第19回要旨

呉羽丘陵西部における農業土地利用変化

徳井峻(富山大・人文M1)

1,はじめに
 高度経済成長期以降,大都市圏における多くの農地は都市的土地利用などの非農地に転換されてきた.都市周縁部では,農業的土地利用に適しているものの多くは都市的土地利用にとっても良好な土地となっており,そのような土地利用の競合が,農業的土地利用の不連続な分散と都市的土地利用が拡大した分散パターンを生み出してきた.

(土地利用変化に関する既往の地理学的研究)
  • ある時間面における静態的な土地利用パターンの多様性を記述
  • 土地利用の変化のパターンを時間的,動態的に分析
→多用な要因の有機的な結合関係が土地利用変化を引き起こしていると考えるように
  • 土地利用変化を自然的な要因と経済的な要因,文化的な要因から統合的に分析
  • 農業的土地利用から他の農業的土地利用への変化

 今回,富山市で調査することで,大都市圏と同様な現象が都市圏ではない地域でも発生しているか明らかにしていく.

2,調査方法・対象地域
  • 呉羽丘陵西部(旧呉羽村,長岡村,老田村)を対象
  • 1970年から2000年までの農業集落カードを使用
  • 土地利用の変遷をグラフ,地図化

3,調査結果
  • 対象地域の北西部では稲,南東部では果樹園が占める率が多い
  • 全体的な傾向として経営耕地面積は減少の一途(特に畑)しており,増加している地区では果樹園が増加の要因
  • 果樹園は稲が減少する時期に増加する傾向があったが,徐々に減少
→対象地区でも都市周縁部と同様な現象が確認

4,今後の課題など
  • 稲作から果樹園に変化させた農家の意思決定
  • 農家の年齢層の変化が経営にどのような影響を与えたか
  • 農産物の流通過程


南砺市上平地域の平成18年豪雪による地すべりから起きた国道の通行止めに対する住民の対応と生活への影響

中村諒(富山大・人文B4)

 2005年から2006年にかけての冬は,平成18年豪雪と気象庁に命名される大雪であった。平成18年豪雪は日本各地においてさまざまな被害を及ぼした。そのような中,富山県南砺市の上平地域では大雪による融雪水によって地すべりが発生した。地すべりの土砂によって,国道156号は3ヶ月にわたる通行止めを余儀なくされた。この通行止めは上平地域の人々の生活に影響をもたらした。
 平成18年豪雪は記録的な雪による被害をもたらしたのであり,そこからは災害対策など様々なことを学ぶことができる。また,この大雪から引き起こった通行止めに対する住民の対応を考察するのは災害直後の今をおいてほかにない。
 本研究では,平成18年豪雪による地すべりによる通行止めに対する地域住民の対応と地域住民への影響を聞き取り調査により明らかにし,住民の対応と影響を考察する。
 聞き取り調査の対象地域は地すべり現場である富山県南砺市西赤尾町を中心とした。聞き取りは,通行止めに対する影響とそれによる変化を中心とした内容で行った。
 聞き取り調査により,上平地域の人々は豪雪と地すべり被害の中で,日常の生活を維持すべく様々な対応をし,この災害と3ヶ月にわたり,積極的に向き合ったことが明らかとなった。この災害の捉え方は職業,年齢に大きくかかわっていた。しかし,いずれの人においてもこの災害は被災した人々の意識に影響を及ぼすほどの影響力をしめすことはなかったのである。


静岡県菊川低地の地形発達における地殻変動の影響

佐藤善輝(名古屋大B4)

 日本の臨海部には沖積低地が多数発達し,その地形発達についての研究が活発に行われてきた(例えば,海津;1994).沖積低地の地形発達は,様々な空間的・時間的スケールの要素が影響を与えている.この中でも,特に相対的海水準の変動による影響が大きい.
 103年オーダー以下での相対的海水準変動を対象とする場合,ユースタシー・アイソスタシー・地殻変動の3つが主要な要因となる(米倉;1987).これまでこれらの要因のうち,ユースタシーとアイソスタシーによる相対的海水準変動(=氷河性海水準変動)に着目して,低地の地形発達との関係について明らかにした研究は多く行われてきた.しかし,その一方で地殻変動と低地の地形発達との関係についてはあまり注目されてこなかった.これは,相対的海水準変動に与える影響力に差があることによる.
 しかしながら,検潮記録や水準点記録などの測地学的資料の整備が進むにつれて,場所によっては,相対的海水準変動に与える地殻変動の影響力が氷河性海水準変動の影響力に匹敵,または凌駕しうることがわかってきた.これは,従来の地殻変動量が結果として残っている地形から推定されたもの(「見かけの地殻変動量」と呼ぶ)であり,形成過程における102年オーダーでの地殻変動量(「恒常的な地殻変動量」と呼ぶ)を考慮していないからである.恒常的な地殻変動量を考慮した場合(「実際に生じてきた地殻変動量」と呼ぶ)には,地殻変動の影響力のほうが大きくなる可能性がある.
 沖積低地の地形発達を明らかにするうえでは,見かけの地殻変動量ではなく,実際に生じてきた地殻変動量を考慮するべきである.低地の地形発達史を編むためには,結果として現在残っている地形だけではなく,現在にいたるまでの時間軸を細分して段階的に地形の発達状況を明らかにすることが必要である.なぜならば,沖積低地の地形発達は,103年オーダー以下のオーダーで議論するべき微細な影響を受けているからである(高橋;2003).

 そこで本研究では,御前崎近傍に位置し,地殻変動についての資料の豊富な静岡県菊川低地を対象として,従来軽視されてきた相対的海水準変動に対する地殻変動の影響力を,海成層上限高度と恒常的な地殻変動傾向,氷河性海水準変動の絶対量(Nakada et al;1992)を考慮し,明らかにした.その結果,菊川低地における地殻変動による相対的海水準変動の変動速度は,最小で8.29mm/yrと見積もられ,従来よりも大きい影響力を与えうることが示唆された.
 また,得られた結果から,菊川低地におけるAタイプ地震(吾妻ほか;2005)の存否と変動量,および完新世における牧ノ原台地周辺の傾動方向についても考察を行った.その結果,菊川低地ではAタイプ地震の変動量が筬川低地での変動量(吾妻ほか;2005)よりも小さい可能性が高いことわかった.また,海成層上限高度の形成年代が同一であると仮定すると,菊川低地周辺の低地の海成層上限高度から,完新世における牧ノ原台地周辺の傾動方向として南東方向への傾動を顕著に認めることができることがわかった.


新潟県西頸城地域における海陸両域の地質構造と地殻変動

前川拓也(富山大学M2)

はじめに
 新潟県西頸城地域は北部フォッサマグナの最北部に位置する.日本海東縁から北部フォッサマグナにかけては,短縮テクトニクスに伴う逆断層と褶曲構造が発達し,地殻変動が活発な地帯である.西頸城山地は高く険しい山地であり,厚さ数1,000mの新第三系が分布している(赤羽・加藤,1989).この地域の古地震として,1751年の宝暦高田地震が知られており(宇佐美,1996),近年の研究から,西頸城山地と高田平野の明瞭な地形境界に南北方向の活断層である高田平野西縁断層(渡辺ほか,2002)の存在が指摘されている.本地域の陸域及び隣接海域は日本海東縁の地震防災や中部日本のネオテクトニクスを考える上で重要な地域であり,不明な点の多い現在の地殻変動の解明を目的とした.

研究手法
 本研究では,西頸城山地の沿岸に分布する海成段丘の形成年代をテフロクロノロジー(火山灰編年学)を用いて決定し,その分布高度から更新世後期以降の地殻変動を考察した.さらに,地形判読や測地学的手法から,現在の西頸城山地及び,隣接海域の変動についても考察した.

海成段丘の形成年代対比
 西頸城山地の海岸部に分布する海成段丘を空中写真判読と現地調査から計7面(H1-2,M1-3,L1-2)に区分した.段丘の表層から5cm間隔で連続サンプリングを行い,3枚の火山灰層(下位よりA,B,C)を確認した(図1).EPMAを用いた主成分化学組成分析によれば,A・Cに多く含まれるバブルウォール型の火山ガラスは,組成の良く似た流紋岩質であった.Bは有色鉱物を多く含み,短冊状斜方輝石が特徴的である.これらの特徴と層序関係から,A,B,CをK-Tz(町田・新井,1978),DKP(町田・新井,1979),AT(町田・新井,1976)に対比し,あわせて,H1,H2,M1,M2,M3面の形成年代を,酸素同位体ステージ(MIS)の9(30万年前),7(20万年前),5e(12.5万年前),5c(10万年前),5a(8万年前)に対比した.

更新世後期以降の地殻変動
 各段丘面の分布高度は西部の糸魚川から東に向かうにつれて高くなっており,同山地が傾動隆起してきたことを示す(図2).その隆起速度は西部で0.36m/ky,東部で0.68m/kyと算出された.また,同山地に発達するNNE-SSW走向の褶曲構造と段丘の分布高度には相関が無く,この走向の構造は少なくとも30万年前以降活動していないと判断された.

測地学的時間スケールでの地殻変動
 最近100年間の水準測量結果と10年間のGPS観測結果は,西頸城山地北縁西部で沈降(糸魚川で2.0mm/yr),東部でほぼ変動せず,高田平野での沈降という曲動運動を示すが,海成段丘を形成するような隆起を示す運動ではない.この運動に加えて,N-S走向の高田平野西縁断層や北西沖に存在するNE-SW走向の南東傾斜の断層,同走向で北西傾斜の長野盆地西縁断層などの運動による西頸城山地北縁全体の隆起が,この地域の傾動隆起の原因であると考えられる.

測地学的傾動速度と地質学的傾動速度の差
 水準測量結果から求めた測地学的傾動速度は,海成段丘の分布高度から求めた地質学的傾動速度よりも1桁大きい.北西沖の活断層と西頸城山地の海岸線との距離が西部ほど近いため,この断層が活動した際に,東部に比べて西部ほどより大きな隆起量を示し,測地学的傾動速度が緩和され,地質学的傾動速度に近づくと考えられる.

まとめ
 現在,西頸城地域及びその北方海域では,古い時代に発現したN-S走向と新しい時代に発現したNE-SW走向の構造が活動的である.西頸城山地北縁の傾動隆起運動は①N-S走向の高田平野西縁断層の地震を伴う活動,②測地学的時間スケールでの同山地の曲動運動,③NE-SW走向の西頸城山地北西沖の断層と長野盆地西縁断層の運動,が複合していると考られる.

引用文献
赤羽貞幸・加藤碩一(1989):高田西部地域の地質,地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,89p.
宇佐美龍夫(1996):新編 日本被害地震総覧,234p, 東京大学出版会.
町田洋・新井房夫(1976):広域に分布する火山灰‐姶良Tnテフラ火山灰の発見とその意義.科学,46,339-347.
町田洋・新井房夫(1978):南九州鬼界カルデラから噴出した広域テフラ‐アカホヤ火山灰.第四紀研究,17,143-163.
町田洋・新井房夫(1979):大山倉吉軽石層‐分布の広域性と第四紀編年学上の意義.地学雑誌,88,313-330.
渡辺満久・堤浩之・宮内崇裕・金幸隆・藤本大介(2002):1:25,000 都市圏活断層図『高田』,国土地理院.


IKONOSとQuickBirdのステレオ計測によるアンダマン諸島の海岸隆起の測量

石黒聡士(名古屋大D1)

1.背景と本研究の目的
 2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震に伴うAndaman諸島の地震性隆起,あるいは沈降については,現地調査を含め,多くの調査,研究報告がなされている.中でもAndaman 諸島北西部は,周囲の隆起の傾向から,特に大きな隆起が起こったことが推察される.また,周辺住民の聞き取り調査から,地震で一度隆起した後,沈降に転じたことが報告されている.地震に伴って隆起した地域については,このように地震後の短い期間に再び沈降する余効変動が観測されているため,地震後,時間が経過するに従って,見かけ上の隆起量は少なくなっていることが予想される.しかし,これまでの調査報告は基本的に地震後ある程度の時間が経過してからの調査であるため,地震直後に観測されたであろう最大隆起量を計測することが困難であった.
 スマトラ沖地震発生から11日目の2005年1月4日に,Andaman 諸島北西端に位置するReef Islandを撮影したQuickBird画像では,Reef Island全体が隆起し,島の周囲に発達した裾礁が大規模に干上がっていることが明確に確認できる.この場所のDSM(デジタル地表面モデル)を作成し,地震前後に見られる汀線の位置の違いを比較することで,Reef Islandにおける地震性隆起量を算出できる.そこで本研究では,2004年のスマトラ沖地震直後に撮影された衛星画像からReef IslandのDSMを作成し,これまで計測が困難であったAndaman諸島北西部における,地震直後の隆起量の計測を試みた.

2.使用データと隆起量計測の手法
 使用した衛星画像は,IKONOS(解像度1.0m)とQuickBird(同0.6m)によるパンクロ画像である.内訳は,地震前(2004年4月16日)に撮影されたQuickBird画像および地震後に撮影されたIKONOS画像(2005年1月10日撮影)とQuickBird画像(2005年1月4日撮影)の3シーンである.
 これらの画像は通常ステレオ計測に用いられるようなステレオペア画像ではなく,単画像である.しかし,各衛星が異なるアングルで対象地域を撮影しているため,地震後に撮影されたIKONOS画像とQuickBird画像との間には視差が生じ,実体視が可能である.
まず地震後に撮影された2枚の画像から,Reef IslandのDSMを作成する.次に地震前の画像に写っている地震前の汀線(旧汀線)を,作成したDSM上にトレースし,旧汀線の地震後の標高を計測することで,地震による隆起量を算定する.

3.DSM作成システムの構築と精度検証
 IKONOSとQuickBirdのそれぞれから撮影された2枚の衛星単画像を用いてDSMを作成した場合の精度を検証するために,予め航空写真が得られているタイ国ナムケム平野でシステムの構築を行った.デジタル航空写真測量による標高計測値を用いた精度検証の結果,ナムケム平野において衛星画像から作成したDSMは,標準偏差で鉛直方向1.32mの精度を有していることが分かった.さらに,このシステムをReef Islandに適用した場合のDSM作成精度は,衛星の位置が理想的であるため,計算上,標準偏差で鉛直方向0.66mと期待できる.

4.Andaman諸島北西岸のReef Islandにおける地震性隆起量の測量
 上記のDSM作成システムを用いて,解像度1mのReef IslandのDSMを作成した.次に,このDSMと地震前の画像とをGIS上で重ね合わせ,地震前の画像で確認できる旧汀線をトレースした.さらに,トレースした旧汀線から3mのバッファを発生させ,バッファに内包する1万4千点あまりの標高計測点(DSMによる標高)を統計処理した.この結果得られた標高を,撮影時の計算潮位によって補正した結果,旧汀線は地震後には標高3.00m(最低潮位からの高さ)に分布していることが判明した.衛星画像の正確な撮影時刻から,地震前の画像における潮位は0.85mであったことが分かっているため,3.00mから0.85mを差し引いた2.15mが,Reef Islandにおける隆起量だったことが明らかになった.


ハザードマップ基図の読図に関する研究

髙井寿文(名城大・非)

1.はじめに
 近年,多発している自然災害の状況を受けて,災害に関する危険地域や避難施設などの情報を提供するハザードマップの作成が進められている.たとえば名古屋市では,2003年の東海豪雨を教訓に洪水ハザードマップが作成され,来るべき東海・東南海地震への備えを呼びかける各区版の地震マップも市内に全戸配布されている.
ハザードマップでは,家屋の形が個別に示された都市計画基本図が基図(ベースマップ)として用いられている.利用者は,災害に関わる地理的な情報をハザードマップから正確に読み取らなくてはならない.そのため,利用者が「自宅の位置が判るかどうか」が重要である.
 そこで本研究では,ハザードマップから利用者が自宅の位置を正確に見つけ出せるかを調査する.いくつかの注記や地図要素に着目し,どのような手掛かりを用いるのかを明らかにする.

2.研究の方法
 利用者が自宅の位置を確定できるかを明らかにするため,ハザードマップの読図実験を行った.実験の被験者は,公開講座「地図から災害を考える,地図を生かす」(2004年12月)に参加した名古屋市の居住者20人と日進市の居住者14人である.男性26人,女性8人,平均年齢は56.4歳である.居住年数10年以上が25人を占める.自ら公開講座に参加したことからみて,彼らは普段から比較的に高い防災意識を持っていると考えられる.
 実験では,名古屋市の被験者には名古屋市発行の地震ハザードマップ(地震マップ)を用いた.一方,日進市の被験者には,日進市発行の都市計画基本図を用いた.これは,実験を実施する時点で洪水ハザードマップが作成されていなかったためである.いずれの地図も縮尺12,500分の1であり,家屋の形が個別に表現されている.
実験では,地図の中から自宅の位置を探し出すのに要した時間を計測した.また,各被験者が自宅の位置を正しく確定できているかを確認するために,地図に記入した自宅の位置が正しいかどうかを確認した.具体的には,住宅地図でそのお宅の位置を確認して,これと地図に記入された位置とを見比べた.探し出す際の手掛かりや要素を明らかにするために,日常生活における地図の利用と,読図実験の内容に関するアンケートにも回答してもらった.

3.分析結果
 被験者が地図から自宅の位置を探し出すのに要した時間は,地震マップ(名古屋市居住者)では平均28.1秒であり,都市計画図(日進市居住者)では平均27.9秒であった.ほとんどの被験者が30秒以内に自宅の位置を地図の中から探し出すことができた.
 地震マップでは50mメッシュごとに震度や液状化の被害の程度を示している.このことを勘案すると,たとえば被験者が地図上で自宅の位置を m(≒約70.7m)間違えて読んでしまった時に,自宅周辺の本来の予測被害程度とは異なったものを読み取ってしまう.そこで本調査では,被験者が読図実験で示した自宅の位置と住宅地図で確認した自宅の位置との距離を計測した. m以内で確定できた場合を正答とし, mを超えた場合を誤答とした.
 自宅から m以内の範囲内に確定できた被験者は,一度まちがえてから改めて正しい位置を確定できた被験者4人を含めて28人であり,被験者全体の約8割を占めた.したがって,今回の読図実験では,ほとんどの被験者が自宅の位置を見つけ出せたといえるだろう.しかし,残る6人(全被験者の約2割)は,75~187.5mの範囲に自宅の位置を確定した.この6人はいずれも居住年数10年以上である.普段からハザードマップへの頻度が高く,居住年数が長い者でも,自宅の位置を正確に確定できない場合がある.
 ハザードマップや都市計画基本図には,家屋の形が個別に描かれているものの,自宅の位置を特定する手掛かりとなるランドマークは,ほとんど示されていない.多くの被験者は道路の形状や本数から自宅の位置を確定する.そのため,類似した道路の形状によって自宅の位置を混同し,自宅の位置を大きく間違えた被験者が見られた(図1-①②).また,避難所となる公園名などの注記が自宅の位置に重なっていて,自宅を見つけ出せなかった被験者も見られた(図1-③).
 次に,自宅の位置を探すのに用いた地図上の要素については,施設名,道路,交差点名,地下鉄・駅名が手掛かりとして用いられていた(表1).また,河川や池の近くに住んでいる被験者は,とりわけこれらの要素を手掛かりにする傾向が見られた.ハザードマップから自宅の位置を確定する時に,あればより判りやすいとして挙げられた要素は,銀行・郵便局,町丁名・大字名,交差点名,バス停であった.これらは公共性が高く,かつ身近な施設や馴染みのある地名に関わりのある要素である.

4.おわりに
 今回の読図実験では,対象とした被験者がハザードマップへの関心が比較的に高い人々であったとはいえ,自治体の作成しているハザードマップや都市計画基本図から自宅の位置を正確に確定できない被験者がいた.また,注記の重なりによって自宅が隠れてしまっているという点も認められた.ハザードマップの表現方法には不完全な部分があり,何らかの表現上の工夫が可能であることが示唆された.また,今回の実験の被験
者が高齢であるという点に関して,ハザードマップの
縮尺との関わりを検討する必要もあるだろう.

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年03月14日 20:54
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。