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 -2-   side: Tsubasa



「入学早々いじめんなよ、流月」

「いじめたくなっちゃうんでしょ、るーさんは」


 流月爽の背中に、のしっと見知らぬ二人がのしかかった。途端、流月は苦虫の大きいのを噛み潰したような顔になる。


「・・・お前ら」


 信じられない。唯我独尊ゴーイングオンリーマイウェイを絵に描いたようなこいつに、こんな顔をさせることができる人たちがいたなんて。


「それにしてもるーさん。なんなの、入学式のときのアレは。破天荒にもほどがあるって」

「うるせー。だったらお前ら、オレが入学式で小一時間ものあいだ大人しくじっとして話を聞いているところを想像できんのか」

「「想像することすら恐ろしいわ」」

「ナイスハモり・・・!!b」


 わたしは唖然として、この三人の打てば響くような会話を聞いていた。

 二人のうち一人は、伸びるに任せたような長いストレートの黒髪で切れ長の眼をした、流月と同じくらい背の高い少女だった。少女といっても、女らしい特徴はどこにも見受けられず、同じように男らしい流月と並んでいると、まるで男性ファッション誌の表紙を飾るモデルの一対のようだった。

 流月を「るーさん」と呼ぶもう一人の方は、身長157のわたしより小柄な少女で、日本人形のように真っ黒なおかっぱの髪に、同じく真っ黒で大きな瞳、浅黒い肌の印象的な子だった。


「・・・それで?この人は?初めて見る方ですけど、一体どなた?」


 二人のうち背の高い人の方が、わたしに目線をやって流月に尋ねた。


「あー、こいつはな・・・、・・・・・・名前なんだっけ、そういや聞いてなかったわ」


 最悪!!
 わたしはむっとして、代わりに答えた。


「富士間つばさです。流月さんと同じ、一年B組です」

「あ、まじで?私もB組なんだ。あと、このちっこい奴もな」

「ちょっと!ちっこいって言わないでよ!!」

「・・・あなたたちは?流月さんの、友達?あ、それとも幼馴染だったり?」


 後から思い出してみると、初対面の人たちにする質問にしては、ずいぶんとぶしつけだったように思える。わたしにしては珍しく。
 ただ、それだけ、このふてぶてしさ№1の流月と臆することなく接しているこの二人の少女に、興味がかきたてられていたのだ。


「うわ、冗談きついわ。こんな奴と友達でいるくらいなら、核兵器と友情を育んだ方がなんぼかマシだわ」

「るーさんとは切っても切れない腐れ縁なの。小学校から一緒だもんね、ウチら」


 ・・・遠慮もへったくれもない扱いである。
 流月は、ばつが悪そうに咳払いをして、言った。


「あー・・・紹介しよう。この、口と目つきが悪くて、いい加減極まりない髪型をした奴は、佐藤 恵理香だ。そして、こっちのちっちゃくて黒っぽい奴は、小波 真緒だ」

「「おい、なんだその紹介」」

「へええ!佐藤さんと、小波さんか。同じクラスでよろしくね!」


 わたしが言うと、佐藤さんはにっこりと笑った。笑うと、刃物のように鋭利な顔立ちからは想像もできないほど、人懐っこい笑顔になった。


「“佐藤さん”じゃよそよそしいから、“恵理香”でいいよ。私も、“つばさ”って呼んでいい?」

「わあ、もちろん!小波さんは?」

「あたしは、“コナミ”でいい」

「わかった」


 さっそくうちとけてキャイキャイと騒ぐわたしたちを、じわっとした眼で見ていた流月が言う。


「富士間ぁ~・・・オレは?」

「は?」

「オレのことは、なんて呼ぶのー?」


 こころなしか、わたしを見る眼が期待に満ちているような気がして、わたしはわざとらしく逡巡するそぶりを見せながら、


「うーん・・・“流月さん”でよくない」

「・・・ええっ!」


 冷徹に言い放つ。
 その瞬間の流月の顔を見て、こっそりと笑ってから、今の顔をカメラに撮っておきたかった、と思った。まあ、これくらいの意趣返しは許されるだろう。

 あんまりだよぉぉぉ・・・と悶えて拗ねる流月と、日ごろの行いに対する報いだよ、と追い討ちをかけている非情な二人。

 思っていたより、高校生活は楽しくなりそうである。


最終更新:2012年01月21日 05:11