唐詩選国字解
〔従軍行 楊炯〕 楽府題で、人の従軍をして行くを見て、手前の不遇をいきどをる意がある。
〔烽火照西京〕 此ごろひたもの辺塞に騒ぎがあるに付て、方々に烽火のあいづの火があって、西京の都を照す。
〔心中自不平〕 たれもかも都中のものが気づかひに思ふて、気が落つかぬ。心中不平。
〔牙璋辞鳳闕 鉄騎繞竜城〕 其ゆへに、大将は割符《わりふ》をたまはり、牙璋の旗をたて、辞鳳闕都を出て、辺塞にゆきつくと、鉄騎のよろひ武者が辺塞竜城を二重三重にとりまわして。
〔雪暗凋旗画〕 雪の降るにも旗を立てならべて、軍をするによって、旗のもやうなどもひづんだやうに成た。
〔風多雑鼓声〕 辺塞は風もつよいによって、人数をかけひきする大鼓の声と風の鳴る音が、ひとつになってある。是れ軍兵どもの寒苦をするやうすを云ふ。二句、悲愴である。
〔寧為百夫長 勝作一書生〕 千夫長・万夫長と云ふがあるに付て、百夫の長といへば、わづかな小頭である。漢ニ千|寧《むし》ろこのまぬながらもわづかな百夫の長になったが、此方如き一書生であるにまされるである。なぜなれば、このやうなさわがしいことのあるおりには、百夫長のやうなかるい者でも、辺塞へ行て少の功があると、つが/\と立身をすることがある。この方如きの書生は一向に役にたゝぬ、と云が、当時浮世の乱れたるをそしることである。
唐詩選諺解
〔従軍行 楊炯〕 楽府題で人の軍に従てゆくをみて、手前の不遇を憤る。
〔烽火照西京心中自不平〕 このごろひたもの辺塞にさわぎが有て、方々に烽火のあいづの火があがる、此の火が都をてらすゆへ京中のものが気づかいに思て、心中不平《をちつかぬ》。
〔牙璋辞鳳闕 鉄騎繞竜城〕 牙は将軍の〓なり、璋はわりふなり、そこで、大将に符を賜り、旗を立てて、禁裏を辞し都を出てて、辺塞へゆきつくと、鉄騎のよろいきた武者が竜城を二重三重にとりまわす。
〔雪暗凋旗画 風多雑鼓声〕 雪のふるにも旗を立ならべて、軍をするにゆへ、旗のもやうなどもしぼんだやうになり。辺塞は風もつよいにより、人数をかけひきする太鼓の声と風の音が、ひとつにきこへる。此れ軍兵どもの寒苦のやうすを云ふ。
〔寧為百夫長 勝作一書生〕 千夫長・万夫長と云があるにより、百夫の長と云は、小頭ぐらいのことぢゃ。このまぬながらも寧《いっそ》わずかな百夫長になるが、此の方如き一書生になるにはまさる。なぜなれば、此のやうなときは、百夫の長のかるいものでも、辺塞へ行て少の功があると、つか/\と立身する。この方如き書生は一向に役に立ぬ、と云が、実は乱世をそしるのである。
最終更新:2007年01月18日 00:18