蒐集家の気ままな散歩
色んな街に現われて、お土産を持って帰ってくる
彼女の事を知らない人は意外と少ない。
名前や素性は知らなくても、外見の特徴や素振り等を説明すると、
決まって人々は『あぁ、あの人のことか』と口を揃えて言う。
それでも人の居ないところに行くと、彼女の痕跡は一度途切れる。
今回彼女が訪ねたるは、人の痕跡など皆無の水平線まで続く一面の水溜まり。
空(うえ)を見上げれば、途切れることのない何処までも長い入道雲。
目の前には寄り添うように佇む大小二本の木。
歩く度に僅かに広がる水面の波紋が、人のいないこの場所での彼女の存在のようで、
まるで最初からそこに在ったかのように自然だ。
彼女が旅先から何も持って帰らなかった時、人々はそれを散歩と称する。
ご近所さんたちにとって、その時の土産話も楽しみの一つなのである。
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最終更新:2022年08月31日 18:36