The White Day
地中海に浮かぶ島で生まれ育った私は母の祖国である日本に移住した。
叔母が日本にいるため彼女を頼って来日した。
しかし、私は中学まで日本で生活し再び生まれ故郷に帰る決心をする。
決意を固めてから数日後、母からある話を打ち明けられる。
日本のある男性に母の半生を告げてほしいと言われたのだ。
その男はとあるバーを経営しているらしい。
今宵、眺めのいい夜景を一望できるバーの経営をしているマスターに、母のことを告げに行く。
私は彼に淡々と母の反省を話はじめた。
彼は姿勢を正して、黙って聞いていた。
話を終えても彼は黙って遠くの夜景を見つめていた。
「あの・・・私帰っていいですか?このビルの地下に友達を待たしているので。」
彼の沈黙に飲み込まれてつい私も思いに耽ってしまっていた。
時計で確認すると既に数時間が経っていた。
「あ!まずいよぉー。地下のカフェに友達またしてるし、もう閉店時間過ぎたかも!」
焦る私を無視し、彼はなにやらパソコンの画面を覗き見ながら電話をする。
「お連れ様がこちらにいるので、これから私たちはカフェに行きますのでカフェは閉めて先に帰ってください。」
「お疲れさま」
彼はニコッと笑いながら私に初めて話しかけた。
「地下のカフェも私が経営しているんだよ。君のお連れさまはこの子かい?」
パソコンには彼がつまらなそうに座っているのが映っていた。
マスターは少年のイタズラのような笑顔で言った。
「カフェにはちょっと面白い仕掛けがある。彼のたくましさを拝見しようか?」
マスターは少年のイタズラのような笑顔で言った。
どうやら、カフェはちょっとした仕掛けのため、いくつかのパズルを解かないと内側から鍵が開かないようだ。
「あなたと私の高校時代」
そこには息をはずませ、はずかしそうにチョコレートを渡す彼女がいた。
僕は照れながらチョコレートと手紙を受け取ろうとする。
これは彼女からもらった手紙に添えられていたイラストのイメージ。
バレンタインに、彼女からチョコと手紙をもらい、地下のカフェで待たされ数時間が経過した。
今日まで、僕たちは両思いである事をお互いに承知していた。
しかし、彼女はある決意を持ってこの国を離れる事になる。
僕はカフェで待ちながら、今宵こそバレンタインデーのお返しに気持ちを添えて送るべきだと決心した。
しかし、カフェのスタッフは突然鳴った電話を終えると、そそくさと店をでていった。
僕が、この空間に閉じ込められている事に気づくのに時間はいらなかった。
このままでは彼女に思いを告げることができない。
ドアが開いた。彼女が息をはずませながら雪で白くなった階段を降りてきた。
僕は長い間、両想いという状態に満足し、実際は一度も彼女に心のうちを伝えてはいなかった。
しかし、彼女はバレンタインデーに手紙とイラストの添えられたチョコで僕に想いを告げてくれた。
ただ、残念なのは「彼女が帰国する決意をしたあと」ということ。
ホワイトデーを待てない僕は想いをこめて彼女に「ブランマージュ」を贈った。
彼女は言った。
「私の送ったイラストは実現しないはずの”私たちの高校生活”を描いたもの」
彼女は姿勢を正しながら小さい声で続けた。
「私、決めた。帰国するの止める。今まであなたの気持ちが全くわからなかった。
ただ一方的に私が想っているだけかと。もうあのイラストはいらないね。
だって私たち高校生活を一緒に過ごせるから。」
彼女が立っていた。
「出てくるの遅いよ!地球はまわってるのよ」
彼女はまもなく帰国してしまう。僕たちに残された時間は少ない。
彼女の言葉に僕は心を痛めた。
「なかなか脱出してこないから心配したよ!」
と彼女は一方的に言い放った。
僕はなだめるように言った。
「今日ね。連れて行きたいところがある。このカフェで販売されている「ブランマージュ」。
とてもおいしいチーズケーキなんだよ。
このチーズケーキを作っている方はもともとフランス料理のシェフなんだ。
今夜、二人の思い出のために彼が腕を振るってくれるらしい。
君が帰国する前に思い出を作りたいと思って今日彼に連絡をしておいたんだ。
ちょっと早い僕たちのホワイトデー・・・」
そういうと僕は手を上げてタクシーをとめた。
「シ・サワットまでお願いします。」
脱出した後、僕は彼女にあるものを渡し、思いを伝えた。
あるものとは日記帳である。
彼女は祖国へ帰ってしまうので僕は交換日記をしようと提案した。
彼女から届く日記は僕の知らない異国で彼女が精一杯青春を謳歌していた。
僕は心から彼女の幸せを祈っていた。
しかし、交換日記は数ヶ月で終わった。
僕は数年後、あんな場所で日記帳を見つけるとは思いもしなかった。
最終更新:2007年11月23日 08:43