「ムラムラした」
 耳元で囁かれた言葉に、クリスティナの思考回路は終点の無い迷路状態に陥った。
 ムラムラって、なんて直球な言い方をするのだろう。何故彼の部屋で彼の寝台に寝るはめになったのだろう。何故彼は寝ている私に伸し掛かっているのだろう。そもそもこの現状を生んだ原因とは何なのだろう。
 クリスティナは一連の流れを回想した。
「プログラムが誤作動した。直してくれ」
 そんな依頼が、ティエリアの部屋を訪れたきっかけだった。詳細を問い質すと、次のミッションの対策を練っていたら、急にコンピュータの画面が黒くなり、数式のような文字が羅列したというのだ。
 しかしクリスティナからすれば、それは子供が転んで傷を負ったようなものでしかない。実際プログラムを目にしたら、切り傷どころか掠り傷程度だったので、さっさと絆創膏を貼り付けてやった。
「助かった。に、しても早いな」
「これでもスカウトされた身ですからっ」
 クリスティナは親指を立てると、コンピュータから離れて、後方にある寝台にちょこんと腰掛けた。
 するとそれまでコンピュータの様子を見ていたティエリアが、おもむろに近寄ってきた。上目をやればじっと見つめ返されて、照れくささに肩を縮めてしまったことをクリスティナは憶えている。
 見つめ合いは随分続いた。ティエリアに突然二の腕を掴まれたクリスティナの体勢が、ゆっくり崩れるまで続いた。
 回想終了。さて。
(原因って、私? ……)
 冷や汗が額に流れる。そうだ。仮にも男性の寝台に、考えなしに腰掛けた自分こそが原因だ。大体にして他に見当がつかない。
 ティエリアがあんなことやこんなことやそんなことをする為に、クリスティナを部屋に呼んだとは思えない。というより、有り得ない。
「あ、あのティエリア? 私、別にム……ムラムラ、させるつもりは……」
 クリスティナは、カーディガン越しにティエリアの肩をそっと押した。
「だけど、そう思わせた」
 手が静かに払われる。
「で、でも」と、まごついた唇に、柔らかい感触が降りた。クリスティナは驚いて、きゅっと目を瞑る。
 一、二回、擦り合わせるだけの口付け。回数を重ねるごとに、ついばむようなものに変わった。
「んっ」
 ティエリアの舌に下唇をなぞられて、クリスティナは肩を竦める。
「ティエリア、あの本当に、やる……の?」
「やる」
 潔い、かつ簡潔な返答だった。
 クリスティナは、改めて強く唇を奪われる。ティエリアはクリスティナの唇を吸って、歯で弱めに噛んでくる。それから口内に舌を押し込んできた。
「――……っふぁ」
 少し息苦しくなって、クリスティナは口を大きく開けた。舌が絡む。混ざり合った唾液が、口の中にだんだん溜まった。唾液が口の端から零れそうになると、クリスティナは慌てて喉を起伏させた。
(手慣れてる、感じがする……)
 熱り始めた頭の中で、クリスティナは思う。だって角度を変えての口付けを受けながら、同時に衣服も脱がされているのだ。この手際の良さは、経験が無ければ成せないだろう。無くても、ティエリアならやってのける気もしたけれど。
「うわぁー……」
 クリスティナはすーっと深く息を吸って、吐く。裸を男性に見られるのは久しぶりだった。強いて加えるなら、見られた回数も指折り数えられる程度である。
「き、筋肉あるんだ。結構」
 カーディガンとシャツは既に脱いで、眼鏡を外しているティエリアの腕を触ってみた。予想以上に筋肉質(アレルヤやロックオンには到底及ばないとは思うけれど)だ。
「お前は胸が大きいな」
「そう、かな」
「ああ」
 乳房にティエリアの指が当たった。ふにふにと凹ますように揉まれる。その度に乳房は、ティエリアの指を見え隠れさせる。
「柔らかいし、形もいい」
「あっ」
 手のひらで乳房を大きく掴まれて、クリスティナは足のつま先を伸ばした。こねられる。胸の突起がティエリアの手のひらに触れて、じょじょに硬くなる。その上にティエリアの舌が滑った。
「あっ、んぁ」
 生温い温度が突起を包む。吸われてクリスティナはびくついた。少しの痛みを感じる。けれどじんわりと肌に広がる頃には、その痛みは変な痺れと化している。
「ひぅ……」
「気持ちいいか?」
 ティエリアって結構意地悪だ。けれどクリスティナは、文句を垂れはしなかった。彼から受ける愛撫に、感情を揉み消されてしまうからだ。手のひらで揉まれて、舌で舐められて、それを交互に繰り返される。
「ん、んぁ……あぁっ」
 乳房だけではない。舌は時折鎖骨に這うし、手は脇腹のくすぐったい場所を擦る。
「ひぁっ……あ、それ、やめてっ……」
「どれ?」
「その、あのね、胸を」
 説明している自分がとても間抜けに思えて、恥ずかしい。ティエリアが真面目な顔でこちらを見下ろすので、ひとしおだ。
「強く押してから、弱くもむ、のを……あぁっ」
 言っている傍からそれが自分の身体で再現されて、クリスティナは膝を立てた。全身の皮膚が汗ばむ。特に下っ腹と、足の付け根に高い熱が籠った。
「ひっ、あ、ティエリアっ……」
 クリスティナの身体の変化を察したかのように、ティエリアの片手が下がり始めた。前座として承知の上だったが、やはり驚く。
「あっ!」
 秘部に、ティエリアの指が割って入る。くちゅ、と上がった粘着質な音に、感じていること、濡れていることをクリスティナは思い知らされた。
「見るから」
 ティエリアは言って、顔を引っ込めた。
 「うん……?」と曖昧に相槌を打ったクリスティナだったが、足の付け根がつっぱって開かされてゆく感覚に、目を丸くした。
「やっ、やだ」
 恥ずかしい。恥ずかしい。ひたすら恥ずかしい。
 クリスティナは今、秘部全体をティエリアの目に晒しているのだ。
「今更なんだ?」
「だって、だって」
 別に、秘部を男性に見られること自体は初めてではない。しかし経験が浅いゆえに、抵抗が大きい。
「言っておくが止めない」
 ティエリアの息が秘部にかかる。次にぬめった彼の舌が、肉ひだの表面を這った。
「やだっ、やぁっ、いやあっ」
「嘘つきは嫌いだ」
 ぬめりはじょじょに内側に潜り込んで、上下に往復する。
「ティエリア、そこ、汚いっ、汚いからっ……」
 クリスティナは必死になって制止を訴える。しかし身体は正直だ。秘部からは、とろとろと蜜が流れ出ていた。果てなど無いくらいに溢れては、周りをぐっしょり濡らしてゆく。
「ひっ、あぁ」
 ティエリアの舌が、蜜に唾液を上塗りする。クリスティナははあ、はあ、と大きな吐息を途切れ途切れに零した。息苦しい。
「ひゃあんっ」
 一頭強い刺激に、クリスティナは背中を反った。秘部の上にある蕾に、ティエリアが唇を押し当てたのだ。
「あぁっ、ひぅっ、んあぁっ……恥ずか、しいっ……」
 舐めて吸って絡めてと、集中的に蕾を攻められた。まるで最初に交わした口付けみたいだ。けれど感じ取るものは、天と地に等しい。
「ひゃっ、あ、あっ――」
 クリスティナは軽く昇りつめた。ティエリアの舌が蕾を解放しても尚、余韻で膝ががくがくと震える。
「え? また、あぁっ」
 そして行為はまだ終わらない。ティエリアの指が、膣の口をつついた。蜜で濡れに濡れたクリスティナの秘部は、彼の指を容易に膣内へと招き入れる。ぱくりと飲み込む。
「ん……うぅっ……」
 長い指が肉壁に触れて、離れる。ティエリアが率先して動かしているのではない。クリスティナの中が、勝手に伸縮しているのだ。
「もういいな。充分だ」
 慣らす必要は無いと判断したのだろう。ティエリアの指が抜かれた。その口許には微かな笑みが乗っている。
 綺麗な人だ。
 場違いなことをクリスティナは思った。

「ティエリアも、こ……こんなになるんだ、ね」
 目をやった先にあった”もの”に、クリスティナは少し怯えた。
「当たり前だ」
「う、うん」
 いれるんだ。
 物凄い緊張感が寒気となって、クリスティナの背筋を駆け上がった。
「ひゃ……」
 膣の口より僅かに奥のところまで、肉棒が入った。生き物のように脈打っている。
「怖いか?」
 ティエリアはそれ以上進まずに、クリスティナの湿った前髪を撫で上げて訊く。
「怖くない……」
「本当に?」
「怖いです……」
「そうか。……なら努力はしよう」
 思考するように途中間を空けて、ティエリアは言った。
「ひっ……あっ」
 ティエリアの肉棒がゆっくりゆっくり、膣に収まってゆく。熱くて、太くて、硬い。肉壁を擦られる度に、熱い血が結合部から湧き出て、足の付け根まで沁みた。
「あぁっ、ティエリアっ……あっ」
「少し、力を抜け」
「どうやってっ、え」
「悪い。きつい」
「やんっ!」
 いきなり肉壁を強く擦られて、クリスティナはシーツを握り締める。肉棒が一気に、膣の奥に侵入してきたのだった。更にそのまま肉棒は揺れ動き始めた。
「やぁ、あぁっ、そんなとこま、でっ」
 深いところから浅いところまで、大きく擦られる。
「あっ! そこっ、だめっ、ぁっ……」
 クリスティナの弱い箇所に、肉棒の先端がごつごつと打ち当たる。止めて欲しくて、クリスティナはティエリアの二の腕を引っ掻いたのだが、彼は眉をひそめただけで止めない。その代わりか、手のひらを握り合わせてくれはした。
 肉棒が擦る角度を変えた。激しく突き上げられて、クリスティナは喘ぐ。けれど気持ちが好い。先ほどまで恥ずかしいばかりだったのに、今は全てが気持ちが好くてならない。
「ひっあ、ああぁっ……――!」
 クリスティナは、意図した訳ではなかった。だが膣内が締まり、続けてティエリアの肉棒が中で大きく脈打ち、膨らんだのは確かだった。
 クリスティナのまな奥で、真っ白な光が弾ける。下腹部に熱い液体の存在を感じ取ったのは、そのあと、やや経ってからだった。異物感もある。クリスティナははっとした。
「あ……ごめんなさい……」
 つまり、中に。
「我慢出来なかった俺が悪い」
 言って、ティエリアは腰を引いた。膣から異物感が消え、幾らか楽になる。
「何かあれば責任は取る」
「う、うん」
 クリスティナは上半身を起こした。全身が重ったるい。足の付け根から膝の感覚なんてまるで無い。
「あのー……ティエリア、聞きたいことがあるんだけど」
 手を動かして気づく。まだティエリアの手と繋がっている、自分の手にだ。嬉しくなって、クリスティナはぎゅっと彼の手を握った。
「なんだ?」
 喜んでいる場合ではない。クリスティナは慌てて口を開いた。
「ティ、ティエリアは……」
 唾を飲んで、ティエリアの顔を覗き込む。真剣に訊いた。
「女の人がベッドに座るとムラムラする体質なの?」
 男にこめかみをぐりぐりと甚振られたのは初めてだった。
最終更新:2008年01月10日 22:02