発表要旨
安江健一(富山大OB)
「地形・地質概念モデルの作成について」
地形や地質を調査した結果を総合的に表現する方法の一つとして,調査地域の過去の地形や地質の状態を概念的に描く方法がある.概念的に描くことは,調査者以外の人に調査・研究の成果をわかりやすく伝えたり,調査地域の将来の状態を推定したりする際に役立つ.しかし,描かれる概念モデルは,調査対象の時期や現象,得られるデータによって異なる.また,同じデータを使っても研究者によって解釈が異なり,いくつかの概念モデルが描かれる可能性もある.
本発表では,私が取り組んでいる過去数百万年間を対象にした地形と地質の調査内容と,その成果に基づく過去の地形・地質モデルを作成する方法について簡単に紹介する.そして,その内容と皆さんの研究内容を踏まえて,地形・地質などの調査研究の成果を概念モデルにする方法についてディスカッションし,今後の調査・研究の取り組みの参考にしたいと考えている.
石黒聡士(名古屋大学)
「高解像度衛星画像のステレオ計測による地震性地殻変動の研究」
断層運動に起因する地震性地殻変動については,詳細な測地学的観測・解析に加え,変動地形学的な観点による研究が数多く行われてきた.そこでは航空写真の詳細な判読や現地地形調査が重要な手法であったが,これらの手法は,航空写
真の有無や現地踏査の実施可能性に大きな制約を受けてきた.航空写真は撮影時期を任意に選ぶことが困難であり,地震直前および直後の重要な時期において撮影されていないことも多い.海外においては使用そのものが容易ではない.また,定量的な写真測量は高い専門技術が必要なため,普及が遅れている.本研究はこうした問題を解決するために,「高解像度衛星画像のステレオ解析」を地震性地殻変動研究に導入するための方法論を構築し,その有効性を検証した.
衛星画像は1990年代後半から2000年代にかけて高解像度化が急速に進み,変動地形研究で注目すべき小地形を目視することが可能になっている.高解像度衛星画像を実体視判読し,さらにステレオ解析を行うことにより,従来は困難であった地震性地殻変動や活断層変位地形の詳細な計測が可能になる.また,全世界的な撮影が頻繁に行われていることから,撮影場所と撮影日を自由に選ぶことが可能になっている.
地震性地殻変動のうち,海溝型地震に伴う地殻変動については,地震直後の変位量と余効変動を区別する必要がある.本研究においては,最適な撮影場所および時期の高解像度の衛星画像(IKONOSとQuickBird)を用い,ステレオ解析することにより,2004年スマトラ地震直後の最大隆起量を計測する手法の開発を目指し,その計測精度を評価することを目指した.
一方,内陸浅部の地震に伴う地殻変動においては,活断層に沿う高密度な変位量分布を明らかにすることが地震規模予測等に重要であり,写真測量の手法の有効性が指摘されている.本研究においては,高解像度衛星画像(CORONAとALOS/PRISM)を用いて活断層変位地形の認定と広域的な断層マッピング,およびステレオ計測による断層変位地形の計測を試み,高解像度衛星画像を活断層研究に導入する方法論の開発を目指した.
本研究においては高解像度衛星画像を地震性地殻変動研究に導入し,各事例において計測精度を検証した.しかし,一般的にみてどの程度の地形解析が可能であるかの議論はまだ不十分である.この議論を重ねるため,より多くの事例で検証する必要がある.とはいえ,本研究の手法は基本的に世界中のいかなる地震性地殻変動にも適用可能である.たとえば,2008年5月の中国四川省において発生した地震に適用し,その地表地震断層の変位量を系統的に計測して詳細な変位量分布図を作成することができるなど,大きなポテンシャルがあると考えられる.
牧仁(富山大)
「能登半島中~北部の変動地形」
1.はじめに
2007年3月25日9時41分能登半島石川県輪島市西南西沖40kmの日本海で、マグニチュード6.9の能登半島地震が発生した。震源は北緯37度13.2分、東経136度41.1分、深さ11kmであり、本震の発震機構は西北西ー東南東方向に圧縮軸を持ち、横ずれ成分を伴う逆断層型である(気象庁、2007)。能登半島は定常的地震活動が低い地域であり、南部邑知低地帯周辺を除いて陸域には比較的小規模な活断層しか存在しない。今回の地震を引き起こした震源断層については地震後,海域の活断層が活動したものという見解が発表されている(片川ほか,2005;岡村2007;平田ほか2007;など)。 本研究では、変動地形学的アプローチから能登半島地域の活構造の活動性を明らかにすることを目的とする。今回の発表では能登半島地震後1年間の海岸生物の分布高度調査の結果と海成段丘の高度について紹介する。
2.方法
海岸部における地震隆起・沈降量を求めるための生物指標として,潮間帯付近に生息する生物の分布上限高度がしばしば用いられてきた(例えば、前杢,2001,山本ほか2007).本研究では主にケガキ、ウノアシ、カメノテの3種類の生物を用い、能登半島地震による地殻上下変位量を推定した。この3種の生息帯は平均海面に関係し、地震時の地殻変動を計測するうえで格好の基準となる。潮位やマーカの変位を計測する際には、波の影響をできるだけ除去するため、波の静かな日に港などの波が穏やかなところを選択した。また、潮位計測では国土地理院輪島験潮場の潮位からつぎの補正値を用いて補正を行った:
補正値=計測時刻における潮位(輪島験潮場) - 年平均潮位(輪島験潮場)
また、隆起が顕著な地域では、地震発生から約1年経過していることから、現生の生物の上限と隆起した生物遺骸の上限との高さの差が明確である.その様な地域では、潮位の補正は行わなくてもこれを地殻上下変位量とすることができる。この方法による計測は波および潮位の影響を受けず、測定の誤差が小さいと考えられる。
3.結果
劔地、赤神、黒島、腰細、前浜などの地域で顕著な隆起が認められる。最大隆起量は劔地の49cmである。これは、柳井(2008卒論)や山本ほか(2007)の生物調査に基づく上下変位量より5~6cm大きい、他の隆起した地点においても2~3cm程度、本研究の結果のほうが大きな値をしめす。また、深見付近で、最大9cmの沈降を示している。この位置は、震源断層とされる断層(片川ほか,2005)の走向延長に概ね一致する
4.考察
能登半島は日本でも有数の海成段丘が発達した地域である(小池・町田編,2001)。海成段丘の分布高度および形成年代を用いればこの地域の隆起速度を見積もることが出来る。劔地付近では、酸素同位体ステージ5e(約12万年前)の段丘が標高約50m付近に分布し、南に向かい傾動する。この分布パターンは能登半島地震時の隆起パターンと傾向が一致し、本地域の段丘の傾動は、能登半島地震を起こした震源断層のすべりによる効果として生じた地表変位が累積したものと考えられる。今回の海岸生物の高度分布調査に基づけば、能登半島地震による最大隆起量は49cmである。地震時の単位隆起量を約50cmと仮定すれば、ステージ5eの段丘面の年代および分布高度から、平均活動間隔は約1200年と見積もられる。これはヤッコカンザシの遺骸の分布高度から推定された活動間隔約1000年(宍倉ほか,2008)と概ね一致する。しかし、能登半島は定常時でも隆起傾向にあり(鷺谷・井上,2003;村上・小沢,2004など)、両値ともにその影響が考慮されていない。地震時変位量と段丘の高度分布の傾動パターンは類似するが、今回の地震で隆起が殆ど認められない傾動地塊の南端部でもステージ5eの段丘は標高約20mに分布する。これを非地震性の隆起と仮定し、5e段丘の分布の最高点である50 mから差し引いた30mを地震による変位とすると、平均活動間隔は約2000年と見積もられる。
5.まとめと課題
海岸生物調査をよると劔地、赤神、黒島、腰細、前浜などの地域で顕著な隆起が認められる。最大隆起量は49cmである。深見付近では9cmぐらい沈降した。
非地震性の隆起も考慮に入れた結果、能登半島地震の平均活動間隔は約2000年と見積もることができる。
ただし、GPSや水準測量により求める隆起速度は、地形から求まる隆起速度より大きく、ごく最近は加速傾向にある。その原因として、数千年~数万年オーダーよりも短い時定数での変動が考えられる。従って、海岸生物による地震時の地殻上下変位調査に加え、過去の地殻変動によるヤッコカンザシ等の生物遺骸と、完新世の海成ベンチ、ノッチ等の分布高度を調査し、数年~数百年オーダーの地殻変動を明らかにする必要がある。
6.今後の予定
(1)地震時の地殻変動を基準にして震源断層モデルを比較検討する。
(2)地震以前の隆起量について生物や地形から調査を行う。
(3)能登半島全域における海成段丘の変動様式を整理し、非地震性変動の原因を考察する。
(半島西岸、北岸、能登島など、それぞれに傾動方向が異なるのはなぜか、等々。)
図1 M1面段丘高度分布と地震上下変位
参考文献
太田陽子・松田時彦・平川一臣 (1976):能登半島の活断層,第四紀研究 第15巻 第3号,109-112.
太田陽子 (2001):能登~若狭,日本海の海成段丘アトラス,小池一之・町田洋 編,東京大学出版会,49-52.
片川秀基・浜田昌明・吉田進・廉澤宏・三橋明・河野芳輝・衣笠善博 (2005):能登半島西方海域の新第三紀~第四紀地質構造形成,地学雑誌 114-5, 791-810.
山本博文・奥山大嗣・江戸慎吾(2007)生物指標からみた平成19年(2007年)能登半島地震における海岸隆起 福井大学地域環境研究教育センター研究紀要「日本海地域の自然と環境」No.14,33‐46,2007
前杢英明(2001)隆起付着生物のAMS14C年代からみた室戸岬の地震性隆起に関する再検討.地学雑誌110(4)479-490 2001
鮑 巴達拉胡(富山大学)
「反射法探査データの再解析による日本海奥尻海嶺の構造」
研究目的:日本海奥尻海嶺で取得された反射法探査データの再解析により,この海域の震源断層や海底地震断層をイメージングする。
研究方法:
(1) 反射法探査の先行研究をレビューし,研究目的にかかわる問題点を探る。
(2) 調査船による研究航海で海底音響イメージングデータを取得する。
(3) 反射法データの解析スキルを修得する。
Parallel Geosciences Corporation 製 Seismic Processing Workshop (SPW)
地球科学総合研究所 Post-stacking Depth Migration Software (PSDM)
結果:
1.先行研究で明らかになった問題点
a. 奥尻海嶺東麓−後志トラフ境界部の地質構造の解釈について異なる見解がある。
b. バランス法による地殻歪(短縮量・傾動量)について,不確実性や誤りがある。
c. 奥尻海嶺頂部および西麓の地質構造の性質や成因が未明である。
d. メタンハイドレートBSRの存否確認が不十分である。
e. 地形および浅層構造について,潜航調査結果と反射法解釈との比較が必要。
2.JAMSTEC調査船「よこすか」YK08-07航海で,新規の研究資料を収集した。
DAIPACKによるSBPデータ,Sea-beam精密測深データ,3Dカメラ映像など
3.反射法データ解析技術の習得について
SPW:生データを標準手続きで解析できるレベルに達した。
PSDM:インストラクターにより初歩の手ほどきを受けた。
今後の計画:
JAMSTEC /NT95-4測線群の反射法データを借受け,上記問題点を解決する。
SBPデータのSCS処理により表層構造を解析する。
PSDM処理により1993年北海道南西沖地震の震源断層を検出する。
文献:
竹内 章 ほか (2000):日本海東縁、奥尻海嶺及び周辺の大地震と海底変動。JASTEC深海研究 第16号 P29~46
岡野 肇 ほか (1995):北海道南西沖地震直後の海底。JAMSTEC深海研究 第11号 P379~394
仲村 明子 ほか (1997):日本海盆の音響的堆積構造と地質構造 JAMSTEC 深海研究 第13号 P615~657
松本 剛 ほか (1996):プレート収束域における海底下深部構造―MCS95調査航海成果速報 JAMSTEC 深海研究 第12号 P45~64
高山典子 修論 (2005)
図1ActiveSeisによる断面図の一例
図2研究域の地形図
佐藤善輝(名古屋大学)
「浜名湖沿岸沖積低地の地形発達史(速報)」
【はじめに】
静岡県・遠州灘沿岸部は駿河トラフ沿いに位置し,プレート境界型地震である東南海地震・東海地震の発生が危惧されている.過去に発生したプレート境界型地震の断層モデルは,文書記録から推定された地殻変動や津波波高,地下の地質構造などに基づいて想定・提示されている.これら断層モデルの作成・修正が防災上重要であることは自明であるが,被害記録は記録者の特性に大きく影響を受け得るものであり,客観性に問題がある.このため,地殻変動の特徴を示しうる地形・地質学的資料を提示することは,客観的なデータを提供するという点において重要であるといえる.
本研究では浜名湖周辺の沖積低地を対象とし,沖積低地の地形発達史を明らかにしようと試みている.対象地域では地殻変動の影響を受けて地形が形成されてきたと考えられることから,堆積環境の変化を明らかにすることによって,地殻変動の傾向についても議論できるのではないかと考えている.現在調査の途中段階であるが,これまでの調査結果から,海成層上限と推定される堆積物の分布高度が地殻変動傾向と対応している可能性が示唆されたので,報告する.
既存の断層モデルによれば対象地域周辺は地震時に沈降する傾向を示し(図1),過去の地震時には地盤沈降により水田が汐につかる被害が発生したという記録もある(平井ほか,1997).また,地震間に生じる地殻変動は舞阪検潮所の検潮記録から隆起傾向にあることが推定される.
本研究では,浜名湖沿岸に位置する沖積低地において,ハンドオーガーを用いて掘削を行い,堆積物の空間的分布について明らかにした.調査は,浜名湖北東部の都田川下流低地,南東部の六間川低地および東神田川低地,南西部の女河浦低地である(図2).層相の記載を行うとともに,採取した試料の一部については電気伝導度分析も行った.
【調査結果】
<都田川下流低地> 低地中央部の複数の横断面図において,貝殻片(巻貝,ウミニナ)を産出する砂質シルト層が標高-1~-2m以深に認められた.電気伝導度分析の結果からも,同層が海成層であることが示された.この砂質シルト層の一部は中砂~粗砂層に覆われる.中砂~粗砂層の河成・海成については現在のところ不明であり,また砂質シルト層が中砂~粗砂層により下刻されている可能性もある.
<六間川低地・東神田川低地> 低地南部に砂州(6000年前以前の形成,松原,2007)が認められる.砂州の内側には層厚1~2m程度の泥炭層が堆積し,その下位の標高-1m(概算値)以深に一部貝殻片を産出する粘土層が堆積する.粘土層は,電気伝導度分析の結果から海成層であることが示された.また,海岸側には貝殻片を含む砂層が浅層部に認められた.
<女河浦低地> 海岸部に小規模な砂州が形成されており,砂州の内側に泥炭が層厚2~3m程度堆積している.泥炭層の下位,標高-1m(概算値)以深には,海成層と推定されるシルト層および貝殻片を含む砂質シルト層が認められる.また,海岸部には泥炭層の堆積が薄く,浅層部に砂層が認められた.
【考察】
いずれの低地においても,海成層の上限が標高0m以深であると推定された.このことは,遠州灘東部の御前崎や菊川低地のように標高数m付近に海成層上限高度が認められる地域と大きく異なる.遠州灘東部は累積的な隆起傾向を示すことから,海成層上限高度の産出高度は浜名湖周辺の累積的な沈降傾向を示す可能性が高い.このことは従来の断層モデルからの推定と概ね整合的である.しかしながら,砂州・砂堆の発達の影響や,海成層上限が浸蝕を受けた可能性,低地間の堆積年代の差異については未検討・検討不十分であり,今後の課題としたい.また,現在までのところ,各地震の個別の変動量や変動傾向を直接示す結果は得られていない.
なお,浜名湖周辺における差異については,現段階では海成・陸成堆積物の分解精度が不十分であるため不明である.浜名湖北東部では音波探査から断層による変形と推定される地溝状の地形・地質構造が存在することが示されていることから(平井ほか,1997),小規模な構造を考慮した各低地間の比較に基づく議論も重要である.また,津波堆積物と推定される堆積物は現在のところ認められていない.
参考文献
平井幸弘ほか 1997.地理42-11,116-121.
宇佐見龍夫 1996.『日本被害地震総覧』.東京大学出版会.
松原 2007.慶応大学日吉紀要,18,1-14.
最終更新:2009年03月19日 11:24