その言葉が脳に届くまで数秒。意味を理解するのに数秒。どんな返答をすべきかで迷うことに、また数秒。

「は?」

 そうして出てきた言葉は、もう少し何かなかったのかということを正直認めざるを得なかった。

「好きだよ、なるほどくん・・・ッ」

 最後の方は消え入るようだった。
 相変わらず真宵は向こうを向いているため表情が確認できないが、吹き出ている蒸気から察してもかなり真っ赤なのであろう。

「ほんとはさ。ハタチまでにとか、そんなことどうでもよかったんだ。わたしの周りの子とか、全然そんなの気にしないような子ばっかりだし」
(そりゃ、あんな山奥じゃ出会いもないだろうからなあ・・・・・・)

 倉院の里を思い起こす。
 後から聞いた話だと一応向こうにも学校なるものが存在していて、さらには共学であるらしいのだが、
男は大体もっといい学校に入るため、または働くために早い時期に里から出て行ってしまうため、ほぼ女子高と呼んで差し支えない状態らしい。
 生徒数も両手で数えられる程度だともいうし。
 そんなところでは恋愛するほうが難しいだろう。

「ほ、ほんとはね」

 真宵はかすれた声でなんとか話を続ける。

「ほんとは、言う気なかったんだ。ずっと。わたしがはみちゃんとなるほどくんのお姉さんでいる、今のままでいいって。
 そう思ってたんだ。だけど、ナツミさんからあの本もらって、読んでみて、そして・・・・・・」

 話が一瞬途切れた。
 どうも一息で全部言おうとして息が切れたらしい。すはあ、とまた息を吸い込む音が聞こえる。

「・・・・・・そしてね、『ああ、やっぱり初めての人は好きな人とがいいなあ』なんて思ったら、どうしても気持ちが抑えきれなくて」
「真宵ちゃん」
「だから、ハタチの話は、あれ口実。ほんとは好きだって告白しようかなって思ったんだけど、やっぱり恥ずかしくて。
でも初めてはなるほどくんとがよくて、だから告白なしでしちゃおうかな、なんて思ったんだけど、
でもこれからもっと恥ずかしいことするのに比べたら、なんだか告白も恥ずかしくなくなっちゃった。あの・・・・・・ば、馬鹿だよねあたし。あはは」

「真宵ちゃん」

 真宵が黙って、場が静まり返った。恐る恐るといった感じに、彼女は顔をこちらに向けてきた。
 その顔は想像通り真っ赤で、そして何故か目に涙を溜めていた。恐らく感情が昂ぶったのだろう。

「僕はただのしがない弁護士だ」
「うん」
「正直言って、僕よりもいい男なんてこの世にはたくさんいる」
「うん」
「・・・・・・・・・・・・」

 自分で言っておいてなんだが、そこを頷かれると少し複雑な気分になる。
 が、ひとまずそれは置いておく。

「真宵ちゃんは、そんな僕が初めての相手でいいのか?」

 最終確認のつもりだった。

「違うよ、なるほどくん」

 潤んだ目で、だがしっかりと真宵は成歩堂の目を見据えて言った。

「なるほどくんで、じゃなくて、なるほどくんがいいの」



 体が熱くなっていくのがわかった。それが愛なのかどうかは知らないが、ただわかることは、これが以前にも感じたことのある熱さだということ。
 かつて『彼女』に対して感じた熱さだということだった。


「ところで、真宵ちゃん」
「ん?」

 ネクタイを解いてそこらへんに投げ捨て、自分もベッドの中、真宵の隣に入りながら、
成歩堂は小さくうずくまっている彼女に呼びかけた。

「実は僕・・・・・・その・・・・・・本当は21歳が初めてだったんだけど・・・・・・・・・・・・」
「やっぱり」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




 ベッドに入ると、弾力で一瞬宙に浮いたかのような錯覚を覚える。我が家の敷布団では絶対に味わえない感覚だ。
 真宵は気恥ずかしいのか少しうずくまった姿勢で顔を下に向けているので、表情を見ることはできなかった。

「?」

 と、そこで初めて成歩堂は、ベッドの中のこの少女の肩が微かに震えていることに気づいた。
 寒いのかな、なんて馬鹿な考えを一瞬したが、すぐに思い直した。何のことはない。当たり前のことだ。

(怖いんだな・・・・・・)

 いくらこれからすることに対して大丈夫な風に振舞っていても、やはり初めて経験なのだ。怖いに決まっている。
 それがわかると同時に、今まで気づいてやれなかった自分の愚かさを悔いる。

「なるほどくん」

 そんな彼の心中を知ってか知らずか、彼の胸あたりに頭を軽く押し付けていた真宵は顔だけ少しあげて、こちらを上目で見つめてきた。

「大丈夫、だから」

 笑っていた。それはいつもと何ら変わりない笑顔のように思えた。少なくともその表情からは彼女の心情を読み取ることはできない。
 しかしそれが逆に、不安や怯えといったものを心の底に秘めた上で笑っているのだということを成歩堂に伝えた。
 だから、抱きしめてやった。

「っ、ちょっ、なるほどくん?」

 真宵が腕の中で戸惑った声をあげる。
 1人だと2、3度横に寝返りを打ったぐらいじゃ落ちる心配のないくらいに大きなベッドの中、両腕で真宵の華奢な体を抱きしめている。
 力を込めたら簡単に折れそうなくらいに細い体。片腕だけでもすっぽり包み込めるくらいに小さな体。
 薄地の小袖ごしに彼女の体温が伝わってくる。風呂上りだからか、暖かい。
 しばらくして・・・・・・。
 時がどれだけ過ぎていったのかはわからないが、ふと気づくと、彼女の震えはもう止まっていた。
 抱きしめていた力を緩めて、真宵の顔をあらためて見た。
 彼女は微笑んでいた。それはさっきの笑顔とはどこか違ったように思えた。

「ありがと」

 静かな部屋の中、彼女の声がやけに大きく聞こえた。

「もう、ほんとに大丈夫だよ」
「うん」

 こちらも少しだけ微笑んだあと、彼女の顎を持ち上げ、ゆっくりとその顔に自分の顔を近づけていった。

「ん・・・」

 まずは軽く触れるくらいの口付けをし、そしてすぐに離す。
 横に寝転んでいて右は二の腕から彼女の体に押しつぶされて容易に動かすことができなかったので、左腕で少し抱きかかえて引き抜いた。
 そしてその解放された右の手で、真宵のすべすべした頬を撫でた。

「へへ、ファーストキス」

 真宵の目は潤んでいた。それは嬉しいからか、あるいはもっと複雑な想いが秘められているのか。
 そんなことを考えたが、ずっと見ている内にまるで彼女の瞳の中に吸い込まれていくような錯覚を覚え、
それを振り払うかのように成歩堂はまた彼女の唇に自分のそれを重ねた。
 今度は少し押し付けるように。

「ふむっ、ん、んむ・・・」

 真宵の鼻息が自分の顔にあたる。くすぐったい。
 また唇を離す。そしてまた、さっきよりもさらに強く唇を重ねる。角度を変えつつ、それを繰り返した。何度も、何度も。
 何回目からか、真宵のほうから腕を成歩堂の首に回してキスしてくるようになった。
 それがなんとなく嬉しくて、右腕は彼女の腰に回して左手を後頭部に置き、自分からも押し返した。真宵の体の感触を全身で感じる。

「んちゅ・・・む、ふう・・・」

 と、その時、成歩堂は自分の口の中に何かが侵入してきたことに気づいた。
 それは一旦入り込んだはいいが、それからどうしたらよいのかわからずに戸惑っているようだった。
 だからこちらから迎えてやる。

「んむう・・・むっ!?むううううっ」

 妙な声をあげる真宵に内心苦笑しつつも、成歩堂はそれらを絡み合わせ続けた。ちゅぱ、ちゅぱと唾液が混ざり合う音がする。
 唇の端から唾液が零れ落ちそうになるが、気にせずにキスを続ける。シーツの上という純白の世界に2、3滴の染みが生まれる。
 絡み合い、離れ、まるで食べるかのようにまた重ね、吸う。
 やがて・・・・・・。
 成歩堂は真宵から顔を離した。舌同士を繋ぐ銀色の糸が現れ、そしてすぐに途切れて落ち、一際大きな染みを作った。
 真宵はハア、ハアと息をついたあとしばらく何も口に出さずにぼーっとしていたが、

「キスってさ」
「ん?」
「キスって甘いものなんだって、はみちゃんが言ってた」
「・・・・・・ご感想は?」

 何か考え込むように首を傾げる真宵。が、やがて何か思い当たったらしく、ぱっと首をあげて

「キシリトール味」
「なるほど」

 そういえばキシリトールガムを普段から食べていた。
 弁護士という職業は清潔なイメージも大切にしなければならないという、千尋さんからの教えだ。

「変な感じー。もっとなんかこう、チョコレート味とかシュークリーム味とか、そんなのを想像してたのに」
「・・・・・・辛党の人にとっては災難な話だね」
「でも、さ」

 もじもじと恥ずかしそうに、目をこちらから逸らして真宵はどことなく早口で言った。

「なんか、よかった。キス」
「・・・・・・・・・・・・」
「あ、や、ちょっとなるほどくんっ」

 その姿に愛らしさを覚え、成歩堂はもう1度、彼女を抱きしめたのだった。




「わたしの胸、やっぱり小さい?」

 小袖を上から脱がし、二の腕のところまで下げる。
 電気を消してはいるが、もういい加減目も慣れているので真宵の控えめな胸がちょこんとあるのが見える。
 ついでにぽつんと所在なさげに存在しているピンク色の乳首も。
 さらしをつけるものなのかと思っていたがそうでもないらしい。
 まあ考えてみると今の時代さらしもない。普段着の時は普通にブラでもつけているのだろう。
 ちなみにこちらはすでに上半身は脱いでいる。

「んー・・・まあでも、大きけりゃいいってもんじゃないし」
「なるほどくん、ロリコン?」
「どこからそんな言葉覚えてくるんだよ・・・。まあでも、まだまだこれから成長する可能性だってあるしさ」
「そうかな・・・・・・わたしも、お姉ちゃんみたいになれるかな?」
「・・・・・・千尋さんは難しいかもしれないな・・・・・・触ってもいい?」
「どうぞ・・・って、あんまりこういうこと言わさないでよお」

 それには答えずに、成歩堂は優しく、はだけた真宵の胸に手を添えた。
 胸が小さいといってもやはり『無い』わけではない。柔らかな感触がそこにあった。

「ん、あ。んん・・・」

 小さく声をあげる真宵。

「・・・小さいと感度がいいっていうの、ホントなのかな」

 言いながら、ためしに右の胸の乳首をつまんでみた。

「感度って、なに・・・・・・あ、ひゃんっ」

 と、口から漏れ出た声が自分の発したものであるということが信じられないかのような表情になる。

「・・・つまりそういうこと」
「そういうことって、なに、が・・・あっいやっ、あっ、あんっ」

 左手で胸に触れる。本当は掴んでみたいのだが生憎とそうするだけの質量が絶対的に足りない。なので手繰り寄せる感じで胸を揉んだ。

「い、いやっ、なるほどく・・・・・・っ、ふ、あはぁっ」

 成歩堂はその手繰り寄せた胸の先端にある乳首を横から摘まみ、さらにその横から舌で舐める。少しするとつんと立ってきたので、それを唇に含ませた。
 ころころと舌で転がしたり、軽く噛んだり、吸ったりする。

 ちゅっ、ちゅぱっ、ちゅ・・・ちゅう

「ひゃっ!くすぐった・・・あんっ!」

 乳首から時折唇を離し、唾液で彼女の胸を塗りたくってゆく。右の胸も同じようにする。
 その度に彼女の喘ぎ声がした。

「・・・・・・・・・・・・しまった」

 成歩堂はそこであることに気づいた。
 自分でやっておいてなんだが、唾液で滑りやすくなって胸を手繰り寄せにくくなったのだ。仕方なく、もうちょっと無理矢理寄せてみることにする。

「い、ひゃっ!?」
「あ、ごめん。痛い?」

 ぱっと手を離した成歩堂。さすがに無理矢理というのは痛いのだろうか。

「い、痛くはない・・・っていうか・・・・・・」
「ん?」
「な、なんでもないっ」
「・・・・・・・・・・・・」

 ばっと慌てて向こうを向いて寝返りを打った真宵を見て、なんとなく成歩堂もわかってきた。
 とりあえず、この体勢は逆に好都合だったりする。

「うひゃっ!?」

 彼女の脇の下から両腕を通して胸を少し強めに揉みしだきつつ、舌をうなじに這わせた。
 長い黒髪が邪魔なのでまとめて彼女の肩にかけておいた上で。
 胸にやった手はテクニックなど特になく、ただとにかく本能にまかせたまま動かしまくった。
 こねくり回したり、引っ張ったり。

「いっ、あ、ああんっ!うあ、あっ!ああっ!」

 突然の成歩堂の動きに嬌声をあげながらもじたばたともがこうとする真宵だが、
まだ小袖に手を通したままなので、それが邪魔をして自由に手が動かせない。
 それをいいことに、成歩堂は手は動かしつつ段々と舌をうなじから背中へと下げていった。

「んひゅいいいい・・・・・・・・・っ」

 ぞくぞくぞくっと体を震わせる真宵。たまに唇を触れさせてみるとびくんっと体が跳ねる。本当に敏感な体だ。
 彼女が暴れるため、さっきまとめて肩にやっておいた黒髪がばさっと成歩堂の頭の上にかかった。

「い、ひゃっ、なるほどくんっ、ちょっと、やめっ」

 と、突然真宵の体が反転して再びこっちを向いた。
 どうやら腕を自由に動かせないのが小袖の仕業だということに気づいて脱いだらしい。
 下はまだパンツをはいているが、上は完全に真っ裸になっていた。
 もう既に見ているのだから気にすることはないと思うが、右腕で軽く胸を隠している。

「もっと優しく・・・」
「はは、ごめんごめん」

 真宵の反応がいちいち面白くて、少し悪戯心が芽生えていたのだ。

「わかった。優しくだね」
「い、いやでも・・・少しくらいなら強くしてもいいよ?」

 わがままな女と思われたか!?といった焦りの気持ちが表情に表れている。
 真宵がわがままであるということは今までの付き合いからとうの昔にわかっている。
 というか、それは別にしてもこの程度でわがままなどとは思わないし、ましてや
嫌いになるなんていったことはありえない。

「安心していいよ。大丈夫だから」
「や、でもほんとに少しくらいなら・・・んっ」

 なおも喋ろうとする彼女の唇を塞いだ。
 とりあえず胸を隠していた右腕を優しく取り除き、また胸を揉んだ。さっきのように無理矢理ではない。
 手の動きに応じて口付けをした状態の彼女の息が荒くなる。
 これからもっと荒くなるんだろうか・・・なんて思いつつ、
成歩堂は胸を扱っている手とは別に、もう片方の手を彼女の下を覆っている下着へとゆっくりと伸ばしていった。

「んふひゃんっ!?」

 急に唇を離して真宵は奇妙な声をあげた。自分の下で何かが這っているということに気づいたのだ。

「な、なるほ・・・ひゃっ」

 下着の上から指を這わす。真宵らしい無地の白い下着は最初に触れた時から既に濡れていた。
 エッチな小説とかじゃ『おいおい濡れてるぜ?感じてるんだな』なんてここで言うんだろうなあ、なんて思った。
 とてもじゃないが自分はそんなことがシラフで言えるようなキャラではない。
 成歩堂はやがて指を下着の中へと入れた。その瞬間、真宵が一際高く嬌声をあげた。
 動きをゆっくりから段々と激しくしていく。
 優しくと言われたのでなるべく強すぎないようにとは配慮したのだが、それでも真宵は非常に敏感に反応した。
 部屋に彼女のあげる声と愛液のぐちゅぐちゅという淫靡な音だけが響く。

「も、だめっ」

 なおも動かしている手は休めない。

「だめ、いや、あ、いや、なんか、くる、くるっ」

 それでも休めない。

「いや、いや、あ、くる、くる、くる、あ、あ、あっ!」

 むしろ最後のひと踏ん張りとばかりに動かし続けた。

「あ・・・・・・っ」

 真宵の喘ぎ声が途切れ、彼女の背がぴーんと反った。
 がくがくと体を震わせていたが、やがて全身から力が抜け、まるでベッドに沈んでいくかのように脱力したのだった・・・・・・。




「大丈夫、真宵ちゃん?」

 心配そうに成歩堂は声をかけた。真宵の目は焦点が合わずに虚空を彷徨っていたが、少ししてびくっと目覚める。

「・・・・・・?っ、あ、ああ、うん。だいじょぶだよ。なんか霊媒してる時みたいにぼーってなっちゃった。あはは」

 今のはイクっていうんだよ。と教えようかと迷ったがやめておく。

「続き、できる?」
「う、うん」

 おずおずとそう答えると、真宵は布団の中に一旦下半身を隠してから
身につけていたパンツを脱いで床に投げ捨てた。その間に成歩堂も下を脱いだ。

「うわ」

 真宵が成歩堂のモノを見たときの第一声はそれだった。

「なんていうか、グロテスクだね・・・」
「か・・・感想とかは別に言わなくていいから」

 まじまじと見つめてくる真宵に背を向けて、成歩堂はコンドームを装着した。
自分も一応持っていることは持っているのだ。・・・・・・ただ使うきっかけが今までになかったのだが。

「さて・・・・・・」

 見ると真宵は布団に全身を隠し、顔だけを出して待っていた。

「なるほどくん、あらためて、お願いします」

 成歩堂はとりあえず

「こちらこそ」

 とだけ答えた。


「大丈夫、真宵ちゃん?」
「うう・・・だいじょぶじゃない・・・・・・。痛い・・・・・・」

 予想はしていたが、ただでさえ小さい体である真宵の中に挿れるのは一苦労だった。しかも処女だ。
 ゆっくりとやっていたんじゃ埒があかないので、彼女に断りを入れてから一気に突いたのだが・・・・・・。
 現在、中に入ったまま真宵が脚を成歩堂の腰に回し、抱きついたままの状態で静止している。もの凄い力だ。それだけ痛いのだろうが。
 見えないが、真宵のそこからは血が流れているのだろう。痛いのは当然である。
 痛いといえばこちらとしても真宵の中は凄い締め付けでちぎれそうなのだが、なんとか表情には出さないように努力した。

「も、もうやめとこうか?」
「やだ!頑張るから・・・・・・最後までしようよ」

 目に涙を溜めたまま、真宵はそう言った。

「そ、そう。あの、じゃ・・・動くよ?」
「うん。・・・・・・ん、あっ、い、いた!・・・く、ないぃ~・・・いっ」
(本当に大丈夫かな・・・)

 恐る恐るといった感じで、なるべく激しくしすぎないように腰を動かす成歩堂。あんまり強くしたら彼女の体が壊れてしまいそうに思えてしまう。
 それよりなにより、彼女にあまり痛みを感じてほしくなかった。最初は仕方ないのかもしれないが。

「うあっ、ん、あくっ、い、いた、いく、ない、いっ」

 思えばあやめも最初の頃はこんな感じだった。
 そんなことがふっと頭の中をよぎったが、セックスしている時に他の女性のことを考える
というのは真宵に対して失礼な気がして、首を振ってそれを忘れようとする。
 真宵は涙をぼろぼろとまではいかずとも流しながら、ぎゅっと目を閉じている。
 なんとはなしにその涙を自分の舌でなめ取ってやった。が、真宵は今自分が何をされたのかも気づかずにただ痛みに耐え続けていた。

「ふ、うあっ、あっ、ああっ、んあぁっ!」



 成歩堂が腰を動かす度に痛みが増してくるようだった。
 今までの彼女の、学校のクラスメイトたちと話したりして得た知識では、している内に段々痛みは和らいでくるという話だったが、そんなことは全然ない。
 痛い。とても痛い。詐欺だ。
 だけど。
 痛いけど、不思議とやめたいという気持ちにはならなかった。
 成歩堂が自分を見つめている。彼に気持ちよくなってほしかった。たとえこっちがどんなに痛くても。
 さっきは自分がまるで自分でなくなるような気がして、怖くて、それで優しくしてくれと頼んだのだが、今ではもうそんなことどうでもよかった。

「なるほどっ、くんっ」
「なに?」

 抽送を続けていた成歩堂だが、やがてこっちに限界が近づいていることがわかってきていた。
 だから段々と腰の動きが早くなってゆく。抑えようとしても抑えきれない。

「きもち、いい?」

 真宵はそう言って、また涙で滲んだ目でこちらを見つめてきた。

「うん・・・もうそろそろ、限界かも・・・・・・」
「もっとっ、激しくして、いいからっ、ねっ!なるほどくんにいっ、気持ちよくなってっ、ほしっ!・・・いっ、からあっ!」

 ぎゅうっと、真宵はさらに強く成歩堂の体を抱きしめた。
 その一言で成歩堂のタガが外れた。

「ふいっ!あ、あくっ!あ、い、あうっ、ああ!」

 大きく、激しく。成歩堂もベッドについてた腕を回して真宵の小さな体を抱きしめた。

「ぜん・・・っぶ・・・はいっ・・・っ」

 物凄い圧迫感。息ができない。自然と涙が溢れてきた。これは痛みのせいじゃない。

「真宵ちゃん・・・・・・っ」
「なるほどくん、なるほどくん・・・っ」

 真宵は腕を一旦解いて成歩堂の顔を両手で掴むと、強く口付けた。舌も入れた。そしてまた腕を絡めた。成歩堂の腰の動きがさらに激しくなった。
 奥まで届いている。この激しさが、彼が気持ちよくなっていることを物語っていた。嬉しい。それだけで、体が芯から温かくなってゆく心地がする。
 やがて腰の動きが小刻みになった。

「真宵ちゃんっ、出すよっ・・・」
「うん・・・・・・っ」

 一瞬成歩堂の体が強ばり、そして今までで1番強く抱きしめてきた。今、せーえきが出
てるのかな、なんて思ったが、コンドームをしているためだろうか特に何も感じなかった。

 こうして、真宵の初体験は終わった。




「ごめん、真宵ちゃん。なんだかんだ言って最後は僕の好きなようにしちゃって・・・」
「ううん、いいよ。わたしもなるほどくんに気持ちよくなってもらいたかったから」

 ベッドで2人添い寝をしながら会話していた。今が何時なのかわからないが、もう外は真っ暗だ。

「そっか・・・。ありがとう」
「わたしも最後だけはちょっと、その・・・気持ちよかったし」
「え?」

 嘘ではなかった。たしかに痛みもあるにはあったが、なんだかそれも薄らいでいったような気がしたのだ。気持ちの問題だろうか。

「だから、さ」

 真宵は裸のまま成歩堂の上ににじり寄ってきて、そしてにこっと笑って、告げた。

「もういっかいしない?」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「一体どうされたのですかなるほどくんは?」
「あ、あはは。さあねー・・・あ、ほらはみちゃんっ、もうそろそろ『真ヒメサマン・改!』が始まるよ」

 事務所のソファーの上、生気がなくなったかのようにうつぶせで倒れている成歩堂を心配そうに見つめる春美。

「大丈夫だよ、春美ちゃん。心配してくれてありがとね・・・」

 そう力なく笑う。
 昨夜から一体何回したのかわからない。
 真宵がちゃんと気持ちよくなってくれたのはこちらとしても嬉しいのだが、正直若い娘の体力をなめていた。 実は腰には無数のサロンパスが張られてもいる。
 春美はなおも心配そうにしていたが、とりあえずヒメサマンを見るためにテレビのほうへと行ってしまった。

「ふう」

 仰向けになるためにごろんとソファーの上で寝返りを・・・打とうとして打てなかったので、うつぶせのまま成歩堂は息をついた。

(今日は開店休業日だな・・・・・・)

 と。

「なるほどくん」
「あれ、真宵ちゃん。ヒメサマン観るんじゃないの?」
「うん。でも、ちょっとだけ」

 なんだかどこか沈んだ雰囲気だ。
真宵は寝転んでいる成歩堂の脚の方にちょこんと腰掛けた。大して重くはないのでさほど苦にはならない。

「・・・・・・・・・・・」

 しばらく黙っていたが、やがて彼女は口を開いた。

「なるほどくんが迷惑なら、忘れていいよ」

 この体勢では真宵の姿が見れず、声だけが聞こえる。言いにくそうであったわりには、しっかりとした口調だった。
「わたしはなるほどくんが好きだけど、なるほどくんは・・・そうでもないかなって。
 あの時してくれたのも、わたしに恥をかかせないためなのかなって、そう思ったの」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから、なるほどくんが嫌だったら、わたしのことはい『好きだよ』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「へ?」

 この場にきてようやく真宵の先手を打てたことは痛快ではあった。顔が見れないのが残念だが。

「僕はたしかに真宵ちゃんを妹のように思ってたけど・・・昨日、真宵ちゃんのおかげで自分の気づいていなかった気持ちに気づいたんだ。
 今まであんまり近くにいすぎてわからなかったんだけど」
「ほんと?」

 疑っているというわけではないがなんだか信じられないような口調だ。

「今作ったでまかせじゃないよ・・・弁護士は証拠を見せなきゃね」
「?」

 成歩堂はすぐそこの机の下に置いてある袋に手を・・・伸ばそうとして無理だったので真宵に取ってもらった。
 その中にはピンク色をした花の束が入っていた。

「これ・・・カーネーション?母の日に贈るんじゃないの?」
「それは白いカーネーションね・・・。ピンクのカーネーションの花言葉は『熱愛』。
 熱愛って響きはどうかとは思うけど・・・まあこれくらいしか花言葉知らなかったし。今朝方近くでできた花屋でこっそり買っといたんだ。
 あとで僕のほうから、その・・・・・・告白しようと」
「・・・・・・・・・・・・」

 しばらくじーっとその綺麗に花開いたカーネーションを見つめていた真宵だが、
やがてうつぶせになっている成歩堂の顔のほうにしゃがみこむと、顔同士を向き合わせた。

「なるほどくん、これからもよろしくね」

 笑顔で真宵はそう言った。

「こちらこそ、よろしく」

 成歩堂も笑顔でそう言った。
 どうやらヒメサマンが始まったらしい。番組のオープニングテーマと、真宵を呼ぶ春美の声が聞こえてきた。
最終更新:2007年12月28日 02:40