「……あの~」

 気まずい、空気が重い。
 生きている心地がしないと言うのは言い過ぎとして、食事をする雰囲気ではない。
 自分が今何を食べているのかさえ分からなくなってくる。
 向の席で淡々と食事をしている刹那とティエリア。
 前々から思っていたが、本当にこの二人はギスギスしているというか何というか……
 とりあえず、この空気のまま食事なんてしたくないので、クリスティナはあくまで笑顔でまずティエリアに話しかけた。

「なんだ?」
「え、えーっと……こ、これ美味しいね?」
「いつもと変わらない」
「そ、そう…………」

 会話が終わってしまった。
 クリスの問いかけに即答かつ一言で返し、ティエリアは食事を再開。
 二人きりの時は少しマシになるけど、どうしてティエリアは会話しようとしないんだろう。
 クリスは狙いを刹那に変えることにした。
 フェルトから聞いたとおりだと、刹那もまたティエリアと同じで、二人きりの時でもあまり喋ろうとしないらしいけど。

「刹那、嫌いな物とかあったら食べてあげるからね?」
「そんな物はない、以前も言っただろ」
「そ、そうだったね」

 また会話が終わってしまった。
 どうやらこの二人は自分と会話する気もないらしいと、クリスは直感的に感じた。
 こんな時にロックオンやスメラギさんがいれば、何かしらのフォローやツッコミを入れてくれるところなのだが……世の中は非情である。
 前方の二人をチラ見しながら空気が重い食事をクリスが取っていた時、刹那が急に立ち上がった。
 クリスは少し驚き、ティエリアは手を止め横目で刹那を見る。
 食器が空になっている、刹那が先に食事を終えたようで、足早に食堂を後にしようとしていた。

「……ごちそうさま」

 ロックオンの教育もあってか、刹那って礼儀は正しいなぁとクリスは思った。

「また、フェルト・グレイスの所か?」
「何処でもいいだろう」
「フ、それもそうだ、俺には関係ないか」

 刹那は黙って食堂を出る。
 最後の二人の会話で、この場の空気が更に悪くなった気がしてクリスは大きなため息を吐いて、手を止めた。

「はぁ、ごちそうさま……」
「もう食べないのか?」
「うん……もう食欲もなくなっちゃったから……」

 食べ掛けが残っている食器を持ち立ち上がろうとしたクリス。
 しかしティエリアに腕を掴まれて、持っていた物を置きティエリアを見上げる。
 無表情で見つめられると、顔が熱くなって、自分が赤面していくのが分かるようだ。
 いつ見てもティエリアは同性だと思わせるほど綺麗な顔をしている。

「だめだ、食事は取れ」
「……誰のせいで、食べれなくなったと……」
「食べられる時は食べておいた方がいい。この艦も、いつ敵に発見されるとも分からない。食べられないと言うなら俺が食べさせてやる」
「え?」

 思いがけない言葉がティエリアから出た。
 まさか、まさか、『あ~ん』でもする気だろうか。
 正直、それはないだろうとクリスは思う、いや確信に近い。ティエリアがそんな事するはずない……
 しかし、それはあくまでクリスが思った彼の行動パターンである。
 それをクリスは身をもって思う事になる。
 ティエリアは徐にクリスの食べかけのライスを一口食べる。
 この時点で間接キッス……そうクリスは思っていると、不意にティエリアの顔が近づいてきた。

「え……んッ!」

 両頬に彼の手が触れ、唇が重なった。
 それと同時に何かが口内の中に入ってきた……いや入れられた。
 それも、舌の感触の他に何か別な物の感触がする。
 思わず飲み込んでしまったのだが、入れられたのは先ほどのライスだと分かった。
 まさか、口移しとは……ある意味あ~んより嬉し恥ずかしなティエリアの行動に、クリスは自分の顔が相当熱く、また真っ赤になっているのだと感じた。
 まさしくそのとおりで、赤面しているクリスを見つめながら、僅かながらにティエリアは微笑んだ。

「トマトみたいだな」
「そ、そうさせたのは、ティエリアじゃない」
「こういう食べ方は嫌いか?」
「別に嫌いじゃ…………むしろ好き、かな」

 少女のように微笑むクリスの唇と自分の唇を再び重ねる。
 数回噛まれた食べ物が口内に送られ、そのまま流し込むように飲む。
 その際、ティエリアの唾液もクリスの口内に送られた。
 食べ物を飲み込むと、クリスは舌をティエリアの舌と絡め、唾液を彼の口内に送る。
 クリスの口の端からは唾液が一筋流れ始め、唇が離れても銀色に光る糸が二人を結んだ。

「次いくぞ」
「うん……んッ……んんッ」

 そして再びティエリアの口移しによる食事。
 その度に二人は舌を絡めあう。
 これでは何度もディープキスをしているのと変わらないが、そんな事は二人にとって特に気にする事でもない。
 気が付けば、食器の上は空になっていた。しかし二人はキスを続ける。
 もう食事なんて関係ない、二人はお互いを求めるだけ……

「ティエリア、次のミッ……ッ! すまない、続けてくれ」

 そして、またとんでもない場面に出くわしたアレルヤがいた。


 ちなみに、何かあったのか……しばらくの間エクシアのコックピットの中で体育座りになってちょっぴり泣いている刹那を、彼をこんなにさせた原因であるロックオンがずっと宥めていたそうな。


〈終わーり〉
最終更新:2008年01月10日 22:10