平松孝晋(リモート・センシング技術センター)
Ⅰ.はじめに
地形条件の定量的評価は、地形形成プロセスの解明だけでなく、災害予測などの実務面において非常に重要である。近年、航空レーザー測量や干渉SARなどの地形計測技術の進展により、詳細な地形データを取得できるようになった。これらのデータは等高線やTINではなく、数値地形モデル(DEM)の形で整備されることが多い。DEMはディジタル画像と同じラスタデータであるため、様々な画像処理技術を適用することができる。
本発表では、地形学的な知見とディジタル画像処理技術を組み合わせることによって得られる情報とその利用法について紹介する。
Ⅱ.画像処理技術の応用
画像処理技術は主に工業計測やリモートセンシング分野において開発されてきた。これらの画像処理技術の分野を大別すると、画像化技術、カラー合成、空間フィルタリング、差分抽出、分類・領域分割、パターン認識などがあげられる。最近ではピクセルベースの解析手法の問題点を克服するため、認知科学の成果を取り入れた処理手法に注目が集まっている。
一方、DEMデータを用いた解析手法には、陰影図や段彩図、傾斜や斜面方位の算出などがあげられる。これらの手法の中にはディジタル化以前から用いられてきたものもあるが、ほとんどはGISの開発初期に画像処理技術が応用されたものである。その後、地形解析と画像処理は別の発展を遂げ、現在は相互の技術交流は活発ではないように思われる。そこで、地形学的な特徴を把握するために有効と思われる画像処理の話題を3つ取り上げる。
1.モルフォロジ演算
模様の繰り返しやばらつきといったテクスチャをもとに、対象を識別、または画像を領域分割する手法である。絶対値(標高)よりも、形状やパターンを重視するため、地形の把握に有効と思われる。
2.ファジィ分類
地形区分境界には、明瞭に分けられる区間と、曖昧な区間がある。DEMを用いた地形分類を行うには、厳密に決められない部分を一旦保留する立場をとらなければならない場合もある。ファジィ分類ではこのような曖昧な区分(重複や混在)を許容した分類項目や、境界の確実度を色の濃淡などで表現するなどの手法が取られる。
3.オブジェクトベース分類
形状やパターンによって識別された分類要素間の関係(包含、階層)に着目する手法である。大規模造成地や地すべり地形の抽出などの実用的な場面での応用が期待されている。
Ⅲ.地形学的解釈との融合
地形学は長年蓄積された知識と経験に基づくエキスパートシステムであり、それらの手法を簡単にモデル化できるようなものではない。また、地形の形成プロセスを細かく分析できたとしても、現実の地形の全体像とはかけ離れた結果が現れる可能性もある。
しかし、土地条件図や国土調査が全国をカバーできていないことからもわかるとおり、人力での作業には膨大なコストがかかる。したがって、以下のような地形の定量的把握手法を向上させ、積極的に適用する姿勢が必要であろう。
1.地形量の算出
DEMから得られた特徴量、統計量の中には、地形的に意味のある値と、そうでないものがある。例えば、山地のDEMを対象とした場合には、その平均値は平均高度、分散値は高度分散量として、侵食の程度として解釈可能である。しかし、対象とする地形、範囲、スケールの選定を誤っていては、計算結果に意味がなく、結局のところ地形学的な知識がなければDEMを有効に利用できない。
また、画像処理の他分野ではあまり用いられないが、地形に適用すると非常に重要な地形量を算出できる処理手法もある。例えば、曲率は斜面形状の把握、遷急・遷緩点の検出、斜面を流れる表層水の集中・分散の指標などに応用される重要な特徴量である。また、尾根や谷の周囲からの突出・陥没の度合いを指標化した「開度」のように、地形を対象として考案された手法が他分野に適用されている事例もある。
2.流域・水系モデル
DEMの解析手法において最も特徴的な分野がこの流域界と水系網である。HortonやHackなどの経験的な理論の裏付けがあり、GISの技術面での完成度も高い。DEMによる解析対象領域の設定には、流域界を用いるのが一般的である。
3.侵食・堆積モデル
侵食・堆積による地形形成プロセスの定量的な記述は、将来的な地形変化を予測するための基礎といえる。これまで、土壌水分量を推定するWetness
Index、河川の侵食力を推定するStream Power Index、地表面の土砂の安定度を推定するSediment Transport
Indexなどが提案されている。
4.地形分類
上記のような地形解析結果と、オブジェクトベースなどの画像処理の概念を援用した自動地形分類の研究が進められつつある。これまでは海外の山地地形、氷河地形を対象とした研究が多いが、今後は日本の平野地形や段丘地形への適用の可能性を探る必要がある。
5.判読支援
地形分類の研究が急速に進歩しているとはいえ、将来全ての作業が自動化されることはあり得ない。そこで、人間の目の認識能力を最大限に引き出すためのDEMのシュードカラー表現の開発という、上記手法とは別のアプローチでの研究も進んでいる。これらは航空写真判読の延長線上にあたり、最近になり有効性が認識されつつある。例えば、赤色立体地図(千葉ほか、2007)では、色の持つ印象や目の錯覚も含めた画像認識の心理的影響が考慮されている。
Ⅳ.おわりに
DEMの地形学への適用は未だ発展途上であり、GISで手軽に扱えない方法もある。データや技術習得のコスト、専門分野間の交流の不足といった問題もあるとは思うが、それでも魅力的なテーマでないだろうか。これから自然地理を勉強しようとしている方々にぜひ取り組んでほしいと思っている。