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26人いる! その5 - (2007/01/12 (金) 04:43:37) の編集履歴(バックアップ)


26人いる!その5 【投稿日 2006/11/12】

・・・いる!シリーズ


春日部「『何ちゅう日本語だ???』あんたたち、日本語喋れるようになったんだな…」
笹原「久しぶり、来てたんだ。今日はどうしたの?」
さすがに春日部さんが本格的にオタク道に目覚めて、自主的に来たとは思えなかった。
春日部「高坂がさあ、企業ブースとかいうのに出品するんで、初日と2日目の2日間ここに泊り込むから、着替えと食事の差し入れよ」
笹原「大変だね」
朽木「まるで刑事の妻ですな」
春日部「よしてよ縁起でもない」
荻上「あの、お店の方は?」
春日部「お盆は世間並みに休むわよ。都心部の服屋でお盆に店開けてても、人件費食うだけだしね…」
笹原は春日部さんの表情に微かな翳りを感じ、思わず尋ねる。
笹原「何かあったの?」

しばしの沈黙の後、春日部さんは事情を語り始めた。
春日部「うちの店員ってさあ、私自ら面接して、話し方とか頭の良さとかファッションセンスとかをポイントに選んだんだよね」
笹原「?」
春日部「最初はうちの後輩とか恵子をバイトに入れようかとも思ってたんだけど、最初からなあなあになっちゃいけないと思ったから、敢えて求人かけて全くの他人を雇ったのよ」
荻上「それでうちの子たち使わなかったんですね」
春日部「それなのに、そんな精鋭中の精鋭たちのはずのうちの店員たちが、全員腐女子だったのよ」
一同「えっ?」
春日部「全員盆休みを希望するんで、里帰りしたり墓参りするのかと訊いてみたら、全員言うんだよ。夏コミに出たいからだって」
一同「…(汗)」

春日部「見た目は全然オタっぽいとこ無いんだよ。髪形も化粧も服装も全然普通で、中にはむしろ私よりセンス良かったり、美人な子もいるんだよ。それが全員オタだよ」
一同『(荻上会長を一斉にチラリと見て)つまりこういう風ではない訳だな』
春日部「そりゃ私はあんたらの仲間だし、彼氏はあの高坂だ。これでも一生オタと縁が切れるこたあ無いと悟ってる積りだよ」
朽木「何と、春日部先輩からオタクカミングアウト宣言が出るとは!」
春日部「(クッチーの頭をはたき)仲間だとは言ったけど、オタとは言ってないっつーの!
でもそれにしても、まさかあの職場の従業員が全員オタだなんて、普通予想出来んだろ?」
笹原「もはや何と言うか、運命(さだめ)としか思えないね…」
スー「サダメジャ」
春日部「だからさあ、最近よく考えるんだよ。もしかしてこの国の私以外のやつって、全員オタクなんじゃないかって。私は一般人の最後の1人なんじゃないかって」
スー「(機械的な口調で)残念ナガラ、アナタノ言ウ通リデス。コノ星ハ、我々おたく星人ガ占領シマシタ。アナタハ最後ノ地球人デス」
春日部「あんたが言うとシャレに聞こえんからやめろ~~~!!」

春日部さんが立ち去ってしばらく後、昼食を済ませた笹荻はコスプレ広場へと向かった。
いよいよ荻上会長の出番だ。
やや気持ちを高ぶらせながら歩く荻上会長と、それを優しく見守る笹原。
笹原「リラックスして、荻上さん。今日のコスはそんなに露出激しくないし」
荻上「ええ、がんばります!」
笹原「あっ…」
荻上「どうしたんですか?」
笹原「春日部さんに高坂君のメイドコスのこと言うの忘れたけど、大丈夫かな?…」
心配と不安で固まる2人。
そんな2人の傍らを、救急隊員たちがストレッチャーを運んでいく。
その上に乗せられていた、気絶した金髪の女性の顔には見覚えがあった。
笹原「…今の人、春日部さんに似てなかった?」
荻上「て言うか、本人ですよ!」

ストレッチャーから少し遅れて、高坂が走ってきた。
彼にしては珍しく慌て気味で、しかもメイドコスのままだ。
笹原「高坂君、何があったの?」
高坂「あっ笹原君、何だか分かんないけど、咲ちゃんが来るなりいきなり倒れちゃって…とにかく一緒に病院に行ってくる!」
走り去る高坂。
それを呆然と見送る笹荻。
笹原「どう見ても高坂君が原因でしょうが…」
荻上「そうですね、春日部先輩あの格好の高坂先輩見たら、また気絶しますね…」
いきなり走り出す笹原。
荻上会長もそれを追う。
荻上「笹原さん!」
笹原「荻上さん、悪い!俺彼を追いかけて病院の場所聞いてくるから、君はプシュケのブース行って高坂君の服持ってくるように伝えて!」
さらにスピードを上げて走り出す笹原。
もはや荻上会長には追いつけない。
荻上「笹原さんって、こんなに足速かったっけ?あの人ひょっとして、仕事でも全力で走らなきゃいけないことが多いのかな?」
後日荻上会長は、その理由を知ることになるが、それはまた後の話。

一方現視研の売り場では、豪田・沢田・台場の3人が集合し、店番を1年男子たちと交替した。
巴はまだ粘って並び続けていた。
神田も別のサークルの売り場の売り子を続けている。
国松はコスの着付けを手伝う為に、いち早くコスプレ広場に向かっていた。
現視研同人誌の売り上げは順調だった。
昼過ぎの時点で、すでに80冊以上出ていた。
殆どが特装版だ。
この調子なら完売も夢じゃない。

これから男子たちはコスプレ広場に向かう。
みんな何のかんの言っても、大野さんと荻上会長と恵子のコスが見たいのだ。
(ちなみに彼らは買い物も、売り子の合間に交代でざっと回っていた)
特に浅田と岸野は、田中に続く次期写真係として張り切っていた。
彼らがオタ道に入ったきっかけが、とあるコスプレ撮影会だったということもあって、彼らのコスプレ撮影にかける意気込みは凄まじい。
ちなみに日垣はコスの着付けの手伝いの為に、既にコスプレ広場に行っていた。

1年男子たちが立ち去ったのと入れ違いに、神田が帰ってきた。
神田は大荷物だった。
カートでダンボール箱を1つ運んできた上に、背中のリュックサックもパンパンに膨れ上がっていた。
それをハルヒの高校のセーラー服姿で運んでる姿は、いかに夏コミ開場でもチト異様だ。
神田「ただいまー!ああ疲れた!」
豪田「えらい大荷物ね。どしたの?」
神田「分担購入に参加出来なかったお詫びに、知り合いのサークルからたくさんお土産持ってきたのよ」
沢田「それじゃあその荷物、全部同人誌?」
神田「パパとママとお兄ちゃんの知り合いのサークルだから、ちょっとネタは古いけどね」
台場「どれどれ、ちょっと見せて」
楽勝ムードの1年女子たちは、お気楽モードで店番しながら神田のお土産を観賞し始めた。
その間もぼちぼちと同人誌は売れ続けていた。

10数分後。
豪田「で、どうよ?」
台場「どうよと言われてもねえ…」
沢田「何かネタが古過ぎる上にマニアック過ぎて、よく分かんないのが多いんだけど…」
神田「そうかなあ、何冊か読んだけど、けっこう面白いと思うけどなあ」
豪田「ヤオイ系は何かやたらと乱交ネタが多いわね」

台場「でも、『うっちゃれ五所瓦』で『五所瓦君総受け化計画』ってのはどうよ?」
沢田「会長の『傷つけた人々へ』の影響かなあ。やたらと『~総受け化計画』ってのが多いわね」
神田「これもそうね。『バキ』ネタで『薫君総受け化計画』。会長なら気に入ってくれるかも。メガネ君受けだし」
台場「薫君って…オヤジ顔の巨漢やくざじゃないの!」
神田「でも一応未成年で法的には少年よ。名前も花山薫と耽美系だし」
豪田「そういう問題じゃないでしょ!」
沢田「『バキ』でオヤジでメガネと言えば、こっちには愚地×渋川本が…」
神田「両方メガネ君でリバ可だから、藪崎先輩あたりに受けそうね」
台場「メガネ『君』じゃないでしょう、メガネ『君』じゃ!むしろ大野さん向けでしょ、その組み合わせは」
神田「普通のヤオイもあるわよ。ほらアトム×コバルト本」
豪田「アトム攻めなんだ…」
沢田「て言うか、誰が買うのその本?」
神田「手塚治虫原理主義者の人にはウケるんじゃない?絵柄は原作そっくりだし」
沢田「そういう問題では…」
豪田「あっもう1冊乱交系ヤオイ発見」
台場「で、ネタは?」
豪田「『まんが道』…」
沢田「もしかして『満賀道雄総受け化計画』とか?」
冷や汗かきながら頷く豪田。
沢田「マジ?」
豪田「ドンピシャ大当たり」
台場「(パラパラと読んで)手塚先生に寺田先生に藤子F先生に石ノ森先生…亡くなった方だらけね。祟られるわよ、この作者」

その頃、コスプレ広場の更衣室では、クッチーが油汗を流していた。
国松「朽木先輩、トイレは大丈夫ですか?」
朽木「さっき行ってきたから、多分大丈夫だにょー」
国松「それじゃあパンツとシャツだけになって、頭にタオル巻いて下さい」
朽木『これだけは何回やっても慣れんのう』
ノロノロと脱ぎ始める。
これからクッチーは、妖怪人間ベムの変身後の着ぐるみコスを着るのだ。
着ぐるみの中はたいへん暑いので、着る者はパンツとシャツだけになる。
あとはタオルの鉢巻き等で髪を止める程度だ。
着ぐるみ制作の過程で、体に合わせて調整する為に、何度かその格好になっている。
それでもクッチーは毎回妙な緊張をした。
小柄でロリ顔の美少女の目の前で服を脱ぐという行為は、いかにクッチーと言えどもやっぱり恥ずかしいのだ。
だが当の国松はと言えば、平然として顔色ひとつ変えない。

当初クッチーのそんな男心を理解した日垣は、こう提案した。
日垣「ねえ国松さん、やり方教えてくれたら俺やるからさあ…」
だが国松は最後まで言わせずに反論した。
国松「細かいとこは口では上手く説明出来ないから、やっぱり私がやるわ。その代わり、一緒に着付け手伝って」
それでは意味無いのだが、そう言われては反論しようがない。

ベムの着ぐるみは、胴体と四肢が一体になって繋がっている、ツナギのような構造だ。
肘から先と膝から先は、手袋と長靴のように本体から脱着出来るようになっている。
着る時は、先ず背中のチャックを開けて足から入り、次に両腕を袖に通してから背中のチャックを閉める。
そして頭部を被り、頭部と胴体のつなぎ目にある電極を接続する。
最後に膝から先を履き、肘から先をはめる。
あとは腋の下にある電池ボックスのスイッチを入れれば目が光り、完成だ。

これらのプロセスは、着ぐるみを着る本人だけでは出来ない。
特に背中のチャックの開閉は、必ず誰かにやってもらわねばならない。
分厚い着ぐるみを身に付けたら、絶対に背中の真ん中まで手が回らないからだ。
クッチーが今回着る着ぐるみは、まだヒューマノイド型だからこの程度で済むが、本格的な怪獣だとこれだけでは済まない。
体の厚みや首の長さが全然違うので、例えば上体を着込む作業だけでも、上体を持ち上げてくれる助手が必要である。
それに視界が悪く、足元がおぼつかないので、撮影用のセットまで誘導する係も要る。
まあ今回のはヒューマノイド型なので、国松と日垣が少し手伝う程度で済んだ。

国松が、着ぐるみを着込んだクッチーの体中を撫で回す。
朽木「はうあ!」
思わず奇声を上げるクッチー。
国松の手が股間にまで及んだのだから無理も無い。
だが国松は全く気にせず、着ぐるみのチェックを続ける。
国松「じっとしてて下さい…よし、特に問題のある箇所は無さそうね。先輩、ちょっと動いてみて下さい」
シェーやコマネチなどのけったいなポーズを取るクッチー。
国松「どっか動かしにくいとこありますか?」
朽木「大丈夫、良好だにょー」
国松「のぞき窓から前は見えますか?」
朽木「視界良好とは言わんけど、何とか見えるにょー」
国松「息苦しくないですか?」
朽木「大丈夫、マスクを付けた程度ぐらいだにょー」
国松「機電のスイッチ入れてみますね」
クッチーの左の腋の下に手を入れる国松。
朽木「にょ~~~~!!」
国松「動かないで下さい!」
ベムの目が点灯した。

国松「よしオッケー!朽木先輩、自分で操作出来そうですか?」
朽木「やってみるにょー」
クッチーは右手を自分の左の腋の下に入れた。
ベムの着ぐるみの手は、指が3本しかない。
その為クッチーの指は、親指、人差し指と中指と薬指、小指に3分割して、やや太目のベムの指の中に収納されている。
もちろんこれでは、手先は思うようには動かせない。
だがそれでもクッチーは、かろうじて親指でスイッチを操作することに成功した。
目の電球を1度消して、再び点ける。
朽木「大丈夫、やれそうだにょー」
国松「これで助手が要るのは、着ぐるみの脱着だけですね」

国松「それじゃあ私は売り場に戻りますけど、くれぐれも無理せずに15分か20分ぐらいごとに、必ず上半身だけでも着ぐるみ脱いで休憩取って下さい」
朽木「ラジャー!」
国松「水分の補給も忘れないで下さい。スポーツドリンクたくさん買っときましたから、小まめに飲んで下さい」
朽木「了解!」
国松「それからこういう時の返事は『GIG!』です」
朽木「GIG!『そうなのかにょー?』」
(注釈)「GIG!」
「ウルトラマンメビウス」に登場する怪獣攻撃チームGUYS(ガイズ)で使われる「了解!」の意味の返事で、「GUYS IS GREEN」の略である。
ちなみに元ネタは特撮人形劇「キャプテン・スカーレット」の地球防衛チームスペトラムの「SIG!」(「SPECTRAM IS GREEN」の略)。


同人誌観賞会の真っ最中の売り場に、国松が戻ってきた。
豪田「お帰り。どうコスプレの方は?」
国松「エヘヘ」
得意気にデジカメを差し出す国松。
それを再生して見る一同。
そこには荻上会長・大野さん・クッチー・恵子が写っていた。
沢田「わー荻様可愛い!」
台場「こりゃまたえらく巨乳のベラね」
豪田「これクッチー先輩?何か本物っぽいわね」
神田「恵子さん、スッピンだと割と可愛いわね」
国松「どう?なかなかのもんでしょ」
豪田「あとで交替で見に行きましょうよ」

再び神田のお土産同人誌観賞会となった、現視研の同人誌売り場。
神田「これなんか国松さんにピッタリじゃない?(同人誌を差し出す)」
国松「(顔をしかめ)『セブン総受け化計画』?」
神田「ウルトラ兄弟全員でヤオイよ」
豪田「セブンってことは一応メガネ受けね」
台場「しかも絵柄内山まもるだし…あっこっちのは?(同人誌を差し出す)」
国松「『怪獣使い×少年』?」
台場「金山さん×良少年のカップリングみたい」
国松「原理主義者の人に見られたら殺されるわよ、この作者」
「帰ってきたウルトラマン」のエピソード「怪獣使いと少年」は特撮オタの間でも評価が二分している問題作だ。
暗い重い救いが無いの三拍子揃ってる上に、ウルトラマンに民族差別問題を絡めたことに拒否反応を示すアンチ派の人も案外多い。
一方で好きという人はトコトン押すこともまた事実で、中にはこの1本があれば他の話はいらないとまで言い切る原理主義者の人も多数実在する。

濃過ぎるヤオイ話に付いて行けなくなった国松、再びコスプレ広場に戻ることにした。
国松「ちょっとコスの方見てくるわ」
台場「やっぱ気になるの?」
国松「うん、ベムの方ちゃんと動けてるか心配だし…」
走り去る国松。
数分後、入れ替わるように巴が帰ってきた。
豪田「おかえりー、随分遅かっ…わっ!!」
豪田が驚くのも無理は無かった。
売り子用のセーラー服に着替えた、巴の荷物は凄まじい量だった。
背負った大型のリュックサックは同人誌でパンパンに膨れ上がっており、そのパンパンのリュックの上からさらに紙袋がグルグル巻きに紐で括り付けられている。
その紐の隙間に、特典らしいポスターを巻いた筒が数本刺さっている。
両肩には半ダースほどの紙袋をぶら下げ、両手にも紙袋を数袋持っていた。
さらにリュックの下部には、カートの取っ手が登山用のD字金具で繋がれており、そのカートにも数袋の紙袋が括り付けられている。
いずれの紙袋も同人誌でパンパンに膨れ上がっている。
全部合わせれば、巴自身の体重より重いかも知れない。
(参考)
大日本帝国陸軍の歩兵は、自分たちの体重と変わらない50~60キロの荷物を背負って、1日に何十キロも「徒歩で」行軍していた。
それが可能だったのは、当時の軍人には農家出身者が多く、畑仕事で鍛えられた為だと言われている。

豪田「まるで合宿の装備を全部背負ったあーる君ね」
台場「山ごもりの道具を全部背負った刃牙みたい」
沢田「デンドロビウムみたい…」
神田「いやむしろ、ミーティアと合体したフリーダムみたい」
各自が勝手な感想を述べる中、巴は荷物を降ろして椅子のひとつに座った。
巴「あー疲れた。主だった大手はあらかた押さえたから、あとでゆっくり読んで」
一同「お疲れ様!」

巴「ほんとは昼飯抜きで最後まで並んでやろうかとも思ったけど、店番もしなきゃいけないからね」
やや遅めの昼食にかかる巴。
沢田「いくら何でも、それは無茶よ」
巴「そうでもないわよ。朽木先輩の時は、飲まず食わずで終了までやってたらしいわよ」
一同「凄―い!」
素直に感心する1年女子一同。

ここらで話を笹荻に戻そう。
結局笹原は高坂たちに追いつき、一緒に救急車に乗り込む破目になった。
病院から荻上会長に行き先の病院の名前と場所を連絡し、それを彼女は企業ブースに走りプシュケの人に連絡した。
プシュケの人は高坂の私服を持って病院に向かった。
荻上会長は笹原に、そのことを連絡した。
(この間笹原は、病院内で携帯が使えないので、外で連絡を待っていた)
笹原「そろそろコスプレの時間だよね。俺、こっちでプシュケの人来るの待ってるから、荻上さんはもうコスプレ広場の方行って」
荻上「すいません、それじゃあ、あとお願いします」

だが2人のそんな苦労は、結局のところ取り越し苦労に終わった。
笹原とプシュケの人が病室に入ると、意識を取り戻した春日部さんと高坂はデレデレしていた。
高坂がメイドコスのままなのにだ。
春日部「だって高坂、可愛過ぎるんだもん。思わず失神しちゃった」
我々の苦労は何だったのだろうと呆然としつつも、「でもあの格好で帰るのも何だから、まあいいか」と自分を納得させ、笹原は病院を後にした。

そんな事情で笹原がコスプレ広場に来たのは、大野軍団が出撃してから1時間ほど後のことだった。
着くなり彼を迎えたのは恵子だった。
恵子はブレザーとミニスカートにベレー帽という格好だった。
それが「妖怪人間ベム」の新キャラの女の子キラの学校の制服らしい。
恵子「よう兄貴」
笹原「(コスを見て)ふーん、お前がそういう格好するとはなあ…」
恵子「なかなか似合うっしょ、これ?まあ設定上は小学校の制服らしいけどね、うちの高校セーラー服だったから、何か新鮮」
思いの他、お気に入りのようだった。
恵子「そんじゃあたし帰るから」
笹原「もう帰るのか?」
恵子「明日のコスの為に髪染めなきゃなんないからね。終わるまでここにいたら何時帰れるか分かんないから、ヘアサロン閉まっちゃうわよ」
笹原「そっか」
スッピンのせいか珍しく妹をもう少し見ていたい気になり、ちょっと別れを惜しむ笹原。
恵子「それに今、ちょっとややこしいことになってるのよ、コスプレ広場」
笹原「えっ?」
恵子「そんじゃあ、あとよろしく!」
トンズラーという擬音が聞こえそうな、見事な逃げっぷりで走り去る恵子。
笹原「ややこしいって…何が起きてるんだ?」