「……上手ね、レイ」
「む……そ、そうなのか?」
「え? た、多分」
 思わず返事をして、後悔する。レイが初めての相手だってばれるかしら。
 御剣の顔を窺ってみるが、本人は一人で難しそうな顔をしている。
「恥ずかしいんだが、その……君が始めてなのだ、こういう事をさせて貰うのは……」
「ええ!?」
 冥は心底驚いた。この美貌、この年齢で、今のがファーストキス。
前から堅物な男だとは思っていたけれど、まさか本当に見た目通りだったなんて。
意外と言うより他になく、思わず御剣の顔をまじまじと見つめてしまう。
「へ、変だろうか、やはり」
「あ、いえ、変ってほどでもないと思うわ。レイの年齢になっても未経験って人は
たくさんいると……思うし……、わ、私も……初めてだったし」
「何だと!?」
 今度は御剣が驚愕する番だった。
「な、何よその驚き様は! 失礼よ!」
「うう、す、すまない。いや、私はてっきり……」
「悪かったわね!」
「いや、本当に謝る! すまない!」
 御剣は拗ねてそっぽを向こうとする冥を何とか制止してこちらに向かせる。
「本当は嬉しいんだ。君の、なんだ、初めてになれて」
「…………」
「お、怒っているのか? メイ?」
「とにかく証明出来たわ。あなたは女の扱いが、下手」
「むぅ……」
「……もう一度、キスして。やり直して。そうしたら……忘れてあげるわ……」
 言ってて自分で恥ずかしくなったのか、冥はそれまで一息に告げると、耳まで赤くした顔をうつむかせてしまう。
「……うム」
 大きく頷くと、御剣は再び冥の唇に自身のを重ねた。深く、長く、キスが紡がれる。
「んむ……は……ふぁ……」
 再び、矛盾した満足感が冥の中に生まれる。委ねてしまっていいのだろうか? このまま……。
「ふ、んは……レイ、れひ……んん」
「メ……イ……」
 息継ぎを求めて僅かに離された口の端から唾液と共に粘着音が零れる。ぴちゃ、ぴちゃ、という微かな水音。


 猫がミルクを舐めているような可愛らしい音がどうにもいやらしく、自分が今している事を
客観的に捉えてしまい、冥は恥ずかしさに身をくねらせる。すると、
「!」
「くっ……」
 冥の太股に、屹立した御剣のそれが擦りつけられるような形になった。
 衣擦れに快感があったのか、御剣が思わず身体を離す。
「だ、大丈夫?」
「ああ……別に、大丈夫だ」
 冥はその膨らみを目で追ってしまった。  外から帰ってきたままなので御剣は厚手のコートを着ていたが、
そのコートの前を割って、ズボンの前が飛び出してきている。男性の変化したそこを見る事すら冥は初めてだった。
「苦しそうね……本当に大丈夫なの」
「……正直言って、辛い。君が許してくれるなら、何と言うか……次の段階に進んでしまいたいのだが」
「つ、次の段階、って」
 目を白黒させる冥に近づき、御剣は冥の着ているジャケットの前のボタンを一つずつ外していく。
 まだ冥は何も言っていないので、その行動は無許可だ。だがその手の動きはどこか紳士的で、冥は制することが出来ない。
 普段着のスーツが現れる。そのスーツが包み込んでいるふくよかな乳房を、御剣が服の上から静かに掴んだ。
「あっ……」
 それだけで冥の身体に電流が走る。最初は右手だけだったが左手も加わり、冥の胸は御剣の思うままに歪められる。
「ブラウスを脱がしていいだろうか、メイ」
「あ、あのっ、レイっ」
 拒むに拒めない冥を無視して御剣はスーツの前を開け、その下のブラウスのボタンも逸る気持ちを抑えて外していく。
 まるで戒めから解かれたように、白いブラウスの下から冥の乳房が零れ出した。レースがあしらわれた薄い水色のブラで包まれている。
 御剣はいちいち断るのも面倒になったのか、今度は無断でそのブラを上に押し上げる。
「ちょ……レイ! 待っ……」
 先に左の乳房が揺れて現れ、数拍遅れて右の乳房がブラから滑り弾んでみせた。先端の乳首は色素が薄く、緊張からなのか
既に固く尖っている。形の良い色白の乳房を目の前にして、御剣は思わず唾を飲み込んだ。


「レ、レイ?」
「は……すまない、見惚れていた」
「バ、バカ! 真面目な顔して変な事言わないで……!」
 憎まれ口を叩く冥の方も実は羞恥で思考回路がパンクしそうになっていた。初めて男に見せる、何も隠す物がない生の胸。
今すぐに手で隠してしまいたかったが、緊張で強張った手は御剣のコートを掴んだまま離せそうにない。
「いや、きれいだ……本当に……」
 再び御剣の手が冥の乳房を包む。
「あ、あ」
 柔らかいその2つの膨らみを御剣は夢中で揉み始めた。御剣の大きな掌に収まるか収まらないかというボリュームだ。
掴む掌に固い感触が増していき、ますます固くなった乳首を御剣の指先で弄ぶ。冥の背が一際大きく仰け反った。
「あ! やぁッ!」
「い、痛いか?」
「あんッ、違……あッ、違う、さ、先の方、弱いのよッ……はんッ」
「そ、そうか。ならば……」
 そう言うとおもむろに、御剣は冥の乳房の先端を口に含んでみせる。
「ああッ!」
 指とは違う粘膜のねっとりとした感触が、今までと違う電流となって冥の背筋を駆け巡り、下半身のそこへ響く。
 その反応に自信がついたのか、御剣の舌の動きが激しいものになる。
空いた片方の乳房の先端を指で弄りながら、まるで赤ん坊の様に冥の乳首を吸い続ける。
「あッ、はッ、あぁッ! レイ……レイッ!」
 思わず冥は御剣の頭を抱き抱えた。腕の中の頭が自分の胸を吸い続けるその光景に、冥は淫靡さと愛おしさを感じずにいられない。
 下半身で膨らむむず痒さが堪らなくなり、トイレを我慢するように股を擦り合わせる。
ストッキングとショーツの繊維が僅かに擦れて、言い様のない快感が冥を襲うが、こんな程度では足りないという自覚もあった。
「レ、レイ……胸だけじゃなくて」


 全て言うことが出来なくて、途中で言葉が止まってしまう。御剣は胸から口を離さないまま、
何事かという風に冥の顔を見上げてきている。もどかしげに冥は御剣を引き離すと、彼の手を取り自分の熱くなっている部分へ押し当てた。
 ようやく合点がいったという風に、御剣が目を丸くする。
「あなただって、こんなになってるじゃないのよ……わかるでしょう」
 そう言って冥はズボンの上から御剣の固いそこを擦ってみせる。
「そうだな、すまなかった」
「ん、はむ……」
 三度、二人は唇を重ね合わせると、密着した冥の身体に御剣の手が滑った。
タイトスカートを捲り上げ、尻たぶを撫でながらストッキングと一緒にパンツを下ろしていく。
 愛液で湿った下着のクロッチが秘部から剥がれる瞬間に小さな電流が走り、冥がくぐもった喘ぎを御剣の口の中に漏らす。
 そして、中心に御剣の手が伸びた。
「あッ、はあッ」
 思わず口を離して冥が喘いだ。
 御剣の指先は冥の恥毛をかき分け、剥き出しになった固いクリトリスを優しく転がした。
「ここが敏感というのは事実なんだな……」
「あッ、あッ、あんッ、あんッ」
 陰核が指で弾かれる度に冥の嬌声は上がり、奥の割れ目から白い愛液が滲み出てくる。
 冥は直にそこに触れる様なマスターベーションを今までにした事が無い。何だか身体が寂しい時に下着の上から
撫でる様に触るだけで、その方面の知識に疎い彼女は自分で絶頂を体験することも出来ず、いつも頃合を見て中断する事が常だった。
 だから今彼女を襲う快感は全く未知のもので、何度も腰を震わせてしまうような感覚を
どうしていいかわからず、何とか自身の身体を支えているのがやっとだった。
 だが御剣の指がクリトリスから秘裂の方へ移ると、その心地よい快感に鋭い痛みが混じった。
「痛ッ」
「なに、痛いのか、メイ」
「な、なんだかそっちは、まだ駄目みたい」
 熱に浮かされた瞳で冥は心配そうに見てくる御剣を見返した。


「うム、そうか、こっちはもっと濡らさないと駄目なのか……。メイ、その、横になってくれないか?」
「え、ええ」
 後から思えばそこでベッドへ移動すれば良かったものの、冥はその場に座り、御剣に対して
少し脚を開くような体勢で寝転んでみせた。カーペットのざらついた感触が気になるが、今更立ち上がる訳にもいかない。
 胸以上に見せるのが恥ずかしい場所である筈なのに、冥の頭にその常識は一瞬だけちらついただけで、すぐに霧散してしまった。
今冥にとって大切なのは、より胸を満たしてくれる満足感、それに繋がるための御剣による快感なのである。
「こうで……いいかしら?」
「う、うム」
 御剣は四つん這いの形で冥の秘部に顔を近づけると、躊躇いながらも舌全体で冥のそこを舐めてみせた。
「んッ」
 クリトリスも同時に舐められ冥の腰が浮き上がる。
「やはりこちらがいいのか……」
 言うと、御剣は舌先でクリトリスを転がし出す。
「あぁ……、ああん、はぁッ」
「気持ひ……いいんふぁな……メイ、感ひて……ふれてるか?」
「な、舐めながら、はッ、話さないで……ぇッ、ああぁッ、あ、あ、あ」
 クリトリスに舌を這わせながら、御剣は入り口の柔肉を指先でくるくるとなぞり出す。滲み出てきている愛液が滑り、徐々に指先の侵入を壁が迎え入れる。
「ああ、そ、そんな、はぁ、あ、あんッ」
 狭い入り口をゆっくりと分け入ってくる御剣の指先に恐怖を感じながらも、冥はクリトリスから這い上がる快感に蕩かされていた。
「ね、レイ、あッ、も、もっと強く」
「ふむ……?」
「もっと、あ、つッ、強く、吸って、吸ってッ」


 理性を失いかけた冥の懇願を御剣は聞き入れた。口先で陰核を抓むと、舌で転がしながら最初は軽く、徐々に強めに吸っていく。
「あああッ、ああああッ」
 膣から大量の蜜が溢れ出し御剣の指を根元まで濡らした。人差し指は既に第二関節ほどまで膣内に入り込んでいる。
焦る気持ちを抑えて、ゆっくりと細かく指を前後させながら奥に進めていく。
 冥は無意識に段々と腰を浮かばせて、高まっていく快感を受け止めていた。微かに回復した羞恥が
喘ぎ声の大きさを気にし、手で口を塞ごうとするが、漏れ出す声は指の隙間を通り抜けて部屋の中に響いてしまう。
 御剣は指を引き抜くと、クリトリスを圧迫しながら舌先を秘裂に滑り込ませた。
「はッ、ああ、レイだめッ、だめッ」
 溢れてくる愛液を口で受けながら、御剣は陰核と膣を交互に舐め回す。
 冥が感じてくれる事が御剣には本当に嬉しかった。例え彼女の心が完全に自分の物ではなくても、今この時に
彼女が自分の手で平静を乱され、初めての快感に酔ってくれるのならば、この自分のつまらない嫉妬などはどうでもよかった。
 舌先を包む膣壁に微妙な変化があった。断続的に絞るような収縮を繰り返してくる。
「レ、レイ、あ、あッ、わたし、ああ、わたしッ」
「メ……イ……、メイ……」
「わたしッ、わたしッ、はッ、あッ、あッ! あッ! あ――――ッ……!」
 冥の浮き上がった腰が大きく震え、次に細かい震えを起こしながら硬直した。膣の奥から
大量に真白な愛液が零れ出し、尻の割れ目まで伝っていき、糸を引きながら床のカーペットへと染み込んでいく。
 冥の初めてのオーガスムだった。

 **

 荒れた息が整い、少し落ち着くと、冥は上体を起こして御剣を睨みつけた。
「あなた本当に初めてなの?」
「な、何を言い出すんだ?」
「だって、本当は難しい筈なのよ? 女を、その、満足させるっていうのは」
「怒られているのか褒められているのかわからんな……」
「……何だか悔しいじゃない!」
 冥はそう声高に叫ぶと、御剣の前の膨らみを盗み見た。先ほどと同様に突っ張るそこはまだ何の愛撫も受けていないのである。
「レイも服を脱ぎなさいよ。いつまで部屋の中でコートを羽織ってるつもり?」
「む……そ、そうだな。では、し、失礼する」
 照れがあるのか、御剣は決してスムーズとは言えない動作で服を脱いでいった。コートとスーツを脱ぎ去り、Yシャツも床に放る。
 下から現れた御剣の身体は、彼の面相に違わず非の打ち所が無かった。
程よく筋肉のついた引き締まった身体、幅の広い肩に厚い胸板、見事に割れた腹筋に冥も目が奪われた。
 しかし何より冥を驚かせたのは、その下である。
「……そんなになってるの!?」
 思わず声が裏返る。
 ベルトが外され、下ろされたズボンの下から出てきた物は、御剣のトランクスを押し上げて立派な三角形を作っていた。
ズボンを穿いていた時よりもずっと容易に大きさが把握出来る。
 御剣のそれは日本人男性の平均を余裕で上回る大きさだった。少なくとも冥の想像よりは大きかったのである。
 あまり冥がじっと見つめるので、
「じろじろ見るんじゃない。恥ずかしいだろう」
 トランクスを脱ぐに脱げなくなった御剣が言った。
 冥はぐるぐると考えている。
 このまま事が進むということは、あの立派な物が自分の中に入ってくるのだ。
 それが一体何を意味するのか。
 冥は改めてその重大さに対峙した気がした。
 本当に御剣でいいのだろうか? 身体も、心も、真に彼を受け入れる準備が整っているのだろうか?
 疑問が不安となって冥の心を支配していく。今まで情欲で見えなくしていた部分をここで無視したままでは、先に進むことなど出来ない。
 私はレイの……。


「メイ?」
 動かなくなってしまった冥の顔色を御剣が窺う。
 冥は御剣をずっと見た。
 初恋の相手は御剣だ。
 父親を取った憎い兄弟子。冥の検事である部分は常に御剣を敵視していたが、少女である部分は密かに彼をずっと想っていたのも事実だった。
 物心つく前から検事として父親の教育が始まるまで、まるで兄妹の様に過ごしていたあの短い時間は純然な美しい想い出なのである。
 それが年頃になるにつれ、嫉妬と恋慕という相反する感情を背負う事になってしまった。
 御剣が住み慣れたアメリカを捨てて日本へ戻るとなった時には元より素直でない心が余計に頑なになり、御剣が日本で検事になった
と聞いた時には、御剣を男として見ることを完全に諦めた。それは同時に御剣の前では女である事をやめた事にも繋がった。
 彼に対する気持ちの昂ぶりは全て同門の好敵手への競争心なのだと錯覚させることで、自分の燃焼し切れない感情にどうにか折り合いをつけたかったのかも知れない。
 月日が経ち、父親が自分の側から姿を消す事となって、また再び冥の前に自分を揺るがせる男が現れた。
 それが成歩堂龍一だったのである。
 そこまで考えが巡り、冥ははたと気がついた。
(私は、レイに成歩堂龍一を求める前に、成歩堂龍一にレイを求めていたという事なの?)
 冥は御剣の顔を見上げた。そして相変わらず膨らんだままのそこに目をやる。
「だから、あまり見るなと……」
「……男は欲情すると、そこがそんな風になるのよね」
「ん? ま、まぁ、そういう事だ」
「レイは私に欲情しているって事よね?」
 ぐ、と御剣が声を詰まらせる。
「そうストレートにゆすぶられると、最早返す言葉が見つからん……」
「意義なし?」
「……意義なしだ。そうだ、君の言う通り、私は君に欲情している」
「そう」
 冥はそれを聞くと、珍しくはにかんでみせた。
「嬉しいわ」
「……そうなのか? ……気持ち悪がられるかと思ったが……」
「貴方の言う通りよ。私、少し素直になろうと思うの」
 すると冥は上体を立っている御剣に近づけ、おもむろにトランクスへ手をかけた。
「な、なんだメイ!?」


「これを脱がせなきゃ先に進めないじゃないの」
「だからって君に脱がせて貰う必要は」
「黙りなさい。私に考えがあるのよ」
「考えとは……」
 御剣が狼狽している間に、冥はトランクスの前を少しだけ引き下げてしまった。
 最後の枷が取り払われたそれが勢いよく跳ねて現れる。間近で見るそれは思ったよりもグロテスクではあったが、不快な感じはしなかった。
 御剣は自分の事を好きだと言ってくれた。自分に欲情しているとも。
 素直に、それは嬉しかった。
 思えば自分は随分と意地ばかり張っていた。気丈であることで自分の本当に弱い部分を隠そうとばかりしていた。
カナリアの事で鞭を打たれた時も、意地になって否定し、意地になって鞭を受けた。
本当はパパに疑われた事、信じて貰えなかった事が、堪らなく悲しかったのに。
 素直になれば――冥は思った、自分が隠してきた弱さを満たしてくれるものを得られるかも知れない。
 望んでは諦め、近づこうとしては遠ざけたその温もりを、今、とうとう手に入れられるのかも知れないのだ。
「こういうのは嫌い?」
 冥は上目遣いに御剣を見たまま、恐る恐る反り返る男性器の先端に口づけた。
 その微かな接触だけで御剣は思わず腰を引く。
「や、やめないか。汚いだろう」
 その敏感な反応とは裏腹に御剣が制止するが、
「なによ、あなただって私に同じ様なことをしたじゃない」
 冥は言い返すと、今度は先端を口の中まで含んでしまった。中央の窪みを舌先でなぞり、軽く吸ってみると、何か苦味のある液体が冥の口内に広がった。
 慌てたのは御剣である。
 男として憧れていた状態であるのは間違いないのだが、7つも年下の娘にそこを咥えさせている、という認識は背徳感となって御剣を煽った。
 やめさせなければと思う一方で、このまま獣の様に腰を動かしたいと思う自分を自覚する。罪悪感に正比例して興奮と快感が御剣の背筋を駆け上っていく。
 冥はそんな御剣に構わず行為に没頭している。
 先端の溝や脈打つ裏筋などが弱いらしい事を冥は短時間で学習した。舌先でそこを攻めると、御剣の口から切なげな吐息が漏れたり、腰が大きく震えたりするのだった。
 冥の口では頑張っても中ほどまでしか収まらない御剣のそれは、冥の愛撫を受けて口内でより大きく膨れていく。


 与えれば与えるほど顕著になる反応に、冥は愉悦を覚えた。自分も直接刺激を与えられている訳ではないのに下腹が疼く。
 法廷以外でこんなに余裕のない彼の顔を見るのは久しぶりだ。内心ほくそ笑みながら、冥は先ほどのお返しとばかりに間断なく御剣を攻め立てた。
「レイ……気持ひいい……?」
「あ、ああ」
「ん……凄ひ、まだ大ひくなるのね……んン」
 段々と要領を覚えた冥は、根元から頂点へ舐め上げ、先端に来るとそこへ口づけ吸い上げる、という行為を繰り返した。
 冥の秘所に蜜が溢れる様に御剣の亀頭からも透き通った液体が染み出してくる。いくらそっちの知識に欠ける冥でもそれがカウパー液と言われる物であることはわかった。保健体育で習う範囲の一般常識だ。
 こんこんとわき出るそれを冥は丁寧に、ぺちゃぺちゃと音を立てて舐め取り、尿道に潜む分を吸い取るように先端の窪みへキスを続ける。
 すると、突然御剣が冥の肩を掴み自身から引き剥がした。冥は驚いて御剣を見返す。
「これ以上はダメだ」
 肩で息をしながら御剣が言う。
「どうして? 気持ち良くなかった?」
「逆だ。むしろ限界が来る所だった」
 情けない、と自分を呪う様な声色で言う御剣に、冥は苦笑した。
「いいじゃない。光栄だわ」
「ああ、確かに君は凄い……だが君の口を汚したくはなかった」
「変な所で紳士的ね。だったら初めから私にさせなければいいのに。かっこつけて」
「むぅ……」
 憎まれ口を叩く冥の口を、御剣は自分の唇で塞いだ。冥も拒まずそれを受け入れる。互いの唾液を交え、頭の裏に響く様な水音に
冥は四肢の力が抜けていくのを感じた。その枝垂れる身体を御剣がしっかりと抱きとめる。その力強さが冥の迷いを消し去ってくれる。
 全て委ねてしまってもいい、そうに思える素直な勇気を与えてくれる。
「……レイ」
 息継ぎの間に冥は御剣を呼んだ。
「私がまだ鳥籠の中にいるのなら、それはきっと貴方の責任でもあるのよ」
「私の?」
「私は小さい頃から貴方やパパに認めてもらいたくて、完璧であろうとしていた。自分で望んだ事だから後悔はしていないわ。でも」
 冥が御剣の胸に頭をもたれ掛ける。御剣の鼓動が耳に心地良い。


「成歩堂龍一や今の貴方を見ていると、それにこだわり続けた私がどんなに無理をしていたか気づくのよ。
私が貴方たちに憧れてしまう理由も。私は狩魔という鳥籠にいて、外の世界にいる自由な貴方たちを羨ましいと思っている」
 冥がくぐもった笑いを漏らすと、その細い肩が震えた。しかし今までのような自嘲の笑いではない。
「自分でその鳥籠の中に入ったのにも関わらず。だって仕方ないじゃない、そうすれば貴方やパパに可愛がってもらえると思っていたんだから」
「メイ」
 御剣の指が冥の頬を撫でる。
「君を自由にしたい。メイが完璧な狩魔でなかろうと、私はメイが好きなんだ」
 冥が泣きそうな顔で微笑む。
「ありがとう」
 そして、その重要な言葉を、ようやく口にした。
「私もレイが好きよ」
「それは……」
「嘘でも錯覚でもないわ。……成歩堂龍一を忘れた訳じゃないけど、今の私に必要なのは、貴方なの。それが私の素直な気持ちなのよ。だから……」
 冥は自分の心に翼が生まれたかの様に軽くなったのを感じた。
 私は、呪縛から飛び立てる。
「だから……最後まで抱いて」



<スレにて連載中>
最終更新:2007年12月28日 03:27