〇〇(あ、琉夏くんだ。)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「琉夏くん、クラス展示の見物?」
琉夏「仕事中。なんかさ、困ったこと無い?」
〇〇「困ったこと? えぇと……特にないけど?」
琉夏「じゃあさ、迷子になってたりしない?」
〇〇「迷子? ここ学校だよ? ねぇ……なにしてんの?」
琉夏「案内係。困った人の手伝いすんだ。」
〇〇「へぇ、そうだったんだ! 偉いね?」
琉夏「まぁね。会長に頼まれて、断れなくて……いろいろ。」
〇〇「ふふっ……あれ? でも、そういうのはお客さんにした方がいいんじゃないの?」
琉夏「え? あぁ、そっか。そんじゃあ……お、いた。ねぇねぇ、アンタ、なんか困ってない?」
男性客「は? え、俺ですか?いや、べつに……」
琉夏「冷たいこと言うなって。よく考えてみ? なんか困ってんだろ?」
男性客「そ、そんなこと言われても……」
〇〇(琉夏くん、かえって困らせてるような……)
???「困ったお客さんいるー? 困ったお客さーん……」
〇〇(ん? ……あ!)
〇〇「琉夏くん!」
琉夏「〇〇ちゃん。ねぇ、困ったお客さんいない?」
〇〇「こっちは大丈夫だよ? 今年も困ったお客さんのお手伝い?」
琉夏「まあね。聞いて、去年のアンケートでさ俺、褒められてたんだって。案内してくれて助かったって。」
〇〇「へぇ、すごい!」
琉夏「もっと褒めて。」
〇〇「琉夏くん、偉い!」
琉夏「じゃあ次は、手を後ろで組んで首をちょっと――」
女性客A「すみませ~ん! 案内係の人ですか?」
琉夏「お、案内係呼んでる。はいはーい!」
女性客B「体育館に行きたいんですけど。」
琉夏「あいよ。2名様ごあんなーい!」
女性客A「ねぇねぇ、超カッコよくない?」
女性客B「ホント……なんか得しちゃったね?」
〇〇(なんか趣旨が変わってるような……でも、いいことだよね?)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇(あ、琉夏くん!)
〇〇「今年も困ってるお客さんの案内係? がんばってるね?」
琉夏「シーッ!」
〇〇「?」
女性客A「案内係さんいた?」
女性客B「見失っちゃった~! 体育館の方、探してみる。」
女性客A「じゃあ、わたし第2校舎に行ってみる!」
〇〇「なんだかモテモテだね……」
琉夏「まぁね……今年は俺の方が困ってる感じ……」
琉夏「……行ったか。よし、そんじゃね?」
〇〇「でも、大丈夫?」
琉夏「ダイジョブ。本当に困ってる人、探してくる。」
〇〇「そっか。うん、がんばって!」
〇〇(琉夏くん、ちょっと変わったな)
〇〇「紅茶とサンドイッチ、お待たせしました。」
〇〇(ふぅ……こんなにお客が来るなんて想像してなかった……)
琉夏「へぇ……」
〇〇「あっ、琉夏くん。いらっしゃいませ!」
琉夏「おっ、メイドさんだ。カーワイイー♡ 」
〇〇「もうっ! ……ホントに?」
琉夏「マジ。それじゃ、ご主人様に、コーヒーとホットケーキをもらおう。」
〇〇「ふふっ。申し訳ございません。ホットケーキは扱っておりません。」
琉夏「そっか、残念。じゃ、とりあえずコーヒーね。」
〇〇「かしこまりました!」
〇〇「紅茶とサンドイッチ、お待たせしました。」
〇〇(ふぅ……こんなにお客が来るなんて想像してなかった……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。いらっしゃいませ!」
琉夏「わっ……メイドさんだ。」
〇〇「うん、女子みんなで揃えたんだよ?」
琉夏「へぇ、ホント……ヤベェ……やっぱ一番かわいい……」
〇〇「なに?」
琉夏「なんでも? コーヒーちょうだい?」
〇〇「かしこまりました! 他に、サイドメニューもございますが?」
琉夏「あ、そうか。えぇとね……やっぱいい。」
〇〇「……? ブレンドコーヒーひとつ、入りまーす!」
琉夏「コーヒー、うまいね。」
〇〇「ホント? よかった。」
琉夏「メイドさんもカワイイし……ねぇねぇ、あのサンドイッチも、うまそうだね?」
〇〇「あ、サンドイッチはわたしが作ったんだよ!」
琉夏「マジ? メイドさんが? それは食わなきゃ。」
〇〇「ふふっ、ほら、そこに、メニューにあるでしょ?」
琉夏「あ、ホントだ。あぁ、なるほどね……お友だち割引ってあったっけ?」
〇〇「…………」
〇〇(でも、喜んでもらえたみたい。よかった!)
琉夏「スッパ苦い……」
〇〇「えっ?」
琉夏「コーヒー、煮詰まってる。」
〇〇「あっ! ポット、間違えたかも……」
琉夏「目は得したけど、ベロが可哀そうなことに……」
〇〇(うう……大失敗……)
〇〇「世にも恐ろしいよ~お化け屋敷だよ~」
〇〇(ふぅ……お化けになって客寄せは大変だ……)
琉夏「あっ、お化けだ。」
〇〇「あ、琉夏くん! お化け屋敷だよ~」
〇〇「どう? 」
琉夏「入ってもいいけど、俺、お化けの方がいい。」
〇〇「じゃあ、お化けになったつもりで! お客様一名、入りまーす!」
〇〇「世にも恐ろしいよ~お化け屋敷だよ~」
〇〇(ふぅ……お化けになって客寄せは大変だ……)
???「お化けください。」
〇〇「あ、琉夏くん! 入って入って!」
琉夏「お化けも付いて来る?」
〇〇「わたしは客寄せだよ。」
琉夏「じゃ、ヤダ。」
〇〇「もう、入って!」
琉夏「それいい……入ろうっと。」
〇〇「お客様、ごあんなーい!」
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん! ずいぶん長くいたね? 面白かった?」
琉夏「面白い。あのさ、コンニャクもっと無い?」
〇〇「裏にいけばあるよ?」
琉夏「とって来よう。楽しい~!」
〇〇(参加してる……でも、大成功かな!)
琉夏「あれ、出口だ。」
〇〇「あ、琉夏くん。どうだった?」
琉夏「どうってなにが?」
〇〇「怖かったとか、面白かったとか……」
琉夏「どうだっけ? それよりほら、さっきのやって?」
〇〇(ぜんぜんダメみたい……失敗しちゃったかな)
〇〇(も、もう少しで始まっちゃう……どうしよう、緊張してきた……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。」
琉夏「それ、吹くの?」
〇〇「うん。」
琉夏「スゲェ。楽器できるやつってさ、尊敬する。」
〇〇「そうかな?」
琉夏「ちょっとさ、吹いてみて。プーって。」
〇〇「ダメだよ! もう始まっちゃうから――」
琉夏「ケチ。そんじゃ、後でね。」
〇〇(もう……あれ、でも緊張がおさまったかも……)
〇〇(よーし、がんばるぞ!)
〇〇(も、もう少しで始まっちゃう……どうしよう、緊張してきた……)
琉夏「スゲェ、その楽器吹くんだ。」
〇〇「あ、琉夏くん。」
琉夏「楽器できんのって、尊敬する。」
〇〇「そ、そう?」
琉夏「……緊張してる?」
〇〇「うん、ちょっと……」
琉夏「じゃあさ、一緒に逃げちゃう?」
〇〇「え!? ダメだよ、そんなの!」
琉夏「どうしても?」
〇〇「だって――」
琉夏「チェッ、じゃあ、諦めるか。」
〇〇(もう……あれ、でも緊張がおさまったかも……)
〇〇(よーし、がんばるぞ!)
〇〇(良かった! 初舞台、大成功みたい!)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。どうだった?」
琉夏「スゲェ。 クラシックの曲だろ? なんかさ、こう……」
〇〇「うん。」
琉夏「寝そうになった。いや、良い意味で。ゴメン、バカで。」
〇〇(やった! 琉夏くんにほめられちゃった!)
〇〇(ハァ……大失敗……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん……」
琉夏「逃げた方がいい。他の部員にボコられる前に。」
〇〇(ううっ、もっと練習しとけば良かった……)
〇〇(去年よりは少し落ち着いてるかな。でも、やっぱり緊張する……)
琉夏「よっ、〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。聞きに来てくれたんだ。」
琉夏「いや、見に来た。緊張してるとこ。」
〇〇「もう……」
琉夏「あれ? 本当に緊張してた? じゃあさ、演奏中どうしようもなくなったら、俺の方見て。」
〇〇「琉夏くんの方?」
琉夏「そう。ヘンな顔してやる。」
〇〇「え!?」
琉夏「ほら、もう始まる。そんじゃ、がんばって。」
〇〇(もう、琉夏くん……)
〇〇(よし! がんばるぞ!!)
〇〇(去年よりは少し落ち着いてるかな。でも、やっぱり緊張する……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。聞きに来てくれたんだ。」
琉夏「まあね。緊張してるかと思って。」
〇〇「うん……やっぱり、ちょっと。」
琉夏「あらら。じゃあさ、演奏中どうしようもなくなったら、合図して?」
〇〇「合図?」
琉夏「大声で応援してやる。ガンバレーって。」
〇〇「ダメだよ! そんなことしちゃ――」
琉夏「冗談。ほら、始まる。行って?」
〇〇(琉夏くん、緊張をほぐしに来てくれたんだ……)
〇〇(よし! がんばるぞ!!)
〇〇(うん、去年よりいい演奏が出来たかも!)
琉夏「やるな。」
〇〇「あ、琉夏くん。どうだった?」
琉夏「スゲェ。なんかゲームの曲だろ? 燃えた。」
〇〇「よかった!」
琉夏「うん。今度さ、また聞かせて? West Beachでコンサートやって。」
〇〇(やった! 琉夏くんにほめられちゃった!)
〇〇(はぁ……去年よりダメだったかも……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん……」
琉夏「凹んじゃった。俺は面白かったよ? ほら、ヒムロッチがキリキリしてて。」
〇〇(ううっ、もっと練習しとけば良かった……)
〇〇(今年は落ち着いていけそう。三年間、がんばってきたおかげかな?)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。来てくれたんだ。」
琉夏「あれ、今年は落ち着いてる。」
〇〇「うん、今年が最後だし、三年生がしっかりしなきゃ。」
琉夏「じゃあさ、今年はこっから見てていい?」
〇〇「いいけど……どうして?」
琉夏「いいじゃん。最後だし。ね?」
〇〇「でも――」
琉夏「ほら、始まる。そんじゃ、後で。がんばれ。」
〇〇「あっ、琉夏くん……」
〇〇(最後の演奏会……よし! おもいっきり楽しむぞー!!)
〇〇(今年は落ち着いていけそう。三年間、がんばってきたおかげかな?)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。来てくれたんだ。」
琉夏「あれ、今年は落ち着いてる。」
〇〇「うん、今年が最後だし、三年生がしっかりしなきゃ。」
琉夏「そっか……ねぇ、今年はさ、こっから見てていい? 大人しくしてるから。」
〇〇「いいけど……どうして?」
琉夏「オマエの横顔が好きだから。前からずっと、そうしたかったんだ。」
〇〇「……え?」
琉夏「ほら、始まる。じゃあ、後でね。」
〇〇「あっ、琉夏くん……」
〇〇(最後の演奏会……よし! おもいっきり楽しむぞー!!)
〇〇(三年間で一番いい演奏が出来た。よかった……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「琉夏くん!」
琉夏「お疲れ様。」
〇〇「ありがとう! ……演奏、どうだった?」
琉夏「あ……ゴメン、オマエのこと見てたら、ちゃんと聴くの忘れてた。」
〇〇「もう!」
琉夏「でも、オマエはきれいだった。すごく真剣な顔してて、あぁ、俺はこの人が好きだなって思った。」
〇〇「琉夏くん……」
琉夏「今度さ、またちゃんと聴かせて? West Beachで。」
〇〇(やったー! 琉夏くんにほめられちゃった!)
〇〇(失敗しちゃった……高校生活最後の舞台だったのに……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。わたし……」
琉夏「うん、がんばった。」
〇〇「…………」
琉夏「こんなのさ、ちょっとプレーオフで負けたようなもんだ。三年間、がんばってたじゃん。」
〇〇「うん……」
琉夏「よし、じゃあ今度さ、うちで演奏会やろう。その時、ちゃんと聴かせて。で、今日はとりあえず……」
琉夏「甘いもの食いに行こう。ハートに効くらしいよ?」
〇〇(最後に失敗しちゃったけど、三年間続けられて良かったな)
〇〇(今年はデッサン展示。ちょっと地味だけど……)
琉夏「美術部、ここ?」
〇〇「あ、琉夏くん! 観に来てくれたの?」
琉夏「まあね。なんかさ……地味?」
〇〇「うん、今年は、ちょっとね?」
琉夏「ふぅん……オマエの絵、観てこよ。どこ?」
〇〇「そこのデッサン展示の中に……」
〇〇(今年はデッサン展示。ちょっと地味だけど……)
琉夏「〇〇ちゃん、来たよ。」
〇〇「あ、琉夏くん!」
琉夏「絵、描いたんだろ? 見せて。」
〇〇「うん、わたしのはデッサンだから、ちょっと地味かも。」
琉夏「デッサン? へぇ、なんかカッコいいじゃん。どこ?」
〇〇「そこの展示の中に……」
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。……どうだった?」
琉夏「スゲェ。ビックリした。」
〇〇「本当!?」
琉夏「うん。サイノーあんだな。あんなのどうやって描くの?」
〇〇「そ、そうかな?」
琉夏「俺も絵描くの好きだけど、下手っぴだからさ、教えて?」
〇〇(やった! 琉夏くんにほめられちゃった!)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「琉夏くん。……どうだった?」
琉夏「石膏像と花瓶だろ? もう、大丈夫。」
〇〇「……え?」
琉夏「分かりづらいからさ、説明書きしといた。絵の中に。」
〇〇「えぇっ!?」
〇〇(ううっ……もっと丁寧に描けばよかった)
〇〇(今年はお客さんがいっぱい来てるみたい……)
琉夏「なんか、盛況じゃん。」
〇〇「あっ、琉夏くん。来てくれたんだ。」
琉夏「まあね。今年も、なんか描いた?」
〇〇「今年は油彩画だよ。」
琉夏「お、なんか芸術っぽい。観て来よう。」
〇〇(今年はお客さんがいっぱい来てるみたい……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あっ、琉夏くん! 来てくれたんだ。」
琉夏「そりゃ、見せてもらわなきゃ。今年も描いたんだろ?」
〇〇「今年は油彩画だよ。」
琉夏「へぇ、本格的。それでか。最近ゲージュツ家っぽくなってきたと思った。」
〇〇「ふふ、あっちだよ?」
琉夏「〇〇ちゃん、観てきた。」
〇〇「あ、琉夏くん。……どうだった?」
琉夏「ウツクシかった。カレンさんだろ?」
〇〇「よかった!」
琉夏「今度さ、俺も描いて。ウツクシーくね。」
〇〇(えっと……これって遠回しに褒められたのかな?)
琉夏「観てきた。」
〇〇「……どうかな?」
琉夏「あれは……人?」
〇〇「え? あの、花椿さんなんだけど……」
琉夏「あぁ、そうか……ピカソみたいなこと?」
〇〇(ううっ……もっと丁寧に描けばよかった……)
〇〇(高校最後の文化祭。美術部伝統の壁画だけど……)
???「わっ、混んでるな……」
〇〇「あ、琉夏くん。観に来てくれたんだ!」
琉夏「まあね。なんか、スゲェらしいじゃん。壁画だっけ?」
〇〇「うん、3年全員で制作したの。よく観て行ってね?」
琉夏「オッケー。観て来る。」
〇〇(高校最後の文化祭。美術部伝統の壁画だけど……)
???「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。観に来てくれたんだ!」
琉夏「まあね。今日のためにさ、ずいぶん長いこと描いてたろ?」
〇〇「うん、3年全員の力作だよ。よく観て行ってね?」
琉夏「そんな顔されると――あ、ダメ、ウルッと来ちゃった……」
〇〇「ふふ、感想聞かせて?」
琉夏「スゲェな、あれ……」
〇〇「うん。美術部のみんなでがんばったから……」
琉夏「なぁ、花畑の中に教会があるだろ? あれは?」
〇〇「わたしのアイディア。うちの教会の周りはそうじゃないけど、なんかそんなイメージがあって。」
琉夏「そっか。……うん、俺もそんな感じがする。」
〇〇「琉夏くんも?」
琉夏「ああ。いい絵だな……」
〇〇(琉夏くんにほめられちゃった! 三年間続けてきて良かったな……)
琉夏「ひでぇな、あれ……」
〇〇「えっ!? ……そんなに?」
琉夏「ちがうちがう、落書きのこと。花畑に白い絵具で描いてある。酷いことするヤツがいるな?」
〇〇「それ、落書きじゃなくてわたしが描いたところ……」
琉夏「……え?」
〇〇(ハァ……三年間続けて来たのに、これで良かったのかな……)
〇〇(ふぅ……迷子案内のポスターも貼り終わったし、あとは……)
???「へぇ……ここが迷子センターか。」
〇〇「あ、琉夏くん。」
琉夏「〇〇ちゃん。あれ、オマエも迷子?」
〇〇「違います……生徒会執行部だから、ここで迷子係だよ。どうしたの?」
琉夏「迷子連れてきた。」
迷子「お母さ~ん!」
〇〇「わっ、先に言ってよ!!」
〇〇(ふぅ……迷子案内のポスターも貼り終わったし、あとは……)
???「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。」
琉夏「良かった、オマエが居てくれて……」
〇〇「……?」
迷子「お母さ~ん!」
〇〇「わっ!? ボク、どうしたの?」
琉夏「たぶん、迷子。張り紙みて連れて来たんだ。助けて……」
〇〇「お母さん見つかって良かったね? バイバイ!」
迷子「バイバーイ!」
琉夏「もう泣くなよ?」
〇〇「良かった。すぐお母さんが来てくれて。」
琉夏「ああ。オマエさ、子供アヤすの上手いのな。」
〇〇「そうかな?」
琉夏「上手いよ。俺も迷子になれば良かった。」
〇〇(琉夏くん……でも、良かった!)
迷子「バイバーイ!」
〇〇「良かった。すぐお母さんが来てくれて。」
琉夏「あのさ、そこのジュースとお菓子、俺ももらっていい?」
〇〇「ダメ! 迷子のためにおいてあるんだよ?」
琉夏「俺も迷子だよ? 張り紙の地図見てたら、ここまで来るのスゲェ、迷った。」
〇〇(うっ……大失敗……)
女子生徒「すいませ~ん! 暗幕破れちゃったんだけど!」
〇〇「はーい! ちょっと待ってください!」
〇〇(今年は資材係。忙しくて目が回りそう……)
琉夏「やべぇ、どうしよう……」
〇〇「あ、琉夏くん。……どうしたの?」
琉夏「それが、道に迷っちゃって。俺、迷子?」
〇〇「………迷子係の一年生!」
男子生徒「オッス! なんすか?」
琉夏「ウソでした。ゴメンなさい……」
女子生徒「すいませ~ん! 暗幕破れちゃったんだけど!」
〇〇「はーい! ちょっと待ってください!」
〇〇(今年は資材係。忙しくて目が回りそう……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。あれ、その子もしかして……」
琉夏「そう、オマエなら安心だから。な? このお姉ちゃんと遊んでな?」
迷子「ママがいな~い!」
〇〇「あらら……それが、今年の迷子係は……」
男子生徒「オッス! なんすかっ?」
琉夏「うわっ、こいつ?」
〇〇「はい、暗幕はこのテープで補強して。」
女子生徒「ありがとうございました!」
〇〇「ジュース美味しい? もうすぐママ来るって。」
迷子「うん!」
琉夏「へぇ。」
〇〇「なに?」
琉夏「なんかさ、良妻賢母って感じ。グッと来た。」
〇〇(ちょっと照れるけど……よし、頑張ろう!!)
迷子「恐い~!」
男子生徒「先輩、泣きやまないっす!」
〇〇「ちょ、ちょっと待って!」
女子生徒「ねぇ! 暗幕は?」
〇〇「えぇと、確かテープが……」
琉夏「おいで、お兄ちゃんと遊ぼう?」
迷子「うん……」
琉夏「ほら、この子と遊んでるから、今のうちに。」
〇〇「ゴメン、助かるよ……」
琉夏「貸しとく。」
〇〇(ううっ……大失敗)
男子生徒「先輩、ガムテ、切れたんすけど!」
〇〇「確か、もうひと箱予備が――」
女子生徒「先輩、迷子のお母さんから、まだ連絡が……」
〇〇「校内放送、頼んだ?」
迷子「ウワーン!!」
〇〇「ごめんね、ちょっと待って?」
???「先輩、俺もかまって。」
〇〇「はいはい! ちょっと待って――ん? あ、琉夏くん!」
琉夏「ウソウソ。なんか、手伝おうか?」
男子生徒「先輩、ガムテ、切れたんすけど!」
〇〇「確か、もうひと箱予備が――」
女子生徒「先輩、迷子のお母さんから、まだ連絡が……」
〇〇「校内放送、頼んだ?」
迷子「ウワーン!!」
〇〇「ごめんね、ちょっと――」
???「こっちおいで、イケメンのお兄ちゃんとジュース飲も?」
迷子「うん……」
〇〇「琉夏くん!」
琉夏「助っ人参上。ほら、みんな待ってるよ?」
〇〇「ありがとう!」
〇〇「はぁ……とりあえず、一段落……」
琉夏「お疲れ。」
〇〇「琉夏くんこそ。ごめんね、手伝わせちゃって。」
琉夏「なんの。俺はほら、ジュースとお菓子目当てだから。それより――」
琉夏「仕事している時のオマエさ、普段とぜんぜん違うのな?」
〇〇「そうかな?」
琉夏「みんなが頼りにしてた。後輩たちがさ、目、きらきらさせてオマエのこと見てた。」
〇〇「本当?」
琉夏「うん、カッコ良かった。可愛くてカッコイイ。さすが、俺の彼女。」
〇〇「もうっ、また!」
〇〇(三年間、ずっと生徒会でがんばって良かったな!)
〇〇「はぁ……」
琉夏「さんざんだったな。」
〇〇「琉夏くん……ありがとう、助けてくれて。」
琉夏「なんの。オマエがあわあわしてんの、面白かった。」
〇〇「…………」
琉夏「ゴメン、泣くなって。三年間続けただけで立派だ。偉い。いい思い出にしなきゃな?」
〇〇(ハァ……でも三年間、生徒会を続けられたんだな……)
〇〇(ギリギリ仕上がったけど、いよいよランウェイ……緊張しちゃうな……)
琉夏「応援に来たよ。」
〇〇「あ、琉夏くん! ありがとう。」
琉夏「きれいなカッコしてんね? モデルさんてこと?」
〇〇「うん、まあね。自分で作った服なんだけど。」
琉夏「それを!? スゲェ……」
〇〇「ありがとう。」
琉夏「あ、メイクしてる。ヘンなの。へぇ……よく見とこう。」
〇〇「もう! あ、もう始まっちゃう! また後でね?」
〇〇(よーし、がんばろう……)
〇〇(ギリギリ仕上がったけど、いよいよランウェイ……緊張しちゃうな……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん!」
琉夏「!!」
〇〇「ありがとう。応援に来てくれたの?」
琉夏「え? あぁ、うん。そうだけど……いつもと違うね。」
〇〇「……? お化粧のせいかな。」
琉夏「うん。なんか照れる……きれいなんだもん。」
〇〇「そんなこと言われたら、わたしの方が……」
〇〇「あ、もう始まっちゃう!また後でね?」
〇〇(よーし、がんばろう……)
〇〇(よかった、なんとか成功したみたい!)
琉夏「おかえり。」
〇〇「あ、琉夏くん! 見ててくれた?」
琉夏「スゲェ、カッコ良かった。もう一回やってみ? ほら、クルッって回るヤツ。」
〇〇(やった、大成功!)
〇〇(転んじゃった……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん……」
琉夏「ぜんぜん有りだ。ほら、コケティッシュ? あ、ダジャレじゃなくて。」
〇〇(琉夏くん、慰めてくれてる……ハァ、大失敗……)
〇〇(初めて作ったドレス。自信はあるつもりだけど……)
琉夏「見っけ。」
〇〇「? あ、琉夏くん!」
琉夏「応援に来たよ。へぇ……ドレスってこと?」
〇〇「う、うん……どうかな?」
琉夏「どれどれ?」
〇〇「…………」
琉夏「……まあまあ。」
〇〇「まあまあか……」
〇〇「あっ、もう行かなきゃ!」
琉夏「わっ、背中がまた――」
〇〇「えっ?」
琉夏「…………まあまあ。」
〇〇(よ、よーし……がんばろう!)
〇〇(初めて作ったドレス。自信はあるつもりだけど……)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん!」
琉夏「…………」
〇〇「今年はドレスなんだけど……」
琉夏「……うん。」
〇〇「あの……どう?」
琉夏「ギュッてしちゃダメ? ……ちょっとだけ。」
〇〇「えっ!? あっ、もう行かなきゃ!」
〇〇(よ、よーし……がんばろう!)
〇〇(よかった、なんとか成功したみたい!)
琉夏「〇〇ちゃん、おかえり。」
〇〇「琉夏くん! 見ててくれた?」
琉夏「大人の女の人みたいだった。 そのドレスもサイコーに、カッコよく見えた。」
〇〇「やった!」
琉夏「ちょっと、こっち。」
〇〇「……?」
琉夏「え? いや、抱き心地はどんなかなって。」
〇〇(もう! でも、琉夏くんにほめられちゃった!)
〇〇(転んじゃった……ドレスもダメになっちゃったし……)
琉夏「おかえり。」
〇〇「あ、琉夏くん……」
琉夏「足、ひねんなかった?」
〇〇「ありがとう、大丈夫。」
琉夏「そっか……飴ちゃんあげる。舐めるとさ、ちょっとだけ幸せになるよ?」
〇〇(琉夏くん、慰めてくれてる……ハァ、大失敗……)
〇〇(今年はウエディングドレス。これで最後なんだ……ゼッタイ成功させなきゃ!)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん! 来てくれたんだ。」
琉夏「スゲェ…… ウエディングドレスだ。」
〇〇「うん、3年生恒例なんだよ?」
琉夏「へぇ……」
〇〇「あの……」
琉夏「食べたい……ケーキみたい。」
〇〇「えっ!?」
〇〇「じゃ、行ってくるね!」
〇〇(よーし……高校最後のショー。しっかりしなきゃ!)
〇〇(今年はウエディングドレス。これで最後なんだ……ゼッタイ成功させなきゃ!)
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん!」
琉夏「……花嫁さんだ。」
〇〇「うん、3年生恒例なんだよ? ……どうかな?」
琉夏「ヤバい。」
〇〇「えぇと、それは……どっちの意味?」
琉夏「俺の花嫁さんだったらいいのになって意味。」
〇〇「えっ!?」
琉夏「……始まるよ?」
〇〇「うん……」
琉夏「行って? 客席から見てるから。」
〇〇(よーし……高校最後のショー。しっかりしなきゃ!)
〇〇(やったー! 大成功!)
琉夏「〇〇ちゃん、おかえり。」
〇〇「琉夏くん! 見ててくれた?」
琉夏「見てたよ?」
〇〇「どうだった?」
琉夏「お姫様みたいだった。 誘拐したくなった。」
〇〇「ふふっ、ありがとう。」
琉夏「でももう、その他大勢の役で見るのはヤダ。」
〇〇「琉夏くん?」
琉夏「なんでも? ほら、写真撮ってやる。」
〇〇(良かった……三年間、手芸部続けて、本当に良かった!)
〇〇(転んじゃった……最後のステージだったのに……)
琉夏「怪我は?」
〇〇「あ、琉夏くん……」
琉夏「足、捻ったりしてない?」
〇〇「うん、大丈夫。」
琉夏「うん……大丈夫。本番ではさ、ちゃんと支えてくれる人がいる。」
〇〇「…………」
琉夏「おいで? あっち、人いないから。」
〇〇「えっ?」
琉夏「ギュッてしてあげる。そんで、涙が止まったら、甘いもの食べに行こう。 な?」
〇〇(琉夏くん、慰めてくれてる……)
〇〇(もうすぐ始まっちゃう……ハァ、やっぱり緊張するな)
琉夏「ジュリエット。」
〇〇「あ、琉夏くん。」
琉夏「誰それ? ロミオだよ? ……あれ、緊張してる?」
〇〇「そう、かな? 琉夏くんは大丈夫そうだね?」
琉夏「ロミオだってば。ドキドキしてるよ? ジュリエット可愛過ぎるから。」
〇〇「ありがとう。ロミオだって、すごく素敵だよ?」
琉夏「ねぇ、恐いなら、俺のことだけ見てろよ。そうすれば、練習の時と変わんない。」
〇〇「そっか……そうだよね!」
琉夏「だろ?」
放送「これより、はばたき学園、学園演劇を開演いたします。」
琉夏「ほら、始まる。行こう。」
:
キャピュレット夫人「汚らわしいモンタギュー! 早く消えておしまい!」
〇〇「ああ、そんな! あの方が、モンタギュー家だなんて! 出会いは早すぎて、知った時には遅すぎたなんて!」
:
〇〇「おぉ、ロミオ……なぜあなたはロミオなの? あの言葉が真実なら、家を捨ててただのロミオに……」
〇〇「月の女神様、どうか気まぐれに、わたしのロミオをここへ……」
〇〇「!! そこにいるのは、誰!?」
琉夏「あなたのロミオです。月に誘われて来ました。」
:
〇〇(わかってはいたけど、すごい人気……)
琉夏「大好きなジュリエット。あなたが僕の名を呼んでくれた。」
〇〇(本当、きれいだな、王子様みたい……)
琉夏「〇〇ちゃん、リラックス。」
〇〇(いけない! 集中しなきゃ!)
〇〇「女神様が聞いてくださったのね! でも、でも! 見つかったらあなたは殺されてしまう!」
琉夏「あなたに会えたから、悔いはありません。いつ死んだって構わない。」
〇〇「そんなことをおっしゃらないで! 私を愛してくださるなら、生涯をともに生きて。」
琉夏「…………」
〇〇「ねぇ、ロミオ……」
琉夏「…………」
〇〇(どうしよう、琉夏くん、台詞忘れちゃったのかな……)
琉夏「不思議だ……あなたにそう言われると、希望に満たされていく……」
〇〇(良かった……)
〇〇「あぁ、運命の再会をしても、あなたはモンタギュー家……お願いです。家を捨て、ただのロミオになって下さい。」
琉夏「月に誓って、そうします。甘い口づけを交わした時から、もう、僕はあなたのものだ。」
〇〇「待って、これではあまりにも唐突。誓わないで。次に会う時に、恋のつぼみが花開くまで。」
琉夏「そうしよう。でも、僕はまだあなたの返事を聞いていない。」
〇〇「いじわる……わたしの独り言を聞いていたくせに。」
琉夏「それでも、もう一度だけ、お願いです!」
〇〇「……愛しています。」
〇〇(うぅ……しばらく女子の目が怖いかも)
キャピュレット夫人「ジュリエット? そこに誰かいるのですか?」
〇〇「いけない、お母様よ! もう戻らなくては……」
琉夏「このままあなたをさらってしまいたい……」
〇〇「そうして欲しいけど……今は我慢してください。明日、必ず……」
琉夏「明日、必ず……おやすみ、ジュリエット。」
〇〇「待って、恋人同士のお別れの言葉を思い出せない……」
琉夏「それでは、思い出すまでここに居ましょう。」
〇〇「じゃあ、思い出さない。……ああ、意地悪をして、ずっとあなたを帰したくない。」
琉夏「あなたのかごの鳥になれたら……きっと明日、夢の続きをみよう。」
:
〇〇(琉夏くんってすごいな……お芝居だって分かってても、泣けてきちゃった……)
〇〇(ふぅ……なんとか間に合ったみたい……)
???「どんな感じ?」
〇〇「あ、琉夏くん。どこ行ってたの?」
琉夏「プラプラ見てた。」
〇〇「もう……ちゃんと手伝った?」
琉夏「手伝ったよ?」
〇〇「……本当?」
琉夏「ホント、ホント。」
放送「これより、はばたき学園、学園演劇を開演いたします。」
琉夏「ほらね、無事に始まった。」
〇〇(もう……でもみんな焦ってないし、いいのかな?)
:
ジュリエット「月の女神様、どうか気まぐれに、わたしのロミオをここへ……」
ジュリエット「!! そこにいるのは、誰!?」
ロミオ「あなたのロミオです。月に誘われて来ました。」
:
〇〇(うん、二人ともいい感じ!)
琉夏「どう?」
〇〇「あ、琉夏くん! これから丁度、名シーンだよ?」
琉夏「うん、ホントだ。」
:
ジュリエット「でも、でも! 見つかったらあなたは殺されてしまう!」
ロミオ「あなたに会えたから、悔いはありません。いつ死んだって構わない。」
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〇〇「ロミオってすごいな……殺されちゃうかもしれないのに会いに来るなんて。」
琉夏「ああ。でも、ジュリエットがそうさせたんだ。ほら、ここ。」
:
ロミオ「あなたの言葉が、僕を生きる希望で満たすのです!」
:
〇〇「うん……二人とも、すごく情熱的だよね?」
琉夏「でもロミオはね、きっとジュリエットに出会うまで生きてる感じがしなかったんだ。」
〇〇「そう言えば、ジュリエットに出会うまで、軽薄な感じだった。」
琉夏「でも、変われた。……そうだろ?」
〇〇「うん、だから世界中の恋人の憧れになったんだね?」
琉夏「やっぱり、ジュリエットやりたかった?」
〇〇「うん……ちょっとね?」
琉夏「じゃあ、ここから、聞いてて。」
〇〇「……?」
:
ジュリエット「待って、恋人同士のお別れの言葉を思い出せない……」
ロミオ「それでは、思い出すまでここに居ましょう。」
ジュリエット「じゃあ、思い出さない。……ああ、意地悪をして、ずっとあなたを帰したくない。」
ロミオ「あなたのかごの鳥になれたら……きっと明日、夢の続きをみよう。」
:
琉夏「憶えた?」
〇〇「う、うん、だいたいだけど……」
琉夏「よし。」
〇〇「……?」