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 千切れた水平線



 遅くなってしまった。
 シカマルは、内心舌打ちしながら、誰もいない家路をたどる。

 アカデミーから帰って、シカクやヨシノに見つからないように分厚い忍術の本を持ち出し、禁忌の森の近くの誰もいない場所でそれを読むことは、すでに幼いシカマルにとっての日課になっていた。そして、ヨシノが心配し始める前の夕暮れに帰るのだ。
 ヨシノはまだそのことには気づかずに、キバやチョウジたちと遊んできているのだと思っているが、どうやらシカクは気づいているらしかった。
 それでもいい。気づいたところで、どうやらあの親父はシカマルに何かを言うこともなく、ただいつも通りに傍観に徹しているようだ。
 それなら別に、気づいているも気づいていないも同じようなものである。ただ、邪魔さえされなければいいのだ。

 しかし今日は、いつのまにか眠ってしまったらしい。気がつくとすっかり日は暮れて、あたりは闇につつまれていた。


(母ちゃん怒っているな、これ・・・めんどくせぇ)


 ヨシノがひとたび怒ると実に恐ろしいのは、身に染みて分かっている。
 はやいとこ謝ってしまおう、夕飯抜きにならなければ儲けもんだ、と思いながら、シカマルは夜道を急いだ。

 その瞬間、薄ら寒いものが背筋を這い上がった。


(・・・!!)


 これは、殺気だ。


(・・・囲まれた・・・)


 いつの間にか、六人の忍にシカマルは包囲されていた。

 敵の姿は見えていない。しかし、まるで殺気の糸でがんじがらめにされたように、シカマルはその場から一歩も動けなかった。
 動いたら、殺される。
 忍の本能が、そう告げていた。


「・・・おい、おっさんたち。真夏の夜に、そうやっていつまでも潜んでいるのは大変だろ。今夜は暑いし、きっと蒸れるぜ?出てきたらどうよ」


 ポケットに手を突っ込んだ姿勢のまま、不敵に笑んでシカマルは言う。

 音も無く、六人の忍がシカマルのまわりに姿を現した。


「あんたらなにもんだ?・・・まあ、訊かれたって答えないでしょうけどね・・・。狙いは、なんだ?まさか俺ってことはないだろう」

「ずいぶんと肝の据わったガキだ・・・まさかではない、我々の狙いはまさにお前だ、奈良シカマル」

「・・・は、たちの悪い冗談だな、おい。俺なのか?残念ながら、あんたらに狙われるくらいの才能なんてこちとらねぇよ。お引取りください」


 軽口を叩きながら、シカマルの背にはじっとりと嫌な汗が浮かんでいる。
 この男たちが本気なのは、嫌ってほど分かっていた。シカマルに向けている殺気が、じわじわと強まっているのだ。


「・・・とぼけたことは言わないことだ。奈良シカマル、貴様のその類まれなる頭脳、知られていないとも思っていたか?後の脅威となる前に、消させてもらおう」

(まじかよ・・・)

「・・・くそっ!!」


 吐き捨てるとともに、シカマルは一瞬で高く飛び上がった。そして、空中の最高到達点からすばやく六本のクナイを放つ。


「小僧っ・・・!!」


 すべて弾かれる。当たり前だ。相手はおそらく上忍クラス、六人もの相手にたかがアカデミー生一人が太刀打ちできるはずはない。
 それでも、黙ってむざむざ殺されてやる義理はないのだ。


「死ね!!」


 クナイを大量に放たれた。それと同時に、シカマルは一気に影を伸ばして相手を拘束する。

 キキキキィン・・・!!

 影を保ったまま、シカマルは放たれたクナイを弾く。
 無理だ。
 全部を弾ききることなんて、できない。

 シカマルは、己の目に向かってくるクナイをはっきりと捉えた。
 間に合わない。
 どうする。
 このままでは眼が・・・!!

 キィン・・・!!


「っ・・・!?」


 思わず眼をつぶったが、衝撃はいつまで経ってもやってこなかった。
 おそるおそる眼を開けると、そこには弾かれたクナイと、六人の敵忍の死体が転がっていた。


「なっ・・・!!」


 シカマルが目をつぶっていた、その一瞬で、一体誰が。
 唖然としているシカマルの目の前で、死体はぼっと青い火を噴いて、燃え上がり、そして骨も残さずに消えた。


「・・・・・・!!」


 声も出ないシカマルの前に、すたりと誰かが降り立つ。
 右手に、敵忍の持っていたクナイをくるくると回し、ちろりと後ろのシカマルを振り返ってくすり、と笑んだ。

 その顔には、禍々しい狐の面。
 腕に彫られた紅い刺青。


「暗部・・・!そして、狐面の暗部といえば、お前・・・!」


 「奏煉(そうれん)」か。

 吐息のような声で訊くシカマルに、その暗部はふいっと顔をそむけた。

 奏煉。
 忍界最強ともいわれる、木の葉の暗部。
 いままで、どんなにか彼に近づくことを望んでいただろう。
 シカマルが目指していたのは、今も昔も変わらず、彼だけだったのだ。


「ま、待てっ・・・!!」


 音も無く姿を消した暗部に、シカマルは無駄とは知りつつ声をかけた。
 声はむなしく響くばかりで、すでに彼の姿はどこにもない。


「くそっ・・・絶対、絶対にお前を捕まえてやる・・・」


 見向きもされなかったのだという悔しさが、胸を焼く。
 わけもわからず、シカマルはがむしゃらに走り出した。




「どうして、むざむざ姿を現したのだ、ナルトよ」

「おい。暗部のときは、まわりに誰もいなくても、その名前で呼ぶなと言ってるだろう」


 暗い禁忌の森の樹上で、奏煉-うずまきナルトは、男と会話をしていた。
 男の容貌は20歳前後、銀の恐ろしく長い髪に、真っ赤な瞳をしている。この世のものとは思えないほど、整った美しい顔だった。


「おぬしならば、姿を現さずともあの程度の雑魚は、一瞬で消滅させることができたろう。なのになぜ、あの小僧にわざわざ姿を見られるようなマネをし、あまつには正体まで悟られたというのに、記憶操作も行わないなど・・・なにを考えておるのだ、おぬしは」


 ナルトは、くるくるクナイを回しながら、くすくすと笑う。


「まあ、そういきりたつな、九尾。俺は、奴に賭けてみることにした」

「どういうことだ」

「あいつ、面白えんだよ。もしかしたら、今までのヤツラとは違う動きを見せるかもしれねえ。期待はずれだったら、そのときはお前の言うとおり、殺すなり記憶を消すなりすればいい。損はねえだろ?」

「損はないが、得もないんじゃないか・・・」

「細かいことは追求すんな。ハゲるぞ」

「なぬっ!?それはまことか!?」

「・・・・」


 慌てる九尾をほっといて、ナルトはくすくすと笑いながら、思案にふける。

 夜は、ひっそりと、何かの終わりを告げていた。








最終更新:2011年05月29日 21:28