に混迷が起きた。
 これって“偶然のタイミング”なんでしょうか……どちらもヴァーツの影がありますよね確か」
「確かにちょっと不穏ですね……ただ何かの意図が絡んでいるのなら、それは何なのか」

 ******はそう言って、小さな溜息を吐いた。

◆

「それで……ゼントミルト提督が計画している、演習のスケジュールはどのようなものです?
 予定表は拝見しましたが、その後何か変更はありましたでしょうか?」

 ブレンロード艦隊の*****が、緩やかに打合せの軌道修正を図った。
 近況の宇宙情勢の復習も大事ではあるが、今回の主題はあくまでも合同演習である。

「おぉ、そうですね……基本計画としては、銀河団の外縁部に異状が起きたと同時に、
 ユルバロン銀河系内でも関連した破壊工作の予兆が感知された……という前提で考えております」
「今回の演習宙域が、ユルバロン系の外縁部なのもそのためなのですね」

 そう――今デウセス・トレヴァーナは、ユルバロン銀河系の外縁部を徐行航行している。

 ユルバロン銀河系は直径約12万光年の緑がかった楕円銀河で、銀河団の外縁部にあるが、
 銀河団の要衝の1つであり、およそ1万年余り前にヴァーツによる大規模な戦火も経験した。
 1,000を超す銀河が所属するリーヴァス・アヴィエラ銀河団でも、
 ヴァーツの直接的な標的となった銀河はある程度限られており、ユルバロン系はその1つなのだ。
 しかも200万年以上前に起きた銀河大戦でも被災するなど、しばしば狙われている。


 (途中段階orz)



GDW検討エピソード2


★クライシス2025/新たなる異変と蘇る悪夢

「――はいもしもし、清明神社社務所です……あぁ警部、ご苦労様です」

 和歌山県北部にある、清明神社の社務所兼居間。
 主催の阿倍慎一が、戸棚の上に置いていたスマートフォンの呼び出しに応じた。
 相手は警視庁の知人である、大沢竜平警部だった。

『こちらこそ、ご無沙汰してます……実はちょっと、お願いがあるのですが』

「はい、なんでしょう? ――この雰囲気だと、いわゆる“怪異”の類ですかね?」

『はは、いつも鋭いですな……まぁ確かに、怪異と言えば怪異ですかね』

 大沢警部は時折起きる、常識を越えた事件の捜査を担当することがある。
 必ずしも“怪異専門”というわけではなく、未解決の捜索事案を扱うことも多いのだが、
 その縁で慎一と知り合い、アドバイスを受けるようになった経緯がある。
 実際に2018年に起きた“裏社会抗争”などの事例もあり、ある程度のことを知っているのだ。


「怪異と言えば怪異……ですか、何だか含みますね?」


 慎一は大沢の言い回しに、妙な“含み”があることをすぐに察したようだ。
 再び受話器の向こうで苦笑の声が漏れる。

『実は飛鳥地方のある温泉街で、昨晩起きた出来事でして――』

 そう言って大沢が打ち明けた“事件”の内容に、慎一は思わず目を丸くした。

◆ページタイトル◆

 数時間後。
 奈良県・飛鳥地方にある温泉旅館『葵雲会館』に、1台のワンボックスカーが停車した。
 降りてきたのは慎一と娘の智晶、そして轟剛の“妹”、譲である。

「深谷先生、慎一さんたちが来ましたよ」
「あぁ阿倍さん、すいませんね急に」
「いえいえ、大沢警部の紹介ですし、気にしないで下さい」

 旅館の車寄せで慎一たちを迎えたのは、瀧川信也と深谷雄児である。
 性変動ミュータント、エヴァンスの“元少年”と、信也と縁のある医療技師だ。
 そしてその後ろから大沢警部が早歩きでやってくる。

「阿倍さん、ありがとう……助かります」
「いえ、それで……“被害者”は今どこに?」
「3階の大広間に集まってもらっている……深谷先生と岳城先生にも来て頂きました」
「岳城先生は既に検査に入ってまして、お迎えできずすいません」

 足早に階段を上がりながら言葉を交わす慎一と大沢、深谷の後を追って、
 智晶と譲、信也がこちらも言葉を交わす。

「ユズル君、久し振り♪」
「どもです瀧川さん……ボクらがいるってことは“同族”なんですかね?」
「まだそれはよく分かってないみたいだね……ただメンタルのアドバイスは出来るからさ」
「修学旅行先でこんな事件に出くわすなんて災難ですよねぇ」

 そう話している間に、慎一たちは3階の大広間に着いた。
 そして大広間には、数十名ほどの“少女たち”が、体操服姿や浴衣姿で座り込んでいた。


「警部……まさかここにいる全員が、“元男児”なんですか?」


 様々な“怪異”を見てきた慎一も、少し呆気に取られたような表情を浮かべている。
 その後ろで大沢警部は小さく頷いた……目のやり場に困るのか、少女たちから視線を逸らす。

「昨晩露天風呂を訪れた、修学旅行の男子児童全員が、突然“少女化”したそうです」
「それで、エヴァンスの集団変異現象が疑われたわけですね……これはちょっと、凄いな」

 座り込んでいる“少女たち”は様々な表情だ……困惑する者、動揺する者が多い印象だが、
 好奇心が勝っている者もいる……しかし共通して恥ずかしそうに顔を赤面させており、
 生まれながらの女児にはない、独特の雰囲気が漂っているのだ。
 体型も様々だ……10代前半っぽい容姿から、10代後半っぽい容姿まで様々であるが、
 “異変”を最初に認知した旅館の関係者に言わせれば、全員が小学6年生の男児だという。

「修学旅行には、女子児童もいたのでは?」
「いました……そちらにはおかしい点がなかったので、先に帰宅してもらいました」

「ってことは、男子と女子が“入れ替わった”わけじゃないんやね……」
「“入れ替わり”だったら、それはそれで大変なことになるんじゃないかな」
「1人や2人の話やないですしねぇ」

 智晶の言葉に、苦笑いで信也が言葉を返す。
 そしてユズルを含む3人は、自分たちが「注目を集めている」ことに気付いていた。

「ボクら見られてますね……」
「そりゃあ、当事者じゃない数少ない“女子”やしねぇ」

 その時、大広間に5名ほどの“少女たち”が入って来た……周囲の反応から見ると、
 どうやら“彼女たち”も“被害者”らしい……それを確認すると、
 部屋の端に座っていた数人が躊躇いがちに立ち上がり、奥の部屋へと歩いて行った。
 それを軽く目で追った深谷が、小さな声で解説する。

「あの奥に大浴場がありまして、そこで岳城先生が身体検査をしているようです」
「なるほどね……それで現時点での結果は出てるんですかね?」
「半分ほどの検査が終わったようですが、今のところ特異体質の証拠は少ないようで」
「となると、エヴァンスではなくて“純粋な女性化”の可能性が高いか……」

「あるいはエヴァンスでも、ロヴニス系の可能性はあるかも……雰囲気が似てますし」

 これは信也だ……確かに信也は言われなければ、普通の女子とほとんど変わらない。
 “女体化ミュータント”として知られるエヴァンスには幾つかの“系統”があり、
 最も多いのはアナキス系だが、これは普通の女性より大柄で筋肉質なケースが多い。
 対してロヴニス系は全体に華奢で小柄であり、普通の女性とよく似ているのだ。
 今回の場合、まさに信也がロヴニス系で、ユズルがアナキス系に当たる。

◆

 それから1時間弱ほどで、被害者全員の検査が終わったようだ。
 大浴場に向かう奥の廊下から、白衣の女性が歩いてきた……岳城真佐美である。
 深谷の後輩に当たる女医であり、過去にもエヴァンスの身体検査などに関わっており、
 慎一や大沢警部とも、既に面識がある人物だ。

「阿倍さん、ご苦労様です」
「岳城先生、どうもありがとう……どんな状況ですかね?」
「まだ精査してないので断定は出来ませんが、身体的な特徴は女性そのものですね。
 あるいはエヴァンスでも、瀧川さんのようなロヴニス系の可能性が高いです」
「あぁやっぱり、自分も何となくそんな気がしてたんですよ」

 岳城の報告に、信也がうんうんと頷く。
 その横で、慎一と智晶が、大浴場の方に目を向けた。

「大浴場は今、無人ですか?」
「そうですね……それがどうかしましたか?」
「誰もいないなら、少し調べてみたいんですがね……智晶お前、行けるか?」
「うん、任せて! ――ユーちゃんも来る?」
「そうやね、アーちゃんに付き合うよ」


「阿倍さん……いったい、どういうことですか?」


 大浴場に向かおうとした智晶とユズルを見て、ふと大沢警部が声をかけた。
 慎一は「考えていたこと」を警部に話す。

「ちょっと、不穏な霊気を感じるんですよ……大浴場の方からね」
「えっ……ということは、単なる集団変異ではなくて、やはり怪異ってことですか?」
「まだ断定は出来ませんがね……でも更衣室にいた岳城先生には異状がない。
 ということは、女性ならその場にいても問題がない可能性がある」
「つまりエヴァンスの変異現象ではなく、男児を女性化させる怪異が起きていると?」
「あくまでも可能性ですがね……じゃあ智晶、ユズル、頼んだぞ」

     ・
     ・
     ・

 大浴場には、まだ湯が張られていた。
 更衣室のガラス戸を開けて、智晶とユズルが大浴場に入ってきた。

 ただし服は着ている……靴下は脱いでズボンの裾は上げているが、残念だったな!

 滑り止めの付いたサンダルを裸足に引っかけて、2人は大浴場の床に足を下ろす。

「あぁ、なるほど……確かに、変な霊気を感じるわ……ユーちゃんはどう?」
「アーちゃんに同じく……何やろこの感覚、言葉にするの難しいな」
「パパが言ってたのは、こういうことやったんやね……」
「……と、言うと?」

 智晶はユズルに向かって振り向くと、言葉を続けた。

「多分あの子たちを少女に変える“呪い”みたいなものが、この大浴場にかけられてる」

「え、マジで!? そういうのってアリなん?」
「何年か前に、岐阜県の方でも似たような事件があったらしいんよ。
 まぁ当時ウチはまだ小さくて、後からパパに聞いた話なんやけどね……」
「そんな事件が、前にもあったんや……」

 半ば呆然としてるユズルを横目に、智晶は大浴場をキョロキョロと見回す。
 そして何かを感じ取ったように、温泉水が流れている湯船の方に歩いて行った。

「……うん、ここや、ここの霊気が1番強いわ」
「えっ、そこって、湯が出てくる所やんね?」
「そやね……多分この霊気、この旅館やなくて、外から流れてきたんとちゃうかな」
「……ちょっと何言ってるか分からへん」

 どこかで聞いたような言葉を聞いて、智晶は思わず苦笑いした。

「つまりね……この事件は偶然やなくて、誰かが意図的に仕掛けた可能性があるんよ」

 ユズルは再び目を見開いた。

◆

「不安だろうけど、元気出して。体が女性だからって、女らしくしなくても良いんだから」

 大広間では、信也が“少女化した少年たち”のカウンセリングを実施していた。
 信也は見た目こそ10代後半の少女のようだが、実はこう見えて30歳をとうに過ぎており、
 エヴァンスに変異してからの経験値も20年以上あるのだ。
 2016年に変異したユズルもまだ“エヴァンス歴”9年程度なのである。

 にこやかに会話する信也の周りには、自然と“元少年たち”の環が出来ており、
 男性とも女性とも言えない、どこか中性的な信也の振舞いに関心を持っているようだ。

「最初は大変だと思うよ、自分もそうだったからね……でもいつかきっと克服するはず。
 何より、ここにいるみんなが、同じ経験をした“同志”なんだから」

 信也がそう言って励ますと、“元少年たち”はお互いに顔を見合わせて、
 再び顔を赤らめながらも、戸惑いがちに笑顔を交わした。
 「皆が同じ経験をした同志」という信也の言葉に、かなり勇気付けられたようである。

「あ、あの……俺――あいや、その……わ、わた、私は……」
「あぁ気にしないで、そのままで良いんだよ、俺で良いの、俺でね♪」
「お……俺のままで、良いんですか?」
「全然大丈夫、普通の女子にも、自分を俺と呼んでる子がいるんだから、問題ないよ」
「そ、そっか……俺のままで、良いのか……」
「あっあのっ……じゃあ、お、俺も……俺のままで良いの!?」
「もちろん、今までの自分で良いんだよ、心は何も変わってないんだからさ♪」
「は……はは……よ、良かったぁ!」


 そんな信也のカウンセリングを横目に、大人たちが智晶らの“報告”を聞いている。


「……人為的に、起こされた事件だって、いうんですか!?」
「警部はよく分からんでしょうが、この子の霊感は私よりも鋭くてね。
 この子が『疑惑の霊気が外から来た』と言うなら、ほぼ間違いなくそうだと思います」
「だとしたら、いったい誰がそんなことを……男児を女児に変えて、何がメリットなのか」

「多分ですが、人間の姿や性別を変えるという“術式”の実証なんじゃないですかね。
 究極的には『女性化する』だけでなく、例えば『別の動物』に変えることも可能かも。
 考えてみてください……今回は『男児が女児になった』からこうして報告されましたけど、
 もしこれが『イヌやネコ』に変えられていたら、ただの集団失踪事件になっていた」

 慎一の例え話に、大沢の表情が引きつるように強ばった。

「……これまでの行方不明事件を、洗い直さねばならないようですね……!」

 もしも「人間を別の姿(異種族を含む)に自在に変える方法」があるのだとしたら、
 神隠しのような突然の行方不明事件を起こすことも、容易になる理屈である。
 そんな事件を起こしているのが同じ人間なのか、異界の異種族なのかは不明瞭であるが、
 証拠がなくて迷宮入りした失踪事件も、もしかするとそうだったかも知れない。
 それが重大な可能性を持つことを、大沢は理解したのである。

「けれど、人為的な女性化工作だとしたら、彼女たちこれから、どうするんでしょう?」
「時間をかければ元に戻るのか、それとも今の姿が固定化されるのかも分からない。
 経過観察が必要だから、エヴァンスに準じる手続きで支援しながら様子を見るべきだな」
「経過観察、ですか……なら定期的な検査も必要になりますね……」
「その際は、また岳城先生にお願い出来ますかね、あと深谷先生もフォローして頂けると」
「もちろんです、乗りかかった船ですから、最後までカバーしますよ!」

 深谷がそう言って信也の方をちらりと見ると、信也が無言でサムズアップした。
 大声で会話していたわけじゃないが、信也はちゃんと聞いていたらしい。

「母校は兵庫県の方にあるらしいので、定期検査の通院も出来そうではありますね」
「それは不幸中の幸いだったのかも知れませんな」

◆

「そんな事件だったんや……そりゃあ被害者もビックリしたやろうねぇ」

 再び清明神社の社務所兼居間……帰ってきた智晶の話を聞いているのは鬼香だ。
 その隣には藍色がかっった青い肌と女性的な容姿を持つ人物。
 “遺跡系エヴァノイド”の変異体の1人ティトルだ……例に漏れず“彼”も元男子である。

「それって、自分が変異した時に似てるのかも知れないな……場所は違うんだろうけど」
「あーそうやね、ティトルさんが変異したシチュエーションも似てるかも」
「けど凄い光景だったろうね、何十人というクラスメイト全員が少女化したわけだから」

(……なんかあたし、他人事に感じないです……)

 ティトルの横で、体を抱きすくめるようなリアクションを見せたのはカスミだ。
 瞳の影がない灰色の体……砂岩に似た質感と体質を持つ、メタロイドの1人である。
 彼女の場合は温泉旅館ではないが、雑木林の奥の“罠”にかかって石化を強いられた。
 数年後に保護されてはいるが、人間に戻る術を絶たれた1人である。
 人間だった頃の記憶の多くを失っており、自分の意志で動けるようにはなっているが、
 石化を強いられる直前の悪夢のような絶望感は、まだおぼろげに覚えている。

「そうか……カスミさんも林の中でいきなり変えられたんだよね……」

(あたしだけじゃなくて、メアさんやテアちゃんもそうですよ……不運ですよね。
 だからその子たちの困惑やショックが、何となく分かるんです)

 因みにカスミは肉声を出せないが、智晶も鬼香もユズルもティトルも感知可能である。
 鋭い霊感があれば、声を出せないメタロイドとの意思疎通も可能なのだ。

「もし元に戻れないとしたら、今までの自分の姿と永久にサヨナラするわけだしなぁ。
 自分も『生きたまま生まれ変わる』ような気分だったし」

 そう言って、ティトルは腕を組んだ……その内側でTシャツに挟まれた青い胸が揺れる。

「でも信也さんのカウンセリング、頼もしかったよ……心は何も変わってないんだから、
 姿が変わっても心を変える必要なんかないって、ウチまで勇気付けられたし」
「良いこと言うじゃん、自分もホントそう思うわw」
「ティトルさんも男子だった時とキャラ変わってないって言ってたよね」
「まぁ自分の場合は結果論だけどね、ラティスさんはかなり中性化したって言ってたし」

「それはそうと、その子らは結局どうなるん? 心を変えなくても良いって言ってもさ、
 今までと同じ生活はしづらいでしょ、あたしちょっと想像付かないな」

 鬼香が言っているのは、被害者の“これから”の話である。

「エヴァンスの登録手続きを流用して、調書を取った上で、順次反映させて行くんやって。
 ただこのまま女の子のまま体が固定されるかどうかも分からへんから、
 1週間くらい様子を見てから、手続きを進めていくって、パパが言うてたわ」
「そっか……元に戻ったら戻ったで、複雑な感覚が残りそうやね……」
「けどさ、その子らまだ12歳だろ? 自分の時も複雑な気分だったけど、
 その歳で体の方は成熟し切った子もいたみたいだから、それも変な気分だろうな」
「エヴァンスではよくあるケースらしいけどね、ボクも外見はほぼ成熟しちゃってるし」

 確かにユズルは、顔立ちこそまだ幼さを残しているが、かなりグラマーな体形である。
 智晶と同い年で既に18歳になるため、今はほぼ年齢相応の外観になってきたが、
 エヴァンス変異した9歳の時点で、今の容姿はほぼ完成されていたのだ。

(あたしの場合、幼女体形で固定化されちゃってますけどね……)

 カスミはそう言って、灰色の顔に苦笑いの表情を浮かべた。
 確かにカスミの場合は、10代初期の頃に石化されたため、その体形が固定化している。
 保護されるまで数年ほど意識がなかったことを差し引いても、もう10代半ばだが。

「まぁでも、逆に言うたら、ボクらみたいな“前例”が役に立つってことなんかな?
 信也さんも『エヴァンスとしての経験を活かせる』って言うてたし」
「だよな、自分も似たようなポジションだし、励ましてやれることはある気がする。
 ……まぁ、この肌色が問題にならなきゃ、だけども」
「大丈夫やないですか? 天性のエヴァンスにも青い肌の人、少数やけどいますし」
「あーそっか、レノスとかクイスとかそうだもんな」

 2025年ともなると、ミュータント種族エヴァンスの知名度もそれなりにある。
 2016年と2022年に“大発生”が起きた結果、ちょっとした少数民族の規模になっており、
 寒色系の肌色の個体がいることもそれなりに知られているのだ。
 ティトルは「天性ではない」ものの、見た目はそうしたエヴァンスと大差はないのだ。

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最終更新:2026年10月03日 17:49