「んん…む…んうッ…」
この行為への、冥の戸惑いは傍から見ても明らかなものだった。
それが突然のものであれば、冥は進入してくる舌を噛む事もできただろう。
だが、御剣の時間をかけた動きは、かえって冥の躊躇を誘ったのだ。

…まるで御剣が同意を求めるような、そんな動きに冥は抵抗も出来ず、

素直に受け入れてしまう。

今なら…まだ間に合う。

そうこう考えている内に、歯茎を舐められ、唾液を求めてくる。
その感触に酔いしれる度に、抵抗の色はみるみる薄れていった。
「うむう…はうッ…れい…ひッ…」
御剣の喉が鳴るごとに、冥は自分が貪られていく事を嫌でも認識させられる。
頬は朱に染まり、整った眉を歪ませて、襲い来る感覚と快楽に耐える冥。
その顔はひどく艶やかで、…幼く思えた。
「ちゅう…んんむ…ぷは・・」
冥の意識が薄れてゆく中で、唇がようやく開放される。
「はあ…冥…!」
御剣は冥の前髪を軽く整えてやると、お互い、吐息を交換し合う。
「…何で…どうして…」
「…」
「…どうして…こんな事…するの…」

少し潤んだ、青の鮮やかな瞳で目の前の少女は問いかける。
…こんな状況は、望んではいないと。

そのあまりの愛おしさに御剣は一つ、息を飲んだ。


そしてそのまま。お互いを見つめあい、お互いの吐息を味わう。

───しばらくの間。

この少女を堪能できるという事に、御剣は興奮を隠せなかった。
そう思うと、御剣の息が自然に荒さを増してゆく。

…そしてついに冥が折れ、顔をぷいっと横に伏せた。

この仕草で、御剣のキャパシティは一線を越える。
「言っただろう冥…本当のフルコースは、これからなのだ…!」
そう言い放つと、一心不乱に冥の胸へ。がっぷりと顔をうずめる。
「あ、やあああッ!!!」
ちゅぱ…べろ…ちゅうううううう
御剣の舌が、冥の胸で暴れまわる。
「だめッ!レイ…ああああああッ!!」
桃色の突起に、これでもかというほど激しく吸い付く。
彼女の胸は形を変え、みるみる色を帯びてゆくのが見て取れる。
まるで飢えに飢えた獣のように冥の胸にかぶりつく御剣。

彼女の声は悲痛さを増し、目からはとうとう涙が零れ落ちた。
…それでも、御剣は止めようとはしない。

冥の華奢な体を両手できつく抱き締め上げ、むしろ勢いを増していった。
「きゃふああッ!レイジッ…やめてえええッ!!」
「ウム…ッ!いい声だ、冥・・!もっと…もっとだ!!」
御剣の腕に一層力が込められ、冥の上半身は折れ曲がりそうになる。
「あ、あ、あ、あああああ…!」
何とか逃げ出そうと両手に力を込め、顔を引き剥がそうとする。
「レイジッ…!離し…な…」
だが、胸を吸われる度に全身に快感と痛みが走り、思うように力が出ない。
「う…ああ…ッ!」


徐々に体から力が抜け、抵抗が弱まっていった。
(もう…これ以上されたら、私…)
「お、おねが…い…もう…もう・・わたしぃッ…」
「冥…美味い…美味いぞ冥…!」
「~ッ!…う…あぁ…」
その一言で冥の腕は御剣の顔を離れ、力なく垂れ下がった。

あとはもう、御剣の愛撫に身を任せる他無い。成す術が無くなったのだ。
(もう…もうだめ…力が入んない…これで終わり…)
御剣の動きに合わせて、冥の体が力無く揺れる。
「ふふ…ふはは…!観念したようだな冥…!いい子だ…」
「…ぁぅ…」
ちゅぷちゅううちゅぱちゅぱ…
冥はもう、動かない。動けない。…完全に御剣の手中に、堕ちた。
次第に声は無くなり、動きに合わせて漏れる息だけが聞こえる。
「クックック…」
暫くの後冥の表情がうつろげになってくると、御剣はようやく冥を開放した。
体を抱きかかえ、テーブルの上に臀部から上だけ横たえさせる。
それでも未だ冥の目は視点が定まらず、宙を泳ぐ。
「ふふ…本当に可愛い子だな…冥…」
冥の両腕を頭の上で押さえつけると、脇腹から脇の下にかけて一直線になぞる。
冥は震える吐息を漏らし、体をひくひくとよじらせる。
「ふふ・・ははは…ッ!!」
動かないのをいい事に、そのまま全身をさすってゆく。
「はああ…」
つま先から上にゆっくり。御剣の指が足、腹、腕、胸、顔と、余す所無く体に触れる。
その度彼女の顔は穏やかさを増し、…目を閉じ、口からは溜息が吐き出される。

御剣の指が、手のひらが、彼女の体に熱を残し、快感となって冥を刺激していった。


「さあ冥…大人しくなったところで、ごほうびをあげよう」
「うう…ん…や…」

返事かどうかもわからぬ冥の声を聞いたところで一呼吸置き、
御剣はゆっくりと、彼女の股間に周りこんでゆく。
「…あっ?」
股間に生暖かい息使いを感じて、冥は視線を送る。
…御剣の顔が、彼女の陰部を凝視していたのだ。
「い、いや…見ないで…ッ」
その言葉に何の反応も示さず、御剣は指で彼女の陰唇を広げてみせる。
「ふあッ…」
「ほお…!」
視界には薄い朱色に彩られた冥の秘部が広がり、ほんのりと水気を帯びたそこは、
店内の光を浴び、てらてらと輝く。
彼女の肌の白さと相対して、美しいコントラストを織成す。

…その様子はあまりにも、綺麗な光景だった。

「よく…ここまで綺麗に成長したな。えらいぞ…」
「ち…違う…そんな…の…ッ」
「くく…まあいいだろう。さあ、どこまで耐えられるかな?冥…」
そういい残すと、両手で冥の尻をがっちりと掴む。
「んあッ!?」
おもむろに足を開かせ、その中心目掛け、ゆっくりと顔を近づけていった。
「や、や、やぁ…ッ」
冥はいやいやと腰を振って身じろぎするが、御剣の指は臀部にしっかりと食い込み、離そうとはしない。

…覚悟を決めた冥は、目をきゅっと閉じて歯を食いしばる。



彼女にそのままかぶりつくよう、御剣の舌が冥の秘部を襲う。
「きゃ…はッ…」
ちゅぶ…ちゅぶ…べろっ…
まるでおいしいものを味わうかのように、御剣は冥をしつこく攻め立てる。
「ウム…なかなかの美味だ…!もっとだ、冥」
「はあッ…やああ、あ…」
舐め上げられるたびに、冥の体がびくん、びくんと振れ、堪えきれずに
冥のそこからは徐々に愛液が溢れだしてくる。
「クク…いいぞ、その調子だ」
待ち構えていたように、溢れだした蜜を音をたてて吸い尽くす。
「ふあッ!…だ、だめえッ…そんな…」
「…何がダメなんだ?こんなに溢れてるじゃないか。違うか?」
「そ…それは・・あッ・・」
「こんなに液を滴らせて…いやらしい子だ」
「違ううぅ…」
「お前はいやらしい子だ、冥」
「やああぁ…ッ!」
ふるふると首をふって、御剣の言葉を必死に否定する。
そう、これはすべてあの薬のせいだ。私がこんな痴態を晒す訳が無い。

…この狩魔冥が。
御剣の愛撫に快楽を感じていたのは、私ではない。

「わた・・し…知らないッ・・違うのぉ…」
「違う?違うものか。お前はこんな状況にも係わらず、私の愛撫を快楽と受け止めているんだッ…!違うか?」
「お願い…もういじわる…しないでぇッ・・ひっく…」
…冥の目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
いつもの口調とは違い、急に幼くなった冥に、御剣の欲望は募るばかりだった。


「ふふ…泣いて、またあの時のように…優しくして欲しいのか?冥?」
冥の頬を落ちる雫を、丁寧に舐め取ってゆく。
「・・ひっく…ごめんなさい…もう・・うぐッ・・許してぇ…」
…泣き出した冥を、御剣は子供の頃に目にしていた。
自らの、そして彼女の師である狩魔豪は、自分の娘である冥に対しても決して容赦は無かったのだ。

…よく慰めてやったものだ。懐かしいな…
冥は他人に涙は決して見せない。…だが、あの時はふと、御剣は目にしてしまったのだ。

───部屋にこもり、声を殺して泣く冥を。

当然、冥は虚勢を張った。しかし御剣が言葉をかけると、冥の表情はみるみる崩れてゆき、
彼の胸の中に顔を埋めて、わんわんと泣いたのだった。

お互い検事となった今も、…別れ際の空港で彼女の涙は目にしている。

…あの頃は本当に可愛かったものだ…
ある”期待”を込め、御剣は冥に言葉を投げかける。
「…許して…欲しいか?…冥。そんなに許して欲しいのかな…?この…私に」
御剣は冥のとある言葉を期待して、息を殺してその瞬間を待つ。
そんな事を御剣が考えているなど知らず、冥はすん、すん、と鼻をならしたあと、呟いた。
「お…おにいちゃぁん…」

ぐ…おおおおおッ…!
御剣の心は、破壊力抜群のこの言葉で完全に打ち崩された。
「め…冥ッ!!」
御剣は勢い良く、冥のクリトリスに吸い付いた。
「きゃふあああッ!!」
「お前は何て可愛いんだ…!もっと、気持ち良くしてやる・・!」
「そん・・なぁッ!話が…あ、あああッ!!」


ちゅううう…
同時に、指でも秘部を弄ぶ。ゆっくりと出し入れを続け、舌ではクリトリスを転がしていく。
「いやああッ!!ふあッ、やあッダメぇえぇええッ!!」
指の動きが、だんだんと激しさを増してゆく。さらに一本指を追加し冥の体を攻めたてる。

「いい声だ…!我慢はするな。そろそろ来そうなのだろう?」
ちゅくちゅくちゅくちゅくちゅく…
指の動きとともに、水音も激しさを増す。指の隙間から液がぽろぽろと滴り落ち、
テーブルクロスをあっという間に暗く染めていく。
「いやッ!あッ!あッ!もうッ!ダメッ!ええッ!」
冥のそこが、御剣の指をきゅうううっと締め付ける。全身が縮こまり、冥もまたテーブルクロスを握り締めた。

それを見た御剣は指を引き抜くと同時に、クリトリスに思い切り吸い付いてやる。

「きゃ…ひゃああああああああ!!!!」
冥の腰ががくんと宙に浮き、冥のそこからはぷしゅうっ、と勢い良く液が放出される。
「ふあ!ああッ!」
ぴゅっ、ぴゅっ…
「は…あああぁ…」

その光景を眺めながら、御剣は達成感に浸っていた。
「ククク…ハハハ!!よく頑張ったな冥…お前はもう…私のものだ…!」
「…あぁ…ッ」

ぐったりと頭を横倒す冥を見下ろし、御剣は冥の頬を舐めた。
冥の閉じられた目からは、涙がつつ…とこぼれる。


…その線は、頬に塗られた御剣の唾液の上に、細く引かれた。


「そっちはもういいのか、御剣」
「ああ…さて。…冷めぬうちにメインディッシュといこう」
二人の男はそれだけ交わす。
二人の少女は虚ろげに震える。

努めて、男達は貪欲だった。お互いに高まりきった象徴を開放すると、それぞれ位置取り、照準を定める。
「こんな…こんなの…」
「言っただろ、真宵ちゃん。メニューは?」
「お・・おまーるえびと・・アワビの…」
「うんうん」
「フリ…カッセ…ば・・ば・・」
「バルサミコ」
「ば…ばるさみこ…風味ッ…」
「ふふ…あははは…!はい、よく出来ました」
高笑いするなり、成歩堂は有無を言わさず真宵を貫いた。
「あぐあああああああああッ!!」
「はは…さすがにキツイね。メインなだけあるや」
「かはぁッ…やめ…いぎッ!!」
「それじゃあ、味わせてもらおうかな。真宵ちゃんを」
まだ痛みで苦しむ真宵の気持ちなど汲む事も無く、真宵を蹂躙していく成歩堂。

ゆっくりと力強く、真宵の内部を埋め尽くしてゆく。

「い…いやあああッ!だめッ!もうだめええッ!!」
真宵は泣きながら必死に訴えるものの、男の顔はいたって涼しげだった。
絶望に支配された真宵は、もはや抗う気も消え失せ、ただひたすら無心に努め、
…終焉を待ち続ける。

「うあ…あ…」
「そのまま大人しくしていれば、もう酷いことはしないよ」
真宵の尻肉に、成歩堂の腰が打ち付けられる。

その乾いた音とともに、彼女の内部で規格外の欲望が爆ぜていく。
「うっ、うえッ、ひっく、うぐッ」
「く…真宵ちゃん、そんなに締め付けられると…」
成歩堂のペニスを、ちぎれんばかりに締め付ける真宵。
その行為が成歩堂の興奮を高める事など真宵はわからず。
ただ、挿入された異物に抗いくて、体がそうさせたのかもしれない。
結果として成歩堂の快感は増し、さらに激しく腰を振る。

ぱんぱんぱんぱん…

「う…ううッ…」
「…真宵ちゃん…」

乾いた音、湿った音、乱れた息遣い。

そんな音に支配され、成歩堂にふと、疑念がこみ上げてくる。

…成歩堂の心の中で、何かが支(つか)えて飲み込めずにいる。


顔を赤く染め、涙を流して必死に懇願する少女。

…僕の心が変わりゆくほどに、思いを寄せる少女。

気づいていたのに。

僕は自分の欲望に任せて、この子を傷つけている事には変わりが無いのだ、と。

…自分は何をしている?

先程にも増して、自分の行為への罪悪感が大きくなり
そう思う程に、これ以上無理強いは出来ないと。
…そう、思うようになってきた。

少女は、自分の事が好きだといった。だから我慢しているのだ、と。

────ああ、僕は何てことをしてしまったんだ。
彼女の気持ちを知っていながら。

…何故ここまで突き進んでしまったのだ。


       ─────ごめん。


ごめん、真宵ちゃん。ごめん。ごめん。

「…ごめん」


気づけば、成歩堂の口から自然に、謝罪の言葉を口にしていた。
「…ごめん、真宵ちゃん…!僕は何て事をッ…!」
成歩堂の動きが止まる。
「…」
…様子が変わった男の顔を、無言で見つける真宵。
「謝っても許されないのはわかってる。僕は君の気持ちも考えず…!」
「…なる・・ほどくん」
「僕自身、さっきまでそう望んでいたんだ…!僕は最低な人間だな…」
「…」
何も言わず、成歩堂の頬に手をかざす。
…当たり前だな…彼女は僕を憎むだろう。
今も。そしてこれからもずっと。
「こんな事で君の気が済むとは思えない。好きなだけぶってくれ…!」
そう言うと、成歩堂は目を閉じて、歯を食いしばる。
…殴るだけなんて、到底足りない。
僕はもう自分自身をかけて、この子に償わなければならないのだから。



……

…どれくらい、経ったのだろう。

いつまで経っても、頬に痛みはやって来なかった。

────逆に、頬に軽く合わせられる指の感触。
暖かくて、小さくて、すごく気持ちいいものに包まれた気分だ。


「まよ…」
「あはは…!なるほどくんびっくり・・した?」
「…え?」
「もう・・私がなる・・ほどくんのコト、叩くと・・思ったでしょ」
予想外の反応に、成歩堂の緊張がほんの少しだけ和らぐ。

「…どうして」

…どうして笑っていられる?

…君は嫌がってたじゃないか。

「…どうして、そんな…」
「…私だって、嫌だよ。こんな形で…」
目を背けて、真宵はぽつりぽつりと言葉を搾り出す。
「…だけどね。それよりも私、なるほどクンの事が好き。
…こんなコトしなくても、私は好きだったんだよ。うん。」
「…あ…」
「だから・・こんなコトになった時、私…どうしていいかわからなかった。
なるほどくんに嫌われたくないから…
    私にはもう、なるほどくんしかいないから…」

「あ…あ…」

───目から、涙が溢れてくる。


真宵ちゃんはこんなにも。…こんなにも。


自分の行為が、より一層大きさを増して、自分に覆いかぶさる。
「ごめん…御免よ…真宵ちゃん…ッ!」
「ん…もう…こんなコト、しないでね…私いやだよ…?」
「うん…!うん…ッ!うん!」
「もう、泣かないでよなるほどくん…大人でしょ…?許してあげるから」

「あ……僕は、どうすれば…?」
「…じゃあ…最後まで、その…」

「…なるほどくんと、繋がっていたい…」

「……うん。わかったよ…!」
涙を拭うと、再び体勢を整える。
「…こんどは。やさしくしてね…」
そう囁くと、再び互いの存在を確認しあう。
先程とは違い、ゆっくり、優しく。


────ああ、僕はもうこの子を幸せにしてやるしかないんだ。

────もう、なるほどくんしかいないんだよ…


──────ひどく暖かく、心地よく感じられる。──────


       もう、お互いに離れることは無いんだ、と。


 軽くキスを交わす。
         …もう二度と時が動くことはないよう思えた。







「…ッ!冥ッ…!」
「ああ…ん・・」
冥の手を握り締め、御剣はひたすら、行為に溺れていた。
「ん…む…」
動きながらも、彼女の唇を奪う。
「んふぅ…ッ・・おにいひゃ…ん…」
…可愛い。
昔から何度も、焦がれて、焦がれて、心が焼かれてしまいそうだった。
───いつもそうだ。この子は。
表面では強がりを見せても、内面ではこんなにもしおらしく、
少し力を込めれば手からすり抜けていってしまうような。
そんな脆さと儚さで。だから…

どうしても愛してあげたくて、守ってやりたくて。

あの鞭は、そんな弱い自分を周りから守り抜くための彼女の心の現われなのだろう。

冥の小さな手。冥の細く華奢な体。冥の綺麗な顔。そして、冥の心までも。

────全て、守ってやりたい。


「冥…」
「?…うう・・ん…・・?」
「私の…兄の前では…強がることはないんだぞ」
「…え…?」
「お前は…お前の心は、いつも一人だ。…昔からそうだよ。お前は」
「…ッ…」
「つらいことも、周りから押しつぶされそうになった時も、すぐに自分の中にしまい込んでしまうだろう…
…誰にも頼る事無く、たった一人で、だ」
「…あ…」
「…だが、一人で全て受け止めることが出来るほど、人は強くない。
だがお前は…ここまでそうしてこれたのだろう?」

冥の顔が、真っ赤に染まる。目は細くなり、ただ御剣を黙って見つめ返す。

「…狩魔の名であろうが…裁判で負けようが…そんな事を重く感じるコトは無いのだ」
「…おにい…ちゃ…ん」
「…お前はここまで、自分の力で頑張ってきた。もうお前は十分、立派に『狩魔』を乗り越えたんだよ」

…冥の目から、涙がとめどなく溢れてくる。

誰にも打ち明けられなかった、自分の努力。心の内。
父に認めて貰いたくて、ただがむしゃらに強くなろうと決めた、幼い頃から今までの自分。



それに繋がれた”鎖と鍵”が、御剣の言葉で音を立て、
全て取り払われたような気がした。


「うう…うッ…えぐッ…」

「…辛かったろう。…苦しかったろう?だがもう、お前は自由なのだ。
誰にも囚われる事は…無いんだぞ」
「う…うああああああああん!!!」

御剣に思い切り抱きつくと、彼女は心の底から泣いた。

…悔しかった。認めてもらいたかった。だから、こんなにも頑張ったんだよ…!

「わたし…わたしッ…!頑張ったよ…!頑張ったんだよ…ッ!」
御剣は冥の体を優しく抱きとめると、頭を軽くなでてやった。
「…わかってるよ、冥…周りがどんな目でお前を見ようと、私だけは変わらない。
…大丈夫だ。もう、無理はしなくてもいい。私がいるのだから」

冥がつかんだ御剣の肩からは、軽く血が滲む。
そんな痛みなど無いかのように、努めて御剣は冥を抱きしめた。




「うう…ッ…ひっく、えぐッ」
「…冥」
冥の気持ちが収まるのに、かなりの時間が経ったかのように思われた。
御剣はそんな冥の泣き声を一つ一つ聞きいれ、全て優しさで返した。
「…もう大丈夫か?」
「ぐす…ッ…うん…」
「…冥。こんな形で君を求めてしまって…」
「ん…いいの…」
「…すまない」
そういうと、どちらからでもなく、唇を求めた。
「…いいのか?」
「…今更尋ねられても…もう遅いわよ」
「…ふ…」
「…それに…」
「…なんだ?」
「…私、アナタの事、少しは見直したからね…」
そう言うと、冥は御剣に笑いかけた。

…その笑顔は、御剣も見たことがないほどに…輝いていた。
今までのしがらみを全て断ち切り、何一つ背負うものが無くなった彼女の、

初めての幼い笑顔。


────いつまでも、その輝きを見つめていたかった。

「冥…ッ」
「…アナタがそこまで言うなら…頼りに…してるから」
「…光栄だな」


軽く笑みをこぼすと、再び冥の内部に集中する。
「ん…」
冥は恍惚とした表情で、御剣を心の底から受け止める。
そんな彼女に応えるよう、御剣も深く、深く、彼女を求めた。
「む…ッ」
「ああ…んはあッ…」
ゆっくりとした動きが、徐々に、そしてお互いに激しさを増す。
お互いを深く理解し合える喜びに、二人の体はうち震えた。
「冥ッ…!いくぞ…!」
「あああッ!はあッ!んん…ッ!」

冥の全てが、真っ白に塗り替えられてゆく。

偽りの自分を捨て去り、”リセット”してくれた御剣に全て預け。

…これほどの喜びを感じた事は無いと。


「むッ!!おおおおお!!」
「んん…ああああああああんッ!!!」

冥の全てを、御剣が白く埋め尽くしてゆく。


これで私は、自由なんだ…本当に、自由なれたんだ…





   …冥は、優しく目を閉じて、温もりを心から感じた。







「その…本当にごめんよ!」
「…申し訳ない」
二人の男は、二人の少女の前で跪き、許しを求めていた。
「だ~か~ら!もういいよ、二人とも!」
「…まあ、誰かさんが薬を使うなんて思ってもみなかったけど…?」
「ね~?…でも、お互いに気持ちが知れたからよかったでしょ!?」
「本当にすまない!僕達、ほんっと鈍感だよ…反省してる」
「…同じく」

「ふ~ん…ホントに反省してる?それじゃあ…私みそラーメンね!」
「(そんなものでいいのかよ…)」
「…私はどうしようかしらね~…いろいろ欲しいものがあるんだけど?」
「…ぐうッ…!!」
「何よ、その顔はッ!!」
ビシィッ!
「ぐおおおッ!しょ、承知した…ッ!」
「あ!あとトノサマンのヒーローショーも追加ねッ!頼んだよなるほどくん!」

そんなやりとりのなか、再び腰をぶるん、ぶるん、と振りながら
この店の店主が顔を出した。
「モ…モン・デュッ!!アナタ達の情事、覗かせてもらっちゃったわあ!!」
「なッ…!(み、見てたのかよ…)」
「ああん!ワタシもそんな情熱的な恋がしてみたいわあ…!
ワタシったら、アナタ達のを見てたら、興奮しちゃって…!」


御剣が一歩、後ずさりする。
「…ま、まさか店主…アナタはッ…!」
「バカなオンナよぅ!笑ってやってちょうだいな!」
「(絹を裂くようなオトコの悲鳴…)」
「ど…どうしたんですかッ!店長、具合でも悪いんですか!」
「…真宵ちゃん、聞かないほうがいいよ…」

「ユ…ユイ・マンソンジュ!ワタシったら、恥ずかしいオンナね…
でも、アナタ達良かったじゃないの!末永くお幸せにねぇ!
そうれ、オーエス!オーエス!」

「は、はあ…とにかく、お世話になりました。ホンドボーさん」
「ジュ・ヴザン・プリ!またいらしてちょうだいな!
ああ、そうそう、これを渡しておくわね」
そう言うと、先程の小ビンを二つ、手渡す。

それを受け取った冥の顔は、ひくひくと引きつっていた。
「…んなッ!!」
「これからも何かと必要でしょう?これ、格安で譲るわ?挫けちゃだめよ!
そうれッ!オーエス!オーエス!」
「…余計なお世話よッ!!」
ビシビシビシビシビシビシ
「きゃあああああああああああああッッ!!」
「(悩ましげなオトコの悲鳴…)」







「それじゃ、どうも」
「またねー!店長さん!」

ばたん…ちりんちりん…

「…ウチのお店、愛をはぐくむラブホテルに変えようかしら…」
全身の置き土産を痛そうにさすりながら、店主はそう呟く。
「冗談だけど…!それにしても…はあ…」

カウンターに肘をつきながら、少しだけ笑みを浮かべる。



「…妬けるわねぇ」



まだ暖かい秋の道を歩み始めた、二組のカップル。
…その幸せそうな後ろ姿を眺めながら。



                                (繁盛の秘訣  終)
最終更新:2006年12月12日 21:13