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「はい!今日からお前ら1-Aの担任になりました、波風ナルトだってばよ!教科は数学だ。よろしくってばよ!」


 嵐は突然やってきた。




  1:金色の嵐



 月曜日の朝、ホームルームの時間に、教室の扉をガラガラッと勢いよく開けて入ってきたのは、いつもの見慣れた黒い長髪の担任ではなく、まったく見覚えのない、まばゆい色彩をした青年だった。

 肩まで伸ばされた、少し癖のある金色に輝く髪に、蒼天を切り取ったかのように蒼く澄んだ瞳。
 加えて、左右対称に完璧に整った容貌は、少年のようなあどけなさを残しており、すらっとした体躯は痩せ過ぎずに、全身に無駄のないしなやかな筋肉がついているのが、シャツの上からでも分かった。

 女子たちは突如現れた美丈夫にたちまち色めき立ち、男子たちでさえ思わず顔を赤らめた。


「・・・ちょっと待て。今日から俺らの担任って、どういう意味だ?イタチはどうなった」


 しばし呆然と見とれていた教室の静寂を破って疑問を口にしたのは、学年首位と名高い団扇サスケだった。

 その言葉に、波風ナルトと名乗った青年は、きょとんとした表情をする。


「前任の団扇イタチ先生は、暁学園に転任したってばよ?・・・お前、確か、イタチ先生の弟のサスケだよな?何も聞いてなかったの?」

「・・・兄貴は実家を出て一人暮らしをして久しいからな」

「なんだ、そうなの。イタチ先生が転任したのはおとといの土曜日だったからなあ、急な話だから、確かに何も聞いていなくても当然だってばね。」


 そう言って、にこりと首をかしげた姿に、教室中の誰もが悩殺されたのは言うまでもない。


「てなわけで、急な話だけど、何はともあれよろしくってばよ!何かオレに質問とかあるー?」

「はいはいはーい!!」


 言った直後に、即座にあちこちから手が挙がった。大半は女子であり、気のせいだろうか、目が血走っているような気がする。桃色の髪の春野サクラなどは、すでに内なるサクラの禍々しいオーラを隠す気もないらしい。


(女子、怖ぇぇぇぇぇ・・・!!)


 その姿に、男子諸君は残らず皆戦慄した。


「はい、じゃそこのピンクの髪の、えーと・・・サクラちゃん、だってばね!」

「っっしゃーんなろーー!!」


 真っ先に指名されて、もはや完全なる内なるサクラモードでガッツポーズ。


ナルト先生は何歳ですかーっ!!」

「歳、かぁ・・・いくつに見える?サクラちゃん」

(くっ・・・そうきたか・・・!!)


 この手の質問は、ヘタに答えると相手の機嫌を著しく損なう恐れがある。実年齢より上を答えてしまうと、当然限りなく失礼な上にしばらく気まずい空気になってしまう。かといって若く答えすぎるのもナメてるのかと思われかねない。
 まさにダイナマイト級、恐ろしくハイリスクな質問なのである。
 そんな質問をこいつ、なんの気兼ねも臆面もなしにしれっと口にするとは・・・波風ナルト、侮りがたし!


(落ち着いて考えるのよ、春野サクラ・・・!!伊達にサスケ君と毎回首位争いをしているわけじゃないわ、このくらい落ち着いて考えれば必ず答えが・・・!!)


 しかし物事そう上手くは転がらない。
 悶々と悩んでいたサクラは、ついに考えることを放棄した。


「くっ・・・さては、24歳だな!?」

「大当たり!サクラちゃん、すげーってばよ!!」

「っしゃーんなろぉぉぉぉぉぉ!!」


 げに恐ろしきは女の直感であると、男子諸君が学んだ瞬間であった。


「次!次はわたしよ!!」


 立ち上がったのは、サクラと並ぶ肉食系女子、山中いのだ。


「じゃあ、そこの“髪”のきれいな・・・いの、だってばね!」

「いやぁんナルト先生ったら、“わたし”がきれいだなんて///」


 誰もそんなことは言っていない。


(いのブタ・・・アンタでしゃばんじゃないわよ・・・!!)

(あーらサクラこそ!ナルト先生はわたさないわ・・・!!)


 水面下で己をめぐって密かな女の戦いが繰り広げられていたということを、ナルトは知る由もない。


「ナルト先生はぁ、好きなものとか趣味とかは何ですかぁ?」

「好きなものは、一楽のラーメン!趣味はガーデニングだってばよ」

「きゃああ素敵!!先生、わたしもガーデニング好きなんですぅ!!わたし、家が花屋ですから」

「えっまじで!?今度行ってみてもいいってば?」

「きゃあ、もちろんですぅ!!」


 はしゃぐナルトに、今まで興味なさそうに聞いていた奈良シカマルが、ぼそっと呟いた。


「やめといた方がいいんじゃねえかな・・・“喰われる”ぜ、お前・・・」

「あら、何かおっしゃったかしら、シカマル君?」

「いえ何も」

「遠慮せずに大きな声で言っていいのよ、もう一度言ってごらんなさい?」

「いえ何も」


 シカマルは悟っていた。
 いのが、氷点下の笑顔の裏では、(余計なこと言ってんじゃねぇよブッ殺すぞテメェ)、と言っていることを。


「えっと・・・次、いいですか・・・?」


 おずおずと手を挙げたのは、なんと意外にも、引っ込み思案で内気な日向ヒナタだった。


(えっ、ヒナタ・・・?)

(珍しく積極的ね・・・)

「うん!ヒナタだってばね!」

「えと・・・ナ、ナルト先生は・・・」

「うん?」


 優しげな瞳で、小首をかしげてヒナタを促す。


(頼むやめてくれその顔・・・っ!!)


 この時点で、男女合わせてすでに何人かが盛大な鼻血を噴いてぶっ倒れた。
 もはや凶器のレベルである。


「せっ先生はっ・・・か、彼女さんはいらっしゃいますかっ・・・!!///」


(・・・・・え・・・・??)


 時が凍った。

 ヒナタ・・・?
 ヒナタが・・・?
 この、誰もが最も気になってはいながらなお、厳しい現実およびもはや必然的と言ってもいいほどの自然の摂理である「イケメン=リア充」という絶対的方程式を目の当たりにしたくないの一心で、あえて空気を読んで訊かずに黙っていた、あの質問を・・・!?

 まさか、この、ヒナタが・・・・!!?

 教室中の緊張感が最高潮に達しようというまさにその時、場違いなほど間の抜けた音が、響き渡った。

 きーんこーんかーんこーん・・・・


(このタイミングでかよ・・・!!)


 はたして、これは救われたと言ってもいいのだろうか。


「あ、ホームルーム終了だってばよ。てなわけで、ヒナタには悪いけど、この質問は保留ってことで、みんなのご想像にお任せするってばよ!」


 じゃ、授業がんばってってばよ~、と軽やかに去っていくナルトに向かって、


(一時間目の授業は、お前のだよ・・・!!)


と、突っ込める強者は、この教室には存在しなかった。


最終更新:2011年05月29日 19:37