未来トーク
「先生、坂本様って、実はおいくつなのでしょうか」
咲が突然、仁の茶碗に飯をよそる手を止めて、尋ねた。
「龍馬さんの?どうして急にそんな」
「いえ・・・見ただけでは予想がつかなくて・・・ずっと気にはなっていたのですけれど」
なるほど。確かに龍馬は、一瞥しただけでは一体何歳なのか予測しづらいところがある。
仁はおかずをつつく手を止めて、考え込んだ。
「うーん、そうですね・・・確か龍馬さんは、1835年、つまり天保6年の生まれのはずです」
「よくご存知なのですね・・・坂本様にお訊きなさったのですか?」
「あ、いえ・・・俺が学生だったとき、ちょうど咲さんぐらいの年齢だった頃に、歴史の勉学で覚えたのですよ」
ことりとちゃぶ台に茶碗が置かれる。咲は仁の向かい側に座った。
「まあ、未来の世では、坂本様のことを学ぶのですか!なら坂本様は、歴史に名を残すような、素晴らしいことをなさるのだということですね!」
「ええ・・・ほんの小さな子どもでも知っているような、歴史の大人物でした。龍馬さんは様々な創作物に登場し、龍馬さんの人生でドラマも撮られていたほどです」
「どら、ま・・・?それは何でございますか、先生」
聞き慣れない言葉に、咲は首を傾げる。
だが、仁が未来からやってきたことを信じている咲は、仁が突然このような耳慣れない言葉を口にしても、他の人のように驚きはしなかった。
「ドラマは、劇を映像という動く写真に撮って、何日か間隔で定期的に公開するものです」
「まあ!写真が動くのですか!?それは一体どのようなものなのでしょう!写真の紙の中で、絵が動いているのですか?」
笑って否定しながら、おそらく咲が思い浮かべたのは、ハリーポッターの世界の新聞の写真が紙面で動いている、あのような感じのものだろう、と思った。
「いいえ・・・一家に一台ほどの割合でみんなが持っている、エレキの力を使った、テレビというものがあるんです」
「てれび・・・」
「そのテレビは薄い箱のような形をしていて、画面という面にドラマが定期的に映るんです」
咲は、目を輝かせて仁の話に聞き入っていた。
「まあ言うなれば、歌舞伎のような劇を、歌舞伎座までわざわざ出かけずにとも、家で見れるということです」
「素晴らしいです!ほんとうに奇跡のようでございます。じゃあ、そのドラマの一つで、坂本様の人生を描いた劇を、テレビで見れるということですね」
「そのとおりです、咲さん」
いつもながらに、物分りがよく聡明である。仁は、自分がもし、このようにはるか未来のことを説明されたら、はたして咲のようにすぐに理解できるかどうか、自信がなかった。そして、仁は今まで何度、咲のこの聡明さに救われてきただろう。
「先生、早くお召し上がりになりませんと、おつゆが冷めてしまいますよ?」
咲がにっこりと笑って言った。
「あっ、すみません」
急いで汁を飲み、立て続けにご飯をかきこんで、ごっくりと飲み下した。
最終更新:2011年05月15日 19:46