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WINTRY SKY

 -1- side:tsubasa    


    はじまりは なんでもないようなあの日

    すれ違いの思い出も 甘いささやきもなかったけれど

    初めて出会った君が忘れられない

    ああ この想い この焼けつくような想いを

    君も感じていてくれてたらいいのに



「さすがmerry persons、いい歌い方するんだよねぇ」


 合格祝いに両親に買ってもらったi-podを手に、わたしはすこぶるご機嫌だった。
 それもそう、国立校の進学が決定したとなれば、あとは血眼でラストスパートをかけている都立志望の人たちを尻目に悠々を残りの3学期を過ごしていればいいのだから。

 新しいi-podには、すでに一曲入っている。8人で構成されているグループ、“MERRY PERSONS”のデビュー曲、“Oh, my prince!”だ。ささやかな歌声と雰囲気で青春の切なさを見事に表現したこの曲で、メリーパーソンズはチャート5位にくいこんだ。デビュー1曲目で5位とは、目を見張るものがある。わたし自身も、受験期に何度も励まされた記憶のある、とっておきの1曲だ。


「さて、と」


 のどが渇いたので、公園の近くの自動販売機で何か買おうと、わたしはベンチを後にした。
 2月下旬。1年の中では最も寒いと言われる頃だけど、充実しきっているわたしの心はぽかぽかと温かかった。


「今のわたしって、まさしくメリーパーソン(陽気な人)だよねえ」

「へえ、何かいいことでもあったの」


 心臓が止まるほど驚いた。独り言に思わぬ返事があったのだから。

 思わず取り落としそうになったココアの缶を持ち直しながら振り返ると、そこには白いナイキのキャップをかぶり紺のシンプルなジャージを着込んだ、長身の少年が立っていた。顔は陰になっていて、口元以外よく見えない。


「・・・っ!!!」

「・・・驚きすぎじゃね?・・・まぁいいや、とりあえずどいてくれる、オレも買うんだからさ」

「あ、すいません」


 初対面のわりには随分ずけずけとものを言う。歳はわたしと同じくらいだろうか、白いキャップのふちから垂れている、赤いメッシュの長い前髪が目をひいた。

 少年は黙ってホットの缶コーヒーを買うと、緩慢な動作でこちらを見た。


「ふぅん…今年から帝王に入るんだ?」

「ぶっ…!!」


 抑揚に欠けた声音でさらりと言い当てられ、わたしはすすっていたココアを危うく噴き出しかけた。


「きったねぇなあ」


 呆れた声で少年が呟く。


「とっ、トートツになに言って・・・!つかどうして・・・!?」

「ええ?…それで」


 少年はわたしの胸ポケットを指差した。


「そのハガキだよ。入学手続きのお知らせだろ?ウチにも来てたからさ」

「…うっそ、じゃあ、あなたも今年から入るの?帝王に」

「モチ」


 思わぬところで未来の同級生発見。


「まあ、そのうちよろしく」

「うん」

「じゃあバイバイ、自称お気楽ノーテンキなメリーパーソンさん」

「なっ…!」


 お気楽ノーテンキまでは言ってない、と言い返そうとする前に、彼はするりと去っていった。


「…名前ぐらい聞いておけばよかった」


 去り際、ちらりとキャップの下からのぞいた顔は、鼻筋の通った中性的できれいな顔だった。よくとおる声も、響きのいいアルト。

 まあ、いいか・・・。
 名前ぐらいまた後で、おいおい聞くことになるだろう。


最終更新:2012年01月21日 04:58