r :このビデオレターは護民官または、護民官補の調査と面談を通過した、養子受け入れ希望のご家族しか見ることができない
#3飛行機を持った男の子
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「びでおれたぁ?」
その男の子は私の言葉をまねるとビデオカメラの方に手を回してきた。
画面いっぱいに手が映る。
慌てて男の子からカメラを離すとなんとなく不満そうな顔をしている。立ち上がり、カメラを取ろうとするも私の身長には届かない。
「……」
しばらくするとあきらめたのか、男の子はさっきまで遊んでいた飛行機のおもちゃで遊び始めた。子供にしてはあきらめが早いような気もした私はおもちゃを買い与えたくなりつつも、ただ、その場限りの親切はただの自己満足だと思い、ぐっと踏みとどまった。
男の子はそんな私の内部での葛藤も、先ほどまで興味を持っていたカメラにも目をくれず、飛行機で遊び始めた。
飛行機をブーンと手で動かし、そしてまた動かす。友達がいないのか、それともまだそういう気持ちになれないのか? ただただ、飛行機を動かす。
男の子の飛行機のおもちゃを見ると少しコゲており、どことなくみすぼらしくも見える。しかし、男の子にとっては唯一の持ち物であり、大切な飛行機である。
施設の職員に聞いた話によると男の子が助け出された時はただ手に飛行機のおもちゃを持っていただけで他になにも荷物がなかったらしい。小さいゆえにどこの家に住んでいたかもわからない。両親がどうなったのかもわからない。
私は仕事一筋で生きていた人間である。家族もいない。独身生活を気ままに生きているだけである。しかし、こういった現場でカメラを手に持った時、自分の孤独さを思い知る。
もし、家族がいれば、そう里親になれたかもしれない。知り合った子供一人一人を助けれたかもしれない。私がこの男の子を引き取ったとしても昼間はあのアパートの一室に一人でポツンといるというただそれだけになるであろう。それはココにいるのとさして何も変わらない。
ただ世話をしてくれる人がいるだけココの方がマシである。私がこの男の子にできることは何もない。何もできない。
しかし、私の仕事は伝える事である。伝える事で誰かがこの男の子やこの施設にいる子供達を助けようという想いを持ってくれれば……。
そして、私にできることは……男の子が飛行機で遊んでいる姿をカメラの中に撮り続ける事だけであった。
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撮影
国民番号:05-00141-01
PC名@所属国:銀内 ユウ@鍋の国さま
最終更新:2009年02月09日 14:05