ミッション終了から2時間――。
 フェルト・グレイスは、帰還した全MSの消耗、損傷をチェックし、それらが軽微であることを確認すると、メンテナンス指示を機器に入力。
 それに従って、メンテナンス担当のハロたちが、次のミッションに向けての整備を始めた。
 実際に自分の目と手で確かめたい気持ちはあるが、1人で4機のガンダムを整備することなど出来るはずもない。
 それに、本業は戦況オペレーターだ。わずかに自分の待遇に不満を覚えながらも、フェルトはコンテナルームの外へ足を向け――一旦、振り向いた。
 視線の先にはグリーンの装甲に身を包んだガンダムが、眠るように横たわっていた。

 途中、気づいて、ブリッジに待機に入ることを告げる。
「早く帰ってきてねー」の、クリスティナの声ににこりともせずに頷いて、自室に向かった。
 タッチキーに指紋を触れさせ、解錠すると、すでに、先客がいた。
「イヨゥ、オツカレ」
 ハロが一体、ベッドの上でコロコロ転がっている。
 だけど、それだけじゃない。なんとなく違うのは、わずかな匂いか、空気の流れか、それとも気配か。
 いや、分かっている。ここの鍵を開けられるのは、自分か、マスターキーを持つスメラギか、あるいは――。
「おつかれさん」
 不意に耳元で囁き声が。反射的に逃げようとした手が、つかまれた。力は全然強くないのに、逃げられない。
 睨んだその先には、どこかに鋭さを秘めた、なのに軽い笑顔。
「ロックオン……」
 つい、視線を逸らしてしまう。そんな仕草に、彼の――ロックオン・ストラトスの口から苦笑が漏れた。
 それでなんとなく頭に血が昇り、責めるような口調になってしまう。
「ミッションを終えたパイロットの仕事は、休むことでしょう」
「だから、休みに来たのさ」
「……意味が違う」
「なに、たいして疲れちゃいないさ。なにせ俺は、半分しか働いてない」
 その声に応じて、ハロがくるんと横回転。
「ハロ、ハタライタ。ハロ、ハタライタ」
「おう、ごくろうさん。な? あいつが回避を受け持ってくれているもんでね。助かってる」
 手を握っている力が、わずかに強くなる。感謝の気持ちをそれで伝えようとするかのように。
 だけど本当に、あれは役に立ったのだろうか? 気を使ってくれているんじゃないだろうか? だから、
「……ちゃんと、よけられた?」
「デュナメス、無傷だったろ?」
「うん……」
「だからその半分は、お前さんのおかげでもあるさ」
「あ……!」
 横を向いていた耳に、不意にキスをされた。無愛想で通しているはずの自分の顔が、赤く染まっていくのが分かる。
 嬉しい気持ちになるのは、キスのせいか。それとも、彼専用のハロに打ち込んだ回避プログラムが褒められたせいか。
 多分、その両方だ。
 戦場から遠く離れて、ただ安全を祈るだけの自分にも、彼の手助けが出来る。それが嬉しい。
 けれどその想いは口には出せず、顔には出てしまうため、背中を向けて表情を隠してしまう。
 全部お見通しだと分かっているのに、なんでこんなにも素直になれないのか、不思議でならない。
 きっと彼は、いつもの苦笑を顔に刻んでいる。それで余計に振り向けない。ただ、固まるだけで。
 と、彼はそれをいいことに、後ろから両手を回して、逃げるのを封じてきた。
 おざなりに手を解こうとする動きを見せたけど、実効力はまるでない。
 回された腕に、力なんか全然込められていないのに、首回りと背中から伝わる体温が、動きを封じる。
 生きている彼の体温に、ほっとする。
 身を、委ねてしまう。
「フェルト」
 名前を呼ばれた。
 もうだめだ。そんな風に囁かれたら、振り向いてしまう。そして近すぎる彼の顔に、瞳を閉じて。
 見えなくなった代わりに、唇が触れて、その存在を示してくれた。
 背中よりももっと熱い体温が、直に伝わる。
 もっと近づきたいと、互いに唇を吸って、もっと触れあいたいと、深く唇を交える。
 不意に舌が触れあう感触に、体が跳ねた。いつになっても慣れない、鋭敏な感覚。きっと彼はまた苦笑を浮かべている。
 少しくやしい。でも、離れられない。舌の裏側を撫でられ、腕の中でただ身悶えをする。
 こちらは臆病にそっと触れあわせるのがやっとなのに、向こうはそれをいいことに、口中に押し入ってくる。
 歯茎をなぞられ、上顎をくすぐられ、熱い唾液が流れ込んでくるたびに、喉の奥から胸を通じて熱が駆け上がってくる。
 きつく閉じた足の間からも。
 突き上がる衝動に、体が自然とくねるのを、どうにも止めることが出来ない。 
 絡んだ舌が吸われると、彼の中に自分が取り込まれそうな気分になる。胸が震え、じわりと幸せが疼きをあげる。
「ん……ふぅっ……、はぁっ……」
 一分ほどもそうしていただろうか。ようやく唇が離れた。
 濡れた瞳の向こうに、ロックオンの顔がぼやけて見える。
 首筋にすがりついてしまうのは、彼が消えてしまいそうに思えたからだ。
 息を整えながら、彼がそこにいることを感じて安心し、そしてまた、今以上に彼を求めたくなってしまう。
 これは愛なのか、それとも欲なのか。ただの体の反応なのか、心の動きなのか。
 恋愛経験などほとんどない自分には、よく分からない。
 分からないが、熱く焼けそうな胸を押しつけてしまうのは、その先端が刺激を求めているからだ。
 強く押しつけて、こね回すように円を描く。厚い胸板と衣服のざらつきが、快美を生み出した。
 けれど、これだけではとても物足りない。
「――あっ」
 彼の手が、背筋を滑り落ちる。腰から、脇に。
 脇を揉まれると、めり込む指先から熱が灯るのに、同時に神経がくすぐられて落ち着かない。
 逃れようとする意識が働いて、尻がくねる。その動き方がなにか淫らでいやらしいと、自覚してしまう。
 羞恥に今さら顔に血が昇るけれど、その尻の動きが止められた。
 逆の手が、柔肉を包んで揉み込んでいる。
 大して感じる場所ではないけれど、肉をつかまれるたびに、対抗するように筋肉が締まる。
 その動きが、股間にも響く。うっすらと湿っている割れ目の肉が、擦れあってしまう。
「やぁ……」
 なんて、否定する声を上げているのに、腕はますます強く、彼を抱きしめる。
 尻に回された手が、それを後押しした。待ち受けるのは、彼の太腿。
 足の間に潜り込んできた太腿が、股間を押し上げる。後ろから押されて、前からも押されて、挟みこまれて、逃げ場がない。
「あ、んっ……」
 声が殺しきれない。半分身体は浮かされ、体重がもろに掛かって、滑り落ち、持ち上げられ、擦られて、跳ねて。
 分かる。自分の奥から、熱い液体がじゅわっとにじんで、肉の狭間から溢れ出すのが分かる。
 それが心地良くておかしくなりそうになる。
 恐くて胸に手をついて逃げようとすると、尻肉の狭間に指が潜り込んで、「やぁっ――だぁっ……」こらえきれず、しがみついてしまう。
 彼が、喉の奥で笑った。
「かわいいな、お前さんは」
 沸いた怒りが、一瞬で雲散霧消する。ずるいっ……!
 また脇腹を揉まれて、体をくねらせてしまい、それがまた股間への刺激になってしまう。
 もう、だめだっ……このまま、いっそ……。
 そう視線で訴えて、キスを求めて半ば瞳を閉じると、
「オフタリサン、アツイネェ」
 ――!!
 思わず、全力で突き飛ばしてしまった。壁に後頭部の当たる、ゴンって、いい音が。
「ったぁ……」
「あ、ご、ごめん……。でもちょっと待って! ハロ! スリープモード!」
「アイヨ、オヤスミナサイ」
 ハロの目から光が消えた。
 ……危なかった。いや、見られてもどうということはないかもしれないが、何かの拍子にデータが漏れたりしたら、どうなるか。
 ハロの口をこじ開け、ここ一時間の映像記録を消去。それでようやく、ほっとする。
 それにしても、子供みたいな取り乱しようだ。こんなことで、我を忘れて、見られていたことに気づきもしないで……。
「こーらっ」
 脳天に軽いチョップ。振り向いたら、苦笑を浮かべたロックオンが。
「そりゃないだろ。俺みたいないい男をほうっておいて、ハロいじりかい?」
「あ……でも、困る」
「見せつけてやりゃよかったのに」
「そんなわけ……」
 消え入るような声で言い訳すると、彼はハロを軽くつついて、ベッドの向こうに落とし込んだ。
「さて。中断して気が削がれたことだし――」
 え? 思わず、視線に不安を載せてしまう。
 と、彼はニヤリと、意地悪げな笑顔を作って、肩を軽く押す。
 もつれて、さっきまでハロがいたベッドの上に、尻餅をついた。
 横顔に、手が掛けられる。強制された視線の先に、標的を捕捉した、鷹のような不敵な目つきが。
 その名前の通りに、私を捕らえて、逃がさない。それ以上に、私自身が逃げたくない。
「仕切り直しといこうか」
 なにもかも、見透かされている。
 だから、仕方ない。
 迫ってきた顔に合わせて、瞳を閉じて、心持ち顔を上げて。キスからやり直すしか、ないじゃないか。
 軽く唇に。すぐに頬に、顎の横から、耳元の付近。そのすぐ後ろ。
 転々と、彼の唇の後が、辿った後に残されていく。わずかな吐息さえ、性感を刺激して止まない。
 ファスナーが下ろされ、隙間に手が滑り込んできた。
「んっ……く」
 やや強めに。シャツと、ブラと、二重の防壁を撃ち抜くように。
 今までただ擦りつけるだけで、ろくに触られてなかった胸肉は、たちまち熱く溶けていった。
「しかしま、十四才とは思えないよな」
「……うるさい」
 彼はいつもそういう風に、胸のことをからかう。べつにどうでもいい。
 確かに年の割には大きいかもしれないが、クリスもスメラギさんも、似たような大きさだ。
 けど、どうでもいいはずなのに、指摘されると気になる。
 年齢相応な大きさの方がいいのだろうか? 彼の好みとしては。……そんなこと聞けるわけないけど。
「あっ……!」
「余計なこと、考えていただろ?」
 正確に、ピンポイントで私の胸の先を、指で押し込んでくる。そのまま、肉の中に埋め潰すように円を描く。
「ちょ、ちょっと……」
 否定する口とは裏腹に、もっと強くして欲しいと、胸を突きだしてしまう。
 と、逆の胸も。親指でぎゅうっと。強く深く押し込まれて、「っあ~~~~っ!」変な声が、出るっ……!
 ドクンッ、って、なにかが溢れた。
「ふぁ……」
 力が抜けて、寄りかかって、抱きかかえられてしまう。いいようにされたのが、くやしいのに。
「相変わらず、ここが弱いな。お前さんは」
「うるさいっ……」
 力の入らない指で、軽くつねってやった。

 落ち着かない息が、髪が撫でられるたびに、少しずつ静まっていく。 
「しかしさ、この服どうにかならんの?」
「……変、かな?」
「脱がしにくい」
 あまりにも正直すぎる物言いに、返事に困る。センスのこととか、似合うかどうかとかを聞き返したつもりだったのに。
 けど、確かに脱がしにくそうかも。メンテナンスをすることもある都合上、全身を覆うのは避けられないのだけれど。
「出来ないだろ、最後まで」
 だから、正直に言わないでほしい。
 返事の代わりに、自分で脱ぐことにした。長手袋を、片方ずつ。ついで、ロングブーツ。
 なんとなくおちつかなくて、いつもより脱ぐのに手間取る。
 彼が楽しそうに眺めているので、背中を向けてやった。
 ベルトを外して、つなぎを丸めるように脱いで……っ!
 振り向いて睨んだが、「ん?」と、素知らぬ顔。この状況で背中をなぞるのなんて、一人しかいないのに。
 あとは、シャツと、下着だけ。けど今さら、なんでかためらってしまう。さっきのいたずらのせいだろうか。
「さぁ、おねーさん、どんどんいこうかー」
 枕を顔に投げ付けた隙に、シャツを脱いだ。あまりかわいげのない下着だったことに、少し後悔する。
 ……作戦行動、終了直後に求めてくるなんて、予想外だったし。よく考えたら、シャワーさえ浴びていないのに。
 いいのだろうか、これで。
「なに今さら照れているんだ?」
 あ……。ちょっと違う。けど、背中に手が回されると、どっちでもどうでもよくなった。
 手慣れた様子で、ホックが外される。……最初から、手慣れた様子だったけど、どこで誰相手に慣れたのか。気になる。
 それとも、ただ器用なだけだろうか。
 そんな風に、余分な思考に気を散らせようとしても、胸を露わにするという羞恥には、まだ、ちょっと抵抗がある。
 つい、両手で挟むようにして隠してしまうが、それもまたボリュームを強調するようで恥ずかしい。
 1本ずつ、腕が外される。ことさらゆっくりと。抗議するように上目で睨むが、それも彼の苦笑を誘うだけ。
 ブラからも腕からも解放された胸は、籠もった熱を大気に発散していた。
 けれど集まっている血流は、相も変わらず先端を固く尖らせている。
「いい眺めだ」
 うるさいっ。また、反射的に隠そうとした手が、止められて、押し倒された。
 体の上で、脂肪の塊が弾む。宇宙だと軽いけど、地上にいたときは、邪魔で重くて仕方がなかった。
 それが、「んっ……」彼の手で、揉みしだかれる。
 直接触られると、彼の体温が、掌のざらつきが、それぞれダイレクトに感じられて、こう――もう、なんて言うべきか、「だ……んふぁっ……」分からなくなる。
 リズミカルに、揺するように、そして先ほどよりも強く。ぎゅっ、ぎゅっと力を込められるたびに、熱が絞られて、集まって、「あはぁあっ……」吐息が、止められない。
 まただ。また、先の部分を、そんな強く指先で揉みほぐされたら、「――あっ! ……いぃいっ……」本音が零れてしまう。
「うふぁっ!」
 や、舌、それずるいっ――! あ、あ、あっ……、歯、食いしばっているのに、ダメ、やだ、うあっ。胸、吸っちゃ……こらえきれず、彼の頭を胸に掻き抱く。窒息しろとばかりに。
 そうでもしないと――「ひゃあんっ!」今まで、今までさんざん放置していたクセに、急に、下の方……っ! ショーツ越しに、縦に、筋に沿って擦って、や、ばれる。ばれちゃう。濡れてるのが……あ、や、そんな強く擦られたら、うあっ、足、暴れて――。きゅっ、って。
「っ! くっ…………ああああぁっ……」
 そこ、卑怯っ……、また、浅めに……意地悪をされた。私が本気で満足しない程度の刺激で。
 けれど、そのせいで私は体をまともに動かすことも出来ず、最後の砦の布一枚が、足先から抜かれていくのをただ眺めることしかできなかった。
 あ……やだ、糸引いてる……。しかも気づかれた。……こっち、見ないで。

「それじゃ、本番いこうか。……睨むなよ」
 睨まれるだけのことはしたくせに。けど、裸の上半身がスライドインしてくると、目を逸らさざるを得ない。
 これから先、私は完全に目をつむる。恐いからでなく、むしろその逆に。
 それでも閉ざされた目蓋の上に、影が被さるのは分かるのだけど。
 頬にキスが来て、軽く胸がつつかれて、お腹の辺りを優しく撫でられてから――そっと、足が開かれる。
 全部見てる。見られている。濡れているのが分かるのに、よりいっそう溢れ出している気がする。
 完全に無防備で、まるで子供みたいで、でも、大人の喜びを知っている、私の女の部分。
 そこに視線が突き刺さると、逃げ出したくなる衝動に駆られる。
「――っ!」
 指が、入り口の辺りに触れて、そっとほぐすようにそよぐ。とろっとした私の液が、かきまわされて、塗りつけられて。
 少し、指が入ってくる。どうしても排除しようと締め付ける動きを自制することが出来ない。
 足も、拒もうと閉じる動きと、受け入れようと開く動きとが、交互に働いて。
 けれど、上の部分の敏感な尖りが、彼の標的と定められると、もうっ――「ふあぁっ!」
 親指が、どうしても感じてしまうその部分を抑えながら、同時に別の指で割れ目をなぞられると、少しずつ少しずつ、深く指を受けいれてしまう。 
 先のように、強く、私を高ぶらせるのではなく。じわりと熱で溶かすように。
 柔らかくほぐれていくのと、いっそう潤いが増すのと、両方を強く自覚した頃に。
「いくぞ」
 指よりも、もっとはるかに熱いものがあそこに触れて。頷く間もなくゆっくりと、私の中に侵入してくる。
 彼自身が、深い穴を広げるように、探るように。襞の一つ一つが擦られて、さざ波のように官能を湧かせる。
 少し進んで、戻って、意地悪するみたいに私の中をゆるやかに蹂躙するのだけれど、それも未成熟な体を開かせようとする行為だと分かっている。
「く、ぅ――」
 ほら、体が逃げる。心地よさは確かにあるのだけれど、受け入れがたい反応もどこかにあって。
 恐くてシーツをきつく握る手に、彼の手が重ねられた。指が組み合って、安堵を与えてくる。と同時に、逃げられなくもなる。
 まだ、慣れきっていなくて、彼を拒んでいる奥の固い肉が、ぐっと――。
「ああぁっ――!」
 全部、満たされた。
 ほぅっと、安堵のため息が漏れる。詰めていた緊張が解かれてゆく。
 とくんと、奥からあふれでてきた蜜が、彼と私との繋がりの潤滑油になる。
「平気か?」
 強がりでなく頷けたのは、肉が満たされるの以上に、心の奥も、深く満たされたから。
 男は女に対して支配欲を覚えるって言うけど、私は、こうして、彼に支配されていることに喜びを感じる。
 体の中央を貫かれて、まったく動けなくて、組み伏せられて。
 それが、彼のものになっているという事実が――幸せ、なんだ。
 ここまで来て、ようやくほんの少し私は素直になる。
「いいよ、動いて」
「ああ」
 緩やかな律動が始まった。
 引き抜く動きが、襞の一つ一つを引っ掻いていって、絡みついた肉が剥がれて、それがたまらない。
 逃がさないように無意識に足の間に力が籠もって、そのせいでよけいに摩擦が強くなって。
「あ……」
 彼のものが私から離れかけて、不安に声が泣いた瞬間、
「――っ!」
 今度は力強く、私の中に押し入ってくる。「あっ、あぁ――っ!」軽く、達する。
 けれど今度は止まらない。私の中が、彼のものでかきまわされ、擦られ、蹂躙される。
 入り口の辺りや、上の部分、時には奥深くでじっと、場所を変えて、リズムを変えて、私をもてあそぶ。
 その度に私の体は、不規則な高波にさらわれるように、官能の波動で翻弄された。
「やっ、やだっ――ストラトスっ!」
 溺れそうな私は、どうしようもなく彼にしがみついて、苦笑が耳元を通り過ぎるのを聞いた。
 なぜだろう。つい、本当に彼を呼ぶとき、名字の方で呼んでしまうのは。
 普段はみんなが、名前の方で呼ぶからだろうか? 私だけ、特別でいたいって思いがあって。
「あんっ……」
 女の子っぽい裏返った声。いつもの声とは、かけ離れた高い声。
 普段、女の子らしさというものに背を向けている私には、とても似合わないかわいい声。
 バカみたいだ。みっともない。これは本当の私じゃない。そう思うのに――、
「かわいい声だな」
 胸が高鳴る。
 うそだ。また私をからかって。そんな思いもあるけれど、嬉しさがそれを上回る。
 少なくとも、こうしている今、私はとても自然に自分でいられた。
 だから、こんな風に、こんな風に女の喜びを感じているのも、私なんだ。
 彼が、ロックオン・ストラトスが、それを見つけてくれた。
「ん……」
 両手を、彼を受け入れるように捧げて、キスを求める。
 身を乗り出そうとした彼は、私の足を抱え上げて、そのせいでより深く、奥まで打ち込まれる。
 胸が重なって、彼の厚い胸板に潰された。
 唇が触れて、これ以上ないほど私達は一つに繋がった。
 目元に触れてきた指が、私の涙を拭う。
 ――知っている。
 私は、この人が好きだ。
 もう一度、唇が重なった。

「あ、ふぁ……」
 律動が、強まった。
 高まった情感が、肉の官能に少しずつ染められてゆく。
 彼自身が、力強く、肉の割れ目を押し開いて、私の体はもっと刺激を求めて、左右にひねるように動いて。
 とろとろに溶けあう肉と肉が、まるで渦を巻くようにして擦れあい、飛沫をあげる。
 いつの間にか私は、ほとんど折れそうなほどにひっくり返されて、真上から掛かる彼の体重を心地良く受け止めていた。
 いやらしく開いた自分の結合部と、そこを出入りする彼のものが見える。
 溢れた蜜は泡だって、お腹の方にまで流れてきていた。
 その上に彼が手を滑らせて、ぬめりを胸にまで塗りたくる。
「やだ、それっ――」
 なんて抗議は聴かれない。そのまま、また胸が揉まれる。下から絞り上げられて、膨らんだ先が、つままれて。
 乳首が強くこねられるのに、ぬめりのせいで、ほとんど痛くない。ただ、鋭いほどの快感が胸から走って――。
「やっ、らしい……っ」
「そりゃなぁ。こんなことしてるんだからなぁ。お前も、すごい恰好だぜ」
 もうっ……分かってるっ。羞恥心が余計に官能を炙った。
「あ……」
 くっと、動きが変わって、私の内側の、上の部分、や、そこ、だめなのにっ……!
 ぐりって、そこ擦られると――、「ひあっ!?」やだ、だめ、く……それ、いじっちゃ、「だめぇっ……!」
 ダメだって言ってるのに、彼の指はいやらしく、その部分をつまんで、愛液を塗りたくる。
 敏感すぎるそこは、指紋のざらつきさえ感じてしまう。やだっ、それ、感じすぎっ……、「あぁんっ!」
 同時に、彼の動きがいっそう早まった。外と内と、双方から責めたてられて、私は混乱の極致に達する。
 もう、わけがわからない。足の間から生じた稲妻が背筋から全身を焼き切るようで、悲鳴が上がるのを止められない。
「や、あ……いぃっ――、い、あ、ああああっ、だめ――、だめ、だめ、だめだよっ……!」
 なにがだめなのか、自分でも分からない。そして当然のように、私の懇願は無視される。
 溶ける。おかしくなる。恐怖にも似た快美が、私の内側を這い上がって、私は暴れた。
 気持ちいいのが、恐くて恐くて、でもそれがとてつもなく――たまらないっ。
 肉が、襞が、細胞の一つ一つが、彼に刺激されて、絶頂へと駆け上がらせる。
 最後に、きつくあれをつままれたまま、深く打ち込まれて――、
「あっ……あああああああああぁっ――!」
 意味のない叫びを発しながら、私は意識を落としていき。
 私の中で脈動する、暖かい流れを心地良く感じながら、吹き抜けてゆく快さに白く染まっていった。

 次に目を覚ましたときには、彼はしっかり身支度を整え終えていた。
「よぅ」
 ――っ。
 今さらながらに赤面して、シーツで顔を隠してしまう。彼の顔がまともに見られない。
 そして自分が全裸ながらも、しっかりと後始末はすんでいることにも気づき、余計に赤面する。
 全部、なにからなにまで、恥ずかしいところも恥ずかしい液体も、見られて、処理されてしまったのだ。
 半分は彼の責任とはいえ。
「平気か?」
 髪の毛に、彼の掌が重なった。素直さを眠りの国に置いてきた私は、嬉しい気持ちを見せられず、顔を隠したまま。
 何か言わなきゃいけない気もするけど、言葉が見つからない。
 どうしよう、と迷っている間に、彼が髪の毛をくしゃりとかきまわし、手を離した。あ――。
「また、後でな」
 行ってしまう。そう思うが早いか、私は立ち上がっていた。
 なにか、ええと、~~~~っ。こういうとき、気の利いた言葉一つ言えない自分が嫌になる。
「あ、の……」
 例の苦笑に、縛られた。言葉が止まって、ただ視線だけが彼に真っ直ぐに向かう。
 私の、私自身でさえ理解していない心が、いくらかは彼に伝わるだろうか。
 そう、願っていたのだけど――。
「フェルト、カゼヒクゾ」
 ハロ?
「――っ!!」
 シーツは反射的に握っていただけで、かろうじて下を隠していた程度。上はもちろん丸裸の状態で――。
 あの苦笑、だからっ!
「……教えてよっ」
「いやぁ、眼福。風邪には気をつけてな」
 投げた枕は、閉じたドアに当たっただけだった。もうっ!
 どうして、彼を前にすると、私はこうなってしまうのだろう。
 それが、余計に私を、暖かいいらだたしさに駆り立てるのだ。


「デュナメスを、リニアフィールドに固定しました」
「射出準備完了。タイミングをデュナメスに譲渡」
「オーライ」
 軽い仕草で、彼が片手をあげる。
 それはみんなに送ったものか、あるいはただのクセか、それとも私だけへのものと考えるのは、うぬぼれだろうか。
 意識の片隅でそう考えはするのだけど、モニター越しのせいか、私はいつもの頑なな自分と表情を取り戻して、口にも声にもその想いは出てこない。
 彼もまた、いつもの調子に――いや、彼はいつだって、自分であり続けている。
 私の前でも、誰の前でも、変わらない、彼。
「デュナメス、ロックオン・ストラトス、出撃する!」
 それを密かに寂しがる間もなく、弾かれたように、フィールドから彼のガンダムが飛びだしてゆく。
 いつもの軽い、深刻さのない表情で、宇宙に向かって駆けてゆく。
 それが余計に、私を不安にさせると、知りもしないで。
「バカ……」
「ん? 何か言った?」
「別に」
 首をひねるクリスの視線を無視して、私はごく小さなため息をついた。
 GN粒子の光の帯が、地球へと向かって流れ、そして消えていく。
 あれが流れ星なら、願い事の一つでもかけるのだけれど。
 願う代わりに、祈る代わりに、私はあの青い星に一睨みくれて、そして目を閉じた。
 目蓋の裏側に、彼のからかうような笑顔が、浮かんで消えた。
 もう……本当に、腹が立つ。本当に……。
最終更新:2008年01月10日 21:22