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ヘラクレスの栄光III 神々の沈黙 - (2012/09/23 (日) 06:28:51) のソース

*ヘラクレスの栄光III 神々の沈黙
【へらくれすのえいこうすりー かみがみのちんもく】 
|ジャンル|RPG|&amazon(B000068HE7)|
|対応機種|スーパーファミコン|~|
|発売・開発元|データイースト|~|
|発売日|1992年4月24日|~|
|定価|9,900円|~|
|配信|バーチャルコンソール:2007年4月06日/800Wiiポイント|~|
|>|CENTER:''[[ヘラクレスの栄光シリーズリンク>http://www26.atwiki.jp/gcmatome/pages/1645.html]]''|~|
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#contents(fromhere)
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**概要
ゲームとは操作性、グラフィック、インターフェース、ゲームバランス、システム、シナリオといった様々な要素が集まることで成り立っており、とりわけ名作・良作というものは多少の欠点こそあれどそれらの要素の多くが優れているからこそ名作・良作と呼ばれる。~
逆にそれらの要素の多くが劣る作品は凡作、駄作、クソゲーといったレッテルを張られ、プレイヤーの心に決していい意味で残ることがないのが常である。~
ところが世の中には発売当時の状況を考えても、多くの要素が凡作以下と言うほかないにも関わらず、当時遊んだプレイヤーが何年にもわたって「素晴らしい」「感動した」という思い出を持ち続けている名作もある。~
操作性はスムーズとはいえず、グラフィックは粗く、インターフェースも洗練されておらず、ゲームバランスはきつく、システムは典型的な劣化ドラクエ。~
しかしそれらの点を「シナリオ」というほぼ一点だけで挽回しきり、遂にはシリーズ自体の評価まで高めてしまった。~
その作品の名は『''ヘラクレスの栄光III 神々の沈黙''』。~
シナリオライターの名は野島一成。後に歴史的名作『[[ファイナルファンタジーVII]]』のシナリオを手掛ける人物である。~
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**ストーリー
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──古のギリシア。~
何百年とつづく平和な世界。~
人々の心の中には、「苦しみ」、「悲しみ」などという感情が、何代もの祖先にまでさかのぼらなければ見出せないほどに、安穏な時代はつづいていた。~
何百年も前からずっと……。~
天界に住まう神々も、人々が穏やかに、平和に暮らす地上の楽園を眺めるにつけ、自分たちが創造した世界が、正しい歴史を刻んでいることに、大いに満足していた……。~
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しかし、そのような時代にも、常に地上に、そして、そこに暮らす人間たちに、じっと目を凝らす神がいた。オリンポスの神々の最高神であり、全世界の偉大な創造主である大神ゼウスである。~
彼は片時も離すことなく見開いた目で地上を見降ろし、たとえ小さな変化といえども見過ごすことなく、常に地上界を注目していたのだった。~
そして、ゼウスの目は、平和の楽園に、徐々にではあるが、変化の兆しが訪れていることを見逃さなかった……。~
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生命のほかにも、人間たちは多くのものを神々より授かった──愛、夢、希望、勇気……、──が、しかし、人間の心を揺るがし、人間を動かしていたものは、ほかならぬ神々より受け継いだ“欲望”であった。そして、“欲望”の行きつく先は──当然のことだが、──神々自身はよく知っていた……。~
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大地の女神・ガイア──外に「生の世界」を、内に「死の世界」をもつ母なる大地は、人間の欲望のために病み、傷つき、その結果、二つの世界の境界を維持することが困難になりつつあった。~
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傷ついたガイア!?~
激しく動揺する大地。地上にはいくつもの穴があき、それはいつの間にか「死の世界」にまで届いてしまっていた。そして、そこから這い出した魔物ども──彼らは「死の世界」の住人!? ──が、人々を襲い始めたのだった!!~
ゼウスは地上を見降ろしながら、思いをめぐらしていた……。~
人間たちへの愛情は否定できない。しかし、それはガイア──母なる大地があればこそのこと。ガイアは今、傷ついている。そして、そのガイアを傷つけたのは、ほかならぬ……。~
ゼウスは決断をくだした。~
今、もっとも重要なこと、それは大地を救うこと、人間はもう一度創造(つく)ればよい!!~
心を決めた“すべての支配者”は、オリンポスの神々を集め、話しを始めた。~
“ガイアを救うのだ!!”~

一方で、神々が見下ろす地上ではとある青年が妖精たちの隠れ里で記憶を失った状態で介抱されていた。~
彼はある日地上に開いた穴から転落し、命を落としたかに見えた。だがその体には傷一つなく、自分が不死身であることを知る。~
このままここにとどまっても自分のためにならないと、彼は自分が何者であるかを知るために旅立つことを決心した。~
手がかりは時々見る夢の中の光景。~
奇妙な異国の建物が立ち並ぶ場所に「アトラスの子孫」と名乗る老人と子供がいる。また、それとは別に自分以外にこの夢を見ている者たちもいた。~
目指すは夢の中の光景と人物たち。~
だが、その旅の結末と彼の記憶の真実は人類の未来を左右する、重大で残酷な宿命であった。~
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(上半分は説明書より引用)~
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**特徴
-シナリオや世界観の面ではギリシャ神話のエピソードや神々、地名、用語などをふんだんに駆使し、システム面が基本的にドラクエもどきなのは従来シリーズ通り。
--空飛ぶ凧を作ってくれるダイダロスや太陽を運ぶ馬車を扱うパエトーン、石化した巨人アトラス、トロイの木馬に乗って怪物と戦うなど元ネタとなった神話のエピソードが大胆にアレンジされてシナリオに取り入れられている。
--システム的にもまるっきりドラクエの模倣というわけでもない。細かい部分でなんとか差別化しようと頑張っている痕跡がある。
---魔法を覚えるにはレベルを高めるだけでなく、対応した魔法が覚えられる神殿の泉に入っておかなくてはならない。
---パーティーキャラクターには得意な武器を3つまで指定することができ、各地にいる達人たちにその武器の扱い方を教えてもらうことで指定することができる。
---錆びついたアイテムを正常なアイテムにしてくれる研磨屋、竪琴を奏でて結果に応じて報酬がもらえるミニゲームなど細かいところでおまけ要素が充実している。
---仲間を連れている時に街にある壺やタンスのアイテムを手に入れようとすると仲間が制止しようとしてくる。それでもなおアイテムを盗んでしまうと信頼度のパラメーターが減少する。
---普通にお金を払ってアイテムやお金を預けられる預り所もあるのだが、それとは別に増えたアイテムを地面に穴を掘って保管していくシステムがある。
--また主人公たちはとある理由で死なないため、冥界へと通じる各地の大穴から冥界に飛び降りて強いモンスターと戦ったり、アイテムを手に入れたりできる。
-とはいえ、SFCのRPGでも屈指の快適性を誇る次回作と比べれば一目瞭然だが基本的には問題点が多く洗練されていない部分が目立つ。

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**評価点
-''とにかくシナリオが素晴らしいこと''、これに尽きる。加えて演出、世界観設定、キャラクター、場面に溶け込んだ音楽などシナリオを取り巻く要素一つ一つの完成度が高い。
-主人公への感情移入度の高さ。
--主人公は不死身だが記憶喪失で最初はこの世界のことを何も知らない白紙の状態である。そのためこのゲームを初めて遊ぶプレイヤーと情報を共有しているということでもある。
--そのためプレイヤーはシナリオを進めるごとに「あれ?」と思える疑問点や「なぜ?」と思える人物・神々の行動などの体験を主人公とともに共感し、情報を蓄積していく。まさにドラクエ型の喋らない主人公の利点を生かし切っている。
-巧みに張り巡らされた伏線。
--街の人の何気ない話や、一見してシュールでコミカルな箸休めのイベント、ちょっとしたお使いイベントから街の建物の形や大陸の形状まで作中のあらゆる点に伏線が紛れ込んでいる。回収される時点で「これが伏線だったのか!?」と思わされるものも少なくない。
--神々はなぜ地上の危機に「沈黙」しているのか、どうして不死身の人物が生まれたのか、怪物たちがどうして蔓延っているのか、何故神々は主人公に真実を教えてくれないのか、実はそれらの原因は主人公と決して無関係ではない。
--一つの伏線が回収された、と思ったらまた新たな疑問や伏線がわいてくるなど話に引き込んでいく流れも注目すべき点。
--そしてとうとう主人公は終盤になって記憶を取り戻す。その回想シーンは今まで積み重なった伏線全てを昇華したもので、まるでパズルのピースが一気に組みあがるような盛り上がりを感じられる。正直「怒涛」とか「感動」とかいう表現では足りなさすぎる。実際にプレイした者でなくては分からないカタルシスがそこにある。
-深く、それでいて押し付けがましくないテーマ性。
--大地の恵みや信仰を忘れ、平穏のうちにエゴイズムにまみれてしまった人間たちを戒めるような内容は現実のプレイヤーたちに対しても決して他人ごとではない。
--終盤で神々が人類に対して行った行動などはそのテーマの結論ともいえる。
--ちょっとしたお使いイベントや街の人の会話からうかがい知れる類の表現が多いため、作り手の主張が鬱陶しいと思えることはない。
-簡明ながらもしっかりした個性と思想を持つキャラクターたち。
--生き生きと個性的に描かれたパーティーキャラクターたちもさることながら、NPC一人一人の行動原理や思想が少ない情報量ではっきりと伺える。
--特に神々の考えに関して顕著。ゼウス、ウラノス、ハデス、プロメテウスの4人はそれぞれが同一の目的を持っているのだがそれを実現させるための方法が各々異なっており、人類の運命を如実に左右していく。
--筋金入りのドケチのクノッソス一の金持ち爺さん、死んだ隊長の無念を晴らそうとするスパルタ兵、国民のことを第一に考え試行錯誤するアテネ王など名前すらつけられていないモブキャラですら個性豊かで印象深い。
--ラスボスの思想や行動原理は実は主人公と関連の深いものであり決して理解できないものではない。
-シナリオを取り巻く演出も何一つ手抜かりがない。
--音楽はシーン一つ一つを盛り上げることに貢献しており、音源こそ粗めであるもののクオリティは高い。
--「不死身」という設定以外の人物も仲間になることがあるのだが、そういったお助けNPCは戦闘で倒れると容赦なく死亡してしまう。死なせても特にペナルティはないが不死身と普通の境界線をはっきりと示しており、不死身設定を際立たせることに成功している。
---そういったNPCは主人公が高いところから飛び降りようとすると自分にはできないと制止してくる。
---「高い所から飛び降りる」というアクションはシナリオのあちこちで見られ、天界、地上、冥界間への移動や不死身であることを証明するために飛び降りるなどやはり不死身設定が重要な軸に据えられている。
--終盤では主人公がある存在に変化させられる展開になり、戦闘では…
---本作屈指の名イベントと評判である。
-レイオンの日記や神話辞典などのデータベース的な要素も充実しており、テキストも面白く読んでいて飽きない。
-エンディングは現在のゲームに比べると実にさっぱりとしているが、これまで関わった人物や神々、仲間たちの台詞に込められた味わい深いメッセージ、あるキャラクターとの切ない別れ、そして主人公の衝撃的な末路など「未だに忘れられない」「号泣した」というプレイヤーは多い。
-以上の理由から各種レビューサイトやamazonの評価を見てもほとんどの場合多くの問題点が指摘されておきながらシナリオ一点で名作扱いされている。シナリオ重視のプレイヤーは是非とも実際にプレイしてこれらの内容を自分の目で確かめてほしい。
--ただしある程度伏線が出揃う中盤までは上記の問題点の数々が邪魔をしてストレスの溜まるプレイになりがちである。そのためきつい序盤を耐え抜けるかどうかがこのゲームが名作か駄作かを決定付ける分岐点だろう。
--また終盤の展開がこの作品のシナリオの肝であるため''ネタバレは絶対に避けること''。wikipediaはおろか攻略サイトでもネタバレ記述が多いので未プレイ者は十分に注意するように。

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**問題点
概要で述べた通り、問題点が少なくない作品である。

''操作・インターフェース''
-操作性は全体的にもっさりしている。またメッセージ速度の流れはデフォルトに設定してあるとゆっくりしておりテンポが悪い。
--ただコンフィグで最速に設定することで大分改善はされる。
-グラフィックはSFC初期相応の粗さ。
--特に天馬やカイトに乗っている時は地上の光景が拡大されるためドットがもろにくっきりと見えてしまう。
--敵が全員アニメーションしたり、演出面を凝ることで見栄えを良くするなどスタッフの努力の跡は伺える。
-インターフェースが雑。
--魔法やアイテムの効果は使ってみなければわからない。特に後半は便利な魔法や使用することで強力な効果を得られる装備品が多いので魔法やアイテムの有用さを知っているとそうでないとでは攻略難度が劇的に変わる。
-全体的なテンポの悪さ。
--ダッシュができず移動速度が遅い。中盤に熱波で画面がうねる場面では処理落ちも発生するため本当に遅くてイライラする。
---本作発売と同じ年にFF5が発売され、本作の移動速度がFF5の「ダッシュ」と比較されてしまったのも不運だった。
-既に使用し終えたイベントアイテムを預り所に預けられないため、初めは余裕の多かったアイテム所持数が終盤ではじわじわと圧迫される。
--「不要なアイテムをそこら辺に埋めて保存できる」という謎の保管システムはあるが、この場合「どこに何を埋めたのかメモしてないと忘れる」という欠点が浮き彫りに。

''ゲームバランス''
-後述の理由で、ゲームバランスはキツイ。
-本作最大の欠点として、味方のレベルアップに伴い敵の能力も上昇する、後に言う「FF8方式」を採用している点が挙げられる(実はJRPGで「FF8方式」を採用したのは本作が最初)。
--しかも敵の強さが変わっても経験値は同じで、味方のLVアップに必要な経験値もFF8のように固定ではない。それゆえレベルが上がると道中の雑魚の打撃が異様に痛くなり、道中の移動が茨の道となる。
--なお道中ガン逃げでレベルアップを避けても、今度はボスに歯が立たなくなる。戦闘方式がほぼDQ方式で、他RPGのような「工夫」や「抜け道」も限られているため、結局レベル上げを余儀なくされる。
-序盤の仲間が1,2人しかいない時でも敵が4体も5体も頻繁に現れてタコ殴りにしてくる。
--主人公一人で行動するシーンでは流石に敵の数は抑えられているが、1,2発受ければ瀕死になるような魔法を使う敵が出てくるなどきついことには変わりない。
-回復魔法やバッドステータス、仲間を呼ぶ行動をする敵がやけに多く、情け容赦がない。
--一部の敵はあまりにしつこく仲間を呼んでくるため、ドラクエで例えるならデフォルトでマドハンド狩りをするような状態になることも。
-ボスも補助魔法の有用さを認知していないとかなり苦戦するものが多い。特に終盤のボスは一撃でキャラのHPを半分以上削り取るのに複数回数攻撃してくるものが多い。
--またこちらは不意打ちできないのに、敵が割と頻繁に不意打ちしてくるため気が抜けない。操作可能になったらパーティーが半壊していた、などということがけっこう起きる。
--とはいえ補助魔法やアイテムの有用さ、追加効果のある武器、耐性を持った装備品などを知った上で攻略するならほどよく歯ごたえのあるバランスに変わる。インターフェースの不味さと戦闘難度がかみ合わなかったのが惜しい点だろう。
---特に使用することで蘇生魔法と同効果を持つ安らぎの鎧や、二回攻撃できるようにする魔法の効果を持つ銀の指輪、味方全体の防御力を上げる身隠しの兜などの効果を知っているといないとではボス戦の難易度が天と地ほどの差である。
-エンカウント率が高め。
--ダンジョンはどれもそう広くないので割と魔法を連発してもボスまで持つのが幸いではあるが、もうちょっとなんとかならなかったのか。
--またダンジョンによっては面倒な仕掛けや難解な謎解きを強いられるため頻繁なエンカウントが思考の阻害になりやすい。

-その他
--キャラデザが洋ゲー臭いガチムチなデザインでかなり人を選ぶ。
---実際むさいパッケージとゲームバランスの悪さ、序盤の平凡な展開のために発売当初はほとんど評価されていなかった。
-魔法を覚えるために神殿の泉に入っておかなくてはならないシステムは、終盤に仲間になるキャラに魔法を覚えさせようとするとこれまで行った神殿全てを順々にめぐらなければならないため、非常に面倒くさい。
---次回作では一度行った神殿同士にワープすることができるため改善された。
-と、あらゆる点でまんべんなく問題を抱えている。ストーリーが神でなければ人によってはクソゲーwiki送りにされても仕方ない作品なのだが…。
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**総評
問題点と評価点の落差こそ激しいが、問題点の方は数こそ多いものの攻略不可になるほどどうしようもないものはない。~
バグも普通にプレイする分にはほとんど見ることはない。スタッフが手抜きをしたわけではなく、データーイストの伝統通り挑戦的・先鋭的すぎる理解不能な要素を入れていること、純粋に技術やノウハウが発展途上の段階であっただけなのだろう。~
反面シナリオとそれを取り巻く要素の素晴らしさは同シリーズどころかゲーム史上においてもほとんど見当たらないハイレベルなものであり、未だにこの作品をヘラクレスの栄光シリーズ最高傑作の座を推す声は強い。~
それまではドラクエのパクリと揶揄されてきた同シリーズの評価を確固たるものにし、シリーズのアイデンティティーを確立した功績から紛れもなく名作と呼べる作品である。~
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**余談
-本作のシステム面の不備に対する批判をスタッフは重く見たのか、次回作の『[[ヘラクレスの栄光IV 神々からの贈り物]]』では徹底的に改善されている。
-また本作のインターフェースへの批判は、転じて本作の次に発売された[[メタルマックス2]]でこれでもかというほどのインターフェースの充実につながっており、結果として知る人ぞ知る存在だったメタルマックスシリーズをRPG史に残る名シリーズへと昇華させるに至っている。
-携帯アプリ版ではメッセージの漢字表示化・グラフィックおよびインターフェイスの大幅な改善・全体的なスピードの向上など移植元の不満点がかなり解消されているが、今度は容量等の都合によりダンジョンやイベントがかなり端折られており、しかもあっという間にレベルが上がってボスも簡単に倒せるヌルゲーと化してしまっている。このため不満を持つファンは多い。