26人いる!その6 【投稿日 2006/12/03】

・・・いる!シリーズ


恵子の言う通り、コスプレ広場はややこしいことになっていた。
いや正確には、ややこしいと言うより何ともシュールな光景になっていた。
肩の露出した紫のロングドレスにマントという格好のベラ役の大野さん、赤いシャツに赤いズボンという格好のベロ役の荻上会長、そして普段通りの格好のカメラを抱えた田中。
その3人が、セーラー服姿の国松に怒鳴られて平身低頭しているのだ。
国松は髪に、ややオレンジがかった黄色のリボンを鉢巻きのように巻いていた。
しかもご丁寧に、セーラー服には「団長」の腕章が付いていた。
つまり思い切りハルヒコスなのだ。

コスプレ広場で騒ぎが起こっていた頃、現視研の売り場では相変わらず同人誌鑑賞会が続
いていた。
途中からアンジェラとスーも加わっていた。
豪田「男性向けのやつも…微妙なのが多いなあ」
神田「そう?これなんかダメかな?百合ものなんだけど」
台場「で、お題は?」
神田「オバQ」
一同「オバQ?」
神田「うん、U子×P子本」
豪田「もしかして、原作通りの絵柄で?」
神田「うん」
固まる一同。
巴「そんな需要があるの?」
沢田「男女のノーマルなのは…一応あったけど…『ゲゲゲの鬼太郎』」
台場「で、カップリングは?」
沢田「子泣きじじい×砂かけばばあ…」
神田「どれどれ、(沢田の持つ同人誌見て)これはこれでなかなか…」
豪田「んな訳無いでしょ!」
台場「あと男女のカップリングと言えば…あるにはあったけど…」
豪田「どれどれ、おっファーストじゃない…これは…」
巴「どしたの?カップリングは?」
台場「ギレン×キシリア」
沢田「あるんだ、そんな需要が…」
アンジェラ「OH、ショタもの発見ある」
台場「何の?」
アンジェラ「『子連れ狼』あるね」
台場「…もしや、一刀×大五郎?」
アンジェラ「そのようあるね。パパさんが坊やに…」

台場「鬼か一刀!まさに冥『腐』魔道!それにしてもアンジェラ、よく絵見ただけで分かったわね、『子連れ狼』」
スー「押忍!『子連れ狼』はアメリカでも英訳されて販売されてましたし、映画版もアメリカで公開されてヒットしたので、割と有名であります!」
ちなみにアメリカで公開されたのはシリーズ2作目の「子連れ狼 三途の川の乳母車」。
これを配給したプロデューサーのロジャー・コーマンは「この映画を作った奴は天才か、さもなくばキ○ガイだ!」と絶賛したそうだ。
まだスプラッタ映画の無かった70年代に、手足や首がポンポン切断され、噴水のように血が吹き出すこの映画は、今でもアメリカではカルト映画として人気がある。
そういった事情をスーが説明した。
1年女子一同『だとしても、何でこの2人が知ってる?あれ30年以上前の映画でしょ?』
アンジェラ「あっもう1冊『子連れ狼』本発見したある。こっちはヤオイみたいあるね」
台場「どんなカップリング?」
豪田「(横からのぞいて)烈堂×一刀みたいね」
台場「一刀受けなんだ…」
豪田「ちなみにタイトルは『柳生劣情』…何ちゅうセンスの無い…」
巴「新しい漫画やアニメのは無いの?」
台場「あんまし無いわね…原作は古いけど最近アニメ化されたのなら、『ガラスの仮面』があるけど…ヤオイみたいね」
豪田「で、カップリングは?」
台場「全日本演劇協会理事長×速水会長…」
沢田「またえらく大野先輩向けな…」
台場「ちなみにタイトルは『会長お願いします』…」
一同「…」
神田「どう?なかなかの個性派揃いでしょ?」
台場「どう評価していいか分かんない…」
(作者注)
神田さんの持ち込んだ同人誌は、可能な限り有り得ないと思えるのを考えてみましたが、もし実在したらお知らせ下さい。
このスレにて謝罪しますので。

再びコスプレ広場に話を戻そう。
妖怪人間のベラとベロとチョンマゲのカメコが、涼宮ハルヒに叱られている。
そんなシュールな光景は、一般人の恵子には「ややこしいこと」と映ったのも無理は無かった。
ブレザーのままやって来た1年男子たちが、その光景を遠巻きに見ていた。
笹原「何が…あったの?」
日垣「あっ笹原先輩」
日垣の説明によると、クッチーが暑さでぶっ倒れたというのだ。
クッチーのベムは、カメコたちや年配のお客さんが連れてきた子供たちに大人気だった。
暑いんだからじっとしてればいいのに、思わぬ人気にクッチーはつい調子に乗った。
オリジナルのベムのアクションは、手の爪で襲い掛かる獣的な動きか、ステッキでのチャンバラが多い。
だがクッチーはパンチ(と言っても手は3本指で握れないなので、掌底突きに近い動きだが)のコンビネーションやハイキックなど、普段ベムの見せない空手的な動きを披露した。
おかげでさらにクッチーの周りにカメコが集まり、クッチーもノリにノった。
こうなるとクッチーは止まらない。
途中で小まめに休憩するようにとの、国松の忠告も忘れて動き続けた。
笹原「それでぶっ倒れたと…」
浅田「そこへちょうど国松さんが様子見に来て、こうなってる訳です」

国松「あなた方は何を考えてるんですか!」
国松に怒鳴られてシュンとなる大野さん、田中、荻上会長。
国松「着ぐるみってのは頻繁に休憩しなきゃダメなんです!それを炎天下の中で1時間以上もぶっ続けで着させて、しかもメチャクチャ動き回らせてどうするんです!」
大野「ごっ、ごめんなさい」
国松「会長も何で止めないんですか?!」
荻上「ごめん…」
田中「いっ、いやー朽木君タフなもんだから、つい忘れてて…」

国松「いいですか、スーツアクターってのは、この世で1番過酷な仕事なんです!」
笹原は止めようと思ったが、国松の凄い見幕に割って入れない。
1年男子たちも同様だ。
国松「プロのスーツアクターでも、30分以上着続けて死にそうになった事例があるんです!それをいくらタフでも素人にこの炎天下で…」
(実例)
昔あるワイドショー番組で、ヒーローの着ぐるみの中の人とその家族を招いて、いろいろ話をするという企画があった。
その番組の冒頭で、スタジオでヒーローと怪獣のアトラクションショーが行われた。
ヒーローの人は、その後すぐに素顔で番組出演する段取りだったので、すぐ着ぐるみを脱いだ。
だが怪獣の中の人は、そのまま取り残された。
今回円谷プロの特撮班スタッフではなく、通常の番組スタッフが撮影していた為だった。
(特撮班の人は着ぐるみの中の暑さを知ってるから、撮影中カットが入るとすぐに着ぐるみのチャックを開けて脱がせてくれる)
怪獣の中の人の述懐によれば、途中でヒーローの人が気付いたので事無きを得たが、あと少し発見が遅かったら危なかったそうだ。

国松は怒りに耐えるようにブルブルと震え出し、ポロポロと涙をこぼした。
特撮オタ、もとい乙女の涙にたじろぎ、オロオロする3人。
そして国松は、ついに怒りを爆発させた。
国松「スーツアクターを甘く見るな!!!」
再びシュンとなる3人。
国松の後ろから、ふらつきつつも復活したクッチーが近付く。
首から下はベムの着ぐるみのままだ。
朽木「あの、もうそれぐらいでいいから、国チン」
国松「よくありません!朽木先輩は着ぐるみ脱いで日陰で寝てて下さい!浅田君!」
浅田「えっ?」
国松「岸野君と一緒に、朽木先輩日陰まで運んで!」
浅田・岸野「分かった!」

首からぶら下げていたカメラを脇に回し、浅田はクッチーの両脇を、岸野はクッチーの両脚を持ち、落ち着いた様子で抱えて運んで行く。
この2人、こういう事態にも慣れているのかも知れない。
浅田「(運びながら)とりあえず着ぐるみ脱がせて、水飲んでもらえばいいかな?」
国松「あと浅田君塩持ってたでしょ?水筒1本ならふたつまみぐらい水に混ぜて!」
浅田「了解!」
岸野「(運びながら)俺の水はタオルにしませて頭に乗っけて、あとは体にぶっかけとくよ。あと売り場に小型扇風機あるから、それ持って来て風当てとくね」
国松「お願い!」
国松「あと有吉君と伊藤君、手分けしてコンビニに走って!」
伊藤「何買ってくればいいかニャ?」
国松「スポーツドリンクとミネラルウォーター、それに氷を出来るだけたくさん!」
伊藤「ラジャー!」
有吉「了解!」
走り出す2人。
国松「急いでね!前にも言ったけど、使える助監督の必要最低条件はフットワークがいいことだから!」
日垣「いや助監督じゃないし…」
国松「日垣君は私と来て!」
日垣「どうするの?」
国松「朽木先輩の着ぐるみ脱がせたら、すぐに着付けに入るから」
日垣「えっ、俺がやるの?」
ギロリと睨む国松。
日垣「ひっ!」
国松「元々そういう設計思想であの着ぐるみ作ったの忘れたの?朽木先輩が倒れた以上、あなた以外誰が着るのよ!」

大野「あの国松さん、いいんですか?だってスーツアクターは過酷だって…」
カメコたちを指して国松が叫ぶ。
国松「あなた方にはコスプレを楽しみに来ている、子供たちの姿が見えないんですか?!お客さんが来てる以上、やらない訳には行かないでしょう!それでもプロですか?!」
荻上「いや、プロじゃないし…」
大野「それにカメコさんたちは、おっきなお友達だし…」
ギロリと睨む国松。
荻上・大野「なっ、何でもありません!」
国松「私は日垣君の着付けと朽木先輩の手当て手伝ってきますから、撮影続けてて下さい!」
さらに国松は、彼女の見幕に固まって待機してたカメコたちにも声をかけた。
国松「すいません撮影続けてて下さい。すぐに代わりのベムよこしますんで」
カメコたちに一礼して走り去る国松。

とりあえずベラとベロだけで撮影が再開され、その合間に小声で会話する2人。
大野「国松さんって、特撮のことになったら人間変わりますね」
荻上「それは私たちだって同じですよ。大野さんはコスプレ、私はヤオイのことになったら人変わるじゃないですか」
大野「そうですよね。その意味じゃ彼女も立派なオタクですね」
荻上「まあ彼女の代になったら、本格的な怪獣の着ぐるみ作りそうですね。日垣君に着させて映画でも撮るかも…」

遅まきながら声をかける笹原。
笹原「やあ、大変だったね」
荻上「笹原さん…」
笹原「ごっ、ごめん。もうちょっと早く止めに入りたかったんだけど、国松さんの見幕が凄くて、なかなか入る隙が無くて…」
大野「まあ…しょうがないですね。田中さんも止めれなかったし」
田中「面目ない」
荻上「それに国松さんの言う通りだし…」

現視研の売り場では、売り子をしている台場と神田も含めた全員が、相変わらず同人誌を読み耽っていたが、それでも同人誌はぼちぼちと売れていた。
売れたのは殆ど特装版だった。
マスコミは景気回復と言い始めている昨今だが、まだまだ庶民レベルでは不景気が続いている。
そんな中、お値段据え置きでおまけコピー本が付いてくる特装版は、腐女子たちにもありがたかった。
台場「千里遅いわね。何かあったのかしら?」
神田「何か特撮系の同人誌かイベントでも発見したんじゃないかな」
豪田「ミッチー、あとどのぐらい残ってる」
神田「えーと40冊少々ってとこね」
豪田「何とか売り切っちゃいたいわね」
巴「(立ち上がり)よし、最後の追い込みにかかるか。(売り場の前に出て)いらっしゃいませー!どうぞ見ていって下さーい!」
景気良く客引きを始めた。
豪田「よし、私らもやるか!」
こうして現視研1年女子一同(スー&アンジェラ含む)は、売り場前で客引きを始めた。

そこへ浅田が戻ってきた。
急いでいるらしく、小走りだ。
浅田「(扇風機を持って)悪い、これ持ってくよ」
神田「どしたの?」
浅田「朽木先輩が熱中症で倒れたんだよ」
一同「朽木先輩が?」
浅田「このかんかん照りの中、1時間以上も着ぐるみで動き回っていたからね」
巴「無茶するわね」
沢田「あの、私たち何か手伝えることある?」
浅田「とりあえず大丈夫だよ。朽木先輩には日陰で休んでもらってるし、伊藤君と有吉君が氷やら何やら買いに走ってるし」
沢田「そう。(一同に)ねえ、みんなで様子見に行きましょうよ」

浅田「あ、それなんだけど、こっちに来る前に朽木先輩に言われたんだよ。自分のことは心配無いから、同人誌完売目指して頑張れって」
神田「クッチー先輩…」
巴「分かった!朽木先輩の遺言、確かに受け取ったわ!」
豪田「こらこら、勝手に殺すなってば」
浅田「あの、朽木先輩ちゃんと意識はあるから…」
巴「よしみんな、こうなったら絶対完売するよ!こっからは朽木先輩の弔い合戦だ!」
台場「だから勝手に殺すなと言うに!」
こうして朽木効果で現視研同人誌は、無事完売した。
ほぼ9割がた特装版だった。

コスプレ広場に、国松が中身日垣のベムを連れて帰ってきた。
国松「(カメコたちに)みなさーん、お待たせしました!」
日垣「(いかにもモンスターという感じで両手を上げ)がああああ!!!!」
笹原「うわあ日垣君、ノリノリだ」
その後も日垣は、先程までのクッチー版ベムと対照的に動物的な動きを繰り返し、これはこれでウケた。
もはやベムと言うより、アマゾンライダーのような動きだ。
それを見て満足そうに微笑む国松。
国松「日垣君がんばった甲斐があったわね」
荻上「がんばった?」
国松「もしも朽木先輩が来れなかった時に代役やるとしたら、どう動いていいか分からないって日垣君言うんで、2人で大学の近所の動物公園行ったんですよ」
笹原「動物公園?」
国松「最初のゴジラの着ぐるみに入ってた中島春雄さんは、怪獣の動きを考える参考にする為に、動物の動きを見に動物園に通ったそうなんです」
笹原『…素直に「妖怪人間ベム」のビデオ見ればいいじゃん』

国松「日垣君、誰かに客観的に見てもらわないと分からないからって言うんで、私も付いてって動物の形態模写の特訓やったんです」
荻上「それって、動物園で?」
国松「ええ、見本のいるとこでやんなきゃ意味無いですからね」
平然と言い放つ国松。
笹原『恥ずかしかっただろうな、日垣君…』
荻上『でもそれを傍で平然と見てた国松さんも、何か怖い…』
国松「まあ3回ぐらい行きましたからね、おかげでかなり上手くなりましたよ。うちに招いて晩御飯ご馳走した甲斐がありましたよ」
笹荻『おうちで晩御飯?これって、多少風変わりだけど、やっぱデートなのか?』
かつて自分たちがデートした場所ということもあって、笹荻にとって国松と日垣の行動は、かなり意味深なものに思えた。

1日目終了間際、荻上会長は「やぶへび」の売り場に寄った。
先程の騒ぎの顛末を知っていたので、笹原が一緒なのはまずいと判断して1人で来た。
笹原も彼女の判断を尊重し、現視研の売り場で待っていた。
藪崎「そっち完売したんか?」
荻上「まあ、おかげ様で。ヤブの方は?」
藪崎「10冊ちょいだけ残ってもた」
荻上「そう、残念ね」
藪崎「勝ったと思うなと言いたいとこだけど、今回は素直に負け認めるわ」
荻上「そんな、今回のは私あんまり関わってないし」
藪崎「いいや、あの本はあんたの魂引き継いでる子らが作った本や。だからあんたが作ったも同然や」
荻上「魂ってほどのもんは引き継げてないけどね」
藪崎「あっそや、大変やったらしいな、コスプレの方は。大丈夫なんか、倒れたアホは?」
荻上「まだちょっとふらついてるけど、何とか歩いて帰れそうよ」
藪崎「まああのアホやったら、歩けたら大丈夫やろ。あんまし気にしなや」
荻上「でも会長は私だから、責任は私にあるわ。あとで謝んないとね、朽木先輩と国松さんに」

そして帰り道、例によって例のごとく、駅への道は行列状態だった。
現視研の面々も、その中でノロノロと進んでは止まりを繰り返していた。
荻上「あの、国松さん、朽木先輩、今日はごめんなさい」
荻上会長の意図に気付いた大野・田中コンビも、近付いてきて彼女に続いた。
大野「私もごめんなさい」
田中「ごめん」
頭を下げる3人。
朽木「まあまあお三方、どうか頭上げて下さいな。そもそも僕チンが調子乗り過ぎたのがいけないんだから。ねえ、国チンももう怒ってないでしょ?」
国松「(慌てて)えっええ。私も悪かったんですから、どうか頭上げてください」
荻上「国松さん…」
国松「初めて着ぐるみ作ったもんで舞い上がってて、スーツアクターに小刻みに休憩入れなきゃいけないこと、朽木先輩にしか言ってなかった私も悪いんです」
荻上「失敗は誰にでもあるわよ、気にしないで」
国松「自分の知識は全部常識だと思い込んで、特撮オタが自分だけだってこと、忘れてました。オタクの悪い癖ですよね」
大野「そんなの現視研じゃみんなそうですよ、自分を責めないで下さい」
国松「私こそ興奮しちゃって、生意気なこと言っちゃってすいませんでした。(ペコリと頭下げる)」
荻上「そんな、国松さんこそ頭上げてよ。責任者は私なんだし、あなたの言ったことは何ひとつ間違ってないわ。」
大野「そうですよ」
田中「気にすんなよ」
しばしの間、何やら考え込む国松、やがて口を開く。
国松「あの会長…明日は私にコスプレ班のマネージャーやらせてもらえませんか?」
一同「マネージャー?」

国松「明日のコスプレって、ハガレンでしたよね。朽木先輩以外の人も、あの服じゃかなり暑いと思うから、全員の体調管理をしたいんです」
荻上「体調管理?」
国松「食事や飲料水の用意とか管理とか、私が一括してやろうと思うんです」
荻上「もしできるならありがたいけど、1人じゃ大変でしょ?大丈夫?」
国松「日垣君にもアシストしてもらいますから、力仕事は大丈夫です。私これでも、高校の時は柔道部のマネージャーだったから、そういうの慣れてるんです」
一同「柔道部?」
国松「ええ。あれっ?言ってませんでしたっけ?」
一同「(揃って首を横に振り)言ってない言ってない」
朽木「それで分かったにょー」
荻上「何がです?」
朽木「国チンって、僕チンにしろ日垣君にしろ、パンツ1丁で着ぐるみ脱いだり着たりするのを一緒に手伝ってて、顔色ひとつ変えないのよ」
国松「パンツぐらいで顔色変えてたらマネージャーなんか務まりませんよ。柔道着って、本格的にやってる人は道着のズボンの下にパンツ履かないんですよ」
しばし時が止まった。
一同「そうなの?」
国松「みんなが着替えてる中、洗う為に道着回収しに入ることなんてしょっちゅうでしたから…」
大野「(赤面して)そっ、それじゃあ、柔道部員の男の子がピーを…」
国松「(平然と)ええ、ピーモロ出しなんて、日常茶飯事ですよ」
固まる一同。
荻上「そっ、それじゃあマネージャーの件、お願いしていい?」
国松「はいっ!」
(参考)
柔道で本格的な寝技の攻防をやる場合、パンツ等を下に履いてると、それがよじれて性器を傷付けることがある。
その為、古くから柔道をやっている人には、ズボンの下に何も着けない人が多数実在する。

一方クッチーのところには1年女子が集まった。
巴「朽木先輩、今日はありがとうございました」
朽木「にょっ?何のこと?」
豪田「クッチー先輩の檄のおかげで、無事に同人誌完売しました。アリガトウございました!」
女子一同「ありがとうございました!」
朽木「(赤面し)よっ、よしてよ、そんな大袈裟な!僕チンはただ、僕チンのせいで売り場の戦力が減っちゃまずいと思ったから、売るのに専念してって浅田君に伝えただけだから」
台場「でも、あのひと言は大きかったです」
沢田「そうですよ、もしあれが無かったら、私たちもっとダレた状態で売り子続けて、完売にまでは至らなかったかも知れません」
巴「そんな訳で、私が代表してお礼したいんで、ちょっと目を閉じて頂けますか?」
朽木「にょっ?(赤面して目をつぶり)こっ、これでいい?」
どうやら何か少しエッチな想像をしているらしい。
巴「それじゃあ下腹に力を入れて、歯を食いしばって下さい」
朽木「???」
次の瞬間、巴は体を大きく右に捻り、それを一瞬で戻すようにして、ピッチングフォームのような大振りの、だけど全体重の乗った右ストレートをクッチーの顔面に叩き込んだ。
朽木「にょ~~~~~??????????!!!!!!!!!!!」
ギャラクティカ・マグナムを喰らったように、数メートル後方にクッチーは吹き飛んだ。
あ然とする女子一同。
豪田「ちょっ、ちょっとマリア、何てことするのよ!?」
巴「大丈夫よ」
豪田「何がだいじょ…」
そこまで豪田が言いかけたその時、クッチーの叫びが轟いた。
朽木「ふっか~~~~~~~~~つ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

再びあ然とする女子一同。
沢田「何が、起きたの?」
巴「前に春日部先輩に聞いたんだけど、朽木先輩は…」
巴の言葉に割り込むようにスーが語る。
スー「(政宗一成風の渋い声で)朽木学ハ女性ニ殴ラレルコトデ、3倍ニぱわーあっぷスルノダ」
豪田「まさか…」
巴「いや、スーちゃんの言う通りよ」
沢田「マジなの?」
荻上会長たちとの話を終えた国松が割り込む。
国松「て言うかスーちゃん、宇宙刑事シリーズ知ってるんだ…」
巴「まさか。スーちゃんも朽木先輩のこと知ってただけで、言い方が似たのは偶然でしょ?」
スーは自分の荷物から、どこかで特典でもらったらしい、ポスターを筒状に巻いたものを抜き、右手に持って大上段に構えた。
スー「(ポスターを左斜め下に振り下ろし)しゃりばん・くらっしゅ!」
スーがやったのは、シリーズ第2弾「宇宙刑事シャリバン」の必殺技であった。
ちなみに本物は、実剣にレーザーの刃を被せるように出して行なう。
台場「千里の言う通りみたいよ。シャリバン・クラッシュやってる…」
豪田「て言うか、宇宙刑事シリーズって私たち生まれる前の話じゃない。スーちゃんっていくつなのよ?」
巴「蛇衣子、その問題にふれるな」
思わず背後を見る豪田。

一方クッチーは、意気揚々と戻ってきた。
朽木「いやー、トモカン(クッチー限定の巴の愛称)のおかげで、すっかり熱中症の後遺症が治ったにょー。ありがとね」
女子一同「ほんとにパワーアップした…」

まあ、とにもかくにも、こうして夏コミ1日目は、何とか無事に(そうか?)終わった。

荻上会長が帰宅したのは、そろそろ日付が夏コミ2日目に変わりかけた頃だった。
明日は大学の最寄の駅から始発でビッグサイトに向かう。
寝る時間はわずかしか無いが、夕方からずっと起きていて夜明かしした昨日よりはマシだ。
外で現視研のメンバーと食事を済ませてきたので、あとは明日の用意をして風呂に入って寝るだけだ。

風呂から上がった荻上会長は、テレビを点けた。
ニュースを見ながら髪を乾かす積りだ。
トップニュースで、いきなりビッグサイトが映った。
「何だろ?夏コミの話題かな?」
だが見出しの文字を見て、荻上会長は凍り付いた。
「コミフェスで謎の頭痛続発」
ニュースの内容はこうだった。
今日の午前10時から12時にかけて、コミフェスが開かれていたビッグサイトで、来客11人が謎の頭痛で倒れ、病院に運ばれた。
幸い全員命に別状は無かった。
倒れた人の証言によると、同人誌を買う為に並んでいたところ、突然頭が締め付けられるように痛み出し、気絶してしまったというのだ。
ニュースはさらに会場の見取り図を映して、11人が倒れた場所を説明した。
「大手のとこばっかだな…」
警察が念の為、テロの可能性が無いか会場を捜査中と伝えてニュースは終わった。

荻上会長は、何時だったか何かの飲み会で、巴が余興で夏みかんを握り潰したのを思い出した。
「まさかね…いくら巴さんでも、人間を一瞬で気絶させるなんて芸当は無理よね…」
一抹の不安を抱きつつも荻上会長は床に付き、心の中で「考え過ぎ考え過ぎ」と唱え続け、やがて眠りに落ちた。
今は眠るがいい、荻上会長。
戦いは始まったばかりだ。

最終更新:2007年01月12日 05:12