○○「はぁ〜ちょっと歩き疲れちゃった。お茶して帰ろうかな。えぇと、このあたりにどこか–喫茶アルカード、か。へぇ、こんなお店あったんだ。ちょっと大人っぽくていい雰囲気。ここにしよう!」
:
店員「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
○○「あ、はい。」
店員「かしこまりました。どうぞ、お席へご案内します。」
○○(コーヒーのいい匂い……素敵なお店だな)
:
○○(美味しかった。さてと……そろそろ帰ろっかな)
○○「!?」
?「あ、あの–」
○○「……はい。」
?「………」
○○「……?」
?「………」
○○「あの、よく聞こえない–」
?「この店っ!」
○○「はいっ!?」
?「あ、いやっ!ごめん、あの……この店、よく来る……の?」
○○「このお店?初めてですけど……」
?「初めてっ!?」
○○「はい!」
?「初めて……そっか。あぁ、なるほど……」
○○「あの……」
?「うわ、そっちか、そりゃ、そういうパターンもあるよ。あぁ……」
○○「あの!」
?「……え?あっ、はい?」
○○「わたし、そろそろ帰りたいんですけど……」
?「そりゃ、もちろん!どうぞ勝手に–あ、いや……あの、どうぞ!」
○○「?はい、じゃあ……」
:
店員「ありがとうございました。」
:
○○(変な人……いろんな人が居るから気をつけなくちゃでも、ちょっと面白かったかも。ふふっ!)
?「あのっ!」
○○「わっ!?は、はい!」
?「………」
○○「あの……」
?「ボクもこの店初めてで、それで、つまり–来週もこの店に来るのかな、と……」
○○「わたしが?わたしは……」
『来てみようかな……』
○○「来てみよう、かな……」
?「ホントに?」
○○「?」
?「いや–そりゃ、良かった。」
○○「……どうして?」
?「えっ?」
○○「どうして?」
?「それはつまり–なかなかいい店だしさ?いいことだよ、とにかく。」
○○「そう?」
?「………」
○○「……?」
?「それじゃ。」
○○(やっぱり、変な人……)
○○「はぁ〜ちょっと歩き疲れちゃった。お茶して–そう言えば、たしか先週も……変な人だったな……喫茶アルカードか。う〜ん、気になるけど……」
『寄ってみよう!』
:
店員「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
○○「いえ、あの–」
○○(もしかして、あの人が……いないか……ちょっとがっかり)
店員「あの、お客様?」
○○「あ、すみません!一人です。」
:
○○(さてと……そろそろ帰ろっかな)
○○「?」
?「そこ、いいかな」
○○(!!わぁ、カッコいい人……)
?「そこに座ってもいいですか?」
『ダメです』
○○「ダメです。」
?「………え?そっか、勝手に座った方が良かったかな?それじゃ–」
○○「そこに、座っちゃダメです。」
?「……えぇと、それはつまり–」
○○「つまり、座らないでください。」
?「待って、あの、ちょっと待って。いま説明するから……」
○○「説明って?」
?「ボクは、あの……」
○○「なに?」
?「わからないと思うけど、ボク実は、先週この店で君に声をかけた……」
『わかってるよ?』
○○「……だよね?わかってるよ?」
?「えっ、あれ?そうなの?」
○○「わかるよ、そりゃ……」
?「なんだ、そうか。ずいぶん変身したつもりだったんだけど、ハハ……ボクは、今日は仕事で、つまり、モデル、やってるんだけど、ね。ハハ……」
○○「へぇ……」
?「あの……だから、この間はたまたまあんな風だったけど普段はこんな感じなんだ、ホント、いつも。ファッションには気を遣う方で、だから……」
○○「……?」
?「ダメだ、ぜんぜんダメだまず意味がわからないよこれじゃ……」
カメラマン「あ、居た!蓮見クン、ちょっと早いけど始めるからさすぐスタジオ入って!」
?「あ、はいっ!行きますっ!」
○○「え?あの–」
?「ゴメン、ちょっと用が……また、必ずまたっ!」
店員「ちょっとお客様、お会計をっ!」
?「あ、すみませんっ!」
○○(行っちゃった。"必ず"って、連絡先も名前もわからないのに……"ハスミ"君って言うんだ。ホント、変な人……)
?「!!」
○○(!!……あれ?今、すれ違った人って、アルカードであった、確か、ハスミ君……チラチラこっち見てる……あ、目そらした……気づいてない、のかな?う〜ん……)
『ほっといて帰ろ』
○○(ま、いっか……ほっといて帰ろ!)
?「ねぇ、ちょっと!!」
○○「!?」
?「ハァ、ハァ……ぐ、偶然……いま帰り?」
○○「そう。……ハスミ君も?」
?「まあ、そんなとこ。家、この近所?あの、良かったらそこまで一緒に行こうか?」
○○「うん。」
:
蓮見「ハスミは、"蓮"の花に"見"る。珍しいから覚え易いでしょ?」
○○「羽ヶ崎学園の、わたしと同じ学年なんだ?」
蓮見「"はね学"は、まあ、成り行きでね?そういう君は、名門はばたき学園だろ?どう、学校は?」
○○「うん、楽しいよ?」
蓮見「へぇ……」
○○「なに?」
蓮見「いや、天真爛漫っていうかさ。躊躇無く、楽しいよって。」
○○「おかしいかな……」
蓮見「そうじゃないけど。ボクは学校ってさ、そんなにまじめにならなくて。」
○○「そっか……どうして?」
蓮見「どうして、か……ボクに言わせれば、毎日学校に通えるみんなの方がどうして?なんだけどね……」
○○「ふぅん……」
蓮見「考えてみて。毎朝同じ時間に10代の男女が何千何万、いや何十万と登校する……その意味なんて考えることも無く、こうして着たくも無い制服まで着てね?軍隊じゃあるまいし、こんな不自然な光景って–」
○○「おかしいかな……この制服?」
蓮見「……え?」
○○「わたし、制服けっこう気に入ってるよ?」
蓮見「うん……おかしくはない、かな。君によく似合ってるよ。」
○○「よかった。」
蓮見「制服は、まあいいとしてボクが言いたいのは–」
○○「あ……」
蓮見「なに?」
○○「もうこんな時間。帰らなきゃ。」
蓮見「あぁ、そう……じゃあ、ボクはここで。」
○○「うん、じゃあね?」
蓮見「うん……」
○○「………」
蓮見「さて、と。じゃあ、そろそろ……」
○○(このままじゃ、連絡先もわからないよね……)
『(でも、自分から聞くのは嫌だし……)』
○○(でも、自分から聞くのは嫌だし……いいや、帰ろう!)
○○「じゃあね!」
蓮見「……え?いや、ちょっと–」
○○「なに?」
蓮見「電話番号……電話番号。聞いとこうかな、一応さ?」
『(もう、素直じゃないなぁ……)』
○○「いいよ?じゃあ、電話番号教えとく。"一応"ね?」
蓮見「ホント!?あ、いや–ああ、そう。そうだね、念のため。」
○○(やっぱり強がってる……)
:
○○「ねぇ、やっぱりわたしも蓮見くんの番号聞いておいたほうがよくない?」
蓮見「心配?大丈夫、君がかけたくなる前にボクからかけるから。」
○○「?」
蓮見「こういうのは、ほら、男の方からでしょ?」
○○「こういうの?」
蓮見「……え?つまり……まあ、気にしないでいいよ。それじゃあ。」
○○「うん、じゃあね。」
○○(蓮見くんってやっぱりちょっと変わってるな……)
○○「さてと……今日はもう帰ろうかな。」
○○(そう言えば、蓮見くん、どうしているだろう?あれから連絡が無いけど……喫茶アルカードに行けば、もしかするとまた……アルバイトみたいなこと、してるみたいだったし)
『(送ってもらったお礼もあるし)』
○○「送ってもらったお礼もあるし、ちょっと寄ってみよう。」
:
店員「いらっしゃいませ!」
:
○○(そう都合よく逢わないよね……帰ろ)
店員「ありがとうございました。」
○○「さてと……今日はもう帰ろうかな。」
○○(そう言えば……蓮見くんから連絡来ないな喫茶アルカード……ちょっとだけ寄ってみようかな?)
『(やっぱり、お礼はちゃんと言わないと)』
:
店員「いらっしゃいませ!」
:
○○(ずいぶん待ったのに、ハァ……帰ろ)
店員「ありがとうございました。」
○○「さてと……今日はもう帰ろうかな。」
○○(ハァ……蓮見くんから連絡、来ないな……どうして向こうの連絡先も聞いておかなかったんだろう……喫茶アルカードにはもう来ないのかな?でも……)
『(今度こそ会えるかもしれないし……)』
:
店員「いらっしゃいませ!」
:
○○(なにやってんだろ、わたし……こういうのはもうやめよう)
店員「ありがとうございました。」
○○(ちょっと歩き疲れちゃった……どこかでお茶してこうかな?喫茶アルカード……蓮見くん、もうわたしのこと忘れちゃったんだろうな……)
『(文句くらい言ってやらないと気がすまない)』
:
店員「いらっしゃいませ!お客様、お一人様ですか?」
○○「はい、そう–?」
蓮見「あ………」
○○「蓮見くん!!」
店員「あの、お連れ様とお待ち合わせでしょうか………」
蓮見「あ、いえー」
○○「そうですっ!」
蓮見「えぇっ?」
○○「なんで目逸らすの?」
蓮見「ボクはべつに……」
○○「信じられない!いい加減な人!」
蓮見「いや、だって–ちょっと待てよ。なんだよ!どっちがいい加減なんだよ!」
店員「お客様、あの、他のお客様のご迷惑ですので……」
蓮見「あ、スミマセン……」
○○「すみません……」
:
蓮見「なるほど……つまり話を整理すると、ボクが君だと思ってかけ続けた番号は……」
○○「わたしと番号ひと桁違いの、関係ない人。」
蓮見「ハア〜……なんだそりゃ……どうりで冷たいワケだ。着信拒否設定されたし……」
○○「でも、どうして?声で気がつかなかった?」
蓮見「うん……いや、なんだか大人っぽい気はしたけど、ほら、電話に出ると話し方変わる人いるだろ?」
○○「そっか……」
蓮見「ゴメン……番号写し間違えたボクが悪い。や、それ以前に変なカッコつけて君に番号教えなかったのがそもそも悪い。」
○○「とにかく、誤解が解けてよかったよ、ね?」
蓮見「本当、よかった。でもカッコ悪すぎて、死にたい気分だ……」
○○「もう、そんな……」
蓮見「………」
○○「あの、蓮見くん?」
蓮見「え?あ、ゴメン……どうせカッコ悪いから、聞いちゃうけど……」
○○「うん。」
蓮見「今日、この店に来たのは……偶然?」
○○「!!それは……」
蓮見「ボクは、偶然じゃない。君に会えるような気がして……」
○○「わたしは……」
『蓮見くんに会いたくて……』
○○「このお店に通えば、いつか蓮見くんに会えるかもって。」
蓮見「ちょっと待って。それじゃあ……」
○○「……うん。」
蓮見「つまり、それは……」
○○「うん。」
蓮見「とりあえず、家まで送るよ。」
○○「う、うん?」
:
○○「また送ってもらっちゃったね。ありがとう。」
蓮見「………」
○○「蓮見くん?」
蓮見「え?あぁ、着いた、ね。うん。」
○○「ふふっ、考え事?蓮見くんて、時々そんな風になるね?」
蓮見「そう、かな。まあ時々、そうかもね、ハハ。」
○○「ねぇ、なにを考えてたの?」
蓮見「それは……」
○○「ん?」
蓮見「もういいや。カッコ悪いついでだ……考えてたのはね、なんて言えば、上手く君を週末にデートに誘えるかってこと。」
○○「!!」
蓮見「でも上手い台詞が見つからないまま、家に着いちゃった。ハハ……」
○○「それじゃあ……」
『ちゃんと誘わなきゃダメ』
○○「上手くなくていいから、ちゃんと誘ってみて?」
蓮見「!!」
○○「………」
蓮見「あの……よかったら、今度の週末、ボクとデートしてくれる?」
○○「うん、いいよ?」
蓮見「よかった、ハハ……」
:
○○「じゃあ、ね?」
蓮見「うん、じゃあ。日曜の朝、迎えに来るよ。」
○○(蓮見くんとデートの約束しちゃった……まだちょっとドキドキしてる)
○○「お待たせ、蓮見くん!」
蓮見「おはよう。………」
○○「どうかした?」
蓮見「どうかしちゃいそうだよ……」
○○「ん?」
蓮見「あ、いや–なんか、今日は大人っぽいね?」
○○「この服?そうかな……あ、緊張しちゃう?着替えてこようか?」
蓮見「ダメダメ!……いや、いいんじゃない?クールだよ。」
○○「じゃあ、行こうか?」
蓮見「はい。あ、いや–行こう。」
:
○○(………… ぜんぜんストーリーが進まない……)
:
○○(セリフもチンプンカンプンだし……蓮見くんこういうのが面白いのかな?)
:
○○(ハァ〜……起きてるので精一杯。やっと終わった……)
蓮見「………」
○○「蓮見くん、どうしたの?」
蓮見「ゴメン……ちょっと、余韻にふけっちゃって。やっぱり古典は観る度に新しい発見があるな……」
○○「えっ!?この映画、何度も観たの!?」
蓮見「大好きな映画だからね。今日は監督の没後10年で一回限りの記念上映だったんだ。」
○○「そうなんだ……」
蓮見「どう?感想、聴いてもいいかな?」
○○「えっ?えぇと、感想は……」
『最悪。デートなんだから楽しませて』
○○「最悪……」
蓮見「あぁ、そうか……それは、残念。ちょっと難しかったかな。まあ、表現主義に慣れてないと–」
○○「そうじゃなくて……自分の好きな映画じゃなくて、二人で楽しめる映画にするべきじゃない?」
蓮見「あ……」
○○「デートなんだから、ね?」
蓮見「そうだね、うん……なんか、ゴメン。」
○○「わかってくれればいいの。はい、元気だして。行こう?」
蓮見「うん!」
:
蓮見「さてと……そろそろ家まで送るよ。」
○○「ありがとう。でも、一人で平気だよ?」
蓮見「デートの帰りは家まで送らなきゃ。カッコ、つけさせて?いいでしょ?」
○○「ふふっ、じゃあ、お願いします。」
:
蓮見「ハァ……もうすぐ、着いちゃうね。」
○○「いつも送ってくれてありがとう。」
蓮見「ねぇ……」
○○「なに?」
蓮見「よかったら、今度の日曜も、デートしない?」
○○「えっ?」
蓮見「二人は、もっとお互いのこと知るべきだと思う……違う?」
○○「それは……」
『そんなに急がないで……』
○○「そんなに急がないで、もう少しゆっくりじゃ、ダメ?」
蓮見「もう少しゆっくり……」
○○「そう。もっと時間をかけて、ね?」
蓮見「ごめん、ちょっと強引だったね。君の言うとおりだ。そうしよう。」
:
蓮見「じゃあ、また連絡するよ。君が納得するころ、きっと。……またね?」
○○「うん、待ってる。今日はありがとう。」
○○(蓮見くん、わかってくれたみたい……)
○○(あ、電話……)
○○「はい、もしもし……」
蓮見「あの、ボク–蓮見ですけど……ダメって言われてたけど、もしかして、気が変わったりしてないかと思って。ほら、こんなに天気もいいし、さ?」
○○「蓮見くん……」
蓮見「うそうそ、しつこいよね?ホント、ゴメン……」
『ダメ、またね?』
○○「ダメって言ったでしょ?またね?」
蓮見「はい–あ、いや、うん。もしかしてと思っただけ。いいんだ、それじゃ。」
○○(悪いことしちゃったかな……)
○○(あ、電話……)
蓮見「もしもし、蓮見です。」
○○「蓮見くん。」
蓮見「えぇと……ほら、そろそろどうかなと思って。デート日和みたいだし。」
○○(今日これからか……どうしよう?)
『もう少し先にして』
○○「もう少し、先にしない?」
蓮見「つまりそれは……今日はダメって、こと?」
○○「うん……」
蓮見「なるほど……タイミング、悪かったみたいだね。また、かけるよ。」
○○(悪いことしちゃったかな……)
○○(あ、電話……)
蓮見「もしもし、蓮見ですけど。」
○○「蓮見くん。」
蓮見「ちょっと時間が空いちゃったけど……そろそろかな、と思って。ほら、デートの約束。」
○○(そう言えば!どうしよう……)
『やっぱりまだ……』
○○「やっぱりまだ、もう少し時間が欲しいな……」
蓮見「そうか……つまりそれは、今じゃないって意味でいいんだよね?」
○○「うん……」
蓮見「うん、わかった……」
○○(蓮見くん、傷ついてたみたい……)
○○(あ、電話……)
蓮見「もしもし、蓮見ですけど。」
○○「蓮見くん。」
蓮見「ちょっと時間が空いちゃったけど……そろそろかな、と思って。ほら、デートの約束。」
○○(そう言えば!どうしよう……)
『やっぱりまだ……』
○○「やっぱりまだ、もう少し時間が欲しいな……」
蓮見「そうか……つまりそれは、今じゃないって意味でいいんだよね?」
○○「うん……」
蓮見「うん、わかった……」
○○(蓮見くん、傷ついてたみたい……)
○○(あ、電話……)
蓮見「もしもし、蓮見ですけど。」
○○「蓮見くん。」
蓮見「ちょっと時間が空いちゃったけど……そろそろかな、と思って。ほら、デートの約束。」
○○(そう言えば!どうしよう……)
『やっぱりまだ……』
○○「やっぱりまだ、もう少し時間が欲しいな……」
蓮見「ようやくわかったよ……つまりそれは……その"もう少し"は、永久のことなんだよね?」
○○「蓮見くん……」
蓮見「さよなら……」
○○(蓮見くん、傷つけちゃった……)
○○(喫茶アルカードに行けば、もしかするとまた……)
『(会って、ちゃんと謝らなきゃ)』
○○「会えたら、ちゃんと謝ろう。」
:
店員「いらっしゃいませ。」
?「アチッ!!」
店員「お客様っ、すぐおしぼりお持ちしますので!」
蓮見「や、だいじょぶ、ていうか、静かにっ!」
○○「……蓮見くん?」
蓮見「………」
○○「………」
蓮見「ボクは、あの、もう、帰るとこだから–」
○○「わたし、あの……」
『意地悪してゴメンなさい……』
○○「意地悪して、ゴメンなさい……」
蓮見「それは、つまり……」
○○「うん……だから、もし良かったらデートしない?」
蓮見「ゴメン。」
○○「え?」
蓮見「少し、考えてみる。」
○○「蓮見くん!」
○○("考えてみる"って、言ってくれたんだよね……)
○○(電話……)
蓮見「もしもし、蓮見です。」
○○「蓮見くん!」
蓮見「あれから、いろいろ考えたんだけど……」
○○「……うん。」
蓮見「デート、しよう。ほら、今日は天気もよくて、なんだかデート日和だし、さ?」
○○「蓮見くん……」
蓮見「迎えに行くから、支度して待ってて?」
○○「うん!」
○○(やっと蓮見くんとデート。よかった……)
:
○○「ゴメン、待たせちゃった?」
蓮見「ぜんぜん?………」
○○「どうかした?」
蓮見「ゴメン、いや……ちょっと、見とれちゃって。」
○○「今日の服?どう、似合うかな?」
蓮見「うん、そうだな、ほら、セクシーで気後れしちゃうけどそういう感じがまた、たまんないっていうか……」
○○「ふふっ、よかった。行こうか?」
蓮見「はい–あ、いや……行こう!」
:
○○「ハァ……楽しかった。ゴメンね、ショッピングにつきあわせて。」
蓮見「そんな、楽しいよ。」
○○「見るだけのつもりだったのに、たくさん、試着しちゃった。蓮見くん、おだてるんだもん。」
蓮見「おだててなんか!君って、なに着ても似合うから、お店の人も楽しそうだったし。まるで、女王様のお召換えみたい。」
○○「もうっ!」
蓮見「ハハッ!さてと。この後はどうなさいますか?女王様?」
○○「じゃあ次は……蓮見くんのお勧めの場所。」
蓮見「お勧めか……うん、決めた。少し遠いけど、いい?」
○○「うん、じゃあ、連れて行って?」
蓮見「はい。女王陛下の仰せのままに。」
○○「ふふっ!」
:
○○「わぁ……素敵なところだね……」
蓮見「うちの学校の屋上から良く見えるんだ。時々、一人で来るんだけど、いつか、その……彼女が出来たら、一緒に来ようと思ってた……」
○○「そっか、そうなるといいね……きれいなところだもんね?」
蓮見「だろ?ハハ……そうだよな、そりゃ……灯台の伝説、ならず、か……」
○○「なに?」
蓮見「ううん?うちの学校で代々語り継がれてる、伝説があって–いや、実はよく知らないんだ。」
○○「伝説か……わたしの学校にも、言い伝えがあるよ?」
蓮見「そう……どんなの?」
○○「愛し合っている王子様とお姫様がいて。王子様はお姫様への愛を試されて、世界の果てに追放されるんだけど……二人のお互いを思う気持ちで、最後はとうとう教会で結ばれるんだって。それでね、うちの学校にある古い教会が、その教会なんだって……」
蓮見「………」
○○「やっぱり、信じられないよね?そんなお伽話。でも、わたし–」
蓮見「世界の果てから、君の元へたどり着けば、ボクでも君の、王子様になれるのかな……」
○○「……蓮見くん?」
蓮見「わかってる……ボクには、無理なんだね?君のその笑顔が、そう言ってる。」
:
○○「到着……今日は楽しかったね?」
蓮見「………」
○○「蓮見くん?」
蓮見「あぁ、ゴメン……うん、そうだね。」
○○「また、考え事?今度はなに?」
蓮見「うん……あぁ、ボクの女王様はホントに素敵な人だなって、見とれてた。」
○○「もう……」
蓮見「もう、行くよ。今日はホントに、ありがとう。」
○○「そちらこそ。じゃあね?」
蓮見「さよなら。」
○○(蓮見くん、なんだか辛そうな顔してたけど……)
○○「あ、メール……蓮見くんから!」
蓮見「君とのこと。あれから、ずっと考えてました。やはり僕は、君が好きです。そしてやはり、僕には君の隣にいる資格が無いようです。僕はつまらない人間です。女王のように、自由で自信に満ちた君といると、自分が恥ずかしくて堪らなくなるのです。君の素敵な笑顔を見るたびに、それが目の前の僕じゃなくていつか現れる君の素敵な王子様のためにあるのだということがわかってしまうのです。物語の王子のように、強い人になれたらどんなにいいでしょう。でも、現実はそうじゃありません。これ以上、君を好きになるのが辛いのです。だから、さようなら。」
○○(蓮見くん……そんなに傷ついてたなんて。もう、会えないのかな?)